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2007.07/13(Fri)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十話 Apart 


【More・・・】


 忍さんが……敵?
 信じられない……。なんでこんなことになってしまったのか、原因なんてアタシにはわかるはずもなくて。
 だけど戦うことが避けられないのは馬鹿でもわかる。

「二人とも……なにぼさっとしてんのよ!」
「だ、だけど!」

 そんな顔しないでよなのは。戸惑いたいのはアタシだって同じなのに!
 だけどアタシは歯を食いしばって、真っ直ぐ忍さんを見つめて、絶対に動揺が悟られないように。

 弱みは見せない。アタシまで折れたら誰がこの子達を立ち直らせるの?
 言い聞かせ、まだ信じられない現実を前にアタシはバーサーカーを構えなおした。

「あら? 囲んできたから何かするかと思ったけどなにもなし? それともハンデとか?」

 余裕を漂わせながら、忍さんがゆっくりと右手を顔の横まで上げた。

「だったら後悔すると思うけどなぁ……さっきのでわかったけど今の私って――」

 何か別の生き物のように拳が大きく開いた。
 ありえないほど、長く伸びた爪。それは血みたいな赤で鈍く輝いていた。

「っ!? バーサーカー!!」
「こんなことも出来るのよね」

 囁きが空気を振るわせるより早く振られる腕、

『Yeah!!』

 アタシが叫び、バーサーカーが吼えたのはそれと息を合わせたように同時だった。

 左へ飛ぶ――! 一秒前にいた場所を、あの赤い刃が屋根を抉り取りながら猛スピードで飛んでいく!
 驚いてる場合じゃない。もう頭の中には次なる行動が示されている。

「スプラッシュウェーブ! でぇぇぇい!!」

 叩きつける――茜色の衝撃波が駆け抜けなのはの前へ立ち塞がった。
 高密度の魔力の波は盾代わり。なのはへ向けられた凶刃は全てがその前に叩き落される。

(ユーノ! すずかをっ!!)

 口に出すことさえまどろっこしい! 
 タイムラグは限りなくゼロに、そうじゃきゃ忍さんの攻撃は防ぎきれない!

「くっ! ラウンドシールド!!」

 ガキンガキン!! と寒気がするような音。
 忍さんの背中越しに魔法の光が見える。間一髪、すずかへの攻撃は受け止められたみたいだ。

 ――けど安堵する暇は無い。問題はここからだ。

「バーサーカー! リロード!!」
『Meteoride』

 急激な脱力感と引き換えにアタシの周囲に精製される弾頭――その数七つ。
 この距離――あまりに近すぎる。

 だけどこの魔法は最初から、

(そのつもりの魔法なのよ!!)

 相手が追撃に転じる前に、振り上げた槌で目の前の弾頭を叩き潰す――!!

「ぶっ飛べーーーっ!!」

 弾ける光は残さず浮かんでいた残りの弾頭に衝突し、

『Gatling metore』
 
 一斉爆発――!!

「うっくぅ!?」

 爆発、爆風、爆音と、とにかくいろんなものがもろに体へ襲い掛かる。
 バリアなんて張れるわけないアタシにはバリアジャケットだけが唯一の防御ってのがなんとも痛い。
 前も後ろも訳が分からなくなる中で、アタシは何とか空中向けて屋根を蹴った。

『Are you okay? Buddy?』
「当たり前でしょ!」 

 真下を見れば連鎖爆発の名残が濛々と立ち込めていた。
 あちゃ~……これじゃあ間違いなく屋根に穴が開いたわ、絶対。
 でもこれで家の屋根の心配をしている余裕があったらアタシはとんでもなく大馬鹿者だろう。
 無我夢中で魔法を使わなきゃ全滅は免れなかったと思う。

「ぶっつけ本番……キツイわね」

 目くらまし代わりの魔法がこれだなんて荒っぽいというかなんというか……。
 魔力は相当持ってかれてるし、ダメージも大きい。ぜーはーぜーはー、言ってるのはアタシの口で本音を言うと結構苦しい。
 一発でも結構魔力を押し込めてる物を計七発。それを至近距離で一斉に爆破させるなんて我ながら馬鹿らしい魔法だ。自爆技とでも言えばいいんだろうか。

