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2007.08/28(Tue)

インジュー・ジョーンズ 第六話 


【More・・・】


 五感の一つが意味を成さなくなってもう一時間は経つのだろうか。感覚頼みの体内時計はあまり当てにはならないのだが。
 全てを覆い隠す暗黒。もちろんユーノはその只中で一時間を座り込むだけで無駄に過ごしていったわけではない。
 ユーノはずっと考えていた。自分の置かれた現状、ここからの脱出する手立て、加えて今まで自分達に襲い掛かってきた遺跡の意志――。
 いざゆっくり冷静になって考え始めるといろいろと引っかかることばかりなのだ。皮肉にも先程のゾンビがユーノの中で眠っていた疑問をより克明に浮かび上がらせてくれる。

「なのは……? 寝ちゃった?」
「……起きてるよ」

 後ろから抱きかかえられる格好でユーノの懐に身を預けるなのは。ここに来たのは彼女が晴天の書との契約を破棄するため。
 未開の地。そう覚悟を決めて乗り込んだユーノの目には不思議とここが以前にも来た馴染みの土地のように思えた。
 デジャブ――そう言うのだろう。無意識のうちに記憶を集めてさもそれが以前あったように思わせる錯覚。
 しかし彼にとってその景色は――遺跡に辿りつくまでの密林や行く手を阻む罠――決して出所不明の記憶が作り出した幻想でなかった。

「……ごめんね、ユーノくん」
「ん、どうしたの? 謝ったりなんかして」
「だって迷惑かけてばっかりだし……」
「危険は承知の上だよ。初めから全部無傷でいくとは思ってない」

 一応その道のプロ。スクライア族の言葉というだけで説得力は十分すぎる。
 躊躇いなく言えてしまうのは彼が今まで幾多の修羅場を潜り抜けたから。だからこそ言葉も映える。

「でももしかしたらヴィータちゃんやシャマルさんは」
「信じてればきっと大丈夫。……それに今はそんなこと口にしないで」

 抑揚のない声が闇に溶けた。いつものようなやんわりとした口調ではなくどこかそれは冷たくて鋭かった。
 ユーノにしてみれば突き放すつもりで言ったものではない。どちらかといえばこれからのことを考えていて返事をする余裕がないといった方が正しいくらい。

「ごめん……なさい」

 機嫌を損ねてしまったことになのははもうそれきり何も言わなくなった。期待していた慰めの言葉は聞けず、逆に突き放されたことはなのはの心に痛手を負わせる。
 幸か不幸か二人きりになりたいという願いがこうして実現されている中で高望みはしてはいけない。押し寄せる不安をなのはそんな言い訳で誤魔化した。
 影に覆われていくなのはの胸中。それを察することもせずユーノは自分の憶測に耽けこんでいた。

 晴天の書の特徴――自身に封入された世界の記憶を引き出し一つの世界を構築すること。だからこそ世界の全ては自分達が知らないもので創られている必要がある。自分たちは雲の騎士のように魔導書と共に旅をしていたわけではない。旅した世界の知識は皆無なのだ。
 仮に自分達の世界と似たような世界を旅して、それを元に世界が創られたならば錯覚を抱くのもしょうがないのかもしれない。
 だが実際は違う。ユーノにとっての感覚は見た「気がする」なんて思えるようなものではない。もはや見たこと「ある」と断定し、あまつさえ確信さえ抱いてしまう所まで引き上げられているのだ。
 似た世界を旅したから、なんて理由でこれを説明する妥当な材料になり得るか。

 無数の記憶からどうやって世界の構築を行うのか。晴天の書の意志がランダムに選択したものから作るにしても基礎となるイメージが必要なのではないのか。
 なにより決定的にしたさっきのゾンビだった。
 そもそも此処は生まれたばかりの世界だったはず。ゼロから作られた世界に何故先客がいるのか。 確かに晴天の書が生物を創造できるのなら話は違ってくるかもしれない。だが道中で出くわしたものはどれも無生物ばかり。この推論は最初から当てはまらない。
 生きた人間が朽ちる時間すら此処にはないのだ。ゾンビも最初から作り物の存在であるということなのだ。
 どこかの誰かが冒険を盛り上げるためのエッセンスとして作った小道具に過ぎないのだ。

「ねぇ、なのは。今なに考えてる?」
「えっ……ここから出ることかな」

 覇気のない声が返って来る。
 もしも、この仮説があっているとしたら全ては一直線上に整列するだろう。
 
 即ち、
 
 ――晴天の書が主の記憶を共有し主の願った世界を作れるならば。

 辻褄は合う。恐ろしいほどに。
 彼女と見た冒険映画。多少は違っても罠だってゾンビだってみんな映画の世界の具現そのものだ。

『あ、でも流石に映画みたいなことはないと思うけど』

 そう自分は言った。あくまで映画じゃなければ、だ。
 でも映画なら何だって起きてもおかしくはない。彼女の心が望む形にこの世界は移り変わる。

「出たいね、ほんとに」
「ユーノくんは嫌?」
「契約も解いてない、他の皆だって探さなきゃいけない。することばっかりだからね」

 淡々としたユーノの語り。彼の嘘と本音の混合物はなのはには重い。
 二人を探さないと、契約を解かないと。心を縛る義務感をこのままを願う欲望が切り落とそうと鋏を入れる。だけど後一歩の所でユーノへの気持ちがそれを押し留めさせる。
 彼のために仲間のために自分の感情なんて今は必要ない。そう割り切ってなのはもこの暗闇から出たいと思った。
 
