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2007.07/13(Fri)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十話 Cpart 


【More・・・】


 夜十時――いよいよ作戦開始。

「じゃああんたの切り札……それに全部賭けるからね」

 散々だった昨日のことは忘れる。切り替えは大切なのよね。

「まかせてアリサ、きっとこれなら隙は作れる」
「それで今度こそ忍さんを」
「助けなきゃいけない。泣いても笑っても今夜が最後よ!」

 夜の街を眼下に見据えて、じめっとした夜風に気持ちを持っていかれないよう気を引き締めて――。 

『みんな! 目標確認したよ。魔力垂れ流しだからこっちでも簡単に引っかかったわ』

 即座に送られてくる座標は驚いたことに、昨日の戦いの舞台である月村邸だった。

「ね、ねぇアリサちゃん。確か家にはすずかちゃんが」

 なのはの問いに頷くことしかできないアタシ。
 てっきり山とか森とか人気の無い場所かと思ってた。身を隠すっていったら普通はそういうところでしょ?

「どうせ封時結界あるんだから問題なし! 行くわよなのは! ユーノ!」

 気になんてしてる場合じゃない。とにかく今は時間がないんだから。

『Here we go,Buddy.Let's knock down a disgrace!』(行くぞ相棒。汚名返上だ!)
「言われなくても!」

 三度目のなんて言わせない! 
 
 ――正直は二度目で十分よ!

* * * 
 
 俺としてはいつも一番妥当だと思う選択肢を取ってきたはずのつもりだった。
 握り締めた携帯は小刻みに振るえ、軋む音さえ聞こえる気がする。
 他でもない自分への怒りに、不甲斐ない馬鹿者の俺自身に、だ。

「くそ! なんでだよ忍……」

 こうなることは始めから予想できたんじゃないか? 
 
 俺は月村忍のことを一番よく知っている人間じゃないのか?

(いや……それは自惚れか)

 俺は忍の親でも兄弟でもない。流石に一番というわけにはいかないだろう。
 だがそれでも、恋人じゃなきゃわからないことだってあるはずだ。

(俺はそれを見逃した……それだけのことだろ?)

 昨日から家に帰ってないなんてとてもじゃないがお嬢様のすることじゃない。ただでさえ妙な事件が起きてるっていうのに。
 大学に顔を出さなかった時点で気づくべきだったんだ。休むこと自体が珍しいことなのに、そこでなぜ疑わなかったのか。

「ぐずぐずしてるわけにもいかないだろ」

 とにかく探して謝って――……後は道中考えるしかない。
 念のため木刀を忍ばせ自室を出る。
 縁側から見上げた空は少し濁って、霞のような雲が、暮れていく空に所在なく浮かんでいた。この調子だと月も台無しだろう。

 ……あまりいい夜にはならないな。

「恭也」
「ん? 父さん、帰ってたのか」

 いきなり名前を呼ばれ、振り向くと父さんが少し斜に構えて立っていた。

「店はいいのか?」
「ああ、ちょっと休憩だ。で、そういうお前は忍ちゃんに謝りに行くのか」
「いや……それは」
「顔に書いてあるぞ」

 射抜よろしくど真ん中で図星を突く父さんの言葉には、流石に平静を装えなかった。
 動揺のおかげか思いっきり視線を逸らして、これじゃ美由希にだってわかるだろう。 

「まったく親子は似るよなぁ……そんな所まで俺に似なくてもいいんだぞ」

 壁に背を預け、腕を組んで苦笑い。

「俺もな、母さん怒らして家出て行かれたときは丁度そんな間抜け顔してたもんだ」
「父さんがか……?」

 あの万年新婚気分の二人が一時でも不仲になるなんて少し信じられない。
 これでもずっと側で二人を見てきた俺が言うんだから嘘じゃない。

「母さんが新作作るって店に泊り込むことあっただろ。実はな、あれがそうなんだよ」
「冗談だろ? だっていつも帰ってきたときはあんな仲いいのに」
「それは父さんがとことんまで妥協して許しを請うたからだ」
「…………」

 これは俺にとってあまり聞きたくなかった真実だと思った。

「いくら剣の腕があってもカミさんにはとことん頭が上がらないってのは……まぁ、俺だけもかもしれんがな」
「さっきの口ぶりじゃまるで俺も同類みたいな言い方してたじゃないか」
「なんてたって俺の息子だからな!」
「……」 

 ほんとに高町家の柱なんだろうか……この人。

 少なくとも今の話で、俺の父さんを尊敬する気持ちの一つが潰えたことは確かである。

「女の子ってのは繊細なんだ。男には大したことないことでも、女には大事だって事はたくさんあるからな」
「経験者は語る……か?」
「そう痛いこと言うな。まぁ経験者から言わせてもらえば最後は自分が決めるんだ。それだけは覚えておけよ」

