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2009.11/24(Tue)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十四話 Bpart  


【More・・・】


 テーブルの上に無造作に並べられた菓子パンとかスナック菓子とか、とにかくいろいろなものが詰まれた山の中から適当なものを一つ取り出して封を切る。
 ケーキを嗜みながら紅茶を啜るというのは確かにお嬢様チックではあるけどそればかりがアタシの全てではない。

「はぁ……幸せ」

 むしろお嬢様だからっていつも品行方正に振舞う必要がどこにあるわけ?
 何もかもガチガチに決めてたらそれだけで心が息切れて倒れてしまう。それはいつ何時、如何なる事態においても同じことだと思う。
 最終決戦を前にした今だって戦いに向けて武器の手入れとか作戦会議とかピリピリする雰囲気をまとう必要なんてあってたまるか。

「忍さんには感謝しないとね。こんなお菓子に囲まれる経験初めてよ」
「お姉ちゃんアースラに好き勝手に積み込みすぎだからね。多分これでも全然減ってないよ」
「すっかりアタシたちのテクニカルサポーターになったのね。心強いわ」
「だからってバルディッシュ分解しようとするのだけは勘弁して欲しいよ」
「わたしも未だにレイジングハートを……」

 ポテチを口に放り込んでフェイトが引きつった笑みを浮かべた。なのはもなのはで苦笑い。

「……お姉ちゃん」

 ガクリ、とうなだれてすずかは頭を抱えていた。

「それはほら今後の研究に繋げるためにって割り切らなきゃ。アタシだって何度か頼まれたわよ」

 無論、全部丁重にお断りしているわけだが。

「お姉ちゃんデバイスでも作る気なのかな」
「リニスにも協力してもらおうか? きっとすごいのが出来ると思うよ」
「作ってどうするのよ。アタシ二刀流は無理よ」

 ただでさえこのじゃじゃ馬の躾でいっぱいいっぱいなのにここで新しいデバイスなんて渡されたらアタシは真っ先に匙を投げる。
 バーサーカーとコンビを組んで日も浅いわけだし。何よりこの子を完璧に使いこなしているわけではない。中途半端はプライドが許さない。

「デバイスやジャケットの強化プランとかあったよね。わたしやフェイトちゃんの」
「お姉ちゃんの趣味丸出しのね」
「なに? そんな顔しちゃって。強くなれるなら万事オッケーじゃない?」
「アリサぁ、これ見てもそう言える?」
  
 ため息混じりにすっとフェイトから差し出された何枚かのメモ帳の切れ端と、ノート1ページ分の紙切れ。
 よくよく見なくてもメモ帳の方は目が痛くなるほどの文字がびっしり書き込まれている。ノートの方にはなのはやフェイトのイラストが細かく描かれていた。無論、鮮やかに着色済みだ。
 問題は二人の姿が魔導師姿であること。そしてその意匠がなんかやけに違う雰囲気を帯びていたことだ。

「なんかこのなのは……ゴツくない?」
「より砲撃戦に特化させた重装甲モードだそうです……うぅ」

 なんというか今あるジャケットに装甲を被せました、的な間に合わせ感が否めない。カフスのとこなんか装甲のおかげで一回り太い。おまけに黒い――メモには皮手袋的な素材でシックにキメ!――手袋で女の子らしさ0パーセント。
 ちなみに思いっきり杖を前に突き出しポーズを決めている絵である。
 
「うにゃあ……リボンも無いんだよ~。お気に入りなのに~」

 オレンジジュースをぐいっと飲み干し、ぐずって落ち込むなのはには同情を禁じえなかった。 
 
「こりゃ男の子向けのデザインね」

 リボンの変わりに胸に設えられた金色のレリーフや全体的なカラーリング、加えてゴチャゴチャくっついてメカメカしくなったレイジングハートを眺めているとそうもなろう。

「私なんて……私なんて……」

 意気消沈のフェイトにはもちろんのっぴきならない理由が。

「お姉ちゃん……なのはちゃんのデザインで力尽きちゃったみたいだね」

 フェイトのデザインはパッと見る限り変化がない。せいぜいマントにスリットを入れた程度で落ち着いている。
 隅っこには小さな文字で『完成されたデザインね。私が弄るところが無いわ』と事実上のギブアップ宣言? バルディッシュなんて書かれてすらいない。
 ちなみに完全な立ち絵であることから忍さんのやる気の無さがひしひし伝わってくる。

