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2007.08/26(Sun)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十三話 Apart 


【More・・・】


「レイジングハート逃がさないで!」
『All light,master』
「ディバインシューターテンペスト!! シュート!!」

 発射される光はどれも足並みが揃って寸分の狂いも無い。誰も不協和音を奏でることなく、それぞれに描かれた動きで標的へ真っ直ぐに飛んで行く。
 十発におよぶシューターの操作も大分板についてきたみたいだ。これだけ一度に操作できれば後方からの援護において右に出るものはいなくなるだろう。 

「いくよ! フェイトちゃん!」
「うん、お願いすずか!」

 さぁ、これを受けるほうはどう出るか。
 避けるか弾くか、自分に合った方法を取るのか、もしくは意をついた動きに出て相手を惑わす方法もいい。

『Mover and Brow protection.Open』

 青き壁がフェイトとすずかを包み込んでいく。どうやら今回はすずかの得意分野でなのはの猛攻を耐え凌ぐことを選んだらしい。
 しかも魔力光からすずかがいつの間にか遠隔操作型の防御魔法を習得しているのが窺える。

「アリサちゃん!」
「オッケー! すずかは任せなさい!!」

 爆発音を轟かせてアリサが弾幕の中へ飛び込んでいく。
 臆することなく嵐の中へ飛び込めるのはなのはのことを誰よりも信じているからこそ出来る技。二人の阿吽のやり取りを見ればそれがよくわかる。

 光の乱舞に弄ばれるのはフェイトを包み込んでいる障壁だけ。すずかの防御能力を見越してか、なのはの標的を一つに絞り込んでいる。
 当然残されたすずかの相手はその鉄壁を打ち砕く力を秘めたアリサの役目。

「一気にいくわよ!」
『Yeah! Hummer squash!!』

 振るわれるは衝撃の塊。
 流石の防壁もこの一撃には破壊されるだろう。アリサからすればすでに王手をかけたといったところか。

「簡単にはいかないよ!」 
「ちょ!? すずかぁ!!」

 すかさず後方へと身を引きあっさりいなす。
 何も無い空間を打ち据えたアリサには手応えの無い風のみが感触として残っているだろう。思わず声を抗議の上げるも相手は敵である。聞いてくれたら苦労はしない。
 すずか自慢の移動能力を付加したプロテクションの前にはただの大振りは意味を成さないのだ。

「真剣勝負だからね!」
 
 弾んだ声がすれば青い壁ごとすずかが飛ぶ。
 狙いは真っ直ぐ、体勢を整えかけたアリサ目掛けて力任せに体当たりを仕掛ける。

「あっ、きゃあ!」

 プロテクションの特性から衝突しただけでは相手を弾き飛ばすぐらいでダメージは負わせられない。
 けど今のすずかの考えを汲むなら距離を離すだけか。その選択としてなら悪くは無い。

 一方のフェイトは未だ障壁に守られながらなのはの攻撃に耐えていた。
 防戦一方の不利な状況下に置かれても、その目は鋭く前を見据え決して折れていないことを教えている。