 全部言い終えたのだろう。父さんは踵を返し背を向けた。
 それなら俺だっていつまでも玄関で時間を潰している暇は無い。父さんからのありがたい忠告はちゃんと受け取って忍を探しに行くまでだ。

「恭也、忘れもんだ」
「えっ? ――っと」

 振り向きざま俺へと放られたそれは何かと思えば、

「父さん……これ」
「俺の勘が外れればいいんだがな。最近物騒だし物の怪なんてたちの悪いもんがうろついてるとも限らん」

 俺の愛刀の小太刀。いつの間に用意したのか、俺が出て行くことを見透かしたような行動だった。
 父さんは振り返ることなく居間へと入っていく。

 と、入り口で立ち止まり、

「やっぱ若い頃の自分を見ているみたいで恥ずかしいわ。頑張れよ甲斐性無し!」

 なんて後ろ頭かきながら、父さんなりの励ましと渇を入れられたのであった。

「……馬鹿、甲斐性無しは余計だ」

 俺だって男だ。自分のまいた種である以上けじめはきっちりつけるさ。

「しょうがないな……まずは母さんに頭下げるか」

 言い訳だけじゃあいつは納得しなさそうだし。
 ちゃんと物もないとご機嫌取りは難しいだろう。
 果たして給料前借して目的の額には達しているのか不安だが。そこはそこ、気にしてもしょうがない。いざとなればさらに借りるだけだ。

「……平手の一発は覚悟しないとな」

 どの道、俺が一方的に悪いようなもんだし忍からは手痛い一発をお見舞いされるだろう。

「行くか」
 
 後は野となれ山となれ――だ。

* * *

「このぉ!!」

 相変わらず反則級の攻撃を繰り出す忍さんにわたしたちは臆することなく魔法を叩きつける。

『Splash burst』

 正面からはアリサちゃん得意の圧縮弾が、

『Divine shooter』

 上からはわたしの誘導弾が大雨みたいに襲い掛かっていく。
 手加減とかそんな生易しいことを考える余裕なんてエイミィさんの分析で吹っ飛んでしまった。

「お願いだからじっとしててください忍さん!」
「そんなお願い聞けるわけ無いでしょ、やられちゃうんだからっ!!」

 説得にだって耳を貸さない。変わりに赤い爪がわたし目掛けて飛んでくるだけ。

『Master,evation』
「きゃっ!」

 シールドで防げればもう少し楽なのに、わたしの力だけじゃ完全に防御できないのが辛い。

「やられてくれなきゃ忍さんも大変なことになっちゃうんですよ!!」

 残り時間はもう少ししかない。 
 すずかちゃんのおかげで忍さんの吸っていたものが血じゃなくて魔力だってわかって、そのせいで忍さんの体が危険な状態になっているのだ。

「エイミィさん忍さんの状態は?」
『もうほとんど魔力が暴走してる。このままじゃ自壊して取り返しのつかないことになるよ』

 L・ジュエルのエネルギーなのか忍さんのなのかまではわからなかったけど、魔力を吸わなきゃ今の忍さんはまともに動けないらしい。
 だから昨日の夜、急に具合が悪くなってわたしから魔力を吸おうとしていたんだ。

『うん、でもまぁ皮肉な誤算だよね……おかげでこっちのレーダーに引っかかるようになって』
(本当ならこの世界の人間に魔力なんて無いからね。キャパを超えた魔力を一気に流し込めば回路がショートするのは普通だし) 

 ユーノくんの言うとおり資質の無い人ばかりのわたしの世界。でもほんの僅かな魔力はあるって推測。
 ゼロみたいな量で十分なのにすずかちゃんの魔力はわたしと同じくらい。
 そんなの一気に吸い込んだんだから体に悪いのは当たり前だ。

(てかユーノ! あんた今どこにいるのよ!)
(アリサのすぐ傍、後は足止めできれば)
(あんなの受け止められるわけ無いでしょ!! すこしは考えなさい!)

 アリサちゃんが杖を屋根に叩きつける。
 もう八つ当たりみたいな攻撃。それも忍さんが後ろへ宙返りして空振りだ。後には屋根にまた昨日みたいな大穴が口を開けていた。

「……エイミィさん、また後始末お願いします~」
『う、うん……アフターケアは任せておいて』

 封時結界のおかげで誰にも気づかれてないのが幸いといえば幸いなんだけど。
 やっぱり申し訳ない。
 そうやっている間にもアリサちゃんは忍さんに飛び掛って滅茶苦茶にバーサーカーを振り回してる。

(僕だって無理は承知だよ! 動けたら僕だって動くよ!)
(ああもう! 言い訳しない! 見苦しい!!)