「人ってね……変わらないままがいいって事も結構沢山あるのよね」

 どこか遠い目でアタシは呟く。

「変わらなくたってわたしたち負けないもんね」
「そうよ! アタシたちの夏休みは一日たりとも無駄にしない!」
「その前に宿題が……漢字ドリルがぁ……」
「フェイトちゃん落ち着いて、ね?」

 ……残ってる宿題は今の内に片付けようと思った。
 
「せっかくだから自由研究は宇宙ならではのことしない?」
「あっ! それいいかも!」
「宇宙といえば無重力よ! これを利用しない手は無いわ!」
「にゃはは! さっすがアリサちゃん!」

 訓練室の重力制御を切ればいつでも無重力状態を体感できる。ついさっきもそれで遊んできたわけなんだし、単純にその感想を書くだけでもいいかもしれない。

「えっと……アリサちゃんもなのはちゃんそれ絶対無理だと思うよ」
「何でよ?」
「宇宙戦艦なんて地球に無いんだから先生も信じないよ」
「じゃあすずかの家のロケットで行ったことにすれば」
「あっ! それなら――って、ロケット作ってないから!」

 うん、ナイスノリツッコミね。関西出身者がいないのが悔やまれるわ。

「もうアリサぁ、すずかが困ってるよ」
「ゴメンゴメン。けどこういうのも悪くないでしょ?」
「たまにはね」

 ほんとに最終決戦が目前に控えているんだろうか? さっきから花を咲かせる話題はいつでもどこでも出来そうな四方山話ばかり。
 でもこれはアタシたちが選んだこと。湿っぽい話は地平の彼方にまでぶっ飛ばすと決めた。
 食堂の一角を陣取りながらこうして仲良し集まって色んな話をすること。それだけでもう十分なんだから。

「なんだか賑やかそうだね」
「あっ、ユーノくん!」

 やって来たのは言うまでもなくマネージャーだ。トレーニングウェアに身を包み、タオルで汗を拭きながらの登場は何をしてきたのかを一目で教えてくれた。

「お姉ちゃん達とまた訓練してたの?」
「ううん、今はリンディさんとね」
「母さんと? なにしてたのユーノ?」
「ちょっと魔法のことで――」

 そこまで言って視線を泳がせた。テーブルの上の惨状が目に入ったのかと思ったけど、

「わたしの隣どうぞ!」
「あっ、ありがとなのは」
 
 座る席を探していたらしい。
 まぁ女の子の秘密の会合に参加するわけだし色々と遠慮してくれたのだろう。気が利くのはよい心がけだけどもうそこまで遠慮する中でもないのにね。

「で、魔法のことって何かしら? 当然アタシたちに役立つ魔法なんでしょ」
「そうだね。この前のあれ……なんとか形にしようと思ったんだ」
「あれじゃわからないわよ」
「プレシアとの戦いで使った防御魔法だよ。空間を捻じ曲げた」

 ああ、と納得した。
 そういえばプレシアの攻撃を土壇場で防いだのは他でもないユーノだった。それもいつものシールドではない不可視の力で。
 プレシアも空間を捻じ曲げたとか言ってたわね……。

「使いこなせれば色々応用が利きそうだからリンディさんにアドバイス貰おうと思って」
「母さんそういう魔法得意だもんね。最初の事件の時も次元震を一人で抑えてたらしいし」

 さらりととんでもないことを聞いた気がしたが今はそっちを気にする場合じゃない。

「それでどうだったのユーノくん」
「間に合わせかもしれないけど形にはなったかな?」
「中途半端な答え方ね。ハッキリしなさい」
「空間の制御はなんとかね……すごく狭い範囲だけど」

 ようはまだ試作段階のお試し版ってとこなのね。作戦のプランには入れられそうも無いわ。

「ユーノくん結界とかそういうの得意だし意外と才能あるかも!」
「あはは……ありがとなのは」
「やっぱりユーノは凄いな、私も頑張らなきゃ」
「流石ストライカーズのマネージャーだね。これからもよろしくお願いします」

