04月≪ 2017年05月 ≫06月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031
--.--/--(--)

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【編集】 |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑
2009.03/12(Thu)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十二話 Cpart  


【More・・・】


 集中、ただひたすらに集中する。

「それじゃあ手合わせお願いします。美由希さん」

 数メートル先で小太刀を引き抜く彼女を見据え、僕自身に言い聞かせるように準備が出来たことを告げる。

「……オッケー! 言っておくけど手加減は無しだからね」
「そこまで余裕ありませんよ」
「まぁ私もだけどね。なのはみたいにバンバン撃てれば楽なんだろうけど」

 目を閉じ精神を集中すれば両手の小太刀が淡緑に包まれていく。光は刀身へと収束し刹那の内に魔力の刃になった。
 元の小太刀への魔力負荷ではない。魔力を結晶化させ固定したと言う方が語弊が無いと思う。

「技術的には美由希さんの方がすごいですよ。なのはは魔力を放出するだけですから」

 顔をむすっとさせるなのはが脳裏に浮かぶ。
 僕の言葉に美由希さんは照れ臭そうに笑い、すぐに表情引き締めた。

「ユーノには感謝しないとね。私たちにもこんな不思議が使えるんだから」
「僕だってこんなことになるなんて思ってませんでしたよ。それに形に出来たのはエイミィさんと忍さんのおかげだし」

 守るために強くなりたいと思った。だから僕は士郎さんたちと一緒に毎日の鍛錬を欠かさずしていた。

「その忍さんは恭ちゃんと真検勝負中かぁ」

 アースラの訓練場はとにかく広い。それゆえ同じ時間の中でみんながそれぞれの鍛錬を行っている。
 
「あっちはあっちで段違いだね」

 獣のように縦横無尽に飛び跳ねながら恭也さんの死角を狙って爪を振るう忍さんに、最低限の動きで攻撃をさばいていく恭也さん。隙あれば小太刀と鋼糸を使って忍さんのペースを乱し反撃を繰り返す。

「負けられないですね」
「格好悪い姿だけはみせたくないもんね」

 元から魔法と体術に心得があった僕は体力作りから模擬戦まで参加していた。
 当然、その中で士郎さんたちに異質な力が備わっていたことを知るのに時間は要らなかった。剣術やそこから派生した移動術などそれは多岐に渡る。

「それじゃ行くよ!」
「お願いします!」

 いくら魔法が使えるといっても美由希さんの魔力はそれほど高くは無い。高くはなくても使う魔法はミッドチルダ式とは明らかに違う未知の術式だ。それ故、魔力量に魔法の質が左右されない。
 僕としてはきっかけ程度の、あくまで概念的なものしか三人には教えてないけど、それだけでもみんなの力が不思議から魔法に変わるのに時間はかからなくて。
 
「せぇい!!」

 突きこまれる一撃を障壁で真正面から防ぐ。ただの刀なら楽に弾けるそれも魔力の刃では僅かに亀裂が生じる。
 結晶化された魔力はどうやら普通の魔力とは性質が異なるらしい。そのせいか魔力障壁との相性はかなり悪い気がする。

「次ぃ! でい!!」

 間合い詰め、左右から息つく間も無く振り下ろされる刃。光の軌跡が障壁を走りぬけそこを境に壁があっけなくずれ落ちていく。

(避けるか――攻めるか!?)

 迂闊に下がっても美由希さんの思う壺だ。

「僕だって!!」

 選択肢はあってないようなもの。障壁が消えると僕は全力で拳を打ち込んだ。

「ハッ!」

 障壁を纏わせた一撃はそれなりに重く力強い。いくら強化した小太刀でも片手では受けきれない。
 交差した刃が拳の魔力とぶつかり合い光を散らす中で僕は一気に後ろへ飛びずさる。

「チェーンバインド!!」

 続けて、美由希さんが体勢を立て直す前に彼女の得意とする戦法を封じ込める。
 美由希さんの剣術は突きを中心に組み立てられている。面ではなく点による攻撃は多少の距離では意味を成さない。

「そんなの恭ちゃんの鋼糸さばきにくらべれば!」

 うねりながら獲物を狙う鎖を美由希さんは苦もなく弾き流していく。体をずらし、的確な位置へ攻撃を打ち込み鎖の軌道をたちどころに変えていく。

「この勝負! もらうからね!」

 バインドが明後日の方向へ逸れ僕と美由希さんの間に邪魔者が消える。

(あれが……来る!)

