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2010.01/07(Thu)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十六話 Apart 


【More・・・】


 裏方の作業というものは事件の解決を持って幕を閉じないのが普通なものだ。これがすぐに終われば荷物まとめてバカンスにしゃれ込めるのに現実は非情である。

「本事件報告書……事件NO.AP00575――」

 前代未聞の至上かつてない規模の大事件を一字一句後世に残さずしてどうするか。今後このような事件が再び起きない保障なんてどこにもないんだし。
 栄養ドリンクなんてもう気休め程度の気付け薬で飲むことに意味があるのか……。
 コンソールの上で軽やかにステップを踏む指先と、物を考えるはずの頭は完全に回線が分離してるみたいなのが幸いだけど。

「どこまで詳細に報告すればいいのかなぁ……これ、相当厄介だよ」

 あらゆる情報を列記すればアルハザードに繋がる方法そのものも暴露することになる。下手に犯罪者に渡ればそれこそまた第二、第三の次元世界消失事件が起こるとも限らない。前例が思わぬ副産物を生み出すことだけはなんとしても避けたい。
 それ以上にフェイトちゃんのこともあるわけだ。どうにかプレシアとの関係性をこの報告書で持って断ち切らないと降りかかる火の粉は一向に減らないだろう。

(どの道、厳しいけどさ……)

 最初はアリシア・テスタロッサによるアースラの襲撃から始めるとして、次は第97管理外世界への強化型ジュエルシード――通称L・ジュエルの散布と発動。
 輸送中の試作デバイスを現地協力者に譲渡……とでも書けばえらいことなのよね。他にも現地民間人への被害とか、ここまでまとめたものを見直してもまだまだ粗はある。
 ミッドチルダのことに関しては別にまとめるとしても、だ。

「一番の問題は――……はぁ」

 ミッドチルダが虚数空間もといアルハザードに取り込まれていた事実を公表するかどうかである。

「いつもいつも済まないわねエイミィ」
「あっ、艦長……。どうしたんですか? 今仮眠とっておかないと後々持ちませんよ」
「ええ、これから休ませて貰うんだけど、その前に差し入れどうかしら?」
「じゃあいただきます」

 お盆の上にはやけに白く濁った緑茶と羊羹が二切れ乗っていた。相変わらず艦長らしいなぁと思いつつ、やっぱりこれは無いだろうと心の中でごちる。
 緑茶にミルクと砂糖の悪夢のコラボレーションは未だに慣れない。慣れても困るけど。

「あの艦長、報告書のことで質問があるのですが」
「何かしら? 期限の延長は多少は認めるけど」
「いえ、ミッドチルダに関してなんです。アルハザードに閉じ込められた事実を有りのまま載せるべきなのか踏ん切りつかなくて」

 誤魔化そうと思えば誤魔化せるはずだ。当時の観測者は私達しかいないのだから。
 それが本当にミッドに住む人たちのためになるのかわからない。

「あのミッド全域でのジュエルシード発動時点でミッドチルダの時間は止まっていた。時間が動き出したのは昨日アルハザードを完全に封印した瞬間から……だったかしら?」

 長期間アルハザードに閉じ込められてた事実を彼らは知らない。知った所でその出来事は彼らには一瞬で通り過ぎたことだし失ったものおそらく無いだろうけど。
 ただ自分達の世界が下手すれば永遠に亡き者とされかけたのだ。その事実だけはやはり知らない方が幸せ、なんて思うのは甘い考えなんだろうか。
 これは巻き添えを食らった時空管理局にも言えることだけど、下手に不安を煽るくらいならこのまま適当なこと書いて揉み消した方が優しいのかな?
 大きな声では言えないが、実の所アルハザードから開放された影響かミッドチルダの属する次元世界の位置座標も僅かにだがずれているのだ。少なくとも次元世界を渡る者達がこの事実に気づかないはずがない。まさかミッドチルダが次元から消失した事実まで辿り着くかはわからないとしても、だ。

「これは私たちだけの秘密にしておいた方がいいんでしょうか? それとも――」
「あなたはどう思ってるのエイミィ?」
「私は……全て知る必要ないと思います。一番深い所にある真実は改変して別の真実にしてしまって」

 これには理由がある。他でもないフェイトちゃんのためだ。
 もしもミッドチルダが消滅したことを皆が知れば、そのやり切れない想いの矛先は全て彼女へと向けられる。PT事件の時だって権力にふんぞり返った大人たちの心無い言葉がいくらでもあった。裁判で事実上勝訴しても帳消しに出来るものではない。
 