 猛抗議の念話をぶつけるアリサちゃんは火でもを噴きそうなくらいご立腹だ。
 さっきから忍さんの攻撃を必死に弾いているんだから当たり前だと思う。
 フェイトちゃんの魔法みたいな速さを避けずに相手するんだからわたしだったら怖くて出来そうもないよ。

「でもそれじゃ駄目だよね…………わたしにだって出来ることはある!」
『All right.However,please don't forget calm now』(ええ、ですが冷静さは忘れないように)

 ここは適材適所。
 アリサちゃんが打つならわたしは撃つ――!
 素早く後ろへ回り込み忍さんの背中狙って、

「シュート!!」

 全く効かないって知ってても攻撃するのは承知の上。
 とんでもなく強力な結界を体中に張っているっていうユーノくんの言葉は忘れたわけではない。

「しっつこいのよ! 悪あがきは無駄だって――」
「わかってますよ! だから変えるんです、戦い方!」

 わたしに気をとられる。忍さんはディバインシューターの狙いに気づいていない。 
 はなっからわたしの狙いはたった一つ。
 光を飛び込ませるのは忍さんの足元だ!!

「っ!? しまっ――」

 屋根が崩れる。飛べない忍さんにとっては足場が危うくなるのは命取りのはず。

 それでわたしの役目は終わり――!

『Hammer squash』 

 忍さんの背後を狙って、アリサちゃんがデバイスを振りかぶりながら飛び掛って、

「しまっ――!?」
「ぶっ飛べーーーーっ!!」

 気持ちが伝わってくるような大声が耳に飛び込んだ。
 オレンジの軌跡は吸い込まれるように忍さんの腕へ。

「あぐぅぅ!?」

 一瞬遅れてしまった反応。薙ぎ払ったアリサちゃんの一撃は初めて忍さんに手傷を負わせた。
 わたしに貫けないものでもアリサちゃんには紙と同じ。
 結界破壊は撃つより打つ!

 そして――

「っ!? 今度はなにっ!?」

 よろける忍さんにさらに一手!

 わたしとアリサちゃんが空へ飛ぶと同時に、足元の屋根を突き破って飛び出す魔法の鎖――チェーンバインド。ツルの様に忍さんの体にぐるぐる巻きついて動きを封じこめる。
 撃つと打つはどっちも本命じゃない。本当の切り札の最後の準備が今終わった。
 鎖に続けて屋根から飛び出す影。マントをたなびかせてユーノくんが夜空に映る。

「取った! ストラグルバインド!!」

 両手が印を結ぶ。

 瞬間、チェーンバインドが眩い光を放った。

「な、何よこれ! こんなんで私をっ――!?」

 異変はすぐに忍さんを襲った。
 指先から鋭く伸びていた魔力の爪が急にばらばらになって崩れていく。ビリビリと痺れるような魔力もいつの間にか感じない。

「やっぱり思った通りだ」
「あれって何したの……? バインドみたいだけど」
「バインドに強化魔法を強制解除させる術式を組み込んだんだ。データを見てきっと彼女は肉体強化を施していると思って」
「だからそれを破壊すれば」
「押しても駄目なら引いてみろ……って感じかしら。なかなかやるじゃない」 

 にんまりしながらの褒め言葉にユーノくんは親指を立てた。

 形勢逆転――わたしたちの作戦というよりユーノくんの切り札が見事に決まった瞬間だ。

* * *

 ――厄介な相手だった。

 僕の障壁魔法ですら易々と破壊できる攻撃力に、耐性の無い魔導師には命取りとなるチャームの使用。
 さらに強靭な身体能力と強力な魔力ジャミングを備え、一番厄介な抗魔法障壁を持つ。
 一人で保有する魔法としては反則過ぎる。ジュエルシードの力でもそう思うことはしょうがない。

「さぁ、二人とも封印を」

 僕が促し二人が頷いた。今の状態なら忍さんを守る魔法は効力が無い。
 忍さんが常時発動させ体中を覆っていた障壁は魔導師にとって――この場合は特になのは――最大の脅威に他ならない。
 射撃のような術者の手を離れ発動する魔法は無力も同然。障壁に触れた瞬間、形状を保つ斥力を奪われたちまち分解されてしまうのだ。

 けど万能というわけではない。
 術者と常に繋がっている魔法、魔力を直に乗せた白兵戦。障壁のキャパを越える魔力攻撃。
 なによりこちらも補助魔法等を強制解除させるような魔法でなら押し通せる。
 戦闘スタイルを必然的に限定してくるのに変わりは無いけど。 

