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2007.08/13(Mon)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十二話 Bpart 


【More・・・】


 私は今これほど自分の甘さに悔いたことは無い。
 
 彼女の悲願が――いや欲望がここまでさせてしまうのか。
 執念は私の予想を遥かに上回って根深く、底には闇しか存在しなかった。

「あれだけのジュエルシードが存在している時点で予期はできたでしょうに……」

 そう思いたくなかったのは彼女にまだ人間を期待していたからだろうか。
 生憎、彼女はとっくの昔に魔女よりも恐ろしい悪魔に成り果てていたらしい……。有り余る力をその手に握っているからこその宿命か。

「ですが引き金は私が引いた……」

 ミッドチルダという世界を、人々の記憶から最初から無かったかのように、跡形も無く私たちは葬ったのだ。
 まったく一つの次元世界がこうも容易く消えようなど誰が思えよう。

 全てを手に入れると彼女は言った。大言壮語な夢物語は今となってはあまりに許しがたい狂気だ。
 そしてその罪人の中に私たちの名も当然含まれている。本当ならその罪全てをあの女に押し付けてやりたい。
 
「みっともない……責任転嫁なんてね」

 今彼女の顔を見れば、私は野生のままにあの女を八つ裂きにし食い殺してしまうだろう。
 私の力では逆に八つ裂きにされるのが関の山だが。

「十字架を背負う覚悟など当の昔に決めたことでしょう……リニス」

 あの誓いと共に私はアリシアを守ると決めたのだ。破滅が先に待ち受けようと私は進み続ける。
 例え地獄の業火が立ち塞がろうと私は構わない。何も恐れるものは無いのだ。
 
 だからこそ――

「なぜ……プレシアは……」

 気にかかることがあった。
 これはあくまで私の勝手な推測であり、彼女の性格を把握しているからこそ考え得る可能性の一つ。
 もしもその可能性が真実ならまだ希望が費えたことにはならないはずだ。
 たった一人、取りとめもなく庭園の中を歩き続けながらも私の足は確実にそこへ向かっている。
 真実を知るにはそれ相応の代償が必要となろう。

 それは身を焦がすような彼女への怒りを抑えることであり、

 はたまた私自身の命を犠牲にすることであり――

 どの道ツケにするわけにもいかないだろう。
 アリシアのために私が今出来ることは一つだけ。絶望の中に隠された希望を見つけ拾い上げ、アリシアに届けること。

「それだけ……ではないですね」
 
 精神リンクから伝わるこの痛みはそれで癒される代物ではない。
 あの子は自分の行いに後悔している。悲劇の片棒を担がされたこともある。しかし今の彼女には片割れである少女に絶望を背負わせてしまったことが何よりの悲しみを生ませている。

 伝えるのは、届けるのは二人の少女に――だ。

 私の役目は今はアリシアを守ることであり、昔はフェイトを守ることであったから。

「結局捨てきれないのが……私か」

 大扉に背を預け、夜空を仰ぐ。満天の星空だってアルハザードは作り出せる。叶わぬ望みの無い世界がここにある。

 全ては「創造」の元に万物は理を外れ産み落とされる。

 故にこの世界に「破壊」は存在しない。代償などこの世界の約束には記されてはいない。

「あなたは力を鼓舞するだけの徒労をわざわざするような性格では御座いませんでしょう?」

 皮肉たっぷりに謙って扉と向き合った。
 この向こう側に世界の主がいる。傍らに厳然たる真実がきっとある。
 
「さて、十中八九……藪蛇でしょうが」
 
 手をかけ力を込めて、

「その分のマージンとしてきっちり教えてもらいますよ。世界で一番偏屈な元ご主人様」
 
 「元」をとかく強調して私は真実――パンドラを開けた。

* * *

 アースラは相変わらず沈んだままで、

 いつの間にか駐屯地が作られていて、

 誰が見ても普通の一軒家が駐屯地で、

  昨日の雨が嘘みたいな青空の下、

 庭に設えた真っ白なテーブルを囲んで再会を祝う私たちは……、


 ――……。


 なんというか、

「え、えっと……」

 昨日が昨日だから妙に気恥ずかしい。
 あれだけみんなの前で泣いてしまったなんて自分でも結構信じられないことで。
 考えてみるとあんな大声で泣いたのって私の人生で初めての経験かもしれない。そういう意味だと貴重な体験になるの……かな?

