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2008.12/01(Mon)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十一話 Bpart  


【More・・・】


 わたしにとってのアルハザードのイメージは色で言うなら暗い色だ。
 空は夜の曇り空みたいに濁って暗くて、地面に緑は無くて。生温かい風が轟々とわたしの体にぶつかっていく嫌な世界。
 前に戦った時の庭園よりも荒れてしまった、
 
 ――終わってしまった世界だ。

「ねぇ、ユーノ。ここほんとにアルハザード?」
「僕に言われても……ちゃんとジュエルシードを触媒に転送魔法を使ったはずだよ」
「それにしてはとてものどかで呑気な風景なんだけど」
「先入観がそう思わせてるだけじゃないかな……」

 アリサちゃんは辺りを見渡しながら難しい顔をしている。わたしもきっと同じ顔だ。
 さぁっ、と吹いてくる風は優しいそよ風のそれで、わたしの想像していた世界とは180度くらいは違っている。
 足元をくすぐる草花は生き生きと根付いていて、少し向こうには大きな木だって生えてる。あの木陰でお弁当食べたらきっと心地いいだろう。

「空、真っ青だね」

 すずかちゃんがぽつりと呟く。
 空は怖くなるくらいに澄み渡ってどこまでも青く続いていて、ゆっくりと雲だけが流れていた。

(なんだかピクニックに来たみたい……)

 わたしはいつの間にかそんなことを考えていた。
 口に出せば怒られそうな場違いなことはわかってるつもり。だけど自分が立っている場所がどうしてもそう思わせてなんだか歯がゆい感じ。

「まさかアタシたち騙された?」
「リニスさんがそんなことするようには思えないけど」
「そうだよアリサ。利害なら一致してるはずだし、リニスだってフェイトとアリシアを助けたいはずだよ」
「アタシだってわかってるわよ。ただなんか……なんか調子狂うのよ」

 みんなのやり取りから離れて、もう一度この世界を見回してみた。
 足から伝わる草の感触はきっと嘘じゃない本物。決してこの世界は偽者というわけでは無いみたい。

「なのは? あんたどうしたのよ」

 本当にここがアルハザードならこの世界を作った人がとても悪い人には思えなかった。
 こんな穏やかで優しい世界が、これから世界を消して作り直そうとする人のものなんてわたしは信じたくなかった。
  
「ねぇユーノくん。アルハザードって人の記憶で作られるんだよね?」
「うん、そうだよ。記憶を形にするのがアルハザードの力だからね」
「じゃあこの世界はプレシアさんが自分の記憶で作ったの?」
「彼女が本当にこの世界の主ならそうなる」

 ユーノくんの答えはわたしの欲しかった答えとちょっと違った。正しく言うならわたしの予想していた答えだったけど、信じたくなかっただけ。

「な、なのは……あんたいきなりなに言ってるのよ」
「わかってる。でもこんな優しい世界を作れるんだよ? なんでプレシアさんはフェイトちゃんに酷いことしたんだろうって……」
「単に世界の材料になる記憶が無かったから、じゃ違うよね」  

 こういう時は時の庭園をそのままそっくり作ってしまう方が普通だと思う。
 それなのにわざわざこんな場所を作っておく理由がわたしには全然わからなかった。

「なのはもすずかもなに考えてんのよ。相手にどんな理由があったってそんなの関係ないでしょ!」

 張り上げた声は少しだけ荒いでいてわたしの心へ響いていく。

「アタシたちの目的はフェイトとアリシアを助けること! いちいち敵の事情なんか考えてられないのよ!」
「わたしだってそれはわかってるよ」
「これだってアタシたちを混乱させるための罠かもしれない。単に気まぐれで作っただけかもしれない」
「そ、そうかもしれないけど」
「もしもプレシア・テスタロッサから本当に話を聞きたいなら今が終わってから好きなだけ手伝ってあげる。今はアタシのやり方で進む代わりに!」

 てっきり場違いなことばかり考えていたのを叱られているのかと思った。
 でもアリサちゃんが最後に口にしたのはそれともどこか違うように思えて、というより違っていた。

「ふぇ? アリサちゃん……?」
「二度目は無いわよ」

 聞き返そうとした途端そっぽを向いてしまった。
 それからさっきより早口で一言。

「ち、チームプレーに迷いは禁物なだけだからよ。それにみんなをまとめるのはリーダーの勤めでしょ!」

 それきりだんまりしてそれ以上なにも言わなかった。

(アリサちゃん……ありがと)

 そんなアリサちゃんにわたしは念話でそっと囁いた。
 言葉にしたらきっとアリサちゃんはもっと照れてしまいそうだから。

(うるっさいのよ……もう)

 そうしていつもの拗ねた声が心に聞こえるのだ。 

「でもこんな景色があるってことはプレシアも昔は幸せだったってことよね?」
「最初から悪人なんていないよ。何かがあったから人は変わるんだと思うし」

 なんだか感慨深げに呟いたユーノくんにわたしはふと思う。

「この景色ってプレシアさんの思い出なのかな……?」
「思い出? 例えばどんな」
「えっと――」

 例えば、それは大切な人と一緒に過ごした思い出。
 早起きして腕によりをかけて作ったお弁当と一緒にこの草原へピクニックに来て。
 大切な人が嬉しさに走り回るのを「気をつけてね」って声をかけ微笑んで。お弁当を食べながらいろんなことをお話して、笑いあって。
 そんなすごく平凡で、他愛なくて、優しい時間が流れていて――。

