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2007.06/30(Sat)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第一話 Cpart 


【More・・・】


「フォトンランサー! フルファイア!!」

 撃鉄落ち、斉射。
 七つのスフィアから放たれる光の矢は容易く相手を爆裂の渦へ引きずりこむ。
 ファランクスシフトを思わせるような波状攻撃はこれだけで相手を戦闘不能にさせるには十分すぎる攻撃だろう。

「バルディッシュ!!」
『Thunder smasher』
「撃ち貫け!!」

 魔法陣に杖を叩きつけ、雷鳴が響く。膨大な電力を蓄えた光線が煙を突き破り爆発。爆風が身を打つ中で私は攻撃の手を休めない。
 
――休められない!

「アルカス、クルタス、レイギアス! 天地貫け! 雷光の双剣!!」
『Thunder rage fall shift』

 煙幕を挟み込むように、天地に文字通り生まれる魔法陣。狙いすら定めぬまま二条の雷柱が踊り狂う。
 当然、突き進む雷は弾着点で衝突し光の渦を生み出しながら爆発する。
 考えただけで、一度も実戦で――そもそも想像の域を抜けてない魔法さえ今の私は躊躇なく振るう。
 なぜここまでするのか? そう自問しても答えは一つしかない。
 雷神の饗宴が終わり、残された爆煙を見据え私は未だ体を強張らせていた。

「フェイト……」

 傍でアルフが心配そうに声をかけてくる。精神リンクを切っているから私の心の動きを察することが出来ないのだろう。

「大丈夫……きっと」

 あの煙が晴れればきっとそこにはもう誰もいない。最初からいなかったくらいに綺麗な夜空が覗いているだけ。
 あれだけの攻撃、全て受けきれる魔導師は絶対にいない。もうすぐ見える答えは二つだけだ。
 痛手を負い這う這うの体で逃げ帰るか、昏倒し眼下に広がる海へ落ちるか。私が受ける身なら少なくとも戦意は喪失する。
 それだけの攻撃なのだ。誰が見たって。

「……らしくないよ。一体どうしちまったんだい、話もしないでいきなり攻撃だなんて」

 私が敵を追跡するためにアースラから転送された時からリンクを切っていることが不安に拍車をかけているんだと思う。元から感情を素直に出す子だからその口の端々に動揺がはっきりと受け取れた。

「アースラをやられたんだ……やり返して当然だよ」

 自然と拳を握る。きっとすごい怖い顔だ……私。

「で、でもさぁエイミィだって言ってたじゃないか、エンジン一つやられただけだって」
「次元航行が出来なくなったら大変だよ。後悔してからじゃ遅いんだから」

 それに戦艦のエンジンがたった一人の魔導師の攻撃で破壊されるなんて普通はあり得ない。それだけの力を持つ相手を野放しにするなんて出来るわけがない。

「フェイト!!」
「クロノ……アースラは大丈夫?」
「ああ、当たり前だ。みんなのお陰で持ち直した」

 良かった……。みんなが無事なら何よりだ。

「それよりフェイト」
「やらなきゃいけないと思ったから」

 何を言われるかなんて私にだって分かる。これでも嘱託魔導師になるために難しい試験だって受けたんだ。管理局の決まりごとは嫌でも頭の中に入ってる。

「確かに一人で戦艦を襲ってくる魔導師だ。君の判断は正しい……だがあいつはあの場に居合わせてただけだ。犯人と決まったわけじゃないだろ」
「次元空間に平然といられる人間なんて……決まってる」
「だがもしそうでなかったら……」
「弁解はしません……」

 自分でもどうかしてるのは痛いくらいに分かる。だけど胸のもやもやが私を突き動かしていくのだ。

「一体何があったんだ……僕が来る前にあいつに何を言われた」
「……何も言われてない。ただやらなきゃいけないと思ったから」
「やらなきゃいけないって……」

 彼女を倒さないと大変なことになる。その前に全てを終わらせないといけない。
 はっきりと言い切れる。私はこれから起こること全てを知っているんだ。
 だから煙の向こうの子が私と寸分変わらない女の子であることも、その子が何を成そうとしているのかも分かってしまっていた。
 なんでそこまではっきりと知っているのか私にも分からない。

