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2010.01/14(Thu)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十六話 Bpart 


【More・・・】


「写真で見るより迫力あるわね……」

 どこかの武家屋敷に迷い込んでしまったような威圧感を醸し出す屋敷門を前にちょっと身構えるアタシ。
 檜作りなのは鼻をくすぐる独特の匂いでわかるものの、それ以上に柱に彫られた装飾や、丸太を抱えてぶつかっても破れそうに無いほどに頑強さを感じさせる門に開いた口が塞がらないわけで。
 観音開きにすればトラック一台楽々入れそうじゃない。

「もう悪乗りしすぎなんじゃない……パパ」

 ただでさえ風光明媚な土地の只中に建設されてるおかげで、ますますこれが著名な武将の屋敷に思えてくる。多分それさえ意図して作ったんだろうけど。
 ついに観光業界にも殴りこみなのね。まったくパパったら……。

「ほ、ほんとにここでいいのアリサちゃん?」
「間違いないわ。パパが作った大型和風旅館『さざなみ』よ」
 
 立てかけてある看板には達筆な筆文字で――達筆すぎてアタシにはミミズがのた打ち回ってるようにしか見えないけど――「さざなみ」とデカデカと書かれていたり。
 
「プレオープンとして沢山のお客が必要だって言ってたのは頷ける話よね」

 門でこれだけ巨大なのだ内部はもっと複雑で部屋数だって多いことだろう。
 ならば多数のお客を入れて、シミュレーション通りに従業員が動けるか見るかは当然のこと。突然のハプニングなどにも万全に対処してお客を満足させリピーターにする。
 そのためのトライアルオープンが今日なわけだ。

(アースラの人たちがいて助かったわ)

 優秀な人材のおかげか予定よりも工期が早まったためこんなレジャー真っ盛りの季節に完成したのは商売的には惜しかったけど、アタシたちには夏の思い出作りに打ってつけ。
 まさにこれこそ天佑よね。

「さてと、とっとと荷物運び込んだら海行くわよ海!」
「きゅ、急だねアリサ」
「そりゃそうでしょ! タイムイズマニー! 時は金なり!」

 坂の上に建設されているおかげでふもとの海が一望できるのもこの旅館の売りの一つ。
 陽炎揺らめく道路に見上げた空にはお日様ギンギラギン! 水平線から立ち上る入道雲は猛々しく空をバックにポーズを決めている。
 ああ、夏よ! まさしく夏なのよ! 
 
「この日のために宿題をあらかた片付けておいてよかったでしょ?」
「……漢字ドリル」
「も、もう手伝ってあげるから、ね?」
「ありがとアリサ」

 ……ほんとトラウマ作らなきゃいいいんだけど。

「んじゃま気を取り直して」
「にゃはは海楽しみだなぁ」
「ん~! 久しぶりに遠くまで泳ごうかな」
「あっ、すずかせっかくだから競争する?」
「もちろん!」

 さっそくメラメラと燃える二人は置いておいてアタシは一番に門を潜る。「ようこそ!」と景気のいい声が飛び交い着物に身を包んだ仲居さんたちがお出迎え。
 まず最初はオーケーかしら? 一応はオーナーの娘としては隅々までチェックしておかないとねぇ。もちろん子供の視点からであって重箱の隅までつつくつもりは無い。

 だってほんとの意味で――

「それじゃあいくわよストライカーズ!!」

 待ちに待った夏休みなんだから!!

* * *

 波打ち際で波と砂とじゃれあうわたしの目には余りに場違いな光景が映し出されています。

「いくわよー! 美由希ちゃん!」 
「どんと来い! 返してあげる!」

 軽々と五メートルくらい飛び上がりそのまま急直下にスパイクを決める忍さんはプロも真っ青になること間違いない。普通の人でも、ましてや魔導師でもフェイトちゃんぐらいしか捉えきれない。

「そぉれ!!」

 それを神速で加速して受け止めるお姉ちゃんもお姉ちゃんだ。2、3メートルの距離も「速すぎる」の領域じゃ何の意味も無い。
 高く舞い上がったボールが日差しを受けて輝く。それに覆いかぶさるように狼の影が飛び上がり人の形になれば、

「どりゃああーーーっ!」

 ドゴンッ! と大砲を撃ったような爆音が轟き相手のコートに砂煙が舞い上がった。

「…………」

 なんというか戦闘でも始まったのかなぁと思うけどこれはれっきとしたビーチバレーです。
 砂煙の後には抉れた砂の中でぺしゃんこに潰れているボール。手加減無しのスパイクはプロも真っ青だ。

「アルフ……修復する身にもなってください」
「ごめんごめんつい熱くなっちゃって」
「やっぱり魔法全開のバレーは止めにした方がいいかもね? ……すずかにも散々釘刺されてたんだけど」
「賛成。ユーノに結界張ってもらうのも悪いしね」

 ユーノくん……ごめんね。苦労かけて。
 周りにいる人は結界がなきゃほんと逃げ出しちゃうよね。認識阻害で誤魔化して、防御結界を何重にも張って、なんてことするなら普通にバレーしようよ。
 でも周りの人たちってほとんどアースラの人とかわたし達の関係者だし問題ないようにも思えるけど。
 うぅ、そう考えちゃうのがいけないんだよね。