 美由希さんが腰を低く落とす。穏やかな目つきは一転して刃物のように。

「――神速!!」

 掻き消える。他でもない美由希さんが目の前から消失する。

「くっ!」

 単に視覚が認識できない速度に達しただけだ。高速移動なんて見慣れた魔法なのにどうしてか冷静でいられない。
 反射的にプロテクションを周囲に張り巡らし急場凌ぎの盾を作る。

(高速移動してるだけじゃないんだ……これは!)

 鈍い音が耳に届き目の前にクモの巣が広がる。今ので貫かれていたら敗北は必至だった。
 
(制御してるのは感覚、速度、もしかしたら時間や空間も!)

 何度か見て、使い手たちから聞いて僕なりに考え辿り着いた結論だ。自分に封時結界を纏わせてるみたいなもの。
 士郎さんが受け継いだ剣術がどれほどのものかは鍛錬を共にしてまだ日の浅い僕にはわからない。
 ただ守るという意志が込められた刃の力は下手な魔法なんて屈服させるくらい強いことは嫌でもわかる。

(やっぱりなのはの家族だ! だから――)

 負けたくない。僕だってなのはを守る強さが欲しいから!

「バリアバースト!」

 破られる前に破る。プロテクションを美由希さんごと弾き飛ばし攻撃をせき止める。
 間一髪で逃れたか、少し離れた場所に美由希さんが姿を見せる。既に構えを取り直したその姿は瞬きさえ許さぬ内に再び消える。

(次で決める!)

 それは相手も同じ。

「アストラルストリングス!!」

 手の平に集中させた魔力に繊細なイメージを。
 解き放つは星のきらめきを織り込んだ紬糸だ。

「きらめきよ! かの者に戒めの旋律を!!」
 
 遮蔽物のない空間でも魔法の糸ならどこにでもくくりつけられる。空間に固定した糸は更に別の方向へ引き伸ばし、別の糸と交差しながらさらに虚空に伸びていく。
 士郎さんたちが小太刀のほかに使う暗器の一つ。特殊なワイヤーでの変則戦闘を思い切り真似させてもらった。

「後は!!」

 指先から糸の最果てまで意識を飛ばし目の前に幾千の包囲網を瞬時に紡ぎ上げる。これでも人知れず練習はしているんだ。

「来いっ!!」

 後は獲物が罠にかかるのを待つだけ。
 僕に攻撃を当てるには必ず糸に触れなければならない。そしてこの包囲網に人一人通れる隙間はない。

(かかれば捕まえられる!)

 張り詰めた糸は切れた瞬間に弾性のまま千切れ飛び美由希さんに絡みつく。
 神速が途切れればしめたもの。後は拘束するだけで僕の勝ちだ。
 
「――っ! いけっ!」

 指先に僅かな感触が伝わった。糸が切れた音まで感じられるくらい研いだ神経が美由希さんの位置を割り出し残った糸を総動員させる。
 極細のきらめきが眼前を舞い踊り無茶苦茶な軌道を虚空に描く。千切れ飛ぶ糸はあまりに不規則すぎて一瞬で把握なんてできやしない。

「くぅ! きゃっ!?」

 重い音と共に目の前に美由希さんが放り出された。

「いっつ~~……もうそれ反則だよユーノ!」 

 強かに打ちつけたのだろうか、尻餅をついたまま僕を恨めしそうに見上げている。

「僕から見れば神速の方は反則ですよ。それに勝ちは勝ちですよね?」
「……そうだけどね。うう、なんかすごく悔しいな」

 埃をはたきながら美由希さんは立ち上がり刀を納める。戦いの終わりに僕も張り詰めていたものをようやく吐き出すことが出来た。

「おっ、二人とも終わったみたいだな」
「あっ、恭ちゃん!」
「油断したな美由希。もう少し考えて戦っていたら勝ててたぞ」
「うー、恭ちゃんまでそんなこと言うわけ」
「私から見ても今のはダメね。それにユーノ君のワイヤー程度ならその刀で切り落とせたと思うし」
「し、忍さんまで……」

 容赦ないダメ出しに美由希さんはガックリと肩を落とした。
 
「今のはなかなかよかったぞ。けど俺たち相手なら今の戦法は通用しないな」
「はは、やっぱりそうですか?」
「おまえのは無秩序に糸を張りすぎなんだ。自分で扱える範囲で抑えたほうがもっと効果的に戦えるぞ」

