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2007.07/11(Wed)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第七話 Cpart 


【More・・・】


「二、三日、アリシアに休みを貰えませんか」
「それが……私に時間を割かせてまで聞かせたかったこと?」

 冷徹な眼光を全身に浴びるも、屈せず頷いた。

「それはアリシアが言っていたことかしら」
「…………いえ、私の判断です」

 玉座に威厳と共に居座っている彼女の顔は驚くほど無表情だった。
 眼下で立ち尽くす私を見てはいるだろうけど、存在として認識していない、そんな気がする。
 一人でいるにはあまりに広い主の間。窓など無く、朝日すら差し込まないせいか雰囲気すら鋭く冷たい。

「なら無理な相談ね」
「っ! なぜです!!」

 意識してもいないのに声には怒気がこもっていた。
 荒げた声は虚しく反響し、それでもすぐにまた静けさが私を包んだ。

「あの子の望み以外、聞く必要があるのかしら?」
「私はアリシアの健康面に関して意見しているんです。教育係として彼女の体調を第一に考えるのは当然のことです!」
「アリシアはあなたが心配するほどやわな子供では無いわ。正真正銘、私の血を引いているのだから」
「しかし!」

 食い下がる。必死の訴えは空回りするばかりでも私は易々引き下がるつもりはない。
 実の娘ならば、娘だからこそなのだ。プレシアだって理解してくれる。

 だというのに――

「主の影響かしら……まるで保護者気取りね」
「主だからです……例えそれが保護者気取りでも」
「口が減らない使い魔ね……まぁ、昔からそうだったんでしょうけど」

 彼女は偏屈すぎた。

 侮蔑塗れの視線で私を見下しながら自分の考えを決して曲げない。

「ならあなたがどうにかすればいいでしょう? 教育係で保護者なら」
「あなたは母親でしょう! アリシアだって甘えたい盛りです!」
「十分に甘えさせたわ、あなたが来る前に。いわば終止符を打ったのはあなたなのだから」
「なっ……」

 一瞬、彼女の目が笑った。
 皮肉たっぷりの嘲笑で。

「でも少しは感謝しているわ。ちょうど猫の手を借りたいところだったの、私の計画を進めるために」
「その計画が……あの次元とミッドチルダにジュエルシードをまくことですか?」

 返事はない。
 それを査定と受け取り私は続ける。

「一体あなたは何を成そうとしているのですか? アリシアを蘇らせたならそれで悲願は叶っているんじゃないんですか?」

 彼女の意図がわからない。
 望みを具現化するロストロギア。それを自身の欲望に使わず、他者の住まう世界に譲る。
 慈善事業でもしているつもりか? そうは考えてもこの魔導師が見返りもなしに他者に尽くす情念があるとは思えない。

 ならばなんだ? ただ世界を混乱の渦に引き込みたいだけなのか。それさえ有り得ない。
 彼女のすることの裏には必ず真意が隠されている。私が知るプレシアとはそういう女性だ。

「ええ、アリシアは私の元に帰ってきてくれた。でもね、有り余る力が手元にあると人はもっと高みを目指そうとするの」
「高み……」

 ここに来てようやく彼女が人らしい動きを見せた。
 立ち上がり、両の手を虚空に広げどこか夢見るような口調で喋り始める。

「過去は取り戻せない……失ったものは二度とこの手に帰らない……それを決めたのは誰?」

 誰に向けられたわけでもない問い。
 遥か昔から、きっとこれからも絶対不変の真理。

「誰でもない、それは世界の約束」

 虚空を見つめていた瞳が、突然私を捉えた。
 得体の知れない感覚が体を突き抜ける。

「でも約束はあくまであの世界の約束。あなたにはわかるかしら? この意味が」
「…………あなたの立っている世界にそれは当てはまらない」
「そう、私はアルハザードの主。あの世界とは違う!」