「ふー、いい勝負だったねフェイトちゃん」
「すずかスタミナ凄いね。長距離じゃ勝てそうもないよ」

 丁度水泳で勝負を終えた二人が戻ってくる。もう運動オンチのわたしから見たら未知の世界です。

「あれ、なのはは泳がないの?」
「にゃはは、わたしが取り合えず砂遊びってことで」
「ふふ、そんなに積み上げて富士山でも作る気?」
「あっ、アリサちゃん! 一緒にトンネル掘ろうよ!」

 タイミング良く現れたアリサちゃんを出来上がった砂山のトンネル工事に誘ってみる。流石にここからは一人だと寂しすぎるもん。
 なのにアリサちゃんは手に持ったバケツを下ろすとひょいと両手を上げてお手上げポーズ。

「なのは、それはあまりに寂しいわ。相手を待つなら探しに行かないとね」
「探しにってわたし泳ぐの苦手だし……」
「友達は人間だけじゃないわ! 見なさいこのバケツの中!」

 指差し覗けばそこには魚とかナマコとかカニとか色んな生き物が溢れていた。他のみんなもわぁ、と歓声を上げる。

「あっちの磯辺で色々探してきたの。結構楽しいわよあんまり海なんて行く機会無いし」
「なるほど泳ぐだけが海じゃないってことなんだね」

 ナマコを鷲づかみしながらうんうんと感心するフェイトちゃんだけど、手にあるのがナマコだけに絵にならない。凄いシュールだ。

「それにしてもナマコって変な生き物だね。なんだかブニョブニョしてる」
「貝の仲間っていうけどそうは見えないよね。貝を捨てて変わりに警告色で相手を驚かすとか思いつくのがすごいよ」
「すずか物知りだね。じゃあこの頭にくっついてる宝石みたいなのは?」
「これは貝殻の名残で……? ……え?」

 いきなりすずかちゃんが凍りついた。もしかして今までノリノリで解説してたけど実は苦手とか?

「なぁにすずか。もしかしてあんたこういうの苦手?」

 ニヤッと肩に手を置きながらアリサちゃんが意地悪そうに問いかける。それでもすずかちゃんは微動だにしない。
 それでもしばらくしてゆっくりとアリサちゃんに顔を向け一言。

「これ……ジュエルシード」

 その時ジュエルシードが発動した。

* * *

『ナァァァァァヴァァァァァァゴォォォォォォォ!!』

 僕らに休息はないのだろうか。

「なんであんなのが出てるんだろうねクロノ君」
「僕に聞くなよ」

 海の中から何かが立ち上がる。巨大で長細く半透明の生き物は鳴き声上げるとゆっくりと移動を開始する。頭頂部の宝石が太陽の煌きを受けて光を反射している。

「えーと……魔力的には大したことない雑魚だけど」

 携帯端末で相手の情報を集めながらエイミィが欠伸をする。相手の余りの弱さに呆れているようだ。

「まぁ、なのはたちがどうにかするだろう」

 ビーチバレーを終えて休憩しているアルフたちはすでに自分達のパラソルの下でのん気に眠っている。
 母さんたちは僕らの横のパラソルの下、唐突な訪問者にあらあらといった具合に頬に手を当て微笑ましく見守っている。他のみんなだって安全圏だ。
 問題なんてどこにもないわけだ。すでに波打ち際のなのはたちが変身し終え飛び出す瞬間だ。ユーノが結界を張っているらしく周りへの情報封鎖も問題ない。

「しかしなんだかあの形はどこかで……」

 体は水で出来ているのだろう。青い揺らめきの向こうに空が見える。
 しかしだ。しかしである。どうにもその長く細いだけの体がどこかの誰かを連想させているようでどうにも腑に落ちない一面も。

「ああ、なるほどユーノか」
「なんか言ったクロノ君?」
「いや、自分のことだ」
 
 あれに亜麻色を塗りつけて毛を生やせばフェレットもどきそっくりじゃないか。

「ふふ、いい気味だ」

 いきなりディバインバスター受けて仰け反る姿をユーノと重ねてみれば、なるほどいい気分だ。
 せいぜいボコボコにされるがいいぞ。

「しかしなんでここにジュエルシードが?」
「もしかしたら複製した奴が潮の流れに乗ってここまで来たんじゃない? もしくは魚が飲み込んだで鳥が食べて、ここでフンをしてとか」
「植物の種じゃないんだから」
「ジュエルシードって言うしね」

 なら納得するしかないか。

「しかし一段と気色悪い動きをするな」

 攻撃を受けてか波立つようにくねったと思えば、左右に激しく体をくねらせる。その一連の動きを見ているともう気持ち悪さすら抱けなくなる気がしてきた。
 ああ、理性じゃなく本能的に気色悪い。生理的に受け付けない奴だ。
 とっととなのはに任せようか? それとも自分が出て行って殲滅するか。考えてはみたがS2Uを旅館に置いてきたことを思い出す。

「ん? あいつ何を出しているんだ?」

 今度はブルブルと震えたかと思えば体中が四方八方へ自分の体を飛び散らせていた。範囲は狭くこちらまで飛んで来そうにないことから悪あがき程度のものだろう。
 ちょうど砲撃しようと構えていたなのはに直撃するもそこはシールドで難なく防ぐ。
 だが次の事態には流石の僕も声を上げることしかなかった。

「なっ……シールドを貫通した!?」

 怪奇生物の放った液体はシールドに当たるやそのシールドを伝ってなのはへ襲い掛かったのだ。魔力攻撃ではない純粋な質量攻撃かもしれない。それならシールドでは受け流すには余り意味が無い。
 一瞬のうちになのはは謎の液体まみれになる。液体がどんな特性を持っているかは知らないがまずはバリアジャケットのプロテクトが確実に守ってくれるはずだ。大事にはならない。
 
