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2009.01/02(Fri)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十一話 Cpart  


【More・・・】


 アルトハイムは私にとってはもう懐かしい故郷なんかじゃ無かった。
 アルハザードに作られた仮初の世界で、母さんの記憶から作られた自分勝手な世界。

(ありがとう……L・ジュエル)

 カーゴルームから一つだけ借りてきたこれのおかげで体は元気な時と同じ以上に快調だ。
 魔力を無理矢理流し込んで体を奮い立たせるのは今の私にとっては自殺行為もいいとこだけど……。

(身体強化とかのレベルじゃないもんね)

 動くものをさらに動かしてるわけじゃない。動かないものを動かすことはそれ以上にそれ自身へ負担をかける。
 今この瞬間も磨耗し続ける体はいつ歯車が外れてもおかしくない状態だ。爆弾を抱えるなんて表現ですら役不足にならないほど。

「声……出せるよね?」

 耳だってちゃんと音を拾えているのか怪しいけど、今のところは私の声だと思える。

「みんな……アリシア……待ってて」

 自然とデバイスを握る手にも力が入る。
 世界を飛び時の庭園へ。散乱した傀儡の残骸にみんなの想いの強さを感じながら私は床に開いた大穴へと飛びこんだ。

 穴は下まで続いている。アリサが犯人なのはすぐにわかった。これなら消耗戦をすることなく母さんの居所まで飛んでいける。
 大胆に、でも綿密に計算されたアリサなりの冴えたやり方だ。

「ごめんバルデイッシュ。おまえも結構辛いよね」
『Dont' worry』
「うん、ありがとう」

 L・ジュエルなんて代物を収められるキャパはこの子にはない。言い換えるならこんな魔力の塊を収められる装置なんてこの世界にはどこにもない。
 コアに亀裂を入れながらもこの子は健気に応えてくれる。それを無駄にしないためにも。

「種の中のアルハザード……もう少しだけ願いを叶えてね」

 私なりの「記憶」でもこの子は応えてくれた。ううん、きっとアルハザードはこの「記憶」を手に入れるための世界なんだって今は思える。

 薄暗い世界を超え、最後の大穴を潜り抜ければ――。

「スターライトブレイカー・ブラスト! シューーーートっ!!」
「風よ! 災厄を包み込め! エアリアルプリズナー!!」
「ぶっ飛べ!! スプラッシュバースト・オーバー!!」

 光の乱舞が世界を揺らしていた。
 なのはが、アリサが、すずかそれぞれを得意で襲い掛かる闇を弾き、掻き消し、貫いていく。

「下がれ! 二人とも!!」
「あいよ!」
「言われずとも!」

 アルフとリニスが強襲し、間髪いれずにクロノが剣の雨を降り注ぐ。

「小賢しいわ!!」

 それを全てたった一人で無きものにしていくのが私の母さんだった。
 その手から放たれるのはただの魔力の放出に過ぎない。

「危ない!! ぐっ!? うああああ!!」

 形にすらなっていない魔法なのにユーノの障壁でさえ一瞬で破壊されてしまう。

「消えてしまいなさい!! 今も未来も! 何もかも!! ここに許されるのは過去だけなのよ!!」

 両手を天へ。魔力がおぞましい勢いで収束し放たれる。ただの魔力の衝撃波で済ませられるなら戦いはとっくに終わっていた。

「くぅ! シルフ最大出力!」
「防いで! レイジングハート!」

 無理だ。二人の魔力はもうゼロに手が届いている。第一こんな破壊の渦を壁なんかで止められない。

「みんな下がって! 僕がやる!!」
「ユーノくん!?」

 右手から血を流しながらもユーノが全員の前に立つ。すでに両手には魔法陣が巻きついて何か魔法を使うことだけは予想が出来た。

「なにも止めることが防ぐことじゃないんだ!!」

 その手を交差し左右へ振りぬく。

「捻じ曲げろっ!!」

 刹那、真っ二つに裂かれる魔力の波。裂かれた力はそのベクトルの行く先全てを抉り吹き飛ばしていった。
 一握りの静寂が広がり、母さんがそれを破る。

「空間に干渉……あの提督の真似事かしら? でも自身に扱える形にしなければ自滅するだけよ」
「それでも、守れたなら悔いはない」
「二度目もかしら?」
「……くっ」

 膝をついたのはユーノだ。空間を湾曲させるほどの魔法を使いこなすなんてこと、練習もせずにユーノが使えるわけが無いのは当たり前だ。
 母さんの言うとおり二度目は無い。そしてこれが一つの戦いの決着だった。

 私が降り立つのは今だ。
 これ以上みんなを傷つかせないために私が次の幕を開ける。

「フェイトちゃん!? なんで!!」

 なのはだけじゃない。後ろにいるみんなが私の登場に驚いただろう。 

「大丈夫……なんて言えないけど。みんな良かった」

 こんなになっても諦めない強さを持っていられるくらい想われてるアリシアがちょっとうらやましい。
 でも感慨に浸るのはずっと後にとっておく。
 今は私のやるべきことをするだけだから。

