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2009.09/03(Thu)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十三話 Cpart  


【More・・・】


 見渡す限りの――

「フン! ハァァ!! さぁどんどんかかって来い!!」

 敵、敵、敵――!

「ごめん恭ちゃんそっち行った!!」
「気にするな! これくらい――でやぁ!! 朝めし前だ!」

 敵敵敵敵敵敵敵――!!

「まったくゴキブリよりたちが悪いな! 油断するなよ二人とも!!」 

 お店を出てから今までずっと重苦しい不快感が私の体を包み込んでいる。それこそ熱帯夜の熱気なんて目じゃないくらいだ。
 一つ一つの魔力量なんて大したこと無くても、これだけ数が多いと魔力が交じり合って知覚するだけでどうにかなってしまいそう。
 魔力に敏感なのもこういう時だけはすごく考え物だ。 

「質より量……薄利多売過ぎるのもどうかと思うけど。流石にやり過ぎじゃない?」

 上から飛び掛ってきた追っ手は赤い残像に残さず切り刻まれていく。
 魔力爪を唸らせながら飛び跳ねるお姉ちゃんも口は元気そうでも顔には疲れの色が見えた。

「翠屋からフェイトちゃんの家まで……んく、こんなに遠かったかなぁ……?」

 空気を飲み込みながらなのはちゃんが遠くを見つめる。それさえ目の前に溢れた暴走体のおかげですっかり目隠しだった。
 おまけに進むに連れて暴走体の中にも見慣れないものが混じり始めていた。
 例えば同じ暴走体同士がくっついたような不気味に蠢く黒い塊とか、犬や猫を模したような鮮明な形を持ったものだとか。
 道を塞ぐ敵を根こそぎやっつけて少しずつ進んで行く。
 少し走って立ち止まってまた走って――。
 そんなトンネル工事みたいな地道な努力はどんなに少なく見積もって半分はとっくに超えたはずなのに……。

「っ!? なのは後ろ!!」
「ふぇ? ――あ!?」

 お姉ちゃんが横合いから突っ込んできた敵の相手をしている隙に私たちの背後からもう一体の暴走体が襲い掛かる。
 いち早く気配に気づいたフェイトちゃんが声を上げるも、既に相手はなのはちゃんに飛び掛っていた。
 今のなのはちゃんじゃシールドは張れない! 一瞬で魔法を完成させるなんてデバイスの助け無しに出来るわけが無い!

「きゃあああ!」
 
 叫び、身をすくませる。それだけで他に成す術はなかった。

「なのはちゃん!!」

 私の口から飛び出したものはほとんど悲鳴だった。

「このーーーっ!!」

 その悲鳴が消え入るより早く光の鎖が暴走体の巨体をあっさり捕える。

 たわんだ鎖が一直線に伸び、巨体もその方向へ進路を捻じ曲げられた。
 ドーーン! と重低音がアスファルトに亀裂を入れ砕け散る。だけど元々形の無い魔力の塊のおかげかすぐに体を縮ませ飛ぶ仕草を見せた。

「しつこいんだよ!」

 その体がぐしゃりとひしゃげる。激昂と共に弾丸のように繰り出された拳が暴走体に叩き込まれたのだ。
 
「なのはに指一本触れさせるかぁ!!」

 マントがたなびきさらに一発。翠色の壁が暴走体をさらに地面へとめり込ませ、ついには黒い霧へと粉砕する。
 衝突の瞬間に拳にシールドを纏わせた攻防一体の攻撃。下手すれば自滅しかねない攻撃だけど彼の障壁の頑強さを知っていれば誰だって無理とは思わない。

「なのは! 大丈夫!?」
「あっ、うん!! ありがとユーノくん!」

 あわやの惨事を切り抜けも油断は無い。すかさず両手からチェーンバインドを繰り出し更なる追っ手も拘束する。

「ああもう! 次から次へと何匹いるのよーーっ!!」
「アリサ落ちついて。怒ってもアースラにはつかないよ」
「あんなへなちょこ雑魚に指一本出せない自分に腹がたってしょうがないのよーーっ!!」
「それは私もそうだけど……」

