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2009.02/02(Mon)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十二話 Apart  


【More・・・】


 手元のスクリーンの上を流れていくありとあらゆるデータに一通り目を通し、粗方ではあるが頭に叩き込むと私は顔を上げモニターに映る友人に礼を述べた。

「感謝するわレティ。これを起死回生の一手に必ずしてみせる」
「喜んでもらえて何よりね。これで貸しが一つかしら?」
「この一件が終わったら地球のお酒でも持っていくわ」
「検疫ぐらいは通しておきなさいよ。提督ともあろう人間が管理が異世界から密輸なんてしてたら管理局にはスキャンダラスすぎるわ」

 口ではそう言っても頬が緩んでいては説得力は無い。どうせならこの世界の酒造類をありったけ送りつけてみるのもいいかもしれない。
 
「後はアースラの修復に人をよこせばいいのかしら?」
「そうね。いつまでもこの世界の厄介になるわけにもいかないし」
「貸しが二つ……。ああ、灰色な職権濫用を揉み消すのに貸し三つね」
「少しぐらい大目に見て欲しいわ」
「確かに本局もミッドも無ければ管理局は無いも同然だけど……」

 一転して表情を曇らせる彼女と私も気持ちは同じだ。最悪の結果として思い描いていたものがいざ現実として目の前にやってきてしまうとやはり衝撃は抑えられない。
 名実共にミッドチルダの生き残りになってしまった私たち。もっとも今は目の前に映る彼女達もその一員だ。

「虚数空間に飲み込まれた。普通の理屈じゃそう考えて問題無いけど、私たちから見ればアルハザードに囚われたと考えるのが正解ね」
「それもそうだけど、あなたたちが戦っている相手があのプレシアだってことも信じられないわね」
「事実は小説よりも奇なり……。信じたくは無いけど信じるしかないのよ。私たちはおとぎ話と戦っているんだから」
「私がアースラの救難信号受け取らなかったらどうするつもりだったのよ」
「これから考えるつもりだったわ」

 私が子供たちの帰りを待ち始めて数時間――ちょうど夜明けになるころアースラに突然通信が入った。
 発信元はあろうことか管理局所属の次元艦だった。しかもその指揮を執っていたのは普段なら管理局にいるはずの私の元来の友人であって。

「私だって伊達に提督はやってないわよ。それに今回は次元艦の運用にも一枚噛みそうだったから直接出向いたわけよ」

 レティ・ロウラン――私と同じ提督で管理局では人事や艦船の運用を一手に取り仕切る言わば影の重鎮である。そして無類の酒好きの酒豪。私の知る中で一番のうわばみだ。

「知ってるでしょアルカンシェル。あれの改良型の性能試験に立ち会ってたわけよ」

 彼女はやれやれと肩をすくめ自分の苦労を表してみせた。

「どんな威力かわからないもんだからとんだ辺境まで出向くことになったわけ」
「そうなの。それで管理局への到着も遅れた、と」
「ご名答。で、帰ってきたらこの有様。軽く言ってるけど流石に堪えたわよ。本局どころかミッドまで次元軸から消失してるなんてね」

 レティからの観測情報によればミッドチルダ及び本局周辺の次元空間は抉り取られたかのようにすっぽり抜け落ちている状態だそうだ。
 我々が持ちうる魔法、科学、その他もろもろの常識はもはや範疇の外に追いやられた、それこそ理解を超越した世界が広がっていたというわけ。

「抜けた穴を埋めるように虚数空間が張り出してこれじゃ近づくこともままならないわね」
「観測するにも命がけだったわ。……貸しがいくつ増えるのかしら」
「ほんと感謝してるからレティ!」
「……わかってるわよ。お互い失ったものが多すぎるもの」

 そこまで言って憂いを含んだため息をつく。

「アースラのスタッフはどうしてる? 艦がその様子だと大方予想はつくけど」
「新天地……になるかはまだわからないけど、それなりにみんな順応してるわ」
「……そう。クロノ君はどうしてる?」
「無事よ。ちょっと馬鹿をしに出てったけどね。あなたは?」