「まだそれなら良い方よ。私は私たちしか知らないことなら全て改変するつもりだったわ。とんだ親バカね」
「もう艦長の言うことですかそれ」
 
 それでもフェイトちゃんを守れるならそれでも良いかもしれない。ジュエルシードが願いを叶えた、いわばアルハザード唯一の成功例でもある事実を隠蔽するにしたってこれほど適したものは無いだろう。

「まったく感心できないな。ミッド、管理局が戻った今、僕らはもう難民じゃないんだ。もう悪ふざけは許されないと思うが」

 遅れてやって来た執務官を合わせていつものメンバーがブリッジに揃う。私も含めてみんなが難しい顔をしながらモニターを見上げた。

「聞く所によるとミッドチルダが消失した事実を他の次元世界もまったく知らないそうじゃないか」
「存在そのものをアルハザードが捻じ曲げたってことなのかな?」

 以前のケースにもそれはあった。地球の気候現象と化したL・ジュエルは普通なら有り得ない挙動を長期に渡って観測した全ての人に誤認させ、隠蔽していた。
 アルハザードのような存在は人々の認識すら超越してしまうようだ。私たちが認識疎外を使いこの艦を隠せるのだから当然なのかもしれないが。

「そういえばジュエルシードの状況はどうなってる? 手筈どおりならL・ジュエルを含めて全てのジュエルシードは消滅したはずだが」
「安心しなさいクロノ。全て完全に消滅したわ」

 アルハザードの封印に使用したL・ジュエルはアルハザード共に消滅した。確認されたL・ジュエルは九つでこれにより残り五つ。

「フェイトとアリシアの融合に使われたあれは事実上二つ分か」

 原生動物――なのはちゃんたちは久遠と呼んでいた子狐に取り付いたL・ジュエルは格納されていたアルハザードの部分をアリシアちゃんが独自に回収したL・ジュエルへ押し込み封印した。
 これは今のフェイトちゃんになった時に役目を終えたかのように消滅している。これで残り三つ。

「管理局に移送した一つはレティによると消滅してたそうよ。保管していた前事件のジュエルシードも」

 先に管理局へ帰還したレティ・ロウラン提督からの情報で残りは二つだ。

「後はアースラの強化に一つ使ってこれも消滅して残り一つ」

 ちなみに今のアースラはちゃんと元の姿に戻っている。アルハザードを封印したのだから当たり前なんだけど、あれだけ高性能な艦だと手放すのが惜しい感じも。
 と、言うのは建前で実際艦内のあちこちを見てみると強化した際に増築した部屋はあるし、動力炉も見た目は普通でもスペックだけはそのままだったり色々とおかしな点が残っているわけで。
 外の形状だってあの大げさすぎるデザインの羽は無いにしろ微妙な所で形が残ってしまっていて管理局に帰ったらこれをどう誤魔化そうか考え中な訳だ。
 まさかとは思うけどスイッチ一つであの姿に戻れるのではないかと邪推してしまう。邪推というのはあんまりだけど手元のコンソールにも見慣れないボタンとかあるとついリニスのしたり顔が浮かんでしまうわけで。

「問題は未だ発動していない九番目のL・ジュエルだけか……」

 帳尻が合わないのは全部これのせいだ。発動はおろか発見すらされていない行方知れずのL・ジュエル。
 
「少なくともアルハザードによって強制発動される心配は無いし、なによりアルハザードが無い以上内部の機能も消失している可能性が高いわ」
「危険性はあるが……そうであることを祈るしかないか」
「発動したらなのはさんたち任せになってしまうかもしれないけど」

 結局そうなるのはしょうがないことなのかなぁ……。なんというか管理局情けない。

「それなら僕としてはこの地球に関しての情報の秘匿も重要だと思うが……どう思う?」
「なのはちゃんを始めとする現地民間人の魔力資質に関して?」
「ああ。どう考えてもAAAクラスの魔導師が次々に覚醒するなんておかしな話だろ。ジュエルシードに取り付かれた人や動物、加えて魔導師と接触した一般人まで魔法じみた技を使う。原生生物までもね」

 付け加えるなら彼らが使う術式も形こそミッド式かもしれないけど、独自に解析を進めればそこに未知の術式領域が別に動いていることが確認されている。
 まるで必要な力を必要なだけ供給されるシステムが構築されている感じだ。資質など欠片も無いのにこれだけの事実があることは矛盾の域に近い。