 音を上げたいのはみんな同じかもしれない。
 でもそんな中でも希望への道を切り開いてくれる人たちがいることは忘れちゃいけないこと。

「ふん! はあ! 軽い軽い! とっとと道空けるんだよおまえら!!」

 倒したそばから襲い掛かってくる敵を真っ二つに切り裂きながら士郎さんが吠える。
 その気迫に押されたのか一瞬相手が怯んだように見えた。その隙を逃さず目にも止まらぬ速さで相手に肉薄、左右から一閃、さらに回転しながら一閃!
 『ゴォォォ』と地鳴りみたいな唸り声は断末魔に変わる。そのあまりに呆気ない光景を見せ付けられても逃げてくれないのが今の相手だ。

 ならば、と左右から挟み撃つように狼とライオンみたいな形をした暴走体が飛び掛る。
 それさえも反撃の一手にはならない。
 なぜなら――

「父さん! ハァ!!」
「私たちだっているんだからね!」

 すぐに二人が駆けつける。
 弧を描く光の前に狼は胴体を泣き別れにされ、ライオンは光の直線軌道を眉間に直撃させながら消滅していった。

「おいおい、俺の出番を持っていくなっての!」
「それなら俺たちにだって少しは出番をくれてもいいだろ?」
「無理するなって言ってたくせにとーさんが一番危なっかしいんだから」

 軽口を叩き合いながら三人背中合わせに。
 迫りくる百鬼夜行を前にしてもその瞳から闘志が削がれることは無い。最初からボルテージは上がりっ放しなんだと思う。

「目的地まで目と鼻の先か……ここらで一気に蹴り、つけるか」
「確かにそうしたほうがいいかもな。俺たちはともかくなのはたちはそろそろ限界みたいだしな」
「蹴散らして一気に道を開く……出来るのほんとに?」

 もし戦国時代の侍がこの時代にやってきていたらあんな風な雄姿を見せてくれたのかもしれない。
 私たちの目の前にいるのは侍でもなければ、本当ならこんな非日常を知ることもなかった人たちだ。
 剣術を嗜んでいてもここまで戦える強さは手に入らなかったはずだし、仮にあってもこんな得体の知れない怪物と戦うなんて知ったらしり込みするのが普通なはず。

「当たり前だろ。なんてたって俺たち御神の剣士は――」

 なんでそこまで頑張れるのかちょっと不思議に思う。みんないきなりこんな世界に放り込まれたわけじゃないけど少しぐらいは怖いとか不安に思う気持ちだってあったかもしれないのに。

 でも――

「――大切なものを守るのが仕事だからな」

 その屈託の無い笑顔を見てすぐにわかった。
 同じなんだって。私たちと気持ちは同じなんだってことが。
 大好きで、大切な人たちを守るために私たちは魔法を唱え戦う。それと同じように三人も大切なものを守るために戦っている。違うのは魔法じゃなくて剣を振るうことだけ。

 大切なものを守るって気持ちはとても強い力を私たちにくれる。時にはそんな想いが強くなりすぎて一人先走っちゃうこともあるくらいだけど、それぐらいすごい力をくれる魔法の源だ。
 その気持ちが心の中にあれば怖いなんて気持ちはあっという間になくなって絶対寄せ付けない。どんな困難が目の前にあっても立ち向かえる大きな力になる。

「行くぞ恭也」
「ああ、見せてやるさ」
「いいな美由希」
「もちろん!」

 空気が変わった。
 三人を囲む暴走体の数は一秒経たずしてどんどん膨れ上がっていく。足を止めた私たちの周りにいたものも三人の方向へ進路を変えている。
 今一番の脅威が誰か悟ったみたいだ。数で押せば多少の力の差は埋められる。そう考えたのかはわからないけどあの場に誰がいたって考えは同じはずだ。

「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術……高町士郎」
「同じく高町恭也」
「同じく高町美由希」

 私はなのはちゃんのお父さんの仕事を良く知らない。ボディーガードをやっていたまで聞いているけど、実際どんな方法で、どんな風に要人を守ってきたのか想像もつかない。
 ただ何も知らない私でも言えることがある。

「――参る!」

 その大切な人たちを守ってきた力は

「――神速!!」

 すっごい強くて格好いいということだ!