「あ……れ?」

 想像しただけなのに頭の中にすごく鮮明なイメージが作られていく。その場に居合わせたかのようにハッキリと、思い出がわたしの頭に流れ込んでくるみたいだ。
 
「……アリシアちゃん?」

 一瞬、目の前の草原に幸せだったころの二人が見えた気がした。

「今の……一体」
「もしかしてプレシアさんの……」
「ただの幻覚ってわけじゃないわよね」

 こんなことが起こった理由はわからない。
 突然目の前に現れ、消えてしまった風景。だけど確かにわたしたちの記憶の中にある記憶だ。
 
「アルハザードが教えてくれたのかな?」

 なんだか自然とアルハザードがあの人が壊れる前の姿を見せたように思えていた。
 
「だとしても私たちは行くしかないよね」
「こんなもの見せられたら尚更ね。今見た風景よりもアリシアを、フェイトを笑わせてやるんだから」

 力強く頷いた。
 わたしたちのやるべき事は何があっても変わることはない。目指す場所はここじゃない別の場所。
 みんながいる、あの場所へ。

「みんな!!」

 行くべき所を見つめわたしは声を張り上げた。
 
「うん! なのは!」
「うん、なのはちゃん!」
「もっちろん!」

 みんなすぐに応えてくれる。だから迷うことはない。
 いつもみたいに全力全開で飛んでいける!

「でもその前に頑張らないといけないみたいだね」

 何かを感じ取ったのかすずかちゃんが険しい顔つきになった。
 同時に景色が溶けるように崩れて空が赤黒く染まっていく。いつの間にか地面は赤茶けた色で染められ、もうそこには草木一本生えていなかった。
 
『Master』
「うん、わかってる」

 嫌な感じの魔力がわたしの体を通り過ぎていった。 
 地面から黒い泥がゆっくりと盛り上がり形を作っていく。いつか見たミッドチルダを飲み込んだ泥みたいな「黒」とそれは良く似ている。
 泥はどんどん膨れ上がりあっという間にわたしたちよりも遥かに大きい塊になった。息つく間もなく固まりはぐにゃぐにゃと形を変えて見覚えのある姿になった。

「あの時のロボット!」

 泥は次々に沸いて出てくる。そのどれもが時の庭園で戦ったロボットに変身していく。
 景色がロボットに埋め尽くされて何も見えなくなる。辺り一面、もしかしたら地平線までロボットが埋め尽くしているのではないかと思えてしまう。
 
「すずか、数はどのくらい?」
「確認できて300……500!?」
「流石に無茶苦茶だね」
「でも逃げるわけには行かないよね」

 いまさら怖気づくなんて絶対無い。
 力強く一歩踏み出してわたしはレイジングハートを高く掲げた。

『All right.Stand by』

 数が多いなら吹き飛ばせばいい。道が無いなら作ればいい。とても簡単なことだ。

「まったく、一人当たり120体ってところかしらね?」
『It is a cruel party.』(とんだパーティだな)

 不可能じゃない。

「私は援護役だからもっとお願いね」
『I’m sorry to put you to so much trouble』(お世話かけます)

 わたしには大切な友達がついている。

「ふぅ、三人とも無茶はしないように……って言っても無駄だよね」

 ちょっと呆れられるくらい無謀なことかもしれないけど。

「行っくよー! レイジングハートっ!!」
「バーサーカー! 徹底的にぶっ飛ばすわよ!!」
「大変だけど互い頑張ろうね、シルフ!」

 やってみせる。
 乗り越えてみせる。
 
 それがわたしたちだから!!
 
* * *

「それが奇跡の成れの果てか」

 千を超える刃の雨は常人なら「防ぐ」という概念ごと貫く最強の一撃だった。その刃ことごとく非殺傷設定で放っても精神をズタズタにするのは目に見えている。
 端から対人レベルの攻撃魔法でないことは重々承知だ。

「至上の高みと言って欲しいわね。これこそアルハザードでの正しい姿なのだから」

 けど良心の呵責に苛まれないのは相手がすでに人間を止めているからだ。
 体中に風穴が開き、肩口には深々と心臓まで達するような大きな傷。即死していなければおかしい傷を負って彼女は倒れすらしない。
 傷痕からは血ではなく黒い靄のようなものが噴出し続け、それが人ではない何かになった証明となっていた。
 まさかとも、やはりとも思えるのはそれだけ奇跡が僕の中で奇跡で無くなったことでもある。これ以上、肝が太くなるのも困りものだが。

「記憶で病魔は治せない。なら自分を健康だった体に作り変えてしまえばいい。そう考えたんだな」
「ええ、ご名答ね。しかもこの体は私が魔導師として絶頂だった時期のものよ」
「欲深いな。アルハザードの力がある時点でこれ以上無い高みだろ?」

 彼女が患っていた病は不治の病に等しいものだ。今でこそ治療は出来ても、彼女がまだ研究者として働いていた当時の技術では治療は難しい。まして病状が進行した現在では今の医療でも完治させることは不可能だろう。
 アルハザードの力で記憶から医療を作り出しても遅すぎるのだ。もっとも碌な治療を受けていないだろう彼女にそれを創造する力はないだろうが。