「これは仮説なんだけど、もしかしたらこの世界の人間は最初から膨大な資質を持っているんじゃないかしら。私たちとは違って資質を発現する方法が存在しないだけで」
「でもそれなら何かしらデータとして残ってても……」
「いや意外と母さんの言う通りなのかもしれない。エイミィ、フェイトの遺伝子パターンを出してくれ。それとなのはたちも」
「え? いいけどさ」

 何か気づいたことでもあるんだろうか? 早速データをモニターに呼び出す。

「今のフェイトの体はオリジナルであるアリシアのものだ。プロジェクトFATEのそれとは違う」
「アリシアさんには魔力資質が無かった。それはなのはさんたちと同じものだった、ということかしら?」
「ああ恐らく。フェイトの遺伝子パターンはどちらかといえば地球人のそれに似ている所がある。その領域こそ莫大な魔力と抜きん出た資質の源じゃないかって僕は思うんだが」
 
 つまり言い換えるならアリシアちゃんに魔法資質が備わったのはアルハザードによって植え付けられたものではなく元来のものであったということ。何かの要因が彼女に資質を発現させた。

「前に推測したとおり蘇生したことで資質が覚醒したんだろう」

 寄せ集めた手がかりで手繰り寄せた答えは実に辻褄があっていた。

「じゃあこの世界の人たちって最初からみんなこんな資質が備わってるの?」

 外的因子によってリンカーコアの発育が促進され一気に成熟、その結果持ち主には莫大な魔力と特化した資質が与えられる。都合が良すぎるけど今までの事例を集めれば集めるほど信憑性は高くなってしまう。

「なのはは特別じゃないってことだな。僕の師だってこの世界の出身で今や提督まで上り詰めてるんだ。おかしいことじゃない」
 
 クロノ君はさらりと言ってのけるけど何気に恐るべき事実発覚である。

「だとすれば魔法研究者にとってはとても興味深い世界になってしまったわね。幸い管理外世界だから接触する機会は皆無ということだけかしら」

 まだこの世界の技術レベルは管理局に属するレベルまでまったくと言っていいほど到達していない。世界全体が魔法に晒される日はもっと先のことだろう。
 かといってイレギュラーな事態と遭遇することは別だろうけど。

「この事実も箱の奥にしまっておきましょう。何も知らない人たちから日常を奪いたくないわ」
「そうだな……協力者を増やす以前に他人の手を借りることばかり考える頭にはなりたくない。自分達に出来ることは自分達で始末をつけるのは人としても当たり前のマナーだ」
「ごもっとも」

 同意するしかない。

「だから地球に関しての事実も闇に葬るべきだと僕は思う。なのはたちだって自分の世界でならまだ子供だ。こっちの世界の都合に合わせるなんてルール違反だ」

 クロノ君の言葉の真意を汲み取るなら、おそらくなのはちゃんたちをそのまま管理局にスカウトしようとでも考えていたのだろうか。
 
「僕らだって、ミッドチルダだって負けられないな」

 自分達の力で戦い続ける。自分の世界で起きたことは自分達の手で。そこに誰かの力を借りるのはナンセンス。

「僕達は確かに戦い一人の人間の野望を打ち砕いた。記録に残すならそれだけだ。世界を救うなんて御大層な真似はしていない。あくまでこれは普通の事件と同じのものだ」
「いいの? もし全部明かせば勲章ものだよ」
「英雄扱いはゴメンだよ。それはなのはたちだって同じだろ? 最初からミッドは消えてないし、アルハザードも存在しなかった」
「……うたわれぬ戦い。決して歴史の表舞台に立つことの無い記憶ね」

 艦長は感慨深げにその言葉の意味をかみ締めていた。
 私だって英雄扱いされるのはゴメン被りたい。今のままが一番だし、変な期待背負わされてプレッシャー漬けにされるのも嫌だ。
 なのはちゃんたちだってそうなれば管理局が放っておくわけがないだろう。彼女達を守る上でもこの事件は上辺だけの薄っぺらいものにしなきゃならないのだ。

「それにエイミィ。簡単な内容にしてしまえば時間だって浮くことになるでしょ? あなたもクロノも今回のイベントだけは出ておかないとね」
「母さん……別に僕は」
「ハラオウン家だって高町家や他の皆さんとも親睦を深めなきゃ。ご近所付き合いって思いのほか大事なのよ」
「艦長~結局それですか」
「もちろん。従わないなら提督の権限を振りかざすからよろしくね」