* * *

 時間にすればコンマ一秒以下の世界だと思う。わりと誇張しているかもしれないけど。
 でもそれくらい三人の侍が目の前で風を超えたことが驚きだったっていうこと。

「ねぇフェイト、あんた恭也さんたちの動きが見える?」
 
 アタシが話しかけている時にはすでに三人を取り囲んでいた前列が瓦解していく真っ最中だった。

「……バルディッシュがいても無理かもしれない」

 ストライカーズで一番のスピードを誇るフェイトでこれだ。アタシに見えるわけが無い。

「さ、流石なのはの家族って所なのかしら」

 風がゴウッとなるたび黒い切れ端が宙を舞う。獣の形した影がバラバラに飛び散る。
 三人がアタシの前から姿を消してからずっとこんな調子だ。多分あれが恭也さんたちの本気なのだと思うと敵でもないのに背筋に寒気が走った。

「井の中の蛙……ねぇ」
「速さには自信あったんだけどな」
 
 時代劇の殺陣みたいに敵がバッサバッサと切り倒されていく様は爽快だけど、肝心の侍の姿が見えないおかげでなんだか物足りない。
 あまりに圧倒的過ぎる力の差に思考が脱線していくのは止められず、ただただアタシは活路が開かれていく光景を半ば呆然と見つめていたり。

「……一体どういう魔法教えたのよユーノ先生」

 ジト目と皮肉をたっぷり混ぜた質問を投げつけてみた。

「あ、あれだって最初はあんな速くなかったんだよ。それが魔法と結びついたらああなっちゃって……」
「で、文字通りの神速ってこと」 
「……うん。やっぱりなのはの家族だけあるよ」
「私もそれ出来るかな? というより教えてユーノ」
「出来れば士郎さんたちに聞いて欲しいよ。感覚とか時間とか空間とか……あんな簡単に制御できる方がおかしいよ」

 当人も呆れていた。
 ようするに高町家専用の十八番ってところなのね。

「アリサちゃん……なんでわたしの方見てるの?」
「なのはも運動神経切れてなきゃ……あんな風になってたのかしら」
「うう、何気に酷いこと言わないでよ」

 肩を落とすなのはは放っておいて意識を戦場へ戻す。

「そろそろ……かしらね」 

 一時は景色を覆い隠すほどに思えた大集団も高町無双で壊滅状態だった。特に前方、フェイトの家への道は綺麗さっぱり掃除されている。
 
「これが最後の全力ダッシュ! いいわねみんな!」

 前だけを見て、肺の中に思いっきり空気送り込んで、両足に力をこめて!

「――スタート!!」

 最終ストレートへ飛び出した!

 ぐんと風を切って足がアスファルト蹴り飛ばしていく。
 腕は激しく交互に振り切って体は転びそうなくらい前傾姿勢で、目指す目的地は目と鼻の先!

「あんた達の相手は! 後で泣くまでして上げるから今は道を開けなさい! というか開けろ!!」

 喚くだけならアタシだってできる。せめてもの鬱憤晴らしぶつけながらアタシは走る。とにかく走る。

(アリサちゃんペース落として! まず私とお姉ちゃんが先行するから!)
(な、なんでよ! っていうかいきなり!?)
(フェイトちゃんの家に言っても多分アースラへの転送装置は動いてないと思う! だから私とお姉ちゃんでロックを解除するから!)
(つまり金庫破りね!)
(それとはちょっと違うと思うけど……)

 確かに敵さんがおちおち玄関を開けたまま居眠りしてるはずが無い。アタシが先に行ってもきっとアースラへの行き方がわからず地団駄を踏むのが関の山。
 
「そういうわけでちょっとお先ね!」
「え、お姉ちゃん!? きゃああぁぁ――!?」

 念話が途切れると同時に忍さんがすずかを抱えて宙を舞った。
 相変わらずの跳躍力はアタシの努力をあざ笑うかのように数十メートル先の家の屋根へ。軽やかな着地もそこそこにまた空高く跳んでいく。

(いいなぁ、すずかちゃん)
(乗り心地は最悪そうだけど)
(アルフがいれば私だって)
(そこ、対抗心燃やさない)
 
 冷静に突っ込めるのは念話だからこそ。普通に喋ってたらとっくに息切れスタミナ切れもいいところだ。
 それでも普段から走ってないせいかそろそろ体力的にはキツかったり。飛ぶなら四六時中やってるのにね。

(それにしても文字通りの総力戦よね)

