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2007.07/13(Fri)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第九話 Apart 


【More・・・】


「へぇ~、リリカルストライカーズねぇ」

 次々に映し出されるあれやこれやの情報を処理しながら作業を手伝う隣人を横目に見る。
 テキパキと仕事をこなしながら私の視線に気づくと、少し困ったように笑った。

「ユーノ君的には微妙? 私としてはなかなかいい感じだと思うけどな」
「でもなんだか遊びみたいな感じがしませんか?」
「しないわよ。これ見ればみんなすごく一生懸命ってわかるから」

 待機状態だった映像ファイルを引き出して再生する。
 映し出されるはなのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんの三人の勇姿。
 それぞれが役割を完璧にこなし、見事なコンビネーションでジュエルシードを封印するまでが一秒余すことなく記録されている。

「みんながやる気になるってのはなによりだしね」

 未だクロノ君やフェイトちゃんが帰ってこない状況で、アースラ最大の戦力はPT事件の功労者に試作デバイスのマスターだけ。

「なんか思っちゃうのよ。管理局に必要なのはこういうチームなのかもしれないって」

 うちの職員は雑務専門のベンチウォーマーって現状は情けないやら悔しいやら。
 現地活動が許可されたおかげでみんな平時は街に出てジュエルシードの探索をしているのが唯一の活躍どころなんだけどね。

「いきなりどうしたんですか」
「いやさ、職員たちのぐうたら振りを見ていると……ね」

 そう、職員どもはというと……。

「はぁ……そこのサボタージュ二人組み! お茶してる暇あったら働けーーーっ!!」

 別モニターにレストハウスの様子を切り替えれば、呑気にワイドショーを見ているアレックスとランディ。
 マイク音量全開で思いっきり叫んでやればビクッと体震わせて、慌ててリビングから飛び出していく。
 まったく、逃げ足だけは速いんだから。

「これはこれで開放的になりすぎかもね」

 提言したのは自分とはいえ、これはいささかやり過ぎだったかも……。
 現地活動拠点として手ごろな物件に設えたのは海中生活の最高の打開策。みんなに精神的余裕が生まれることは何よりも大事だ。
 一方でこのように現地の文化と触れ合い、時に堕落する大馬鹿者も多数いるのは……ご愛嬌と言うべきか。

「艦長に言って給料引いてもらわなきゃ駄目かもねー」
「なんだか大変ですね」
「クロノ君がいない分、私が頑張らなきゃいけないから。一応これでも執務官補佐だしね」

 辛いところよ、と付け加えて伸び。少し視線を横に逸らせば魚の群れ。
 本当に相変わらずの沈没オンボロ戦艦アースラだ。

「いっそもう一つ提言してみようかなぁ……なのはちゃんたちみたいな魔導師小隊の設立」
「言ってみればいいじゃないですか」
「私は補佐だからそんな権限無いの。言うってなるとクロノ君か艦長か、だね」

 PT事件の時といい武装局員は大物相手にははっきり言って分が悪い、というより酷い。
 特化デバイスなんて作るなら、なのはちゃんたちみたいに特化資質をパズルみたいに組み合わせるプランのほうが実はいいのではないか。
 そう考えてしまうのだ。ここまで三人が成果を出しているとなると。

「特化魔導師部隊ストライカーズ……なんてね」

 さらに災害救助や犯罪対策など個々の目的に合わせて編成させればそのバリエーションは無限大。……ちょっと言いすぎかな?
 今の武装局員はあらゆる事態に対応できるように汎用的に組まれてるけど、汎用って言うのは器用貧乏にも繋がる言葉だし。
 そもそもそこまで資質に優れた人間がいると言われも微妙なところもあるんどけど。

「確かに有用性は十分あると思えますね」
「じゃあ将来誰かがこんな部隊作りたいって言ったら賛成してくれる?」
「もちろんですよ」

 よし! 賛同者一名ゲット!

