10月≪ 2017年11月 ≫12月

123456789101112131415161718192021222324252627282930
--.--/--(--)

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【編集】 |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑
2008.11/10(Mon)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十一話 Apart  


【More・・・】


 漆黒の闇にポツンと浮かぶ赤い光をアタシは少しの苛立ちと共に見つめていた。
 耳を澄ませばゴウンゴウンと動力機関が動いている音がする。他に聞こえるものといえばアタシのため息と、残りのメンバーの息遣い程度だ。
 眠気を噛み殺そうとしても思わずしてしまう欠伸は、自分が場違いな時間帯に起きていることを知らせる警報装置みたいなものかもしれない。
 
「ユーノ……まだ開けられないの?」
「無理言わないでよ。僕だって出来る限り急いでるつもりだよ」

 それはわかってる。
 壁一枚向こうにはアタシたちが捕獲してきたジュエルシードと、掛け替えの無い相棒がいるはず。そうなればそのセキュリティはこの艦の中で最上級のものといっても差し支えないだろう。

「なんだか金庫破りにでもなったみたいね」

 時刻は――午前三時くらい。夜更けと夜明けの狭間の中でアタシたちの反乱は始まったのだ。

「言わないでよアリサ。これでも十分な犯罪なんだから」
「前科者の言葉じゃないわよ、それ」
「……わかってるよ」

 お姫様を助けに一人突っ込んで行った馬鹿の言うことなんて聞くもんか。
 ここで引き下がるか、立ち向かうか。並べられた二つの選択肢を選ぶ権利は自分にしかないんだから。
 
「頑張ってユーノくん! 我侭なのはわかってるけど、わたしだってじっとしたくないもん!」
「僕だってあいつの言うなりはごめんだよ」

 施錠を管理する電子パネルは依然赤色のランプを灯し、そのパネルの上にかざされたユーノの右手には魔法陣が張り付くように回転している。
 ユーノにとっても譲れないものがるのだろうか。男の意地というものは時に呆れるような頑固さを持つものだけど今度ばかりはそれを有効利用できそうだ。
 
(……それともなのはに言われてやる気になったとか?)

 魔法陣の照り返しでうっすら見えたユーノの顔が幾分和らいでいるように見えたのが気のせいじゃないなら、の話だけど。

「……それにしてもアルフはどこ行ったのかしら」

 フェイトごとクロノの監視下に置かれている可能性が一番高いけど念話ぐらいなら通じるはず。
 ――と、思ってみたがフェイトの寝ている部屋にAMFがあったことを思い出した。

(照明が無いのもそのせいだったわね)

 簡易的な照明ぐらい生きていてもいいのに、それすらないということは照明に回すエネルギーが無いってこと。
 実際セキュリティも必要最低限しか動いてないからここまで来れたのだ。

「よしっ! 開いた!」

 アタシがあれやこれや考えているうちに電子音と共に赤色が緑色に変わった。

「行くわよ……」

 躊躇せずに踏み込んで――息を飲んだ。
 目の前の光景に怖気づいたわけでも驚いたわけでもない。淡い青に迎えられたアタシはその瞬間、魅了されていた。

「こ、これみんなジュエルシード……?」
「僕達が今まで集めてきたのがここにあるのか」

 戸惑いがちのなのはと感心するように呟くユーノに、アタシは頭の中に忍び寄ってきた何かを振り払うように前へと踏み出した。
 床から整然と生え揃ったポッドの中にはアタシたちがここまで歩いてきた証が静かに浮かんでいる。壁や床、天井には幾何学的な光の線がぼんやりと刻まれ、時折その中を光の粒が流れるのが見えた。
 カーゴルームと思ってたけどここまで改造してればシードルームと改名したほうがいいかもしれない。

「さて……相棒はどこにいるのかしら?」

 今は探検している場合ではない。辺りを見渡しバーサーカーが格納されているだろうポッドを探す。

「こればっかりはあいつの言う通りだから悔しいわね」

 そりゃアタシだってデバイスが無くたって簡単な魔法は使えるくらい上達はしている。
 魔力を圧縮して出来の悪い時限爆弾もどきにするぐらいしか出来ないのは置いておくとしてもだ。

「アリサちゃん扉吹き飛ばすなんて滅茶苦茶なこと言い出すんだもん。わたしびっくりしちゃったよ」
「あれは最終手段よ。いくらアタシでもそこまでの無茶無謀はしないって」

 これ以上時間がかかるなら強攻策として真っ先に使おうとしていたのことが秘密なのはもはや言うまでもない。

「けどアリサ、デバイスがここにあるとは限らないんじゃ……」

 ユーノが切り出してくるも素知らぬ顔で通す。
 確かに可能性はいくらでもある。もしかしたらあのクソ生意気チビ執務官が肌身離さずベッドの中にまでアタシたちのデバイスを持ち込んでいることだってあり得なくは無いのだ。
 ただその場合、寝込みを襲ってしまえば簡単に奪い返せる。第三者がデバイスを預かるなんてこと最初から頭には無かった。
 