 おなじみの職権濫用もこれが最後なんだろう。きっとミッドも管理局も事態の収拾が終わればすぐにいつもの日常を送り始めるのだ。
 そしたら私たちだってその一部としてこの翼と共に次元世界の只中へ飛び込んでいくんだ。そう思うとこの僅かな猶予を報告書作成に充てるのも馬鹿馬鹿しい。

「それじゃお言葉に甘えて一時間で仕上げます」
「ええ、頼りにしてるわ。期限は今日中なら明日に間に合うだろうし」
「そう言いながら僕達も最初から出席にしてるんだろ母さんは」
「さぁ、どうかしら」

 含みを持たせて艦長は退席した。どう見てもバレバレなのは意識した上の行動だろう。

(こりゃあすぐにでも終わらせないとね) 

 どの道、荷物だけはなんとなくまとめていたりするから私だって人のこと言えないんだけど。

「しょうがない……僕も荷物をまとめておくか」

 やれやれとため息混じりな口ぶりでもその口元は彼には珍しいくらいにつりあがっていた。

「あっ、そうだクロノくん!」
「ん? なんだ買い物に付き合うなら他を当たってくれ」
「違う違う。そうじゃなくてさ」

 ドタバタしててすっかり忘れてたことを今になって思い出した。

「世界を救ってくれてありがとね」
「はっ? いきなり何を」

 やっぱりあの約束のこと忘れてたか。なんというかクロノ君らしいけど。

「ほぉら! アルハザードに行く前に約束したじゃない! 世界を救ってやるって!」
「そういえばそんな約束もしたか……実際僕一人の力じゃなかったが」
「いいの! 有言実行してくれたんだから私は満足! そのお礼!」
「それならありがたく受け取っておくよ。僕からも君のオペレートに対して礼を言う。ありがとうエイミィ」
「あ……うん、どういたしまして」

 柔らかい表情でお礼をするクロノ君はなんというかすっかり丸くなった彼の象徴に見えた。歳相応の男の子、と言うにはまだまだ捻くれてるけどね。
 なんというかそんな表情一つになぜかドギマギしてる自分が悔しい。

「あっ、でももう一つの約束はまだだかんね」
「ああ、自分でも器の小さい男だと思うからな。やっぱり気長に待ってくれ」

 で、あっさりとそう返せる辺りまた一つ成長したんだなぁ、と思い知らされてしまうわけで。

「き、期待してるからね!」

 はぁ、なんか手玉に取られてるの私かも。

「ああ、じゃあ僕はレストハウスに戻ってるからな」

 転送ポートが光り輝きクロノ君がいなくなると私は小休止も兼ねてモニターを切る。久しぶりの水族館は休憩中の目の保養には丁度いい。
 アースラが万全な今なら衛星軌道上で待機していても別にいいのだが、レストハウスへの転送や艦の隠匿も考慮すると結局ここが落ち着いた。
 あの事件の後だし、ましてやアースラはあの有様だったわけで何が起きるかわからない。下手に認識阻害が外れたらそれこそ大騒ぎの元なので万が一も考えれば一目のつかないここは打ってつけだ。

「さて私も頑張りますか! 小さな勇者たちのために!」

 うたわれないからご褒美だって無い。だから私が送れる餞別といったら彼女達が誰の目にも触れないための立派な報告書を作り上げること。

 後に管理局に提出された報告書の内容を簡単にするとこんな感じになる。


 ――第二次PT事件。


 統括担当リンディ・ハラオウン提督。事件担当クロノ・ハラオウン執務官。搭乗母艦は時空管理局・巡航L級8番艦アースラ。

 首謀者は虚数空間に滑落し消息不明にあったプレシア・テスタロッサである。
 彼女は強奪した九つのジュエルシードを自ら強化し自己増殖性を伴うL・ジュエルとして第97管理外世界に散布、及び増殖させたジュエルシードをミッドチルダに散布した。
 プレシアの最終的な目的は両世界に散布したジュエルシード全てを暴走させることにあり、これにより第97管理外世界は虚数空間を開くための魔力媒体として使用され、ミッドチルダはジュエルシードにより世界ごとアルハザードへ転移させることを想定されていた。
 