「理由に……いや、詳しい話はアースラに戻ってからだ。敵も流石に退散しただろう」

 ――いや、分からない振りをするのはよそう。

 思い出したくないだけなんだ。本当に、本当にそれが起こって、私の目の前で起こって、あの子が笑ったら。
 私には真似できない無邪気な笑顔を見せたら――。

「まったく、君の魔力は留まることを知らないな」

 私の様子がおかしいことにクロノも気づいている。軽口をたたいて私の気を紛らわせてくれるのは嬉しかった。
 でも、せっかく生まれた温かい気持ちもすぐに凍りついた。
 
「――ほんと、さっすがフェイトだよね」

 彼女の一言で。

「……フェイト…………?」

 気の抜けたようなクロノの声。驚くのは無理もない。私と同じ声が、私の口からではなく、目の前の煙から聞こえたんだから。
 目隠しされてれば誰だって私だって間違えてしまう。でもそれは大きな間違い。本当ならば私の声が偽者なんだから。

「おかげで私が考えてた計画、台無しになっちゃった」

 風が吹き、唐突に私と彼女の隔たりを失くしてしまった。目に映るのはやっぱり黒い法衣を顔まで被った彼女と、

「当然です。余計なことはしないに限る、よく分かりましたでしょ?」

 拗ねた彼女を窘める、雌獅子のような豹のような、黒茶の大猫。

「ちぇ、気に入ってたのにな~、このローブ」
「気に入っているのなら攻撃を避けるなり、むしろ着てこないことが正解です」
「だってお気に入りだもん」

 不機嫌そうにそっぽを向いて、まるで私たちなどいないように話を進める二人。
 私たちの存在なんて最初からないみたいに。

「まっ、しょうがないものはしょうがないか」
「諦めも肝腎ですからね」
「ぶ~」
「そんなことより……いいのですか、挨拶の方は」
「あっ、そっか、そういえば自己紹介まだだったんだ」
 
 ほんとあっけらかんとその子はそれだけ言うと私たちの方に向き直る。そうしておもむろに、ボロボロになったローブを掴むと思い切りよく宙へ脱ぎ捨てた。
 露になる全身。彼女が首を振るたびに私みたいな金髪が風に乗り鮮やかな色を夜空に飾る。結んでいないから私よりずっと軽やかに、踊るように宙を舞う。

「……ぁ」

 息が詰まるなんて生易しいものじゃない。息が喉を通らない。呼吸を忘れた。
 夢で見た通りなのになんで私は落ち着くことが出来ないんだろう。出来ることは、目の前の生き写しを見つめる以外になくて。

「私はアリシア・テスタロッサ、よろしくね! それと」
「使い魔のリニスです。お見知りおきを……と言うよりも私の場合は久しぶりと言う方が正しいのでしょうけど」

 人へと姿を変え、軽く会釈する私の魔法の先生。

「アリシア……だと? 何をバカなこと言ってるんだ。アリシアは」
「私だよ」

 ぞくりと、背中に寒気が走った。彼女の快活な声が一転して影を落とす。 
 鋭く尖った声。クロノはそれ以上何も言うことはできなかった。

「生き返っちゃいけないの? せっかく母さんが苦労してたどり着いたんだからそのくらいしてもいいでしょ。それともなに? 管理局は人の生き死にも管理してる、なんて言うつもりなの」
「そ、そんなわけないだろ!!」

 荒々しく腕を横に薙ぎ否定の意志を見せ、クロノはS2Uを起動させた。彼の手に黒き杖が握られ、同時に魔力光が足元から立ち上った。

「投降しろ! どちらにせよアースラを攻撃した罪は重い。僕らと一緒に来てもらう!」

 久しぶりに見る執務官としての顔。凛々しく闘志を秘めた瞳が二人に突き刺さる。

「ふぅ……と言っていますがどうしますか?」

 それを軽く受け流すリニスと、

「どうもなにも母さんの仕事しなきゃ始まらないでしょ?」

 最初から眼中にないアリシア。

「あなたにしては懸命な判断です。てっきりついて行くなんて言い出すと思いましたよ」
「あはは、行こうと思ってたり……」
「…………」

 心からの落胆がため息となって耳に届いた。
 何て緊張感のない会話。私たちとあの子の間に言い表せない何かがある気がした。
 それともこんな雰囲気をものともせず、捻じ曲げる明るさが彼女に備わっている表れか。