「……ん?」

 なのはが悲鳴を上げたように見えた。遠目に見ていると空中のなのはの格好にどことなく肌色が混じっていくような感じだ。
 何か侵食系の魔法なのだろうか。それはそれでまずい!
 一体何が起こっているのか把握するべく僕は目に魔力込め視力を水増しす――

「見ちゃ駄目クロノ君!!」
「ぶべぇ!?」

 真横から頬へ何か重いものが叩き込まれた。不意の一撃は僕にここにも敵が現れたことを教えるものだ。
 何が起きた。デバイス無しでも魔法は使える。

(くっ、あれは陽動か! でもスティンガーレイでなら!)

 詠唱開始し、術式を構築。後は狙い定めて発射のみ。目を開け相手の位置を知れば僕の勝ちは約束される。
 そう勝利を確信して目を開ければそこにはエイミィの姿があるだけ。
 
 なぜか拳を振り上げている。

「だから見ないでって言ってるでしょ!」

 ああ、なんとなく展開がわかりました。
 おそらくなのはのバリアジャケットに肌色が混じっていたのは――

「ぐほぉ!?」

 男が黙って寝ています。

* * *
 
 なになに!? なにこれ!?  一体なんなのよーーっ!?

「きゃあああああ!!」

 絹を裂いたような悲鳴ってこんなのを指すのよね。
 なんて一瞬だけ冷静になって海へダイブ! 泳げる泳げないとかそういう細かいことは気にしない。
 気にするわけが無い。それ以上に乙女の大ピンチ!!

「ぷふぁ!!」

 海から顔だけ出して状況を確認し直す。今の今まで優勢だったのになんでアタシはこうやって海の中で身を隠すように顔しか出せないのか。
 そんな言うまでも無く文字通り体中へダイレクトに触れる水の温度と感触が全て教えてくれる。

「す、すずか! フェイト! あんたたち無事!?」
「な、なんとかだけど」
「こ、こんなの酷すぎるよーーっ!」

 既に半泣きのすずかにフェイトも気まずそうに顔だけ出している。身に起こった異変はみんな同じみたい。

「ふぇぇん! こんなの聞いてないよーーっ!!」

 少し離れた所でなのはが喚いている。

「ま、まずいよ! あの液体バリアを無効化するみたいだ! しかも魔法を強制解除させる機能も持っているみた――」

 スコーーーン!!

 冷静に語っていた無礼者へバーサーカーを放り投げる。気持ち良いくらいにおでこにぶつかり海へと沈んでいった。

「そんなのわかってるわよ! アタシだってその気なればバリアジャケットを壊すことぐらい簡単よ!」
「アリサちゃん出来るんだ……」
「流石にそれは止めようよ。反則だよアリサ」
「わかってるわよ! こんな恥ずかしい状態にするなんてプライドが許さないわよ!」

 両腕で隠せる所を隠しても誰かに見られてる気がして気が気でない。
 なんでよりにもよってこんな雑魚にこんな辱め受けなきゃならないのか泣きたい気分だ。

「そういえばこんなこと前にも……」

 確かあれはなのはとすずか、他のみんなと一緒にプールへ行った時のこと……。なんか今目の前にいるようなスケベ生物に水着を脱がされて放り投げられたような夢を見た気が――。

 思い出せアリサ・バニングス! よく考えればあれだって夢じゃない現実!

「そ、そうよあの時の怪物が丁度こいつみたいな奴で」
「やっぱり水着脱がされたのって……」
「こぉらユーノーーーッ!! 後で去勢よ去勢!!」

 一度ならず二度までもとはなんていい度胸! ラッキースケベなんて許されるのは漫画の中だけ! こんな想い他の女の子にさせられるわけが無い!

「こ、こうなったら海の中から集中攻撃よ! バーサーカー!!」
『Okay,budd――』

 ブクブクブクブクブク――……。

「アタシのバカーーーーッ!!」

 今ユーノにぶつけたのがバーサーカーじゃない! なんかピカピカしたのが沈んでいくのが見えちゃったし!
 
「だったらバルディッシュ!!」
『Sonic form!』
「そっかバリアジャケット再構成すれば! 私だってシルフ!」
『Obey mistress』 

 頭が混乱しててすっかりその発想を忘れてた。一回限りじゃないんだから何度でもジャケット作れるじゃない……。
 
「あ、あれ!?」
「そんな!?」

 困惑に満ちた声が聞こえたのは一秒経たず。

『Sorry,sir.Barier jacket cannot open』 
『Me too.I'm sorry mistress』

 妨害されてるわけ。そりゃあいつ水の中から出てきてるわけだし当たり前か。
 それって今の私たちには死刑宣告じゃ……?

「で、でも高速軌道なら誰も肉眼じゃ捉えられない!」
『Sonic move』

 海面が弾け飛んで金色の閃光が突撃をしかける。なるほど見えてなければセーフか!