「あともう一息! 頑張ってレインジングハート!」

 シューター三つがその身と引き換えに障壁へ亀裂を作る。残りの七発も力の続く限り壁にぶつかり続ける。
 限界が近い。障壁の決壊と共にフェイトは動くのだろうか。

「残弾七……強度は大体下がったから――……今! フェイトちゃん!!」
『Barrier burst』
  
 合図はすずかが叫びと共に。
 壁が砕ける。決して砕かれたのではない。すずかが自分の手で障壁を吹き飛ばしたのだ。

「えっ!?」

 予想外の出方になのはは驚き、七つのシューターは突如としてその足並みを乱した。

「バルディッシュ! 一気に攻めるよ」
『Yes,sir.Britz action』

 一瞬の隙が生まれ、それがフェイトには十分すぎるチャンスとなる。 
 姿がぶれ、目視できない速度に達するフェイト。なのはは即座に回避行動に切り替える。

「フラッシュムーブ!」

 同じく高速移動により難を凌ごうとするなのはにフェイトが迫る。

「なのは! こっの!!」
『Splash――』

 下ではすずかに弾かれたアリサが得意の圧縮弾をすずかに向けて放とうとしていた瞬間だった。 
 だがなのはに危機が及ぶと見るや、すぐに狙いをフェイトへと移し変える。

「アリサ、私はこっちだよ」

 それがすずかとフェイトの狙いとも知らずに――
 
「っ!? な、なんであんた!?」
『Scythe slash』

 狙い定めた相手がいきなり目の前に現れ狼狽するアリサ。すでに発射体勢に入っていた状態で対応できないのは目に見えて明らか。

「うくっ……」
「これで撃墜……だね」

 光の軌跡が風をしなやかに切り裂き、アリサの眼前すれすれで急停止をした。
 少し誇らしげに微笑んでフェイトはアリサを戦闘不能――この場合は形式的な言い方である――にした。

「そ、そんな!? だったら!!」

 僚機が撃墜されたことでなのはの顔に動揺が浮かぶ。それでも気持ちを切り替え、すぐさまシューターを集合、陣形を汲みなおし、

「二人まとめて!!」

 一斉発射!
 
 フェイトに四、すずかに三。それぞれの機動力を見越した上での判断は及第点を与えられるか。

「トリプレットプロテクション!」
「フォトンランサー!」

 尤もこの状態での分散攻撃が果たして正しい解答になるかといえば、

「全部返すよ! なのはちゃん!」
『Reflection all bullet.Fire』

「撃ちぬけ!!」
『Lancer,fire』

 残念、不正解だ。

 すずかの反射障壁に対してシューター程度は逆に武器を与えることに繋がり、フェイトの高速射撃の前ではただの的だ。

「え、ええーーっ!?」

 とんぼ返りをする自分の弾丸と、弾丸全てを蹴散らし迫る黒き稲妻。
 僕が考える退路は二つ。
 一つはシールドで取り合えずシューターを防ぐこと。
 一つは突撃してくるフェイトに駄目元で射撃、牽制し体勢を整えること。

 けどこの場合の退路はどっちをとっても、

「防御!? こ、攻撃!? れ、レイジングハート!!」
『Master,be cool』(マスター、落ち着いてください)
「ふ、ふぇえ!?」
 
 手薄になった方が確実に彼女を仕留める。
 元から退路は全て絶たれていたのだ。もはやなのはに反撃の余地はない。

 当然結果はというと……、

『は~い、なのはちゃん撃墜! フェイト、すずかちゃんチームの勝ちー!』

 エイミィさんのコールと同時に、シューターがなのはに炸裂し終了だ。
 濛々と立ち込める煙幕の中からなのはが現れる。純白のジャケットは煤と埃で汚れ、勝負は敗北。この上なく不機嫌そうな顔のままなのはは訓練場の床へ舞い降りた。

「……アリサちゃんのせいだよ」

 ゆっくり降り立ち開口一番、まずはアリサを責めるなのはだ。
 恨めしそうな視線で抗議の念を思いっきり送りつけている。

「うう……わかってるわよぉ。前に出すぎたのが敗因だって……」

 流石に自覚しているためかアリサも今回は反論するつもりはなさそうだ。肩を落として自分の軽率さに反省している。

「まぁ反省点がわかっていれば次から直せばいいし、そこまで気落ちすることは無いと思うよ」
「一戦一戦にプライドをかけているアタシにとって敗北ほど悔しいものは無いの。あんたみたいにお気楽に考えられる頭じゃないんだから……マネージャーの癖に生意気なのよ」
「ははは……」

 ジト目で睨んでくるアリサを苦笑いで誤魔化していると、勝者の二人が降りて来た。

「ふぅ……結構うまくいったね、すずか」
「うん、私も二人思ったとおりに動いてくれた助かったよ」

 まだまだ余裕綽々といった感じでお互いに勝利を称えあっている。
 なのはとアリサはそんな二人の様子を見ながら悔しそうに頬を膨らませていた。

「うう、すずかちゃんの思ったとおりに動くわたしたちって」
「考えちゃ駄目よ、そんなのたまたまなんだから……」
「でも二人とも魔法の使い方が単純だからそういうのはしょうがないと思う」

 消沈する二人に止めを刺すがごとくフェイトの一言。
 途端にピタっと身動きを止めてしまう二人。今のは流石に痛いところを突かれたみたいだ。
 フェイトにとっては自分の正直な気持ちを言っただけで悪気はないと思うけど、落ち込む敗者にこれはキツい。