「もっとも僕がそこまでえらい身分になれればですけどね」
「……だよねぇ」

 やっぱり世の中そんなに甘くない。
 四方山話に花を咲かせて区切りにため息。
 稼動させてないモニターは外の様子を映すように設定してある。モニター全部閉じればそりゃ大層なジオラマが広がるわけだけど、目に見えるのは海の世界だけ。

「私だけなんだよね……一番アースラの中にいるのって」

 艦長には有事がない限りレストハウスで寛いでもらってる。と言っても、日中はやはり他の職員たちと共に調査に忙しいのが現状だけど。

「その分感謝してます」
「そんないいっていいって! むしろ感謝してるのは私なんだから」

 現場と比べればデスクワークなんてね。
 本音を言っちゃえばAAAクラスの魔導師の連携って管理局的にも美味しいデータであるわけだし。さらに言えばバーサーカーやシルフのテストにだってなる。
 いいこと尽くめで感謝しないのは失礼ってもの。

「仕事適当にやってクロノ君に呆れられるのだけは願い下げ。そうじゃないとさ……」
「小言って奴ですね」
「そう! 小姑にいびられるお嫁さんの気持ちってこういうものだなってしみじみ思う」

 補佐官はいわば執務官の右腕となるべき存在だ。その姿勢は常に完璧を求めなければならない。いつ何時、何が起こっても執務官を支えられること。
 必須条件であり補佐官の本質そのものだ。

「女房役ってのも肩に来るわよ」

 肩を叩く真似をして笑って見せる。

「ほんとの所はさ、放っておけないってのもあるんだけどね」
「士官学校以来の付き合いでしたっけ?」
「そっ、だからクロノ君に関しては誰よりも知ってるつもり」

 誕生日や星座、血液型に好きなものから嫌いなもの。
 割とポピュラーな話題から口には出せないあんなことこんなこと……。

「ユーノ君にはいろいろ突っかかるけどさ、あれってクロノ君なりの友情の表し方だよ」
「まさか、あいつは僕をからかって楽しんでるだけですよ」
「それがクロノ君なりってこと。……不器用だから、昔からこういうことばっかしてきてるから」

 士官学校に入学した時から子供とは思えないほどの魔法技術を有し、成績だって常に首席。
 だけどその影には天才と呼ばれるような素質、才能なんてどこにもなくて。

「いろいろあったんだよね……クロノ君は話さないけどさ」

 何もかも、それこそ血反吐を吐くような修練で叩き上げてるだけ。
 どんな無理難題、何だって努力を最大の武器に捻じ伏せて今の地位まで上り詰めた。
 彼を天才と呼ぶなら、努力の天才という言葉がしっくりはまる。

「なのはちゃんたちと出会ってからクロノ君さ、変わった」
「そうですか? 見えませんけど」

 努力の代償は子供としての自分を失うこと。無理矢理背伸びして、いつしか背伸びが普通になっていって……。
 士官学校に入学した当初のむすーっとしてばっかりのクロノ君も嫌いだったけど、執務官に就任した時のクロノ君の姿がはもっと嫌いだった。
 そりゃあ、九歳にしてはそこそこな威厳はあるし、任務も完璧にこなしていて名ばかりというわけではないんだけど。
 嫌だったのは無理してる姿がありありと見てとれたこと。それまではそれなりに笑ってくれたり冗談も言ってくれた。

「あれでも最初のころはガタガタだったんだから、もうお姉さん頭を抱えちゃうくらいにね」

 執務官になった途端にそれ全部が途切れてしまって。一生懸命なのはいいことなのかもしれないけど、その時は逆にそれがクロノ君からいろんなものを奪っていたように感じて。
 だから私は歳不相応な振る舞いを要求させた執務官と、それに馬鹿正直に応えていたクロノ君の姿が嫌いだった。