「だ、駄目だよフェイトちゃん! もしアースラに録画されてたら映像分析された時に見られちゃうよ!」

 すずかの声に光が直角に進路捻じ曲げ物凄い勢いで海面に衝突した。五メートルくらいの水柱が立ち上り雨のような飛沫が降り注いでいく。
 
「そ、そうだよね……ジュエルシード絡み出しおかしくないよね」
『It is ,so to speak, a Hyper sonic form now』(今のはいわばハイパーソニックフォームですね)
「そうだね装甲なんて無いもんね。バルディッシュ少し頭冷やそうか」
『Yes,sir.Thank you,sir』

 ゴボゴボゴボゴボ……・。

 バルディッシュも所詮は男なのね。
 
 ……よく考えたらバーサーカーだって人格は男じゃない。もう海の底だし気にしないことにしよう。

「ってか海の中からでもサンダースマッシャー撃てるでしょ!」
「みんな感電しちゃうよ!!」
「だったら! し、シルフ!」

 今度はすずかが飛び出す。高速飛行もないのにどういう無茶をする気なんだか。

『Ring bind』
「どうかな? これで水着みたいに隠せば恥ずかしくないよね?」

 さっきまでワンピースの水着で決めていたすずかが今やバインドで出来たセパレートを着込んでいる。
 うっ、なかなか刺激的。バインドの向こうにうっすらと見えるチラリズムが、

「すずか、モロ透けてる」
「いやぁぁ! 見ちゃ駄目ぇぇぇ!!」

 ざぶんと戦意喪失である。

「後はなのはだけね。託すわアタシたちの全て!」
「お願いなのは!」
「なのはちゃん敵を取って!」

 アタシたちの希望はもうなのはだけだった。
 
「ふぇぇぇ!? なんでわたしになるのぉ!?」

 波に弄ばれるなのはもすでに戦意喪失かもしれない。こ、ここは他に任せるしか方法がないらしい。
 
「というかさっきから増援が来ないのはどういうことなのよーーっ!!」

 憤慨しながら浜辺を見ればみんな揃いも揃って旅の疲れかパラソルの下、チェアーをベッドにお休み中だった。

『苦戦してるようならクロノ君起こすけど』
「男子は嫌です!! 無理です!! アタシたちでどうにかしますからぁ!!」

 これはもうひょっとしなくても駄目かもしれない?
 プライドと相打ちにするなら楽勝なんだけど……それはもう女の子を捨ててしまうようで決意が固まらない。

「――そ、そうだ! こうなったら!」

 桜色が海を染めなのはが水飛沫と共に空へ飛んだ。まさかアタシたちに託されたせいで女の子の自覚を捨てちゃったわけ?
 
「ち、違うよ! アリサあれ!」

 声が指す方向を見ればジュエルシード目掛けて急上昇するなのはが見えた。
 ああ、やっぱり生まれたままの姿をお日様に晒してるじゃない。大事な所は桜色の光でよく見えないけど。 

「ん? 桜色って……」

 そこにはピンポイントで女の子の恥ずかしい所を隠すように併走して飛ぶ丸っこい光があった。

「そっかディバイン――」
「シューター!」

 フェイトとすずかが顔を見合わせる。
 なのはの卓越した操作技術ならそれこそ空を飛び回ってもシューターを追従させて隠す事だって可能ってことなのね。流石そういう発想だけは真似出来ないわ。
 
「それにしたって……ねぇ」

 刺激的である。
 光のボールで隠すなんてきっと世界であんた一人だけよ。誰だって真似できない。真似しようとしない。そもそもこんなシチュエーションにめぐり合わないと思うけど。

(アリサちゃん何気に酷いこと考えなかった?)
(気のせいよ! さぁ行きなさい! アタシたちの希望!)
(はぁい……)

 あっという間になのはが定位置についた。スケベ生物もそれに気づいたようで顔を向けた。
 そこ目掛け――

「いくら海に来ているからってわたしたちは海の生き物じゃありません! 仲間が欲しかったら他を探してください!」
『Divine buster』
「リリカルマジカル! ジュエルシード封印!!」

 スケベ生物と同じ太さのディバインバスターが叩き込まれた。
 上半分が消し飛んで爆発するスケベ生物。あまりの余波に水滴が視界全部覆い尽くしていく。すかさず、すずかがシールドで防いで事無きを得たけどシールド越しに真っ逆さまに落ちていく桜色が見えた。

(な、なのは!?)
(だ、大丈夫! ちょっとバランス崩した――きゃあああ!?)

 ブツッと念話が途切れてしまう。この余波にモロに当たってしまったらしい。なのはだってあの状態じゃこの最後っ屁は意外にきついんじゃ。

「なのはーーーーっ!!」

 耐えながら耳にそんな声が聞こえ、目には翠色の光が飛沫の嵐へ飛び込んでいくような気がした。
 それを確かめる術も全部終わってからというのがなんとも歯痒かったわけで。 

 余波も収まればジャケットも展開可能になり変身を解除すれば水着姿に元通り。ようやく海から上がれたアタシ達は波打ち際でへたり込むなのはを見つけすぐに駆け寄った。

「なのはぁ……良かった無事で」
「え、えへへ、なんとかなってよかったよ。もうとんだ夏休みだね」
「まだまだこれからだけどね。ところで早くジャケット着なさい。見られるわよ」
「ふぇ? わっ! あっ、そうだよね! みんななら別に見られても大丈夫だったから」
「お風呂とかとは勝手が違う気もするけど。でも万が一のこともあるし、なのはちゃん早く」