「まずは初めまして……だよね」

 うん、前向きに考えよう。
 泣いちゃったことは隅に置いといてまずは自己紹介しなきゃ。

「フェイト・テスタロッサと言います……えと、今はアースラで嘱託魔導師をしています」

 ……。

 …………。

「あと……その……」

 ……。

 …………。

 
 話題が尽きた。


「あ、あはは、でもビデオメールで大体のことみんな知ってるから、これぐらいシンプルな方が……」

 助け舟をありがとう、なのは。
 いろいろ考えてたことが沢山あったはずなんだけど、私の頭の中は緊張実は真っ白。
 
(そ、そっか……これも私初めてだったんだ)

 なのは以外の同い年の女の子とお話しするのって、私にとって完全に初めての体験だったことにようやく気づいた。
 なんだか意識しちゃうともっと恥ずかしくなって、顔の温度が上がっていくのを感じてしまったり。

「まぁ、お互い本当に初対面じゃないんだし、アタシとしても始めの挨拶はこれぐらいがちょうどいいと思うわ」
「そうそう、せっかくこうやって四人揃ったんだし、いろんなお話しよう」
「あ、うん……ありがと二人とも」

 腕を組みながら頷くアリサに、両手を合わせてにこやかに微笑むすずか。
 二人の言葉に私もなんとか肩の力を抜くことが出来そう。

 硬くなっていた顔も上手く笑顔に出来てるかな……?

「それじゃ何話せばいいのかな……?」

 出来る限り、いつも通りを心がけ会話に努めようとしてみる。この場合のいつも通りってどんな風に振舞えばいいのか心の中で首をかしげて。
 
 な、なんだか難しいな。

「ん~、別に大体のことはアースラで聞かせてもらったしね」
「フェイトちゃんの好きなことでいいと思う」
「そ、そっか」

 なんてこと言われるとますます立つ瀬がなくなるというか。
 好きなことって何があるかな……。

「あ、ええと……じゃあデバイスの術式の高速展開ってみんなやっぱり並列詠唱なのかな? 私は高速詠唱でやってるんだけど」

 取りあえず魔法のことならみんな分かる共通の話題だよね。

「…………へ?」
「あ……そ、そうだね……多分並列なのかな?」
「れ、レイジングハートに聞いてみるね」
 
 なのにみんな揃ってばつが悪そうな顔をしてしまった。
 何かがいけなかったのか、ちょっと今の言葉を反芻してみるけど特に問題点はなさそうだし。
 術式の展開は初歩の初歩だし、まさか分からないわけないと思うけど。

「あ、じゃあデバイスに自動詠唱させる時の展開式は祈願型にしてるんだよね。インテリジェンスデバイスだとこの方が絶対的に詠唱効率が上がるし……あっ、もしかして二人はストレージなのかな?」

 私が知っててみんなも知ってる話題。
 自信を持ってそう言えるはずなのに、私が口を開くたびどんどんみんなの顔が気まずそうになっていくのが目に見えて分かってしまって……。

 雲行きがどんどんどころかものすごい勢いで怪しくなってきた気がする。

「……フェイトちゃん」
「何、なのは」
「あ、その……わたしも分からないことはアリサちゃんとすずかちゃんにはもっとわからないと思うんだけど」


 ――はい?


「えっ、だって二人とも魔導師じゃないの? それになのはだって魔導師になってから一年は経ってるし」

 まさかそんな基礎的なことを今更なのはが習っていないなんてあるわけないだろう。
 あそこまで高度な魔力操作と収束砲撃が出来るんだからきっとすごい勉強をしたはずなんだ。
 それにアリサとすずかだってあんな強力な魔法が使えるんだから何も知らないわけが……。

「確かにアタシたちは魔法少女なわけだけど」
「なったのってつい最近……というか一ヶ月前くらい」


 ――へ?


