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2007.07/14(Sat)

あの雲のように 第一章 第七幕 


【More・・・】


 この日、東の国より放たれた兵器――アルトザーヴェラーはその性能を示す最終テストとして、見せしめとして町を焼き払うはずであった。
 人であった彼らの扱いはすでに機械と等しい。結果さえ出してくれれば次を作るための礎となる。
 仮に結実しなくて元々が戦の足しにならない貧弱魔導師なのだから懐は痛まない。
 人と守護獣を一つとする悪魔の諸行。作り手にとっては、はたして傷心に値する行為なのだろうか。

 ――少なくとも。

「…………ふぅ」
 
 燻る瓦礫の上ですべてを終えた彼女にとっては心中に残ったものは同情だった。
 彼らもまた力さえあればこのような物の怪にならずにすんだかもしれない。こんな帰る場所を奪われた捨て駒に成り下がるなどあまりに虚しすぎる。
 白み始めた空を仰ぎ息を吐けば真っ白な息吹となって大気に溶けていく。

「私には関係ない……というわけでもないか。…………どう思う?」

 シグナムは背後に立っていた者へと自分ではどうしようもない疑問を投げかけた。

「はぁ……そう言われましても」

 ぽかーんとナハトは首をかしげた。
 無理もない、頭の中で考えていたことだ。これで普通に答えられたらナハトはとんでもない聖人か神様か。

「何が何と関係あるのか言ってもらいませんと私にはさっぱり」

 こんなのがそんな大層有難い存在ならこの場で切腹したほうがましだ。

「縁のない人間がこうやって無慈悲に虐げられることについてだ」

 火の気はないが焦げた臭いはずっと鼻の中を占領している。
 町は消し炭で何もかもが作られていた。黒と灰の入り混じったあまりに殺風景な風景だ。
 屋根は崩れ落ち、連なっていた家々はほとんどが原型を失くし、あちこちに黒い人形――。
 煙はあちこちで立ち上がっており惨劇が去ってもなお揺らめいていた。

「関係ないとか関係あるとか……私が決められるものじゃないです」
「ああ、そうだな。決めたから私はここに立っている」

 右手には足元の瓦礫のように、燻っているみたいに煙を吹いてる剣があった。
 すでに刀身はいくつものヒビに飾られ、どちらが刃か峰かわからなくなるくらいに刃こぼれしていた。鋸といっても遜色はない――本当の鋸には無礼だが――だろう。

「ボロボロですね」
「お前にはそう見えても、これは勲章だ」
「修理しなきゃかわいそうですよ」
「こんなものかすり傷だ。お前にはそう見えるのかもしれないがな」

 憎まれ口を叩いて笑みをこぼす。
 誰が笑おうとこれは自らの道を進むと決めた記念すべき証。それだけは絶対だ。

「私の勲章は生きている……ことですね」

 答えは彼女の中で二つの意味を持っている。
 一つに進むべき自分の本当の道を見つけられた証として。
 一つに消えかけた命を救い、明日に生きることを約束させたこと。
 幾多の命があの炎の中に消えた。
 けど残った命だってある。

「あの子……強く生きていけますか?」 
「男は強い……おまえが案ずることではないと思うが。それに人の行く末を決められる器じゃないだろ」
「ですね」

 そう言われてしまえばこの道を行く決意も鈍る気がしてしまう。
 やっぱり半端者だなとナハトは一人苦笑した。

「私……やはり西へ行きます」

 もうナハトにとってそれは逃げることではない。
 忌まわしい記憶、東国で犯した過ちからの逃避ではない。むしろそれを止めるための旅だ。
 放浪の旅はこの朝日が上ったらお終い。そうして新しい旅を始めるのだ。
 
「やっぱり何かしなくちゃ、少しでも私に守れることができるなら、変えることができるならやってみたいんです」

 ナハトの言葉をシグナムは静かに佇んだまま耳を傾けていた。
 自分に言い聞かせるように、もう戻らない覚悟のように、ナハトは柔らかな笑顔の中にどこか強張りを見せていた。
 そうして「……そうか」とシグナムが返事をしたのはそう長くない時間が経った後。

「また賊に襲われたときはどうするつもりだ? 口だけではどうにもならんぞ」
「それは……どうにかします」
「おまえに出来るのか?」

 シグナムの遠回りの否定。
 咄嗟に反論しようと口を開きかけたナハトだったが今の自分の言葉で彼女を納得させることなど到底無理だということにすぐ気づく。
 戦う力がなければ降りかかる火の粉さえ払えない。下手に首を突っ込めば自分の首が飛ぶ世界だ。

「どちらといえば弱者に災難を呼び寄せる……そうではないのか?」

 そう言われてしまえば何も言い返せないのが自分である。
 彼女との出会いのきっかけである火竜にしかり、この町を襲った災厄にしかり。自分自身に降り注ぐこともあれば、降り注ぐ場所へ勇んでいくことも、そこでさらに災難に見舞われることさえ。
 押し黙り気まずそうに視線を泳がせるナハトにシグナムはやれやれといった風に口を開く。 

