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2009.12/31(Thu)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十五話 Cpart  


【More・・・】


「レイジングハート!」
『Divine buster stand by』

 スタートの合図はわたしから。

「シルフ! 反射障壁全リソースにセット!」
『Reflect cylinder』
「展開領域指定!」

 魔力の器をすずかちゃんはいくつも生成し並べていく。水晶みたいな細く鋭い結晶の中にはすずかちゃんお手製の魔法が詰め込まれている。

「デカブツだしちょっと攻撃変えなきゃね」
「それじゃあフォーメーションBで!」
「ならコントロールはどっちかしら?」
『I have control!』
「あんたじゃないでしょ! じゃあフェイトお願いね」
「ふふ、まかせて」

 一方アリサちゃんとフェイトちゃんはデバイス同士をカキンカキンと打ち合わせなぜか二人同時にポーズを決めていた。
 こっちはこっち、あっちはあっちで最初から合わせるなんて考えてないようだけどそこはわたしたちストライカーズ。
 何をしなくてもちゃんと息はピッタリになるんだ。

「すずかちゃん! タイミングは!?」
「二人に合わせて攻撃して……最後は」
「わたしたちで決めちゃおっか!」
「うん!」

 どんなアドリブでもちゃんときっと合わせられる。

「なのは! トドメはアタシたちでキッチリつけるから安心しなさい!」
「ふぇぇ!? やだよ! わたしたちだって決めたいのにー!」
「ごめんなのは! これだけ譲れないから!」
「フェイトちゃんまで~!?」

 合わせられる……?

「もう……じゃあみんな!」

 悪ふざけはここまで! みんなでちょっとだけじゃれついたのはわたしたちなりの気持ちの整理だ。
 だってここからはほんとにほんとの本気だから。

 手負いになった魔王が再び口を開けあの砲撃を撃とうと構える。赤い光が明滅すればすぐにおびただしい量の魔力が撒き散らされた。
 
「行くわよ!」
『Boost jump』
「終わらせる!」
『Britz action』

 最前衛に向かう二人は得意の高速飛行で正面突破!

『Highly protction』
『Protection powered』

 後衛に陣取るわたしたちは鉄壁の防御で猛攻を凌ぐ。

「最初の一発!!」
「ハァァァァ!」

 ハンマーと斧が魔王の頭へ容赦無く振り下ろされる。茜色の魔力は爆発し、金色の魔力は辺り一面に稲妻を放った。
 仰け反る相手にすかさずアリサちゃんが追い討ちをかける。横っ腹へ吸い込まれるように打ち込まれ、衝撃に巨体が吹き飛んでいく。

「最初は私!!」

 魔王が吹き飛ぶよりも早くフェイトちゃんが空を翔け先回り。飛んできた魔王へ上から一直線に斧を叩きつけた。

「でぇぇぇぇぇい!!」

 真下へ落とされる間も無く再び回り込んだフェイトちゃんが槍で突き上げる。さらに鎌を振り回し、かと思えば槍に戻したり斧をぶつけたり。
 変幻自在の攻撃が無防備な魔王に目まぐるしく叩き込まれていく。

「アリサ!!」
「まっかせない!」

 最後の一撃はアリサちゃんがいる方向へ向けて。ちょうど魔力を高めていたアリサちゃんはそれに応えるべく出来上がったばかりの魔力弾を立て続けに発射した。

「そろそろわたしたちもだね!」
「うん! シルフ行くよ!」

 爆発が収まる前にすずかちゃんが回りに浮かべていた結晶全部の引き金を引く。放たれた結晶は魔王の周りを飛び交い次々に破裂して青い輝きを撒き散らしていった。
 鉄槌を振り回し、魔王を滅茶苦茶にしていくアリサちゃんの背景を綺麗に飾り立てていく。
 もちろんこれは舞台装置じゃない。

「レイジングハート! フルバーストいいね!?」 
『All,right.I’ll show you!』

 有りっ丈の魔力を込めて何条ものディバインバスターが風を切る。
 このまま行けば大暴れするアリサちゃんに命中するのは間違いない。背中にでも当たれば誤射じゃすまない威力だ。
 でもね全然大丈夫! 