「う、嘘? あんな魔法使えるんだよ。絶対魔法の論理式ぐらいは知ってなきゃおかしいよ!」

 仕組みを理解して、突き詰めて、術式を組んで始めて魔法が発動できるんだ。
 それなくしてみんなどうやって魔法を使っているんだろうか。

「あ~その、フェイト……。一つ質問、いいかしら?」
「う、うん」
「魔法って念じれば出てくるものじゃないの?」
「祈願型はそうだけど、でも最低限術式の展開とかは知ってないと」
「それってさ……感覚でちょいちょいって出来るものじゃないの?」
 
 今すごく耳を疑いたくなるような言葉が聞こえたような聞こえなかったような……。

「こうなりたいとか、こうしたいとか思えば勝手にバーサーカーが魔法を作ってくれて」
「私は魔法がどんなのかちょっと勉強もしたけど、形にするのはやっぱりシルフが手伝ってくれないと」
「そのわたしも……レイジングハートなかったらディバインシューター一個が限界なんだけど」
「そ、そうなんだ……」

 ようやく私は確信した。
 自分が今まで話してきたことは、きっとこの場にいる誰もが望んでもいないことで。思いっきり場違いすぎる話題で。

 つまり私は、

「ごめん……」

 まったく空気を読んでいなかった。

「あ、ぜ、全然! 全然大丈夫だよフェイトちゃん!! 魔法のことなんてわたしたち全然話したことないから!!」
「そ、そうよ! だから新鮮よ! 誰も口にしなかったことをフェイトが話してくれたんだから! 魔法がどんなものかよーくわかったわ!」
「なのはちゃん、アリサちゃん……多分それすっごい墓穴だよ」

 いきなりの大失敗だった。
 世界が違えば魔法体系も違うのは当たり前のことなんだ。いくらミッドチルダ式が広く普及してるといっても管理局が管理してる世界だけであって、なのはたちの世界はまだ管理すらされてないんだし……。
 そんな世界じゃ魔法体系が整っているなんて考えるほう大きな間違いだ。

「……何を話せばいいのかわからなくて……ごめんなさい」

 一人舞い上がっていたことにしゅんと肩を竦める。自分の勝手な思い込みでみんなに迷惑かけてしまったことは反省しなきゃ。

「あ、謝らなくていいわよっ! 全然気にしてないし、むしろいきなり話し振ったアタシたちの方が悪いんだから」 
「や、やっぱり自己紹介から始めよう! こうやってお話しするのはアリサちゃんもすずかちゃんも初めてだし、しっかりくっきり自己紹介!」

 必死にみんなフォローしてくれるのがちょっと辛い。こういうことも勉強が必要なんだね。
 私って思ってたより人付き合い苦手なのかも……。

「ん、随分と賑やかだな」

 と、背後からの声に振り向くとクロノが少しだけ笑みを浮かべて立っていた。
 
「あっ、クロノくん。どうしたの?」
「ああ、ちょっと気分転換に。あんまりアースラにいると魚になりそうだからな」
「にゃはは」

 クロノはきりっとした顔でいる。私はまだ悲しい気持ちを引きずっているけど、クロノはどうなんだろうか。
 落ち込んでいないのは執務官として責任? 
 それともクロノの強さなのかな?

「クロノは今何してるの?」
「一応の対策会議だ。艦長やエイミィ、ユーノたちと一緒にな」
「私はいいの? 一応アースラの嘱託魔導師だし」
「君はゆっくり今を楽しめ。これからのことが決まるまでは鋭気を養っておかないと持たないぞ」
「クロノは大丈夫なの?」