 これで一安心か。まったくほんとに大変な目にあったわ。

「あれ? なのはその足の間にあるの何?」
「足の間?」
 
 視線が集まった。フェイトが指摘した通りなのはの股の所からなにやら海藻の塊がはみ出している。なんだか何か細長いものに海藻が巻きついてるみたいだけど。下の方からは何やら亜麻色の毛がはみ出している。
 浜辺に打ち揚げられた海藻とゴミの塊を着地した時に押し潰したんだろう。ガラスとかじゃなくて良かったと思う。
 
「じゃあレイジングハート」
『All,right』

 これでなのはが水着に戻ればまた気ままに遊ぼう。今度はゴムボートで浮かんでようかしら。

「その前にお昼ご飯かしらね。みんなも食べ――」

 ところで世の中にはお約束というハプニングがある。

 唐突に、しかしお話のエッセンスとして重要に機能するものだ。
 でもそれが現実で起きた場合では話は別に決まってる。周りは微笑ましくても、当人達には絶対。
 詰まる所だけど、アタシ達はまさにその世紀の瞬間に立ち会ってしまったのだ。

「…………」

 バリアジャケットを構成するより早く翠の光が瞬き、なのはの真下に現れたのは紛れもないラッキースケベ。海藻にカモフラージュし、気絶していたおかげで完全にゴミと間違えてしまった自分が恨めしい。
 まだこの時に気づいて海に捨てれば悲劇は回避できた。しかしこうやってその本来の姿に戻ってしまった時点で全て手遅れ覆水盆に返らず。
 
「…………」
 
 世界が凍りついた。
 時間が凍りついた。
 アタシ達が凍りついた。

「…………」

 なのはに至ってはレイジングハート持ったまま下を見つつ固まっている。いや、アタシたちもまた未知の生物を目撃したことに固まっていた。

「…………」

 なんでよりにもよってそこにいるわけ?
 なんでよりにもよってなのはの下敷きになってるわけ?
 なんでよりにもよって顔がなのはのお尻より前……一番大事な所に下敷きにされてるわけ?
 
 なんでよりにもよって大の字で、あまつさえ素っ裸でアタシたちの目の前で伸びてるわけ?

「ん、んぅ……」
「ふぇ!? ひゃ!?」

 気がついたんだろう。モゴモゴとした声になのはが小さく悲鳴を上げた。
 手が動き、足が動き、何事かと周囲の様子を窺い始める。

「あ……あ……ぁ……」

 なのはの目には涙が一杯だった。そりゃ男の子のを見ると見られるのじゃ天地の差があるわよね。
 下敷きにされた本人にはなにがなんだかわからないと思うけど。

「ゆ……ゆ……ゆーの……ゆゆゆゆゆ……ゆーのくんのぉぉ」
 
 天罰を受けなさい。
 アタシたちの分も含めて。

「ユーノくんのばかあああああああああああああああああああ!!!」
『Starlight breaker breaker breaker breaker breaker breaker breaker――』

 天を貫け星の光よ。邪なるもの全て滅ぼせ。乙女の怒りは全力全開究極無敵。

「なのはちゃん……チャージしてなかったね」
「ははは……ほんとなのはには勝てないよ」
「でも同情はしないわ。あんな目に遭うのは誰だって辛いんだから」

 妙にシリアスな雰囲気をまとったままアタシ達は浜辺を後にする。
 やがてなのはが泣きじゃくりながら後を追ってくる。そんななのはをアタシ達は三人で優しく迎え抱きしめるのだった。
 みんな一つ大人になったわね。さぁ楽しい夏休みを続けましょう。
 
 ――というか、

 綺麗に締めくくらないとやってられないわよ! なにこの展開!?

* * *

「ふぃぃ……」 

 魂が抜けていくような感覚に声まで緩みきって私は口元まで湯の中へ沈んでいく。

「ふふ、フェイトちゃんすっかり温泉がお気に入りだね」
「あっ、すずかぁ」

 隣に寄ってくるすずかに甘えるように肩へ頭を乗せてみる。

「猫みたいだよ~フェイトちゃん」
「ふにゃあ~」
 
 こうして星を見上げて、白く濁っているだけのお湯に浸かっているだけなのに心まで洗われていく感じがするのはなんでだろう。
 周りを見渡してみても私以上にふやけている人はいないみたいだし。これって私だけに特別な効果があるのかなぁ。

「ふぇいと~ふぇいと~!」
「あっ久遠~いい湯だね~。でもお風呂の中で泳いじゃ駄目だよ~」
「だめ? なんで?」
「他の人の迷惑になるから~だからゆっくり楽しもうね~」
「うん! 久遠がんばる!」

 そっとその頭を撫でればくすぐったそうに目を細める久遠。耳もぴょこぴょこ動いてアルフみたいだ。

「あっ、もう久遠こんなとこにいて。フェイトちゃんもすずかちゃんも久遠が迷惑かけなかった?」
「はい大丈夫です」 
「は~い、久遠はおりこうさんだからね」
「久遠はおりこうだよ! 那美ぃ~!」
「はいはい、じゃあ私たちは先に上がるね。あんまり長いと久遠が湯辺りしちゃうから」
「またねフェイト~すずか~」

 那美さんに連れられて久遠も先に温泉から上がっていく。私もあんまり長い間つかってるとのぼせちゃうかなぁ。

「なんだかフェイトちゃん別人みたいだね」
「私は私だよ~も~う」

 どうにも気持ちよくていつもみたいにピシッと出来ない。頭ではわかっていても自然と顔がにやけてしまうそんな感じ。
 
「やっぱりそうなるくらい疲れてたのかな」
「そうかな~……私は元気だよ」
「でも今のフェイトちゃん見てるとフェイトちゃんの自然体ってもしかしたらそんな感じかもって。だから無理しすぎてないかなぁって」

