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2007.07/13(Fri)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十話 Bpart 


【More・・・】


 ファリンが意識を取り戻して私が一番にしようとしたことは他でもないお嬢様を探すことだった。
 世間を騒がしている吸血鬼騒動は屋敷の中で働く私の耳にも届いている。物騒な世の中になったものだと思いつつも、まさかそれが自分たちに降りかかることとは夢にも思わないのは人の性だろう。

「それじゃあファリン行って来るわね」
「はい……すいませんお姉様」

 いまだ首筋に生々しく残る傷跡はそれが夢でも嘘でもないことを証明している。馬鹿馬鹿しい話にもほどがある。吸血鬼がいるなんてお話の中だけだろう。

「謝る必要なんてないわ。あなたに落ち度があったわけではないでしょう?」
「でも……」
「体が本調子じゃないなら余計な仕事を増やすだけ。今日はゆっくりしてなさい」

 ファリンが何をしたいかはすぐにわかった。
 キツイ言い方ではあるが、このくらい言わないとこの子は諦めない。誰に似たのか頑固な妹なのだ。

「すずかお嬢様の方も私がお世話するから。あなたが無理して世話される側になったら……ね」

 優しく諭しながら、体を起こしていたファリンをそっとベッドに寝かしつけた。
 申し訳なさそうに私のほうを見てくると何やら悪い気がするのだがぐっと堪える。メイドだって人間、無理を通せる道理は無い。

「ゆっくり養生してなさいね」
「はぁい……」

 毛布を口元まで被りながら、ファリンは仕方ないと言わんばかりに頷いた。

* * *

 ――もう夕暮れか……。

「忍お嬢様……」

 時刻はもう五時を回ろうとしていた。屋敷を出たのは十時を過ぎた頃だから、私は半日以上海鳴の町を彷徨っていたことになる。
 日ごろから広い屋敷の中で働いている身にとっては、歩くことなどどうということはないと思っていたのだが……。

「さすがに……疲れましたね」

 足は棒だった。
 明日は筋肉痛がいいところだ。ファリンには無理をするなとは言っていたが、私も十分に無理を強いている。

「まったく私に似たのでしょうね」

 苦笑しつつ傍のベンチに腰掛けた。
 この時間帯、海浜公園の景色はこの町で一番の絶景になる。目の前に広がる大海原に水平線へ沈む太陽。空には星が瞬き始め、夕焼けと夜が交じり合う。
 けれど誰しも感嘆を上げるような景色も、今の私には暗い影を落とすだけ。夜が来るということが私に不安と心配の種を芽吹かせるのだ。

「どこへ行かれたのですか……お嬢様」

 この景色を見ているはずの彼女の姿を思い浮かべながら脳裏によぎる非現実を振り払う。

「信じることなんて……出来ません……お嬢様が」

 それ以上の言葉はもう喉から出ることは無かった――。
 昨日の出来事だというのにそれは夢のように希薄に、不鮮明になっている。だからといって忘れたわけでもない。私は確かにこの目で見たのだ。

 ――ファリンが他でもないお嬢様に血を吸われていた場面を。

「……はぁ」

 ファリンが外にいたのは本当に偶然だった。飼い猫の一匹を探して庭に出ていた。それだけなのだ。
 私の姿に気づいていたのかいなかったのか。それからお嬢様はとても人間ではない動きで闇に姿を消した。
 そして今に至るまで私はお嬢様の姿を見ていない。

(悪い方向に考えたくありませんが……)

 むしろこの事態をどう受け止めろというのか。
 すずかお嬢様のことも気にかかる。今朝の顔色はどう見ても病人のそれだ。お嬢様は大丈夫だと言っていても長年仕える身にはそのくらい嘘だということよくわかる。
 まさか忍お嬢様に襲われたのか? 

