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2007.07/30(Mon)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十一話 Cpart 


【More・・・】


 今日の昼休みは魔法少女はお休み。
 ここ数日、ジュエルシードの反応がすごく少なくて今日に限っては全然無くて。
 この分だと放課後ものんびりできそう。
 
 そういうわけでわたしたちは屋上のベンチに並んで優雅なランチタイムを送っています。

「久しぶりよね~こんなのどかなお昼って」

 梅雨の隙間に顔を出したお日様はぽかぽかとわたしたちを照らしてくれる。
 やっぱり曇ってるより雲一つ無い空のほうがノビノビ出来るのはみんな一緒かな?
 隣で思いっきり背伸びをしているアリサちゃんを見ながらわたしはしみじみと感じています。

「お姉ちゃんたちも大丈夫だし、ジュエルシードも反応ないし」
「うんうん」
「Love and pease……って所かしら」
「そこまでじゃないと思うけど」

 ちょっと大げさ……かな?

「ふぅん……アタシだってまだ事件が終わったって思ってないわよ。L・ジュエルはまだたくさんあるんでしょ?」
「確か六つだったと思うけど」
 
 今までのことを思い出しながら指折りしてみる。
 最初の木のお化け、わたしがやられそうになったモグラ、そして忍さん――。
 他にも手ごわいのはいたけど、L・ジュエルが取り付いていたのはこれだけのはず。

「L・ジュエルを封印しなきゃ解決しないもんね」
「そうよ。すずかの言う通りあれをどうにかすることが先決!」

 アリサちゃんがお弁当を持ったまま立ち上がってわたしたちを真剣に見つめてくる。

「今のアタシ達じゃ先手を打つのもままならないなんて悔しい限りよ、まったく」

 頬を膨らませながらご飯を一口放り込みアリサちゃんは眉を寄せた。
 アリサちゃんの悔しさはわたしにとっても同じくらい心の中に浮かんでる。
 すずかちゃんの探知魔法でもL・ジュエルだけは今までまったく引っかからない。毎日一度は町全体を調べてるけど出てくる反応はみんなジュエルシードばかり。

「もしかして隣町まで飛んでっちゃってる……なんてないよね?」
「わたしが見た限りじゃ海鳴の中だけだと思う」

 アリシアちゃんと戦った時に町に散らばったL・ジュエルの光はみんな海鳴の町の中に消えていったはず。
 まさか足でも生えて勝手にどこか行くようなものじゃないと思うし……。

「ああもう! だったらなんで出てこないのよーっ!」
「もしかしてもう壊れてたりしてるんじゃ……」

 地団駄を踏むアリサちゃんを尻目にすずかちゃんは考えられそうな可能性を推理していて。
 わたしはわたしで、何か思い違いが無いかなってもう一度始めから今までのことを思い返して――。

「これじゃいつまでたってもいたちごっこじゃないのよぉ!!」
 
 ほんとにいたちごっこ……。
 どうしようもないくらいにいたちごっこ。
 
「もう……不機嫌になっても始まらないわ。取りあえずお弁当食べるわよ」
 
 ムスっとしながらまたベンチに腰を下ろしてアリサちゃんご飯をかきこみ、水筒から紅茶を注いで一気飲み。
 なんだかとてもお嬢様には見えない食べっぷり。
 
『Buddy,you are graceless』(相棒、下品だぞ)
「うっさい!」

 髪留めのバーサーカーもご主人様へストレートな一言。 
 でもアリサちゃん聞く耳持ってないけど……。

『There is no help for it』(どうしようもないですね)
「ほんと、どうしようもないね……」

 今度ばかりはレイジングハートもお手上げみたい。

『Sorry for being not able to produce the goods』(ご期待に沿えず申し訳ございません)
「違うよ、シルフのせいじゃない。私の力不足だから気にしないで」
『But……』
「しないでいいの!」
『……Yes,mistress』
 
 すずかちゃんもシルフも、自分を責めてどんどん気持ちが落ち込んでいく……。
 空は晴れてるのに心の中はどんよりして天気になっていく。変わりやすい六月の空のように雨が降り始めそう。

「やっぱり駄目だな……三人だから全部大丈夫じゃないんだよ」

 戦うときなら三人いれば大丈夫かもしれない。
 でもそれとこれとは別。やっぱり壁にぶつかると立ち往生してしまう。
 
 こんな時にはやっぱりあの子の力が必要……かな?