 確かに言われてしまえばストリング任せの戦法なのは否めない。やっぱり熟練者にはわかってしまうものなんだな。
 
「さて、一汗かいたことだし俺たちは翠屋の手伝いにでも行くか」
「夏休みは忙しいもんね。と、その前にシャワーかな大分汗かいたし」
「私も。その後は今の戦闘データの解析かな。リニスとも色々話したいし」
「じゃあお先ね、恭ちゃん」
「ああ」
「ついでに覗きに来てもいいわよ」
「誰がするか!」

 みんな次の予定は決まっているようだ。これだけ動いてもまだ余裕があるなんて素直にすごいと思える。
 僕なんて実際ヘトヘトなんだから。

「あっ! ユーノくんいたんだ!」
「あれ? なのはどうしたの?」

 元気な声に振り向けばなのはが駆け寄ってくる。その後ろにはフェイトたちが歩いているのが見えた。

「なのはたちも鍛錬か? 流石我が妹、感心するな」
「にゃはは、それほどでも」
「あれ? でもなのはたちって今日宿題するとか言ってなかった?」
「そ、それはまぁなんといいますか……き、気分転換にちょっとアースラに行こうかなって」

 照れ臭そうななのはの首元には見慣れた宝石がかけられていた。なるほど、勉強は一休みしてデバイスの調整をしに来たのか。 

「それよりユーノくん格好良かったね!」
「そうかな? たまたまだよ。次に戦ったらもう勝てないよ」
「でも今の魔法すごかったよ! あんなのいつ覚えたの?」
「実戦で使ったのは今日が初めて。今までは一応形には出来たんだけど」

 如何せん、覚えると使うは全然ニュアンスが違うから今日が本当の意味でお披露目だ。
 もう少し鍛錬した方が良かったと思うけどまだまだ事件は終わってない。こういう時間がある時に一気に仕上げようとするのは誰でも考えるはずだ。
 
「えへへ、これでなのはの背中もますます安心だね」
「僕だって負けてられないから。なのはもあんまり無茶しないでね」
「わ、わかってるよ」
 
 そっぽを向くなのはに自然と顔の筋肉が緩んでいく。

「もしもの時は遠慮なく呼んで。サポートなら誰にも負けないから」
 
 二人だけで戦ってた前とは違ってなのはには沢山の仲間がいるけどこれだけは譲らない。一時はこのことで自信無くしたこともあったけど、他ならぬなのはのおかげで立ち直れたんだ。
 だから少しばかりの失敗でウジウジしない。する暇あったら鍛えて次に繋げると決めた。
 
「ユーノくん……」

 残る課題といえばプレシアの攻撃を辛うじて受け止めたあの魔法を使いこなすこと。上手くいけばあの力は色々応用が利きそうだから。

「そういえばなのはたちも訓練なら見ていてあげるけど…………なのは?」

 自分のことから意識を戻すとそこにはなのはが上の空みたいな表情でいた。

「ふぇ? あっ! にゃ! なんでもないよ!!」

 僕の声に一拍子遅れて反応する。

「どうしたの? 外そんなに暑かったかな?」
「ちょ、ちょっとわたしも考え事だから! ほ、ほんとになんでもないよ!」
「ほんとに大丈夫?」

 なんだかちょっとだけ顔が赤いような気もするけど……。

「ふむ……夏バテはまだ早い気もするが。ウナギでも食べるか? なのは」
「……え、遠慮しておきます」
「なら夜更かしでもしたか。夏休みっていってもはしゃぎすぎるなよ」
「はーい」
 
 僕が気にしすぎなだけか。あれだけ慌しい毎日を送っていたんだから気が緩んでしまうのもしょうがないし。
 
「あっ、恭也さんも来ていたんですか!」
「ああ。そっちは相変わらず元気そうだなアリサ」
「もっちろんです! 夏の暑さごときでへばっていたら魔法少女がすたりますから!」
「ハハ、頼もしいな。すずかもフェイトも元気そうで何よりだ」 

 腕を組みながら頷く姿は流石年長者たる風格が漂っている。例え魔法に秀でて無くてもこの頼りがいのある姿は僕らの誰にも真似できない。

「俺も空でも飛べれば手合わせの相手くらいにはなるんだけどな」
「地上戦じゃわたしたち勝ち目ないもんね。……フェイトちゃんくらいかな?」
「そうだな。フェイトも剣が出来るんだったか」
「一応使えますけど……鎌とか槍とか、あと斧とかも使えます!」
「なら今度は俺たちと稽古するのもいい刺激になるかもしれないな」
「はい! その時はよろしくお願いします!」