「まぁ確かになのはは射撃、アリサは格闘にとことん突出してるから戦法を読みやすいといえば読みやすいけど」
「ユーノくんまで……」
「え? で、でも僕は客観的な意見を口にしただけで」
「それなら何か対策とか提案しなさいよマネージャー」

 ぎろっと僕を睨んで文句をつけるアリサ。への字に曲げた口からは今にも唸り声が上がりそうだ。
 ほとんど威嚇されるような格好で僕も思わずたじろいだ。
 どうもこういうときのアリサには勝てないと感じてしまうのは、男としてはやっぱり情けないんだろうな。

「そう言われてもね……。二人とも三人で戦ってきた時の感覚でやってるのが問題だと思うんだけど」

 今までならなのはとアリサの間にすずかがフォローしてるから、三人がそれぞれの持ち味を最大に発揮できていた。
 それぞれの長所を合わせ一つの力にする。チームプレーの最大の強みである。

 けれどチームプレーを意識しすぎてしまうと今度は自分のポジションを延ばすことばかり考えがちになる。
 ポジションに相応しい魔法は上達するだろう。でもそこに相応しくない魔法は疎かになりやすいのだ。疎かになっても他のポジションがそれをフォローしくれるから必要と感じなくなる。
 これはチームプレーに付きまとうある種の弊害だ。

「二対二の模擬戦にしてよかったと思うよ。」

 ちょっとは予想してたことだけど、一人が欠けることでここまで連携に支障が出るとなるとこれからは色々考えなければならないのは当然のことになる。
 そもそもなのはたちが複数の相手と戦った経験自体が絶対的に不足しているんだ。常に相手が一体なんて常識的にありえないことだし。
 頭を悩ます問題がまた一つ増えたわけだ。

「でもすごいなみんな。攻撃も防御もすごく強くて私の魔法じゃ勝てないよ」
「けどフェイトちゃんの速さは私たちみんな追いつけないよ」
「なんだかさっきの動きもすごかったしね。ディバインシューター全部落とされるなんて思わなかったもん」

 予想外の事態を作り出したフェイトの技術の前になのははため息をついた。
 純粋な戦闘技術を学んでいる方がどんな事態にも万全に対応できるのはしょうがないこと。闇雲に戦闘の経験を積んだって戦い方はいつまでも荒削りのままなのだ。
 仕上げるにはやはりしっかりとした知識が必要になる。

「そうかな? でもなのはと始めて会った時に二人がいたら私勝てなかったかも」
「う~ん……それでも負けそうな気がする」

 思い浮かべたのだろうかなのはが難しい顔をしながら首を傾げている。
 確かにあの時のなのは今よりもっと未熟だったし、下手すれば三人が持ち味を出す暇も無くやられていたかもしれない。

「ならそういう時どうすればいいわけ? 散り散りになってもどうにかできる方法」
「そうだな……」
「やっぱり私みたいにしっかりクロノとかに教えてもらった方がいいのかな?」
「それだと短時間じゃ余計にぼろが出るから今のままのほうがまだいいと思う」

 仮に四人で小隊を組んで戦うとして、もし何かのアクシデントでメンバーが分断された場合でもしっかりそれぞれで戦える方法……。

「難しいな。ちょっとゆっくり考えてみないとこればかりは」
「しょうがないわね……まぁ今のままでもこういう風にバラバラにならなきゃ無敵なんだし、焦る必要ないと思うわ」
「そうだね、アリサちゃんの言う通りわたしたち四人いれば絶対大丈夫なんだし」

 一応そうなるか……。
 戦いに絶対大丈夫だっていう定石は早々無いと思うけど、四人いればどんな困難も乗り越えられるのはきっと嘘にはならない。
 対策について考えるのはまだ保留にしておいてもいいかもしれない。

「じゃあ今日はこれで解散にしよう。四人とも訓練もいいけどちゃんと休まないとね」 

 休日の朝から晩までこんなことをさせるのもなのはたちには悪いし、今日の分はこれで切り上げても大丈夫だろう。
 ジュエルシードの方も反応が無いことだし羽を伸ばせるうちに伸ばさせておくのもマネージャーの仕事だ。