「ねぇ、二人はユーノくんのことどう思ってる?」

 話の腰をへし折るようにいきなり切り出すわたし。

「え?」  
「いきなりなによ、なのは」

 怪訝な顔で二人は私の顔を覗きこんでくる。いきなりもいきなりだから無理ないよね。

「いいから、聞いてみたいの」
「そうねぇ……なんだかナヨナヨしてて見るからに尻に敷かれるタイプよね」
「凛々しいっていうより優しいって感じだよね」

 やっぱり見方は人それぞれなのかな? 
 でも感じてることはわたしも含めて結構似た感じみたい。

「でも気配りは上手だよね。戦う時も必要な時以外はフェレットに変身してくれるから負担が減るし」
「確かにね。頭数が減れば相手の狙いもバラけ無いし、すずかの場合は補助魔法のこともあるし」
「それにアリサちゃんとなのはちゃんが喧嘩した時だって仲直りのきっかけくれたのはユーノ君なんだよ」
「え、冗談でしょ? そもそもすずかが割って入ってきたおかげで仲直りできたんだし」
「そのきっかけくれたのがユーノ君なんだよ」

 わたしもてっきりすずかちゃんが一人で考えたことだと思ってたけど、実はユーノくんのおかげだなんてびっくりだ。
 当然アリサちゃんも初耳でユーノくんのおかげってことに驚いたのか箸がご飯を担いだまま止まっている。

「……アタシの想像以上に頭がよく回ってるのね、あのエロイタチ」
「あはは……アリサちゃんまだ根に持ってるんだ」
「当たり前でしょ! 乙女の柔肌を余すとこなく見られたのよ、なのははそれでいいわけ?」
「えーっと……でもアレはユーノくん的にはしょうがなかったわけだし。それにお仕置きならアリサちゃんがたっぷりと」
「思い返すたびにやりたくなるのよ」

 ユーノくん……もう変身しないほうがいいみたいだよ。

「でもさ、これだけ頑張ってるのがわかると流石にマネージャー呼ばわりは可哀想かもね」
「うん、私たちの魔法の先生だしね」
「お世話になりっぱなしだね」

 改めてユーノくんの偉大さに頷きあうわたしたち。
 こんなにみんなの役に立っているのに、これでもまだ自分を役立たずなんて思えるかな?

「今日の放課後にでもあったらありがとうの一つぐらい言ってあげようかしら」
「優しいねアリサちゃん」
「べ、別に何かしてもらったらお礼を言うのは当然の嗜みでしょ! それに感謝したってお風呂の件とは話が別なんだから!」

 ちょっと顔を赤くしてアリサちゃんは今度は卵焼きを口へと運んでいく。
 それが照れ隠しなのは誰が見たってバレバレで素直に可愛いなと思ってしまった。

「けどユーノのこと聞いてどうするつもりなのよ」
「それはね――」

 質問の答えはすぐ側にある。
 わたしはそっと手を伸ばし、いつもは絶対持ってこないカバンを引き寄せ――

「まさかアンタ!?」

 と、何か閃いたみたいに突然アリサちゃんが素っ頓狂な声を上げた。

「えっ、なに!? ど、どうしたのアリサちゃん!」

 びっくりした拍子にカバンはわたしの手から滑り落ちて地面に落っこちた。
 落ちた瞬間、中の教科書とか筆箱がぶつかり合う音に混じって何か聞こえた気がしたけど多分大丈夫なはず。
 でもカバンを気にしている暇はアリサちゃんのおかげでぜんぜん無いわけで。

「いくらなんでも気が早いわ! もう少し世の中を知ってからでも遅くないわ!」

 突然立ち上がってわたしの正面に立った思えば、そのまま両肩を掴んで顔を近づけてきた。
 ぐいっとせまるアリサちゃんに思わず肩を竦める。

「え、えとアリサちゃんそれはどういう……」
「世界は広いのよ! もっといい人が沢山いるはず!」
「あ、あの話が見えないんですけど……」
「つまり一時の気の迷いで身近な子に決めるのはどうかと思うってことよ!」

