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2007.07/13(Fri)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第八話 Apart 


【More・・・】


 目の前に私がいる。
 私と何から何までそっくりで、もしかしたら自分は実は双子じゃないかってくらい。

 でも私は知っている。

「あなたはフェイト……母さんが私の代わりに作ったお人形」

 母さんが私を蘇らす間、寂しさを紛らわすためだけに作ったよくできた人形。
 ただそのためだけに生きて、役目が終わったらさようなら。
 私は母さんとリニスと一緒に幸せに暮らす。
 
 思い出を奪ったのはフェイト。
 ただそれだけを母さんから教えられていた。
 大好きな母さんのために私は言う通りに今日まで歩いてきた。

「私にはそれしかなかった」

 昔の記憶がない。
 目の前の人が母さんってことだけはわかっているのに思い出せない苦しさ。
 思い出さなきゃいけない。思い出がないと母さんに悲しい思いをさせてしまうから。
 だから私は、記憶を奪い取ったフェイトが誰よりも憎くて許せなかった。

「人形なんかに楽しい思いなんてさせてやらない」

 何もかも奪い取って、フェイトが持ってる楽しかった思い出全部私のものにして、

「フェイトには悲しい思い出しか残してやらない」

 私と同じだけ、ううん違う。
 それ以上の苦しい思いをさせてやらなきゃいけない。
 
 そう思ってきたのに――。

 フェイトはあの時なんて言ったの?
 思い出せないって……悪い冗談でしょ?

 あなたは母さんとの思い出をいつでも思い出せて、世界でただ一人母さんといつでも一緒にいられる幸せな子。

「酷いよ…………」

 フェイトは私の代わりのお人形。私が戻るまで母さんが寂しさを紛らわすためのお人形。
 でも人形は私の思い出を奪って逃げ出して、どこか別の世界で幸せに暮らしている。
 母さんからそう聞かされてたのに。

「思い出を奪ったの……?」

 フェイトは何もかも知ってるわけじゃなかった。
 嘘をついてる。そうやって考えることもできるけど、なぜだかフェイトは嘘をついてないって思えて。

「変だよ……それ……」

 思い出せないから拒絶された。
 私の記憶を奪ったのに?
 母さんがフェイトを捨てたのは私の思い出を奪ったからじゃなくて、

「……嘘だよ」
 
 ――アリシアを思い出さなかったから。
 
 だから捨てた。

「……母さんは人形を作ったわけじゃない」

 そうなんだ。フェイトは本当は私になるはずだった。
 私だった。
 でも違った。

「じゃあ私って……誰なのかな」

 アリシア・テスタロッサじゃないのかな?

 母さんの本当の娘じゃないのかな?
 私って存在は此処にある。フェイトって存在も同じように。
 でも二人は一緒にいちゃいけない。

 私がいるんだから偽者はいらない。

「偽者って……だれ?」

 もしかしたらフェイトが本物の私で、私はただ自分をアリシアと思い込んでるだけの偽者。
 本当にいらないのは私かもしれない。

「違う! ……違うよぉ……」

 私がアリシアであの子はフェイト。
 私の思い出があったってフェイトはフェイトだもん。絶対私になんかなれない。
 
 私になれないから捨てられたんだ!

「私は……私はっ!」

 じゃあもしかしたら次に捨てられるのは私なのかもしれない。
 今はまだアリシアだけど、母さんの知ってるアリシアじゃなくなったら……。
 
 アリシアになれないなら捨てられる。

「そんなの嫌だーーーーーっ!!」

 頭を抱え、何度も何度も首を振って。 
 心を蝕んでいく闇を必死に振り払った。 

「なんでこんなに……知らないことばっかりなのに」

 バラバラなパズルの欠片。
 いくつもの欠片が無くなっているのに、手元にある少しの欠片だけでどんな絵なのか手に取るようにわかってしまう。
 まるで何度も何度も作ったお気に入りのパズルみたいに。 
 フェイトの言葉を真に受けて、馬鹿みたいに信じて、どんどん嫌な考えばかり思いついて。

「出てって…………出てって……」 

 フェイトは入れ物。私の記憶の入れ物。
 じゃあ私は何? 何が入ってるの?