「シルフ距離算出! 反射角計算開始!」
『Obey,mistress.Reflect floater open』

 後一秒遅れればアリサちゃんごと巻き込んでいた砲撃全てが、いきなり進路を明後日の方向に曲げて好き勝手に飛んでいく。
 
「すずかちゃん! 後何発いける?」
「いくらでも!」 
「おっけー! 高町なのは徹底的に撃っちゃいます!」

 いくつもの桜色はまたそれぞれが途中で進路を変えて突き進む。ディバインシューターで魔王を取り囲むように、圧倒的な砲撃がジグザグに動きながら魔王を完全包囲している。
 種明かしは魔王を取り囲んで浮かぶ青い光そのもの。設置型の反射シールドを敷き詰めた今ならどんな砲撃もすずかちゃんの意志一つで自在に軌道を変えられる。

「角度変更! 今!」

 初めの一発が魔王の背中目掛け軌道変更、その勢いのまま見事に命中した。

「二つ、三つ目! なのはちゃんどんどんお願い!」

 立て続けに砲撃して、一方でアリサちゃんが叫び飛び切りの大振りが魔王の体を跳ね飛ばした。そこへわたしのバスターが殺到して大爆発を起こす。
 
「フォトンランサー! 全部持って行け!」

 フェイトちゃんはアリサちゃんが攻撃している隙に物凄い数のフォトンランサーを準備していた。ファランクスシフトなんて目じゃないくらいだ。
 そして迷い無く全弾を魔王目掛け解き放つ。わたしの砲撃で煙幕が立ち込めていても、その向こう側へ矢の洪水がどっと押し寄せた。

「アリサ行くよ!」
「言わなくても!」
 
 二人が先にフィナーレを迎える。
 体中から白煙を上げている魔王目掛け二人が同時に切りつけ、殴りつける。両側から挟み撃ちに切って、殴って、突いて――。
 引っ切り無しの攻撃を締めくくるは全力全開のフルスイング。魔王はくの字祈れ曲がりながら天高く飛んでいく。

「こっちだって!」
「負けてられないね!」

 今までタイミングを計っていた砲撃全部が一斉に魔王へ照準を合わせる。いくつかは魔王を下から追い詰め、またいくつかは左右から挟み込み、残りはを追い抜き真上から狙いを引き絞る。
 絶対に逃がさない。完成した包囲網から繰り出される正確無比で容赦ない砲撃の応酬が魔王の体をどんどん砕いていく。

「風の魔手よ! 悪しきものに戒めを!!」
『Rebellious lock』

 すずかちゃんの風が魔王の体を完全に封じ込める。両手両足、体にも光の輪が巻きつき縛り上げられれば魔王に抵抗なんて出来っこない。

『Flash move』 
「ゼロ距離! これで終わりーーっ!」
『Divine buster extention』

 いち早く魔王の真上を取る。遠くから撃ってばかりじゃないのはお約束!

「いっけえぇぇぇぇ! バーサーカーーッ!!」
「決める! バルディッシュ!!」 

 アリサちゃんとフェイトちゃんが下から猛スピードで突っ込んでくるのが見えても引き金を引くのに躊躇いは無い。
 ゼロ距離射撃に目の前の魔王は一気に下へと押し流され、今度は突っ込んでくる二人のパワーに上へ無理矢理押し上げられる。

『オォォォォォ! ゴォォォォォ!』

 拮抗し続ける力に挟まれ魔王がついに悲鳴を上げた。
 天地から繰り出されるわたしたち全員の想いはそれでも止まることなんてしない。知らない!
 寄せ集めの記憶で作った相手なんかにわたしたちの想いは止められない!
 体中の魔力を掻き集めて、周りからも集めてレイジングハートに注ぎ込んでいく。砲身がぶれたって、壊れたって気にしない。

 とにかく撃つ! 撃つ! 撃って撃って撃ち続ける!!