「あのクロノが……? 全然そう見えませんけど」
「うん、普通の人には絶対わからないにしてるのよ。負けず嫌いだからねクロノ君」

 悟られないようにする騙しのテクだって一級品。仏頂面イコールポーカーフェイスが彼の普通だったし。ほんとに憎々しいほどにませて大人びて。

 ……その点でいうなら同じくして補佐官に就任した私も同じようなものなんだけど。

「付き合い長いとわかるんだよね。……いっそユーノ君もクロノ君と一つ屋根の下で暮らしてみる?」
「あんな奴とルームメイトになったら胃に穴が開きますよ」
「だよねー」

 今はもう板についたというか、麻痺したというか、当たり前に執務官クロノ・ハラオウンを感じてるけど。

「でもさクロノ君が困ってたら……力になってあげてね」

 やっぱりクロノ君の中で子供は消えてない。そうかといって大人にもなりきれてない。
 相反する二つの要素が入り混じろうとして、反発して。時に湧き出す子供を大人で割り切ろうとしたり。

「普通の人にわからないなら助けようがないと思いますけど……」
「大丈夫! 普通の人よりかはユーノ君は一歩進んだ場所にいるじゃない」
「え?」

 大人のやり方っていつも合理的で見方を変えれば汚いものだ。
 大多数のためにたった一つ程度の犠牲なら目を瞑るし、勝利のためなら部下ごと吹き飛ばす上官だっている。
 仕事だからこそエゴイストにならなきゃやってられないのは十分承知してる。
 クロノ君はその中では異質だ。犠牲は最小限に、じゃなくて犠牲は出さない。どんな勝利も部下と共に分かち合う。
 子供が夢見る理想的なやり方だ。でも現実は艦長のコーヒーのように甘いはずがない。

「喧嘩するほど仲がいい。ほぉら、友達でしょ?」
「だ、誰があんな奴と友達に……」

 こんなはずじゃないことばっかりだ。

 クロノ君に突き刺さる現実の厳しさ――大人の都合。
 その度、反発する理想の甘さ――子供の勝手。

 炎と氷は彼の中で今も揺らめいている。普通十五歳って腕白ヤンチャ盛りなのに神様は殴ってやりたいほどクロノ君に苦境を背負わせる。

「周りから見ればそう見えるの。認めなくてもいいから」

 ジレンマに無理をするクロノ君なんて見てらんない。
 凛々しくなっていく顔、大人になっていく心、捨てきれない優しさ。
 クロノ君を支えたいと思った。でも私に出来ることは補佐と管制ぐらい。唯一出来たことは士官学校の頃と同じように、彼をからかって彼の子供を適度に引き出してやること。
 ガス抜きだ。

「それに一番信頼されてるのはエイミィさんじゃ」
「私はクロノ君に近すぎるから」

 そう、近すぎる。あまりに身近な、家族のような姉弟のような関係にクロノ君が自分を曝け出すことはない。
 常に傍にいる人だから心配はかけない。真面目君の悪い癖だ。
 本当なら一番に頼れる人じゃないのかって突っ込みたくなるけど、男の子ってそういうものなんだろう。
 多分、これも彼の子供の部分。

「だからいお願いするの。私一人でどうにか出来るなら最初からお願いしないしね」

 最後のキーを叩けばモニター全部が消える。目の前に広がるもう見慣れてしまった青い世界にふっとため息。

「あはは、クロノ君が帰ってきてもいないのに私何を話してるんだろうね。やっぱり参ってるのかなぁ」
「上で休憩しましょう。日の光を浴びればすっきりしますよ」
「同感」