 別に……喜んでないわけじゃないけど。
  
「じゃあ高町なのは! 頑張ったユーノくんのためにジュース持ってきます!」
「あっ、いいよ自分で取りに行くから」
「いいのいいの! ユーノくんは休んでて!」

 駆け足気味でカウンターへ飲み物を取りに行くなのはの背中は心なしか嬉しそうに見えた。
 
「それにしてもいつアタシたちアルハザードへ出発するのかしら」
「母さんやリニスもすぐだって行ってたけど……」
「まだ私たちの出番じゃないってことなのかな」 

 アタシ達はいわば最後の切り札。出し惜しみ無しの一発勝負を担う作戦の要だ。

「私たちがアルハザードを願いを止めるんだ。母さんたちはそれまでの道を開くこと。アースラを取り戻した時みたいにみんなそれぞれが役割を持ってる」

 みんなが頷いた。アタシだって。

「だったら甘えてやろうじゃない。その時が来るまでアタシたちは羽を休める。その時が来たらアタシ達は飛ぶ」 

 そう、それがアタシたちリリカル・ストライカーズだ。
 
(結局……ちょっと湿っぽいわね) 

 感傷に浸るのはガラじゃない。だってやっぱり弱気な気持ちはアタシにだってあるから。
 
「おまちどうさま! はいユーノくん!」

 弾んだ声と共にテーブルの上にオレンジジュースが置かれた。

「みんなにはお母さんからサービスだよ!」

 続いて次々に置かれるは翠屋自慢のケーキ。お菓子の山の間を縫ってその数はここにいる人数を余裕で超していたり。

「お菓子もいいけど翠屋のケーキもどうぞごひいきに」

 悪戯っぽい笑顔を残してなのはも腰掛けた。

「なんだかお腹一杯になりそうだねなのは」 
「ま、まぁ持ってきちゃいすぎたかなって今更ながら思ったり」
「い、いいんじゃないかな? なのはちゃんちのケーキ美味しいし」

 ちょうどいい感じで場の空気を台無しにしてくれたわね。
 なんていうかここまでタイミングピッタリなのは狙っていたんだろうか、なんて勘ぐってしまうのはなのは相手には失礼かしら。
 どの道、

「ふふ、あはは」

 やっぱりなのはには叶わない。

「どうしたのアリサちゃん。そんなに嬉しかった」
「違う違う。そうじゃないけど……あはは」

 こんな簡単に笑顔を持ってこれる子をアタシは他に知らないんだから。

「そういえばなんか今日は随分とユーノに親切じゃない。どういう風の吹き回し?」
「え? そうかな……? わたしはいつも通りだと思うけど」
「まさかここで恩を売って後で二人きりでこっそりさっきの魔法でも教えてもらうつもりじゃないわよねぇ」
「そ、そんなことしないよ! ふ、二人きりだなんて絶対無いよ!」

 なにか思うところがあったのだろうか。突然取り乱して首を振るなのははなんだか新鮮な感じだ。

「だってユーノくんにはいつもお世話になってるしお礼しなきゃ駄目だよ……ね?」

 ちょっと上目遣いに、真っ直ぐ見つめてくるなのはを少し可愛いと思ってしまったことを反省。
 確かに理屈ではそうなんだけど……。

「わたし変じゃないよね?」

 そのまま左手がオレンジジュースの入ったコップを掴んだ。
 そして一口、

「あっ、なのはそれ――」

 続けて一気飲み。
 誰かの制止する声が明らかに混ざったがなのはは気づかなかったみたいで。

「ぷはっ! 大丈夫だよね?」
「そ、そうね……というか、なのは」
「なに?」

 コトンとテーブルの上に置かれる空のコップ。一センチも無い距離にあるもう一つのコップ。こっちはまだ半分ほどジュースが入っているけれど。

「それユーノのジュースなんだけど」
「ふぇ?」
 
 ちょっと整理しようと思う。
 今なのはの左にはユーノが座っている。普通なら二人のコップがこれほどニアミスすることはない。
 
「あっ、気にしなくていいよ。僕も十分飲んだから」

 しかし世の中には例外がある。

 ここで言う例外は利き手のこと。

「わ、わたし……ユーノくんの飲んじゃったの?」

 世の中の人間の過半数は右利きだ。その中で左利きは鏡合わせのイレギュラーになる。
 右手の世界ならコップも当然右に寄る。だから間違っても入れ違うことはない。こういう隣同士寄せ合っても腕と腕がぶつかって頭を下げることも無い。

「まっいいんじゃない。気にすることないでしょ」
 
 つまりはそういうことである。
 アタシばっかり見て手さぐりでコップを探せば目に見えている結果よね。

「間接キスで騒ぐのは小学生低学年までよ」

 レアチーズを頬張りながらビシッと言ってやった。

「間接……キス?」

 対してなのははポカーンとしたまま固まっていた。まるで現実を飲み込んでないようで目をパチクリさせている。
 なんだか『間接キス』という単語を必死に理解しようとしているみたいね。

(まさかそこまでウブじゃないでしょ)
 
 どうせ次にはユーノに「気にしちゃう?」とかなんとか言って新しいジュースを持ってこようと席を立つのだから。
 紅茶を啜りながらそんな数秒先のことを予知してみるのだ。

 ――ドン!
 