「スターライトブラスターーーッ!!」

 特大のバスターは注がれた魔力に姿を変えて最後への道しるべになる。
 魔王の体を縛る青はこれだけの魔法を受けても役目を投げ出さず、その体越しには茜と金色が目が眩むほど光り輝き大きくなっていく。

 わたしたちはゴールテープを切った。

 バインドで防御も出来ず、上下からの攻撃を浴び続けた魔王の胴体がついに真っ二つになる。そして上と下に分けられた体はそれぞれ茜色と金色に飲み込まれ完膚なきまでに粉砕された。
 残された魔王の欠片も残さず光の粒になって空の彼方へと消えていく。それを見上げながらわたしたちの胸にこみ上げる想いはたった一つだけ。

「やったーーーっ!!」
 
 両手を振り上げてわたしは勝った喜びを体全体で表現していた。他のみんなもハイタッチしたり抱きついたりと好き放題。

「まさに無敵ねアタシたち!」
「うわっアリサちゃん!?」

 いきなり後ろから抱きしめた犯人はアリサちゃんだ。悪戯っぽく笑って何を思ったのかほっぺを引っ張って来た。

「ああもうアリサぁ! なのはが困ってるよ~!」
「あんたも引っ張ればいいじゃない。柔らかいわよ」
「そ、そういう問題じゃ……。でもせっかくだからちょっとだけ」
「ふぇ、ふにゃああ! ふぇいひゃんまふぇなにすひゅのぉ!?」
「私も引っ張ってみようかな」

 緊張感が一気に抜け落ちてもうさっきの事はどこへやら。

「ああ、もう……気持ちはわかるけどみんなまだ終わったわけじゃないんだよ」
「そうですよ四人とも! アルハザードを封印することが本来の目的でしょう!」

 呆れ気味なユーノくん口を尖らせるリニスさんに諭されてわたしはようやくほっぺの争奪戦から解放されたり。
 やっぱり伸びたよね……これだけ引っ張られたんだから絶対に。……うぅ。

「ならさっさと始めましょ! このL・ジュエルで!」
「そうは言ってもどうやって封印するの? アリサちゃんまた女の勘?」
「なのはにそう言われても言い返せないのが痛いわね」 

 問題はそこだ。ただ願いをかけて止められるならいいんだけど。
 勢いのままに進んできたわたしたちだからちょっとそこは不安かな。

「あれ?」
「どうしたのすずかちゃん」
「何か変……。倒したはずなのにまだ魔力が」
「そんな! 確かに今倒したよ! なのはの砲撃に私とアリサ、すずかも力を合わせたんだよ!」
「で、でもあれ……」

 青ざめたすずかちゃんの指差す先には――

「なにあれ……?」

 真っ黒な球体が浮かんでいた。
 
 さっきまで何も無かったのになんで……。
 嫌な胸騒ぎ。見ているだけでなんだか寒くなってくる。
 球体は蠢いていた。耳を澄ませば聞こえてくる鼓動の音。目の前に現れたそれは間違いなく生きていた。

「往生際が悪いのよ! ここで一気に終わらせてあげる!!」

 魔力を一気に集中。魔力弾をぶつけようとアリサちゃんに思い切り振り被った。

「待って! アリサ! きっとそれが――」

 フェイトちゃんの声はそれから続かなかった。アリサちゃんの腕もそれ以上動かなかった。
 きっと光よりも速かったんだ。球体から溢れ出した闇が全てを覆い尽くすまで時間なんていらなかった。
 最後に見えたのは闇からわたしを庇って粉々に砕けていくレイジングハートの姿だけ。

 何もかも見えない。感じない。意識が途絶えた。

* * *

 何かが聞こえる。

 風の嘶き?

 誰かの声?

 心臓の鼓動?

