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2007.07/14(Sat)

あの雲のように 第一章 第六幕 


【More・・・】


「やはりおまえは馬鹿だな」

 背中越しの言葉を挨拶に、災い総てから守るようは烈火の将はナハトの前に降り立つ。 
 嘲笑うような声で彼女はもう一度後ろの大馬鹿者へ言葉を投げた。

「いいか、賊が出てくるような物騒な場所へは一人で近づかないことだ」

 子供を諭すようにゆっくりと言い聞かせ、手元の剣の具合を確かめる。
 どうやらこいつは自分が習得した武芸を形にすることは遜色なく出来ると見える。
 柄からだらしなく垂れ下がっている鞭。分かたれたいくつもの刃がワイヤーで結び付けられた鞭というにはややかけ離れている武器だ。

「連結刃……シュランゲ……奴を食い殺せレヴァンティン」
『Jahooole!!』

 シグナムなりに考えた太刀の届かない相手を食らう必殺の蛇。

「はぁぁぁっ!!」

 怒声――腕を大きく振り上げれば銀蛇目覚め彼女の頭上に巨大な描く。
 片腕を奪われても――もはや痛覚すら失っている竜はすぐに口から極大の火球をシグナム目掛け吐き出した。

「無駄だぁ!!」

 三度、円の軌跡を残す腕に蛇が応え踊り狂えば、彼女の前で渦となり盾となる。
 一片の狂い無く、幾重の真円は唸り上げ激突した火球を旋風と共に亡き者とした。

「炎舞の狂宴! 汝贄となれ!」

 そしてその炎を渦は我が物とし、炎熱纏った蛇を解き放つ。
 内から円を崩しながら蛇は――否、それは竜の如し――どこまでも、無限とも思える体で竜へ襲い掛かった。

「せやぁぁぁ!!」

 その足を――。
 その腕を――。
 その体を――。

 刃の鱗が巻きつき、切り裂き、骨すら焼いて、

「爆竜一閃!!」

 四度目に振られた腕は大きく下へ。
 烈火の声に赤き竜は黒き竜を締め上げ、次の瞬間完膚なきまでに粉々に煎断した。
 猛火に包まれながら大地へと落ちる竜だったもの。家々より遥かに大きかった体躯は無残なほどにバラバラにされ灰と化すまで燃え尽きるばかりだ。 
 ゆらめく炎に照らされたその背中をナハトはただ呆然と見つめていた。
 どちらかといえばそれは黒竜を料理する騎士の姿に見とれていたかもしれない。
 柄の上へ、蛇から剣に還る魔剣を軽く素振りし具合を確かめ、シグナムは軽く息を吐く。今までの動きが嘘のように思えるくらい落ち着いた息吹だった。

「自慢ではないが私は早起きでな」

 ぽつりと、独り言でも呟くような彼女の言葉を耳にしたのはそれからすぐ。

「散歩がてらこの街までやってきてみればこの有様だ」

 散歩がてらに、なんてこれる距離ではないだろう。宿からここまでどう見積もったって自分の足では遠出に値する。
 真面目にナハトは考えこんでいる。真に受けて冗談の類と疑わないのは彼女の性格が成せる技なのだろう。

「おかげで朝の爽快な気分が台無しだ。これもみんなあの賊共のせいだ。鬱憤晴らしに残さず斬り殺すことにした」

 もっともシグナムにとってこの口実は大真面目だ。
 本当を隠す冗談として場を茶化そうなどと彼女はまったく考えていない。シグナムにしてみればうまく誤魔化せたとしてやったりといったところである。
 今まで弄られた分、今度はこっちが借りを返す番。町中に蔓延る俗の退治が終わるまでせいぜい悩むといい。