 立って、足を、背中を、腕を思いっきり伸ばす。
 朝からずっと缶詰だった所為か高くなった視線も物凄く新鮮だ。

「じゃあ紅茶でも飲んで一息一息」

 確か誰かが買ってきたクッキーが残ってたはず。 そういえば翠屋のケーキもあったっけ。
 そんなことを考えながらトランスポーターに向かって歩き出す。

「エイミィさん」

 不意に、声が背中に届いた。

「クロノはいつも頼りにしてると思います。だから本当に駄目な時だけはエイミィさんにお願いします」

 静寂の中、靴音が近づいてくる。
 反響する音の中、背後からさらに一声。

「そうなるまではクロノは僕たちが面倒を見ます」

 起動し、光を纏う装置に二人が並んだ。目を合わせると、ユーノ君は少し呆れ気味な表情をしながら肩を竦ませた。

「あいつに文句を言われるのだけは嫌ですからね」

 やれやれといった具合に、でもどこか楽しげに笑みを浮かべてユーノ君は言葉を紡いだ。

「……確かに、クロノ君に文句言われるのは勘弁ね」

 本当にみんなに会えて、みんながいてくれて良かった。
 少し嫉妬しちゃうな、クロノ君に。こんないい仲間に囲まれているんだから。

 まったく待たせないでさっさと帰ってきなさい、クロノ君。

* * *

 喫茶店「翠屋」は今日も繁盛している。
 周囲にこのようなゆったりとした喫茶店がないおかげか、はたまたパティシエの腕のおかげか、店内は女子学生たちの黄色い声で溢れている。
 こういう時に男はなんとなく居づらいというのが本音なのだが、

「恭也ー、ケーキセットおねが~い」
「ああ、任せて母さん」

 ウェイターとして働く身、そんなことを言った日には首が飛ぶのが請け合いだ。

「おまたせしましたケーキセットです」

 小さいころからずっと手伝いでやって来たおかげで手つきなんて高級レストランのそれぐらいには鍛錬されている。密かな俺の自慢だ。
 テーブルの上に並べられたケーキ、紅茶に目を輝かせるお客様達。なのはの学校と同じ聖祥大付属の子。学校帰りの寄り道としていつも贔屓にさせてもらっているお得意様だ。

「ではごゆっくり」

 俺が身を翻すとすぐに小さな歓声が背中に当たる。

 「やっぱりかっこいい」とか「素敵」とか、男としてはそれなりに嬉しい褒め言葉をチップに貰ってすぐに次の注文へ。
 一応それなりの席を確保している店内だというのに、時間帯もあって満席。
 外を見ればオープンカフェも――やはり満席。

「ごめんね恭也。毎日毎日、重労働させちゃって」
「気にすることないよ母さん。俺が好きでやってるんだから」
「そうだぞ桃子。こんなの日々の鍛錬に比べれば鍛えにも入らないからな」
「ああ、だからこき使って構わないよ」

 キッチンから顔を出した母さんに笑顔で答え、カウンターでコーヒーを入れる父さんにからかわれ。

 慌しくも実に平和な一日だ。

「平和……か」

 もう一度外を見やる。
 お茶に立ち寄った我が妹はいつもの仲良しトリオでなにかの話に夢中になっている模様。
 無理をしていた顔はもう何処へやら。
 もう少しあの顔でいたら理由を問いただそうとしていたのだが、どうやら自分で何とか解決できたらしい。
 妹の成長に頷く一方で、やはり少しは自分を、家族を頼りにしてほしい気持ちもあるにはあるのだが。

「穏やかなのが一番だもんな」

 それに限る。

「ねぇ恭也、なのはたちの所にこれ持っていってくれない?」

 母さんの声に振り向くと、なにやら見慣れない形のシュークリームとケーキが載せられたお盆。
 ずいぶんとご機嫌な笑顔で母さんが立っていた。

「別にいいけど……なのはこんなの頼んだのか?」
「サービスよ、サービス」
「身内だからってあまり甘やかさないほうがいいと思うけどな」

 そうは言ってもちゃんと受け取ってしまうのはウェイターとしての性なのだろう。

「大丈夫よ。身内だからこそできるサービスなんだから」
「え?」
「おい桃子、まさかなのはに毒見でもさせる気か?」
「失礼ね、新商品のモニターよ。モニター」

 なるほど、そういうことか。
 つまるところこのシュークリームとケーキは母さんの最新作で、その味のモニターにされたわけか。
 どうりで見たことのない形と色というわけだ。