 今まで色んなことがあった。その度に沢山の出会いがあってアタシたちの非日常は少しずつだけど賑やかなものになっていった。
 忍さんや高町家の人たちや那美さんや久遠、アリシアとの出会いだってそう。
 悲喜こもごもで時には絶体絶命なピンチもあったけど今はこうしてみんな一緒にいられる。
 それは全部魔法が導いて、結んでくれた沢山の絆だ。アタシやすずかだってその中にいるんだ。
 
 相手はそんな絆をこの世界もろとも消し去ろうとする最悪の敵――アルハザード。
 アタシたちはそいつからみんなも世界も何もかもを守ると決めた。けどそう決めたのはアタシたちだけじゃなかった。
 アタシたちが繋いでいった絆全てが、きっと今こうして、こんな形で実を結んでいるんだと思う。
 もしも世界に意志があるなら、これは世界を救うために立ち上がったアタシたちへのプレゼントなのかも、なんてちょっとロマンチックなことも考えてしまうアタシだったりするんだけど。

「まったく……アタシも格好悪いところ見せられないじゃない」

 全ての絆が戦っている。その中の一つであるアタシが手を抜けるなんて出来てもしない。するもんですか。
 そう、これはリレーなんだから。
 希望ってバトンを次々に、前へ前へ、未来へ未来へ――。
 
(だから自分の役割!)

 士郎さんたちが火の粉を振り払い道を繋げる。
 すずかと忍さんは閉ざされた扉を開いて非日常への橋を渡す。
 
(アタシはこれ!!)

 アタシは邪魔者を蹴散らして空翔ける翼を取り戻す。

「自爆なんてどんと来いよ!!」
 
 両手に魔力を集中! 圧縮! 暴発なんて気にしない!

 家のドアは忍さんがとっくに壊して風穴だ。のんきにドアなんて開けてる場合じゃないから当然。
 フルスピードで穴と飛び込みそのままリビングへ一直線。

「逆アセンブル……完了……システム介入」
「アンロック開始……シルフがいなくてもこれくらい!」

 飛び込んだ瞬間に眩い光が部屋の中に満ちる。振り返れば潜ってきた入り口が光で一杯になっていた。
 
「ナイスタイミング! ありがとすずか! 忍さん!」
「私はやれることをしたまで。次の主役はアリサちゃんよ!」
「アリサちゃん! バインドの破壊お願いね!」

 返事は得意気な笑みにして。
 ドアの両端の二人にアイコンタクトすればもうアタシは転送ポートに身を半分沈めている。
 爆発寸前の両手は前に。例え目の前にバインドが現れても片っ端から壊してあげるわ。

「突撃ーーーーーっ!!」 

 号令高々にアースラへ突っ込んだ!

「待ってなさいよアルハザード!」

 入るなり歓迎されるは水に手を突っ込んだような鈍い手ごたえ。直感が吠え、アタシはそれ目掛け魔力を押し付け叩き壊す。
 雑巾がけをするように両手を前へ揃え、足は止めない。空気を押し出すようにバインドの群れを片っ端から吹っ飛ばす。
 風船が割れるような音が鼓膜を揺るがし溜まらず立ち止まりそうになる。でも足は止まらない。今更こんなこけおどしがアタシに通じるもんですか!

「今アタシたちが行ってあげるから!」

 艦内のバインドは一分とかからず消滅するだろう。
 アタシの役目はこれで終わり。

 次のバトンは――

「フェイト! 頼んだわよ!!」

 ――あんたに託す!!

* * *

「これでみんな大丈夫なんだよね?」
「ええ、後はアースラを飛ばすだけよ」
  
 アリサが先行して道を開いてくれたおかげでもうアースラの中は心配ない。拘束された人たちもすぐに動けるようになるはずだ。
 恭也さんたちはブリッジの制圧に、なのはたちはデバイスを取り戻すため整備室へ。
 みんながそれぞれの目的のために別れる中、私も母さんと一緒にある場所へとひた走っていた。

「動力炉さえ復旧できればアースラはすぐに飛べるわ。そうしたらこの次元から脱出、態勢を立て直し次第アルハザードへ」
「私に出来るかな……」
「出来るわ。私の娘なんだから」

 私のすぐ横を飛びながら小さな母さんが微笑んだ。

「けどジュエルシードを利用するなんて母さんも無茶が好きだったんだね」
「あら、ずっとやんちゃばかりだったのはどこの誰だったかしら?」
「わ、私だけじゃないよ! なのはたちだってみんな無茶苦茶なんだから」
「そうね。でもそうやってやんちゃが出来るのは子供の特権よ。大人はいつもそんなに出来ないんだから」 
「だから今するの?」