「……また、あなたなの」
「はい、言ったとおりここまでやってきました」
「哀れね。もうその体は使い物にならないわよ」
「そうですね」

 見透かされているのは承知の上だ。
 人造生命体である私の体はアリシアとの出会いから今日まで良く頑張ってくれたと思う。
 見掛けも中身も普通の人間と変わりない体でも、人の手が入ったものはどこかは大切な何かが欠けている。

「……その体」
「ええ、捨てさせてもらったわ。あんなプレシア・テスタロッサなど!」

 アリシアから大体のことは伝わっていた。だから驚かないけど、変わってしまった母さんに少しだけ悲しくなった。

「アリシア……迎えに来たよ」

 今度はアリシアに視線を送る。私と違って心を作ってもらったアリシアのほうが本当は辛いはずだ。私との出会いで、作られた過去の「記憶」を壊されて本当ならもう一度命を失っていてもおかしくないんだ。
 
(フェイト遅い……遅いよ)
(ごめん、少しだけ遅れちゃった) 

 アリシアはまだこの世界に生きている。それは他でもないアリシアに本当の「記憶」が宿ったから。

「フェイトちゃん大丈夫なの?」
「なのは……」

 黙って首を振った。

「なに馬鹿なことしてんのよ! こんなことしたって誰も喜ばないわよ!!」
「そうだよねアリサ。私、馬鹿だから」

 叱ってくれるアリサが何故だか今は嬉しい。

「フェイトちゃん、ジュエルシードを……」
「すずかには叶わないな。これがないと満足に体動かせないから」

 私の体の状態を一番良く知ることのできるすずかには悪いことをしたな。

「アルフもリニスも……こんな傷だらけになってよく頑張ったね。……ありがとうね」 
「……嫌だよフェイト。何行ってんのさ……これじゃまるでフェイトが……」
「何をする気ですかフェイト。こんな無茶をしてここに来たのですから……それぐらいはあるのでしょう!?」

 私の覚悟がどういうものなのかまではアルフだってわからないはずだ。けど感情までは隠せない。現にアルフの目は潤んで今にも涙がこぼれそうだ。
 リニスだって気丈に振舞っているけど、内心は不安で心がいっぱいだ。アリシアと繋がっている今の私にはお見通し。

「ごめんねクロノ。でもクロノだって無茶してるからおあいこだね」
「そんなこと言うために君はここに来たのか!? 自分で寿命を縮める奴がいるか!」

 そうだよね。もし私のやろうとしてることが徒労に終われば朝日だって見ることができないと思う。

「理解できないわ。なぜそこまでする必要があるの? 価値があるの?」
「あなたには理解できないと思います。思い出にすがるだけの可愛そうな願いには」

 もう目の前の人は母さんであって母さんじゃない。プレシア・テスタロッサが求め続けた願いの欠片なんだ。
 
「ならあなたは何に希望を見出したの!? この世界は記憶で作られるもの! 願いなんてもので望みが叶うほど甘い世界ではないわ!!」

 吐き捨てるような言い方は自分の存在が揺らぎ無いものだと自分へ言い聞かせてるように聞こえた。
 私はそれを否定した。アルハザードはきっと最初から「過去」なんて欲しくなかったから。

「私の希望も記憶です。だけどあなたとは違うもの」

 息を整えて、そっと目を閉じて声を紡ぐ。

「私の記憶は――」
 
 自分を信じて凛と響かせれば、


「――未来の記憶です」


 それが私のたどり着いたアルハザードの理だ。

「……アハハ、笑わせないでくれるかしら。そんな矛盾に気づけないくらい壊れてしまったの?」

 未だに来ない、これから訪れる時間が「未来」だということは私だって知っている。
 過ぎ去って、手の届かない場所に行ってしまったから「過去」だってことも知っている。
 「記憶」は過去の出来事を覚えて思い出にすることだってわかってる。

「人は過去を思い出すことができる。なら未来を思い浮かべることだってできると私は思う」

 自分がこうなればいい、とかちょっとした願望を想像することは誰にでもあることだ。
 それはこれからやってくるであろう未来の姿。もしかしたらが実現すれば自分を迎えに来てくれる願いたち。
 
「それがなんだというの? 事実にもなっていないものが記憶になりうるとでも? そんな曖昧なものだからアルハザードは願いを叶えてくれないのよ!」

 未来に自分の記憶を前借しておく。その記憶を手繰り寄せてくれる手伝いをアルハザードはしてくれる。
 私とアリシアだけが知っているジュエルシードの本当の使い方がある。久遠を助けたときのように純粋な願いをこめること。
 未来の記憶を迎えに行くこと。
 
 それを邪魔してしまうのは、

「曖昧にしてるのは自分自身」

 一人じゃ弱い私たちだから、だ。

「誰だって理想どおりに上手くいかないって思ってる。望んだ未来が絶対に来るって思ってない」

 世界は優しくない。一秒先にどんなことが待ち受けているのかなんて神様にだってわからないと思う。それぐらい私たちの世界って複雑で曖昧なんだ。

 どんなに思っても、「もしも」の中から飛び出してくる不安がその願いを曖昧にしていく。
 絶対に無い! そんな風に思わせてしまう。せっかく思い浮かべた「未来」の姿もどんどん輪郭がぼやけてかすんでしまう。