「だけど――」

 煙の中から飛び出してくる影は三つ。アタシのすぐ横になのは、向かい合うようにしてユーノとすずか。すずかはまだショックから立ち直れていないのかユーノに支えられている。 
 アタシの機転がみんなを救った。
  
 友達を守れたこと――だから後悔なんて絶対しない。

「あんたたち怪我ないわよね?」
「うん、なんとか……」
「私も……大丈夫」

 なのはのほうはまだ大丈夫そうだ。けどすずかの方は……まずい。

 そりゃあお姉さんがジュエルシードに取り付かれていて、しかも襲ってくるなんて平気に受け止められる出来事じゃないと思う。
 アタシだって身近な誰かがそんなことになったら……って思うと足が竦んで動けなくなりそう。

「次で……一気に決めるわよ。なのはは後方から射撃でかく乱、アタシが踏み込んですずかとユーノでバインド」
「お姉ちゃんを……撃つの?」
「やられろっていうの?」

 震えている声を質問返しであしらった。

「アリサちゃんは平気なの……? 忍さんなんだよ」

 なのはもやっぱり躊躇っている。その言葉は明らかにアタシの言葉を否定するような言い方だ。

「さっきの見たでしょ……忍さんは本気よ」

 例えて言うなら忍さんの目はライオンみたいな、肉食獣の目――みたいな。
 決してジュエルシードに意識を乗っ取られているわけじゃない。どちらかといえば自分の意思で今の力を使っている。アタシたちが魔法を使うようにだ。

「なのはにユーノ、二人はどうするの?」
「……このままはいけないけど」
「僕はやるべきだと思う」
「ユーノくん!?」

 なのははユーノがアタシに賛成したことが信じられないといったご様子。やっぱり世界が違えば考え方も違うのか。
 もしかしたらユーノはアタシが思っていることが分かっているのかしら。どうでもいいけど。

「だけど相手は忍さんで」
「じゃああんたは誰なら撃てるの」
「えっ……」
「ジュエルシードなら同じじゃない?」
「それは……」

 予感がなかったわけではない。きっとこの先、ジュエルシードを封印する内にこんなこともあるんだろうと思ってたのは本当のこと。

 いつか必ずアタシたちの前に通せんぼする試練。

「なのはもすずかもほんとに馬鹿ね! すっごい馬鹿っ!!」

 そんなちっぽけな試練なんて叱り飛ばしてやる。
 動物や植物にジュエルシードが取り付くことは今までたくさんあった。でも、人に取り付いたのを見たのはアタシにとっては今夜が初めて。
 しかもあろうことかすずかのお姉さんの忍さんだってわかってもっとびっくりして。

「アタシたちのやること……魔法使いの仕事忘れたわけじゃないでしょ?」

 でもそれを盾に、何もかも諦めようなんて馬鹿みたいだ。

「誰かを傷つけちゃうのはアタシだって出来ればやりたくないわよ……当然よね」

 あんまり長話をするわけにもいかない。いつ忍さんが仕掛けてきても大丈夫なように、言いたいことだけ簡潔に、すぐに纏めてアタシはまた口を開く。 

「でも! 目の前にいるのが大切な人でもちゃんとしなきゃならない。ううん、大切な人だからこそちゃんとしなきゃいけないのよ!」

 傷つけるのが怖いなんて都合のいい言い訳は沢山。

「ジュエルシードなんて訳の分からないもの大好きなこの町の、大切な人たちの日常を壊させやしないんだから!」

 本当に大事なのは非日常からこの町に住むみんなを守ること。魔法使いとして、アタシにとっての勤めはそれだけだ。

「大切な人がジュエルシードに捕らわれているなら助けてあげなきゃ駄目に決まってる!」
「アリサちゃん……」

 なのはが顔を上げる。まだ不安の色が残る顔だけど、さっきよりかは少しはマシになった感じ。

「最初はなのはのこと守ってあげようって手に入れた力。今はみんなの大切を守ってあげようって力になってる」

 アタシたちだから出来る大事なこと。この力はその願いを叶えるためにある。
 絶対に傷つける力になんてならない。

 ――させない!