「よし! それならカラオケ行くわよ! せっかくの休みはみんなでパーッと騒ぐに限るんだから!」
「あっ、いいかも。最近行ってなかったもんね」

 さっそく予定を組み立てて、やっぱりみんなにはこうやってノビノビしている方がいい。
 
「そうそう、せっかく四人こうして揃ってるわけなんだし親睦会も兼ねて、ね」
「カラ……オケ?」
「あ、フェイトちゃんカラオケ初めてだよね? カラオケって言うのは――」
 
 フェイトにとってもこの世界の文化と触れ合うのはいい経験なはずだ。さっそくなのはからカラオケについていろいろ教えてもらっている。
  
「でも私、歌なんて……」
「歌ならビデオレターと一緒に何曲か送ったのがあったでしょ? まぁいきなり歌うのは厳しいと思うから最初は聞いてるだけでも大丈夫よ」

 尻込みするフェイトの背中をアリサが押した。一方的な押し付けではなく、ちゃんとフォローを入れながら話をする辺り、やはりリーダーとして器があることを感じさせる。
 戸惑いがちなフェイトだったけど、アリサの言葉に段々と表情を和らげ、なのはとすずかの様子を窺いながら少し照れ気味に頷いた。

「じゃあ……行ってみようかな?」
「行くのよ。せっかく地球に滞在してるんだから文化交流しなきゃ」
「わたしフェイトちゃんの歌すっごく聞きたい!」
「な、なのはまで……そんなに期待されても上手に歌えるかわからないよ」
「大丈夫だよ。カラオケの機械って音程さえちゃんと取れてれば上手だって言ってくれるし」
「すずか……そんな夢ぶち壊しなこと言わなくても……」

 絶えること無く交わされていく言葉のリレー。その中でみんな笑ったり困ったり、時には拗ねたりとコロコロ表情を変えて場の雰囲気をどんどん明るくしてくれる。
 フェイトがみんなと上手く溶け込めるか心配していたのもまったくの杞憂だ。なのはだけでなくアリサも、すずかも、フェイトの全てを知った上で受け入れてくれることに心から感謝したい。
 きっとリンディさんも喜んでいることだろう。友達、仲間ってのは持って損なんてどこにも無いんだから。

「それじゃ善は急げ! 駅前のいつものとこでパーッと歌うわよ!」

 黄色い声が訓練場を満たしてゆく。非日常から日常へと舞い戻れば彼女たちだってまだ十歳の女の子たちだ。
 今しか出来ないことがたくさんある。だから必要以上に縛らない。最近なんとなく僕が感じていること。

「じゃ、みんなまた後で」
「ユーノくんはどうするの?」
「僕はこの後もいろいろ調べたいことがあるからね」

 みんなの戦闘からよりよい戦法の考案もしないといけないし、ここの後始末だってやらなきゃいけない。
 アースラが機能不全に陥っているから訓練場の修復も自前で行わなければならないのだ。もちろん今の訓練の結界も僕が張っていたものだ。
 裏方は結構辛いけど忙しいのは苦にはならない。それだけみんなが頑張ってくれるのだ。期待に答えさせてあげるためにも僕が支えてあげないと。

「そっか……あんまり無理しないでね。ユーノくん体壊しちゃ駄目だよ」
「心配してくれてありがとうなのは。僕は大丈夫だから」
「でも……やっぱりユーノくん……」
「なのはっ! なにぼさっとしてるのよ。行っちゃうわよ!」
「あっ、ごめんアリサちゃん! すぐ追いつくから先行ってて!」

 振り向きざま、一足先に訓練場から出て行くアリサたちに声をかける。
 アリサたちと一緒に行かないなんてなにか大事な話があるのだろうか? アリサたちを見送ってまた僕と向き直るなのははどこか浮かない顔で僕を見つめていた。