「一応言っておく、手は出すな。もしも出した場合――」

 轟音がナハトの後ろから咆哮した。燃え盛る家を蹴散らして新たな黒竜がその体躯を炎に晒す。

『Bogen form』

 だがその眼はナハトとシグナムを捉えることなく

「シュツルムファルケン!!」

 胸から上すべての部位と共に莫大な熱量と衝撃に消滅した。

「きゃあ!!」

 轟々と背中を叩きつける暴風に思わず背を屈め、膝に乗せた子を身を挺して庇う。ナハトを追い抜くように瓦礫が吹き飛び、砂塵が吹き荒れ、炎はあまりの風に掻き消えた。
 静寂はすぐに訪れ、炎の紅が取り除かれたここだけは柔らかな闇が再び舞い降り来る。
 ナハトは呆然としながらも体を起こし、シグナムを見た。

「こうなるわけだ。私はこれでも未熟でな、本気を出すと見境がなくなる。その子と共に離れていろ」
「で、でも……この子はもう」
「なるほどおまえはその程度で諦めるのか。騎士ならばその程度の怪我を死には繋げない」
「え……?」

 まさか――覗き込んだ消えたはずの命。なのにそれはまだ命の火は消えていなかった。

「……ぁ」

 息が詰まる。自分の馬鹿馬鹿しい勘違いに腹が立つより呆れてくる。
 ――している。微かに聞こえる命の息吹。
 そっと触れた胸には命の鐘が鳴っていた。

「半端な腕でも多少の手当てはできるだろう」
 
 安堵の息をつくナハトの前でシグナムの手にあるそれが魔力残滓を吐き出していく。真っ白な蒸気はやはり黒に映える。
 剣から鞭へ、鞭は今は弓となって彼女の手の中にいる。
 全てはシグナムの歩んで来た道の証。力を追い求めていたばかりだった子供のころの苦い思い出。

「ありがとう……ございます」
「礼には及ばん。自分でその子の命が消えていないことを知ったのだろう? 周りが騒がしいと気づけないものある」

 そうだ。彼女がその弓で災いを振り払ってくれたからこうして命に気づけた。

「壊すばかりの力も頭を捻れば使えるものだな」

 鞭といい、この弓といい本当に命を奪うだけの力だ。これでは自分が目指した道を歩けない。
 それでもこうやって誰かのために役立てることはできるのだ。
 この力もまだ成長し続ける。道を歩ける。

「おまえは残った者を救え。泣いている暇があるならな」
「私……泣いていました?」

 踵を返してからシグナムが頷いた。
 頬をなぞる――濡れていた。

「あはは……まだ流れるんですね」
「人ならば当然だ。それとも自分が冷血人間とでも思っていたのか? そんな呑気な性格で」
「……少しは、ですね」

 苦笑した。 
 そんなわけないと思ったのに。
 何もかも奪えるほど自分の生んだ災いは強くない。こうやって命が残ってる。全部消えてしまうわけじゃない。
 逆に命を奪われる側にだってなる。 
 結局、偽善って思うことも偽善なんだ。そうじゃなきゃ涙なんて流れない。何にだって自分は徹しきれないないのだ。演劇ならば最高の大根役者だろう。
 不幸な自分によっていられる暇があるならやれるべきことを成す。
 素直に、自分のしたいことを。
 ナハトにとってもシグナムにとってもそれは同じだ。
 
 ナハトは思う。本当に自分は

「中途半端ですね……私」
「ふ……なら私は行くぞ。これ以上暴れられても始末が面倒だからな」
「はい、わかりました。私も半端なりに頑張りますから」

 騎士が空を翔けた。右手の弓は光とともに剣と鞘に姿を変える。どうやらあの二つで弓と成すらしい。
 自分たちもそんな風に、それぞれ力を合わせて一つのことを成したい。 
 心の奥底に差し込んだ光にナハトは不得手ながらも治癒魔法を発動させる。

「大丈夫……絶対助けるから」

 膝の上でいまだ身動き一つしないけれど、この子は生きている。
 虚ろと思った瞳にもいつしか光が入ったようにナハトには見えた。
 見間違いさせないように、また元気に大地を駆け回れるように、ナハトは暖かな光を少年に与え続けた。

「でぇあああああ!!」 

 遠く空でまた一匹、竜が捌かれた。真っ二つに、頭から尾へと一直線。
 
 それまさに一刀両断――。 
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