「その体では魔法が良く効いて困るだろ。今だって穴だらけじゃないか」
「人の体の不便さに比べればまだマシよ」

 どうすればいいか。ならば答えは一つだ。
 即ち現在の体を捨て、記憶で作り出した健康な体へ自らの存在を移し変えることだ。

「純粋な魔力の塊か……欲望の塊か見分けがつかないな」

 だがやってることは皮肉にもフェイトやアリシアに対して行ったこととなんら変わりないことに本人は気づいているだろうか。
 
(いや、もうあれは……)

 たった一人の記憶から作り出されたものは、脚色され歪になった記憶からの産物だ。
 果たして目の前の人間がプレシア・テスタロッサなのかと問われれば、答えが査定に繋がるものにはならないはずだ。 
 
「一つ質問させてもらう。あなたはプレシア・テスタロッサなのか?」

 もう一つ気にかかることがある。それを確認するため僕はプレシアに問うた。
 
「本当にプレシアなのか?」

 彼女は過去の復元を願っている。ならば過去に存在する自身だって過去の姿で無ければ目的を遂げたとは言えないはずだ。齟齬を起こさないためにも過去では過去であるしかないのだ。
 しかし目の前の体はこんな様相を晒していては紛い物の他にない。彼女がまだ何か手を持っていれば関係ないのだが。 

 問題はその体へどうやって自分を移したか。

 記憶の移植ならプロジェクト・Fの応用でいいだろう。しかしあれは不完全な技術だったはずだ。
 アリシアの記憶を持っていてもフェイトはアリシアにはなれなかった。本物のアリシアが蘇ることはなかった。

「それを聞いてどうするつもりなのかしら? あなたの目的には関係のないことだけど」
「単純な興味として、いや十分に関係あることだ」
 
 プレシアが別の方法で記憶を移植したとも考えられる。だがそんな設備や方法がアルハザードに存在するのだろうか。
 この世界の元は「無」だ。記憶を吸って形が生まれるならプレシアの手元には手段は無い。アルハザードは記憶からの創造は出来ても想像からの創造は出来ない。出来ても不完全なもので終わる。

「あなたが記憶の体に宿ってなおプレシア・テスタロッサとして存在出来ることはね」

 プレシアは顔色一つ変えない。元より感情を顔に出す人間ではないからそれで真意を察することは出来ないだろう。 

「ふふ……そう」

 次の瞬間に見たプレシアの姿が無ければだが。

「ふふ……はは……あははははぁっ!!」

 堰を切ったかのように彼女は笑っていた。
 その目を狂気に染め上げ、全身で壊れたようにケタケタと笑い始めたのだ。

「何がおかしい……」
「あまりにくだらない質問だからよ! だから笑っている! これがあまりにおかしいから!!」
「くだらなくても質問には答えろ!!」
 
 人を馬鹿にした態度ではない。もはや虫けらでも見るような見下した態度で彼女は笑う。笑い続ける。

(クロノ……その質問はプレシアに代わって私が答えます)
(君がかリニス?)

 念話に振り返るとバルディッシュ・プロトを支えにどうにか立ち上がるリニスがいた。先ほどプレシアに振り下ろした一撃が負担だったのか僕に向けられた頷きも弱々しい。

(記憶を形にすることは思い出すということ。あなたがあの時指摘したように完全なものなど出来はしない。そうなれば記憶を補強する部品が必要です。即ち思い出さないほど深い場所にある記憶そのものを。……この意味わかりますね)

 それっぽちの真実で僕は彼女に向けた質問が最大のタブーであったことを知った。 

(まさか……プレシアは)
(私も信じたくありませんよ……でも一人の記憶で過去を取り戻すなら――)

 リニスはそこから先を口にすることは無かった。それ以上真実を語ることは憎き言えど元の主人であるがためか。

「そうよ! あなたもようやく気づいたのねぇリニス!! ほんと滑稽! ひぃ、はははははっ!!」

 彼女は今壊れたわけじゃない。

「そこまでして過去を取り戻したいのかよ……」

 壊れた彼女はとっくの昔に、

(どこまで哀れなんだ)

 過去に全てを託してこの世界に消えていったのだ。

「なんだよそれ……それじゃあんたは誰なんだよ! プレシアじゃないのかい!」

 アルフが声を掠れさせながら叫んだ。それさえ彼女の狂気に無慈悲に打ち消されていく。
 
「私はプレシアよ! でもずっと昔のプレシア・テスタロッサ! まだアリシアも孕んですらいないプレシア・テスタロッサよ!!」

 彼女へ最初に放った言葉を反芻する。
 
 ――奇跡の成れの果て。

 彼女は確かに彼女だ。けど本来の彼女が刻んできた全てはもうこの世界に泡沫として消えた。
 そこにいるのは過去にされた彼女の欲望と執念だけ。
 自らの存在さえ犠牲に出来るほどに彼女の願いは深く、果てしなかった。

(まるで無限の欲望……)

 違うな。

(無限の希望だ)

 名ではそうでも味わうのは絶望だけというのは当てこすりなんてものじゃない。
 とんでもなく諦めが悪いから何度も希望を作り出して立ち所に世界に壊されていく。

「なら姿形が変わらないのは過去を思い出したくないからか」

 どんなことをしても戻らないものだから。
 捩れた過去なんて彼女は求めない。その妄執が今の彼女を生み出した。

「質問に答えてくれたこと感謝するよ」

 彼女が笑うのを止めるまで待つつもりはなかった。
 まだ人間を止めていないならやり直せる。そう思っていた自分はどこかへ行ってしまった。フェイトを思う余り彼女への引き金を躊躇っていた自分を恥じた。