「私の中には」

 自分を自分として、アリシアをアリシアとして証明するもの。

 それが――ある?

「そうだよね……私っていうことを証明するものって……ないよ」

 ほっぺたを熱いものが伝わっていく。
 拭ったって無駄。止まらないんだからやる意味がない。

「ただ自分でアリシアって言ってるだけで……」

 私は……私でいられる。
 それだけ。それしかない。

「もうわからないよ」

 気づけば闇が体を包み込んでいた。
 なんだかすごく眠たくなって、目の前が真っ暗になっていって。
 終わりの合図。
 夢の最後。

「私は……アリシア……なんだ……アリシア・テスタロッサなんだぁ……」

 同じ言葉が虚しく闇に溶け、私も溶けていって。
 
 ――私は知ってしまった。

「あなたはアリシア……母さんが私として作ったお人形」

* * *

 主と使い魔は常に心の奥底で繋がっている。
 聞こえはいいが、別に固い絆とかそういう幻想的な意味合いなものは一切ない精神リンクである。

「初めてですよ……ご主人様に締め出しを食らったのは……」

 以前の主には散々なほどされてきたリンクの遮断。あの時はそれほど苦とも感じなかったそれが、今は私の心に深く影を落としている。
 心にぽっかり穴が開いて、そこから空気というか気力というか、大事なものが抜け出していくような虚脱感とはまた違った感覚。

 心配して、アリシアの部屋に行ってみたもののドアはやはり硬く閉ざされていた。
 留守ではない。彼女は確実に中にいる。
 鍵なんて閉めないくらい無用心な彼女なのだ。ノブが動かないなら、いるという意思表示。 

「さて……どうしますか」

 彼女の手当てをして、部屋に寝かせて。それから彼女の姿を私は見ていない。
 すでに一日は経った――。
 こんな時にプレシアはどこへ行ったのか……。
 もっとも掛け合ったところで彼女がアリシアになにか慰めの言葉をかけるとも思えない。

「私が終止符を打ったのなら、何をしたって無駄なんでしょう?」

 嫌味、皮肉たっぷりな独り言は冷えた夜風によく溶ける。
 そのまま彼女の元まで届けて貰えるなら、何度だってこの口が言ってやるだろう。
 どうせ聞く耳などないのだ。いくら言おうがなんとかの耳に念仏だ。

「それにしても……」

 一時は協装結界まで持ち出され窮地に立たされかけたあの戦い。
 アリシアが爆発的に魔力を放出したおかげでなんとか脱出は出来たものの、内容だけなら完全に敗戦だ。
 彼女の魔力は本当に底知れないと舌を巻く一方で、なぜそんな事態に陥ったのか疑問が頭の中を飛び回る。
 ただ唯一わかることはその直前に、彼女の心が異常とも思えるくらいの動揺と昂ぶりを見せたこと。
 そしてそれから完全に遮断された精神リンク。

「結界の中で何があったのでしょうか……」

 未だ痛む脇腹を擦りながら結界の中で行われていたであろうやり取りを思索する。
 あまりに痛覚が先行してままならないのだが。

「まったく……速さには自信があったのですが」

 彼女の思わぬ成長ぶりに口角が僅かに上がるのを感じる。
 肉を切らせて骨を断つ。体現された見返りは肋骨二本。
 治癒魔法ですでに接合は済んではいるが痛みだけは未だズキズキと私を悩ましている。

「鉄拳無敵……言う通りになってしまったのが悔しいです」

 総合的なダメージ量で言うなら私の方がずっと上回っている。
 手数でも勝った。しかし一撃にひっくり返された。

「次は……負けないですよ、アルフ」

 闘争本能か、彼女にライバル心を抱きつつある自分にやれやれと思いつつ、寄りかかっていたドアに向き直る。 
 今はそんなことよりも目の前の問題を解決することこそ先決。
 そう思い、私は軽くドアを叩いた。