「ならあなたは何を願うの? 確かな過去を越える未来があるというの!?」

 あるからこそここに来た。そんなこと言うまでもない。

「みんな……聞いて欲しいことがあるんだ」

 振り向きはしなかった。
 私はそんなに強くなれない。みんなの顔を見たらせっかくの決意が揺らいでしまうから。揺らいでしまったらアルハザードは私の願いを叶えてくれなくなる。
 
「私……アリシアと未来を迎えに行く」

 過去と向き合って、今を乗り越えて、その先にいる私に会いに行く。 

「多分みんなとはお別れになると思う」

 旅の切符は片道だけだ。迎えに行くことは未来の私になること。
 そしたら今の私はいなくなる。

「フェイト……まさか君は」

 ユーノの声だ。やっぱりあの時のなのはを助けたからこそ私の旅の乗り物が何かわかるみたい。

「そうだよ。この子に手伝ってもらうんだ」

 そっと開いた左手に、ちょこんと淡い輝きが座っている。

「アリシアがやろうとしたこと……それをやるんだ」

 身も心も融けあって新しい私になる。
 未来にいる私はそんな二人が一緒になった私。

「私は私じゃなくなる。アリシアもアリシアじゃなくなる」

 それが誰になるのかなんてわからない。
 きっとそこにいる子は「フェイト」でも「アリシア」でもない。どちらでもないけど「私」であることに変わりは無い。

「お願いがあるんだ」

 自分を失ってしまうことが怖い。怖いけど不安を心に抱いたらもう前へは進めない。

「新しくやって来る私も――」

 背中を押してくれるように願いをこめて、

「フェイトやアリシアみたいに――」

 声が震えてる。最後の最後で言葉が上手く出ない。
 何度も何度も心の中で練習したんだけどな。
 私やっぱり……弱いな。前に進めない。今を手放したくないよ。
 
 みんなと離れたく――

「名前を呼ぶよ」

 ――えっ?

「そしたら友達になろう。それで今まで出来なかったこと、やりたいこと全部やっちゃおうよ!」

 顔なんて見えないのにその子が満面の笑顔だってわかる。

「水臭いこと言わないの。こんなこと言わなくてわかるでしょ?」

 ちょっと呆れ気味に口をへの字にして、すぐに悪戯っぽくあの子が笑ってる。

「私たちはいつでも一緒だよ。どんなに離れたってその想いは変わらない。だよね?」

 包みこむように微笑んでくれるあの子の優しさに嬉しくなる。

「わたしたち――」

 心の底からいろんな想いが溢れ出すのが抑えられない。


「友達なんだから!」


 ピッタリ重なった三つの旋律はこの世界で最もきれいでやさしい響きだった。

「うん……うん、うん!」

 俯いた顔から止めどなく熱いものが頬を伝って落ちていく。
 迷いも一緒に流れ出ていく。

「行こう! アリシア!」

 もう大丈夫!
 
 私は大地を蹴った。

「そんなこと……そんなことさせない! アルハザードの主は私なのよ!!」

 絶叫しながらプレシア・テスタロッサが魔力を掻き集める。

「邪魔をするな! スティンガーブレイド!!」

 それも頭上から飛び掛る影に邪魔されままならない。集めていた魔力ごと体を切り裂かれ苦悶する。

「行ってこいフェイト!! こんなはずじゃない世界をこんなはずに変えてやれ!!」
「そうさ! フェイトの邪魔はさせない!!」
「こういう時は見守るのが親の務めでしょう!」

 ありったけの射撃でアルフとリニスも私の行く道を開いてくれた。
 みんなが私の背中を押してくれる!

「お願いジュエルシード! 私とアリシアの願いを叶えて!!」

 描いた記憶は鮮明に像を結ぶ。その周りにあるみんなとの時間だってどんどん形になって色がついて動き出す。
 二人で願いを叶え、小さな友達を救ったあの時と同じように今度だって必ずできる。
 
「バルディッシュ、いいね?」
『Yes,sir!』
「――いい子だっ!」

 輝きを増す宝石をコアへ溶け込ませればもう後戻りは出来ない。後悔なんて忘れてきたから関係ない。

「いっけーーーっ!」
 
 加速全開! 疾風のごとく!!
 真っ直ぐ、ただ真っ直ぐにアリシアの元へ飛んだ!!
 
「アリシアーーーーッ!!」
 
 彼女が眠るポッドへバルディッシュを叩き付ける。
 割れるガラスと噴出す培養液の雨に包まれながら私は見上げる。

(やっと会えたねフェイト)
(そうだねアリシア)

 手を伸ばして、差し出された手を繋いで――

(行こう! 私たちの未来へ!!)