 彼女の声にはっきりとした抑揚がつく。高ぶる感情を抑えられないのか、私としては始めて見る姿だ。

「だから過去を取り戻す! 望むもの全てを作り出す! これこそアルハザードの約束!」

 眼を見開き、拳を強く握り締める。
 その様、まるで希望を掴み取るかのごとく。

「ならばあなたは……何を作り出すのですか」

 もう全ての望みは手にしたはずだというのに。
 まだ高みにたどり着けないなら一体何があるというのですか。

「――全てよ」

 なるほど……そう来ましたか。
 確固たる答えが聞けると思えば、最後の最後で飛び出してきたのは抽象的な答え。

「全て幸せのためですか?」
「聞くまでも無いでしょう? 昔の主の言いたいごとくらい察しなさい」

 いや、彼女にとっては文字通りの意味なのだ。
 本当に彼女はすべて掴み取ろうとしている。

「さぁ、もう話すことは無いわ。もっともっとジュエルシードをまきなさい。私とアリシアの幸せのために礎になりなさい」

 言われなくともそうするつもりだ。

 あなたのためでなくアリシアのために。

「ええ、ですが最後に二つお聞きしたいことがあります」
「なぁに? 文句ならお断りよ」
「それはありません」

 立ち上がったことで、余計に見下ろされる形になって気圧されそうになる。
 威厳は時として恐怖に近い圧力を生むらしい。
 悟られまいと足に力を込めた。

「私がここに誘われる前まで、あなたとアリシアはいい親子で在ったんですか?」

 この答えはおそらく「イエス」のはずだ。
 邂逅の時、彼女は以前の姿からでは想像できないくらい穏やかな姿で存在していた。
 今目の前にいる見慣れた魔導師としての姿ではない、母親としての姿。
 残念ながら、私が来た日からもう長らく拝んではいないのだが。彼女の言う通り私が終止符ならばアリシアからある意味母親を奪ってしまったのだ。

「あなたが考えていることと寸分違わず……」

 やはりこの人に生み出されただけのことはある。
 ふふ……心が痛いですね。

「ではもう一つ。……私としてはこれが今一番あなたの口から聞いてみたいことです」
「なにかしら……? 大層下らないことかしら」
「無駄な時間は割きたくないのでしょう?」

 ふん、と不機嫌な唸りが耳をくすぐらせた。
 無論だ。あなたにとって大層下らない質問ですよ。

 ――きっとね。

「母親としてのあなた……魔導師としてのあなた…………どちらが本当のあなたですか?」

 どんなことよりも一番に聞きたいこと。
 あなたのアイデンティティを問うこと。
 片割れの彼女は役者ではないのかと。

「それだけは教えてくれますよね」
「…………」

 ――途端、沈黙。

 今まで饒舌だった彼女から言葉が消えた。
 静寂が私たちを隔てるように立ち塞がる。

「……両方よ。私はアリシアの母親であり、大魔導師プレシア・テスタロッサ」

 踵を返すは彼女だ。
 玉座の奥にあるであろう自室へ行くのだろう。ここからでは暗闇にただ消えていくだけにしか見えないが。

「そうですか……ありがとうございます」

 以前の主に敬意を込めて帽子を取り深く頭を垂れた。
 耳を人前に晒すなど昔はしないものだったのに。
 アリシアのおかげ、ですかね。
 私も踵を返す。大扉は来た時と同じく大きさに不釣合いな手ごたえで私を送り出す。
 
 そんな時だった。
 不意に私の耳に彼女の声が響いた。

「もしかしたら…………どちらでもないのかしらね」
 
 振り向いた時には既に彼女は闇の中。
 最後の最後で、彼女はまた私の心に疑問を作ってくれたらしい。

「ほんとにあなたは意地悪ですね」

 観音開きの大扉を開けば、隙間から暖かな陽光が差し込んでくる。

 闇と邂逅した後の光は……幾分か眩しく感じた。

* * *

「戦いなさいアルフ、それとも私に消されたいとでも?」

 嵐のように降り注いでくる山吹色のフォトンランサー。
 避け、砕き、それでも数が多すぎて、いくつかがあたしの手足を掠めていった。
 直撃しなかったのは幸いだけど……。

「だからってリニスと戦いたくない! あんな女の味方をしてなんになるのさ! おかしいだろ!?」

 この前も言ったことだけど今日は伝わるかもしれない。
 縋る思いであたしはリニスに叫び続けた。

「せっかくさ帰って来れたんだからフェイトやあたしと一緒に暮らそうよ! アリシアだって騙されてるんだろう? だから四人一緒にさ!」
「戯言ですよアルフ。それとも、前のように拘束されながら二人の戦いを見物しましょうか?」