「あるわよ。女の勘を舐めないでよね」

 自信たっぷりに言い放って意識を部屋全体へ飛ばした。
 願いを叶えるという点ではアタシ達のデバイスだってジュエルシードのようなもの。しかもこちらは自分で物を考えるくらいのお頭を持っているのだ。下手に自由にしておけばアースラのシステムだって乗っ取るかもしれない。
 ならばこの部屋で、ジュエルシードと同じように、封印してしまえば問題は粗方片付けられる。おあつらえ向きなのだこの場所は。

「あっ、アリサちゃん! あれ!」

 なのはが声を上げた先にはジュエルシードが保管されているポッドより一回り大きなポッドがいくつか見えた。
 目を凝らせばその中にアタシ達の宝石が浮かんでいる。
 親切設計ということらしい。むしろ罠かと思えるほどに清々しい開き直りっぷりにちょっと管理局への眼差しが変わった気がする。

「第一関門はクリア……ってところかしら」

 まさかポッドに近づいたら警報がなるような仕掛けはあるまい。赤外線センサーとかそんなもの魔法の世界から見ればアナログにも等しい代物なんだし。
 ちなみに監視カメラという最大の難関は協力者のとある管制官が見て見ぬ振りをしてくれているので問題ないわけで。

「じゃっ、まずは相棒を取り戻しましょ――」
「待ってアリサ!」
「へ?」

 制止の声に振り向けばいきなり物陰へと押し込まれた。
 
「ちょっと! いきなりなにすんのよ!」
「静かにして! ……ポッドの近くに誰かいる」

 いくらジュエルシードの光で室内が薄ぼんやりとしていても光が届かない場所は暗がりだ。
 それはアタシが今目指そうとしたポッドにも当てはまるわけで、ユーノはそこに誰かがいることにいち早く気づいたみたい。

「まさかクロノくんとか……」
「待ち伏せなんてどこまで根性ひねくれてるのよ。ひねくれすぎてねじ切れてんじゃないの?」
「あいつなら部屋に入った瞬間に襲ってくるよ。それに様子が変だ」
「様子って……?」

 ポッドの陰からちょっとだけ頭を出してみる。
 闇にはとっくに目が慣れている。そのおかげで暗い世界の中で微妙にコントラストの違う存在をすぐに見つけられた。 

「誰だろう……。アリサちゃんわかる?」
「お、押さないでよなのは」 
「ご、ごめん! ちょっと狭くて」
「い、痛っ! なのは足踏んでる!」
「わっ、ごめんユーノくん!」

 背中で騒がしさを受け止めながら頭痛を覚える。相手が一般人だってこれなら気づいてしまうだろう。

「――というより」

 考えてみれば……。

「アタシたちが部屋に入って来た時点で相手もわかってるんじゃない?」
「あっ……」
「……そういえばそうだね」 

 なのははともかくユーノまでわかってないのはなんというか致命的なミスではないのだろうか。
 アタシだって今の今まで気づかなかったんだから人のことを言える立場ではないんだけど。

「こうなったら……なのは、シューター行ける?」
「一つくらいならなんとかコントロールできるけど……まさかアリサちゃん」
「先手必勝よ。相手が何かしてくる前に一気に終わらせれば万事オッケーなんだから」
「アリサ、流石にこの部屋で魔法は――」
「これくらいの魔法でジュエルシードが暴走したなら、それはアースラ側の管理体制に問題があったのよ」

 幸い正体不明な人間は今もポッドと睨めっこで気づいていない様子。ならば気絶してもらうしか手段はないだろう。

「うう……なんだか相手の方にはすごく悪い気が……」
「ケースバイケースよ! アタシだってすっごく罪悪感あるんだし!」
「というか僕のバインドの方が」
「警報鳴らされたらジ・エンドよ!」
「ちゃんと手加減できるかなぁ……」

 意気消沈といった具合になのはが恐る恐る左手を開く。すぐに線香花火みたいな弱々しい光が生まれてフワッと宙に浮かんだ。

「ええと、福音たる輝きこの手に、導きの元鳴り響け! ディバインシューター……お願い!」

 不慣れな呪文を唱えれば、光は零れ落ちるように下へと滑り落ちた。
 
「落ち着いて……コントロール……」

 光は滑空するように床の上を飛び続けていく。沢山のポッドも潜り抜けなんのその。一息で相手の背後に回った。
 
「本当に、本当にごめんなさい! 多分痛いの一瞬だけだから……」 
「一思いに行きなさい」
「アリサちゃんの意地悪……」

 なのはが暗闇に向かって睨むように目を細める。
 人差し指をくるんと一回転させ「アクセル!」と一声かければ、光が相手の首めがけ一気に加速した。
 桜色の軌跡が闇に残像を作り音が弾ける。
 命中するまでは一瞬だった。あれこれ考える前にひときわ強い二色の光がポッドの周りを染めた。