 ――願いがカタチになる。


* * *

 踊り狂う風が全てを吹き飛ばしていく。
 目を閉じてるのかわからなるなるくらいのまばゆい輝きが全ての物と人を照らしていく。
 
 一瞬の出来事だった。でもすごい長い時間だと思えたのはそれだけ願いが叶えられる瞬間が印象的だったから。
 わたしは始めてジュエルシードが願いを叶えてくれる瞬間に立ち会っているのだ。

「……フェイトちゃん?」

 心からの、純粋で真っ直ぐな願いが融けて一つになる。一つになって風と光が収まっていく。
 それは願いが叶えられた証拠だ。
 わたしは目を見張る。さっきまでカプセルがあった場所になにがあるのか。
 誰がいるのか。

「……アリシアちゃん?」 

 そこにはあの子がいた。
 黒いジャケットに身を包み、黒き杖を携えて、静まりかけた風に金髪を遊ばせる女の子がいた。
 フェイトちゃんでもアリシアちゃんでもない誰か。
 どちらでもないけどどちらでもある誰かだ。
 
 わたしに出来ることは唯一つ。それは約束であり新たな始まりを告げるための言葉。
 でもその言葉の名前がわからない。
 あの子は一体誰なんだろう? どちらで呼べばいいんだろう?
 新しい名前があるのかもしれない。それもわからない。

(あなたは……ううん、そうだよね)

 心の中で問いかけ首を横に振った。
 そんなの決まってる。感じるままに、心の中にあるその名前で呼べばいい。
 同じ響きでもそれはあの子にとっては全然違う新しい響きになるから。その名前で呼んで欲しいってその子はきっと思ってるから。

「わたし! あなたと友達になりたいんだ!」

 さあ、友達になろう!

「フェイトちゃん!!」

 始めまして! 

 そして――

「――うん!」

 おかえりなさい。

* * *

 光の世界に私たちはいた。
 星を散りばめたような無数の小さな輝きが世界を満たし、その中を色とりどりの煌きがじゃれあうように絡み合い舞い踊っている。
 あまりに現実離れした幻想的な光景は言葉を失くして魅入ってしまう。

「ここってアルハザードなのかな?」
 
 私の声にハッと前を見ればいつからいたのかもう一人の私がいた。

「どうなんだろう……。願いは叶ったのかな?」

 もしかしたらここは天国かもしれない。未来なんて最初から連れてこれるわけなくて結局私たちは悪あがきをしただけで終わってしまった。そんな可能性だってあるんだから。

「フェイト~……後ろ向きは良くないよ」
「ご、ごめん。でも何でもかんでも前向きに考えるのは危ないよ」
「ウジウジするよりマシだもん!」
 
 頬を膨らませて拗ねてみせるのはただの振りだ。心が繋がってるんだからわからない振りする方が難しい。
 ちょっとした冗談は遊びまわる光と同じように気持ちをじゃれつかせてるだけ。

「ふふ……わかってるよねフェイト」
「うん、当たり前」
「これが私たちの本当の記憶なんだよね」
「そうだね。きっとそうだ」

 夢ぐらいでしかぼんやりと思い出せなかった思い出が今は鮮やかに思い出せる。
 母さんがまだ技術者として働いていた時間から私が最初に命を失くしたその瞬間まで。過ごしてきた毎日が昨日のことのように感じられる。

「これがほんとの私なんだね」
「アリシア・テスタロッサ?」

 順当に考えればこれは私じゃない。きっと母さんが望んだ本物のアリシアだ。
 けど私の答えにアリシアは「ううん」って小さく首を振った。

「フェイトの、だよ」
「私の……・?」

 それじゃアリシアの時間は無駄になってしまうんじゃないだろうか。あの時終わってしまった自分をやり直すんだからここにいるのはアリシア・テスタロッサじゃないといけないはずだ。

「勘違いしないこと。フェイト・テスタロッサじゃなくてただのフェイトだよ」
「ただのフェイト?」
「そう! 私たち二人で描いた未来ってそういうことでしょ?」
「そうなのかな……」

 私が願ったのはこれからずっとずっとみんなと一緒にいられる未来だ。
 学校へ行ったりみんなと遊んだり、時には魔法を使って困難を乗り越えたりする私の姿だ。
 おぼろげだけどそこにいる私はどちらかというとアリシアというよりフェイトに近い。

「私も同じフェイト思い浮かべてた。きっと訪れる素敵な未来」
「でもそしたらアリシアが――」

 言いかけた口へピッとアリシアが人差し指を添えた。にひひ、としてやったりな笑みを浮かべる。

「だ・か・ら! フェイトなの! 素敵な運命を背負ったアリシアとフェイトなの!」

 不機嫌そうに口を尖らせて今度はほんとに拗ねてしまった。
 
「わ、私だってわかってるよ。けどアリシアの名前無くなっちゃうんだよ」

 私だってフェイト・テスタロッサって人間じゃなくなるけど、フェイトって響きはずっと残るわけだし。

「じゃあ二人合わせてアリェイトとかフェリシアって呼んでもらいたいの?」
「それはちょっと……」
「だったら決まりでしょ? それに綺麗な響きだと思うよ。今まで辛い運命ばかり背負ってきたフェイトじゃない。楽しいことてんこ盛りの響きなんだから」
「それがフェイト」
「そういうこと! テスタロッサはくっつけない!」

 新しい門出に何も全てを持っていくことはない。いらないものは思い切って捨ててしまう事だって時には大事。
 勝手に捨てたり、逃げたりしたわけじゃない。向き合って、立ち向かった果ての選択だから。