「やろう! アリサちゃん」
「オフコース!!」

 駆動音が響き、デバイスが姿を変えていく。その間、忍さんはただ黙ってなのはたちを睨み付けていた。
 こんな博打じみた真似は本当はしたくなかったけど……。
 忍さんは民間人で魔導師の戦いの基本なんてわかってるわけもなく、こっちの気配は悟っていなかった。
 
 だから僕はそのチャンスに全てを賭けた。

「くっ……」

 ――そして勝った。
 
 着々と封印シークエンスを構築していく二人に挟まれては成す術はないと思うけど。
 苦渋に満ちた表情では僕にはそうとしか読み取れない。

「絶対に元に戻してあげます。もうこんなことには絶対なりませんから!」

 なのはの声を合図に魔法陣が生まれ輝く。
 いよいよの時だ。相手がL・ジュエルでも二人なら十分なはず……。

「元に戻るって……戻って何すればいいのよ」
「え?」

 少なくともストラグルバインドで拘束してる時点で忍さんにあの常識離れの力は出せない。

「それは……えと、すずかちゃんのお姉さんでお兄ちゃんの恋人さんの忍さんで……」

 だけどなにか引っかかる。安心しきれないのは彼女が今までにない手ごわい相手だったせいなのか?

「――今更」

 手ごわい相手――もちろんそれは忍さんだ。

「どういう顔して」

 そう、忍さんだけが手ごわかった……?

『Master!』 
『Buddy!』

 今までにない……初めて意志ある人に取り付いたL・ジュエル。

「どういう顔して……すずかに」

 そのジュエルシードは普通のものじゃない。今までのものとは違うもの。

「ノエルに……ファリンに……」

 ジュエルシードであってジュエルシードじゃない。

 すべての、どんな願いも飲み込む底なし穴。

「恭也に――」

 人の想いは動物なんかと違ってずっと鮮明だ。それを全て形に出来るとするなら。

「会えば……いいのよ?」
「忍さん……?」
「だから私は戻らない……」

 追い詰められたとき……感情が高ぶったとき……。 

「――二人とも離れろっ!!」

 生まれる願いは、

「戻りたくない!!」

 二人が振り向く――ことは無かった。

 突風が木の葉を舞い散らすように僕らを中へと放り投げる。一秒にも満たない時間の中で景色は目まぐるしく移り変わり、目には今立っていた場所が見えた。
 それを起こしたのが忍さんの激昂――魔力の放出だということを認識したのは景色が縦に加速し始める寸前だった。
 放り出された体と意識。慌てて飛行魔法を発動させた。

「……あれ?」

 なのに景色は落ち続けていた。 
 屋根、三階の窓、二階の窓……重力に導かれて僕の体が落ちていた。

(まさかそんな!!)

 魔法が発動できない。それは忍さんの障壁が僕らを包み込んでいることに他ならない。
 この土壇場で忍さんは、いやジュエルシードが新たな力を与えたのか。
 身を包むだけだった盾はあらゆる物を包みこむ結界に姿を変え、矛先を僕らに向けていた。

「きゃああああっ!!」

 耳に悲鳴が飛び込んだ。
 届いたって僕にはどうすることも出来ない。自分の身さえままならないのに人が助けられるか。

 ――誤算。

 そう、抗魔法への対抗策はあくまでレベルが低いものの話。規模が強力になればなるほど選択肢は無くなっていく。
 つまり、あまりに強大なものなら全ての魔法が無力化させられるのだ。
 そんなこと普通ならあり得ないことだから。全ての魔法の術式に介入し、無効化するなど不可能にほどがある。

(ジュエルシードなら……なんでもありだろ!)

 そんなセオリー最初から通じない相手だったんだ。それなのに出来ると思って調子に乗っていた。
 絶対大丈夫だと高をくくっていた。

(くそっ……!)

 それこそ絶対にあり得ないことだったのに!

 もう重力は僕の体を鷲掴みにしている。
 この状況じゃジャケットもおそらくいつもの防御機能は行使できない。叩きつけられれば相当なダメージを負うだろう。

 引きずりこまれるしかない。

 ――大地へ。

(みんな……ごめん……)

 心の中で謝ったってもう遅いのに。
 肝心なとこを考えていなかった自分を呪いたくなった。
 
 まったく、最後の最後で台無しにして……いい笑いものじゃないか僕。

* * *

「大丈夫か、なのは」

 いきなり降ってきたのは岩でも槍でもなく妹だった。

 これだけ言ってしまえばどこかの三流小説の件のようではあるが残念ながら事実なので始末に終えない。
 忍を探して最後にたどり着いた月村邸で出会ったのは忍ではなくなのはというのは一体どういうことだ。

「ん……んぅ」

 俺の声に僅かに呻いて身をよじる。
 どこから落ちてきたのか見当はつかないものの、幸い大きな怪我はしていないみたいだ。
 
 いやいやこの場合はそれよりも――。

(なんだこの格好は?)