 すごい早口でまくし立てながらお喋りするアリサちゃんを前に状況が飲み込めないわたし。
 「気が早い」とか「決める」とか、なんだかわたしの考えてることとすごく違う気がしてならないのは多分気のせいじゃない。

「あの、アリサちゃん」
「別に責めてるわけじゃないのよ。だけどねなのは、同級生ならともかく違う世界の相手よ」
「え? あ、そうだね。ユーノくんってわたしたちと違う世界に住んでるんだよね」
「そーよ。下手したら世界で最初の大ロマンスになりかねないんだから」

 そうロマンスなんて言葉は絶対に違う。
 誰かの恋の話なんてわたし絶対してないよ。 
 
「その……なんだかすごい勘違いしてるんじゃないかなアリサちゃん」
「勘違いは恋につきものよ! だからこそもっと見極めないといけないわけ! Do you understand?」
「い、いえすあいどぅー」

 何がなんだか分からない内にどんどん深みに引きずりこまれて収拾がつかない事態になっているような気が……。
 ただはっきりわかることは、本来の話を切り出すタイミングをすっかり失ってしまっていることと、もうわたし一人ではどうにも出来ないことだ。

(す、すずかちゃんお願い助けてよぉ)

 助け舟はもうすずかちゃんだけ。
 わたしたちのやり取りを横から微笑ましく見守るすずかちゃんに必死に念話を飛ばした。

(そうだね、このままアリサちゃん勘違いしたままだと後が大変になるもんね)
(わたしには何を勘違いしてるのかも分からないよぉ)
(あはは……そうなんだ。じゃあユーノ君出してあげたほうがいいかな?)
(し、知ってたの!?)
 
 わたしが驚いてるうちに黙って立ち上がる。
 念話じゃ答えは聞けなかったけど、ちらっとわたしの方を見て悪戯っぽく笑う所からわたしの考えはすずかちゃんにはどうやらお見通しのようで。
 落っこちてひっくり返ったカバンを拾い上げてすずかちゃんは蓋を開ける。
 中を覗き込みながら片手を突っ込めば、すぐにクリーム色の長い胴体が出てきた。

「ユーノ君大丈夫?」
「なんとか……ね。窮屈だったし、なんかいきなり教科書に押しつぶされたりしたけど」

 朝見たときより大分くてんとして毛並みもボサボサだ。
 やっぱりカバンの中に入れたのはまずかったのかもしれない。……なんて今更ながらに思った。

「いくらなんでもこんな中に押し込められるのは辛いよなのは」
「ご、ごめんねユーノくん。いい隠し場所思いつかなかったから」

 肩に乗せて学校に行くわけにもいかず。そもそも学校にペットを持込んじゃいけない決まり。
 そういうわけでユーノくんを学校カバンの中に押し込んでここまで連れてきたのだ。
 もちろんこんな苦労をしてきてまでユーノくんを連れてきたのには理由がある。
 
「な、なんでユーノが……?」 

 さっきはわたしが訳も分からず目を白黒させてたけど、今度はアリサちゃんがいきなりのユーノくんご登場に目を白黒させている。

「ど、どういうことよなのは! なんでこいつがここにいるのよ!」
「えぇっとアリサちゃん。わたしがユーノくんのことを聞いたのはね、ユーノくんを元気付けようと思ったからなの」
「げ、元気付ける……?」
「なんかユーノくんこの前の戦いとかで自信無くしちゃったみたいで」

 一時はなにかとんでもない話題のままお話が終わっちゃうかと思ったけどなんとか本当の理由を話せて一安心。 

「だからユーノ君に聞かせてあげたんだね」
「うん、そうなの。でもすずかちゃんなんでユーノくんのこと知ってたの?」
「カバンの中からユーノ君の魔力が感じ取れたからね」

 そっか……すずかちゃんって魔力を感知するのがすごく得意だったこと忘れてた。
 
「その僕はいいって言ったんだけど、なのはがどうしてもって言うから」
「だって役に立たないなんて絶対無いのに、ユーノくん駄目だ駄目だって言ってから」
「じゃあもう自分が役立たずじゃないことわかったね」
「そうだね、なんか余計な心配かけさせちゃってごめん」

