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2007.08/06(Mon)

インジュー・ジョーンズ 第五話 


【More・・・】


 発掘五日目 冒険はいつも待ったナシ!

 罠に次ぐ罠の応酬。身に降りかかる災いを彼らは体一つで掻い潜り続ける。

「二人ともつかまって!」

 両脇に二人を抱えユーノは光鎖を天井目掛けて打ち込んだ。

「いくよっ!!」

 崩れ落ちる足場を蹴って、

「いっけーーっ!」

 三人は宙を駆ける!

 逆さの放物線を軌跡に三人は宙を駆ける。
 三人分の体重に鎖はミシミシと悲鳴を上げ、すぐにでも引き散れてしまいそう。
 背後からはさっきの岩に代わって燃え盛る業火が自分達を飲み込まんと魔手を伸ばす。

「きゃぁぁぁ!!」
「ひぃぃ!!」

 右手になのは、左手にシャマル。こんな時でなければ文字通り両手に花ではあるが今のユーノにもちろん雑念はない。

「間に合えーっ!!」

 眼下に見える足場の寿命はあとわずか。着地できなければ眼下の剣山で汚い生け花の出来上がりだ。
 そうでなくたって後ろからは炎の津波。ここまで念入りな罠をこさえる所、この遺跡の主はよほどの暇人か。

「みんな飛び込んで!!」

 運動エネルギーが全て位置エネルギーに変わる。振り子の終点へ到着すると同時に彼らは最後の足場に足をかけた。

 ――後一秒遅れたら。

 この足場を崩していたのは足ではなく遺跡の意志だった。
 
 次の部屋こそ最深部。淡い期待と共に入り口を抜け、呼応するように入り口に蓋がされた。

「はっ……ぁ~~~~!」

 緊張感を解き放ってユーノは安堵の息を吐き出した。

「こんどは……大丈夫みたいだね」

 ざっ、と見渡してこの部屋に異常はない。ただ広いだけの部屋。

「心臓止まるかと思ったわ……」

 胸元を押さえながら呼吸と動機を沈めるシャマルに、

「はぁ……」

 現実を前に消沈しているなのは。
 ここまでに相当量のトラップから逃れてきたおかげでみんな参っているのは明々白々だった。

「少し休憩しようか」

 一行の隊長としての判断。今は落ち着く必要がある。
 
 もう一度だけ周囲を確認し何もないことを確かめるとユーノは懐から手製の火起こし機を出しいそいそと火を起こし始めた。

* * *

 焚き火を囲んでの作戦会議。床にへたり込みながら少しでも疲れを削ろうと三人は終止無言。

「――ヴィータちゃんは」
「はい?」

 五分間の沈黙を破ったのは年長者の彼女。

「ヴィータちゃんは無事なんでしょうか……」

 欠けてしまった仲間。
 結局ヴィータとははぐれてしまった。

 自分達を圧搾しようとしたあの罠は途中にあった分岐点のおかげで奇しくも逃れることができた。
 だがヴィータはその反対を行ってしまったのだろう。彼女が頑固なヨゴレになったかはわからないが多分だいじょうぶ――だと思いたい。

「多分ヴィータのことです、きっとそのうちひょっこり現れますよ」
「そう……ですよね」
「はい。それにはやてに会わないままヴィータはやられませんよ。その内、あたしを置いてくなーっ! ってひょっこり出てきますよ」
「ふふ、そうねヴィータちゃんだもの」

 わずかにシャマルは微笑んだ。こわばっていた口元からも力が抜けてゆく。

「だけど夜天の書以外にも晴天の書なんてものがあったなんてね」
「世界の記憶を収集する魔導書……」
「世界の文化や自然を集めて何をするつもりだったのかしら、製作者の人は」
「さぁ……聞いてみないと分かりませんけど、ただ――」

 俯き加減だった顔が少しだけ上がる。視線は眼前の灯火よりも遥か遠くを見つめているようだった。

「残したかっただけなのかも」
「残したかっただけ?」
「はい、なんていうか発掘は目的の宝とかを手に入れたら終わりみたいなものです。もちろん目的に至るまで沢山の苦労があります」
「それで?」
「僕らにとってはその過程もいい思い出です。でも形として残すことはできない、あくまで記憶だけ。それでも形として残しておけるなら残したい」

 一区切りつけてユーノは薪をくべる。燻りかけてた火がまた燃え盛り始めた。

「この魔導書を作った人もそんな風に旅した世界での思いで全てを残したくてこれを作った……そう思うんです」

 あくまで僕の推測ですけどね、と最後に足してユーノは照れ笑いをした。

「欲張りね、その人って。ヴィータちゃんみたい」
「かもしれませんね」

 静かな部屋に二人の声が染み渡っていく。柔らかな揺らめきに照らされた二人の顔はいい具合に力が抜けていた。

「なんだかユーノ君って不思議ね」
「不思議?」
「ええ、これだけ不安だった気持ちがもうなくなってるもの」

 胸に手を当てると平静を取り戻した鼓動を感じる。
 さっきから命の危機に何度と晒されていたのが夢だったみたいに思えてしまえるほどに。

「一応隊長としての義務ですから。隊員達の不安も取ってあげるのは」
「でもこんなにうまく出来るなんて流石よ。皆をやる気にさせて安心できる」
「僕は僕の出来ることをしてるだけですよ」
「そうね……だからそうなのかもね」