 私の問いにクロノは黙って頷き笑って見せた。
 
「参っているのは僕だけじゃない。みんなのほうがずっと辛いだろう。それに後悔とか悔恨とかはみんな昨日に置いてきたからな。問題はない」 
「そうなんだ」

 クロノは強いな。私なんかと大違いだ。
 やっぱり私ってまだまだ子供みたい。しっかり考えて行動できるクロノが羨ましく思えた。

「僕としてはもっと絶望に浸っていたかったが、誰かさんたちが渇を入れてくれたおかげでそうもいかないんだ。年上が引きこもってたら情けないだろ?」
 
 やれやれといった感じでクロノは伸びをし踵を返した。こっているのか肩を何度か叩いて家に引き返していく。

「だ、誰かさんの渇って……」

 もしかしなくてもそれは私が泣いたことなんだろうな、と思った。

「安心していいぞ。君だけじゃない、そこにいる全員のおかげだ」
 
 肩を叩いていた手を軽く上げて見せながらクロノは再び家の中へと戻っていった。
 
 ……。

 やっぱり私が泣いたことも入ってるんだね。

「いいお兄さんだね、クロノさんって」
「そ、そんなまだ兄さんって決まったわけじゃないよ」
「でも傍から見たらいい兄妹じゃない。羨ましい限りよ」
「え……そうかな」

 そう言われるとなぜだか誇らしくなって口元が緩んできてしまった。
 照れ臭いって感じかな……なんとなくだけど。

「あ、フェイトちゃんようやく笑った」
「さっきまであんなにガチガチだったくせに」
「お兄さん効果だね」
「え、え!? か、からかわないでよぉ……」

 気がつくとみんなニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでいる。
 今度はみんな揃って悪戯っぽい笑みを浮かべてすごく楽しそうだ。

「照れてるフェイトちゃんって可愛いね」
「な、なのは何言ってるの!?」
「だってほんとのことだもん。今のフェイトちゃんすっごく可愛い!」
「やっぱりフェイトちゃんは笑ってる顔が一番だね」

 かけられる言葉は魔法みたいに私の心を沸騰させる。
 どんどん上昇する顔の温度と駆け足になっていく鼓動に、もうどうしていいかわからなくなってきた。
 なのはもすずかも私を困らせるのが好きなのかな……? これじゃ恥ずかしくておかしくなっちゃうよ。
 
「こらこら、二人ともあんまりフェイトをオーバーヒートさせないように」
「でもアリサちゃんだって今のフェイトちゃん可愛いでしょ?」
「Of course!」
「だって」
「え~~!?」

 もう意地悪だよ~、なのはもアリサもすずかも!

「うぅ……」

 こうなったら拗ねてやる。
 そう思って口を尖らせ私は恨めしそうに三人を見つめた。
 でもそれすら今は逆効果だってみたいで――

「はいはい拗ねない拗ねない」 

 アリサは笑いながら私の頭を撫でてきて、

「にゃははは、フェイトちゃんほんっと可愛いなぁ」

 なのはは満面の笑みで私を眺めるだけで、

「もう、二人とも子供なんだから……ふふふ」

 すずかは二人を止めることなく、微笑ましそうに笑っていた。。  

「……いじわる」

 そう呟くのが私の最後の抵抗だった。


 私って弄られやすいのかな……?


 なんて新しい自分を沢山見つけて午後のお茶会はひとまず終わりを迎えたのでした。 

* * *

「それじゃ僕はそろそろ帰りますね」
「うん、一日つき合わせてごめんね」
「いいえ、こういう時こそ動ける人は動かないといけませんから」

 ぺこっとお辞儀をして、ユーノ君がトランスポーターに向かう。手早くコンソールを操作して地上へ転送の準備開始。
 程なくしてユーノ君がレストハウスに転送されたのをモニターで確認したら、私は起動させているモニター全てを待機状態へと移行させた。
 ブン、とモニターの映像が消えてモニターが切り替わったことを告げると、私はそのまま椅子に手足を放り出しながら持たれかかった。

「ふぃ~~……朝から缶詰は辛いねぇ」

 疲労困憊の満身創痍。
 栄養ドリンク三本一気飲みしても体が奮い立たないのは、流石に限界を当に超している証拠なのかも。

「クロノ君も休んだほうがいいよ。昨日帰ってきてからぜんぜん休んでないでしょ」

 私よりも参っているのはクロノ君とフェイトちゃんだ。
 フェイトちゃんはなのはちゃんたちのおかげで元気にはなったけど、クロノ君はまだミッドが消えたショックが抜け切れてないはずだ。