「私は見つけたぞ。自分の成すべき道を」

 見せびらかすというわけではないがどこか楽しげに、誇らしげにシグナムはにやりと口を緩ませた。

「世直し……だ」

 言うなれば弱きものの剣である。
 しかしそのまま言うにはいささか不恰好な気がして、ちょうどいい言葉に置き換えた結果だが。

「誰を守る……私に容易くできるのはこれぐらいだからな」

 さぁ、どうだ参ったか。
 返す言葉も無いだろう。おまえみたいな半端ではない決意が私にはあるのだ。

「ふふ、なんだかあなたらしい」
「だろう。だが困ったこともあってな」
「はい?」

 曲がりなりにもこの決意を芽吹かせてくれたのも後ろにいる半端者。悔しいが確固たる事実なのだ。

「流石に一人で旅をするのにも面倒が多い」

 炊事洗濯はもちろん路銀の工面よろしく、その他もろもろ――。
 彼女と出会ってから自分の生活レベルが実はものすごく低水準だったことを痛感している身である。

「だが何より問題なのはどこに行けば多くの悪漢共を叩き切ることが出来るかだ」

 流石に極悪非道の限りを尽くす輩がどこにいるかシグナムには皆目検討つかない。
 風の噂を頼りにしてはまた放浪と同然の旅になってしまう。
 しかしシグナムには確かな秘策があるのも事実。

「……そういえばおまえも弱きを守るために旅を始めるらしいな」

 地平線の輪郭を光が白く染め上げていく。
 光は夜を払いシグナムを、ナハトをゆっくりと朝へと追いやっていく。 

「はい……こんな半端なんですけど」
「それなら安心しろ。今の話で私も十分に半端ものだろう?」
「そうですね、旅には生活力が必需ですよ」
「……悪かったな」

 別に命に関わるほど重要なものというわけでも――どういうわけか彼女に言われると妙な説得力があるのはなぜだろうか。

「なら一つ取引をしてみないか?」
「取引……ですか?」

 金銭? 食料? はたまた……命?
 いきなりな誘いにナハトは今この状況で思いつく限りの言葉を並べてみる。
 いやいやこの体という可能性も捨てきれないだろうか。世の中にはそういう気の人間もいると聞くし……。

「らしくないな、なに難しい顔をしてるんだ」
「い、いえあなたが望みそうな見返りってなんなんのかと少し……」
 
 顎に手を添え眉根を寄せて、彼女なりの思案顔を作っていると笑い声が空気を揺らした。  

「私は悪魔ではない、命など取るものか。もっと簡単な答えだ」

 太陽もその答えが知りたいのかもう半分くらい顔を覗かせている。
 降参――どうにも答えを教えてくれない相手は小悪魔のように感じられて悔しい。
 釈然としないまま顔をゆっくりと上げるナハト。そこにはいつの間にか自分を見つめていたシグナムの顔。

「あっ……」

 その顔は始めてみる。
 いつも見守ってくれるような優しい眼差しを湛えた顔だ。
 
 わかった――彼女の言いたいこと。
 
「私と…………」
 
 すごく簡単なこと。

「旅をしませんか」

 彼女の答えは――

「ふぅ……まったくしょうがないな、付き合ってやる」

 渋々なようでやっぱり待っていましたと言いたそうな返事。
 本人は悟られたくないようだけど口元が笑っていてはバレバレだ。

「あなたは剣で、私は包丁でそれぞれを補う」 

 シグナムはナハトにとって、またシグナムにとってナハトは用心棒。
 
「おまえにしてはよく思いついたな」
「相互扶助、相互理解、相互作用は旅においてもっとも大切ですからね」

 戦いの用心棒と生活の用心棒。

「ああ、しかし私としてはもう一つお前に期待しておきたいことがある」
「なんですか?」

 やはり体……?

「囮だ。災難を呼び寄せるのだろう、おまえは?」

 当たらずも遠からず。

「な、確かにそうかもしれませんけど……」
「悪が向こうからやってきてくれるのは手間が省けるからな。丁度いいだろう、おまえも無駄に肝を潰すことが無いのだから」
「うう……意地悪です」

 利害一致で返す言葉はどこにも無くて……。
 言い負かされっぱなし。

「ふっ、まぁおまえを主として立ててやるから安心しろ」
「ほ、本当ですか?」
「あくまで皮肉たっぷりだがな」
「…………うう」

 これじゃあどちらが主だか。
 でも主と呼ばれるのに悪い気はしないわけで。なんだか餌付けされた気がしないわけでもないのだが。

「気落ちしている暇は無いだろう? さぁ、夜も明けた行くぞ」

 大地を離れる眩い光。

 朝の始まり、一日の始まり、世界の始まり――。

 すっかり拗ねてしまっているナハトを背に歩き出すシグナム……と、不意に足を止め、

「あなたが進まなければ何も始まりませんよ……主ナハト」

 初めて彼女の名前を呼んだ。

「あっ……」

 思いっきりわざとなのだろうけど、敬語で自分に従うことを約束してくれた――シグナムはそうは思ってないのだろうけど――大切な旅の仲間へナハトも笑顔で返す。

「はい! 行きましょうシグナム!!」

 同じようにナハトも初めてシグナムの名を呼んだ。
 
 宝石のように陽光を吸って輝く銀色の髪はナハト。
 なんだかチカチカとむらのある光を放つのはシグナムのボロ甲冑。
 ちぐはぐな二人だけどうまくはやっていけそうで。予感は胸に確かにあって。
 
 朝日を一杯に浴びて、朝日に向かって歩いてく影。小走りに、その影に寄り添うように影もう一つ。


 それは旅の始まりだ。


 夜天とそれに集った雲たちの長い長い――永い旅。

 いつ終わるかさえわからない。もしかしたら終わりなんてないかもしれない。

 だから旅を続けられる。いつまでも一緒にいられると信じられるから。

 
 永久の証が、変わらない絆があり続けられるから――。

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