「いいの? 話なら夜聞くし別に今じゃなくても」 
「だって気になったから……」
「なにが?」

 まるで僕の様子を推し量るように、じっと僕を見つめたままなのはは動かない。
 しばらくそんな事を続けてやがて諦めたのかすっと身を引いた。

「ミッドチルダが消えちゃったのにユーノくん全然落ち込んでないから……無理してるんじゃないかなって思って」

 俯きがちになのははそんなことを言った。

「スクライア族にとっての故郷はないようなものだからね。確かにミッド出身の人もいるけど他の世界からの人たちの方が多いんだよ」

 そう、そんなことなのはが心配するような問題じゃない。
 嘆くならミッドチルダに眠っていた数々の貴重な遺跡が消えてしまったことぐらい。

「ユーノくん……」
「僕なんて拾われた子だから故郷そのものがわからないし。もし故郷があるならスクライア族だけだよ」

 自分で言って虚しくなるけど、なのはを説き伏せるには十分すぎる言葉だ。僕にとっての故郷なんて言葉だけで形として実感できるものじゃないんだから。
 人と比べれば凄くあやふやなものなんだろう。僕の故郷への気持ちっていうものは……。

「でも前に言ってたよ……年に一度はミッドに部族の人たちみんな集まるって」

 だからそれが事実だって、僕の気持ちが揺らいでしまうことは無い。最初からあやふやで揺らめいているんだら。

「あれは大丈夫だよ。集まったってすぐに自分の発掘現場に戻るからね。長居はしないからきっと……」

 いつの間にか部族の集まる時期を逆算していた自分がいた。
 そんなことしたって真実がわかるわけでもない。みんなが消えた、消えないなんて誰一人知るわけが無いんだ。
 
「僕の心配はみんなの心配よりずっと小さいんだ。大切なものが消えたことが分かってるほうが辛いはずだよ」
「そう……かもしれないけど」
「だから大丈夫なんだ。それにこんな話してる暇があったらみんなのとこに行かなきゃ。アリサに怒られるよ」
「あ……そうだね」
 
 話し始めてから結構経ってるし、今頃みんなレストハウスから出て行くところかもしれない。流石にみんな心配するだろう。

「でも約束してね」
「ん?」
「辛いときは無理しないで……みんなと気持ちを分け合うって」

 取りあえず僕は頷いていた。なのはの思いやりを無駄にしたくなかったから。

「うん、約束するよ。なのはの頼みだしね」
「約束だからね。……じゃあ高町なのは行ってきまーす!」

 覇気を取り戻してなのはが笑顔で駆けていく。
 訓練場の出口まで来ると、一度振り返って大きく手を振った。僕も軽く手を振ってなのはを見送った。 

「ふぅ……」

 誰の姿も無い訓練場。
 本当に誰も来ないのを確認して僕は息を吐き出した。今までが緊張していたのか、顔からも力が抜けていくのを感じた。
 頭を軽く振って伸びをする。さっきまであんなに騒々しかった場所も、使う人がいなければただの広い空間に過ぎない。一人だとそれが余計に際立つ。
 見あげれば天井の照明に思わず目を細める。太陽には遥かに劣るけど僕には十分眩く感じた。
 それだけ外に出ずアースラに篭もっていた時間の長いことが思い知らされる。

「エイミィさん、ここの結界ってやっぱり直らないんですか?」
『動力全部が艦全体の維持で手一杯だからね……回さないというより回せない状況なのよ』
「だったらこれからも僕がやらなきゃいけないですね」
『ほんとゴメン! お詫びにここの修復はうちの子達でやっとくからユーノ君も家に帰っていいよ』
「そうですか……じゃあお言葉に甘えます」

 どっと押し寄せる疲労感に対抗する術は休養のみだ。
 やっぱり知らないうちに無理のツケが回ってきているのか、あまりうまく物事を考えられない。
 
(……なのはのせいだな)
  
 いや……目を逸らしていたことと無理やり向き合わされればそうもなるか。
 深く考えないようにしていたのに、なのはの気遣いのおかげで頭の中にこびりついてしまったようだった。
 厄介な問題が山積している。まったくもってイヤになってきた……。

「エイミィさん……僕ってやつれてます?」
『え? そうは見えないけど……。自分で感じたなら休んだ方がいいよ。クロノ君も疲れ、顔に出さないし』
「はは、そうですか」
 