 大方、得意の背伸びで隠しているだけだろう。

「いや、大丈夫だ。気にかかることが多すぎて逆に休んでいられないからな」
「それでも休んでよ……そのうち目にクマ出来るよ」
「デスクワークの方がよっぽどだろ? 君こそ一日椅子に座って腰に来てるだろ」
「なぁ~に言いますか。こちとらまだまだピッチピチの十七歳だよ。まだまだこれからっさ!」

 私も十分強がっているんだけどね。

「そう……か。けど無理しないでくれ。君は管制官なんだ。もしもの時に倒れられたら指揮系統が駄目になる」
「クロノ君は執務官でしょ。もしもの時に倒れられたら指揮系統がもっと滅茶苦茶になるよ」

 お互い様――そんな言葉が浮かんで消えた。
 私もクロノ君も代えの利かない重要な役職。こんなんじゃ、もしもの時は二人まとめてばたんきゅーかもしれない。
 気遣い合うのは大事だけど、気遣いを譲り合うってのはこの場合NGだ。

「お互い」
「休まないとね」

 自嘲気味に頬を緩ませ、ため息をつく。
 けれどやっぱり先に休養をとらせるのはこのチビ助なのは満場一致だろう。艦長だって私とクロノ君なら後者を選ぶはずだ。
 精神的疲労ってのは知らないうちに体に溜まって、気づいたときにはすでに決壊がザラなんだから。

「じゃクロノ君、先休んで」
「それはエイミィだろ」
「目の前で世界が消える様を見た人が何をおっしゃいますか」
「故郷が消えたなら君だって辛いだろ」
「全然」

 きっぱり即答した。

「嘘つけ。そこまでデリカシーのない人間じゃないだろ」
「今はアースラの中にいる人たちに比べればずっと欠けてるよ」

 そう、私にとって世界が消えてしまったことは実は大して衝撃的な出来事ではない。
 決して冷徹な人間だという意味でもない。
 確かに最初あの映像を見た時は、この世の終わりが訪れてしまったような絶望感に包まれたのはほんとのこと。
 でもそれ以上に私は周りを見渡して、自分がまだ贅沢な人間であることを知ったのだ。

「故郷は失ったけどほんとに大切なものは失ってないから」

 私が欠けていられる理由だ。
 私にとっての生まれ故郷はミッドチルダ。でもそこはもう帰るべき場所じゃない。
 本当に私が帰るべき場所は……ここ。この艦が私の家なのだ。

「そんなの理由に――」
「なるよ。……少なくとも今はそうしないといけない」
 
 もう家族だってアースラの人たち一人一人がそうなんだ。
 この季節ならミッドにいるパパとママだって仕事で別の世界にいる。
 失ったものなんて私には無いのだ。
 平気だから動くことができる。他のみんなが立ち直るまで、それまでみんな支えてあげられるように私はこの席に座り続けられる。

「私すごくズルいよね。顔じゃ悲しんでても心の中じゃ安心してさ。クルーの中には家族失った人だっているのに」

 みんなの気持ち知っていながら、のうのうとしていられる自分が許せなくなってくる。
 だからその分頑張らなきゃいけない。
 ひたすら、がむしゃら、とにかくやらなきゃいけない。

「……馬鹿だよ、君は」
「馬鹿で結構。フェイトちゃんも帰ってきてオペレートだって忙しくなりそうだしね。お姉さんは頑張らなきゃ」

 愛想笑いで誤魔化して私はモニターの一つを再起動させた。
 映し出されたものは他でもないS2Uに記録されていたミッドチルダ最後の光景だ。正直な所、私はこれを最後とは呼びたくないけど。
 あくまで便宜的にはそう呼んでいるだけだ。

 S2Uは観測者としても優秀だった。
 クロノ君の目を通して記録されたのは世界が失われる瞬間だけではない。その間に起き続けていた人の知覚器官が知りえない情報をも克明に記録していたのだ。
 大気中の魔力濃度の変化や空間の歪み等、挙げればキリが無いくらいにこの子は実直に覚えられること全てを覚えてくれた。
 流石クロノ君をご主人様とするだけはある。馬鹿真面目なとこはそっくりだ。