 これが本当の私か……。意外とこうだらけてるのも私の一部かもしれない。もちろん普段はピシッとしてなきゃリニスに怒られるけど。
 
「こういう私って嫌い?」
「ううん、大好きだよ。どんなフェイトちゃんもフェイトちゃんであることに変わりない。だから新しいフェイトちゃんを見つけるのも大好きかな」
「でもいつもこんなにだらけないからね~」
「うん、わかってる。かっこいいフェイトちゃんの方が私的には好きだからね」

 そっか。じゃあいつもの時は気が抜けないな。
 なんだかんだですずかはいつも私たちのことを見守ってくれてる。私たちの仲を取り持つのが凄く上手だ。

「春から今までいろんなことあったよね」
「うん、いろんなことがあっていろんなことが変わった」

 私のことに関しては言うまでも無く、他のみんなもどんどん変わっていく。

「久遠も随分喋れるようになったね。やっぱり使い魔みたいなものだから学習能力も高いのかな?」
「多分ね~。アルフとも随分仲がいいみたいだし」
「同じイヌ科だからね。もしかしたら馬が合うのかな」
「馬ぁ? アルフは狼で久遠は狐だよ」
「ふふ、例え話だよ。馬が合うってのは相手と気持ちがぴったり合うってこと」

 う~ん、やっぱり日本語は難しいや。漢字もそうだけどことわざとかいろんな表現がある。
 四文字熟語とか暗号みたいで面白いかな。アリサやなのはに教えてもらったけど焼肉定食とか全力全開とか。
 私の場合は一撃必殺とか雷光一閃とかが響き的に好きだな。 

「これからもいろんな人と出会って変わってゆくんだよね」
「きっとね。フェイトちゃんも私も、アリサちゃんもなのはちゃんも他のみんなも。いろんなことに向き合って一歩ずつ進んでいく」
「楽しみだね。次に何に出会えるかワクワクする」
「辛いことあるかもしれないよ? フェイトちゃんは怖くないの?」

 言われてしまえば怖いとしか言えない。でもこれも正直な気持ちだ。

「怖いよ。けどそんな時はみんなと乗り越える。そう思ってるから」

 虫のいい話だけどみんなの力があればどんな困難だって乗り越えられると思うのは本当のことなんだ。
 誰かが手を差し伸べてくれる保証なんて無いのにね。

「じゃあ私が一番に手を繋いであげる」
「すずか?」
 
 温かいお湯の中で手に触れる感触は紛れも無くすずかのものだ。お湯が温かいのにそれでもなお手の温もりは染み込むように私の手を伝って心へ流れてく。

「たまにはなのはちゃんやアリサちゃんより先にフェイトちゃんのとこへ行ってもいいよね?」
「……もちろん。いつも一番だって大歓迎」
「ふふ、じゃあ本気出しちゃうよ」

 自分がこれだけ友達に想われてることがわかるととても嬉しい。大好きな人に手を差し伸べてあげたいのはみんな同じなんだね。
 いつも見守ってくれるすすかだってそれは一緒。本当はこうやってずっと手を繋いでいたい。

「いつも私たちの背中見るより横顔の方がいいと思う。たまには先回りして私の顔を正面から見つめたって私怒らないよ」

 ポジションなのかな。私の隣にはなのはがいて、正面にはアリサがいる。そんな私たちを後ろから見守ってくれるのはすずかがいつものポジション。
 でもたまにはそれが入れ替わったっていいと思う。戦うときみたいに臨機応変でクロスシフトにするみたいにあっと驚く編成になってもそれはそれで楽しくて面白い。

「これじゃあ私も変えられちゃったかも、フェイトちゃんに」 
「えっ? もしかして嫌だった!? ご、ごめん……」
「全然嫌じゃないよ。嬉しい」

 きゅっと握られた手に力が入る。

「フェイトちゃんと友達になれて良かった。きっとこれからもっと変わっていける」 
「私も変わるかな?」
「もちろん。一緒に変わっていこう」
「うん!」

 まだ私たちは十歳の子供だ。ここから先にある世界はいつだって未知数で溢れている。
 目まぐるしく変わる世界で私たちは毎日変わっていく。どんどん変わって大人へ向かって歩いていく。

「どう? 掘ったら出てきたらしい温泉の感想は?」
「にゃはは! フェイトちゃんすっかり蕩けちゃってる~」

 隣にいてくれる人と共に変わっていける幸せを噛み締めて私はまた一つ変わっていく。
 どうかいつまでもこんな幸せな時間が続きますように、なんて願う。

「はぁ、なんか落ち着くわ。みんな胸おっきくて自分が小さい人間ってよく思い知らされたわ」
「わたしたちまだそんな大きくなる歳じゃないと思うけどね」
「え? でもすずか膨らんでるんじゃないかな?」
「そ、そうかな」
「何よ! あんただけ抜け駆けは許さないわよーっ!」
「あふ! アリサちゃんそんな触らないでよ~! くすぐったい~!」

 これ以上の理想の世界があるなら私に見せて欲しい。

「う~、ちょっと敗北感だけど……この際だからみんなで比べっこよ!」 
「た、多分わたしたち同じ大きさだと思うけど」

 それぐらい今の私と友達、家族と世界が大好きだから。

「それじゃあさっそく蕩けてるフェイトから!」
「あ、アリサ!? だ、駄目だよ~! ちょっとふざけすぎーっ!」

 私の胸も……変わっていくよね?