「S2U……非殺傷解除。それとあれを開放してくれ」 

 ストレージ相手にそんな口調を取るのは彼女達に影響されたのか。一から十まで操作するのは僕の仕事だというのに。

(僕も自分を捨てるからか)

 その覚悟を決めるなら今までの僕は邪魔なだけ。それならその「僕」はみんなS2Uに込めてしまおう。もう一人の僕が宿るならこいつだって意志は無くともインテリジェントデバイスだ。
 青い輝きが辺りを包む。浮かぶ宝石一つ一つに僕の顔が映りこみ、そのどれもが自嘲じみた笑みを浮かべていた。
 さっき同様に僕はアルハザードの手順を踏んでいく。記憶の中でもっとも強く練成された一本の魔力の刃。それを無限に創造していけば魔力の消費を最小限にして最大の魔法を放つことができる。

「これが僕から出来るあなたへの手向けだ……プレシア・テスタロッサ!!」

 この過去を終わらせる。

 彼女をこの世界から消し去る。

「本当に世界は――!!」

 自分のためだけに世界全てを巻き込む権利なんて誰にも無くて、それを咎める権利だって誰も持ってはいない。
 余りに大切な者の前には世界なんて価値の無いものだということが今はわかるから。
 家族を救えるなら誰だって世界を敵に回せるのだから。

「こんなはずじゃないことばっかりだよ!!」

 だからこそ僕は僕のエゴを貫き通す。

 全ては大切な人たちを救うために。

* * *
 
 最初に私はこの幸運に心から感謝した。
 お守り代わりに置いてくれたのだろうか。これが私の傍にあれば、これからやるべきこと全部が出来るようになる魔法の相棒なのにね。

「バルディッシュ、ちょっと早いけどおはよう」
『Sir……』

 彼としては私の今の状態を考えての返事だろう。確かに陽気にはなれないよね。まぁ、陽気なバルディッシュなんて見たことないけど。

「みんな戦ってるのに私だけ眠ったままなんて駄目だよね」

 と言うよりは私が行かなきゃ始まらない。

「始められないんだよね」

 捨てない、逃げない。だから立ち向かう。
 みんなに応えたい。例えこの体が駄目になっていても私は諦めない。

「くっ……」
 
 今の私の辛さなんて必死に戦ってるみんなからすれば辛いなんて考える方が失礼だ。

「さぁ、行くよ……バルディッシュ!!」

 体は駄目でも心は全然へばってない。
 渇を入れるように体へ無理矢理に魔力を流し込み、途切れかけていた神経を奮い立たせていく。
 後先考えない無茶な方法はクロノが見れば怒ること間違いない。

「でもね」
 
 アルフと二人でアルハザードへ行くなんてもっと無茶苦茶だ。
 そんな行動に駆り立たせた原因が自分にあっても、私はクロノに思いっきりそっぽ向いてやるんだ。

「後はあれさえあれば……」

 手に入れるには強行突破か。
 これじゃリンディさんに思いっきり怒られそうだけど背に腹は変えられない。

「私ってすごい悪い子だね」

 けどそんな我侭もこれで最後だ。きっと私の最初で最後の我侭だから。

「アリシア……待っててね」

 いつものジャケットに身を包んで、相棒を右手に携えて私は部屋を出る。
 まだ夜は明けてないだけあって艦内は照明ひとつ無く真っ暗だ。その闇の中を歩いて私はどこへ行くのか。
 これじゃ行き先を見失いそう。

「でも大丈夫」

 私には眩しいくらい決意がある。
 それが――

 今と未来を繋いでくれる。

* * *

 子供の隠し事なんて大人から見れば猿芝居もいいところだ。絶対にばれてないと息巻いていたって大人にはいつだってわかる。

「わかっても……ね」

 自室のデスクにはここ最近の出来事をまとめたレポートや、お偉いさんならではの重要書類や部下からの申請書が山積みなっている。
 こう見えても時間を見つけては片付けてはいるのだが、如何せん供給と消費のバランスが成り立ってないのが問題だ。

「私にだって力があれば」

 今頃あの場所で大魔導師と死闘を繰り広げているのは自分だったかもしれない。子供達にばかり重荷を背負わせて、危険を強いることもないのだ。

「……駄目な大人ね」

 自嘲気味に笑ってついたため息は真夜中の部屋には良く響く。
 力が無くて、友達の助けになれなかったあの二人の気持ちを改めて痛感できるのは皮肉なものだ。
 叱るのだって大人の仕事なのにそれすら本気で出来ないのは私が甘えているから。止めたって子供達は行ってしまう、なんてのは諦めるための言い訳か。
 見て見ぬ振りで彼女達をアルハザードへ送り出したのはもっと別の理由が心の底にあったから。

「フェイト……」

 あの日から一年間以上の時間を私はフェイトと過ごしてきた。最初は笑顔もぎこちなく、怯えたように私たちと接していた彼女も今やアースラに掛け替えの無い一員である「家族」なのだ。
 身寄りの無い彼女を引き取ろうと思ったのは提督としての責任感があったから。私の最初はまさしく規律に縛られた人間の振る舞いだった。
 同情とでも言ったほうがわかりやすいか。
 