 ……駄目、疑心暗鬼になりそうだ。

「お嬢様の行きそうなところは全部探したはずなのに……」

 ゲームセンターや図書館、商店街や――それはもう本当に町中だ。
 お嬢様のことは誰よりも深く知っていたはずなのに、それでも私はまだ見つけられない。
 もしかしたら彼女の両親よりも彼女を知っている自分でもだ。

「思えばお嬢様が十歳の時でしたね……初めて出会ったのは」

 もうすぐ沈む夕焼けを目に映しながら、思い出すのは出会ったときのこと――。

「あの頃からわんぱくといいますか……じゃじゃ馬といいますか」

 気がつけば笑っている。
 そう、私はいつもお嬢様に笑顔を貰っていた。
 
 あの時も――。

* * *
 
「初めまして、ノエル・K・エーアリヒカイトです」

 なるべく緊張しないように、顔に出さないように、と気をつけても自分の笑みがぎこちないのがわかる。

「そしてこの子が妹のファリンです、ほらファリン」
「よろしく……お願いします……」

 怯えるようなか細い声で挨拶すると、ファリンは私の後ろに回りこむ。スカートを引っ張りながら恐る恐る今度仕える主人を――正確にはそのご子女――覗き見ている。

「すみません……少し人見知りがあって」

 なんとかもう一度、隣に立たせようと後ろ手にファリンを引き剥がそうとするが、その手はがっちりスカートを握り締めているらしく頑として彼女と向き合うつもりはないようだ。
 私だってこんな年下相手に緊張しているのだから無理も無いというか。だったら何で緊張しているのかと問い詰めたくなって。

「……別にメイドなんていらない」

 悶々している間にがつん、と一発。
 お嬢様最初の一言はそれであった。

「でも家の侍女になるんだから仕事はしっかりしてね」
「え……? あ、あのお嬢様」
「あんまり私のことに関わらないでね。私すずかと遊んでくるから」

 訝しげに睨んでくるのは拒絶の意思。はたまたこれは牽制なのか彼女は踵を返した。

「邪魔……しないで」

 棘を含ませながら奥へと消えていくお嬢様。なんだかその背中には年不相応な威厳が漂っている気がした。
 威圧感を与える――言葉にするならそれだ。

「……お姉様?」

 我に返ったのは不安そうなファリンの声が耳に届いてからだった。

「あ、そうね。今日からここが私たちの家なんだから、頑張らないとね」
「私も頑張る」

 彼女が去ったおかげかファリンはようやく笑顔を浮かべた。
 私も笑みを返して、一歩踏み出す。今までは真似事だった仕事はこの足が床に着くと同時に本当の仕事となる。これからはメイドとして恥じないよう粉骨砕身この家に仕えるのだ。

 とはいうものの……。

「前途多難……ね、はぁ」

 この時私は十六歳でお嬢様はまだ僅か十歳。ファリンは七歳で、鈴鹿お嬢様は一歳になったばかり。
 一番年上のはずなのにこの屋敷の中では惨めなほど小さく自分が思えて。雰囲気とかそういうものはなんだかお嬢様のほうがずっと厚みがあった。
 
 初めて踏んだ月村の敷居は、私にとってはなんだかずいぶんと高いもののように思えた。

* * *

「……熱い」

 風邪みたいなだるさに視線は宙を泳ぎっぱなし。足はふらつくし意識は朦朧としてるし。
 あれから一睡もせず町中を彷徨い続ける私。
 夜が明け、町は動き出し、刻々と変わっていく町並みをリアルタイムで眺め続けるのはある意味新鮮な経験だけど……。

「まずいわね……ほんとに」

 いつものように時間切れ。そこまではいつも通り。その後は適当に可愛い女の子を見つけて血を吸って――真似事しかしてないけど――また夜の街を飛び回る。
 二回目の時間切れのころには家に戻って少し眠る。
 目覚めれば普段通りの月村忍の日常がまた始まる。

(すずかの吸ってから……よね。姉妹だとなにか悪いことでもあるのかしら……)

 あの日の夜、ふらっと出た庭先で見つけた青い宝石。芝生の中に埋もれてた辺り、誰かの落し物を猫が拾ってきたんだと思った。
 手に取って、月に透かして、石を通って降り注ぐ神秘的な輝きに少し見惚れて。
 なんだかその光は私に何でもできそうな力をくれてるみたいに思えて――。