「アリシア・テスタロッサが歩んできた過去と」
「フェイト・テスタロッサが歩んできた今と」

 繋いだ両手は熱いくらいに温かくて飛び上がりたいくらい心地よい。

「二人が願った未来で――」

 見つめて、そっと額を合わせて静かに囁く。


「――フェイトになる!」

 
 「過去」と「今」と「未来」が一つになって新しい「私」が産声を上げる。
 半分この記憶と魂が重なり合う。私の心にアリシアが、アリシアの心に私が融け込んでいく。
 
(でももしかしたらあったのかな?)
(何が?)
(私もアリシアも一緒にいられた世界)
(あったかもね。でもこれから目覚める世界は)

 過去じゃなくて未来が叶った世界だ。

 目を開ければ元の世界。私にとっては初めての世界。
 そこには私を待っててくれる人がいる。

「フェイトちゃん!!」

 もちろん名前を呼んで、

「――うん!」

 大切な友達になっていく大好きな人たち。
 そんな人たちと、この世界に、

 始めまして!

 そして――


 ただいま!!


* * * 

 静かに空気を吸って、

「――ふぅ」

 吐き出す。
 二度、瞬きをしてみる。次は左手を握ったり開いたりを繰り返してみた。
 
「叶ったんだね」
 
 すべてのピースがピッタリとはまりぎこちなかった歯車が円滑に動き出したみたいだ。
 目の前に広がっていく世界は懐かしくて新鮮だ。

「……誰なの。誰なのあなたは!?」
 
 静寂を破壊する声は酷く狼狽の色に染まりその人らしさを消してしまうほど震えていた。

「体は……アリシア!? なら中身は!? 誰なの!? 一体何者なの!?」

 無理もないと思った。
 母さんの過去から生まれたあの人には私を理解することは絶対に出来ない。
 追い求めたものが過去ではなく未来からやってきた。それを認めてしまうことは過去そのものである自分自信を否定してしまうから。
 
「私は――」

 本当の体に仮初の記憶を宿らせたわけじゃない。
 
 本当の記憶を仮初の体に宿らせたわけじゃない。

「――フェイトです」

 本当と本当が出会って「未来」が繋いだほんとの私だから。

「アリシア・テスタロッサでもなくフェイト・テスタロッサでもない。ただのフェイトです」

 人は生き返ることはない。アルハザードの力があっても過去にされた人はもう帰っては来ない。
 もしもその常識を覆せるなら新しく生まれるしか私はないと思ってる。

「ただのフェイト……? ただのフェイトぉ!?」 

 母さんはそれはプロジェクト・Fで実現させようとした。生まれた「私」はアリシアではなくフェイトだった。
 それならば失われた世界の力ならば不可能を否定できると思った。そこで生まれた「私」はアリシアだったけど本当にアリシア・テスタロッサにはなれなかった。

「それがアルハザードの答えだと言うつもり! プレシア・テスタロッサが求めたものがそんなわけのわからないものなんて!」

 母さんの願いが悪いとは思わない。悪いとは思わないけど過去から願いを迎えに行くことは、私が未来から願いを連れてきたことよりずっと難しいことなんだ。
 記憶の中に元の形が残ってしまっているから、それをなんとしても形にしようと躍起になって。

 本当の形に出来なかったら――そんな不安がアルハザードには毒となる。
 
「私のアルハザードの答えです。あなたは母さんのアルハザードの答え」

 その手の戦斧を過去の願いへ向ける。

「そして母さんの答えが私の大好きな人たち悲しませるなら」

 歪んだ願いを正すために私が何を成すべきことは唯一つ。

「あなたを倒して……この世界を終わらせます!」

 目の前の歪んだ願い「プレシア・テスタロッサ」を倒す。
 それが母さんへの最後の手向けだ。

「私を倒す? アッハハハハ!! これはまた面白い冗談ね!! アルハザードの主を消すなんて!!」
「そうしなきゃミッドチルダも戻らない!」
「そうよ! ならば来なさい!! そんなちっぽけな願いなど私の願いに飲み込んであげるわ!!」

 見開かれた目が狂気に満たされていく。
 歪んだ顔は悪鬼のように恐怖を振りまき見るもの全てに畏怖を与えるようだ。
 彼女の足元から闇が広がり辺りを飲み込んでいく。抉れた大地も、砕けた瓦礫も闇に触れた途端、溶けるようにその中へと沈んでいった。

「フェイト! これを使いなさい!!」
「リニス? ――っ!」
 
 声と一緒に飛んできた何かを左手が掴む。
 無骨な手触りにそっと手を開けば私の見知った相棒がそこにいた。

「……プロト」

 バルディッシュ・プロト――リニスがアリシアのために作り上げたもう一つのバルディッシュ。
 
「その子ならあなたの破損したバルディッシュのシステムを補填できます! なにより二つが合わされば今のあなたの力を100パーセント引き出せるはずです!」
『She are quite right』(彼女の言うとおりです)

 思わず右手の相棒を見た。

『Please let us bless for your new life』(あなたの始まりを私たちにも祝福させてください)

 そっか、そうだよね。
 この子達だってみんなと気持ちは同じなんだ。
 
「ありがと、あなたたちの気持ち無駄にしないよ!」

 一度バルディッシュを待機状態へ戻す。
 右手と左手に広がる金色の熱い想い。握り締め、想いをこめて胸の前で一つにあわせる。
 
「私と行こう! どこまでも!!」

『Yes――!』

『――Sir!』

 夜を切り裂く戦斧よ! 闇を貫く戦槍よ!
 