 嬉しそうに頭を下げるフェイトに微笑ましいものを感じることが出来るのも魔法が繋いだ絆が出来ること。
 
「よし、そろそろ俺も行くか。ユーノはどうするんだ?」
「なのはたちの訓練に付き合います。一応、魔法の先生ですから」
「そうか。じゃ、頑張れよ師匠!」

 激励を残して恭也さんも訓練場を後にする。残ったのは僕となのはたちリリカル・ストライカーズの面々だけだ。
 
「おーいちびっ子達ー! あたしらも混ぜておくれよ!」
「今一度あなたちの実力確かめさせてもらいますよ」

 と、アルフやリニスもやって来た。
 
「これじゃあ今日の先生役はリニスかな……」

 僕よりも魔法に関しては知識も技術もリニスはあるんだし大人しく身を引いた方が良さそうだ。

「なに言ってるんですか。ユーノ、今回はあなたに指導役をお願いします。私たちはあくまで手合わせの相手ということで」
「そういうことさ。さっ、久しぶりに暴れるよ!」

 拳を打ち鳴らし腕をぐるぐる回すアルフに、静かに帽子を脱ぐリニスはなんだか今の四人でも勝てなさそうな雰囲気を纏いだしていた。
 確かに手合わせの相手としてはこれほど頼もしいものはないかもしれない。

(またプレッシャーだなぁ)

 この二人を攻略するには相当頭を捻らなければならないだろう。

「大丈夫。ユーノ君がいればストライカーズは負けないよ」
「そうよ! こういう時に頑張らなくてどうすんのよマネージャー!」
「何でも言って。私はユーノを信じるから」

 期待を一身に背負ってある意味、追い詰められているのかもしれないけど。

「頑張らないと、だね! ユーノ先生!」

 生徒を導くのは先生の務めだ!

「よし! それじゃあ――」

 魔法でも、魔法じゃなくてもみんなを支えられる。そんな贅沢な日常を過ごせる僕はとても幸せものだ。
 穏やかに流れる時間だから出来ること。日常と非日常を行き来しながら僕の毎日は楽しく、慌しく過ぎていく。

 今日も僕は四人の生徒のために教鞭を振るうのだ。

* * *

 模擬戦は思いの他盛り上がり、当初の予定は結局明日へ流れてしまいました。
 当然と言えば当然なのかもしれないけど、熱中したら中々抜け出せないのはなんだか新作ゲームをやってるみたいで楽しかったり。
 海沿いの道路を歩く私たちの足取りは心地よい疲労感にちょっと遅めです。

「もう~勝ったのはいいけどなんだか納得行かないわ」
「どちらかと言えば辛勝だもんね」

 正直なところを言うとアルフさんとリニスさんに勝てたのは偶然みたいなものだったり。
 私の防御魔法はアルフさんの攻撃にほとんど意味が無かったし、なのはちゃんの砲撃は高速魔法を駆使するリニスさんには当たらずじまい。
 おまけに二人のコンビネーションは私たちと互角かそれ以上に噛みあっていて、隙を見せたら私たちは簡単に返り討ちにあっていたと思う。

「それにバーサーカーたちまた修理って根性へたれてるんじゃない?」
「再調整するって言ってたししょうがないよ」

 それだけ私たちもシルフたちも頑張った証拠だ。次に彼女を手にする時は一体どんな風に変わっているのか密かな期待を抱く。

「そういえばみんな宿題とかわたしの家に置きっぱなしだったよね」
「あちゃ~……すぐ戻ってくると思って置いてきちゃったんだっけ」
「どうする? みんなで取りに行ったら遅くなっちゃうよ」

 フェイトちゃんが見つめた先には水平線に半分ほど沈んだ夕日が浮かんでいた。なんだかんだでもうそんな時間なのだ。
 日が長い夏だけにもう時間的には結構遅い。というよりは不味いくらい遅くなってしまっている。

「にゃはは……時間は見たくないね」

 携帯を取り出そうとしてまたしまうなのはちゃんに私たちはいっせいに頷く。

「そうだ! マネージャーがいるじゃない!」
「僕に取って来いって言いたいんでしょ。はぁ、しょうがないな」
「ご、ごめんねユーノくん。今日はお願い!」
「大丈夫、転送魔法使えばすぐだしね。それにみんな疲れてるんだから任せてよ」