 一見だけなら聖祥の制服にも見えなくもない。少なくとも胸のリボンを始めとする色とりどりの装飾を抜けばの話だ。
 左手に握られているのは、先が二股になっている……槍なのだろうか。柄は丁度なのはぐらいの背丈で振り回せるぐらいの長さだ。

 金色の穂先――まじまじ見ると厚みがあって槍のそれではない――の根元には真紅の宝玉がぴったりと嵌っている。装飾品にしては大きすぎるし、他にも槍としての機能を妨げるようにいろいろなものがゴチャゴチャくっついている。

「……夢でも見てるのか俺は」
『No,it's a real.Thank you for helping my dangerous』(いいえ、現実です。危ないところをありがとうございました)
「そうか……いや礼には及ばん」
『I am very much obliged to master's brother』(恐縮です、お兄様)

 どうやら現実らしい。何はともあれ妹の危機を救えたのなら決して無駄足ではなかったということだ。

「何をしてたのか、起きたらいろいろ聞かないとな」

 こんな危ない目に合うほどのことだ。ここまで踏み込んだならなのはも観念して口を割るだろう。
 そういえばアリサがびゅんびゅん飛び回ってるととか言ってたな……。案外本当のことなのかもしれない。 
 どちらにせよこんな夜更けに外にいることについては少し灸をすえてやらねばな。

 …………。

 ところで。
 今俺は誰と話をした?

「……気配はない」

 周囲に気を巡らしてみるが怪しげな雰囲気はどこにもない。大体ここは月村邸の敷地だ。セキュリティだって万全だろう。

 後残る可能性といえば――

「いやそれは考えすぎだろう……流石に」

 古来から使い古した物には八百万の神が宿るとか言い伝えはあるがあくまでそれは言い伝えの域を出ない。そんなことが現実にあればさぞ騒がしい世の中になるだろう。
 もっとも今のご時勢じゃ物なんてみんな使い捨てかもしれないが。

「ともかくなのはは置いて行けないな……いったん家に戻ってそれから忍を」
『It is not necessity likely to do』(その必要性は無さそうです)
「なんだって?」

 また声が聞こえた。
 だが俺にはその正体を掴むことよりも、背後に感じた鋭い気配に反応することが先だった。

「確かに……そんなことしてる暇はないな」

 空気が凍りついていた。幾本のナイフが突き刺さっているように俺の背中を貫くそれは明らかな憎悪。
 まさか本当に物の怪の類でも出たのか。俺にとってはにわかには信じられない事実ではあるが、なのはを抱えている状況でそんなことも言ってられない。
 相手はこっちの様子を探っているのか動いてはいない。しかし両手が塞がっていては小太刀を抜くこともままならない。

(どうする……)

 せめてなのはが気がついてくれれば……。

「なにしに来たの……恭也」
「――忍か!?」

 思考を中断させた声。たった一日ぶりだっていうのにひどく懐かしさを覚えてしまうあたり相当俺も参ってるらしい。 

「よかった……いったいどこに行ってたんだ、心配したんだぞ」

 言って振り返った。
 そこには当然ながら忍が立っている。見慣れた服装に風にゆっくりとなびく長髪。何か事件に巻き込まれたかと思ったが、怪我も無いようで本当にいつもの忍だった。
 ただ闇に紛れているせいか表情を窺えないことが気になるのだが。

「まったく、みんなに心配かけてどうしたんだよ……まぁ、今はそんなことはどうでもいい。本当に無事で良かった……忍」

 心の痞えが取れた感じだ。
 どんな理由があっても忍が家出した原因は俺にある。それでも目の前で元気な姿を見せてくれたことは俺にとって一番の救いなのだ。

「もう夜も遅いし家に入ろう。ノエルだってお前のこと探してたんだぞ。ファリンもすずかも心配してる。早く元気な顔見せてやれ」
「なんで?」
「なんでって当然だろ。吸血鬼だかなんかで物騒になってるんだから」
「その吸血鬼が私でも?」

 ぼそりと、諦めたかのような呟きを俺の耳は逃さなかった。
 そうして俺は違和感に気づいた。さっきの気配がいつの間にか俺の体を包み込んでいたからだ。

 そうだ、俺の後ろにいたのは誰だった? 