 失言に気づいたのは僅かに陰りを見せた彼女の顔を見てからだった。

「グリフィスは無事よ。社会勉強として同行させてたから助かった。……でも私だけ喜んでいるわけには行かないでしょ」
「そうね……そうよね」

 提督として考えることは同じみたいだ。やはり向こうのスタッフも失ったものが大きすぎる。

「で、彼女はどうしてるの?」
「彼女?」
「プレシア・テスタロッサが元凶なら何か知ってるんじゃないの?」

 PT事件だけで彼女を縛る鎖は消えないというわけか。至極当然ながら彼女のことを話題にしようとしても今の今である。そう簡単に口は動いてくれなかった。

「……どうしたのリンディ?」
「そのことについては少し待ってもらえない……かしら? ちょっと今立て込んでてね」

 感情を抑えることができなかった。言葉に詰まって震える唇を反射的に噛んでいた。

「……あの子達は今戦ってるのよ。自分の未来を……切り拓くために」

 目を伏せたのはこれ以上彼女に自分の弱さを見せたくなかったからなのだろう。提督としてのプライドがせめて上辺だけは気丈にふるっまっていたいという大人の強がり。
 気持ちを汲んでくれたのかレティはそれ以上なにも言わなかった。

「……そういえばあなたあの子の母親になりたいって言ってたわね」
「冗談だと思う?」
「天涯孤独にさせてしまった責任と義務感からなら私から見れば冗談よ」

 ご忠告ありがとうございます。
 一年前の私にちょうど言ってやりたい言葉である。見透かされているだけ耳が痛いわ。

「まぁその顔なら本当に母親になろうって覚悟は伝わるけど……。いい? 普通の孤児の母親になるとは話が違うのよ」
「わかってるわよ」

 PT事件だけならとっくに無罪放免である彼女も、今度の事件では再び罪に問われるかもしれない。
 ミッドチルダが消し去られる規模まで事件は拡大しているのだ。娘という最も近い立場であり、先の事件の重要参考人。
 彼女に向けられる眼差しは決して良いものではないはずだ。もしもプレシアが公の場に引き出されることが無ければ、大人達はおのずと彼女に怒りの矛先を向けるだろう。

「あの手この手使って意地でも守るつもり。どんなことしたってあの子をもうこれ以上大人の都合で振り回すのはゴメンよ」
「人事に影響ない程度にね」
「わかってるわ」
「それじゃ私はもう少しミッド周辺の次元を調べてくる。こんな簡単に世界を消されてたまるもんですか」
「お願いするわ。こっちもやること片付けたらすぐに艦を飛ばすから」

 視線交わし通信が終わる。そうすればまた薄暗い艦内に静々と戻っていく。

「そろそろ夜明けかしらね」

 手元のコンソールで外の様子を窺おうとして、止めた。

「寝てる子もいるんだし、止めておきましょう」

 エイミィだってあの子達のために頑張っていたのだ。その頑張り方は褒められるようなものじゃないとしても、朝日で叩き起こしてお説教するのは可哀想だ。

「コーヒーでも淹れてこようかしら……」

 眠気との戦いはいくら強靭な精神力を持っていても必ず緊張が切れる間隙がある。今の私はちょうどその状態らしい。
 鉛のように重くなった体を椅子から持ち上げる。すっかり鈍ってしまった体に伸びで渇を入れた。

 ――ドサッ! ドサドサ!!

 もうひと頑張りするための僅かな充電期間。一瞬だけ気を緩めたそんな時に背後から騒々しい音がやって来た。
 何事かと思い振り返ればそこには私がよく知り、そして待ち続けていた全ての顔が山積みになっていた。 

「お、重いぃ……」
「やっぱり人数オーバーですか……どいてくださいアルフ」
「だったらクロノ早くどいておくれよ」
「ぼ、僕に言うなよ……」
「それより誰よ。アタシのお尻触ってるのは! ユーノだったらキックよ!」
「僕じゃないよ! 僕だって変なとこ触られて――」
「その前に重いよユーノく~ん」

 転送ポートの上に折り重なって倒れていたのは好き勝手やって敵地へ飛び込んでいった大馬鹿者多数であった。
 
「…………」

 その時の私の表情といったらおそらく言葉で表現するには相当に難儀なものになっていたと思う。
 張り詰めていた糸が残らず千切れて安堵感で心が一杯になって、けれどそれ以上に勝手気ままな彼女達に怒りがこみ上げてきたり。挙句それら色んな感情を素直に出すわけにもいかないという提督としてのちっぽけなプライドが顔を強張らせたりで。

