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2007.08/26(Sun)

Private aid 第5話 


【More・・・】


「うひぃっ!」

 ガラにもない甲高い悲鳴が空気を振るわせた。
 首筋を襲う鋭い感覚は思わず肩をすくませるに十分すぎる刺激だ。

「だ、誰だ!」

 反射的に飛びのき背後から仕掛けてきた不届きものと距離をとる。

「誰だ! ……じゃないでしょ」

 魔導師の性なのか、日常とはおよそ離れた所の反応をしたクロノに彼女は心底呆れているようだった。

「なんだ……エイミィか」
「なんだ、じゃない。まったくクロノ君はなんでいつもそうなのかなぁ」

 缶ジュースを宙にリズムよく放りながらエイミィがため息をつく。次には缶がクロノ目掛けて放られる。

「おっ、と」

 臆することなく片手でなんなく受け止めた。

「オレンジジュース、100%果汁だからね」
「……ああ、助かる」

 プルトップを引きプシュ、と小気味よいガス音が響く。本人曰く、糖類加えビタミンを手軽に補給でき喉越しもいい完全食品らしい。実際の所ただ好きなだけというのは彼なりの背伸びだろうか。
 ジュースを一気飲みする姿は低い背丈もあいまって本当に子供っぽく見えた。いや、これでも十四歳なのだ。歳相応の方が語弊がない。

(プライベートじゃ私のほうが年上だしね)

 やっぱり微笑ましい。いつもは部下と上司だけどこの時だけは可笑しいくらいに立場が逆転する。

「あとねクロノ君、遅刻」
「はぁ? 僕はちゃんと十時きっかしにここに来てたぞ」

 ちなみに正確には三分ほど遅れている。

「男の子はね、待ち合わせ三十分前には来てなきゃ駄目なんだからね」
「そんな決まりないだろ」
「エチケットよ」

 人差し指をピンと立てながらエイミィはクロノの額にそっと当てる。彼女の意図が分からず訝しげな表情をするクロノ。

「あと、女の子の手前――」

 人差し指が一瞬離れて――

「そんな表情しない!」

 ガクッ、とクロノの首が後ろへ傾いた。軽く小突いたつもりが結構力が入ってしまったのはご愛嬌ということで。
 不意の一撃に額を押さえながらゆっくりと首を起こすクロノ。むすっ、と表情を膨らませながら軽くエイミィを睨んだ。

「あ、あはは、ごめん。つい力入っちゃって……」

 取り合えず誤魔化そうと笑ってみた。如何せん効果がないことは見え見えなのだが。 
 クロノの口が開く。次の瞬間には彼の唸るような声が聞けるのだろう。
 無言の抗議が有言になる前にエイミィはクロノの腕を掴む。こういう時は動いて誤魔化すのがもっとも的確な判断。

「さっ、こんなとこいてもしょうがないから行こっ! クロノ君」
「ちょ、待てエイミィ! 引っ張るな!」
「いいから、いいから」

 足をもつれさせながらクロノは半ば引きずられるような形でエイミィの後に続いた。

「せっかくの有休なんだから楽しまなきゃ損するだけっ! さぁしゅっぱ~つ!」
「お、おい! エイミィ!?」

 強引なまでの彼女の勢いにクロノは対応することもままならない。状況に流されるままでこれでは任務通りに事が進められない。
 なんだかんだいって艦長の命令には逆らえないのだ。変なところで律儀なのがクロノらしいといえばそうなのだが。

「エイミィいい加減にしろ!」

 男の腕力で持って彼女の腕を無理やりに解く。声を荒げたクロノに流石のエイミィも驚いたのか足を止めた。

「いいか、君は知らされてないと思うけど艦長の命令なんだ。独断での先行は執務官として許さない」
「だって今日は私には休暇だよ。クロノくんには関係ない」

 すねるようにそっぽを向く。声もどこか棘を含ませてエイミィはクロノに楯突いた。
 プライベートまで上司ぶるな、そう言いたげに。

「僕にだっていろいろあるんだ。だから今日は僕に付き合え、エスコートする」

 思えばわだかまりは全然溶けてないのだ。むしろ今ので硬度がぐっと増した。
 だからと言って態度を軟化させるなど持っての他。いつもの自分らしくて、自分らしくないぶっきらぼうな命令口調。

「ちゃんと行き先もすべて書いて……いや考えている。君を失望させることはないと思う」
「……」
「頼む……いや、お願いします」

 頭まで下げて一体に何をしているのか訳が分からなくなってくる。
 いくら任務内容の最後に『ちゃんと仲直りしなさい』と艦長直筆で書かれていたことまで鵜呑みにする必要なんていくらなんでもない。
 だがこのギスギスした雰囲気が良いなんてもっとない。

「絶対楽しめる、してみせる。だからそんな顔しないでくれエイミィ」

 きっと相手は折れない。長い付き合い、今回ばかりは絶対に彼女は折れない。
 だからこれはクロノの最大の譲歩。妥協するという意味ではない。あくまで少しだけ曲げるだけだ。
 でも実際の所、自分が子供のように扱われるのが我慢ならないだけでもあって。