 当然のことながら「もちろん」と母さんが茶目っ気たっぷりに頷いた。
 寄り道をしたのはジュエルシードが格納されているカーゴルーム。この騒ぎで封印していた沢山のジュエルシードが発動していないかの確認もあったけど本来の目的はこのために。

「ええ。たまには大人もハメを外したいのよ。特に私の場合はね」

 散々迷惑をかけてきたからこそ母さんの言葉は妙に説得力がある気がした。
 見守ることしか出来ないから、余計に苛立ったり悲しんだり……。そんなことばかり繰り返してちゃ心がどんどん傷ついていく。どんな時もガス抜き、鬱憤晴らしは大事って事。

「暗くなってきたね」

 なんだかアリサみたいな考えかなって思いながらアースラへの最深部への階段を降りていく。動力が最低限しかないだけあって照明設備はほとんど駄目になっていた。

「足元気をつけてね」
「うん、大丈夫」
「多分もう少し行けば動力炉だと思うから」
「こんな所、普段は誰も行かないもんね」
「提督なんてやる前に一度アースラの中を探検したほうが良かったわね」
「じゃあ今度一緒にしようよ! 母さんはその姿ならきっと見つからないし」
「提督の椅子に誰も座ってなかったら怪しむわよ。特にクロノとか」

 そう言われると頭の中にクロノが主のいない椅子を前に頭を抱える姿が浮かんでくる。

「身代わりとか駄目かな?」
「ん~、変身魔法で他人に成りすますのは違法なんだけど……よく考えたら管理局が無い今ならお咎め無しじゃない」
「でしょ?」

 少しぐらい自由にしたって罰は当たらない。提督だからっていつでも司令室に詰め込んでたら疲れてどうかしちゃうはずだもん。

「一体誰に似たのかしら……」
「もちろん母さんだよ」

 今までこの世界と調和するためにどれだけ職権濫用したか忘れたとは言わせない。

「我が娘ながら痛い所をついてくるわね。クロノだけで十分なのにそういうとこは」
「えっへん」
「自慢しないの」

 闇が運ぶ不安な気持ちも他愛ないやり取りが残さず連れ去ってくれる。
 立場が立場だけにあんまり二人だけの時間が作れなかった私たちには、きっとこんな時間もキラキラ輝く宝石のように鮮やかな思い出に変わっていくんだ。
 
「さぁ、着いたわよ! 後はこの扉を開けて――」

 母さんが忙しなく飛び回りながら大きなパネルを操作していく。
 程なくしてゴゴゴ、と重厚さを漂わせる轟音と共に暗闇に一条の赤い光が差し込んだ。

「……おっきい」

 第一声はそれ。
 縦横無尽に渡された細い通路の下に広がる世界は人間の物差しなんて意味がないほどの巨大なスケール。
 薄暗くても目の前に晒された巨大な円筒形の装置はまさしくアースラの心臓部と呼べる存在感を放っていた。

「これがこの艦の魔力を生み出すジェネレーター。これを左右のエンジンに直結させてアースラを飛ばしているの」

 生き残った小さな照明が暗闇から輪郭を引き上げてくれるおかげで大体全貌は掴めた感じだ。
 巨大な塔を横倒しにしてはめ込んだみたいなジェネレータは所々に燻るような赤い灯火が明滅して今でも微かにだけど生きていることを感じさせてくれる。
 
「フェイトにお願いしたいのはジュエルシードでこのジェネレーターと二基のエンジンの代わりをしてほしいの」
「エンジンも?」

 暗闇に目が慣れればさらによくわかる。
 塔の表面は金属板が幾何学的に組み合わさって不思議な質感をしている。さらに塔のあちらこちらからパイプが飛び出しどこかへ繋がれている。その中でも塔の中腹から左右に真っ直ぐ突き出したパイプはほかのどれよりも遥かに太い。
 母さんの言うとおりならあれがエンジンへ魔力を供給する要なんだろう。ここからだとパイプの先は暗闇に飲み込まれていてどこまで続いているのわからないのが残念だけど。