「……はぁ」

 辛うじて出せたのはこのため息だけだった。

「労いの言葉はかけないわ。まず今回の件について説明を求めます。各自休息を取った後にブリッジに集合してください」

 次いで出た言葉はこの上なく感情を消し去った口調で。

「あ、あの! リンディ提督!」
「あなたは特に急速が必要じゃないかしら? 話はその後に全部聞かせてもらいます」
 
 本当に返す言葉はもっと別のものだろう。私の心にもう少し余裕があればそんな些細な配慮にも気づけたはずだった。
 彼女との再会がここまで自分を揺さぶるなんて予想が出来なかったからしょうがない。

「1400時までにブリッジに集合すること。この場の全員に強制させてもらいます」

 一日ぐらい休ませるべきなのは身なりを見れば明白だ。それ以上に私が真実を知りたくて身勝手な要求を押し付けてしまう。
 感情の渦が暴れだす前にそそくさとブリッジから退出する。

「……」

 薄暗い通路をひたすらに歩いて突き当たりを曲がる。

「――……くっ」

 限界だった。

「……かった……よかった」

 渇き気味だった瞳に嫌なくらいの潤いが押し寄せる。
 壁に寄りかかり崩れ落ちそうな体を支えながら私はただ嗚咽した。流れ落ちる涙を拭うこともせずただその場で私は彼女の無事を神に感謝した。
 きっと舞い降りた福音は奇跡の他にない。つい数時間前まで死に体だったあの子が何事も無かったように帰って来てくれたのがただ嬉しかった。もうそれ以上に物を考えることなんてしたくなかった。

 私は慟哭した。
 もう周りのことなんて眼中に無かった。今はただこの感情を吐き出したかった。
 そうしたら今度こそ子供たちを叱ってやるのだ。叱って、その後に私は笑顔であの子達を迎えてやら無ければいけない。
 それが大人として、親としてのやるべきこと。帰る場所をあの子達に示すために一番大切で必要な想いを紡ぐのだ。
 
 ――お帰りなさい、と。

* * *

 僅かばかりの休息を私は死んだように眠ることで残さず使い切った。
 帰ってきたのはもう夜明けが目の前の時間帯。普段なら絶対夢の中だ。

「――以上で説明を終わります。全て私の独断による行動であり彼女達に非はありません」

 クロノがアルハザードで起きた全てを提督へと伝え終わるのを見ながら欠伸を噛み殺す。
 私はまだ魔力を消耗した程度で済んでるけどなのはたちはまだ疲れが抜けきっていないと思う。現にみんなの表情はすぐれない。時折俯いたりして眠気を追い払うのがやっとみたい。

「そう……わかったわ。では引き続きなのはさんたちにも説明をお願いします。あなたたちが行ったことは民間協力者としての範疇を超えているのだから」

 言われてなのはがハッと顔を上げた。
 私が起こしに行かなければみんな約束の時間には間に合わなかったと思う。満身創痍の体を休めるには一日じゃ足りない。

「それは僕が代表して説明します」
「わかりました。それでは今回の件にあなた方が行ったことに対する説明を求めます」

 クロノに代わってユーノが話し始める。両腕に巻かれた包帯が痛々しい。みんなに治癒魔法をかけて自分を後回しにした結果だ。

「つまりあなたたちはアリシア・テスタロッサを助けるためにアースラへの不法侵入、ジュエルシードの無断使用をしたというわけね」
「はい。僕らにとってはこれしか方法が無いと考えた上の行動です」
「……いいわ、ありがとう」

 簡潔に要点だけをまとめてユーノが終える。対して提督は表情を和らげることなくユーノに頷きを返しただけだった。

「では最後に――」
「わかってます。私が全ての元凶です」

 凛と響かせ提督を真っ直ぐ見つめ返した。

「罰は受けます。でも私一人にしてください。みんな私のために頑張ってくれただけなんです!」

 私だってアースラの嘱託魔導師になるために勉強はしている。管理局の法の下で私たちのやった行いが許されるなんて考えは持ち合わせていない。

「お願いですリンディ提督!」

 私に出来ることは頭を下げて懇願することだけだ。

「命令違反に始まり……アースラへ侵入、ロストロギアの無断使用、紛失……どれもこれもこの場で片付けられる罪じゃないのはわかるかしら?」
「……はい」
「本来ならあなたたちは管理局を敵に回してもおかしくないほどの罪を犯している。どれだけ無責任な行いかだってこともわかるわね?」