「ぶふっ!!」

 その光景にアタシは口から茶色い飛沫を飛び散らせた。 

「な、なのは!?」

 口を拭うことも忘れてアタシは額からテーブルに突っ込んだなのはに声を上げた。
 とにかくいきなりだった。いきなりなのはは糸が切れたように崩れた。

「ふにゃああ……」

 そんなもう言語の枠を超えた未知の鳴き声で呻きながらなのはは崩れていた。
 
 ああ、フェイトがパニックを起こしている。既に半泣きだ。
 すずかはフェイトをなだめようとしてあたふたしている。
 ユーノは必死に呼びかけながらなのはの体を揺さぶっている。

(……なに……コレ?)

 理解不能な展開。思考停止なアタシの頭。さっきまでのほんわかした空気は何処へやら。
 ここは一声上げるべきなんだろうけどそれはそれで事態を悪化させそうな予感なので自重した。

(まぁ取りあえずは……)

 ケーキを一口、紅茶も一口。そんでホッと一息ついて、

(ほんと場の空気を壊すのが上手いのよね……いい意味で)

 なんて対岸の火事にしてアタシはみんなのやり取りをいつまでも微笑ましく見つめていた。

* * *

(なんであんなことになっちゃったのかなぁ……)

 後悔先に立たず、で片付けられればなんてことないけどわたしとしてはみんなの前であんな無様な姿を晒してしまったことは曲がりなりにもショックになるわけで。
 そもそもアリサちゃんのせいなのは間違いないと思うけど、それでおかしくなるわたしもわたしなわけで。

(間接……うぅ)

 思い出すとまた顔が熱くなる。自然と指先が唇に向かいそうになって、でも泡だらけなことに気づいてまたぬるま湯の中へ戻っていく。
 さっきから思い出しては手元が止まって洗い物も中々進まない。水の中に横たわるケーキ皿はこれでようやく二枚目を洗い終わったところ。正直言ってこんなわたしじゃ先は長いと思う。
 一人一人が何枚も食べたせいで人数分以上の数のお皿がわたしをあざ笑うかのように揺れていた。
 
「あら? なんだかはかどってないわね。やっぱりお店とは勝手が違うせい?」
「あ、お母さん……」

 お母さんがわたしの手元を覗きこみながら不思議そうな顔をしていた。

「それとも~……何か悩み事かしら?」

 そっと手をつけていないお皿を取りながらくすりとお母さんが笑みを浮かべる。

「あ……えと……うん」

 一瞬、隠し通そうかなと思っても心の中のわたしが首を振った。どうせ隠し切れないし心配もかけたくないし、なによりわたし一人じゃどうにもならないから。
 
「ふふ、素直でよろしい。それじゃ遠慮なく言っちゃいなさい。お母さんなんでも聞いてあげる」
「ありがと……お母さん」
「可愛い娘の悩み事よ。相談に乗らないわけには行かないでしょ」
 
 手際よくお皿を洗いながらお母さんがウィンクしてみせる。

「えと、じゃあ……お母さんは誰かと一緒にいる時すごく嬉しくなったりワクワクしたりすること……ある?」
「嬉しくなったりワクワクしたり……ねぇ」

 ん~、と悩んでみせる間にも綺麗になったお皿がどんどん並んでいく。カメさんみたいなわたしと違ってお母さんはウサギのようにパッ、パッ、と手際が良かった。

「さて、どうでしょう。なのはが言ってることはなんとなく桃子さん的にはわかるんだけどちょっと意地悪しちゃおうかなぁ」
「ふぇぇ、意地悪しないでよぉ」
「でも誰かと一緒で嬉しくなるなら私は毎日がなのはみたいになってるわよ。その嬉しいとかワクワクとは違うんでしょ?」
「……そうかも」