 生まれ出でよ!!

「バルディッシュ!!」

 稲光が弾け飛び、合わせた両手から勢いよく飛び出す雷神を私はその手に掴む。
 雷光の衣をぬぐい捨て黒き体躯が晒される。

 前よりも大きく弧を描いた斧に天を目指さんと鋭く突き出た槍。小さくも気品と威厳を漂わせる羽を身につけて彼の新たな姿が始まりを告げた。

「フェイトちゃんわたしたちも力を上げる!」
「アタシたちの動けない分頑張りなさいよ!」
「負けないでねフェイトちゃん!」

『Divide energy』

 桜、橙、蒼の三色がバルディッシュへと流れ込んでいく。膨れ上がる魔力にコアがさらに光り輝き抑えきれない力が雷となって周囲へ放出されていく。
 
(ありがとう……みんな)

 溢れるパワー! 無敵の勇気!!
 バルディッシュを抱きしめてみんな想いを全身で感じればもう向かうところ敵無しだ。 

「……行くよ!!」
『Sonic move』

 出し惜しみ無しで、すべては一瞬で終わらせてみせる。

「消えてしまいなさい!!」

 激情のままに放たれる魔力弾が視界を塗りつぶしていくも、私の目にはもう止まっている障害物にしか見えない。
 その軌道は雷鳴のごとく。一秒以下の世界で私は舞い踊る。

「サンダースマッシャーー!!」

 急上昇から眼下へ雷撃を振り下ろす。私の動きをプレシアは捉え切れていない。

「――!? そんなもので!」

 反射的に張られた障壁が金色の柱を蹴散らした。流石に母さんの願いだけあって簡単にはやられてくれない。

「まだ終わりじゃないよ!」

 私の周囲に浮かぶ三つの魔法陣。光が渦を巻いてすぐさま膨大なエネルギーを蓄えていく。
 雷光三連。発動させるは大出力の魔力砲撃の嵐。

「ボルトスマッシャー!!」

 プレシアへと金色の濁流が降り注いでいく。その姿はすぐに覆い隠され爆炎の中に消えた。
 これで終わりじゃない。ビリビリと体を貫いていくようなプレシアの魔力を煙幕の中に感じ取りながら私は地へと一旦降りる。
 
「終わるのはあなたよ!!」 

 怒声と共に煙が膨らみ吹き飛ばされていく。私へ放たれる紫苑の光はさっきよりも遥かに多い。

(離れちゃ駄目だ!)

 すかさずランサーを乱射して少しでも頭数を減らそうとするけど無駄な足掻きか。プレシアの放った魔力弾は私のランサーを掻い潜りながら一直線に飛んできた。
 どうやら全部誘導弾らしい。まったくもって無茶苦茶な魔法だ。

「粉々になりなさい! 跡形もなくこの世界から消えてしまいなさい!」

 不敵に笑うプレシアはここぞとばかりに更なる数の魔力弾を展開し残らず発射してくる。一発一発の破壊力は常識外れの魔力爆撃だ。
 
「私は負けない!!」
 
 四方から襲い来る脅威を避けようなんて思わない。自分の速さを過信しては駄目!

「みんなついてるから! 絶対負けない!!」
『Guadian sphere』

 バルディッシュから溢れ出す蒼き輝き。巨大な球体の内に私は一瞬にして包み込まれていく。
 そして守護者の壁にプレシアの魔力が衝突し、残さず消滅した。

「生半可な攻撃じゃこの壁は崩せない!」

 その役目は攻撃が終わる瞬間に終わりを迎える。砕け散る光の中から私は最高速でプレシアに突撃を仕掛けた。

「今度はこれ!!」 
『Burst primer』

 バルディッシュが激しく帯電し橙色に染め上げられた斧刃は鈍い輝きを放った。
 プレシアが障壁を張り巡らす。それごと、その向こうのプレシア目掛け、

「ハアアアア!!」

 全身を捻り一回転。遠心力を味方に力任せの一撃を叩き込んだ。
 圧縮された魔力は容易く障壁を粉砕し亡き者とする。斧の勢いは止まらずその向こうにいるプレシアにも手痛い一撃をお見舞いした。
 袈裟に切り裂かれる体にもプレシアは顔色一つ変えない。傷口からは闇が噴出していた。

「ぶっ飛べ!!」

 引き金を引いた。斧に圧縮させていた魔力が開放され爆発する。

「――っ!? がああああ!!」

 斧は体にめり込んでいる。その状態からの爆発はいかにプレシアとて防ぎようがない。
 絶叫を残して吹き飛んでいくプレシア。それでもその体勢からでも魔法を使ってくるのには度肝を抜かれる。