* * *

 てんやわんやで温泉を終え、浴衣に身を包んだ私たちを待っていたのは色とりどりの会席料理。家では普段から洋食中心の私にはお刺身を始めとした和食のフルコースはとても新鮮で、楽しくて、美味しい夢のような一時だった。
 宴会場は五十人近くの人が座ってもまだ広々としていて、修学旅行なら一学年全部が簡単に入ってしまうはず。
 真新しい畳の感触と匂いにほっと一息つきながら、去年のみんなとの旅行より随分と豪勢になったなぁとしみじみ感じる。
 ほんとはもっとこじんまりと、気が置けない人たちだけでゆったりと過ごしたいと思ってたけどこうやってみんなでわいわいガヤガヤ騒いでいるのもいい感じかも。

「なんだかんだでアタシたちこういうの食べないのよね」
「生魚もお刺身にするよりカルパッチョの方がよく食べるよね。洋食だと完全に生物って少ないのかな?」
「ニシンとかなら生で食べたこともあるけどどうなのかしら」

 家のシェフに今度聞いてみようかな。

「これって食べられるのかなぁ。すごく硬いけど」
「フェイトちゃんそれサザエの殻だから。飾りだから食べられないよ」

 やっぱりこういう所は家庭の違いなのかなと二人の様子を見ながら透き通った切り身を口へ運ぶ。しこしこした食感にお醤油の風味が程よく溶け合って顔が綻んでいく。

「それにしてもこれ子供には少し量が多めかしら」
「フルコースって感じだもんね」
「ちょっとパパに言っておく必要があるわね。まぁ宴会場での食事だし規格合わせないと非効率なのはわかるけど」

 お膳の上にはお刺身を始め茶碗蒸しや天ぷら、くつくつと煮える紙なべには新鮮な野菜や海老が顔を揃えている。
 可愛らしい花の模様が添えられた小鉢にはおからの和え物やタコの酢の物。他にも煮物、蒸し物、焼き物と海鮮中心で考えられるもの全部が詰め込まれているみたい。

「なんだい残すならあたしがもらってくけど」
「だ、駄目だよアルフ! 私まだ食べるもん! アルフにはこれあげる!」
「流石にあたしでも貝の殻は食べられないって……」
「ふんだ! 頑張れば噛み砕けるかもしれないよ!」
「ああ、ごめんよフェイト。でも食べきれない時はよろしくってことで!」

 残すのはもったいないよね。いくら美味しくてもお腹が一杯じゃ食べれないし。

「ふぅ、ちょっと一休みかな」
「無理しなくてもいいわよ。いざとなったら他の人たちに上げればいいじゃない。食べ盛り沢山いるわし」

 アリサちゃんの言う通り周りには沢山の人がいるわけだし心配は無いかな。
 本当に沢山の人たち。本当なら私たちが出会うはずの無かった人たちがここにはいる。 

「ねぇアリサちゃん」
「ん?」
「私たちも魔導師になれて良かったね」
「急にどしたの? なんかセンチって感じになっちゃって」

 切り出し方がいきなりすぎたせいかアリサちゃんはきょとんと私を見つめている。

「全部終わって、こうやってみんなとゆっくりしてると考えちゃうんだ。もしも私たちがなのはちゃんとフェイトちゃんが魔導師だったことやこの町で起きてたいろんな事件のこと、何もかも知らないでいたら私どうなってのかなって」

 私たちの知らない所でずっと戦い続けていたなのはちゃん。その秘密を知ったのはどんな形であれ今は同じ秘密を持つ友達として一緒に戦って、世界を救った。
 たらればってマイナスの方向で考えるのはあんまり好きじゃないけど、今までも、これから先も知らない私たちでいたらどうなってたのかなって想像する事が止められない。

「それでもなのはちゃんは戦って危ない目にあって……でも知ることが出来ない」
「知らないならまだいいじゃない。アタシたちはそれを知って、魔法少女にまでなることが出来た。もしも知っただけで何も出来ないならそれほどやるせないことはないわよ」

 全部知って、でも見ていることしか出来ない心は大切なものを取られた心と同じように痛くて苦しい。
 それは多分その子の辛さや苦しさ、少しだけでもそんな気持ちを分かってしまうから。一緒に分け合えなくたって感じとってしまうから。
 私たちはその気持ちを痛いほどに知ってるから、余計に胸に響く。 
 
「知らなくていいなら知らなくていい。何が起きても友達ってことは変わらないでしょ? なのははなのはだし、なのは以外の誰かさんになんてならない、ね?」
「それは……そうかもしれないけど」
「それにさ、何かの拍子に知っちゃってもアタシたちなら協力ぐらいしてるわよ」
「もちろん! 何があっても私なのはちゃんの力になりたい!」
「アタシも。とは言っても魔法以外でなのはに直接協力できることなんて無いかもしれないけど。子供のアタシたちじゃ自由に使えるお金も無いし、権力も無い。辛い所よね」

 茶化すアリサちゃんだけど内心は私と同じ気持ちだと思う。少しでもいいから友達の力になれればどんなに気が楽になるだろうか。
 それが自己満足だとしても待ち続けることよりかはずっとマシだよ。
 