 ユーノくんがぺこっと頭を下げた。
 フェレット姿だからその仕草はすごく可愛らしい。もし誰かに見つかったらいろいろと大変そうだ。
 
「……めんじゃないわよ」
「え?」

 震える声はアリサちゃんのもの。いつの間にかわたしの肩に置かれていた手も小刻みに震えている。
 あれっ、て思ってわたしがアリサちゃんの顔を覗き込もうとすると、

「ごめんじゃなーーーーーい!!」
「にゃあ!?」
 
 アリサちゃんが吼えた。

「じゃあなに!? あんたはただこいつを元気付けるためにそんなこと聞いてたわけ?」
「そ、そうだけど。盗み聞きみたいで悪いかなっと思ったけど、みんなの素直な気持ちが聞きたかったから」
「アタシはてっきりユーノと付き合うからそんなこと聞いてたのかと思ってたのよ!」
「ふぇ? つ、付き合う? ユーノくんと誰が?」

 いきなりの爆弾発言。
 ユーノくんって誰かと付き合うの!?

 混乱するわたしにアリサちゃんは何を思ったのか、すぅーっと息を吸って、

「あんたよ、なのはーーっ!!」 
 
 また吼えた。

「ふにゃあ!?」

 あんまり近くで大きな声を出されたからキーンと耳鳴り。
 わたしを見つめる、というか睨みながらアリサちゃんは大きく口を開ける。

「それぐらい察しなさい! というか今ので分からないってどんだけ朴念仁なのよーっ!」

 アリサちゃんの両手が跳ねる。
 わたしの肩を離れ高々と掲げられて今度はどこへ行くのかと思っている矢先、

「もう乙女の盗聴罪でおさげ引っ張りの計ーーっ!!」
「ひゃ! にゃっ! い、痛い! 痛いってアリサちゃ~ん!!」

 おさげがぐいぐい引っ張られた!
 右へ左へ、わたしの頭も一緒に右へ左へ。
 片方だけでも大変なのに、両方いっぺんに引っ張られてわたしはもうどうすることも出来なくて。

「この~! この~!!」
「にゃうー! にゃぁ!! ひゃあ!!」

 バイクのハンドルを捻るようにおさげを引っ張るアリサちゃん。
 猫みたいな悲鳴を上げながらわたしは両手をジタバタさせてせめてもの抵抗。
 でも抵抗空しくされるがまま。

「アリサちゃんもうそのくらいで許してあげようよ~」
「そうね、諸悪の根源はなのはをたぶらかした――」

 おさげがようやく開放される。
 半分涙目なわたしが最初にしたことはおさげが無事かどうか確かめることで。
 慌てて両手でおさげを触って、取れてないかを確かめて、

(よかった……ついてる)

 なんて安心してため息をついた。

「きゅーーーーー!!」

 そして耳に入ってくる聞き覚えのある鳴き声。
 おさげを撫でながらわたしが顔を上げると、そこには案の定な光景が広がっていた。

「このスケベエロのド変態イタチ!! なのはをたぶらかすなんて百万光年早いのよ!」
「きゅう! きゅーーっ!! きゅきゅぅ!!」

 悲鳴を上げながらユーノくんはものすごい勢いで上下左右に揺さぶられている。

「大体自分が役立たずなんてどうやれば考えられるわけ! 脳みそのサイズまでフェレットサイズじゃないの!?」
「きゅーーーーーーーー!!」 

 アリサちゃんの怒りがそのまま表れているみたいにぶれるユーノくんは、もうほんとにぬいぐるみ扱いだ。
 今やアリサちゃんはジェットコースターなんて目じゃないくらいの絶叫マシン。ユーノくん限定の特別仕様。

「もう少し自信を持ちなさい! ナヨナヨしないでピシッとする!」
「きゅっ! きゅう!!」
「わかった!?」
 
 でもアリサちゃんが言ってることは決してユーノくんを責めてる言葉ばかりじゃなかった。
 どっちかといえばユーノくんが心の中に抱えている弱気を追い出すみたいに、アリサちゃんはユーノくんを叱っているようにわたしには見えた。