「な、なに冗談言ってるんだ……怒ってるのはわかってる。全部俺のせいだ。お前を放っていたこと今は後悔してる。……ほんとにすまん」

 俺の後ろに立っていたのは忍だ。

「そう……」

 つまりあの気配を放っていたのは他でもない忍ということになる。

「話がそれだけなら私もう行くけど」
「行くってお前の家はここだろ?」
「そうね……でも違う。私の家はこの夜だけだから。もう戻らないの私」

 ゆっくりと踏み出す忍に月光が注がれる。
 そこにいた忍は俺の知らない、初めて見る顔で俺を見つめていた。

「違うだろ! おまえは忍だ! 吸血鬼なんかじゃない!!」

 俺は叫んでいた。意識したわけじゃない。自然と声を張り上げていた。
 目の前の事実を否定するために。

「うん、吸血鬼じゃないわ。夜の一族だから」
「同じようなものだろ! 悪ふざけもいい加減にしろ!」
「しないわ。……もしするならそれは」

 背筋に寒気。忍の右腕が大きく上がっている。その指先は火でもついたように赤く輝いていて。

「……んぅ……おにいちゃん……?」
「くっ! すまんなのは!!」
「えっ!? きゃあぁ!!」

 ちょうど良く目を覚ましてくれたなのはを近くの茂み目掛け放り投げる。
 同時に、なのはを投げた逆方向へと俺は思い切り跳躍した。

「恭也のせいなんだからっ!」

 瞳に映った残像は赤い三日月。五条の軌跡を残した何かは俺が地面に転がると同時に盛大な爆音を上げた。

「ぐっ!?」

 遅れて爆風と無数の塵が通り過ぎていく。確か後ろは月村邸……誰も巻き込まれてなければいいんだが。

「なんだよ今のは……」

 よろよろと立ち上がって忍を見やる。
 
 ――目が合う。
 
 もう優しさをたたえた瞳はない。氷のような冷たく青い瞳が俺を見つめていた。

「忍……」
「私ね、こんなのになっちゃったの。もう人間じゃないんだから」
「俺の……せいか」

 静かに彼女は頷く。

「だからね、さよならするの。朝とそして恭也たちから」
「そんな……俺は忍がなんになったって」
「だって恋人が吸血鬼もどきなんて嫌でしょ? 一緒に町歩けないわよ」
「だからか」

 もう一度、今度はゆっくり彼女は頷いた。
 月明かりに包まれた忍はどこか儚げで、悲しみを必死に抑えようと感情を失くそうとしているように思えた。

「だからさよなら」
「さよならなんかじゃない!!」

 そんな俺たちの間に割って入ってきたのは感情そのままに叫ぶなのはだった。

「忍さんが一緒にいたいと思ってるなら大丈夫です! 絶対に助けます! だからそんなこと言わないでください!」
「なのはちゃん……」
「みんな怒ってないですよ。だってお兄ちゃんの気持ちは、そうだよね?」

 振り返るなのはの横顔は少しだけ不安に曇っていた。さっきの話を聞いていれば無理もないだろう。まさが原因が俺とは思ってもいなかったようだ。

「当たり前だろそんなの。頭を下げて許してもらえるなら何度だって下げてやるさ」
「きっとノエルさんもファリンさんも……すずかちゃんだって気持ちは同じです。忍さんを待ってるんです」
「――ええ、ですが私からも言いたいことはあります」

 凛と空気を震わす声。聞きなれた声に首を向ければ横から出てきたのは、

「ノエル……なんで」
「お嬢様が考えていることは把握済みです。そろそろ空腹で家に舞い戻るころだと思ってましたから」

 いつものメイド姿でない私服に身を包んだノエルだった。そして傍にはまた突飛な格好のアリサがいた。
 彼女の手にはどんな用途に使うのか分からない巨大なハンマーが握られている。今はそんなこと気にしてる場合ではないのだが。

「お嬢様専属のメイドとして一言言わせてもらいます。外出するなら一言ぐらい声をかけてください。それと外泊するなら連絡を、そうでなければ門限はきちんと守ってください!」

 こんな状況だというのにお説教じみた話を始めるノエル。やはりその顔も至って冷静で、戸惑うというより呆れていた。

「なによ……いつもはそんなのないくせに」
「メイド長は教育係兼ねております。お嬢様が道を外れるなら首根っこ捕まえてでも道に戻します。特に! 昨日今日のことについては、この後たっぷりとお話を聞かせてもらう所存ですが!」
「忍さん、戻ったほうがいいですよ。こういう顔してる時ってすっごく怒ってるんですよ。鮫島の時もそうですから」

 少し茶化してアリサが口を開く。

「だけどあなたの妹を私は襲ったのよ」
「ファリンは気にしてませんよ。むしろお嬢様の身のためなら一肌でも二肌でも脱ぐつもりです。ファリンに負い目を感じるなら今すぐ家に帰ることが最善です」
「すずかもきっと同じ気持ちです、忍さん!」
「アリサちゃん……」