「ほんとに情けないわね」
 
 同じ時を過ごしていくうちにそんな考えを持っていた自分を恥ずかしく思った。
 毎日を健気に、一生懸命にぶつかって学び成長していく彼女を見守っていれば、誰だってその小さな背中を抱きしめてやりたいと思うのは親としては当然のこと。
 私は心からフェイト・テスタロッサの母親になろうとしていたのだ。

「そんな私にも出来ることってある……?」
 
 だから娘のために何も出来ない自分を呪うのは仕方の無い必然だ。そして同時に娘の命が助かるなら悪魔とも平気で取引をするのが親であろう。

「天秤になんて量れるものじゃないでしょうに」

 娘の命と子供たちの命なんてそもそも量りになんて乗せられる代物じゃない。
 他の子供たちにだって親がいるのだ。その親から見れば他人の娘の命など一番には出来ないだろう。

「フェイト……フェイト……」

 煩雑する机の上へ崩れるように顔を伏せた。息子が大病をすることもなく育ってくれたことが災いした。どうやら自分はこんな場面にとことん慣れていないようだ。

(……重症ね)

 数分そうして顔を上げた。
 
「本当に呼び捨てにする資格だって私には無いでしょ? 図々しいわよ、リンディ・ハラオウン」

 前にもこんな自問をした気がする。
 なんだかんだで私だけは前へ進んでいないのかもしれない。この気持ちもきっと「今」ではなく「昔」からの想いだ。
 今から先へ進めないのは自分の想いが裏切られるのが怖いから? それとも単に切り出すきっかけが無いから?

「どちらも……よね」

 寝巻きを脱ぎ捨てクローゼットを開け放つ。吊るされ並んだ制服もこの暗闇じゃ青というより影で作られた服だ。

「なら今の私に出来ることは」

 袖を通したのは一番着古したもの。手から伝わるくたびれ具合が共にすごした時間がどれだけ長いか物語っている。
 あの子はこんなくたびれた服を働き者の頑張り屋さんと称してくれた。

「決まってるでしょ?」

 そしてすごく立派で私みたいだと微笑んでくれた。
 そろそろ退役させようと思ってたのにその一言で任期が半年延びている。あの子には何気なく発した言葉でも私にはよほど嬉しかったのか。
 息子には欠片も言われなかったせいなのかも。

「ふふ……私もたまには子供に戻りたいわね」

 手早く髪をまとめて私は部屋を出た。

「でも私までハメを外したらクロノが頭抱えるかしら?」

 向かう先は艦橋以外に他は無い。
 通路を突き進む足は自然と早足になって一分もしない内に艦橋に続くドアの前までたどり着いた。
 一呼吸してドアを開けば、半分眠りについている艦橋が私の目の前に広がっていく。
 天井から降り注ぐ光は無く、モニターとコンソールから漏れる光が今の光源だ。ほとんどのモニターは黒一色で残った小型モニターに艦内情報が流れているだけ。そのモニターの前には今日の夜勤職員が一人。

「もう、感心しないわね」

 デスクに突っ伏している姿に呆れながら私は指定席へついた。 
 さて、ここから何時間待てばいいのだろうか。油断すればそこの管制官同様に夢うつつを抜かすことになりかねない。
 そんな時には子供たちが帰ってきたなら逆に心配させてしまうだろうし、本来の目的も完遂できない。

「これが私の戦い……ね」

 私が今やれることはあの子達が全員無事で帰ってくることを信じること。帰る場所を作っておくこと。
 そしてもう一つ。

「みんな覚悟してなさい。たっぷり絞ってあげるから」 

 大人らしく子供たちを叱ってやることだ。どれだけ私たちを心配させたか、迷惑をかけたのかをこれでもかと教えてやるのだ。
 きっとその先に私の未来が、私の始まりがある気がした。
 
「だから……悔いの無いように頑張ってきなさい」

 想い全てを言葉に乗せて私は天を仰いだ。

* * *

「ハンマースカッシュ!!」

 目を瞑っても突き抜けてくるような閃光に思わず身をすくめ、シールドにぶつかってくる色んな破片に小さく悲鳴を上げる。

「っ~~! もう一発!!」

 煙の中でヒステリックな叫びと一緒にまた爆音が響く。
 足元に波打つみたいに揺れて踏ん張ってても転びそうだ。それでも今のわたし達に回り道なんかしてる時間なんてどこにも無い。

「これで三枚目!」

 声高らかに勝利宣言。見れば、煙の晴れた床には巨大な大穴が開けられていた。
 
「すずかちゃん! まだつかないの!?」
「反応は大きくなってるけど……もっと下の階層にいるみたい」
「なら最下層まで床抜くだけよ!」

 常識外れな数のロボット兵をやっつけて時の庭園へ突入したわたし達はプレシアさんたちのいる場所へ向かって全速力で飛んでいた。
 でも倒しても倒しても増えてくばかりのロボット兵と、迷路みたいに入り組んだ要塞の中じゃ飛び続けること自体が消耗してしまう。