「ん……」

 目が覚めて、わたしはまだおぼろげな意識で辺りを見渡した。さっきまで青空一色の世界がいつの間にか夜になっていた。
 でも夜というにはちょっと違う。決して明るいわけでもない。
 地平線なのか水平線なのか、遥か先に見える果てには夕焼けがくすんでしまったかのような光が、世界の輪郭をなぞるように弧を描いていた。
 その儚く、寂しげな輝きはまるでわたしに世界の終わりを教えているように思えて体が震えた。果ての光以外に光源は無い。見上げた世界は黒に包まれていて、見下ろす世界もまた同じ。

 何かが聞こえていたはずなのに音はもう無い。ただわたしの息遣いだけが耳に残る。

「――みんな!」

 一気に覚醒した。そうだわたしたちはあの時――。

「なのは!」
「フェイトちゃん! みんなも!」

 そこにはフェイトちゃんとアリサちゃんとすずかちゃん。みんな大きな怪我もなく無事な感じ。
 
「あれ……ユーノくんたちは?」
「見つかったのは私たちだけ……他には誰も」
「落ち着いてなのは。きっと最初からここには私たちしかいないはず。ねぇ、L・ジュエルはどうなってる?」
「L・ジュエル?」

 今まで胸元に下げていたL・ジュエルを取り出してみる。

「あっ……」

 周りが暗闇だから余計に異変がわかった。手の平の上でL・ジュエルが蛍みたいにゆっくりと明滅している。消え入りそうな蒼い輝きがわたしたちを儚げに照らす。

「――っ!? 今度は何!?」

 不意に視界掠めた何かにびっくりして飛びずさる。
 見れば暗闇の世界にどこからとも無くふわふわとした光が降っていた。雪のように宙を漂いながら差し出した手に舞い降りた光は一瞬パッと光って消えていった。

「これなんだろう……もしかしてアルハザード?」
「そんなメルヘンチックなことあるわけないでしょ。こんな沢山あったらどうやって封印するのよ」
「魔力も何も感じない。ほんとになんだろうこれ」

 正体の掴めない光はずっとわたしたちの周りに、闇の中に降りては消えていく。
 
「……ねぇ、この光って取り込まれたみんなの記憶じゃないかな」
「フェイトちゃん? 急にどうしたの?」
「みんなわからなかったの? この光に触れた瞬間感じたんだ。誰かの思い出、記憶の中の世界が」
「アタシは別に……すずかは?」
「私も何も」

 それはフェイトちゃん一人に起こったことみたい。わたしだって光に触れてもそんな風景が浮かんで無いし。
 なんとなく思い当たることは誰かの声が聞こえただけ。
 もしかしてそれが?

「それって声とかでもいいの? フェイトちゃん」
「どうなんだろう。でもこの世界にいて何か不思議なことがあるならそうなんだと思う。記憶って色んなもので出来てるから、だからその断片的なものでも」
「じゃあなんか風景とか……顔とか? 上手く言えないんだけどモヤモヤ見えたって言うか……あーっ! とにかくそんなものも?」
「私の場合なんだか何かに触れた気がしたけど、それも?」

 感じ方は違う。でもみんな確かに何かをこの世界を通して感じ取っていた。

「アリサは視覚、すずかは触覚かな。やっぱりL・ジュエルを通してアルハザードがやってることを共有してるんだ」
「だったらそれを逆にハッキングしてコントロールを奪えば」
「無理だよすずか。もしそうでも種の中に閉じ込めた一部とそのものじゃ勝負は最初からついてる」

 しゅんと肩を落とすすずかちゃんに変わって今度はアリサちゃんが口を開く。

「だったらアタシたちはまんまとやられたってこと?」
「あの黒いのがアルハザードの中枢。その中に私たちは取り込まれた。ここが一番深い所なんだ。だからL・ジュエルの中のアルハザードが共鳴してる。これじゃ私たちの願いも叶えてくれないよ」
「もしかした私たちが逆に……」

 なんだか怖くなってそれ以上言葉に出来なかった。
 フェイトちゃんはそんな私を察してかゆっくりと頷いてくれた。

「異物としてアルハザードに取り込まれる。きっとここにいられるのもL・ジュエルが守ってくれてるから」
「ならそれが無くなったら」
「だったらその前に駄目もとで封印よ! このまま黙ったままでいられないわ!」
「危険だよアリサちゃん。下手に魔法を発動して失敗したらそれこそ!」

