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2007.07/14(Sat)

あの雲のように 第一章 第五幕 


【More・・・】


――アルトザーヴェラー。

 古き魔導師という名を与えられた秘術が目の前で生命全てを灰燼にしようと町を蹂躙している。
 守護獣を形作る人造魂魄を術者へ埋め込み人ならざるものとして目覚めさせ、狂わす。

「理論はあったのですから……完成してるのは当然ですね」

 冷め切った目でナハトは炎の中で踊る竜を見上げていた。
 魔導師の魔法技術と守護獣の身体能力の融合。異なる強さを併せ持つ最強の存在。

「それで彼らは満足なら……私は構いませんよ」

 代償は人を失うこと。

 そして極めて短命――。

 魔法の源とするリンカーコアへ無理矢理に魂魄を捻じ込ねば体だって当然持つはずがない。埋め込まれた魂魄の術式が術者のリンカーコアを喰らい、人でも獣でもない存在へと作り変えるのだから。
 使い捨ての破壊兵器の行く末には残酷な事実しかない。尤も人を止めた時点で彼らには考えるおつむなど存在しない。その点では幸せなものだ。
 
「命を……無慈悲に奪わないのならば」

 唇から一筋赤が垂れていく――。
 足りない……こんな痛みじゃ足りなさ過ぎる。
 
「私はこんな命まで無くそうとは思ってないんだから……!」
 
 自ら膝の上で眠るように横たわる幼子。すすと血に塗れ、額は割れ端正な顔を血に汚している。
 微かに開かれた眼は虚ろでもう彼が二度と動かないだろう事実を突きつける。
 親とははぐれたのか……それとも一人逃げ延びてきた末なのか――。
 どの道、奪ってしまった。

 親と命と。

「ごめんね……ごめんね……」

 震える声でも彼女の青い眼から涙は流れない。
 流す涙はとうの昔に枯れ果てた。だから胸に去来するこの想いさえもしかしたらただ悲劇を演じるための偽善なのかもしれない。
 いや、偽善なのだろう。
 純粋に償いをするなら旅をしようと思ったあの日――心が空っぽになったあの日に

「死ねばよかったんだ」

 けれどそんな勇気無くて、死ぬのが怖くて始めたのがこの旅だ。

 逃げて、悪夢から逃れられる日なんてあるわけが無くて。彼女の目にはこうやっていつも戦乱に蝕まれていく世界だけが焼き付けられていく。
 せめてその悪夢を振り払えるならば少しは償えたのか?
 いや、滅ぼす力を作り出せても自分は滅ぼす人間にはなれない。技ばかり持っても使いこなせない半端魔導師。
 
 ――そういえばあの人も言っていたな。

 ろくな力も無いくせに放浪なんて……ほんとに馬鹿みたいだ。
 そういえば今頃あの人はどうしているのだろうか。もしかしたら自分が出て行くのは感づかれたのかもしれない。 
 でも嫌がらせみたいなことを散々してきたのだ。嫌われて、無視されたかもしれない。
 彼女の心を無理に開けようとして、思い出したく無いはずの過去を解き放ってしまったり。

「ただ、似たような人は放っておけ無いんですよね」

 懐かしむようにナハトは微笑んだ。
 あの時、あの瞬間、竜を狩る凛々しき剣を見て決めていた。
 だから去らずに密かな自慢で彼女をもてなしたり、自分流の路銀稼ぎに付き合わせてみたり。

 彼女も一人、私も一人。

 なにより彼女は逃げていたから。自分の過去から、前ばかり見て歩き続けていたから。
 それを知ったのは暗闇の中で語り合ったさっきだけど。

 あの人はまだ自分には出来ない立派なことがあるから。今のままで終わって欲しくなかったから。
 羨望なのかもしれない。逃避する自分を棚に上げて他人にお節介を焼くなんておこがましい。それすら自分を顧みない口実にしてるんだから直のこと。
 もしかしたら彼女の父や故郷を奪ったのも自らが生んだ力なのかもしれないのに。

「そういえば私……なんでここにいるんでしょうね?」

 頭の中に確かにあったはずのそれはこの町の炎に焼かれてしまったのだろうか。
 ふと顔を上げた先、黒い鱗に埋もれた赤眼と目が合う。自分の過ちが答えなんて知ってるわけ無いだろうけど、ナハトにはそんなこともはやどうでもよかった。
 巨体をゆっくりとこちらに向けて近づいてくる黒竜はやがてこの体を灰にしてしまうだろう。

「なんでしたっけ……」

 そういえばいつもこうやって炎の町へお節介を焼きに行っていた。今日はあの黒竜に燃やされてしまったけど、いつもの自分は命すら顧みずお節介を焼いていた。
 竜は眼前に迫り、影はナハトを覆い、終末が否応無しに足音を鳴らす。
 
 私がお節介を焼く理由――。

「……ああ、そうでした」

 それは自分なりのせめてもの償い。
 逃げ続ける中で逃げ続けないための足枷。
 もう消えてしまう命だろうけど、最後に思い出せてよかった。

 ただ私は――

 竜の腕が振り下ろされた。

「レヴァンティィィィィンッ!!」

 その腕は、

『Schlange form!!』

 焔を纏いし銀蛇が描いた螺旋の中で八つ裂きに、そして焼き尽くされた。

 ――守りたかった。
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