 なんだかそういうのとは違う感じ。そういうのとは違くて、なんだか心の中がムズムズするようなこそばゆい感じ……なのかも。

「でもよくわかんなくて」
「それって最近になってかしら? それともずっと前から?」
「最近かなぁ」

 きっかけはあの時だとは思うんだけど……というよりはそれからあの子と一緒になるたびその気持ちが顔を出してきた気がする。 
 
「そうなんだ。そっかぁ……なのはもいよいよそんな年頃なのねぇ」
「えっ? 年頃って?」
「あ、ううん気にしなくていいの。今の私のひとりごと」
「ひとりごとって……」
「なのはがちゃんと大きくなってくれてることが嬉しかったからついね」

 いつの間にか最後のお皿が水浴びしていた。新品同様にピカピカになったお皿はそのまま乾燥機の中に収められてわたしのお手伝いは終わりとなる。

「ふぅ……全自動もいいけどこれぐらいなら手洗いの方が節水できるのよね。さてと! 明日はどんなメニューにしようかしらね」

 翠屋の出張サービスというよりアースラ支店にされてしまった食堂はここ数日どんな時間も満員御礼で閑古鳥なんてどこ吹く風だ。
 あれからどうにか立ち直ったわたしはケーキの差し入れのお礼も兼ねてこうやって店じまいの手伝いをしてたわけなんだけど……。

(結局あんまり手伝ってないよね……ううごめんなさいお母さん)

 一応は翠屋の二代目になるかもしれないのに情けなくてあんまりなわたしです。

「でも私としては安心したかな。なのはが悩んでいたことがそれで」
「他になにかあったの?」
「ああ……えっとそこまで考えてないのはある意味心配だけど」

 困った顔で笑いながら厨房の最終確認。翠屋の閉店まで手伝ってるわけじゃないからこういうお母さんの姿はなんだか新鮮。

「私てっきりなのはが怖くなったのかなって思って」
「怖くなる?」
「だってこれから……また戦うのよね」
「うん、そうだよ。わたしたちが止めなきゃ海鳴だってミッドチルダだって元に戻らないんだから」

 躊躇い無く頷くわたしがいた。
 これだけは誰にも譲らない、譲れない大切なことだから。

「なのはは凄いわね。そういう正義感の強いところは士郎さん譲りかぁ」 
「そうかなぁ……でも言われてみると少し怖いところもあるというか不安なことも一杯あるけど」 

 でもそれ以上に大切なものがあるから大丈夫って感じかも。

「わたしは一人じゃないからなのかな。だってフェイトちゃんだってアリサちゃんだってすずかちゃんだってみんな一緒だし。それにリンディさんやクロノくんやアルフさん、リニスさん、それに――」

 浮かんでくる顔は指折りしても足りない数だった。

「――ユーノくんもいるし!なによりお母さんが取って置きの魔法くれるからなのはは頑張れるんだよ!」
「魔法? 私が?」
「うん! だってお母さんの料理ってみんな笑顔にするんだもん!」

 一番はきっとそれなんだって今思った。

「私はただ自分に出来そうなことやってるだけよ。魔法なんて使えないから、じゃあせめておいしい料理やお菓子で元気になってもらいたいってね」
「でもみんな真似できないよ。なのはだってお手伝いだけで上手く作れないし。だからお母さんだけの特別! 魔法なの!」

 さっきだってみんなが落ち込みそうになったのを元気にしたのはお母さんのケーキを持っていったおかげ。
 あの時だってこの時だって。思い出せばみんなに笑顔を運んでいたのはお母さんの料理だった時が沢山見つかる。

「アースラの人たちもお母さんがここで色々作ってくれたおかげですごく明るくなったんだよ!」

 最後の戦いを前に、いろんなことが積み重なって疲れた顔してたアースラのスタッフの人たちがお母さんの料理やお菓子を食べて元気になっていることをわたしは知っている。
 暇つぶしにアースラの中を探検していた甲斐があったわけだ。

「みんながいてくれるからなのははいつも全力全開になれるんだよ! 怖いものなんてない!」

 きっと一人で抱え込んでたままのわたしならこんなこと言えないと思う。言えてもそれって素直な気持ちじゃないと思うから。

 昔のわたしはみんなを守りたいって頑張ってた。それってただの使命感。
 今のわたしはみんなと一緒にいたいって頑張ってる。それってただの願い事。
 
 手を差し伸べてくれる人が沢山いるってすごく大切なこと。分け合ってくれる人がいるってすごく心強いこと。その人たちがいるおかげでわたしはきっともっと強くなれる。
 甘えちゃいけないなんて意地張る必要ない。みんなが大好きだからなんでもかんでも分け合うことって意地張るよりも勇気がいること。だからもっと一緒にいたいって心の底から強く想える。願える。
 