 気持ちがぶつかる。まるでこの世界が抑えていた不安を呼び覚まして行くみたい。
 これじゃいけない。すれ違ったままじゃ願いなんて叶えられないよ。

(じゃあどうすればいいの? 私に出来ること……)

 みんなの仲裁をすることが正しい答えじゃないと思う。みんなそれぞれが出来ることがある。わたしにだってわたしにしか出来ないことがある。
 この手にあるのは撃ち抜くだけの魔法じゃない。もっと別の、もっと違う形のわたしの魔法があるはずなんだ。
 お母さんがお菓子でみんなを笑顔にしたりするようにわたしだってあるはずなんだ。あったからフェイトちゃんと友達になれた。アリサちゃんとは魔法ですれ違って喧嘩した。でも最後はもっと友達になれた。
 それがわたしにある本当の魔法。
 
 そうだ! わたしはまだ使ってない! 目の前の子に、アルハザードにこの魔法を使ってない!

「ねぇアルハザードさん! なんでみんなの記憶を返してくれないの!? みんなの大切な世界をどうして無くそうとするの!?」

 まだ聞いてない!
 わたしはこの子からお話を聞いてない!

「みんなの記憶を持ってるならわかるでしょ! みんな過去になんてなりたくないって! みんなの願いがあるはずだよ!」
「なのは、今のアルハザードはプレシア母さんの願いで動いてるんだ。他に願いがあっても叶えてくれないよ」
「そんなことない! ジュエルシードがいろんな願いを叶えるみたいにアルハザードだって沢山の願いを叶えられるはずだよ!」

 わたしの考えてることが間違ってるかもしれない。でもフェイトちゃんの言う通りならわたしは自分の考えを信じることが出来る。

「プレシアさんは過去を取り戻したいって願ったんだよね? ならわたしたちを邪魔した沢山の敵は誰の願いが生み出したの? それって他の願いをアルハザードが叶えたって事じゃないかな」

 アルハザードが叶えようとしてるのはプレシアさんの願いだけなら決してわたしたちの邪魔をしないはずだ。プレシアさんは結局願いだけを残していなくなってしまった。
 残ったのは願いだけなんだ。そこにわたしたちが来て邪魔するからやっつけろなんて入ってるなんて考えにくい。
 アルハザードが自動的に邪魔者を追い払おうとするなら話は別かもしれない。けどそれはアルハザード自身が願った事実に繋がるはず。

「だから信じたいの! きっとわたしたちのお話聞いてくれるって!」

 やっぱりわたしはわたしだから。
 お話聞いて、もっと考えて、分かり合う。分かり合えないなら――それは考えないでおくとして、まずは理由を聞いて自分の進む理由見つけたいんだ!

「教えて! アルハザードさん!!」

 わたしは心の底から願い、呼びかける。この声が届くことをひたすら信じて世界の彼方へ呼びかけた。
 
「まったくあんたらしいんだから」
「でもそうだよね。私たち自分達のことばかり考えてたかも。なのはちゃんみたいに考えてなかった」
「なのはの信じてること私も信じたいな。アルハザードだって最初から悪いわけじゃないんだ」
 
 みんなの気持ちを心に受け止めわたしはもう一度大きな声で呼びかけた。
 反応は無い。声が通り過ぎた後には静寂が広がるだけだ。
 それでもわたしは待った。
 
 光は相変わらず儚げに漂いながらわたしたちを通り過ぎていく。
 
(やっぱりそんなことはないのかな……。わたしの魔法は役に立たなかったのかな……?)
 