「すずか……それでも駄目なら見てるだけでもいいわ。アタシはやるから……あんたのお姉ちゃん助けて見せるから」

 まったく……まだ強がりが言えるなんて随分と偏屈な口なんだから。 

「一人でだってやってみせる」

 本当はさっきので相当ダメージ食らってる。ギブアップしたいのはやまやまなのよね。

「わたしは後方支援だよね」
「そっ、出来るだけかく乱できれば……ってなのは?」
「わたしだって気持ちは同じだよ。アリサちゃんの言う通り、わたしたちみんなのために頑張ってるんだから。……それにね」

 視線を逸らしながら恥ずかしそうに続ける。

「一人で頑張りすぎて失敗するのは懲りてますから。だから一緒だよ」
 
 悪戯っぽくなのはが笑った。

「まったく……だったら最初からやる気になりなさい」

 やっぱりなのはは強いわ。流石剣術家の娘ってとこかしら?

「じゃあ僕はバインドだね」
「ついでに防御の方も任せるから。大変なポジションよ、失敗したらただじゃおかないんだから」
「覚悟しておくよ」
「上出来よ、マネージャー」 

 これで三対一。数じゃこっちがずっと有利だけどアタシはアタシで魔力は僅か。だからって手を抜きなんかしない。

「いくわよ……二人とも!」
「うん!」
「よし!」
  
 やるなら絶対……なのはみたいに全力全開! 手加減なし!!

「バーサーカー! Ready!!」
『Yeah!!!!』

 第二ラウンドの始まり!!
 
* * *

「捕えろっ!!」

 両手から撃ち出される鎖は複雑な軌道を描きながらすずかのお姉さん――忍さん目掛け躊躇うことなく伸びていく。

「シューーート!!」

 緑の中を翔ける桜の光。鎖を縫うが如く、光は目まぐるしく動きを変える。
 狙いはただ一つ。今までの僕らなら当てることなんて造作もないことだ。

 忍さんは僕らを見上げたままで動かない。それとも動けないのかもしれない。どっちかを避ければ残った方の餌食になるんだ。下手には動けない。

「よし! 行ける!」

 そうこうする間もなく鎖が忍さんの腕に絡みついた。軋む手ごたえに思わず声を上げるのを抑えられない。
 続けて足、体と、鎖が自由を奪い取り忍さんの退路を塞ぐ。さっきみたいな動きをされたらお手上げだけど、動かれる前なら僕たちに分がある。

「ちょっと痛いかもしれませんけど、ごめんなさい! 忍さん!」

 なのはがレイジングハートを振り下ろせば鎖の中から飛び出したシューター全部が忍さんへと一気になだれ込む。
 ガラス球が砕けるように、シューターは忍さんへぶつかるたび粉々に飛び散っていく。一発、二発、三発とあっという間に全部が命中した。

『It's a direct hit,Master』

 レイジングハートが告げ、鎖から力が抜けていくのが伝わってくる。忍さんの体が前へと傾くのが見えた。

「やったの?」
「多分……」

 相手はL・ジュエルだ。迂闊な考えは命取りに繋がるかもしれないけど、あれだけ魔力攻撃を直接もらったんだ。まず持つわけがない。
 だけどそれも次の瞬間に、淡い期待だと思い知らされた。

「ふぅん……なかなか息の合った連携ね。それだけだけど」

 確かに、彼女はそう言った。
 時間を巻き戻すように、前のめりだった上体を起こし忍さんは体を屈める。
 そうして僕たちを見据え、一瞬ニヤッと笑うと何事もなかったかのように、

「はっ!!」

 飛んできた――!?