「だってフェイトがどんな生活していたのか気になるし」
「あなたは……」
「大丈夫、フェイトが憎いのは絶対に変わらないから……ね」

 視線が隔たりをあっさりと超え私を貫く。吊りあがった口元は私には酷く不気味に見えた。

「あなたには楽しい思い出なんていらない……悲しい思い出だけあればいいんだ」

 歪む顔に、次第に怒気が篭る声。私はというと蛇に睨みつけられてしまったかのように硬直することしか出来ない。

「だから私の思い出返してよ。あなたのせいで優しかった母さんのこと思い出せないんだ」
「……アリシア」
「大丈夫リニス、言うだけ言ったら始めるから。……フェイト、私はあなたを消さない。でも、その代わり悲しい思い出だけ持って生きてもらうから」

 憎しみだけを浴びせながら彼女が杖を構えた。少し形が違うけど、やっぱりそれは閃光の戦斧で。

「いくよバルディッシュ・プロト」
『Yes,sir』
「邪魔されると厄介だからね。少しだけじっとしててもらうよ」
『Photon javelin』

 黒き槍から作り出される三つの雷塊。すぐにそれは巨大な槍の形を成し狙いを定める。

「吹き飛ばしちゃえ! ファイアーーーっ!!」

 感情むき出しで、彼女の右腕が振り下ろされた。

「フェイト!!」
「っ! フェイト避けろ!!」
「…………あっ」

 何を考えていたのか、何も考えていなかったのか。金縛りにあっているかのように体が言うことを聞かない。完全に反応するのが遅れた。

「こっの!」
「はぁぁぁ!!」

 目の前が光で覆いつくされる。それでも私の体に衝撃はない。震える視線で、私は恐る恐る首を上げた。

「なんて魔力だ……AAA……? それ以上かよ……」

 クロノとアルフが、私の前で全てを受け止めている。障壁を張った腕が小刻みに震え、すでに空色と緋色の壁は八割方その体に傷を負っている。

「へぇ……そういえば居たんだっけ、使い魔と管理局の人」
『Volt smasher――』
「今はフェイトよりも邪魔かな……どうせフェイトを庇って動けないよね、いいなフェイトは」
『Get set』
「――だから消えていいよ」

 彼女の周りに生まれた光が、激しく明滅し、火花を散らす。逆三角を描くように配置されたそれは彼女の号令と共に奔流に形を変え撃ち放たれた。
 大気を震わし、身をうねらせ、三匹の金蛇が私たちを喰らおうと言わんばかりに襲い掛かってくる。口なんてあるわけないのに、私の目には蛇たちが口を空け牙をぎらつかせた様にすら見えてしまっていた。
 今まで培ってきた経験はすでに私に諦めろと訴えている。うん、今からじゃもう避けられない。
 必死に二人は頑張ってくれてるけど多分……ううん、絶対無理だ。

「何て奴だよ……ほんとに……このアホ魔力がぁっ!!」

 不思議と恐怖はなかった。むしろ安堵感すら私は感じている。
 きっと母さんが生きているから。拒まれてもやっぱり私の母さんだもん。
 湖面のような私の心とは裏腹に、爆音。蛇が壁に喰らいついた。続けて二匹、三匹と立て続けに小さな盾に頭が並ぶ。

「おめおめと……やられるわけにはいかないだろ! フェイト! 変だよ! いつものフェイトに戻っておくれよ!!」

 叫ぶアルフの言葉に私は心の中で首をかしげた。
 いつもの私って誰だろう……本当の私はあそこにいるのに。
 私がいるのになんで彼女がいるのだろう。彼女がいるのになんで私がいるのだろう。
 限界を超え、壁が砕けていく。砕けているのは私の心もか。

(……アリシアがいるんだ……私はやっぱりいらないのかな……母さん)

 涙は流れなかった。きっと意味がないから。
 静かに目を閉じる。瞼はみんななにもかも暗闇へと返してくれた。うん、これで大丈夫。
 わけの分からない覚悟を決める私。

(二人には悪いことをしちゃったな……)

 だけど私の我侭は叶うことはなかった。叶う前に、暗闇でもはっきり分かるくらいの眩い光が、

 ――私の心にまた元気をくれたんだ。

* * *

『All target shoot down』

 排気筒が開き、蒸気が一瞬視界を隠す。

(早く、早く晴れて……)

 靄がなくなる時間も惜しい。祈るようにわたしはまだ見えない遥か先を見つめた。

「今のは一体……フェイトの魔法……?」

 隣でユーノくんがわたしと同じ疑問を呟く。
 わたしが打ち落とした三つの魔法の光。それはフェイトちゃんの魔法の光に見えてどこか違うように思えて、とにかく危ない物だって気がしたのは本当。