「大丈夫よ、ちゃ~んとおいしくしていますから」
「ほんとか? まあ、あのシュークリームなら美味いからな」
「あなたはシュークリームだったらなんでも美味しいって言うからモニターにならないの!」
「そりゃあ美味いんだからしょうがないんだ」

 そうは言うけど父さん、母さんの作るものはなんだって美味いって言ってるだろ。
 その度に惚気を見せ付けられて、まったくこの夫婦は一体いつまで新婚でいる気なのか。
 仲良いことはいいんだけどな。

「もうあなたったらぁ~」
「はぁ……じゃあ持っていく」

 甘いのは苦手だ。
 味覚として雰囲気として。
 少し早足に店内を出て、一路目的の場所へ。

「よぉ、仲良しトリオ。母さんからの差し入れだ」
「お母さんから?」
「ああ、条件付きだけどな」
「……モニターさん?」

 無言で頷いてやる。

「父さんが言うには美味しいらしいからな、大丈夫だろう」
「じゃあいただきます」
「ありがとうございます恭也さん」
「いやいや、お構いなく」

 ぺこりと頭を下げるすずかに笑顔で返し、手際よく品を全員の手前に並べていく。

「手馴れてますよね恭也さん。なんだか一流レストランのウェイターみたい」
「自分でもそう思ってる」

 目の前のケーキに目を輝かせているアリサに軽い冗談を一つしながら今度は既に平らげられたケーキ皿やティーカップを片付けて。

「これだけ食べると太りそうだな」
「あっ、大丈夫だよ。ちゃんと運動はしてるから」
「びゅんびゅん飛び回ってるし、十分カロリーは消費してるしね」
「びゅんびゅん……?」
「あ、アリサちゃん!」

 はて、何か新しい遊びがそんな風な動きをするのだろうか。
 近頃の小学生の間で何が流行しているのか全く知らないが、まぁ一種の比喩表現なんだろう。
 慌てふためいているすずかを隣に、アリサはしまったと言わんばかりに口を押さえていたりするが。

「元気になのはいいことだが……怪我だけはしないように」
「はーい」

 一応もしもの時が訪れないよう釘を刺して。三人はもちろんといった感じで返事を返して。

「じゃあ俺は店に戻るから」
「お手伝い頑張ってねお兄ちゃん」
「ああ」

 無論ぬかりはない。最近の店の手伝いは俺にとってそれなりに意味のあることなのだから。

「さてと……まだまだこれからだな」

 意気込み店内へ。

 その矢先、

「ん?」

 エプロンのポケットをこそばゆい振動が揺らしていることに気づいた。
 仕事中は電源を切っておくのが普通なのだが今日は不覚にも忘れていたらしい。

(この時間帯……忍か?)

 このまま放っておくのも失礼だ。
 厨房の母さんに一声かけて、俺は奥の休憩所へ向かい携帯を引っ張り出した。
 案の定、液晶には月村の二文字。

「忍か? どうした?」
 
* * *

「あっ恭也」

 耳に届いた凛々しい声。やっぱり大好きな人の声は電話越しでも嬉しい。

『何か用か?』
「用ってほどじゃないんだけどね……」

 ただ声が聞きたかっただけってのは恋人ならではの免罪符だと思う。
 私にも今は恭也が翠屋で働いていることを知っている。電話越しにでも微かにお店の喧騒が聞こえているのだから。

『それなら今忙しいんだ。悪いけど切るぞ』
「あ……うん、じゃあまた後でね」

 プツっとそれきり。
 ツーツーと無機質な音が聞こえるだけの携帯を私はすぐにたたんで、半ば投げ捨てるように後ろへ放り投げた。
 ぽすっと軽い音。どうやらベッドに上手く着地できたらしい。別に壊れても修理はできるから失敗してもいいんだけどね。