「二人とも下がんなさい!」

 即座にアリサが杖を構え突進した。
 真正面からの純粋な力勝負。向かい打つアリサは加速魔法のおかげで弾丸そのもの。ただ跳躍した忍さんには端から勝負にならない。

「こんのぉぉぉお!」

 振りかぶるは夜を打ち払う渾身の一撃。
 それを忍さんは、

「よっと」

 片手で受け止めた。

「――うそっ!?」

 アリサが呆気に取られ、後ろにいた僕も目の前の光景に目を疑った。

「まずアリサちゃん」

 それは一瞬の出来事。
 驚き慌てて、体勢を立て直そうとするアリサを嘲笑うように忍さんがデバイスを引き寄せる。咄嗟の事にアリサは対応できるわけもなく、バランスを崩し、空中でつんのめった。
 忍さんの姿が一瞬掻き消え、再び姿を現した場所はアリサの頭上。片足は高く掲げられ、忍さんは躊躇することなく、

「ゲームオーバーっ!」

 稲妻みたいな踵落としをアリサの背中へ叩きつけた。

「きゃあああ!!」

 悲鳴が届いた時、アリサの姿はもう屋根を突き破って見えなくなっていた。
 火事でも起きたみたいに穴が開いたところからは煙が昇っている。塵や埃が舞い上がりここからじゃアリサが無事か分からない。

「次ーーっ! なのはちゃんと――!!」
「さ、下がってなのは!!」

 半壊した屋根へと舞い降りると同時に忍さんが再び跳躍する。アリサの加速魔法のようにそのスピードは段違いだ。

「はぁぁ!!」

 左右から振りかぶられる両手を赤い光が染めていく。すぐさまそれは爪を形作り、闇に赤い軌跡を刻み込んだ。
 なのはを後ろに庇いながら僕は障壁を展開する。片手じゃない、両手での二枚重ねで。

「ぐっ!?」

 ズドン! ともの凄い衝撃が腕を突き抜けた。
 予想以上の手ごたえ。もはや女性の腕力なんてレベルじゃない。
 障壁越しに見える忍さんは笑っている。それが全力じゃないことを嫌でも思い知らされる。

(――なっ!?) 

 さらに加えて、目に飛び込む有り得ない光景。僕はまた目を疑った。

 壁は未だ、砕けず主を守っている。
 ただ両手の障壁どちらにも、赤爪が半分以上食い込んで切っ先が顔を出しているのだ。
 障壁の術式が破壊されたわけではなかった。破壊されたならすでに壁は両手から無くなっているはず。
 なのに爪は最初からあった穴に通すように僕の障壁を貫通していた。

「なのはっ!!」
 
 僕は叫んでいた。
 目の前の異常を分析するよりも優先すべきことに口が動いていた。
 
「うん!!」

 忍さんが体勢を立て直すよりも早くなのはが飛び出す。
 フラッシュムーブで一気に後ろへ回り込み、引っさげたスフィアを、

「シューート!!」

 これでもかと叩きつける!

 なのはには本来得意としない至近距離。それだけに射撃に制御はいらない。
 無防備な忍さんへと濁流のようにぶつかる光は計十発。当たり、砕け、思うままに命中する。
 これだけの量なら忍さんだって。

「豆鉄砲ぶつけても私は!!」
「なっ!? うわあっ!!」

 暴力的な腕力に爪が障壁を引き裂いた。砕け、虚空へ消え入る魔力の破片に彩られながら忍さんの姿がぶれる。
 視界から消える。だけど発せられる魔力でどこに消えたかは一目瞭然だ。

「ぐぅぅ!!」

 噛み殺した声が漏れる中、反転した僕を待ち受けていたのは忍さんの右足だ。
 回りこまれたのはわかった――けど反応しきれるか!?

「でぇーやぁっ!!」

 刹那の戦いだった。
 腕を十字に組むと同時に、こん棒で殴られたみたいな衝撃が腕に襲い掛かった。
 景色は一気に流れ、慣性を魔法で相殺する暇もなく、僕の体は意識を置いてけぼりにしたままアリサと同じ末路に至った。

「ユーノくんっ!!」

 なのはの悲痛な声に瓦礫の山から体を上げる。
 ぽっかり空いた屋根から見えたのは忍さんがなのはに爪を振るう瞬間――。

「こんのおぉ!!」

 腕の激痛に構うことなく無我夢中でバインドを放った。
 
(これ以上好きにはさせない! なのはをやらせるかっ!!)
   