「どうもエンジンがやられたとばっちりで魔力が逆流して内部の機関が焼ききれたみたいなの。幸い、全部やられたわけじゃないけど動力も現状ほとんど生み出せない状態」
「つまり飛ぶにはエンジンの修理も必要だけどジェネレーターも直さないといけないんだね?」
「そうなのよ。ほんとここまで壊れちゃ応急処置も間に合わないし」
「だったら任せてよ母さん!」

 やるべきことを悟ると同時に私は手すりを乗り越え一瞬の自由落下の後、塔へ着地を果たす。

「ジュエルシードお願いね」

 浮かべるイメージは未来の姿。この海原を切り裂き天空へと船首を向ける銀色の翼の雄姿だ。

「目覚めよ……内なる記憶よ! 結べ……この願いを!」

 もうジュエルシードの制御は息をするのと同じもの。握り締めた種を塔へと叩きつければ蒼い煌きが噴出し動力室に違う色を運んでいく。
 ただ真っ直ぐで純真な願いはこの翼にもう一度命を与えることができる。もう心配はいらない。

「バルギル! ザルギル! プラウゼウル! ジュエルシード開放!!」

 瞬間、今まで微かだった足元の息吹が地鳴りに変わる。 
 光が塔全体を包み込み、溢れんばかりの魔力がパイプを伝ってアースラの中へ供給されていく。
 地響きが足元を揺さぶり踏ん張っていても転びそう。本当に転んで落っこちたら洒落にならないので魔力を足に流し込んで一気に跳びあがった。

「よっ……と!」

 くるりと一回転して元いた場所に帰還する。これで取り合えず仕事は終わりだ。

「これで大丈夫かな?」
「上出来よ。さすがフェイトね、母さんも頭が上がらないわ」

 褒められるのが嬉しい。笑ってしまうのが抑えられない。

「……あれ?」

 と、ここに来てあることに気づく。

「ねぇ、母さん。動力炉は直ったけどL・ジュエルはどうするの?」
 
 よくよく考えてみれば肝心なものを忘れていた。
 むしろこれを野放しにしていたらいつこの有利な状況をひっくり返されるかわかったものじゃない。

「それも時間との勝負になるわね。相手もここまで踏み込まれたら早々手は出せないはずだけど」

 動力炉を見下ろしながら母さんが腕を組んだ。完全に復旧した照明設備が銀色の心臓を余すことなく照らしていた。改めてその巨大さに圧倒される一方であちらこちらのタービンが勢いよく回転し始めてことに気づく。
 
「どうやら一足先に誰かが動かし始めたみたいね」
「じゃあ今アースラは……」
「すぐにでも空に上がるわ。L・ジュエルと一緒にね」
「一緒に……? じゃあL・ジュエルは」

 そこから先の答えをわざわざ言う必要はなかった。

「アースラ自体に取り付いていれば艦全体のバインドも容易いし、万が一艦のコントロールを奪われても妨害が出来ると思ったんでしょ」
 
 深刻な事態というのに母さんの顔はまさに余裕といった感じ。不敵に笑みまで浮かべていたりする。

「ただ自分の居場所がすぐにばれる。そのデメリットが私たちには最高のチャンス」
「そっか!」

 もしアースラの外側にL・ジュエルが取り付いていれば海中だと手出しは出来ない。内側にあっても封印の衝撃でただでさえ不安定な動力炉が壊れでもしたら、水圧にたちまちアースラはぺしゃんこだ。
 L・ジュエルからしてみれば鉄壁の防御だったはず。あくまでそれは海の中という条件で。
 ならば場所を変えてしまえば壁はたちまち崩れ落ちる。

「ならL・ジュエルの封印は――」

 全力全開で最後の仕上げをするのはもうあの子しかいない。

「――なのは!!」

 壁越しにでも遥か大空でその時を待つあの子が見える気がした。いつも以上に全開の魔法を引っさげて私たちの反撃の狼煙を上げるんだ。

 遠慮なんていらないよ! 思う存分やっちゃってなのは!!