「それに何かおかしい……確かに座標は合わせていたはずなのに」

 自分でも納得できないんだろう。難しい顔をしながらユーノくんはわたし達が転送された場所を振り返る。
 おそらくフェイトちゃんたちがいる場所。そこに向けてユーノくんは転送魔法を使った。でも転送された場所は全然見当違いな場所だった。

「なにか結界みたいなものが張られているのか……? 一種の魔法トラップか……」
「ユーノくん! 今はそんなことより!」
「あっ、うん急ごう!」

 元に戻った視界の先にはまた静かな夜が訪れている。だけどわたしにはわかる。何かよくないことが起きている。フェイトちゃんが危ないって。
 フライヤーを最大速度にして空を翔ける。肌に風を感じながらもっと、もっと速くって心の中で祈って。

「――いた! フェイトだ! それにアルフにクロノも!」
「ってクロノくんが!!」

 ようやくみんなの姿が見えた矢先、一番前にいたクロノくんがぐらりと傾いた。気を失ってしまっているのか、ここからじゃピクリとも動いていないように見える。

「うわ! あの馬鹿!!」

 いち早くユーノくんがわたしの横からものすごい勢いで飛び出していった。真っ逆様に落ちる体を本当に海面すれすれのところで受け止めた。
 よかったギリギリセーフだ。

(ユーノくん、クロノくんは大丈夫?)
(……なの、はか……? そういえばここは君たちの世界だったな)
(喋るな! 一体どうしたんだよ! こんなボロボロになって!)

 念話からクロノくんの様子は思いのほかよろしくないみたいだ。ユーノくんが焦っている所からきっとかなりの重傷であることは間違いない。

(先に言っておく……二人は無事だ。僕が盾になったんだ、やられはしない。それよりもフェイトの所へ行ってくれ……)
(なのは、ここは僕に任せて。こいつの治療はやっておくから)
(わかった、クロノくんのことお願いね)

 見えないかもしれないけど、ユーノくんを見ながらわたしは頷いてすぐにフェイトちゃんの所へ飛んだ。
 大好きな友達の姿はあっという間にはっきりして、わたしは無意識の内に大声で叫んだ。

「フェイトちゃーーーん!!」
「なのは!? あんたなんでここに!」
「ここはわたし達の世界です。でも今はそんなことよりも!」

 聞こえていなかったのか、フェイトちゃんは俯いたまま全然動かない。

「……フェイトちゃん?」

 明日を一気に飛び越えて、わたしはまたフェイトちゃんに会えた。それはフェイトちゃんも同じなのに、なんでわたしを見てくれないんだろう。

「どうしたの?」
「どうもしてないと思うけど」
「えっ?」

 いきなり後ろからフェイトちゃんの声がした。
 驚き、振り向くわたしを待っていたのはさらに驚き。

「フェイトちゃん……が二人?」

 なんで、なんでフェイトちゃんがいるの!? フェイトちゃんは今ここに、わたしのすぐ傍にいたはずなのに。
 そうやって振り向くとやっぱりフェイトちゃんがいる。

「私はフェイトじゃないよ。アリシア……アリシア・テスタロッサ。何度も自己紹介させないで」
「……アリシア……ちゃん?」

 聞いたことがある名前。そうだ思い出した。
 プレシアさんが生き返らそうとした子の名前が確か――。

「そうだよなのは……アリシアなんだ、あの子は」

 搾り出すように、震えて途切れ途切れの声。久しぶりに聞けたフェイトちゃんの声はそんな声だった。

「見間違えるもしょうがないと思うけど、次から気をつけてね」

 どこか自慢げにアリシア……ちゃんが口を開いた。
 確かにフェイトちゃんじゃない。バリアジャケットにマントはないし、代わりのように肩、手首、それに背中から金色の小さな羽根が自己主張をしている。
 フェイトちゃんみたいなおさげは作らず、綺麗な髪を風に遊ばせながらその子は手にしている――これもフェイトちゃんのバルディッシュにとてもよく似た杖から何かを取り出した。