 諦めかけたその時に目の前を落ちていく小さな光。
 自然と手を伸ばし触れた。

「――……あっ」

 一瞬だった。一瞬だったのにわたしの中に物凄い思い出が流れ込んで、通り過ぎていった。
 それは夢のようにすぐに霞んで消えてしまったけど、アルハザードが何を伝えたかったのかわたしにはすぐにわかった。
 それはとても楽しくて嬉しくて、だから失うことがとても悲しくて辛いこと。わたしの中を駆け抜けていった思い出はたったそれだけだ。

「なのは? どうしたの?」
「……見えたんだ。アルハザードが伝えたいこと」

 過去を取り戻したいのはプレシアさんだけじゃない。沢山の、ミッドチルダの人たちの記憶を飲み込んでアルハザードは知ったんだ。
 
「誰だってやり直したいことあるもんね」

 クロノくんが言ってたこと。「世界はいつだってこんなはずじゃない」って誰だって必ず思い出の中にあるんだよね。
 わたしだってそうだった。あの時あの人にあんなことを言わなければ良かった。そうすれば自分はもっと違う自分になれていた。そんな風に思うことも今だって時々ある。
 いくら後悔したって過去は戻らない。時計の針を逆回しにしたって過去には行けない。リセットしてコンティニューなんて絶対出来ない。

「みんなもある? そういうこと」
「……当たり前じゃない。誰だって後悔しない人生なんて送るわけ無いでしょ。まだ人生語れるほど生きてないけど」
「やり直せるならやり直したいこと一杯あるよ。私だって強くないもん」
「プレシア母さんだけじゃないんだよね。誰だって力があるなら変えたいんだ」

 でも違うよね。いくら力があっても過去を取り戻すなんて違うんだ。

「わたし……アルハザードを封印するよ。なにがあっても絶対!」

 わたしはやっぱり今と、その先にずっと続いていく未来を選びたい。 

「取り戻したい時間はあるよ。でもそれ以上にわたしたち手に入れたものがあるんだよ。いろんなこと乗り越えて今日まで積み重ねてきたもの。それを失くしてまで一つの過去を手に入れるなんて嫌だ!」

 あの人への償いとして「いい子」になっていたわたし。それから魔法少女になって、フェイトちゃんと友達になって事件を解決して。
 今度はアリサちゃんとすずかちゃんも魔法少女になった。自分で背負い込みすぎて無茶して叱られて。L・ジュエルに取り付かれて本当の自分を見つけられて。
 
 そうやって今日までわたしは歩いてきた。その道を後悔した場所まで逆戻りして無かったことにしたら未来のわたしは何のために歩いてきたのかわからなくなる。

「わたしはわたしは大好き! 今のわたしが大好きでこれからもわたしで歩いていきたい!」

 失敗して積み重ねていったもの。失敗したから手に入れられたもの。
 沢山の思い出は楽しいことばかりじゃない。楽しくないものがあるからその後にやってくる楽しいことがもっと輝いて見えるんだ。
 
「みんなは……どうかな? わたしの勝手なわがままだけど」

 戸惑うよね。いきなりこんなこと言い出して。もしかしたら世界中の人に聞いたらわたしみたいな人の方が少ないかもしれないんだし。

「私は決めたんだ。なのはと、みんなとこの世界で生きていきたいって。だって私はみんながくれた今と未来だから」
「いいじゃない勝手にやれば。アタシたちまだ子供なんだからそんな気配り上手くないわよ。自分の大切な人たちを守りたい。いいじゃないそれで格好いいわよなのは!」
「昔と今を比べたら私も今がいい。今から未来にも進みたいし、それにやり直したって同じ私には絶対になれないよ。今の私、なのはちゃんと同じで大好きだから!」
 
 そうだね。
 そうなんだよね!

「ありがと、みんな!」

 微笑んで、わたしはレイジングハートを遥か闇の彼方へ向け目覚めさせる。最初からシーリングモードで鮮やかな光の羽が生まれ、舞い散る。
 ボロボロだけどこの子は大丈夫。わたしと一緒にある限りどんな不可能だってひっくり返せる。
 
「アルハザードさん! わたしたちの願い事叶えさせてもらいます!! 大好きな人と世界を守るために!!」

 並び立つみんなも杖をその手に、羽を広げ舞い散らせる。

「行くよ! みんなーーーっ!!」

 L・ジュエルをそっと放って真っ赤な宝玉へ溶け込ませる。蒼い光は身を潜め、代わりにわたしの魔力の色が暗闇を照らし、引き裂いていく。
 今まで周りに降り注いでいた光が風に乗るように流れを作りわたしたちの目の前に渦を巻いて集まる。光は星のように大きく丸くなりわたしたちに負けないくらいの光を放った。
 眩しくても目は細めない。それ以上に眩い光がわたしたちを守ってくれてる。
 