「全部終わらせて、そしたらまたみんなでパーティしよう! 今度はここでもっともっと賑やかで楽しいパーティ!」

 ハッピーエンドのパーティはきっと翠屋で開いた交流パーティよりもずっと、もっと、絶対楽しくなるはずだから。

「もう……ほんとなのはったら」

 そっとお母さんの温もりに包まれた。エプロンに顔を埋めているとすぐに優しく頭を撫でてくれた。

「なのはも色んな魔法使えるのね。お母さんの方が元気付けられちゃった」

 そんなこと無い。こうやって撫でてくれるだけ安心できるのだってお母さんの魔法なんだよ。
 言葉にはしなかったけど心は囁いた。

「絶対、後悔しないようにね!」
「うん! うんうん! うん!!」

 後悔なんてしない。こんなに魔法をかけてくれるんだからどんな困難だって撃ち抜ける。

「そうだ! 全部終わったらお母さんの魔法なのはにも教えて!」
「どの魔法?」
「お料理、お菓子全部!!」
「もう一度には出来ないわよ」
「じゃあ一つずつ! いつかお母さんみたいになんでもできるようになる!」

 わたしもみんなを笑顔に変えるお母さんの魔法を覚えたいから。この手の魔法だけじゃない。他にも色んな魔法でわたしはみんなを笑顔にしたい!

「そんな子と言われちゃうと桃子さん期待しちゃうぞ。小さな二代目さんに!」
「にゃはは! どーんと任せて!」

 やっぱりわたしの夢ってこれなんだな。三年生の時から探してたわたしの将来はなんとなくだったそれがやっぱり一番だった。
 ううん、やっぱりというより魔法の力があったから気づくことが出来たんだと思う。
 
「ああもう娘の口からもうそんな言葉聞けるなんて桃子さん感激! それじゃ特別サービスにさっきの悩み事のヒントあげちゃおうかしら」 
「えー! ヒントだけなの?」
「この答えはなのはが自分で見つけなきゃ駄目。お母さんが言えるのはそれだけ」

 エプロンを外しつつ茶目っ気たっぷりに笑いながらまた頭を撫でてくる。

「それ反則……」 
「じゃあヒントもいらない?」
「いる!」
「もうしょうがないわねぇ」

 もったいぶらないで早く教えて欲しい。なんだかこの気持ちだけモヤモヤハッキリしなくて嫌な感じになってくるから。

「ヒントはね……私と士郎さん」
「お母さんとお父さん?」
「もう答えみたいなものだけどね」

 あの全然わからないんですけど。

「ん~~……それにしても今夜は私にとってここ最近で一番嬉しい一日ね。なんてたってなのはがねぇ、ふふふ」
「えと、もう少しヒントは」
「ほらほら、なのはも早く寝ないと。お寝坊さんはいけないぞ」
「え! え!? ふぇ!? 全然ヒントになってないよー!」
「答えがわかったらヒントじゃないでしょ? わがままは男の子に嫌われるぞ~」
「なんでそうなるの!?」

 わたしの言うことなんてどこ吹く風。身支度を整えながらお母さんはスタスタと歩いていってしまう。
 もう思うように言いくるめられてこれ以上何を言ってものらりくらりとはぐらかされそう。

(うぅ、意地悪……)

 心の中で呟いた言葉も負け惜しみ。
 お母さんがルンルン気分ならわたしはプンプン気分。拗ねても仕方ないのはわかっていてもそうでもしてなきゃ気が済まなかったり。

「もうしょうがないんだから……でも」

 今夜はここで引き下がろう。何も今夜が最後の夜じゃない。
 
「ゆっくり探せばいいんだよね」

 わがまますぎて嫌われるのも嫌だし。気持ちを切り替えて、この悩みはちょっと頭の隅っこに置いておく。
 この事件が終われば考える時間なんて余っちゃうくらいあるはずなんだから。

「よーっし! 高町なのは! 全力全開で頑張ります!!」

 決意も新たにわたしは両手を振り上げて高々と宣言する。
 これから訪れる最後の戦いに向けて決して挫けないように。負けないように。この胸の不屈の心に誓う。
 わたしたちなら出来るんだから。大切な人を、思い出を、世界を守ることだって簡単なこと。
 どんな悲しみも運命も、なんだって撃ち抜ける力がこの手にあるのだから。

 さあ、明日へ踏み出そう――。

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