「あ~あ、やっぱり末生りはだめなのかな……」
「次元空間での活動、魔力障壁の展開……これだけすれば耐用も超えますよ」

 月明かりに透かしながらアリシアちゃんが残念そうに呟く。その指先に摘まれているのはいつか見たあの宝石と瓜二つ。

「大体、なんでこんなものを使うのですかあなたは。ちゃんとしたものがあるというのに」
「だってこの子達だってせっかく生まれてきたんだよ。いらないから捨てるなんて出来ないし」
「確かにその心構えは感心です。そういう所は私も好きですから」

 傍にいる女の人は誰だろう。落ち着いた色の服に帽子を被っていて、もしかしたらこの子の使い魔なのだろうか。

「ありがと……じゃあ、種をまくよ」

 ジュエルシードみたいな石はアリシアちゃんの手から離れると同時に砂の塊を崩したように粉々になってそのまま風の中へ溶けるように消えた。
 よかった、ジュエルシードじゃないみたい。
 でも安心していられる暇はない。

「アリシアちゃんでいいんだよね? どうしてこんなことするの!?」
「母さんのため、私のため、それにフェイトのため」
『Put out』
「そして……またこの世界に夢を見させてあげるため」

 杖から出てきたのは紛れもないジュエルシードの輝きだった。体がピリピリと痺れるような感じがする。なんてすごい魔力なんだろう。

「プロト、ランスフォーム」
『Yes,sir』

 斧は槍へと姿を変え、金色の羽を夜空にはためかせる。

「アルカス……クルタス……レイギアス!」 

(なのは!!)
(ユーノくん!? どうしたの?)
(今すぐあれを止めるんだ! あの子は、ジュエルシードをこの世界にもう一度ばらまくつもりだ!!)

 そんな……ジュエルシードをまくって。

(あの光の中に数えてみても九個、別々のジュエルシードの反応がする。でも何か違うんだ。今までのジュエルシードとは違う、異質な魔力を感じる)
(じゃあそれをばらまいたら……)
(少なくともいい結果にはならないと思う)

 大変だ。そんなことしてまたみんなに迷惑が掛かったら……。

「レイジングハート! スターライトブレイカーいけるね!」
『All right,my master』
「行くよ!!」

 羽広げ、魔法陣にわたしは立つ。すぐに収束を開始して周囲の魔力を根こそぎレイジングハートに集めていく。

「幻想秘めし種、我が声に応え今、常世に根を下ろさん」

 わたしが魔力を溜める間にもアリシアちゃんは呪文を唱え準備を着々と終えていく。杖は徐々に金色に輝き、少しずつその形を不鮮明にしていく。まるで光の繭に包まれるように。

「レインジングハート、カウントダウンは!!」
『30 seconds remain』
「早く! 間に合わないよ!」

 こんなに遅かったっけ? 今まで早くも遅くも感じてなかったスラーライトブレイカーがすごく遅く感じる。焦りばかりが心に募って、だけど待つ以外どうしようもない。

『There is no other way.Reducing charge time』(仕方ありません。チャージタイムを短縮します)
「ありがとう! レイジングハート」
『Restart countdown.……10……9』

 レインジングハートが時間を短縮してくれた。少し威力が減るかもしれないけどきっと大丈夫。ユーノくんとずっと鍛錬してきたんだから。

「バルギル、ザウギル、プラウゼル! 大地割れ! 揺り篭の担い手となれ!!」
『Get set』

 繭から大きな光が生まれる。鳥の翼を思わせるような羽を杖は生やして、アリシアちゃんは左手を器用に動かしてそれを逆手に持ちかえる。

「スターライトブレイカー!!」
『3……2……1……』

 どういう魔法なのかは未知数。でもそれを気にしてる場合じゃない。
 大切なのは、

(間に合って! 間に合え!!)

 それだけ! 

「いくよ! ボルテックランサーーーーーッ!!」
「ブレイクシューーーートッ!!」

 腕を押す手ごたえ。久しぶりの感触を必死に堪えながら、わたしはスターライトブレイカーを発射する。
 夜空を真っ直ぐ、天高く飛んで、あの子が放った槍とぶつかり合う。
 二色の色が混じりあい、太陽みたいに輝いてわたしは目を細める。大気は激しく揺さぶられ、轟音が耳の中を掻き混ぜる。

「っ!? う、うそ……こんなの……って」

 異変はすぐにわたしを襲った。重石でもつけられたように足が重く、押さえつけられる感じ。
 押されている。なんて強い魔法の力。

「だ、ダメだよ……これじゃ」

 拮抗させられれば良かったのに最初から押されるなんて考えもしなかった。やっぱり時間を削ったのが不味かったの?