 一番後ろを歩いていたユーノ君は辺りを見回しながら道路脇の茂みへ消える。茂みがちょっと光って光が収まればもうそこにユーノ君はいなかった。

「それじゃあアタシからのお礼として鮫島呼んで送ってあげるわ」
「ありがとうアリサちゃん」
「なぁに使えるものは使うのは当然でしょ?」

 ウインクしながら携帯を取り出しアリサちゃんは自宅へ電話を始める。 

「じゃあ明日は誰の家で宿題する? すずかちゃんち、わたしんち……」
「アリサちゃんの家とかかな?」

 フェイトちゃんの家の場合すぐアースラへも行けることもあって今日みたいな事になったらお話にならない。
 そう考えるとアリサちゃんの家が一番良さそうな気もするけど……。

「犬と遊んで一日終わりそうな気が……」

 私の家だと猫だけど気まぐれだから一日中遊ぶようなことも無い。
 でも犬だと一度じゃれ付いてくると私たちも一緒のペースに巻き込まれて一日をふいにしそうな感じ。

「難しいね」
「うにゃあ……じゃあまたわたしの家にする?」
「それがいいかも」

 一瞬、翠屋のことも浮かんだけど夏休みじゃ一日中忙しそうで集中できるほど静かにならないだろう。

「アリサはどうなのかな?」
「やっぱり意見聞かないとね」

 最終決定権はやっぱりリーダーに。そろそろ電話も終わったかなってアリサちゃんの様子を窺う。

「なんで出ないのよ。電波ちゃんと来てるのに……あれ?」

 何かトラブルでもあったのだろうか。難しい顔で携帯と睨めっこしては電話をかけ直している。

「繋がらないの?」
「いくらかけても鮫島でないのよ」
「どこか行ってるんじゃないかな」
「鮫島は肌身離さず携帯は持ってるわ。出ないなんてそんなこと……」

 それはどこか嫌な予感を感じさせる。相手が電話に出ないだけなのに今の私にはそれがすごく悪いことのように思えた。

「まっ、まぁこんな日もあるわよ。もう少しすればあっちからかけてくるだろうし、気長に待ちましょ」
「私の方もお姉ちゃんに連絡しようか? ノエルが車出してくれるかもしれないし」
「そうね、早くしないと日も暮れちゃうし」

 水平線に半分くらい沈んだ夕日を見つめながらちょっとはしゃぎすぎた自分に反省したい。

「後どれくらいで沈むかな?」
「あっという間だよね」
「今夜も熱帯夜かしら……はぁ、憂鬱」

 時が止まってしまうような魔法があればこんなことにならないのになぁ、と無いものねだりしてしまう。
 鮫島さんからの連絡も無いし私もそろそろノエルに迎えに来てもらおう。

「……あれ?」
「どうしたの、フェイトちゃん」
 
 何かを見つけたのか海の方向を見ながらフェイトちゃんが首をかしげた。

「海ってこんなに静かだったかな」
「静か……?」

 視線の先にはオレンジ色に染まる水面が一面に広がっている。確かに静かで穏やかな海だけどそのどこがおかしいのか私にはわからなかった。
 ただフェイトちゃんの言葉の意味はそれとは違う何かを指しているみたいで。

「――……え?」

 じっと見つめて、私もその異変にようやく気づけた。
 それは本来海にあってはいけないもの。有り得ない現象が広がっていたのだ。
 静かすぎる海。さざ波一つ立てない海。湖のよりも穏やかにただ整然と水をたたえる海。
 目の前の海は完全にあるべき動きを止めてしまっていた。

「これって……」

 そうだ、引っかかることがまだあった。
 半分だけ沈んだ太陽。それだっておかしいの象徴だ。

「そうだよ……もう日が暮れたって」

 最初に見た時と、さっき見た時。それに今と記憶の中の夕焼けはまったく変わらずそこにあった。

「何で沈まないの……」 
「そ、そんなわけ無いでしょ。どうせ見間違いよ、夏は日が長くなるんだから」
「そう……だよね」

 まるで時が止まってしまったように私たちの世界がピタリと止まっていた。
 風だって今は何も感じない。私たちだけ世界に取り残されてしまったかのように異質さだけが全てを包み込んでいる。

「ジュエルシード……?」

 こんなこと起こせるのはジュエルシードだけ。そう結論付けたっておかしくないのに私にはそれが間違いに思えた。
 理由はわからない。
 唯一つわかることがあるとすればそれは――

 何かの歯車が音を立てゆっくり動き出したことだ。

スポンサーサイト
【編集】 |  01:15 |  なのはStep  | TB(0)  | CM(0) | Top↑

コメントを投稿する

URL
コメント
パスワード  編集・削除するのに必要
非公開  管理者だけにコメントを表示
 

この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック


 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。