 腕を組みながらリニスはすごく冷たい目であたしを見つめている。
 すごく嫌な感じだ。あたしが大嫌いな感じ。

 あの女と同じような……そんな感じ。

「それも嫌だ! だからって戦いたくもない!」
「あなたは子供じゃないんです。いい加減覚悟を決めなさい」

 リニスの言いたいことはわかる。
 このまま黙ってやられるか。

 それともリニスを――。

「私は今はアリシアの使い魔です。あなたはフェイトの使い魔でしょう? ならば答えは出ているはずです」

 主を守り、助けるのが使い魔の使命。
 あたしだってそのくらい知ってる。あの契約の日からフェイトの使い魔としての心構えはあたしの中に強く息づいている。

 フェイトはアリシアと戦っている。本当なら今すぐに飛んで行ってフェイトを助けなきゃいけない。
 きっとリニスもそれは同じ。
 同じだからあたしたちは互いに睨みあっているんだ。

「フェイトを助けてみなさい。私はアリシアを助けます」
「そのために目の前の邪魔者を……」
「倒す」

 そうだ……あたしに戸惑ってる暇なんてない!
 この前のように躊躇って、手も足も出ないままやられるなんて使い魔失格だ。

「その気になりましたか」
「ああ、あたしだって覚悟を決めるよ。リニスが相手でも……それ以上に――」

 フェイトはあたしの使い魔。
 フェイトはご主人様。
 フェイトは大切な家族。

 フェイトは――。

「大切な人だから! だからあたしはフェイトを守り抜く!!」
「ええ、それでこそ使い魔です! ……アルフ、本当に立派になりましたね」
「……リニス?」
「これで遠慮なく戦えます」

 リニスの背中越しに金色が轟いた。
 多分、フェイトとアリシアの魔法がぶつかったせいだと思う。ご主人様ながらとんでもない魔力だ。

「野生を剥き出しにして戦うなど今までならなかったというのに……人も、使い魔も変わるものですね」

 空を仰ぎ、大きく息をつくリニスはなんだか心底ほっとしてるように見えた。
 うまく言い表せないけど……なんだか溜め込んでいたものが無くなって、吹っ切れた感じみたいな。

「では――」

 おもむろにリニスの手が帽子と法衣を鷲づかみ、引きちぎるように宙へと放り投げた。
 同時に再構成されるジャケット。衣が光に包まれて見る見る形を変えていく。

「えっ……?」

 目の前のリニスは記憶のどこにもいないリニスだった。
 下はロングスカートからショートパンツに。
 腕全部を覆っていた袖は見る影も無くなくなり、本当に衣一枚って表現のノースリーブを纏うだけ。
 あたしみたいに魔法より格闘を重視したバリアジャケット。

「帽子が常にないというのは……聞こえが言い分、違和感を感じますね」

 露になった黒茶の耳。狼と似ているようで違う山猫の耳。
 何度か首を振り、耳を動かし、右手を前にゆっくりと構えを作る。

「魔法より直接殴りあった方があなたには効果がありますからね」
「なんだい、あたしに合わせてくれるってこと?」
「半分は」

 ならなおさら負けられないね……これ。
 本音を言えば魔法で圧倒される方が面倒だったからすごく助かる。

「腕部、脚部及び背部、ソニックセイル展開」

 言葉通りの場所に光の羽。
 フェイトが言ってたアリシアの加速魔法。教えたのはやっぱりリニスみたいだ。
 速いのには慣れてるけど、ものすごく速いは未知の領域。

「しょうがないか……あたしもあんまり制御できてないけど」

 なら、あたしなりのやり方で乗り越えてみせてやる。

「マイティラダー!!」

 両手を交差、そのまま腰へ勢いよく引く!
 二の腕まで一瞬で緋色が覆い、すぐさま甲羅のような手甲を形作る。
 当然これで終わりじゃない。足にだって膝上まで緋色の甲冑が覆いあたしなりの強化魔法が完成する。
 打撃を各段に高める覚えたての強化魔法。まだまだ魔力の制御は難しいんだけどね。

「剛力の舵……ですか」
「リニスのは速さの帆だろ?」
「舐めてもらっては困りますね。これは音速を捉えるための帆です」

 口調は誇らしげでも構えに隙はまったく無い。
 手加減すればどうなるか。
 なのはじゃないけど全力全開でぶつからないと勝てっこないね。

「同じだろ? 少なくとも今はどうでもいいことだと思うけど」
「そうですね。こんな些細なこと……今は」 

 全ては主のために。

 フェイトのために。

「では……行きます!」
「ああ!」
 
 もう迷いは――ない!