 思わぬ所であいつと共通点。

 ――……また気が滅入ってきた。

「それなら素直に帰ります」
『うん、寝る子は育つって言うしね。そんじゃなのはちゃんの家まで転送しようか?』
「それぐらいはやりますよ」

 言うより早く転送魔法を詠唱した。
 景色は光に包まれ瞬きする間もなくなのはの部屋へ辿り着く。

「あっ……と変身しなきゃ」

 僕の日常での姿はこれじゃない。高町家にお世話になっているのは人としての僕ではなくフェレットとしての僕だ。

「一番得意な魔法が変身魔法なんていい笑いものだよ」

 また光が僕を包んで目線が一気に下がる。
 周りの物が巨大化したような錯覚を受けながら窓に映る自分の姿を確認した。

「よし、どこをどうみてもフェレット」

 窓は鏡代わりだ。真実しか映さないおかげで、自分の姿を誰の手を借りることなく確認できる。
 僕というフェレットが一匹、窓の中にいる。
 そしてフェレットの後ろには誰かの足が見える。

「……?」

 当然僕は目の前のフェレットだ。本来なら人は窓の中にはいない。僕は変身したのだからこの足は消えていなければいけない。そもそも足はフェレットの遥か後ろ、丁度ドアのところに立っている。
 これはおかしい。真実しか写し出さないものが偽りを写している。ジュエルシードの影響か? いやいやそんなわけがない。
 簡単なことだ。凄く単純明快な答えがすぐに導き出せる。


 ――後ろに誰かがいる。


 足は微動だにしない。石像のようにその場で固まって、こちらへ歩いてくることも無い。
 逆にそれが不気味さを引き立てる。この足は何を思っているのだろうか。
 意を決し、僕は恐る恐る振り向いた。

(うわぁ……)
 
 いた。
 ほんとにいた。
 ドアを開けた格好のまま硬直していたのは他でもない、

「ゆ……ユーノ……?」

 美由希さんだった。
 
 よりにもよって一番ばれてはいけない人に――いや危険度でいうなら恭也さん以外みんな同じだけど。
 一切の表情が消し飛んだ顔に、ぽかんと開いたままの口。夢なのか現実なのか、呆気に取られたように美由希さんは立ち尽くしている。
 美由希さんが一体どこから僕を見ていたのかはわからないけど、おそらく僕がフェレットになる瞬間は見られていると思った。

 僕もようやく全ての現実を受け入れた。そうして最初に考えたことは最後の抵抗を試みること。
 こうなってしまったらもう後戻りは出来ないのは十分承知している。でもこれで事態を収拾できる可能性だってあるはずだ。

 それは――

「きゅ、きゅう?」

 とても可愛らしく鳴いてフェレットだということをアピールする。
 それだけだ。

 で、結果はというと、

「……はう」

 意味不明な呟きを残して、美由希さんの体が傾いていく。ゆっくりと、後ろへ重心が移動していく。
 ドスンと鈍い音がした。気づいた頃に美由希さんは廊下に寝そべったまま完全に意識を飛ばしていた。

「夢だと……思ってくれないよなぁ」

 気絶している今なら夢の話で済ませられればいいけど。
 生憎、美由希さんがそこまで単純な頭ではないのはこの家で暮らしてる自分がよくわかっている。

「とりあえず介抱しないと」

 こんな所で倒れてたら余計に怪しまれる元だ。
 せめて下のソファーに寝かせなりしないと……。

「……もう誰もいないよね」
 
 今度は変身を解除。流石に元の姿にならないと美由希さんを運ぶ事はできない。
 抱えてみると年上だけあって結構重い。強化魔法でも使わないと僕一人では無理そうだ。

「はぁ……やるしかないか」
「えっと、私も手伝った方がいいかな?」
「あっ、すいません。でも僕一人でなんとかなりそうで――」

 今度は誰と話した――!?

 頭上から降ってきた声に自然と返事をしてしまったけど、今のはどう考えても美由希さんのものではない。
 もちろん誰かは見当ついている。この声に該当するのはたった一人しかいない。
 それを確かめるべく僕は顔を上げた。首はブリキになったみたいにぎこちなく動き、まだ降りかかる災難を受け入れていないようで。

「え、え~と……あなたなのはの友達かしら?」

 突然現れた来訪者には、いつも爛漫な笑顔も完全に引きつっていた。
 今まで辛うじて均衡を保っていた何かが音を立て崩れていく気がした。もう完全に収拾がつかない事態に僕は突き落とされてしまったわけで。
 きっと頭の中は真っ白で、顔は真っ青で、現実のどうしようもないくらいの非情さに、僕は完全に飲み込まれていた。

「きゅ、きゅう~?」

 鳴いても誤魔化せないよな……。

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