 忍さんの腕に鎖が絡みついていく。それはなのはに爪が届く寸前の瀬戸際。ギリギリだ。
 悲鳴を上げたのは右腕だけじゃない。左腕もそれ以上に激痛が走った。骨にヒビが入っているかもしれない。

 それでも追撃、隙を作れればまだ勝機はある。

「うそ! やられた!?」

 油断していたのは忍さんだ。僕に動きを封じられぐらりとバランスを崩していく。
 飛行魔法が使えないのなら今の彼女は完全に無防備。

 だから――!

「なのはーーっ!!」
 
 これで――!

「ディバイーーン!!」

 終わる――!

* * *

 終わらせる――!

「バスターーーっ!!」

 大きな光が何もかも、目の前の忍さんだって飲み込んだ。
 ユーノくんがくれたチャンス、絶対に無駄にしない。

 外しようが無い距離でわたしの魔法は全力全開で!

「いっけーーーっ!!!」

 ぐん、とさらに大きく、太くなるディバインバスター。腕を押す圧力に負けじと力をこめてわたしは撃ち続ける。
 忍さんを変えた元凶――L・ジュエルを封印するために最後の一滴までわたしは魔力を振り絞った。

(これで……)

 体から力が抜けると同時に光線が段々と細く小さくなっていく。光が消えれば、少しだけぼろぼろになった忍さんがわたしの前にいた。

「封印できる!」

 肝心のL・ジュエルは見当たらないけどすずかちゃんに任せれば……。
 大丈夫かな……すずかちゃん。
 気になってすずかちゃんがどこにいるか振り返った。 

「やるじゃない……なのはちゃん。今のちょっとだけ効いたわ」

 ――背筋が凍った。

『Flash move』

 もう逃げることしか頭に無かった。一気に体を後ろへ飛ばして忍さんの方向を見る。
 いつの間にか忍さんは体勢を立て直して屋根に降り立っていた。
 できるだけ距離を、とにかく離れて。わたしが着地したのは屋根から落ちそうなくらいギリギリの縁だった。

「そんな……嘘だよ」

 あんな近くで、フェイトちゃんにスターライトブレイカーをぶつけた時よりもずっと近いのに。
 バリアだって無いのになんで……?

「嘘じゃないわ。だって私この通り元気なんだから」

 目を細め、にやっと笑って忍さんは髪を掻き揚げる。いつも綺麗って思えたサラサラの髪の毛は、この時だけ何か蛇みたいなとても怖いものに見えた。

「……降参する?」
「え……?」
「負けた相手をいたぶるなんて酷いこと、流石にしたくないからね」
「わたし……まだ負けたなんて」

 言ってみて、それから先の言葉は出て来なかった。

 わたし以外誰がここにいるの? アリサちゃんも、ユーノくんも、すずかちゃんも、みんな戦えない。頑張れるのはわたし一人だけ。

「それじゃ恭也みたいに剣で戦ってみる? さっきのビームとかじゃ私に傷はつけられないと思うけどなぁ」

 一歩、忍さんが踏み出す。
 得体の知れない迫力に後ずさろうとした拍子、踵が宙に放り出されそうになって慌てて引っ込めた。逃げ道なんて無かった。
 飛行すればまだ逃げ切れると思う。でもそれじゃ負けを認めちゃったのと同じ。
 ここで逃がしたら忍さんはまた関係ない人を襲うんだ。それだけは絶対にしちゃいけない。

「それでも……戦います! 忍さんを放っておくなんて出来ない!」
「そっか……じゃあしょうがないか」

 振り上げた右腕が不気味な赤に輝いた。

「恭也の手前、なのはちゃんだけは手加減しようと思ってたけど」

 真っ白な月光に照らされながら指先からわたしたちを苦しめた赤い爪が伸びていく。
 フラッシュムーブでも避けられないのはもうわかりきってる。わたしに残された手段は一か八かディバインバスターで打ち消すぐらい。