 それっきり忍は俯き、口を閉じた。
 だらんと下げられた両手は拳を作り、そして小刻みに震えている。

 場には静寂が訪れる。
 残ったのは虫の音と時折吹く夜風、それに揺らされざわめく木々だけ。

「…………りたい」

 静けさを破ったのは微かな嗚咽だった。

「もどりたいよぉ……一緒にいたいよぉ……」

 夜に別の音が加わっていく。忍から生まれ落ちるその音はきっと今まで心の中に閉まっていた彼女の本当の気持ちだろう。
 子供のように泣きじゃくって、俺としては今すぐ抱きしめたい衝動に駆られる。
 そうだ、まだあれを渡してなかった。
 
 俺が忍を放ってしまったにっくき原因を。

「――忍」

 名前を呼んで俺は歩き出した。

「きょう……や?」
「忍……お前に渡したいものがある」

 ゆっくりと、一歩ずつ、忍に近づいてく。

「っ!! 駄目! 今来ちゃ駄目ーーっ!!」

 刹那、俺の眼前が光に塗り潰される。
 何が起こった? そう思うよりも早く答えは目の前に提示されていた。

「この子……許してくれないよ……」

 うわ言のように呟いて、忍は胸元に視線を落としていた。そこにあるのは彼女がいつもしている赤い宝石――否、それは青く不気味な光を溢れ出させている。

「忍!!」
「嫌ぁ……助けて……恭也……」

 嫌々と首を振りながら俺を求める忍に、すぐに何が起きているのか、そしてその解決策を導く。

「お兄ちゃん!」
「ああ、俺にも少しは手伝わせてくれ」

 ようは俺と忍の仲を乱した原因はもう一つあるということだ。そうしてそれは忍を今この瞬間も苦しめ続けている。

「助けてやる――絶対にっ!!」

 形振りなんて構っていられるか! 
 成すべきことは、繰り出すものは唯一つ!
 腰の小太刀を引き抜き、構え――腰を落として俺は飛ぶ!!

「うおおおおお!!」

 止まる世界、加速する意識、躍動する心と体――。

 モノクロに染まる世界、只中で俺は神速に達する――!

「でぇやああああ!」

 光が俺目掛け何かを放つ。それは忍が撃った三日月と同じもの。
 数は五つ、三つをかわし一つは右の小太刀で叩き落す。真剣だというのにガラス細工のように太刀はひび割れ、砕け散る。
 最後の一つは避けきれない。だが肩に当たったところで致命傷ではない。すでに刃を左肩に食い込ませながら考える俺も無茶苦茶だ。

 痛み、後悔――そんなものはない。もう目の前に忍はいる。

「せぇぇぇぇいっ!!!」

 右足が大地を踏みしめ、腰が唸りを上げ、左手を振り抜けと脳が命じる。
 全身全霊を持って振られる刃もまた神速。
 軌跡は忍の胸元、眩く光る宝石を一刀の下に切り伏せた。

「忍ーーっ!!」 

 世界に色が戻っていく。宙に放られた光は俺の太刀を受けたにも拘らずなおも輝こうとしている。
 その光から庇うように俺は忍を抱きしめた。
 
 やっと忍をこの手に取り戻せた。そんな子供みたいな喜びと共に。

* * *

 私には自慢のお姉ちゃんがいる。
 機械に詳しくて、ゲームが上手くて、綺麗で――。

 いいところを挙げ始めたらキリがない。それくらい私には自慢のお姉ちゃん。

「封印……できない!?」
「やっぱり二人じゃ……っ!!」

 いつもいつも私は甘えてばかりで、いつもいつもお姉ちゃんを頼ってばかりで。
 だから外の世界に出ることは私にとってすっごく怖いことだった。

「シルフ!! セーバースタイル!!」
『Of cource,Stand by』

 だから聖祥の入学式を翌日に控えたその日だって私は泣いていた。

「っ! すずかちゃん!?」
「あんたもう大丈夫なの!?」
「うん! じゃなきゃお姉ちゃんは助けられないから!!」

 想像もつかない世界、家族と一時だけど離れてしまう寂しさ。そういうのが纏めて不安になって私の心を押し潰して。
 今思い返しても本当に箱入りのお嬢様だったな。

「絶対に! 絶対にお姉ちゃんを助けてみせる!」

 そんな時にお姉ちゃんが私にプレゼントをくれた。
 「勇気の出るおまじない」ってお姉ちゃんが私の頭につけてくれたのは、今だってずっとつけてる真っ白なヘアバンド。
 お姉ちゃんが小さい時につけていたお古なんだけど、その時の私には世界中どんな宝石よりも価値のある大切な宝物だった。
 もちろん今もそれは変わらない。