「なのは! 上っ!!」
「また!?」

 反射的に天を向くレイジングハートの先にはわたしたち目掛け落ちてくるロボットがいる。 

『Divine buster』
「邪魔しないで!!」

 それを跡形も無く吹き飛ばしながら天井の穴へも飛びっきりの砲撃をお見舞いする。
 ちょうど穴から出てこようとした追っ手も巻き込まれて残らず爆発していった。降ってくる破片をプロテクションで弾くのもとっくに慣れてしまった。
 
「くそ……これじゃあ僕らが先にやられる」
「だからのショートカットよ! こうなったら行ける所まで行くわ!」
「ならわたしがバスターで!」
「なのはは体力温存! 今の状況じゃあんたが一番戦力になるんだから休んでなさい。土木工事ならバーサーカーの独壇場よ!」
『I quite agree』(そういうことだ)

 確かに一対多数ならわたしの砲撃が一番敵を倒せる。アリサちゃんの考えをここは尊重した方が良さそうだ。

(わたしも結構キツイ……)

 穴からさらに下を目指す。
 高層ビルが丸々入ってしまうような広い空間を落下しながら床ギリギリのところで飛行魔法を発動させる。
 ふわりと降り立てばまたアリサちゃんが床に穴を開ける。
 これで終われば良い。繰り返される光景を見つめながら、わたしは上から敵が襲ってこれないよう再びレイジングハートを掲げた。

「よし開通!!」
「行こう! なのはちゃん!」
「うん!」

 シューターで威嚇射撃しながら穴へ飛び込む。無重力に体を包みながらわたしたちはどんどん下を目指す。

「――えっ!? 魔力反応が」
『Is it jamming? Trap!?』(これはジャミング? 罠ですか!?)
「どうしたのすずかちゃん?」
「穴を抜けた途端、魔力が跳ね上がって」
「カモフラージュ!? ならここが――」

 感づいたように辺りを見回し叫ぶユーノくんにわたしはレイジングハートを握り締めた。
 目指したゴールに着いた。ついにわたしたちはこの事件の張本人の前までやってきたのだ。

(フェイトちゃん待ってて! 必ずアリシアちゃんを助けるから!)

 絶えぬ決意はこの胸に。
 降り立ちわたしは杖を構えた。わたしの願いを叶えるために。どんな光景が目の前にあっても決して負けないように。

「――……うっ」

 すぐに目を背けたくなった。でも怖い気持ちを抑えて目の前に広がっている全てを受け止めた。

「酷い……」
「戦争でも起きたみたいじゃないのよ……」

 驚きの余りすずかちゃんは口を覆い、アリサちゃんは呆然としながら後ずさる。ユーノくんは何も言わずに、ただ唇を噛み締めていた。
 
 地面はあちこち抉れ、至る所に宝石みたいに光るトゲが突き刺さっている。何かの魔法が使われたのか未だに白煙を上げて燻っている場所だってあった。
 その中に紛れるようにうつ伏せで倒れているのはリニスさん。少し離れたところにはクレーターの中で大の字になってるアルフさんがいた。

「――クロノくんっ!」

 ただ一人、クロノくんだけはプレシアさんと向かい合いながら杖を突きつけていた。
 傷だらけなんて言葉で表せないくらいにジャケットは引き裂け、傷口からは血が溢れていた。左手は力なく垂れ下がっていて、右手は杖を持つだけでも精一杯みたいに震えている。
 わたしたちに気づいたのかクロノくんが一瞬こっちを見る。でもすぐに前に視線を戻してプレシアさんを睨み付けていた。

「あら? ようやく来てくれたのね。てっきり途中でやられたと思ったわ」
「どういう妨害をしたのかは知らないが……彼女達を舐めるなよ」
「形成逆転したつもりかしら? アルハザードの理を使いこなせないのに良く吠えるわね」
「黙れ!!」

 荒々しく吐き捨てると同時にクロノくんを無数の光の剣が取り囲んだ。数えることを諦めたくなるようなくらいの膨大な数だ。

「嘘……なんでクロノさんからジュエルシードの魔力が」
「まさかあいつ!」

 その意味が今はすぐにわかる。カーゴルームで消えていたジュエルシードをクロノくんは使って戦っているのだ。
 記憶を形にするアルハザードの力を少しだけ閉じ込めた宝石ジュエルシード。クロノくんはその力を引き出してプレシアさんと戦っている。

「馬鹿の一つ覚えね。それとも、それしか記憶に形を与えられないのかしら?」
「質実剛健なものでね。これで十分なんだよ! 行けっ! エクキューショナー!!」

 クロノくんの号令に全部の剣がプレシアさん目掛けて発射された。
 飛び掛る剣はそのあまりの数に景色だって覆い隠してしまう。あまりの光景に見てるだけで背筋が寒くなる。

「……ふ、飽きたわね」

 そんなものを前にしているのにプレシアさんは顔色一つ変えなかった。
 すごくつまらなそうな顔をして右手を前に出す。

 途端、剣は幻のように掻き消えた。

「なんだと……!」
「今のアルハザードの主は私なのよ。他者の記憶から生まれたものは私の記憶に飲み込まれる。この世界であなたの記憶はエラーにも等しい」
「ご都合主義もいいところだな」
「そうよ。私の記憶で作られた世界なのだから私以外の記憶があってはおかしいでしょ?」
「――……くそっ!」
 
 あまりに圧倒的な光景だった。
 次元違いな戦いの一部始終をわたしたちは目撃しているのだ。あまりの出来事に飲み込まれて一歩踏み出すことすら出来ない。
 
「さぁ、次はどんな手で戦うのかしら? おおかたジュエルシードの制御で魔力も底をついたみたいだけど」

 わたしたちなんて目に入ってないようにクロノくんを挑発してプレシアさんは不気味に笑っている。
 
(駄目だよ……今はこんなことしてる場合じゃないよ!)