「全力全開だよ! バルディッシュ!!」
『Get set』

 極太の砲撃魔法を前に臆する私じゃない。なのはの真似をするみたいにバルディッシュを構え桜色の魔法を呼び覚ます。

「ディバイーン……バスターーーーーッ!」 

 その手ごたえに彼女を感じながら迫り来る奔流を競り合うことなく押し返す。
 アルハザードの主だからって絶対的な力の差があるなんて証拠はない。願いと願いのぶつかり合いに最初から勝ち負けはついていないんだ。

「そんな! 有り得な――っ!!」

 願いが強い方が勝つ。大事なのはいつだって一つだけだ。
 みんなと共に笑っていける世界で歩いていきたい。私の抱いた願いはもう一人だけの物じゃ無い。
 だから悲しみはいらない!

「これで終わらせる!」

 遥か天上へ舞い上がりバルディッシュを逆手に持ちかえる。

「アルカス、クルタス、レイギアス!」

 私の願い、

「我が手に煌めく雷神よ! 光にたゆたう雷獣よ! 今導きの下降り来たれ!」 

 みんなの願い、

「バルギル、ザルギル、プラウゼル!」

 ありったけの想いをこめて、

「夜を貫け! 闇を払え! 万雷の調! 今ここに!!」

 この手の終わりと始まりを、

「ボルテックランサー・イクシードシフト!! 全てを打ち滅ぼせフルファイア!!」

 金色の不死鳥に乗せて解き放て!!

 羽ばたくたびに羽が舞い金色の光が降り注がれていく。世界の果てへでも飛んでいけそうな速さで全てを追い越しプレシアに不死鳥が襲い掛かる。

「これが! これがアルハザードなんて私は認めない!! これがアルハザードなら私の願いはどこに行けば叶うというの!!」

 プレシアはまだ抗える力を持っていた。
 紫電が鳥を捕らえその羽ばたきを押し止める。持てる力で光を受けながら吐き出す慟哭は呪詛のようだ。

「今にないから過去を求めたのよ! 過去にもないならどこにあるの!? 未来に理想郷があるわけがない!!」

 母さんが決して見せなかった弱さと強さがそこにあった。
 幸せだった時間を求め続けて、裏切られて、壊れてしまってもなお求め続けられた母さんの強さ。
 
(捨てればいいってわけじゃない。逃げればいいってわけじゃ――)

 ――もっと無い!

(ありがとう……)

 私をずっと捨てないでくれて。
 
(ありがとう母さん)

 私をずっと忘れないでくれて。

「牙よ宿れ! サンダースティンガー!!」

 両手に双剣を携え躊躇うことなく私は飛んでいく。

「ハァァァァァァ!!」

 私の願いを止めるのに精一杯で、無防備になったその体へ刃を一閃。
 十字に引き裂かれその体がよろめく。

(これがフェイトの願い!)
 
 双剣を束ね一振りの大剣へと生まれ変わらせる。
  
(これがアリシアの願い!)

「ボルトザンバー! でぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」 

 掲げ、振りかぶり涙と共に刃を振り下ろした。
 
「まだよ! まだ過去は消えない! 見せることができるでしょう!! あなたの力!! 想い!! 願い――!!」

 三度、刃をその身に受けても倒れない。
 だからこそこれで終わりにできる。

「フォトンランサー! ファランクス!!」

 私の魔力の残りの全部を一番得意な矢に変えて。
 不死鳥の向こう側で私を見つめる「願い」に向けて広げた両手を振り下ろした。撃ち放たれた無限の煌きは吸い込まれるように過去を砕き記憶へと還していく。
 形を無くして闇へと戻っていく「願い」はついに不死鳥さえも支えきれなくなる。

「羽ばたけーーっ!!」

『Get set!』

 均衡が破られ不死鳥が「願い」を貫いた。
 雷光が世界の色を消し、轟音が音を消していく。暴風が洗い流すように全てを吹き飛ばし静寂を呼ぶ。
 やがて終わりを告げるように不死鳥がこの手に舞い戻った。

「……終わったんだね」
 
 主の消えた世界に佇みながら静かに呟いた。 

「フェイトちゃん!!」
「えっ! なのはっ!? うわ! わわわ!!」

 背後から抱きついてきた重さに前のめりになりかけどうにか踏ん張る。踏ん張ると思ったのに思った以上に足が動かなくて今度は後ろ仰け反りそうになる。

「はいはい! イチャイチャするのはアースラに帰ってから!」
「うにゃあ!? 痛いよアリサちゃん!」

 アリサがなのはを引き剥がして思い切りチョップを叩き込んでいた。なんか鈍い音がしたのは不機嫌そうななのはを見る限り気のせいじゃないみたい。
 次々と駆け寄ってくるみんなに私はちょっと戸惑い、少しだけ照れ臭くなって、誤魔化すように微笑んだ。

「えっと……ご迷惑おかけしました」
「ああ、謝るのはもういい。僕としては呆れて何も言えないよ」
「それだけ嬉しいんだろ。こういう時ぐらい素直になれよ」
「フェレットは黙ってろ」
「なんだとーっ!」