* * *

「もう……止めよう、アリシア」

 濛々と煙が立ち込める中、静かに私は呼びかけた。
 けど、遮られた向こうから返事は無い。

「夢を見させるって私には良くわからない。でもミッドチルダの人たちを傷つけてまで夢なんて見させる意味ないよ」

 ジュエルシードは今や手当たり次第に人の願いを吸収して次々に発動している。
 しかも幾多の願いを混ぜ合わせたせいなのか、発動体は異形の怪物と成り果てミッドチルダ全体を騒がしている。
 それが人に夢を見させることだというなら私は絶対止めなきゃいけない。

「だから、止めよ……。憎いのが私なら、その気持ち全部ぶつけていいから」

 私のせいで関係ない人たちが巻き込まれるなんて嫌だ。
 それならアリシアの憎しみは全部私一人で引き受ける。引き受けなきゃいけない。
 未だ晴れない視界を前に今の気持ちを伝え終わる。

「……じゃあそれで私の記憶返してくれるの?」

 低く、押さえつけたような声が聞こえた。

「返せないでしょ? 思い出って物じゃないんだよ。それに母さんの思い出だもん。一応、フェイトにだって大事だよね」

 宙に佇むアリシアの左手には放電する雷槍が携えられていた。

「でもアルハザードの魔法でならきっと奪い取れる。だけどそれだけじゃ足りない」

 ゆっくりと上げた顔に笑顔なんてなくて。
 突き刺すような視線だけが私に降り注いだ。

「奪い取った分だけ苦しませてあげるんだ。大切なもの一つ一つ奪い取って」
「アリシア……」
「何度だって言ってやる……どうして私がいるのにあなたがいるの?」

 振り上げるアリシアのバルディッシュ。
 頭上の暗雲から一条の閃光が轟きと共に舞い降りる。

「私たちは一緒にいちゃいけないんだよ……どちらかが消えなきゃ」

 雷鳴をその身に秘め光り輝く槍。
 膨大な魔力をアリシアはあの時と同じように逆手に持ち替える。

 放つべきは当然あの魔法――ボルテックランサー。

「……やるしかないよね」
『Get set』

 アリシアの全力、

「アルカス――クルタス――」

 ぶつけるは私の全力。

 生まれ落ちる天神の申し子たち。金色纏い、雷鳴を放ち、星のごとく輝いて。
 その数三十八。

「煌きたる天神よ、今導きの元降り来たれ!」

 リニスに教えられ、バルディッシュと共に完成させた私最大の魔法。
 誰にも負けない強さと誇りを持つ天の煌きだ。

「撃つは雷――響くは轟雷――」

 ゆっくりと右手を上げ一瞬を待つ。

「フォトンランサーファランクスシフト!!」

 互いの準備は万全。

「絶対に負けない! 貫け雷電!!」

 アリシアが仰け反るように振りかぶる。

「ボルテックランサーーーッ!!」

 撃ち放たれるは大気を焼き焦がす一閃の槍。

「打ち砕け! ファイアッ!!」

 迎え撃つは空を引き裂く幾千の槍。

「いけぇ!!」

 狙おうとすればアリシアを直接狙える。防御も何もしていない今なら絶対に勝てる。

 でも私はそれをしない。したくない。

 一つにボルテックランサーをまともに受けきれる保証が全くない。
 でもこんなの理由にするには些細なものだ。
 何より私の中にある想い。それはたった一つ。

(負けたくない!!)

 それだけなんだ。
 相打ちなんか納得できない!