「私ですアリシア。開けてください?」

 …………。

 返事は――ない。

「アリシア、開けなさい。このまま我を張っても何も解決しませんよ」

 少し言葉を強くしてもう一度ドアを叩く。
 せめて何があったのかだけでも分かれば少しは力になれる。もしかしたら話してもどうにもならないことだとしても……。

「……嫌だ、開けない」

 消え入りそうな声が聞こえるまでそれほど時間はかからなかった。

「駄目です、開けなさい。一体何があったんですか?」
「何にもなかったよ……今日はもう遅いからおやすみなさい」

 覇気はなく、ただ出しているだけな声。
 こちらの感情も奪ってしまうようで怖いくらい淡々としている。

「……らしくないですよ。あなたが寝るよう時間ですか、今は」

 ええ、いつも夜更かししようとしている人間の言うこととは思えません。
 だというのに返事は無く、代わりに返ってきた答えが、

「らしくないって……なに?」

 それだった。

「あなたらしくないってことです。いつものアリシアならまだはしゃぎ回ってます」
「そう……なんだ」
「…………アリシア?」

 何かがおかしいと感じたのは気のせいじゃない。
 扉の向こう、アリシアに何かが起きている。それもかなり重大な。

「どうしたんですか? ますます変ですよ。たちの悪い冗談なら止めてください。いつものアリシアに戻ってください!」

 不安を隠せない。
 強く拒絶するわけでも無く、かといってドアを開けることもしない。
 経験の無い事態に言葉は詰まり、情けないが私にはドアの前で立ち尽くす他なかった。

「フェイトに何を言われたんですか……?」

 自分でも思うが絶対これは無い。
 あの優しいフェイトがアリシアを動揺させるような言葉を吐くとは思えない。
 境遇でいうなら彼女の方が酷なのだ。だからこそ人を傷つけるようなことなんて絶対に言えない。逆に自分の境遇に重ね合わせ思いやりの言葉すらかけるだろう。
 保障は無いがフェイトはそういう子なのだ。

「食事は取ったんですか」

 取るわけがない。部屋から出ていないのだから。
 一応、部屋の中には買い漁ったお菓子があるはずだが、育ち盛りのアリシアの空腹を満たせるとは思えない。
 アリシアは無言の抵抗を続けている。
 フェイトなら本を読んでいると思えば別段こんな静けさも気にならない。
 ただアリシアとなるとこの静けさが逆に不気味でいつもの喧騒が恋しくなる。

「……アリシア」

 無意識に力の篭った拳がドアに重い音を生ませた。
 名前を呼ぶことしか出来ない歯がゆさ。無駄に時間ばかりが浪費されていく。

 こうなれば――。

「入りますよアリシア」

 こんなこと本当は私だってしたくない。でも今は急を要する事態だと直感が訴えた。
 だから私はノブをおもむろに掴み、

 鈍い音がするまで一気に捻りあげた。 

 魔力を込めれば呆気ないもの。
 役目を失った金属の塊を放って私はゆっくりとドアを開けた。

「……失礼します」

 部屋に入るなり一瞬自分が本当にアリシアの部屋に踏み込んだのか疑った。

 ――闇だった。

 黒に塗りつぶされた影の世界。
 僅かに差し込んだ月明かりがおぼろげながら世界の輪郭を作り直していく。
 隅のベッドでうずくまる彼女にも当然その権利は与えられた。

「電気も点けないで……何を考えているんですか」

 言って手探りで、壁にあるだろうスイッチに手をかけた。

「ダメっ! つけないで!!」 
 
 悲鳴に似た声が私の耳を貫いていった。
 思わず手を引っ込めアリシアを見やる。

「……お願い……今の私……酷い顔だから」

 酷く掠れた声だった。
 彼女に起こっていることをすぐに察した。

 ――行かなければならない。

 使命感に似た感情が私の足を一歩動かそうとする。

「フェイトが言ってたんだ……思い出せないから捨てられたって……」

 一言、アリシアの言葉に軽々と止められたのは悔しかった。

 そうしてアリシアの言葉が理解できなかったことがもっと悔しかった。

「何を言ってるんですか……」
「フェイトは私になるはずだったお人形なんでしょ? 私の思い出が無いのはフェイトが私だから……」

 ああ、そうか……。
 そういう……ことか。
 
 彼女は真実を知らなかったのだ。 
 自分に記憶が無いのは全部フェイトが奪ったから、そう思って今日までやって来たのだ。
 いわば彼女のアイデンティティであり全てを突き動かすための原動力。