「やれるかわからないけど……レイジングハート」
『All right』

 さっきので魔力はかなり消耗してる。それでも一箇所に収束させればなんとかできる……はず。

「これで終わりっ!!」

 腕が振り下ろされて、

「いくよ!」

 わたしがディバインバスターを撃って、

「あっ――!? きゃああ!!」

 悲鳴を上げたのは忍さんだった。

「えっ?」
『……Was I made of fun?』(からかわれたんでしょうか?)

 五本の爪はどれもわたしの脇を飛んで見当違いな方向へ消えていった。
 おかげでわたしのディバインバスターは何にも邪魔されること無く、忍さんの体に真正面からぶつかっていた。

「あっ、ぐぅ……」
「忍さん……?」

 きょとんしたわたしに追い討ちをかけるように忍さんが胸を押さえふらついているのが見える。

「うそ……でしょ? 時間切れ……?」

 ディバインバスターが効いたのかと思ったけど威力はものすごく落ちているはず。なら、今のは忍さんにダメージを与えたとは思えなかった。
 苦しそうに呻きながら忍さんはその場に蹲る。
 まさかどこか悪いところに当てちゃったのだろうか? いやな予感がよぎってしまう。

「だ、大丈夫ですか忍さん!?」
「……大丈夫、いつものことだから。すぐに収まるわ」

 顔を歪めながらではあんまり説得力が無い。それにここからでも忍さんの荒い息遣いが聞こえてくる。

「で、でも……」
「……仕方ないか、今夜はなのはちゃんにしよ」
「はい……?」
「血……吸わせて」

 がらん、と何かが屋根に転がった。

 それは紛れも無いレイジングハート。

「あ……れ?」

 左手に力が入らなかった。痺れたわけでもなく、凍ってしまったわけでもなく、ただだらんと腕が垂れ下がっていた。
 右手も同じで、足なんて自分の足じゃないみたいに感覚が消えていた。

「これだけ元気なんだから少しぐらい……ね」
「あ……うぅ……?」

 ――声が出ない?

 こんな時になんで?

「大丈夫、後は残らないように努力するから」

 なんだか……考えられない。熱でも出してしまったように頭の中がぼうっとしている。
 忍さんが跳ねた。それはわかった。だけどわたしには何も出来ない。
 ただわたしの頭がはっきり思えることは。

(綺麗……)

 ルビーみたいに赤く光る忍さんの瞳が、とても綺麗だなってことだけで。

(あれ……? 忍さんの目って赤かったかな?)

 いつもはサファイアみたいに青く澄んだ瞳だった気がしたけど……。

 ――不意にユーノくんの言葉を思い出した。

(そっか……これチャーム……)

 今わたしは忍さんに襲われた人たちと同じ感覚を共有してるんだ。
 だからこの次に訪れる結末は、

(わたしも吸われちゃうんだ)

 自分のことなのにどうでもいい気がした。

 忍さんがどんどん大きくなって、口には本当にドラキュラみたいな白い牙が生えていて、

「リモートフライヤー!!」

 突然、体が横に引っ張られた。

(あ……これ)

 聞いたことのある声。
 わたしと忍さんの間に誰かが割って入ってくる。その子はわたしを守るように両手を広げていた。

(……すずかちゃん)

 気がつけばすずかちゃんの首筋に忍さんが噛み付いていた。
 本当はわたしがああなるはずなのに。

 ああなって倒れて――

(倒れて……それから――!?)

 夢から意識が一気に引き戻された。

「あっ……すずかちゃーーん!!」

 でも手遅れだった。
 バリアジャケットが解除され、私服姿になったすずかちゃんは受身を取ることもなく屋根に転がった。
 頭の中が真っ白になる。もう反射的に、わたしはすずかちゃんの元へ駆け出していた。

 屋根の上に横たわる友達の所へ――。

 それだけしか考えられなかった。

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