「描いてシルフ! 私の魔法! 誰も傷つけない、災いだけを包み込む風の姿を!!」

 お姉ちゃんがいつだって傍にいてくれる気がした。勇気が沸いてくる気がした。 
 でも学校じゃやっぱり友達を作ることは出来なくて、一人ぼっちで。

『Open barrel from one to six』

 きっと、その時だってお姉ちゃんは背中を押してくれた。
 自分をアリサちゃんに取らせることで、私に新しい世界へ踏み出す一歩をくれた。

「風よ運べ! 想いと――願い!!」

 光が風となってL・ジュエルを包み込んでいく。風のゆりかごは内にL・ジュエルを秘めたまま一気に小さくなって押し潰していく。
 こんな風に、私もあの日のきっかけがなければ不安にずっと押し潰されていたんだと思う。

「エアリアルプリズナーーーっ!!」

 そんないつもしてもらってばかりの私だから、

「厄災招きし願いの器! L・ジュエル!!」

 今度は、

「封印!!」

 私がお姉ちゃんにしてあげる。

* * *

「サイズ……大丈夫か?」
「うん、大丈夫。よく分かったわね、私のサイズ」
「伊達にお前の恋人やってるわけじゃないからな」

 ようやく封印が終わって、どうやらお兄ちゃんと忍さんは仲直りできたみたい。
 うっとりしながら忍さんは右手に嵌められた指輪を見つめてる。

「テレビの受け売りじゃないんだがほんとに給料三ヶ月分だからな。……前借も含めて」
「だからあんなに勤労意欲満点だったわけ」
「ぶっきらぼうに渡したって喜ばないだろ?」

 なんだか照れてるお兄ちゃんを見るのは始めてかも。
 夜でも分かるくらいお兄ちゃんのほっぺた赤くなってる。

「焦らし過ぎって嫌われるわよ」
「誰かさんにも言われた気がする」

 きっかけはほんの些細なことでもそれがジュエルシードに気に入られたら大変ことになる。
 そんな教訓を残すような今夜の戦い。

「ねぇ、恭也……お願いがあるの」

 突然忍さんがお兄ちゃんの肩に腕を回す。良くあるドラマのラブシーンみたいで、わたしも思わず顔が熱くなったり。

「なんだ?」
「誓いを立てて、これからも二人が共にいられるように」
「指輪じゃ駄目か」 
「だ~め」

 そっと首筋に顔を埋める忍さんは、あの夜すずかちゃんの血を吸おうとした姿にダブって見えた。

「きっと私が血を吸わなかったのは一番最初は恭也が良かったからだと思うの」
「おいおい……」
「で、誓いは?」
「言わなくたって分かるだろ……俺はお前とずっと一緒にいる」

 見ている、と言うか聞いているわたしたちのほうが恥ずかしくなってくる台詞の連発。
 隣を見ると、アリサちゃんが顔はおろか耳まで真っ赤にしてる。すずかちゃんは恥ずかしそうだけどちょっと冷静。
 いつの間にかいたユーノくんは……なぜか平静。

「あの時と同じ言葉ね」
「嫌か?」
「大満足」

 そっと忍さんが目を閉じた。
 ほんとに血を吸っているのかな……? ここからじゃよくわからないけど。

「じゃあ最後に……」
「なのはたちが見てるぞ」
「良いじゃない。最近の子って結構ませてるのよ」
「だからってなの――」

 そんなやり取りを交わしてお兄ちゃんの言葉を塞いでしまう忍さん。

 もちろんその方法は、

「あっ、にゃあ!?」
「あ、あうぅ……」
「大胆だね、お姉ちゃん」

 三者三様と言いますか、もう漫画とかドラマとかの一場面が目の前で繰り広げられていることにわたしたちは成す術なくて。

 高町なのは、生のキスシーンを目の前に頭が沸騰しています。

「んっ……好きよ恭也、誰よりも」
「俺もだ、忍」

 見詰め合う、あまりにラブラブな二人は正直な所もうごちそうさまです。
 というか刺激が強すぎでもうなにがなんだか。

「と、ところでなのはぁ!」
「な、ななにぃ!? アリサちゃん!」

 この場で一番煮え立ってる二人。話題を変えて気を紛らわせようとするのはわたしも同感で。

「忍さんって何で血吸ってるの?」
「……あれ?」

 よく考えたらジュエルシードもないのになんででしょうか……?

『Don't worry』(いいんじゃないんでしょうか)

 締めくくるように夜風がわたしたちを撫でていく。町を騒がせた吸血鬼騒動はなんだかんだでようやく解決したのでした。

 なんだかこれからいろいろ大変そうだけど……。

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