 諭されているわけではない。外堀からじわじわと責められていく。

「一人で背負うなんて甘えた考えね。あなた一人で事件を解決できるなら誰も苦労はしないわ」

 返す言葉なんて無い。一歩間違えれば取り返しのつかないことを私はしてしまったことを思い知らされる。
 ここにみんなで帰ってこれたことだって考えてみれば奇跡なんか比べ物にならないくらい尊いものかもしれない。終わりよければ全て良しなんて楽観的に捉えちゃいけないんだ。

「それでも自分の言葉に自身を持てるかしら?」

 一思いに叱られた方が楽になれたと思った。こんな風にリンディさんから責められるなんて想像していなかったから。

「私……」
「そう、あなたはそんなに強くないのよ。そしてそれは誰にでも当てはまる」

 リンディさんが立ち上がり近づいてくる。憮然とした表情は私の見たことが無いリンディさんの顔だ。その顔を見上げて私はいっそう言葉に詰まる。

「リンディていと――っ!?」

 視界からリンディさんが消えた。頬に衝撃、耳には乾いた音。
 わけもわからず私はジンジンと熱くなる頬に手を触れた。

「……これは私だけじゃない。あなたを大切に思ってくれているみんなの痛みよ」
「みんなの……痛み」
「なんで私がこんなことをしたのかわかる? 手をあげてでも伝えたかったことがあるからよ!」

 温もりに包まれる。気がつくと私はリンディさんに抱きしめられていた。

「もうあなたはとっくにアースラの一員なの! 家族なのよ! 家族の心配をしない人がどこにいると思うの!」

 リンディさんの肩が震えていた。今まで単調だった声もなんだか掠れ気味に聞こえた。

「あ……」

 不意に、ずっと前にクロノに聞いたことを思い出した。
 アースラの一員なのかって他愛ないかもしれないけど私には大事な問い。それにクロノは遠回しだけど「はい」と答えてくれた。
 私はアースラの沢山の人たちに受け入れられてるんだって嬉しく思えた。それが大切に思ってくれていることだって今知った。

(そうだよね……私……そうなんだ)

 こんな風に気持ちをぶつけて、大切だって気持ちを教えてくれる人を私は知らなかった。
 母さんにはこんなことしてもらったことは無かった。叱ってくれる時だって優しく包み込むように諭してくれる姿しか私は知らなかったから。 
 もう私を大切にしてくれる人は一人じゃない。一人じゃないからここまで私のことを心配してくれる。思ってくれるんだ。

「ごめんなさい……リンディさん。心配かけて本当にごめんなさい」

 胸の奥が温かくなっていく。それ以上に目の奥が熱くなる。

「……いいのよ。こうして帰ってきてくれたから……それだけで十分よ」

 叱ってくれる人がいる。
 抱きしめてくれる人がいる。
 私のことを大切に思ってくれる人がいる。
 自分がすごい幸せ者だってことが嬉しくて、誇らしくて。叫びたいくらいに心地よい感情が私を満たしていく。

「リンディさん……伝えたいことがあります」

 もっともっと幸せになりたいと思った。

「こんなことほんとなら今言えることじゃないかもしれません」

 身勝手かもしれない。
 けど昔を捨てて新しい今と未来を目指すことがアルハザードに消えてしまったあの人への誓い。
 だからこそ私は前に進んでいく。

「今の私には……フェイトには名前がありません」

 もう私はフェイト・テスタロッサでもアリシア・テスタロッサでもない。

「だから私にもう一つの名前をくれませんか?」

 ただのフェイトがこれから歩いていく世界で自分を示す大事な名前が欲しい。

「そしてあなたのことを呼んでもいいですか?」

 あなたがまだあの日の約束を覚えていてくれるなら私は今その答えを出します。
 フェイトの新しい家族にはきっとあなた以外にいないから。あなた以外が家族になるなんて嫌だって思えるくらいにあなたのことが大好きだから。

「母さん……って」

 フェイトの母さんは世界でただ一人――。
 
 あなただけなんだから。

「……ええ、こちらこそよろしくねフェイト」

 鳥は命尽きるまで天空で羽ばたいているわけではない。時にその羽を休める場所が必ずある。
 人だって一人じゃ生きていけない。一人に見えてもその人には沢山の大切な人がいて、帰る場所が必ずある。

 ようやく見つけた帰るべき場所。大切な日常が待っていてくれる場所を私は見つけることが出来た。
 そこにいる私。新しい私の新しい名前は――

 フェイト・ハラオウン

 さあ、歩いていこう。

 この素敵な世界をどこまでも、ずっとずっと大切な人たちと共に。

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