 戦うってのはわたしたちの目的の中には無い。あるとしても最後の最後の、本当に最後の手段。ヒーローごっこをしてる時じゃないんだから。

「待ってクロノくん!!」

 勇気を出して駆け出して、クロノくんを庇うように両手を広げて前へ飛び出した。

「なのは!? 一体何を――」
「プレシアさん! アリシアちゃんは元気なんですか!?」

 単刀直入にまくし立てた声は少し掠れていた。

「それを聞いてどうするつもりかしら?」
「もしも元気ならフェイトちゃんに会わせてあげたいんです! わたしたちはそのためにここまで迎えに来ました!」
「フェイトに……人形にね……」
「フェイトちゃんは人形なんかじゃありません! わたしたちの大切な友達です!! だから!!」
「だから私から奪っていくのかしら? あの時のようにアリシアにも余計なことを吹き込んで」

 何を言ってもその表情は変わらない。余裕たっぷりに口を吊り上げている姿は、わたしの様子を見て楽しんでいるような感じにだって思えてしまう。

「奪うなんてしません! 助けたいだけです! このままじゃフェイトちゃんもアリシアちゃんも大変なことになっちゃうんです!!」
「私にとってはどうでもいいことね。それにあなたの言う大変なことになっても作り直せばいい。それだけのことじゃないかしら? 壊れたなら新しい物に交換するだけ」

 そうやってあっさりと言い放つ態度に背筋が寒くなるような感覚に襲われる。
 
「フェイトちゃんもアリシアちゃんも物じゃ無い!! 代わりなんて絶対いない!!」
「そんなの所詮は人の価値観次第じゃないかしら? 失ったものが舞い戻ることに喜ばない人間がいるのかしらね」
「それは……」
「取り戻したいのはあなただけじゃないということよ。そしてその方法だって人それぞれ」

 言い返すことが出来なかった。
 プレシアさんの言い分はきっと正しいことなんだと思う。取り戻すことに手段なんて選ぶ方が贅沢なことじゃないかって思えてくる。

「それで取り戻したのは歪んだ過去だけだろ! 本当にアリシアが戻ってきたのかプレシア!」
 
 戸惑うわたしにクロノくんが代わりに声を張り上げた。
 
「僕らには今しかないんだ! 失った過去は二度と取り戻せない! だからみんな必死になってるんだ!」
「私も必死だった。元の体を失うほどにね」
「ああ、そうだよ! そっちにだって理由はある! 僕らにだって理由がある! 分かり合おうなんて思っちゃいない! 僕は僕なりのやり方を通すだけだ!!」

 わたしを押しのけクロノくんがプレシアさんへ飛び掛った。
 でもそれも空しい抵抗だった。杖から突き出た魔力の刃は振り下ろすと同時に見えない壁の前に砕け、瞬きする間も無くプレシアさんの放った魔力弾にクロノくんが吹き飛ばされた。
 二度、強く地面に叩きつけられ突っ伏すクロノくん。それでも震える手で必死に体を支えて立ち上がる。

「それで終わりか! まだ僕はやられてないぞっ!」

 膝が笑っていた。限界なんだって一目でわかった。
 きっとわたしたちが来る前から何度も何度もこんなことを繰り返していたんだ。

「……まったく、そこまでしてこっちの人形も欲しいのかしら。私には理解しかねるわ」
「何とでも言え!」
「なら会わせてあげるわ。望みどおりにね」

 その声に反応するみたいにプレシアさんの隣からあのロボット達を出していた黒い泥がぐにゃりと湧き出してきた。
 泥はあっという間に積みあがりプレシアさんより一回り大きな背丈になった。太い柱みたいな形でそれ以上形を変えないみたい。

「出ていらっしゃいアリシア」

 泥が滴り落ちるにつれて内側にあったものの正体が明らかになる。

「……え?」

 露になったそれにわたしたちは一瞬だけ全ての言葉を失った。

「アリシアちゃん……・?」

 それは大きなカプセルだった。そしてわたしにとっては見覚えのあるものでもあった。
 まるであの日の出来事をそのままこの場所に映し出したみたいに、あの子がその中で眠るように浮かんでいた。

「フフ……アハハ……。どの道あなた達が来るのが早かろうが遅かろうがこの人形のこうなる運命だったのよ!」
「そんなの……そんなの嘘……」

 見開いた目に、非常な事実を叩きつける事だってあの時とそっくりだ。

「戯れで作った物の癖によくもここまで持ったと思うわ。耐久度だけならあの人形よりもずっと勝ってるわね」
「やめて……」
「まぁ、周りに影響されすぎて勝手に動かれるだけあっちの方が中身の出来はいいと思うけど」
「やめてよ……」
 
 残酷すぎる仕打ちだ。
 信じていた人に拒絶され、心を砕かれたあの子を見ていることしか出来なかった事だって今も一緒。
 悔しさに目が熱くなる。どうしようも出来ない怒りがレイジングハートを震わせる。
 わたしがどんな言葉をぶつけてもあの人はあの子を傷つける言葉に変えてしまう。それが怖くて止めてって願うことしかわたしには出来ない。