「それでも今のアタシたちは魔法少女でリリカル・ストライカーズの一員。この際もうそれでいいんじゃないかしら?」
「どうなんだろ……」
「いつだってアタシたちの前には沢山の可能性があった。その中から選んで踏み出した一歩は後戻りの出来るものじゃ無い。それをもしもとか、たらればで後悔してたらこの一歩に失礼じゃない」
「うん、後悔はしてない」
 
 これは嘘偽りの無い本当の気持ちだ。どんな怖い目にあっても、辛い目にあっても私は今日まである来た道に後悔しないし、逆に誇りにさえ思ってる。

「ならそれでいいのよ。どんな道を選んでも必ずアタシたちは何かを掴んで歩いていける。だから他を気にするよりまずは自分の道を見つめなきゃ」

 例え力になれなかった私たちがいても、その私たちは私たちなりに頑張って歩いていく。

「他を気にしてつまずいたら駄目ってこと?」
「そうよ。まっアタシがいるから転ぶ時は支えてあげる。安心なさい」
「それはそれで……」

 大事なことはどんな時だって自分の道を見据えて進む。今のこの時間を大切にして、真っ直ぐ前を見て一歩ずつ進んでいく。
 それさえ出来れば何も気にすることなんてない。何かあれば誰かが手を繋いで支えてくれる。
 アリサちゃんが言いたいことはきっとそういうこと。

「でも……ありがとアリサちゃん」

 もしもを考えることは失った過去を取り戻すことと同じことなのかもしれない。過去は取り戻せないし、もしもだって本当には出来ない。
 一つ違うとするなら「過去」は一つだけど「もしも」は無限にあること。
 何よりこの「もしも」は過去だけじゃなく未来にだって繋げられる。だったら過去を顧みることはほどほどにして未来を見つめた方が絶対いい。
 
「どういたしまして。これに懲りたらこれからはちゃんと前を見なさいよ」
「うん、やっぱり私たちのリーダーは頼りになるよ」
「褒めたって何も出ないわよ」

 あとちょっとでつまずきそうになったけど差し伸べてくれた手が私を支えてくれた。もう私は大丈夫。
 照れ臭そうにそっぽを向くのはいつものアリサちゃんに心の中でもう一度ありがとうを送った。

「あっ、二人ともフェイトちゃん見なかった?」
「フェイト?」
「そういえばさっき出ていったみたいだけど」

 確かアリサちゃんと話してる時にフェイトちゃんが宴会場を出て行ったはずだけど。そのことを伝えると、なのはちゃんは首をかしげてしまう。

「夜風に当たりにでも行ったんじゃない?」
「それなら私たちも行ってみる? お腹も一杯だし」
「う~ん、そうだねそうしよっか」

 ちょっと宴会の熱に疲れてきた感じもするしちょっとだけ席を外して休憩もいいかもしれない。
 善は急げというわけじゃないけど、私たちは未だ冷めることを知らない宴会場を後にするべく席を立った。

「あっ、そうだすずか」
「なにアリサちゃん」
「一つ言い忘れてことがあったわ」
「言い忘れてたこと?」

 さっきのことに関係あることなのかな? 
 なんだか全然見当がつかないけど。
 
「確かにアタシたちは正確には魔導師かもしれないけど。やっぱこっちの方で統一した方が格好いいでしょ?」

 人差し指を突きつけながらアリサちゃんがにんまりと笑い、

「アタシたちは魔法少女! 魔導師なんかよりずーーっと可愛くて格好いいでしょ!」

 茶目っ気たっぷりのウィンクをした。

「そういうわけだから以後よろしくね」

 ちょっと身構えてしまっていた私にとってそれはちょっと意外である意味肩透かし。でもとってもアリサちゃんらしくて思わず笑い出してしまった。

「ふふ、うん! わかったよアリサちゃん!」
「……なんか余計なこと考えてない?」
「考えてない、考えてないよ。やっぱり可愛らしい方がいいもんね。あんまり難しく考えちゃうのはいけないって教わったばかりだし」
「よろしい! わかってるなら問題なし! それじゃ行くわよ」
「うん!」

 やっぱり叶わないかなアリサちゃんには。
 こうやっていつでも私たちを元気付けて引っ張って、リーダーって名前負けしない立派な姿をみせてくれる。
 ちょっと強引なとこもあるけどそれはご愛嬌ってことで。

「ねぇアリサちゃん」
「ん?」
「もし甘えたくなったらいつでもいいからね」
「はぁ!? あんた急になに言い出すの!」
「私ばかり元気付けてもらうのも悪いから」

 いつもリーダーしてると疲れないのかな? なんてアリサちゃん自身はどうなのかちょっと心配になった。 

「そうだよね。わたしもすずかちゃんもフェイトちゃんもみんなアリサちゃんにお世話になってるわけだし」
「だから、ね?」

 するとアリサちゃんは間髪いれず私たちの前に立って、

「ばかちん!」

 ゴツッ! とおでこに衝撃。手加減なしのデコピンが炸裂していたり。

「にゃあ!? 痛いよアリサちゃ~ん!」
「きゅ、急に酷いよぉ!」
「あんた達が変なこと言うからよ! まったくアタシはね――」

 そう言ってくるっと背中を向けて一言。

「あんた達が元気なことが一番の元気の源なの!!」

 すごい早口の声に私たちは思わず顔を見合わせにんまり。そのまま二人同時にアリサちゃんの前へ回り込んでみれば。
 やっぱりアリサちゃんは、

「も、もう見るなーーーっ!!」

 ――顔真っ赤。

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