(でも、でも――!)

 ここでやられるなんてわたしには絶対に出来ない。
 隣にはフェイトちゃんとアルフさん。下にはユーノくんとクロノくんがいる。
 
 だから絶対に、絶対に負けられない。
 負けちゃ駄目なんだ!!

(お願い……お願い! レイジングハート!!)

 心の中から振り絞る想い全部を願いに込めて、わたしはレイジングハートを強く握る。手は震えて汗が滲んで痛いくらいだ。
 レイジングハートにも少しずつだけどヒビが入って限界を訴えている。それでもやらなきゃいけない。

(みんなを守りたい……守りたい!!)

 全力全開、すべての魔力をレイジングハートに込めて、なくても搾り出して。
 何度も何度も諦めの誘惑を振り切って、唯一つのことを心の中に描き出す。

 だからわたしの願いは叶えられた。
 刹那の煌きと共に、相殺された魔力が光の洪水になることで。

「きゃぁぁぁ!!」

 展開されたプロテクションでも抑えきれないくらいの魔力の渦。全身を叩かれたようにジンジンと痛みが走った。
 ぎゅっと閉じた瞼を上げるまで一分は掛からなかったと思う。目を開けた時にはわたしの目には変わらない静かな夜空。

「やった……」
「嘘……でしょ?」

 わたしの声とアリシアちゃんの声が重なる。本当に驚いた顔でアリシアちゃんは呆然とわたしのことを見ている。

「すごい……もう芽吹いてるよ。リニス!」
「ええ、本当なら多くの人の願いで芽を出すはずなのに。それともこれがジュエルシードの力なのでしょうか」

 けどわたしの考えているそれとアリシアちゃんのそれは違っていて。
 驚いていたのはもっと別の理由だった。

「……杖が……刺さってる?」

 わたしの目に飛び込んできたのは何もない空間にアリシアちゃんの杖が突き刺さっている不思議な光景だった。
 そして、その杖の宝玉からは光の帯が木の根のように広がって周りに食い込んでいた。

「これなら母さん喜ぶよね!」
「はい、予定が早く進むことに目くじらを立てる人間はいませんから」
「帰るのが楽しみだな~!」
「まったくあなたというのはいつも結果だけはちゃんとするのですね」
「終わりよければ全て良しって言うでしょ?」
「はいはい、そういうことにしておきましょう」

 帽子のずれを直しながら使い魔――リニスさんが柔らかに笑う。さっきまであんなすごい状況だったのに、もう平然としてるのは見ててすごく不自然に感じた。

「それじゃ…………えと、あなたの名前は?」
「わたし……? 高町なのは! なのはだよ!」
「なのは、ありがとね。あなたの魔力と願いで種たちが芽を出してくれたんだよ」
「わたしのおかげで……」
「別に街を壊すとかするつもりはなかったしね。でもあなたが勘違いして水と肥料をたくさんくれた」

 言われたことを飲み込む前に杖の宝玉から鋭い光が放たれ、青い光の線が弾け飛んだ。いくつもの光は次々に街のあちこちに降り注いですぐに見えなくなった。

「これで今日のお仕事は終~わりっと! じゃあ私帰るね、まだやらなきゃいけない仕事は沢山あるから!」

 ちょっとしたお使いを終えたような感じで笑うアリシアちゃん。フェイトちゃんとは違ってとても表情豊かだ。

「それじゃね。後フェイト、また会える日を楽しみにしてるからね」

 また明日――友達にそんな挨拶するようにアリシアちゃんは左手を軽く振る。手を振るのを止めると今度は刺さっていた杖が戻ってきて、手に取ると同時に魔法陣が広がった。リニスさんが軽くお辞儀をしてアリシアちゃんの横に沿う。

 そうして光が満ちて姿は消えた。

「…………フェイトちゃん」

 一体どのくらいの時間、わたしはぼーっとしていたのか。フェイトちゃんの名前を呼んだのはすごく時間が経っているように思えた。
 いつの間にかユーノくんたちがいるんだから多分そうなんだと思う。

「…………」

 フェイトちゃんは答えなかった。ただ唇を噛み締め、俯いて。
 とても静かな夜。全部が夢でありたい。
 そう願うくらいに静かな夜。

 わたし達はその只中で、それぞれの新しい始まりと共に再会した。

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