「ネガティヴよりもポジティヴシンキング! 七転び八起き、倒れたら起き上がりなさい! 男でしょ!」
「きゅ、きゅー」

 揺さぶるの止めて、さっきのわたしみたいに顔を近づけて言い聞かせている。
 なんだか自分の飼い犬を躾けているみたいだ。

「で、これで元気でた?」
「きゅ……う、うん、もう大丈夫」
「よろしい」

 小刻みに頷くのをアリサちゃんは確認してようやくユーノくんを解放した。

「はい、一応ここが定位置よね」 

 解放場所はわたしの肩の上。
 優しい手つきでユーノくんはそっと肩に乗せられた。やっぱり今のが効いているのか、横目に見るユーノくんはちょっとやつれてふらついてる。

「もうこんなことないようにビシッと気合入れたから大丈夫だと思うわ」
「あ、ありがとうアリサちゃん」
「まぁ、先走ったのはアタシだからこれ以上は何も言わないわ。……ややこしくしちゃってごめんね」
 
 少しだけ申し訳なさそうな顔して苦笑いのアリサちゃんだった。
 そんなアリサちゃんに私は笑顔で返す。

「ううん、これくらいしたほうがユーノくんにはちょうどよかったかも。わたしだったらここまで元気な励ましできないもん」
「そ、そう? じゃあ存分に感謝しなさいよ」
「そうするよ」

 そうして頷くとチャイムが鳴った。どうやらちょうどよく昼休みが終わったみたいだ。

「なんだか今日も騒がしかったお昼だったね」
「誰かさんのおかげでしょ、誰かさんの」
「にゃはは……」

 ジュエルシードを封印するよりは騒がしくは無いと思うんだけど。
 ここはアリサちゃんには結果オーライなんて言って欲しかったり。

「でもなんだかんだでアリサちゃんもユーノ君のこと心配だったんだね」
「そ、そんなわけないでしょ! リーダーとしてマネージャー兼作戦参謀がヘタレてちゃまずいからと思っただけよ」
「やっぱりアリサちゃん優しいね」
「あーもう! うるさいうるさい!」

 すずかちゃんとわたしの言葉にぷいっと横を向いてアリサちゃんは歩幅を広げた。
 あっという間に差が開いて、わたしたちのちょっと先をアリサちゃんは歩いていく。

「とりあえずそういうことだからユーノ、これからも頑張りなさいよ」
「あっ、うん頑張るよアリサ」
「それと言い忘れてたから今言っておくけどちゃんと聞いておきなさい、一回しか言わないから」

 ピタッと立ち止まるアリサちゃん。わたしたちもつられて足を止める。

「その…………ありがと」

 ぼそりと、呟くよりも小さな声でアリサちゃんはその四文字を言った。

「アリサ……」
「だからって調子に乗らないこと。お風呂の件は一生チャラにしてやんないんだからね!」

 ちょっぴり拗ねるように口を尖らせてアリサちゃんはまた前を向く。
 少しだけ振り向いた顔は予想通り真っ赤になっていて、アリサちゃんがすごく恥ずかしがっていたのが一目でわかった。

「じゃ、さっさと急ぐわよ! 授業に遅れたらいけないんだからねっ」

 アリサちゃんの照れ隠しはそれでも十分じゃないみたいだ。
 急に走り出してあっという間に背中が小さくなって――。

「もう相変わらず意地っ張りなんだから」
「ほんとだね」

 すずかちゃんと顔を見合わせ、笑いあってわたしたちも走り出す。
 肩にユーノくんを乗せたままなことを忘れていたのはご愛嬌。
 おかげで教室大騒ぎで、午後の授業は先生に怒られることになったのはさらにご愛嬌ということで。

 本当に呑気でいい天気な一日。
 何も起こらなくて、何起きそうも無くて、羽を伸ばせる掛け替えの無い日々。

 でもこれは、これから起こるさらなる大事件の嵐の前の静けさの日――。

* * *

 肌を打ち付ける雨粒を気にする余裕はどこにも無い。
 尤も、今の私は目の前の敵を排除する以外の感情を持ち合わせていないんじゃないだろうか。
 ふと、とても怖いことを考えた。