* * *
 
「レイジングハート! バスターモード起動!」 
『All light』

 ようやくこの手に戻ってくれた相棒をこの舞台にピッタリな姿へ変える。握り締めて、矛先は遥か下の海原へ向けた。

(いいですかなのは。船体に取り付いてるL・ジュエルは全体から見れば小さいものです。あまり広範囲に砲撃を着弾させてはアースラの航行にも支障が出かねません)

 リニスさんからの念話はそれだけでわたしに何を期待しているのかなんとなくわかってしまう。

「ピンポイントで封印だよね……。出来るかなぁ?」

 狙撃といえばディバインバスター・エクステンションが候補に上がってくる。けどそれでL・ジュエルの封印まで出来るかと考えるのは浅はかだと思ったり。
 やっぱり確実に封印するならもっと魔力のある砲撃魔法しかないわけで。

 そうなるとわたしには当然アレしか思い浮かばない。

(言っておきますが今のアースラはフェイトがジュエルシードで無理矢理飛ばしているようなものです。それまで封印してしまったら……わかりますね?)

 うう、頭が痛い。
 すずかちゃんやアリサちゃんなら上手く出来るんだろうけど二人はそれぞれの役割をこなして疲れきっている。わたししかいないのだ。

「砲撃をもっと絞って、でも威力はそのままで……うにゃあ、無理だよぉ」

 それこそアリサちゃんみたいに魔力を圧縮して発射できれば言うこと無しなんだけど無いものねだり。

「ユーノくん、何か言い考えあるかなぁ」 
「一応あるといえばあるけど」
「やっぱりブラスト?」
「あれならある程度は砲撃を集束できるしね」

 肩のフェレットさんもどうやら行き着いた考えは同じみたい。
 確かにあれはいいかもしれないけど、それを使うに当たってとっても問題なところが一つある。 

「ここあんまり魔力ないよ」
「……なのはを信じる」
「誤魔化さないでよ!」

 妙に悟った顔で気取るユーノくんに抗議しながらやるしかないと覚悟を決めるのがわたしの残った道。
 そもそもスターライトブレイカー・ブラストは発射スフィアを回転させてより速く魔力を集める砲撃だ。そのおかげで砲撃自体も普通のブレイカーより細く、強くなってる。
 けど集めるものが少なくてはチャージ時間も短くならないし、せっかくの威力だってストーンと落ちてしまう。この欠点だけは同じなのだ。

「時間は待ってくれないのわかるけど……」

 真下の海面には黒く大きな影がゆっくりと大きくなっていく様子が見えた。銀の翼はもう十秒待たずして海を突き破るはずだ。
 
「ううん、出来ないと思ってたら何も始まらないよね」 
「それになのはに出来ないことは無い。そうだろ?」
「わたしだけじゃ何も出来ないよ。でもね」

 わたしには大切なみんながついている。決して一人なんかじゃない。

「みんなが頑張って繋いだんだもん。わたしだって負けてられないよ!」
『Master! That’s the spirit!』(その意気です!)
「ドーンと行くよ! レイジングハート!」

 やがて轟音が海を揺らし、真っ白な飛沫が山のように辺りを覆い尽くした。引き裂けた海原の中心から天目指し突き出ていく二股の船首に弾けとんだ水滴が雨のように打ち付けていく。
 その只中にあの蒼い輝きが光るのが見えた。わたしたちを散々苦しめたL・ジュエルは船体の中央に最初からあったかのようにくっついていた。

「チャージ開始!」

 魔法陣の光に包まれながら砲身の先へ光の球が生み出された。核となるスフィアはすぐに回転を始め周囲の魔力を一気に巻き込んでいく。
 L・ジュエルは今の所何もしてない感じ。何かされる前に封印しなきゃ後々大変だ。
 
『Master,caution!』
「ふぇ?」

 声と同時にL・ジュエルがチカッと一度点滅したのをわたしは見逃さなかった。やっぱりタダで封印されるわけに行かないらしい。

「ユーノくん!」
「うん! 準備は大丈夫!」

 ユーノくんはいつでも防御が出来るように身構えた。相手が何か撃ってきても、残念だけどわたしたちには無意味だ。
 出方を窺いながらもチャージは止めない。段々と輝きが強くなる中、わたしはその時を目指して意識を集中させていく。

「――くっ!?」

 刹那、目の前が閃光で真っ白になった。爆音と共に翠の壁が蒼を蹴散らし辺りに魔力弾き飛ばして行く。
 どうやらL・ジュエルが砲撃してきたみたい。ユーノくんのおかげで全然効いてないけど。