 その光の中でわたしは見たんだ。

 それはわたし。今を信じて、未来を目指し駆けていくわたしの背中が見えたんだ。
 わたしが立ち止まり、振り返った。少しだけ大人びたような、でも変わっていないのはきっとその子がちょっとだけ未来のわたしだから。
 未来のわたしが手を伸ばす。わたしも手を伸ばす。手と手が触れて、繋ぎあう。
 わたしが笑う。未来のわたしも笑う。そしてその向こうにもっと先の未来が見えた気がした。色んな可能性の先にいる色んなわたし。まだまだ先で、でもあっという間にやって来るわたしの未来たち。

 さぁ、行こう。

 さぁ、願おう。

 今と一緒に未来を迎えに行こう。
 
「レイジングハート! セットアッーーーーープ!!」

 繋いだ手に宿るは勇気の魂。いつだって、これからだってわたしと一緒に願いを叶える最高の相棒だ。
 眩い光をまとって生まれ変わるレイジングハートは星にも負けない輝きを世界に見せ付ける。星の光で作られた杖を掲げ、くるりと回せばわたしのジャケットも桜色の光で飾られていく。
 みんなもわたしと同じ光で飾られた魔法の服と魔法の杖を引っさげれば準備は万端。怖いものなんて一つも無い。

 ――闇が晴れた。

 再び降り立つ無限の空の世界。その先にいたのは巨大な人の形をした圧倒的な存在。本当のアルハザードの姿だ。
 数え切れないほどの黒い球で作られた体が蠢き続ける。きっとあの黒い球一つ一つがみんなの思い出を閉じ込めた物なんだ。まるで逃げるように外へ飛び出そうとするそれらをアルハザードは押さえつけ自分の体にしている。
 腰から下の形は無くて、代わりに木の根のように無数に枝分かれして世界と繋がっていた。
 根が脈打つたびにアルハザードが大きくなってる気がする。あそこからみんなの思い出を吸い上げてるんだ。
 
「取り戻すからね! みんなの思い出を元の場所へ! みんなの今へ!」

 わたしが翔ける。みんなも翔ける。
 アルハザードが閉じ込めた思い出をぶつけてくる。それを全部避けてわたしたちは全力全開の魔法を高らかに唱えた。
 これで全部を終わらせる。
 みんなを、思い出を守る最高の魔法を唱えるんだ!

「リリカルマジカル!」

 天へ掲げたレイジングハートに全ての魔力を集めていく。空の星をわたしの中の一番星も、全部集めてありったけ!

 全力全開のフルパワー!! 究極無敵の魔法をここに!!

* * *

「アルカス! クルタス! レイギアス!」

 私たちはまだ何も知らない子供だ。色んな人たちが見てきた世界と、投げかけた言葉。色んな顔をして色んな人や世界と触れ合った。数え切れない想いが世界にあることを知った。
 思い出ってきっと楽しい風景ばかりを本当は残しておきたいんだと思う。悲しい思い出なんてみんな忘れて捨ててしまいたいって思うよね。
 世界が優しいってずっと思えるなら私だってそう思いたい。でも違うんだ。楽しいこと、悲しいこと、色んなことがあったから今の私がここにいる。

 大好きな私がここいるんだ! こんな素敵な気持ち消したく無いよ!

* * *

「Higher! Faster! Stronger!」

 同じ景色なんて無い。世界は移り変わるのが常だ。人だってそれは同じ。ずっとあると思えたものがある日突然無くなっちゃうこともよくある話。
 だから大切なものって思ってなくて、明日また会えるから適当に覚えてて。これ元の木阿弥って言うのよね。終わってからじゃ遅いっていうのに。
 それで後悔して過去に縋ろうなんて馬鹿みたい。一度起きたことはやり直せない。だったらそれを抱えてまた歩き出すだけ。時間はかかるかもしれない。もしかしたら二度と歩けないかもしれない。けど一歩踏み出せばそこにいるのは誰だか決まってる。

 今までよりも素敵なアタシ! 素敵に変われたアタシをチャラになんてするもんですか!