 自然と人に合わせるのがうまいのだ。この歳でここまでの地位をもてるのだから世渡り術もうまくなるのは当然だろうと思うが、それ以外にもこの少年には不思議な安らぎがある。
 別に年下趣味はないがそれでも彼には何か人ひきつけるような何かがあると感じられた。
 きっとそれがユーノ・スクライアたる由縁なのだ。

「ユーノ君が隊長だとみんな安心できるわ」
「そんな褒めても何もでませんよ」
「あら、じゃあもっと褒めれば出てくるのかしら?」

 色のついた顔でユーノを見つめる。年上に対してそれほど免疫のないユーノには何気ないこんな仕草でも効果十分。
 少し頬に朱が浮かぶ。

「か、からかわないでください! 出ないものは出ないんです!」

 そうして横を向いてしまうあたりやはり十歳の少年だったりするわけで。

 そういえば彼はまだ出ないのだろうか。

 最後の最後でそんなものを思考回路に浮かべるあたり彼女はいろんな意味で侮れなかった。

* * *

 両足を抱えて小ぢんまり座る格好は世に言う体育座り。二人の談笑にも混ざることなくなのはは一人、身をくねらす炎の姿をじっと見つめていた。

 ヴィータがいなくなったと思ったら今度はシャマルの相手をユーノはしている。
 結局、混ざるのではなく混ざれない。二人の雰囲気になぜかなのはは尻込みをしてしまっていた。
 気落ちしている自分はユーノの目にどう映っているのだろうか。心配してくれるのなら声をかけて欲しい。

 ――……何か話して欲しい。

「一応隊長としての義務ですから」

 良く考えてみれば今ユーノがシャマルにしている話はもしかしたら自分に向けられていたことだってあるはずだ。
 その義務があるならなんで不安で一杯な自分を救ってくれないのだろう。そんなに能天気に見えるのか。

 どんなに罠が襲い掛かってきても、どんな困難になろうともユーノは平等だった。きっと今もそうなのだ。

 じゃあ二人っきりなら――

(ダメ! わたしなんてこと考えてるの……) 

 邪な誘惑をなのはは首を振って振り払う。二人になれば平等なんて言葉は皆無。そうすればユーノは自分しか見られなくなる。だけどそんな考え願うなんて最低だ。

 ヴィータに続いてシャマルまでいなくなったらユーノが自責の念に駆られる。今だってきっと都合のいい言い訳で誤魔化してる。
 ユーノの悲しい顔は見たくない。

(考えちゃ……ダメ!!)

 何も考えるな。こんな醜い自分ユーノは絶対嫌いになる。

 もっともっと困難が降りかかればいい――。

 それよりもさっさとゴールに着けばいい――。

 なにより隣に、

「っ! なのは後ろっ!!」
「えっ?」

 声が虚ろに漂っていた意識を引きずり上げた。
 ハッと振り返るなのは。彼女の目に映し出されるなにか。

「……ひっ」

 短い悲鳴に息が詰まり瞳孔が広がった。
 ボロボロの衣服。生きているとは思えない青黒い肌。腐臭が鼻を突き刺し、明後日を向く眼光は虚空を見つめるばかり。

 醜いとしか言いようがないものが後ろにいた。

「ヴァーーーーーーー!!」

 悲鳴のようで雄たけびのような。耳を劈く叫びと共にそれは自分に覆いかぶさろうとする。

「なのはーーっ!!」

 ユーノが叫ぶ。自分の頭も動け、逃げろと叫ぶ。
 体は応えなかった。恐怖や驚愕がその一端を担っているのは確か。
 
「あっ……」 

 それよりもなのはには自分を襲おうとする化け物が今考えていた醜さそのものに見えて動けなかった。

「この――」

 右手から生み出される鎖をユーノは迷うことなく振り上げる。
 弧を描き天井すれすれを掠める鎖。ユーノの腕に合わせてたわみ唸りを上げ、

「なのはから離れろーーっ!!」

 温和な彼とは思えない荒げた声。輝きが化け物の体を打ち据えた。
 身を走る鎖。ギチギチと悪寒が走るような音を立てて肉を引き裂いていく。

「はぁっ!」

 骨に引っかかったか鎖が足を止める、が勢いは止まらず化け物の体に巻きつき締め上げる。
 引き剥がすようにユーノは腕を横へ振りぬいた。一瞬、化け物の体躯は宙に浮き、慣性に引きずられるまま成すすべなく壁のヨゴレと化した。