 なんかいつものようにケンカを始める二人はほうっておくことにして。

「アルフ、リニス……」
「何も言わなくていいよ。あたしゃフェイトがここにいてくれるだけで満足だよ」

 鼻をすすりながらアルフが目を擦っている。

「一緒に帰れるんですね。もう無茶なことしないでくださいね」

 抱きしめながら諭すようにリニスが囁いてくれる。私はそれにゆっくりと頷いてリニスを抱きしめ返した。
  
「奇跡って起きるんだね」
「みんなのおかげだよ。私一人じゃどうにもならなかったし」

 夢見るように口を開くすずかに私はやんわりと否定を返した。

 なのは、アリサ、すずか、アルフ、リニス、ユーノ、クロノ――。

 そしてフェイトとアリシアがいたから私はここで生きていけるんだ。

「じゃあ帰ろうフェイトちゃん。きっとみんなも待ってるよ」
「うん――」

 微笑むなのはに私が頷く。そろそろこの世界も終わりを迎えるころだから。

「――えっ!? 地震!?」

 地鳴りと共に足の裏から小刻みな揺れが伝わってくる。目の前に広がっていた景色にヒビが入り、ガラスが砕けるように次々に破片が落ちていく。
 その向こうには不可思議な色彩が広がっていて虚数空間だということはすぐにわかった。

「主がいなくなったからアルハザードが無に還ろうとしているんだ」

 いろんな記憶がドロドロに溶けて絡み合った形の無い世界。崩壊することはアルハザードのとってはごく自然なことだ。

「これでミッドチルダも元通りね! まさにハッピーエンドって感じね!」

 アリサがご機嫌そうに声を上げる。私も一緒になって頷こうとしたけど、

「それはどうかしら?」

 その声に我に返った。

「確かに私は記憶の中に消え去るでしょう。それがアルハザードを停止させたことにはならないわ」
「どういう意味ですか」

 私たちの視線の遥か先に体中から闇を吹き上げながらプレシアが立っていた。言葉通りに戦う力なんてないのだろうけど自信と威厳だけは相変わらずそこにあった。

「歪んだ形といえど私の願いは一度アルハザードによって成就しているわ。後は私が引き金を引くだけだったのだから」
「まさか――」
「残念だけど引き金には手をかけていないわ。ここまで勇ましく戦ったあなたに免じてね」
「じゃあなんでアルハザードは止まらないんですか!」

 それなら普通は止まってしまうのが道理なはずだ。主のいなくなれば誰か舵を取るというのか。

「私がいなくなって行き場の無い願いは暴走するしかないと言うことよ。下手に形を与えてしまったからそれを消化するためにアルハザードは願いを動かし続けるのよ」
「それなら!」

 答えなんて決まってる。

「止めます! 止めてみせます! みんなと笑っていける世界で私は生きていたいから!!」

 どんな困難だって止める。譲れないものと出会えた私だから。

「そう……。なら止めてみなさい……出来損ないの、ちっぽけな願いがどれほどのものか見せてみなさい!!」

 皮肉じみた笑みを浮かべて私をただ見つめる母さんの願いは次の瞬間、落ちてきた世界の欠片に足場を崩されぐらりと体勢を崩した。
 世界が崩れる速度は加速度的に上がっていく。なのに私は未だにそこから離れることが出来なかった。

(あれは母さんの願いじゃなくて……そうか、そうなんだね)

 最初からわかっていたのかもしれない。あれは最初から母さんが作った願いではなくて――。

「さあ行きなさい! 役立たずな使い魔と矮小な存在と共にどこへでも行ってしまいなさい!!」

 また瓦礫が足場を崩していく。浮島みたいに世界から切り離されながらその人はなおも非情な言葉を浴びせてくる。
 
「フェイトなにしてるんだ!! 脱出するぞ!!」 
「お願いしますリニスさん!」
「ジュエルシード! 最後の大仕事ですよ!」

 クロノに連れられ魔法陣の上に押し込まれる。
 光が景色を覆い隠す寸前、私はもう一度あなたがいた方向を見て、力の限り叫んでいた。

「私は生きていきます! 大好きな人たちと一緒にずっと! ずっと!!」

 冷徹な視線は全然変わらないけど私は叫び続けた。捨てられた存在でもやっぱり私は、私たちはあなたの娘だったから。
 あなたが何か呟くのが見えた。でも崩壊の音に掻き消されて何も聞こえない。その言葉のほんとの姿を私は聞くことが出来なかった。

 だからそれを前向きな意味で捉えるかは私次第だけど、あなたの最後の言葉だけは素直に心の中に刻ませてください。

(……ありがとう母さん)

 不器用な優しさにこぼれる涙。光が私の視界を覆い隠してその存在をアルハザードから乖離させていく。

 別れと旅立ち――。

 二つの儀式を経て私は元の世界へ帰っていく。

(ありがとう……母さん)

 終わりを迎える世界に別れを告げて、始まりを告げる世界へ帰る。
 あなたの優しさを決して忘れないように深く強く心の中に刻み込みながら。


『さぁ、いきなさい……私の世界で一番の誇り……私の可愛い娘達……』

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