「……私にとって貴重な休日なんだけどなぁ」

 エイミィは腕を組んで横目でクロノを見る。疑うような視線を浴びせながら深く考え込むようなフリを見せてやる。

「ん~、どうしよっかなぁ」

 クロノの思う通りにエイミィは自分から折れるなんて選択肢は端っからない。クロノの様子を窺いながら焦らすように空を見たり地面を見たり視線を泳がせる。

「まっ、フェイトちゃんのお願いもあるしね」

 答えはあくまでフェイトに免じて。決してクロノに折れたわけではない。

「うぐ……なんでフェイトがそこに出てくるんだ」
「フェイトちゃんにあそこまで言われると流石に断るのも可哀想ってこと。お兄ちゃんなんだからそれくらいわかるでしょ?」

 目的のためなら多少の妥協も必要。判定が灰色でも結果が納得できるものならクロノは構わない。

「だから今日は一日クロノ君にあげる」

 オペレーターとしての性か白黒ははっきり。妥協するのは本当の最後までエイミィはしない。
 両者の決定的の違いがそこだった。
 エイミィの答えにクロノも硬くしていた表情をようやく崩す。そうと決まれば話は早い。

「じゃあエイミィ、行くぞ」

 エイミィの前に立ち頭の中に叩き込んである任務内容をもう一度確認。いろいろと不満はあるがエイミィと和解できるのだからさして問題はない。

「うん、それじゃ執務官のお手並み拝見と行きましょうか」
「ああ、アースラの切り札の力見せてやる」

 背後の声に応えつつクロノはエイミィを従え歩き始めた。

* * *
 

am 10:12 翠屋


「はい……わかりました」

 電話を終え携帯を折畳むとなのはは隣の友人達に頷きを送る。
 いよいよ行動開始の時が来た。

「さてと、それじゃ計画は打ち合わせどおりに。わかってるわね」

 一番に席を立つのはアリサ。全員の顔を見回しながら得意げな笑みを浮かべる。

「うん、ちゃんとお姉ちゃんにも協力を頼んだからきっとうまくいくよ」

 次いで鮮やかな紫髪を揺らしながらすずかが立ち上がる。

「二人ともありがと、兄さんなんかのために付き合ってもらって」
「お礼なんか良いわよ。これはアタシたちが望んでやってることなんだから」
「他ならぬフェイトちゃんのお願いだもん。友達だし当然だしね」
「そ、そっ、親友同士悩みは分け合うに限るのよ」

 人差し指を立てアリサは少し照れ気味にフェイトに目配せをした。そんな様子にすずかは微笑み、
フェイトも笑顔で頷いた。

「でもアリサちゃん、ほんとに昨日話したこと……するの?」

 最後に席を立ったなのはが遠慮がちにアリサに聞いた。
 瞬間アリサの目が光り、右手が風になる。

「甘い!」

 褐色の海からサルベージされたレモンが豪速に唸り、ぺちょ、となんとも情けない音を残してなのはの額に着弾する。
 怯むなのは。その隙を突いてさらにアリサはなのはの両頬に手を伸ばす。

「有言実行! 当然オフコースに決まってるでしょ!」
「いひゃひゃひゃひゃ! いひゃいはひひゃひゃん!!」

 流石発音はバイリンガル。なのはにとってはそれよりもぐいぐいと伸ばされる頬の痛みでそれどころではないのだが。

「なによなによ! 自分はユーノと付き合ってるからいいかも知れないと思うけどアタシたちはまだ独り身なのよ! 勝者の余裕!? あーもうむかつく~!」
「ひょんひゃんひゃ、ひゃいひょ~~」

 そんなアリサが言うほどユーノとは親密という関係ではない。ないといえば嘘になるのだが。
 まぁ……キスぐらいなら済ませてある。
 
 ――……頬だけど。

「そこんところどうなのよ! ABC! どこまでいったの!?」
「ひぇひゅひゃいひゃひゅひゃいひゃひょ」

 そういうわけでアリサの問いに答えるならまだ手を繋いでデートをしたぐらいである。
 なのはの言葉に訳を添えればそうなるのだが如何せん横に目一杯引き伸ばされた口角から飛び出す声は言葉になっていないのでまったくアリサに伝わらない。
 迫るアリサの剣幕に、逃げるなのはの涙声。

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」

 間にすずかが入って事態は何とか集束。窘められて気が済んだか軽く息を吐くアリサ。なのはというと心配するフェイトの隣で自分の頬が伸びてしまっていないかしきりに感触を確かめている。

「そういえばすずか、はやてとの約束はいいの?」
「そ、それがね……このこと話したら、私だけ仲間はずれなんてずるいやないか、クロノ君には私も恩があるから恩返しせなあかんわ! ……って言って飛び出しちゃった」

 訛りまで一字一句物まねするすずかのおかげではやてがどんな顔で飛び出していったのかよくわかった。
 きっと目を輝かせて勇み足,、そうと見て間違いない。

「場所わかるのかな……?」

 フェイトの素朴な疑問にそこにいる誰もが固まった。
 そしてしばしの間の後、今頃この町のどこかを彷徨っているだろう哀れな魔導師に皆静かに黙祷したのであった。

* * *

「あかん! クロノ君どこにおるのか聞かんかった! でも今更戻るのもなんや恥ずかしいなぁ」
『あのはやてちゃん……』
「そや! リインとユニゾンして探査魔法で探せば見つかるやないか!」
『クロノさんの魔力波動……私知りません』
「ああん! もうベタベタや~~!」

 少しばかりはっちゃけた八神はやての叫び声が海鳴のどこかで木霊した。
 ちなみに彼女が今現在いるのは――

「ところでここ何処やーーーっ!?」

 既に海鳴ではない隣町である。

 願わくばそのまま遭難しないことを祈りつつ。
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