 だから、

「目標は一つ! 一発も撃ち漏らさないでバルディッシュ!」
『Yes,Sir』

 打ち砕くは真正面から突っ込んでくる光のみ!

「そんなちっぽけなので私の魔法は止められない!」
「やってみなきゃわからない!」

 吹き荒れる嵐。瞬きする暇さえそこには無い。
 無限とも思えるほどに光達が放たれ、槍目掛けぶつかり続ける。

 撃て――撃て――撃て!!

 念じることはそれだけ。
 確かにアリシアから見ればちっぽけな輝きかもしれない。
 でも私にはみんな一つ一つが大きな輝き。

 爆音轟き、爆煙弾け、その度に光が隠れ、すぐに顔を出し、

「ハァァ!!」

 また私の光がぶつかり覆い隠す!

 延々と繰り返しても槍の勢いは衰えないように見えた。
 巨大すぎる魔力を前に、小さなものを一発ずつぶつけ続けても結果なんてわかってしまう。
 多分、今までの私だったらそう思って別の方法を探していた。

「もっと! もっと!」

 今は違う。

 だって心に刻み込んだ言葉がある。
 リニスに教えられた想いがある。

(そうだよ……何もかも終わってない……あきらめるなんて)

 絶対にしちゃ駄目!

 全部終わって、その時初めて結果は出る。
 先のことばかり気にしてたら今に笑われちゃう。
 私は今を生きてるんだから。

「止まれーーーっ!!」

 まだ止まらない。槍は我が物顔で突き進む。
 魔力が底をつくのは時間の問題だ。
 それでも諦められない。

「降り来たれ! 雷光の剣!!」

 体から魔力が一気に抜け落ちる。
 バルディッシュにランサーの制御を任せ、組み上げる術式は私の得意。

 いっそ底を突くなら本当に空っぽになるまで全力全開で!!

「サンダーレイジーーーーッ!!」

 極限まで研ぎ澄まされた雷剣が、止めと言わんばかりに虚空を飛翔した。
 
 刹那、私の五感は役目を放り投げた。

* * *

「……はぁ……はぁ」

 頭がぐわんぐわん揺れている。
 体はぐらぐら揺れている。
 景色も二重に見えている。

「だいじょ……ぶ? バルディッシュ」
『Ye……s……Sir』

 ヒビだらけのコアが頼りなく点滅していた。
 ちょっとメンテナンスしないと駄目みたいだね。

「魔力も……空っぽか」

 ほんとに手加減なしでやり過ぎだ。
 飛行に回す魔力も、気を抜けばすぐに切れてしまいそう。むしろ浮いていられるのが不思議と思えるくらい。
 意識だけは手放さないようしっかり握り締めながら私は見上げる。
 同じく慢心相違になったあの子に。

「そんなプロトが……嘘だよね?」

 私よりは幾分平気そうな様子だけど魔法が破られたせいか動揺だけは隠せない。
 あっちのバルディッシュもボロボロ、というか私のよりも酷いかもしれない。
 それだけアリシアの想いに答えよう頑張ったんだろう。
 主人想いな所は変わらないんだね。

「フェイト……なんでやられないの?」
「まだ、伝え切れてないから」

 呼吸、大分落ち着いてきた。
 いろんなこと言われたけど、私にだって言わなきゃならないことがある。

 伝えたい想いがここにある。

「ねぇアリシア、一緒にいちゃいけないって誰が決めたの?」
「えっ……?」
「私たちが一緒にいることってそんなに悪いことなのかな」

 一緒にいてどちらかが消える。
 そんな魔法みたいなことなんてあるわけない。どんな形にせよ私たちはこうやってここにいる。

「私アリシアのこと憎むなんてことしたくない」

 憎むためだけにアリシアが生まれてきたなんて思いたくない。
 本当はアリシアは優しくて、我侭も言うけど笑顔が似合うとてもいい子。
 私の中にある記憶。それが教えてくれる。