「――勝手なこと」
「……ん?」
「勝手なこと言わないでください!!」
 
 諦めかけたその時にその声は聞こえた。

「アリシアちゃんは自分で自分の進む道を決めたんです! それを馬鹿にする権利は誰にも無い! あなたには絶対無い!!」

 ソプラノを荒げたのは他でもないすずかちゃんだった。
 普段のおっとりした様子なんてこれっぽっちも感じさせないくらい、嘘だったみたいにすずかちゃんはプレシアさんを睨み付けている。

「そんなものあなたの思い込みでしかないわね。他人の目から見た事実をそのまま受け入れるのは愚かなことよ」
「確かに愚かなのかもしれない。でも私はアリシアちゃんを信じてる。信じてあげなきゃいつだって始まらないから!」

 信じてあげること。それは何気なくて、でもとても大切なことだ。

「だから迎えに来たんです。アリシアちゃんの始まりを終わらせないために!」

 強く凛々しく真っ直ぐな想いは聞いているだけで勇気が沸いてくる。

「すずかの言うとおりよ! フェイトもアリシアも信じていないあんたなんかに好き勝手言わせないわ!」

 アリサちゃんが負けじと叫んだ。
 
(二人とも……すごいな)

 怖くなんてないんだろう。ただ純粋に自分の想いをぶつけてるだけなんだ。
 そんな簡単なことをわたしはどうして躊躇っているんだろう。

(そうだよね。わたしだけじゃないんだ)

 一人じゃないから。わたしが言い返せなくてもみんながいる。みんなが言い返せなくてもわたしが言い返す。
 それだけで十分なんだ。

「わたしは大切な友達が泣いているのを放っておけないだけ! みんなを笑顔にしたいからここまで来たんです! なにを言われてもそれだけは絶対!!」

 みんなに聞こえるように、何より自分に聞こえるように吸い込んだ空気全部吐き出してわたしは思いっ切り叫んだ。
 
「アリシアちゃん! 聞こえてるよね! 行こうよわたしたちと! みんなと一緒に、わたし達と一緒に、フェイトちゃんと一緒に楽しいこといっぱいしよう!!」
「なのはの言うとおり! アリシアいつまで寝坊する気! 早く起きなさい!」
「遊んで、お茶会して、私達と学校行って、素敵な思い出たくさん作ろうよ!」

 後先のことなんて関係ない。今湧き上がる想いと言葉をありったけ。
 
「そんな茶番! もうアリシアの心は壊れているのよ! 無駄なことはおよしな――」

 だから聞こえた。

(――私も……いきたい……いきたいよ)

 心に届いた!

「――っ! なっ……アリシア!?」

 あの子の声がわたしの中に響き渡った。

(みんなと……優しい世界で……一緒に……)

「馬鹿な有り得ないわ!! なぜ偽りの心で動くことができるの!? あなたの過去はとっくに壊れているはずなのに!!」

 一番驚いていたのはアリシアちゃんを生き返らせたプレシアさんだった。どんな方法を使ったかなんて想像はつかないけど、その様子で自分でも想像できなかった事が起きているのは明らかだった。

「そんなの決まってるじゃないですか。それとも記憶から生まれたあなたは本人よりも頭が回らないんですかね?」
「そりゃそうだろ。あんまり物分りが良すぎるのもつまんないしね」
「なるほど。ある意味、彼女の理想の姿ですか。あれは」

 憎まれ口を叩きながらリニスさんとアルフさんがゆっくりとわたし達の傍らに立つ。

「じゃあ教えてあげるよ。僕らと出会ってアリシアは今を知った。今がその先にある未来にも繋がってるって知ったんだ」

 ユーノくんが静かに語る。それはここにいるわたしたちの言葉になる。

「冷静さが友と言うのは僕の師の言葉ではあるが……こんなこと程度で取り乱すとはやはり紛い物だな。本物のプレシアならもう少し余裕があったと思うが」

 皮肉たっぷりに言い放つのはいつものクロノくん。

「わたしまだ子供だから難しいことはよくわかりません! だから今はわたしたちの願いを貫きます!」

 みんながここにいる。ここにいない人たちだってみんなアリシアちゃんを待ってくれている。

「悪いですけど勝手に――!」

 それが悪いことなんて思いたくない。帰れる場所があるってことが悪いなんて世界なら、

「――やらせてもらいます!!」

 わたしはそれを撃ち貫く!

「いいわ! そこまでしてこの人形が欲しいなら私を倒してみなさい! 過去を倒してみなさい!! 」

 プレシアさんの体を紫色の光が包み込んでいく。後ろからは黒い影みたいなものが物凄い勢いで溢れ出し、不気味な雰囲気が辺りを侵食していった。

「いくよ……みんな!!」

 みんなそれぞれの返事を背中で受け止めてレイジングハートを構える。
 これはアリシアちゃんとフェイトちゃんの未来を守るための戦いだ。
 二人の「今」と「未来」を優しくて歪んでしまった「過去」から守るための戦いなんだ!

「リリカルマジカル全力全開!!」

 先手必勝! ディバインバスター!!
 
「いっけーーーーっ!!」

 願いはきっと叶うから!!

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