(何もかも忘れるくらい飛び回りたい……この夜を私のものにしたい……)

 思いつきな願い――というわけでもない。恭也には放っておかれるし、小説は読み終わっちゃったし、じっとしていたくなかった。
 むしゃくしゃというか鬱憤晴らしというか……多分寂しさを紛らわすものが欲しかった。

 ――そうして気がつけば私は夜の空を跳んでいた。

 直感だけどあの宝石が私の願いを叶えてくれたんだと思った。神様の気まぐれが私に夜をくれたんだ。
 
 私は夜の一族になった。小説とちょっとだけ違う、私なりに想像した理想の姿ががそこにあったのだから。

(それでこの有様なんてね)

 私は血を吸ってない。ほんとは吸いたくて堪らないんだけどいつも吸えなかった。
 その代わり別の何かを吸い取ってるみたいで、その何かは私にとって、この宝石にとって欠かせない栄養みたいなのだ。

 昨日の夜なのはちゃんを庇ったすずかに思わず牙を突き立てて、血じゃない何かを吸って――。
 途端、体が沸騰したみたいに熱くなって世界が傾いた。いつもならこんなことなかったのに。
 それからのことは夢みたいに曖昧。屋根から落ちて、目の前にファリンがいて、体中をめぐる何かを薄めようと思ったのかファリンにも牙を突き立てて。

 どうやって逃げたのか? 過程はこの際置いて、我に返ったとき私は寝静まった商店街をふらふら歩いていた。

「誰も気づいてくれないのよね……今の私って」 

 どうやら夜の一族になっているときの私って普通の人には気づかれないみたい。ずっと纏わりついているこの霧が原因なのはなんとなくわかるけど。
 おそらく一種のステルス装置。どういう仕組みか見当もつかないけど、昨日のすずかたちの姿を見ればいわゆる魔法……とかそういう類なんだろう。

(よく言うしね……高度な科学は魔法になるって)

 帰ったらこってり絞ってあげないとね。子供の夜遊びはいけないんだから。
 あの杖とか特に分解しがいありそうだし。

「元に戻ったら…………戻ったって帰れるわけ無いのに」

 帰りたいなぁ……ご飯も食べてないし。けどファリンやすずかにあんなことしちゃった手前、そんな簡単に帰れるわけなんて無いのに。

「夕日……綺麗だなぁ」

 散々町を回って辿り着いた私を迎えてくれたのは海浜公園の夕焼けだった。
 もうすぐ夜が来る。そうすれば私の時間、私の力が目覚めていく。

「なんだか嫌になってきちゃった……」 

 自分の大事な人たちを襲って初めて気づいたのかもしれない。
 この夜の力がすごく怖くて、嫌な物だって。
 今まで襲った人たち大丈夫なのかな……。

「……ノエル探してるんだろうな」 

 絶対心配かけてるって言い切れるところがまた悲しい。私がいなくなること自体、月村家にいるすべての人に迷惑かけてるようなもんだし。

「もうすぐ十年か……ノエルやファリンと出会って」

 あの時からほんとに私ってノエルに迷惑かけっ放しだったな。
 それでもノエルは私のこと親身になって世話焼いてくれて……。
 嬉しかったな。パパやママとあの時はそんなに仲良くなかったからその分甘えてて。
 きっと、今の私はノエルやファリン、すずかがいてくれたからここにいられるんだ。
 
 あの時からきっと――……そう。

* * *

「故障……?」
「はい、どうも昨日から調子が悪くて」

 ノエルが今日持ってきたのは掃除機だった。話を聞けば、電源を入れても動かなくなったという故障の類としては一般的なものだ。

「すいません、本来ならお嬢様などにこのようなことをしていただくわけにはいかないのですが」
「いいの! どうせ壊れたら新しいの買うんだし……それじゃこの子が可哀想なんだから」

 近頃の電化製品は機能が上がるに比例するようにデリケートになっていく。あれもこれも詰めて、それ全部を制御しようと余計な電子部品をゴチャゴチャつけていくせいだ。
 壊そうと思えばすぐに壊せる。そうして壊れたらそのままぽいってゴミ捨て場直行。
 お金があればすぐに代わりが用意できるし、修理に出して時間をかけるよりよっぽど。