「……リニスは知ってたの?」
「それは……」

 首は振れなかった。
 私は知っている。あの日、亡骸だったアリシアを見つけた時にプレシアから全てを教えられたから。

「ねぇ……フェイトがアリシアになるはずなら今いる私ってなんなんだろうね……」

 諦念に満ちた呟きは私だけに向けられていない。
 もう一度生を受けたこの世界に向かって言っている。そんな気がした。

 なんて仕打ちだろうか。それともこれは死を捻じ曲げた彼女への罰?

(……そんなのどうでもいいです)
 
 本当に今私がやるべきことは、

「アリシア」

 闇の中へ一歩踏み出して、

「っ! ……来ないで」
 
 一歩、

「こ、来ないで!」
 
 もう一歩、

「出てって! 私の言うこと聞いて!」
 
 あと一歩、

「来ないでって……言ってるのに!」
 
 長いですね……でも――

「ようやく会えましたね、アリシア」
 
 こうやって微笑んで、そっと抱き寄せることだから。

 小さな肩は震えていて、氷のように体は冷たくて、何でもっと早くこうしていやれなかったのか後悔するばかり。

 でも安心した。

「やぁ……やだ! 離してよ! 離してよリニスぅ!」
「それは受け付けられません。自分の体なんですからもっと大事にしてください」
「自分の体なんかじゃない! 私アリシアじゃないかもしれないのに!」

 この期に及んで、随分と強情な子だ。

「アリシアです」

 だから私は言ってやった。
 アリシアとこの偏屈な世界に向けて。

 未来永劫、絶対普遍、厳然たる事実を。

「ではアリシア問題です。なぜ昔の記憶がないだけで自分じゃなくなるんですか?」
「だって……私が私だって証明できるものがないから」
「ふぅ、記憶なんて酷く不確定要素に満ちた過去の集合体でしかありません。そんなもの理由になりますか」
「……難しいこといってもわからないよ」

 ちょっとアリシアには難しすぎましたか。
 実の所、私だってなんだかよくわからないことだと思いますし。

「いいですか? 答えは簡単です。自分が自分だって胸を張って言えること。それこそ一番の証なんです」

 私だってこうやって使い魔として再び生きていることにふと不安になるのだ。
 もしかしたら自分は以前のリニスを模倣して作られた存在――いわばアリシアとして作られたフェイトと同じように。

 それでもアリシアがいるから、アリシアが私を必要としているから、なにより危なっかしいアリシアを放っておけないからそんなことすぐに吹き飛んでしまう。

「うん、私は私だよ……でも思い出はみんなフェイトに」
「それなら作ればいいじゃないですか。自分がアリシアだって思い出を、時間が立てば今だってすぐに過去に、思い出になるんです」

 そう、それならアリシアはもう誰がなんと言おうとアリシアだ。

「もうあるでしょう? プレシアと、私と、フェイトには無い思い出が」

 確かに短い時間ではある。だけど過去を思い出に出来ない理由にはならない。
 私たちは確かに一緒にいたのだ。
 たったそれぽっちだけでも十分すぎる。

「ないなら作ればいいんです。取り戻せないなら作ればいいんです。簡単なことなんです。ほらアリシアにだって思い出、あるでしょう?」
「私の思い出……」
「あなたの中に私はいる。その記憶、私があなたの生き証人なりましょう」

 自分の存在とか、生きる意味とか、そんな理屈付けは自分を奮い立たせるためのプロパガンダ。

「大事なのは気楽にやることです。いつものあなたがやっていることそのままに、のびのびと大胆に」

 ぎゅっ、とアリシアを抱きしめて囁きかけるように静かに、ゆっくりと紡いで。
 いつの間にか心に流れ込んできた温かなせせらぎに安堵して。

「まったく、あなたはほんとに手のかかるお転婆なんですから」

 頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
 あれほど冷たさを帯びていた闇も今は心が安らぐ温かさを持っていて。

「……うん」

 微かな答えは闇には溶けず、私の耳に溶けていった。

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