 ――思い込んだ。
 
 皮肉にもそれはユーノが望んだ答え。もし想像通りならばなのはに願わせることがこの遺跡、しいては世界を変える力となる。

「あっ……」

 そう遠くない闇に一筋の白が走った。真っ直ぐ縦に亀裂を入れた光は徐々に太く眩く輝いていく。
 闇が道を開ける。扉が開くように長方形の光の空間が出来上がった。

「出口……だね」

 やっぱりそうなのだ。なのはの願いに晴天が応えた。
 差し込む光に照らされながらユーノはなのはから腕を解く。今まで見えなかったなのはの横顔は少しだけ哀しそうに見えた。

「行こう、なのは」

 ある意味なのはを利用してしまった自分に罪悪感を感じながらユーノは光に向かって歩き出す。
 
 彼女の本当の願いを知らぬまま――。
 
* * *

「見つけた……」

 光の先に二人はついにそれを見つけた。
 石段の上に厳かに安置されているそれはまさしく晴天の書。懐から取り出した片割れと見比べても瓜二つだ。

「ユーノくん……」

 ここで先走れば最後の罠に出くわすのが定石だ。用心、慎重、注意深くユーノはこの部屋を探る。
 床から壁、そして天井。石段の一つ一つも見逃さず。
 足元を転がっていた石ころを投げてみる。石は二度、床を跳ねて石段にぶつかり止まった。

「……大丈夫みたいだね」

 これだけではやや心細い気もするがひとまず安心の材料にはなるだろう。

「なのははそこにいて」
「でも……」
「何か起きた後じゃ意味がないんだよ」

 彼女を制してユーノはゆっくりと一歩踏み出した。

 二歩、三歩、四歩――

 全神経を張り巡らして一挙一動。

「…………」

 ユーノの背中に鬼気迫るものを感じ取りながらなのはは見守ることしか出来ない。
 きっとこのままユーノがあの片割れを手にすればこの冒険も終わりを迎えるだろう。
 晴天の書を元に戻したって本当に契約が解けるかなんて保証もないのに……。
 なのはには不思議とその確信があった。
 
 何も起きなければいい。何か起きてしまえばいい。
 
 交錯する思念はいい子にしようとする偽りの自分と我侭になりたがる素直の自分。
 
 ――何一つ楽しくない。

「ユーノくん……」 

 ――楽しくさせないのは誰?

「……わからないよ」
 
 ――わたし? ユーノ? 他のみんな?

「……そんなの決まってる」
 
 ――じゃああなたの本当のお願いは?

「ユーノくんと一緒にいたい」

 ――じゃあ……叶えてあげる。

『マイスター』
 
 声が聞こえたような気がした。
 顔を上げる。光が弾けた。

「晴天の書!?」

 驚嘆したのはユーノ。服越しだというのになんて眩しい。異常なまでの輝きはユーノを中心にして部屋全てに白を塗りたくっていく。

「共鳴してるのか!?」

 最後の罠はこれだった。眼前の晴天も光を放つのが見える。
 暁光の光は晴天の空を飾るまさしく太陽の光。体を射抜くような強い魔力も伝わってくる。

「これじゃっ! くっ、この!」

 咄嗟に惹かれあう二つが一つになろうとしている事実を悟る。これに巻き込まれればどうなるか。目さえ開けられるほどに膨れ上がる輝きに弥が上にも危機感が増していく。
 最悪の事態だけは避けなければいけない。ユーノは迷うことなく懐から書を取り出すと片割れが鎮座するその場所へ投げ入れた。

「――うわぁ!!」

 云百年の時を経て離れ離れだった二人が再会する。悦びに打ち震えるように二つの書は鳴動する。
 抱きしめあうように重なり合う晴天。目覚めの時が来た。

『Anfang』

 無機質の声が静かに告げる。晴天の書がその身を大きく広げた。
 舞い上がるページ。部屋を覆いつくす晴天の嵐。その中でページは晴天の書を中心に集まり何かを形作っていく。
 始めに太く頑強な足が作られる。巨体を支えるには十分だろう。
 黒曜石を思わせるような漆黒を蓄えた胴体から生える逞しい腕は一振りで全てをなぎ払う力の象徴。
 黒で彩られ紅の一つ目を瞬かせながら台形の頭が形となり二人を見下ろした。

「晴天の書の防衛システム……か」

 威圧感に足が竦んだ。だけど絶対にたじろぎはしない。
 後ろには彼女がいる。彼女にだけは触れさせない。

「……なんとかなるさ」

 やるしかない。そう言い聞かせてユーノは構えを取る。既にチェーンバインドの準備は出来ている。

「君との契約……なかったことにさせてもらうよ」

 なんとしてでも晴天の書を引きずり出す。頭の中にそれだけを叩き込み恐怖も迷いもきっぱり忘れる。
 最終ボスとユーノの戦いが始まりを告げた。


 ――教えてあげる、マイスターの気持ち。


 なのはにはその巨人が――晴天の書が――そう言ったような気がした。
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