「まったく、悪あがきもいいところだよ」

 ちょっと呆れ気味にユーノくんが呟きながら間髪入れず飛んできた二射目をあっさりといなす。 
 と、見ている矢先に三射目がシールドにぶつかって弾け飛ぶ。

「でもこれだけ手数が多いと……」

 四、五射目がシールドを揺らす。
 一発一発は大したことなくてもこれだけ息つく暇も無く撃たれるとこっちも反撃の糸口が見つからないかも。

「これじゃあこっちが撃つ瞬間に狙われちゃう!」
「もしブレイカーのスフィアに当たったりなんてしたら……でもシールドは解除できないし」
「いくら魔力が集まっても一瞬じゃブレイカー撃てないよ!」

 最後の仕上げに集束した魔力を押し込めなきゃスターライトブレイカーは完成しない。そんな隙をL・ジュエルが見逃してくれるわけが無い。
 ええと、八方塞ってことですか?
 なんて考えながらどうにかこの状況をひっくり返す方法がないか辺りを見回してみた。

(う~ん、つまり発射する時間を無くせばいいんだよね)

 なにもL・ジュエルだってマシンガンみたいに連射しているわけじゃない。注意してみれば相手だって少しチャージした後に砲撃してる。スフィアは沢山浮かべていても発射するのは一度に二つ、三つしかない。
 僅かな隙はある。問題はそれをわたしがどこまで上手く利用できるか。

「なのは、ディバインバスターなら」
「えと発射まで時間がかからないけど、L・ジュエルを封印する魔力は無いと思う」
「うーん……せめてバスターからブレイカーに出来れば」
「撃ちながらってこと?」

 つまりディバインバスターを当てながらスターライトブレイカー撃つってこと? それだって制御できるか難しい。

「でもそれいいアイデアかも」

 L・ジュエルの砲撃くらいならわたしのバスターで蹴散らせる。そのままL・ジュエルに当てた後に魔力を集めてダメ押しをすることは朝飯前だ。
 なぜならそう言い切れる追い風がわたしの回りにいつの間にか溢れていたから。

「これだけの魔力があれば! 行けるよね!」
『All light』

 そうだ。スターライトブレイカーの持ち味はヘトヘトになった時でも少ない魔力で撃てること。
 そしてもう一つがわたしのも相手のも、どんな魔力だってその源にすることが出来るってこと!

「ユーノくん! シールド解除して!」
「え!? でもまだチャージが」
「チャージは撃ちながらだって出来るよ! 思いついたんだとっておきのスターライトブレイカー!」
「――わかった、なのはを信じる!」

 L・ジュエルの砲撃が一瞬だけ止むその瞬間に壁は取り払われる。
 待ってましたとわたしが杖を振り上げる。

「スターライトブレイカー・ブラスト改め! 全力全開のカウンター砲撃!」
『Starlight blaster』
「いっくよーーっ!!」

 振り下ろし、チャージの完了してないスフィアから一条の閃光が放たれる。
 L・ジュエルの砲撃はほぼ同時。だけど威力はわたしの方がずっと上だ。蒼い光は残らず蹴散らされL・ジュエル本体を一気に飲み込む。

「ここからが本番!」
 
 発射中のスフィアに魔法陣が巻きついていく。緩やかな回転をしていたスフィアは注がれ魔力に猛烈な回転を始め掃除機のように辺りの魔力を吸い込み始めた。 

「今まで撃った分! そのままお返ししてあげる!!」

 散々撃たれて、散らした魔力をすべて光の渦へ叩き込む。
 相手が撃てば撃つほど威力はどんどん上がる。なにより今も撃ち続けている砲撃に足を止められた相手はこれを避ける方法なんて持っていない。
 ユーノくんのシールドに一体何発の砲撃が掻き消されただろうか。もうわたしの周りは息苦しくなるくらいの魔力が漂っているんだから。これを全部相手にお返しするなんて我ながらいいアイデアだ。

「ブラストシューーーーーーートッ!!」

 耐えて、耐えて、耐えて! 一発大逆転!!
 これがわたしの思いついたカウンターのスターライトブレイカー。
 スターライトブラスターだ!
 
「リリカルマジカル! 器に眠りし儚き世界! ここに――」

 ドゴン! 一番の反動が両手を貫く。
 本命の砲撃は激しく回転しながらL・ジュエルを光の中へ消しさっていく。浴びせる、じゃなくて浴びせ続ける。
 後はもう全力全開で!

「――封っ印!!」

 翼は再びわたし達の元に!
 
 さぁ! これで準備は万全だ!

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