「諦めきれないのか?」
「それ以外にある? 女の子は諦めが悪いんだよ」

 後はアースラに完備された分析機器の出番だ。
 一秒一秒、コンマ単位にまで分析を行い、時の狭間に埋もれた真実を発掘する。
 無駄な足掻きと思うなら思えばいい。何かしないよりかはずっとマシだ。

「私まで落ち込んでたら洒落にならないでしょ? しっかりできるならしなくちゃさ……これでも執務官補佐だって兼任してるんだし」
「……エイミィ」
「だから執務官殿にはもっと頑張ってもらわなくちゃ……そうじゃなきゃ――えっ?」

 不意に伸びてきた手が、私の頭を強引に何かに寄りかからせた。
 突然のことに何が起きたのかと思い視線を動かす。と、丁度待機状態だったモニターに自分が映りこんでるのが目に入る。

「く、クロノ君……?」

 その姿は私にとってはまったくの計算外の姿だった。
 私は椅子から半分身を乗り出すような格好でクロノ君の胸に寄りかかっている。おまけにクロノ君の手は私の頭に添えられて、まるで抱きしめられている体勢だった。

「そうやって仕事に打ち込むのは無理してる証拠だろ」
「や、やだなぁクロノ君……そ、そんなわけないでしょ。わ、悪い冗談は止めてよ……」

 こっちはすぐにでも離れたいのにクロノ君は離してくれなかった。むしろ押し付けるように胸に顔を埋めさせてくる。

「誰かさんが言ってたんだ。切羽詰るほど仕事に夢中になるって」
「そ、それ……」

 いつか私がフェイトちゃんに話したそのままの言葉を、クロノ君は言っていた。

「君だって同じだろ? 昔からずっと」
「く、クロノ君ほどじゃないよ……」
「どうだかな。君は僕の事を熟知してるのと同じくらい僕だって君のことを知ってる」

 声しか聞こえないけど呆れてるのよくわかった。頭の中では今のクロノ君がどんな表情をしているかだって手に取るようにわかる。

「君の場合ここまで仕事量を増やすことは無理を通り越した無理をしてる証拠だろ」

 それぐらい理解してるから私はもうクロノ君には反論できない。

 割り切って、自分に嘘をついて、渇を入れて、奮い立たせて――

 自覚しないように勤めてきたけど、やっぱり不思議なくらい無理してた自分……。

「ずるいよ……反則だよ……こんな時に抱きしめるなんて」
「嫌なら離す」

 言いながら空いた手で体ごと引き寄せて何言ってんだか……。

「弟の癖に生意気だぞ……」
「ならこんな苦労かけさせないでくれ」

 そろそろ限界かも……というかクロノ君のおかげで、限界までのハードル下げられちゃった感じ。 

「……じゃあもう苦労させないようにお願い聞いてくれる?」
「出来る範囲内でな」

 クロノ君ってこんなに包容力のある男の子なんだな……思わぬ大発見。
 でもそれ以上、頭の中で私はあれこれ考えられそうにも無い。ダムだったらあちこちひび割れて水が漏れ出している深刻な状況。

「甘えていい……よね」

 うん、無理だった。
 言い終えるまで持たなかった。

「ふぇ……ふぇぇ……うっ……ひっく」

 段々とこみ上げる嗚咽と、一気に熱くなってしまった目頭。
 悟られないように私はクロノ君の胸に顔を押し付けた。
 
「ああ、それでいいんだ。たまにはガス欠しないと持たないぞ」
「それ……わた……私の…………せりふ……ぐすっ」

 泣きじゃくる私をクロノ君は優しく受け止めてくれる。
 頭を優しく撫でてくれるし、背中も摩ってくれる。いつの間にこんなマセガキになったんだろね。
 でも今はそれが心地いい。ずっと甘えていたい衝動に駆られてくる。

 流石にこれ以上弱みを握らせたくないから、フェイトちゃんみたいに大声で泣けないけど。

「ひくっ……ぐしゅ……」
「あんまり汚さないでくれよ」
「無理っ! ……ぐすっ」

 今は羽を存分に休めようと思った。

 数少ないこの安らげる場所で――……。

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