「もう……」

 寄りかかってただけのベッドに思い切り体を逸らして上体を預ける。

(……暇)

 ここの所、恭也はずっと翠屋で手伝いをしている。いつもなら時々の手伝いなのに、最近は毎日遅くまで。
 おかげで携帯でもまともに話せない。

「ほんとに……」

 私なんて大学で講義が重なった時ぐらいしか会えてない。
 どこか行こうって誘っても恭也はいつも「悪い」とか「すまん」とか、それで二言目には翠屋の手伝い。
 いつからそんな真面目な勤労者になったのか聞きたいくらい。

「恭也の……」

 デートのお誘いだって意外かもしれないけど私より恭也の方が多いのに、今は完全に私の一人よがり状態。やってて馬鹿らしくなるくらいに。
 私たち付き合ってるのに……。

 恋人なのに……。

「……バカ」

 ほんとにバカ。バカバカバカバカバカ…………。
 好きな子を放っておくくらいにお店が楽しいの?
 立派な浮気なんだから……それ。

「頭にきちゃうんだからね」

 このままじゃどうにかなりそうだった。
 どうせ怒った所でどうにもならないんだしここは、

「気分転換気分転換」

 とはいっても今あるゲームは殆どやり尽くしてあるからあんまり気分は変えられないし。

「続き読んじゃおっかな~」

 取りあえず、今の私の流行は読書である。
 ズラリと並んだ本はその総てが工学関連の専門書。自分でも良く集めたし、よく読んだものだと感心してしまう。

「たまにはこういう本も読まなきゃね」

 そんな本棚の片隅に、極小規模ながらも陣地を持つことを許された本の一団がある。もちろん目的の品はそこだ。

「三角はーと3はっと……あった」

 結構買いだめしたのが煩雑に押し込まれてるあたり、そろそろ整理の必要有りか。もしくは領土の拡大かしら。
 まっ、そんなことしてたら日が暮れてしまうわけで。
 ベッドに寝そべって早速本を広げて、

「なんとなくだけど似てるのよね……これ」

 巷でそこそこ面白がられてるこの小説。
 ジャンルとしては恋愛ものなんだけど、意外とSFチックだったりファンタジー的な要素が絡んで来たりでこれがなかなか面白い。
 物語としては寡黙で真面目な主人公が一巻ごとにいろんなヒロインと恋をするオムニバスで私はその中でこの三巻が一番お気に入り。
 理由を問われるなら、なんとなくだけどこのヒロインが私に似てるような気がしたから。

「この主人公もある意味恭也っぽいしね」

 流石にここまで硬い性格じゃないけど剣術だってやってるし。流石に盆栽弄りは趣味ではなさそうだけど。

「あと少しだし……全部読もうかな」

 先延ばしにしてたっていいことないし。人間思い切りも必要。

 そういうことにして私は本の世界へと意識を溶け込ませていった。

* * *

 結局、夢中になって読んだけど読み終えたのは日付が変わるだろう時刻。
 流石に晩御飯の後にうたた寝はまずかったな……。
 でもこうやって読み終えたことは喜ばしい。なかなかにおもしろかったし。

 ――それにしても、

「……結構ぶっ飛んでたわよね」

 劇中に出てくるヒロインの秘密。
 その子曰く「夜の一族」と言われる種族は腕が千切れてもくっつけるくらい回復能力が高く、身体能力も常人より上。
 加えて類まれなる科学力を持ち合わせている等など。