 以上の案件はアースラクルー及び現地民間人の協力もあり阻止され失敗に終わった。
 第97管理外世界における協力者のジュエルシードの回収により虚数空間の展開は失敗し、プレシア自身も潜伏していた次元世界への突入時の戦闘により死亡した。
 これにより被害はミッドチルダが存在する第一世界の次元座標が僅かにずれる程度――あくまでこれは事件の規模に対してである――で収まり、事件は終結した。

 当事件に対し首謀者に協力していたアリシア・テスタロッサはプレシア・テスタロッサがプロジェクトFATEにより生み出されたクローン体であったが、その製造過程において不具合がいくつか発生していたらしく作戦の遂行中に健康状態に失調を来たし死亡した。
 なお彼女の契約使い魔であったリニスは先のPT事件のフェイト・テスタロッサ(現フェイト・ハラオウン)の契約使い魔アルフと同様にミッドチルダ刑法第2条3項に則し保護観察処分とし、その間の契約引受人はフェイト・ハラオウンとする。

 今回の事件の関係者として嘱託魔導師フェイト・ハラオウンとユーノ・スクライア(ミッドチルダ出身)及び高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか(第97管理外世界出身)に協力を仰ぐ。またこの案件においてアースラにて輸送中であった試作デバイス2機を譲渡しているが管理局民法第12条4項に則り違法性は無い。


 ――以上、簡潔ではあるが事件の概要報告を完了する。


「う~ん我ながら良い偽装工作!」

 核心部分が完全に創作されているがこの程度なら問題ないだろう。
 
「さてと! 私も準備始めますか!」

 シリアスモードはもうお仕舞いだ。後は楽しい楽しいバカンスに振り分けるとしよう。

「ほんとご苦労様! みんなっ!」

 全ての仕事を完遂すれば残すことは何一つ無い。明日から始まる一時の日常へ一目散だ。
 ぐいっと背伸びし鈍った体に鞭を入れ、全ての電源を落とす。暗闇に包まれたブリッジがすっかりお休みモードになったことを確認して席を立つ。
 しばらくこの特等席ともお別れだ。

「さってと! 色々レジャー用品持って行かないとねぇ!」

 こんにちは久方ぶりのホリデー! おいでませサマーバケーション!!
 ただ、この時の私は浮かれてたせいで肝心なことを忘れていたことを後になって思い出させられることになる。と言っても、部屋に戻ってしばらくの後なのだが。
 こんなことに焦燥感を煽られるのも久しぶりで良かったなんて言えれば格好いいのに、生憎この乙女心を割り切ることは出来ないわけで。
 深刻なようだが簡単に言うと、

 水着のサイズが――これ以上言えない。

* * *

 心地よい揺れに身を任せながら流れ続ける景色を横目に僕は目的地までの時間を何をするでもなくボーッと過ごしていた。

(あれから三日か……)

 カレンダー上ではまだギリギリ七月というのはなんだか不思議な感じだ。
 あれだけの出来事を経ても決戦前は世界全体の時間が停止したわけだし、ある意味僕らはちょっとだけ人より未来に生きていることになる。
 全てを終わらせた後に残ったのは二つの世界を救ったという事実だけ。未だにその実感が沸かないのはやっぱりスケールが大きすぎるせいなのかな。

 ちょっと視線を動かしてみるとみんなそれぞれいろんなことをして笑い合っている。
 なのはとフェイトは席を回転させアリサ、すずかの席と向かい合わせババ抜きに興じている。ここからだとすずかにジョーカーがあるけどそ知らぬ顔でなのはに引かせている。
 あっ、なのはが悔しがっている。まったく顔に出ちゃバレるのになぁ。

(桃子さんたちは……)

 リンディさんと何を話しているのか楽しそうだ。士郎さんはビールを飲みながら早くもお祭り状態と言った所だ。恭也さんは美由希さんとこれからの予定について話あってるのだろうか。
 エイミィさんは忍さんやアルフ、リニスを交えてお喋りの真っ最中。
 他にも月村家のメイドさんや那美さんや久遠まで一緒である。ジュエルシードの関係者はみんな出席なんだろうか。
 