「サンダースマッシャーー!!」 
 
 雷光は射線上の雨粒を残さず蒸発させながら標的へと真っ直ぐ放たれていく。
 大気を震わせて、まるであの子の魔法の荒々しさが乗り移ったような奔流だ。自分の撃ったものなのに見ているだけで新たな怒りがこみ上げてくる。

「でぇあああ!!」

 屋外で、しかも雨が降り続くこの世界は私の魔法を高める最高の場所だ。
 天より雷撃を招き、その力全てを攻撃へと転化する。
 相手だって同じことは出来るだろうけどそこまで考える冷静さはない。

「サンダーレイジーーっ!!」

 威力さえあればいい。
 圧倒的な力であの子を倒すことが出来ればいい。

「ボルトスマッシャーーーっ!!」

 衝突する閃光と閃光。
 爆発する魔力は衝撃波となって、周囲のビルの窓ガラスを粉々に吹き飛ばしていく。
 暴風が吹き荒れる中で私は鎌を引っさげ一気に飛び込む。
 
「アリシアーっ!!」

 距離を詰め、振り下ろす!
 咄嗟に後退して一撃をかわすアリシア。私はすぐに反撃に備えて体勢を立て直す。

「フェイト! お願い話を聞いてよ!」

 けどやはり彼女は反撃をしない。いつもならあっちから向かってくるのに何で?

『Photon lancer』
「撃ち抜けぇ!」

 何もしないならそのままやられればいい。
 至近距離からのフォトンランサーによる包囲攻撃。下手をすればアリシアの高速移動で避けられて逆に懐に飛び込まれる。
 だけど当たれば確実に戦闘不能に追い込める。リスクを払う価値はある。

「っ! プロト!」
『Defencer』

 避けることよりも受けることを選んだ。
 なら、私の勝ちだ!

「いけぇぇ!」

 降り注ぐは光の雨。巻き起こるは破壊の嵐。
 金色に包まれたアリシアへと有無を言わさずランサーを激突させる。

「きゃああ!」

 悲鳴を上げ、障壁には亀裂。
 すぐに決壊だ。ディフェンサーは間に合わせの防御しかないんだから。

 これで終わる。やり場の無い怒りを失くすことができる。

「フォトンランサー!!」

 後一歩、そう思った瞬間、横合いから無数の光が私のランサーを撃墜していた。
 山吹色の雷槍は紛れも無い彼女の光。

「リニスっ!」 
「下がってくださいアリシア! この世界での戦闘は極力避けてください!」
「わかってるよ! だけどフェイトが!」

 私とアリシアの間に割って入るリニス。両手を広げてアリシアを庇って私の邪魔をする。

「フェイト!!」
「アルフ!?」

 今度はアルフだ。
 てっきりリニスの相手をすると思ったらアルフも私の前で両手を広げた。
 後ろにはリニスとアリシア。まるで二人を庇うような形だ。

「どいて! そこにいたらアルフも巻き込むよ!」
「落ち着いておくれよフェイト! 二人は悪くないんだ! ただプレシアに騙されていただけだろ!」
「でもっ!!」

 八つ当たりなのは知ってるよアルフ。
 でも自分が無力だって思い知らされて、本当にどうしようも出来ない絶望を味わされて、我慢なんてできっこない!

「アリシアはあなたを助けようとしたんです! 確かにおこがましいかもしれません。ですが私たちも真実を知らなかったんです!」

 それだって私はわかってる。
 あのジュエルシードからアリシアの思いが痛いほど伝わってるから。どうしようもないくらいにわかってる。
 だからって許すなんて……無理だよリニス。
 
 あんな酷すぎる事実は消せやしないんだから。

「フェイト……駄目だよ、そんな怖い顔しちゃ。フェイトは優しい笑顔が似合うんだから」

 その言葉に私はアリシアを睨みつけていた。
 アリシアはビクッと振るえてリニスの後ろに隠れる。
 今まで憎んでいたくせに急に手のひらを返したような態度。手が震え、バルディッシュに怒りが伝わっていくのを抑えられない。