「血が必要って吸血鬼みたい」

 いろいろ制約はあるみたいだけどともかくすごい存在なのだ。
 メイドさんはアンドロイドでロケットパンチだし。

「お金持ちで……メイドさんがいて……いざこざに巻き込まれて……」

 出会いのきっかけからだってそっくり……というわけでもないが似ているのだ。
 私の場合は相手方があんな危なっかしい人形で攻めて来たことはなかったけど。

「やっぱりますます似てるわ」

 私の場合は世知辛い企業間の争いに巻きこまれたようなもので……。

 発端はうちの会社がある企業を吸収合併しようしたことだ。
 合併すればそれだけうちの企業としての規模は拡大するし、当然その業界でも多大なシェアを得ることが出きる。
 だからこそ、その流れの中でそれをよしとしない敵が出てくるのは当然のことだ。
 どうやってもそいつは合併を阻止したかった。そういうわけで社長令嬢である私を危ない目に合わせるという姑息で卑怯なカードを切ってきた。

 はっきりいって大人がやることか。
 けれど私には強い味方がいた。高町恭也とのいう将来の恋人になる人との出会いである。

「縁っていうのは不思議なものよね」 

 まさか恭也のお父さん――士郎さんが元凄腕のボディーガードだったなんてまさに神様のお導きって感じ。
 それからは合併が調印されるまでの連日連夜、恭也と士郎さんが私の身辺警護をしてくれて。
 敵も最後はどこで雇ったのか分からないような危ない人たちを差し向けてきたけど、プロの用心棒の前にかなうわけも無く。

「よく考えたらあの時活躍したのも士郎さんだったなぁ」

 恭也と私の所にはそういう人ぜんぜん来なかったしね。
 一人、二人は来たけどそのくらい恭也には造作も無い相手で。ヒーローと呼べるくらいの活躍はしてないな。
 だけど私にとってはそれだけで十分。もう本音言っちゃうと怖くてどうかなっちゃいそうだったし。

「でも恭也は立派に王子様してくれた」

 私をずっと守ってくれたその背中。優しく抱きしめてくれて不安なんて簡単に吹き飛ばしちゃう太い腕。
 もう私が恋心を芽生えさせるにはおつりが来るくらい十分だったみたいで。

「やっぱり……大好きなのよね」

 恋は盲目……なんてのも入ってるのは否めないけど。

「あっちもこっちも、少し演出的には課題ありってところなのよね」

 やっぱり最後くらい主人公君には活躍して欲しい。メイドさんや士郎さんばかり大暴れしてるのも悪くは無いんだけど。
 まぁ……お話のほうはメカ好きとしてはしびれる展開なんだったんだけどねぇ。

「それに夜の一族もあんまり意味がないというか……」

 もっと目を見た相手を洗脳したり魅了したり。爪を振るえば大地が抉れ、空気は引き裂け。
 蝙蝠になって空を飛べとは言わないけど、もう少し一捻りが欲しい。
 贅沢な悩みって奴だ。

「けどこの二人っていいなぁ……」

 正直、ここまで愛し愛される二人が羨ましい。

「誓いとか……ずっとそばにいるとか」

 二人の絆の深さを見ているとなんだか悲しくなってきた。
 比較ばっかりして、自分たちの中がなんだかずれ始めてることを思い知るような気がして。

「私……恭也に嫌われちゃったのかな?」

 考えてみてもそれは無いと思う。

「そうよ、失礼なのは恭也の方よ」

 恋人をおざなりにしてバイトに精を出す神経が信じられない。もっと言うと、構ってくれないなんて信じられない。

「嫌いなら嫌いって言ってよ……バカっ!」

 枕がドアに当たってすり落ちた。
 このままだと寝覚めも悪そう。

「夜風にあたろっかな」

 窓から見える月は満月。まんまるお月様。
 思わず綺麗って言いそうになるくらいに煌々としていて、このまま額縁に入れて飾りたい。
 今宵の夜のお散歩はきっと楽しいだろう。
 後は猫と遊んで、遊び疲れて眠る。うん、完璧なプラン。

「あ~あ……いっそ空でも飛べればなぁ」

 むしろ空飛びたい。

「……時間遅いし……いこっ!」

 有言実行。ドアを開けて私は外へと繰り出した。

 本当は隣に恭也がいてくれればもっと最高なのに。
 
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