「嫌だよ……リニスだって、アリシアだってここにいられるんだから」

 母さんとの記憶が欲しいのは痛いくらいにわかる。
 私だってなのはたちとの記憶が誰かに取られたら必死に取り返そうとすると思う。

「私頑張って思い出してみる。母さんとの思い出は私の中にあるんだから」
「思い……出す?」
「ずっと前にね、夢に見たんだ。母さんとピクニック行った思い出なんだよ」

 あの時の私――アリシアはすごく羨ましくなるくらいいい笑顔をしてた。
 母さんも穏やかな笑顔で見守っていてくれて。
 まだアルフもリニスもいなかったけどすごく楽しくて、嬉しくて、ゆったりとした時間が流れていて。

「それ以外……思い出せないけど」

 きっと全部思い出していたら私がアリシアになっていたんだと思う。

「嘘……嘘に決まってる」
「ごめん……嘘じゃないんだ。思い出さなかったから母さんに拒絶されたんだと思う」

 私はアリシアの代わり……ううん、本当ならアリシアだった。
 今はもうそんなこと関係なく私は私。フェイトなのは変わりないけど。

「でも頑張って思い出す。そうしてアリシアに話してあげる」
「なによ……なによそれ。じゃあ私はもしかしたら生まれなかった……?」
「違う……そんなことないよ」
「本当なら私はあなただった……私がフェイト? でもアリシアじゃない? フェイトはアリシア?」

 何かに怯えるようにアリシアの様子が急におかしくなる。
 首を横に振りながら、自分の中に生まれたいけないものを必死に押し込めるように。肩は震え、その視線は既に私を見ていなかった。

「違う……違うよ。私はアリシアなんだ……フェイトの中に私の思い出があってもアリシアにはならない」
「アリシア……」
「私……私は……」
(フェイト! アリシアは!?)
(クロノ!?)

 頭の中に入り込んできた声に遥か空を仰ぐ。
 そこには無数の蒼剣を携えたクロノがいて、振り上げられたS2Uがすでに発射体制に入っていることを教えてくれた。

(消耗させたんだな……?)
(もしかして協装結界を?)

 でもあれはアリシアがジュエルシードを使うかもしれないって取り止めになったはず。

(こうなれば話は別だ。君も消耗が激しい、やるなら今しかない)
(で、でもアリシアが!)
(フェイト? 相手のことを気にする必要なんてないだろ。どの道ここで彼女を捕らえられれば事態だって終結する)

 空気が震え、変わる。
 いつの間にか局員たちが私たちを中心にして巨大な結界を張り巡らせていた。
 協装結界――複数の魔導師が連携、協力して形成する防御結界。極めて防御能力は高く、閉じ込められたが最後、簡単に脱出は出来ない。
 アリシアとリニスをどうにか捕獲できないかとクロノが考えていた策の一つだ。

「クロノ! 止めて!!」

 間に割って入るように私は両手を広げ彼方のクロノに精一杯に叫んだ。
 ここで止めなきゃ。クロノが次にやることは一つしかない!

(な……どけ! 君まで巻き込まれるぞ!!)

 鈍い輝きを放つ剣。
 結界で閉じ込め、広域魔法で一気に殲滅。そうして捕獲する。

(何があったか知らないが……情が移ったとでも言うつもりか!)
(でもアリシアにもう戦意は無いよ!)
(あろうがなかろうが彼女はアルハザードの住人だ! 何があってからじゃ遅い!)
(だけど!!)
(君もアースラの嘱託魔導師だろ! これが管理局のやり方だ!!)

 それでもアリシアがクロノの魔法をまともに受けたら……。
 不安だけが募る。だからといって私が守るなんて出来ない。
 魔力がないんだ。私が出来るのはクロノに攻撃を止めてもらうだけ。

「違う……私はアリシアなんだ……フェイトじゃない」

 呟かれた言葉。
 同時に背中が急にざわっとした感覚に襲われる。

「アリシア!?」

 異質な魔力。
 怖いとか、冷たいとかそういう感じじゃなくて。
 言葉で言い表せない何か。

 心がざわめく、心が押しつぶされる、心が苦しい。

(そうだ……苦しいんだ)

 自然と私の心は答えをくれた。
 じゃあこの苦しさはアリシアの心?
 後ろで、アリシアに何が起こっているんだろう。気になって、心配になって、私は振り向こうとした。
 
 けどその前に、

「私は……アリシアなんだーーっ!!」

 さっきとは違う。今度は意識も世界も真っ白に染まった。

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