* * *

「風よ運べ! 想いと願い!!」

 手を握って、開いて。その感触をゆっくりと感じ取る。
 温もりは時にその人の気持ちだって教えてくれる。愛しい人とずっとお互いを感じ続けられることは素敵なことだ。でも温もりばかりが全てじゃない。どうしようもない痛みが思い出に傷跡をつけることだってある。無かった事にしたいのもわかる。
 でもその痛みが人を成長させることだってあるんだ。変われるきっかけが何になるのかなんて誰にも分からない。そのきっかけに出会えた幸運を私は失いたくない。

 私は未来を目指すよ! これからもどんどん変わって自分をもっと好きになれるように!
 
* * *

「だからみんな胸を張って言えるんだ!」

 全ての星が一つになる。生まれた光は星々の化身。

「今が大好きって!!」

 レイジングハートを振り回し、狙い定めて振り下ろす!
 幾千の流星と飛びっきりの星の光がアルハザードを貫き吹き飛ばしていく。果てしなく真っ直ぐなわたしの想いが全ての思い出を元の場所へ還していく。
 
 そこには――
 
 フェイトちゃんが解き放った二対の翼を持つ不死鳥と、

 アリサちゃんが振り下ろした太陽の一撃と、

 すずかちゃんが創り出した風の聖域が、

 ――いつだって一緒にいるっ!!
 
「過去へ進む意志よ!」

 桜色、金色、茜色、蒼色――。

「今と未来の意志の下!」

 四人力を合わせて最後の引き金を思いっきり引く! 

「悠久たる眠りに誘わん!!」
 

 過去は思い出の中でずっと眠っていて。

 わたしたちは今と生きて未来へ一歩一歩歩いていくから。

 でも、もしね。わたしたちが挫けそうな時は目覚めてわたしたちに教えて欲しいな。

 わたしが進んできた道のこと。わたしがわたしになれた思い出を。


「アルハザード!!」

 おやすみなさい。
 そして――

「――封印っ!!」


 ありがとう。


* * *

 わたしの目には光が光に飲み込まれていく不思議な光景が見えていた。
 とはいうもののあまりの衝撃に意識を失っていたみたいであの後どうなったのかよくわからない。

(……あれ?)

 それが意識を失う前に見えた最後の光景で今はというと、

「レイジング……ハート?」

 目の前でぷかぷかと宝石になったレイジングハートが浮いていたりする。
 なんだか熱でも出たみたいに頭がボーッとしていて上手く考えることが出来ない。ただなんとなく全部上手くいったのかなって前向きに思うくらい。

『You were very splendid』(よく頑張りましたね)

 レイジングハートもそう言ってるわけだしきっとそうなんだ。なのに心が弾まないのはそれだけ疲れてる証拠。

『Please take a rest now』(今はお休みください)

 うん、そうする。
 
 そういえばさっきから背中と両手が妙に温かい。何かと思ってちょっと首を傾けると右にフェイトちゃん、左にアリサちゃん。どうやら手が温かいのは繋いでいるせいみたい。
 となると、背中の温もりはすずかちゃんだ。

(みんな……大丈夫だね。……良かった)

 多分みんな眠ってるんだろうな。こうやって安心していられるのはレイジングハートたちが守ってくれてるおかげなんだろう。

「あっ……アースラだ」

 大空の遥か彼方にキラリと光る銀色の鳥。
 わたしたちはハッピーエンドを手に入れたんだ。沢山の困難を乗り越えて今確かにこの手の中に掴めたんだ。
 良かった。本当に良かった。もうそれだけしか頭の中に無かったり。
 
 また眠くなってきたみたい。

「まだ時間かかりそうだね……じゃあお言葉に甘えて」

 そっと瞼が下ろされる。安らかな闇に包まれて夢の中へ一歩踏み出していく。

「おやすみなさ~い……」

 みんなと一緒の大好きな世界へ――。

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