「なのはっ!」
「あ、ゆ……のくん」

 駆け寄る彼の顔は今まで見たことないくらいに取り乱していた。

「怪我はない!?」
「だ、大丈夫」
「そ、そうかぁ……はぁ」

 何も怪我がなくてなにより。体を包む安堵感にユーノは素直に従い肺の空気を全部出し切った。

「ありがと、ユーノくん」
「ううん、なのはの背中は僕が守るんだから当然だよ」

 さらりと言って笑顔のユーノ。心からの笑みはなのはの心を揺り動かす。
 思わずどきっとしてしまった。

「今の何? ……ゾンビ?」

 あれに当てはまりそうな唯一の言葉にユーノは首を縦に振る。

「きっと今までここに来た人たちが魔力で操られていただけだと思う」

 じゃなければあんな無様な末路に導きはしない。壁にこびりついているあれは間違いなく本来なら物言わぬ骸だ。
 ミイラ取りがミイラになる、何て言葉のようにこの遺跡に入って無残に散った先駆者の成れの果てなんだろう。

「――二人とも!」

 声を上げるシャマル。まだ危機は去っていない。

 水面でもないのに床が不気味に波立ち始める。一つの波紋は部屋を広がり、触発されるようにあちらこちらで新たな波紋が生まれていく。
 部屋中が雨に打たれるように波紋は生まれ続け部屋中が不気味に蠢く。
 全身を伝う悪寒のような魔力の波動。何かが来る、なんて思うより早く波紋の中心から何かが顔を出した。

「なっ……!?」

 頭、体、足と出てきたのは今さっき叩き潰したのと瓜二つの骸。一息で部屋を覆い尽くして一斉に吼えた。

「ユーノくん!」
「うん、流石に……大丈夫じゃないね」

 部屋を見渡してユーノは口から漏らす。
 二十を過ぎた所で数えるのは止めた。これだけの敵をどうやって相手に出来ようか。バインドだって限度がある。ここで無闇に動けばそれこそ死神が命を頂戴に来るだろう。
 ジリジリと追い詰められて気がつけば部屋の真ん中で三人背中合わせ。魔法さえ使えればこんな奴ら一瞬で殲滅できるというのに。

「どうするの……ユーノ君?」
「どうもにもこうにも――」

 背中越しの言葉に促されるようにユーノは部屋の中を見渡した。
 入り口は入ったときに閉ざされている。仮に開いていてもゾンビを蹴散らしていくことは敵わない。無論、石レンガを積み上げた壁にはこれと言って仕掛けのようなものもない。

「――あそこなら」

 ただ一点、残る場所は上。そして突破口はそこにあった。
 天井の一部分。崩れたのか黒い口を開けている場所がある。それほど大きくはないが自分達ならなんとかいけるはず。

「で、でも遠すぎるよ……」

 なのはは躊躇いの言葉を。シャマルは首を振って否定の意思。

「危険すぎるわ。もし落ちてゾンビの中にでも入ったら……」

 悪寒が走る。それこそ屍の仲間入りだ。
 退路を絶たれて三人は完全な窮地に立たされた。

「くそ……」

 迫るゾンビの群れに三人はこれでもかというくらいに背中を密着させた。もう玉砕覚悟でやるしかないのか。
 頭の中を蝕む焦燥を何度も振り払うユーノ。前にも後ろにも進めない足はその場からどうすることも出来ずただ重心を下へと向けるばかり。
 
 その行為が間違いだったのか、 


 ――ピシッ


 世界がコマ送りになった。

 体を包みこむ浮遊感。足元の感触が希薄になり目線がどんどん下がっていく。
 隣で同じようにバランスを崩すなのはを反射的にユーノは抱きとめて、口を開けた床穴に抗うことなく、

「あっ――うわぁ!!」

 落ちた。

 ゾンビよりも三人の体重が重かったのかこんないとも容易く床が抜けるなんて誰が予想できたか。
 はたまたこれがこの部屋に仕掛けられた罠だったのか。聞いて見なければわからない。
 
 命があること前提だが。

「ユーノ君! なのはちゃん!」

 突然姿を消した仲間の異変に気づくも遅し。床一枚が三人の命運を分けていた。
 抜けた床の淵に踵を投げ出す格好だったがシャマルは何とか踏ん張り事なきを得た。
 だがこの場合これを事なきを得たというのか。

「ひっ!」

 一人ゾンビの群れの只中というのは十中八九棺おけに片足を突っ込んでるというものだろう。
 いっそ後を追うか。少し穴の様子を見てシャマルは無表情で半回転。生憎博打を打つ度胸はシャマルにはない。底は見えない行く先も分からないで誰がそんな物騒な真似できるか。
 
 だが逃げなければこの薄汚い骸と一緒に一生を終えることになる。

「それも嫌ぁ~!」

 下手をすればこのゾンビご一行のお友達になりかねない。せめて死人になったら安らぎは欲しい。それをこいつらのような人間忘れて動き続ける生ゴミになるなんて考えた日には死にたくなる。
 プライドか、命か。

 ぶつかり合う主張をシャマルが選んだ結果は、

「ヴァ~~~~~!!」
「どっちもいやぁ~~~」

 否、選べなかった。

 結局、彼女の優柔不断に痺れを切らしたゾンビが襲い掛かる方が何よりも早くて、

「きゃぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 湖の騎士はゾンビの泉に沈んでいったのだった。

「ヴァ~~~~~~~~~~!!」

 シャマルの明日はどっちだ。
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