「修理に出したって時間かかるんだし私が直せばすぐよ、こんなの」

 少し顔の筋肉がにんまりしてくる。勝手に分解すればパパもママもいい顔はしないけど修理って言えば問題ない。丁度いい口実だ。
 壊れたのはモーターか? それとも他のどこかか? 透視するみたいに私は掃除機全体をなめるように見つめた。

「大きいものじゃないし三十分もあれば直せるわ」

 正直、機械と慣れ親しんでる私には朝飯前の仕事だ。

「本当ですか? ありがとうございます」
「いいのいいの、ノエルが壊してくれるから私も直せるんだし」
「……え? あっ……その」

 今日は掃除機、四日前はエアコン、十日前は電子レンジだ。さらに言うなら二十日前はテレビといった具合に、この一月で呪われているかのように我が家の電化製品が故障している。
 普通に考えればこんなに患者が出ると誰が思えるだろう。いくらデリケートといってもこれは度が過ぎている。

「いいの? パパには忍に機械弄りさせるなって言われてるんでしょ?」

 あの二人は私が機械弄りをすることを、全くと言ってもいいくらい良く思ってない。いや、私がすることすべて疎ましく思ってるって言うほうが正しいかも。

「どうして壊れたのか見ればわかるわ。水……吸い込んだんでしょ?」

 ポーカーフェイス気取りでも微かに動く喉が図星だって教えてくれる。ほんとはヤマをかけただけ。掃除機を壊すっていったらこれぐらいしかないし。
 冷静そうに見えて意外とノエルってわかりやすい性格なのよね。

「……別に怒らないわよ。簡単に元に戻せるんだから……でもねノエル、機械だって勝手に壊されたら可哀想。なんでこんなことしてるの?」

 私から見ればノエルの働きは年不相応そのもの。
 ここに来る前は綺堂の家で過ごしていたって聞いた。ちなみに綺堂というのは月村の親戚である。
 事故か何かで身寄りの無くなったノエルたちを引き取って、仕事の方はメイドの手伝いをしている中で磨き上げたらしい。確かに小さい時からメイド見習いもどきなら頷ける理由だ。

「……それは……お嬢様を笑わせたいからです」
「え?」
「お嬢様は普段笑いません。例え旦那様や奥様の前でも。でもファリンやすずかお嬢様と一緒におられる時は笑っておられます……それに今も」

 静かに語って真っ直ぐ見つめて――。

「お嬢様は無理をなされています。だから私は少しでもそれを和らげる存在になりたい……おこがましいかもしれませんが」 
「……無理なんかしてないわ」
「いいえ、しています」
「どうしてそんなことわかるの? 他人のくせに……メイドのくせに」
「お嬢様にはそう思われても私にとっては家族ですから」

 ――笑顔だった。私の無礼な言葉にも微笑みながらノエルは答えた。

 そしてそっと胸に手を当て、言葉を紡ぎだしていく。

「だから他人じゃありません。大切な人なんです」
「それで笑えって? 今更あの人たちと仲良くするつもりない」

 昔からそうだ。月村のご令嬢らしく、女性らしく、おしとやかに育てようとするのが私の親のやり方。
 泥んこになって遊ぶのも、機械を弄くるのも、男の子たちと遊ぶのも、あの人たちは頭ごなしに止めさせようとした。
 人を人形みたいに扱う態度が小さいときから気に入らない私。あの人たちをパパとママと呼ぶのもささやかな抵抗の一つだ。