「で、何でおまえと同席なんだろうな……」
「フェイトの意志を尊重しただけだ。僕の意志じゃない」
 
 憮然と目も合わせず、やはり車外の景色を見る無礼者に僕はため息をついた。

「まぁあの時の活躍に免じて僕の目の前に座ることだけは許してやるから安心しろ」
「そりゃどうも」
「ああ、みんなを助けてくれて感謝してる」

 ぶっきらぼうな口調だけどそれがこいつなりの一番の感謝の仕方だと思えるのは、それだけこいつのことを理解してる証拠なんだろう。
 ――微妙だけど。

「何度も言うけど僕に出来ることをしただけだよ」
「謙遜するな。母さんも驚いてたぞあの空間制御は」
「ジュエルシードもあったからだよ」

 あの瞬間のことは自分でも信じられないくらい力を出していたと思う。普通なら意識を昏倒してもおかしくないほどの魔力を漲らせ、空間を引き裂きなのはたちを助けることが出来た。
 自分という枠にはとても収めきれない現象を起こしたことに、ついていけないせいもあって実感がまったくないんだ。

 なのはたちが黒い球体に飲み込まれてからも僕らの周りには敵が生まれ続け戦うことを余儀なくされた。
 切り札を失ったせいで敵の強さは格段に落ちたけど、あまりの数にジュエルシードの支援がなければやられていたかもしれない。
 敵の襲撃はそれから程なくして終わった。目の前を覆い隠していた無数の敵は一瞬で砕け消滅していったのだ。
 直後に世界が揺れ空に亀裂が入った。それでもなのはたちはどこにもいないし戻るわけにはいかなかった。

「確かにな。ジュエルシードが無ければなんだって出来なかったかもな」

 途方にくれかけた時に全員のジュエルシードが一条の光を放ち空間の一点を指す。その意味を僕が理解しなければなのはたちはおろか僕たちまで一緒にアルハザードと心中していただろう。
 光の正体はおそらくアルハザード中枢を封印したことに対するジュエルシードの共鳴のはず。中枢が封印されかけ抵抗しようと分散していたアルハザード全てを取り込もうとした結果だろう。

「けど元の力はお前が死ぬ気で手に入れたものだろ? ジュエルシードはそれを強化しただけだ」

 光の差す場所目掛けディストーションレイヴで空間を湾曲。その勢いで破壊、展開すれば光の世界が現れる。
 目を凝らせばなのはたち四人の魔力光が星のように儚く輝くのが見え、そこにデバイスに守られ気絶していたなのはたちがいた。
 後は崩壊する世界から脱出し、渡ってきた世界を逆戻りしながらアースラまで全速力という具合あだ。

「だから誇れ。なのはたちにも失礼だ」
「努力するよ。まぁ、お前が言うと素直に喜べないけど」
「おまえなぁ……」

 こんなやり取りが出来るのも帰ってこれたから。そう思えば少しはマシなものに思えてくるから不思議だ。

「にゃああ! なんで負けちゃうの~~!?」
「なのは……あんた顔に出すぎだから」
「アリサも肝心な所で駄目駄目だけどね」
「しょうがないでしょ勝ちが目の前にあったら油断もするわよ。大体すずかの鉄仮面ぶりはなんなのよぉ」
「勝負は非情ってところかな」

 なのはたちにもようやく普通の日常が戻ってきたことは喜ばしいことだ。やっぱりああやって生き生きと感情を外に出すなのはは可愛い。
 ……さらりと僕は何を思っているんだか。

「そういえば良かったのか? 僕たちアースラ全員呼んで」
「アリサが言うには五十人くらいは欲しかったみたいだからいいんじゃないかな」

 高町家恒例の家族旅行は今年も例外なく行われることになった。ただ、いつもは連休中らしいけど今年はアリサからの提案で夏休みに変更になったそうだ。
 その理由は良くわからないけどアリサ曰く「人が沢山いないとモニターにならないのよ!」ということらしい。
 そういうわけで僕らはこうやって電車で目的地へ向かっている最中である。

「あっお姉さん! カツ弁もう一個!」
「アルフ! あなたいったい何食食べる気ですか! 少しは加減ってものをですね~」
「いいじゃないかいリニス~! あんたも沢山食べなきゃ育たないよ!」
「もう十分育ってます!」

 リニスもすっかりこの生活に馴染んでくれたようで何よりだ。
 ちなみに彼女達のお小遣いはハラオウン家持ちである。

「ならいいんだが。目的地まで少し時間があるなら僕は寝ることにするよ。流石に仕事を忘れたい」
「僕もだ」
「意気投合か」
「いい意味として受け取っておくよ」

 アースラの手伝いを色々していたことも手伝って睡魔は程なくして僕を別世界へ連れて行ってくれた。
 眠る前の最後には南中目指す太陽がトンネルに覆い隠されるそんな景色。
 
 ゴォォ……、と響き続ける音をBGMに僕はしばしの惰眠に意識を落とした。

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