「そんな顔出来るわけ無い! 悲しい思い出ばかり持って生きて欲しかったんじゃないの?」
「私は……今そんな……」
「だからって私以外の人たちを巻き込むなんてっ!! なんで私一人じゃないの!?」
「私だってあんなことになるなんて知らなかったんだよ!」

 もう限界だ。
 自分で自分を抑えられない。

「バルディッシュ!! ファランクスシフト!!」

 スフィアが唸りを上げて私を取り囲む。
 もうアルフやリニスのことを気にかけてる余裕も無い。

「何もかも……吹き飛べばいいんだ」

 消してしまえば楽になれる。

「何もかも……」

 消えて――

「吹き飛べ……」
 
 ――しまえ。

「シルフ! ウィールバインド!!」
「えっ?」

 だけど唐突に、引き金を引こうとした私の意志は足元から立ち上った風の渦にそれ以上をさせてくれなかった。

「吹き飛ばしなさい! スプラッシュウェーブ!」

 同時に私を追い抜いてく茜色の波。
 発射体勢に入っていたランサーのスフィアをあっという間に破壊していく。
 私の頭は突然襲ってきた異変を一瞬で理解することが出来なかった。

「誰の助けか知りませんが今のうちに退きますよ、アリシア!」

 抜け目無く私の隙に転移を始めるリニス。
 こっちも阻止しようと術式を展開しようとする。
 なのに――

(なんで……動けない?)

 指先一つ動かせなかった。
 全身拘束型のバインドなのか、今までに出会ったことの無い魔法。
 一体誰が? なんで!?

「誘いの扉よ! 導け! 我らが主の下へ!」

 そうこうしている内に転移魔法は完成。二人は私の目の前から消え去った。
 同時に私を取り巻いていたバインドも解除される。

「追わな……きゃ」

 体が自由を取り戻すと同時に私はうわ言のように呟いて空へ向けて飛ぶ。
 
「駄目! フェイトちゃん!!」

 途端、誰かに後ろから抱きしめられた。

「なの……は?」
「今は駄目なんだよフェイトちゃん! まずアースラに戻ろうよ」

 そうか……この世界はなのはたちの世界だ。だからなのはがいても不思議じゃない。
 でも今本当にやるべきことは、

「離して……離してよなのは!」

 身をよじって引き剥がそうとするけど、なのははしがみついたまま頑として離れない。 

「あんなことしないで……フェイトちゃんじゃないよ。せっかくの再会なんだからいつものフェイトちゃんでいてよ」

 景色が下降していく。どうやらなのはが無理矢理に私を下ろそうとしているらしい。
 抵抗しようと思えば出来ただろう。だけどなのはの言葉に私は少しだけ冷静になってなのはに従っていた。

 やがて私はビルの屋上に降りたつ。
 周りを見ればなのはの他にもユーノやアルフにクロノ、それに、

「アリサ……? すずか……?」
 
 今までビデオでしか会ったことの無い友達がそこに立っていた。

「すずか、ジュエルシードの発動は」 
「大丈夫、さっきの戦いで発動したのはなかったみたい」
「なら、安心ね。さっきの撃って発動してたらたまったもんじゃないし」

 ユーノと話をしながら二人はほっとしたような表情を浮かべている。
 何で二人がここにいるのだろう? 二人は魔導師じゃないのに……。

「それでなにが起きたんだクロノ」
「ああ……何が起きたってレベルじゃないのは確かだ」

 俯いたまま雨に濡れるクロノ。いつもよりも抑揚の無い声で続ける。

「僕も正直今の状況が飲み込めないんだ。フェイトと一緒に次元を漂流して……気がついたらこの世界にいて」
「どういうことなのクロノくん」
「言葉通りだ。そして僕にわかる唯一つの事実……」

 顔を上げるクロノ。雨が顔を伝いまるで泣いているように見えた。

「心して聞いて欲しい」

 クロノの拳が震えていた。
 私はただ呆然と見つめる。すでに事実を知っているから。この目で見たから。
 でも聞きたくない。聞いてしまえば本当に事実だって思い知らされるから。

 だけどクロノは口を開く。否定したい、夢だと思いたい事実をこの場にいる全員に告げる。


「ミッドチルダが……消えた」


 雨はただ無慈悲に私たちに降り続けていた。 

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