「旦那様たちのお考えもわかってあげてください」
「わかりたくない」

 もちろん私だってそこまで子供ってわけじゃない。大会社の令嬢ともなれば気品だって必要なのだ。だから人前ではいい子に映るよう努力はしている。

 本当に見てほしいのはそんな誰にでも出来そうなことじゃないのに……。 

「機械弄りで気を引こうとしてても?」
「そ、そんなわけないでしょ!」

 いきなりの言葉に私はめったに上げない声を思いっ切り上げていた。
 しまった、これじゃあからさまじゃない。
 案の定ノエルにんまりしてる。

「今度は私の勝ちですね」 
「まさか……ヤマかけ?」
「ええ」

 …………。

 ……うう。

「ですが旦那様たちの頑固頭には私も辟易です。お嬢様のシグナルを見逃しているのだけはいただけません」
「……え?」
「今夜の夕食の席で思い切って談判してみてはどうですか?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべるノエルは今まで見たことの無い顔だった。
 こんな顔もできるのか……失礼だけどそう思ってしまった。
 でもそれってこんな風にノエルと話したことが無いせいじゃないんだろうか? もしかしたらすずかやファリンは私が知らないノエルの一面をもっと知っているんじゃないのだろうか。

「言葉じゃないと伝わらないこともあります。どうですか? きっと驚きますよ」

 今度は打って変わって優しい微笑み。決して強制させない、あくまで返事は私の意志に任せている。

「……約束できないわよ」

 妙に照れくさくなって、明後日の方向を向いてようやく出せた言葉はそれ。

「はい、いざとなったら引っ張ってでも私が言わせますのでご安心を」
「ちょっと……それメイドの仕事じゃない!」
「お嬢様を正しい道に導くのもメイドの勤めです」
「もう! ノエルったら!」

 きっと私はこの時、初めて笑えたんだと思う。
 すずかやファリン、機械相手に見せる笑顔。ううん、もっと違う、心からの、

 素直な笑顔を――。

* * *

「本当に、あの後は自分の言い出しがあそこまで騒ぎになるとは思ってませんでしたね」

 お嬢様と旦那様と奥様で大喧嘩になってしまって。なぜかいつの間にか旦那様と奥様の夫婦喧嘩に発展して――。
 グラスやらフォークやら、色んなものが飛び交う様は、とても気品に彩られていた月村家のものではなかったりで。

「丸く収まったから良しとしましょう。ファリンのドジに寛大になるように」

 そう、これは若気の至りというやつだ。そのおかげでお嬢様のわだかまりは溶けていったのだから。

 私が忍お嬢様専属のメイドに任命されたのはすぐその後だった。他でもない忍お嬢様のお声で。
 言葉に表せないくらい嬉しかった。私も家族として受け入れられた気がしたから。
 両親を事故で失って、親しかった綺堂の家に引き取られて、それから月村家に奉公に行って欲しいと言われて。

 実はお嬢様の相手になってほしいというのがそもそもの理由であったりするのは内緒である。
 親類縁者にも心配をかけさせるぐらい忍お嬢様はおてんば娘なのだ。

「長い旅ですね……これはある意味」

 ひとまずの終着点は見つけたのだ。どれほどの時を過ごすかはわからないが、ここが私の家族であり羽を休める場所。

「……お嬢様」

 だから必要なのだ。お嬢様の存在がここに。
 だというのに見つけられない。やはり私一人じゃ無理というわけなのか。無力感が体を包み込み、心を嫌でも暗く落ち込ませていく。

 それにしたって人を呼ぶわけには行かないだろう。私以外でお嬢様を知り尽くしている人間は数えるほどしか――……。

「ああ……そうでした。いるじゃないですか、忍お嬢様を託すことのできる人が」

 ちゃちなプライドはこの際捨てるに限る。
 携帯を取り出し、手早く操作してお嬢様を見つけてくれるだろう人への電話を繋ぐ。

「はい……ほんとうになんとお礼を言ったらいいのか」

 やがて切れる電話に私はゆっくりと腰を上げた。梅雨だというのに風はそれほど湿ってなくて、春風のような心地よさが私を撫でていった。

 ほっ、とため息。人任せにして終わりというわけではないのだ。

「さぁ、探しますか!」

 私だってプライドがある。お嬢様のことは手に取るようにわかっている自分が負けてなるものか。

「ほんと……嫉妬してしまいますね」

 一番星を見上げながら呟いたささやかな愚痴は夕闇の混じった夕焼け空にあっという間に溶けていった。

 待っていて。必ず、あなたを見つけます。

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