「――あれ?」

 射手の口から気の抜けた声。
 確かにシューターは命中した。コントロールを誤って天井や床にぶつかったわけでもない。なのに相手は平然と作業を続けていた。
 なのはが放った一発は相手にぶつかる寸前、青い光の壁に呆気なく散らされていたのだ。
 そして弾けた光に一瞬だけ照らされた横顔はアタシたち誰もがよく知る人物のものだったりするのである。

「アリサちゃん……あれ」
「アリサ、ほんとに当たらなくて良かったね」

 これは……良い方向でのお約束なのか。
 なんだか息巻いてた自分が恥ずかしくなって、次にこんなことも予想できなかった自分のちっぽけさにため息が出た。

「……三人とも、出てきて良いよ」 

 振り返って静々と歩いてくる影がジュエルシードに照らされて露わになる。

「すずかちゃんも来てたんだ」
「当たり前だよ。こんな時に大人しくしてるなんて普通はないと思うけど」
「け、けどすずかあの時……」

 アタシの耳がおかしくなっていなければ確かにすずかはフェイトと一緒にいると言ったはずなんだけど。
 
「敵を騙すにはまず味方から」

 不機嫌そうに口を尖らせるすずかは新鮮なわけだけど、それを微笑ましく見ていられる空気ではなくて。
 そりゃ古来からそんな言われはあるかもしれないけど、まさかすずかがそんな所まで考えていたのは想定の外の外だった。
 
「それにしたってシルフ取られてたじゃない!」

 すずかだってデバイス無しにそこまで魔法が器用に使えるタイプじゃないはずだ。ここにデバイスが封印されているなら、すずかがアタシたちの先回りを出来るはずがない……。

『I'm good at sham sleep』(狸寝入りなど造作もありません)
「後はセキュリティを掌握すれば簡単だよ」

 簡単に言ってるけど実際にやってることはアタシたちよりたちが悪い。

「シルフ、ケージの解除は大丈夫?」
『You don't worry.The lock will be released soon』(ご心配なく。まもなく解除いたします)

 程なくしてポッドが上下にスライドし相棒が解放された。
 アタシもなのはも我先にポッドへ駆け出しデバイスをその手に掴む。じんわり温かさが手の平に広がるのを感じながらすぐに定位置へ結びつけた。

『Please let me sleep a little more』(もう少し眠らせてくれ)
「冗談言ってる余裕があるなら大丈夫ね」

 どうやら問題はない様子。何か細工でもされるかと勘ぐってたけど杞憂みたいだ。

『Master! How are you!?』(ご無事ですか!?)
「うん大丈夫だよ。ありがとねレイジングハート」

 これで役者はほぼ揃った。
 現状で考えられるベストパーティと言えば格好つくけど、やっぱり敵本拠地に乗り込むにはもっと人が欲しいの本音。
 だけどやるしかない。……やるしかないのだ。

「急がなきゃね……じゃないと」

 緊張が高まってくるアタシの横で、自分へ言い聞かせるようにすずかが呟いてある方向を見た。
 
「どうしたのすずか?」
「フェイトちゃんを助けたいのは私たちだけじゃないってことだよ」
 
 そこにあったいくつかのポッドは空っぽだった。

「まさかアルフさんが……」
「アルフだけじゃないわ……こんなことが出来る人間なんて」

 セキュリティが無視するくらい偉い身分を持っている人間なんて数に限りがある。

「うん、きっとクロノさん」

 こんな真似したって、今までの仕打ちの免罪符になるわけ無いのは本人だって良く知ってるくせに。
 
「まったく男って奴は――」

 どこまで不器用で、格好つけたがるのかしら?

「あいつ……人のこと言えないじゃないか」
「まぁまぁユーノくん」

 きっとどんなに引っ叩いても直らないのよね。
 だけどそういうのアタシは嫌いじゃない。

「さっ、とっとと行くわよ! お日様が昇る前に全部終わらせて、最高の夏休みにするんだから!!」

 空回りして転んでも、何度だって立ち上がる。
 みんなの笑顔にするために、その笑顔を守るために、どんなことだって最後の最後、最後を通り越しても諦めない!

「バーサーカー! セットアップ!!」
『Yeah buddy!!』

 七転八倒と七転八起。
 選ぶならいつだって――

「リリカル・ストライカーズ――Ready go!!」

 七転び八起きなんだから!!

* * *

 ――まったくもって私は馬鹿だ。

(手足が無事なのは……不幸中の幸いとは思いたくありませんね)

 傷だらけで使い物にならない時点で同じことだ。
 本当に馬鹿で間抜けで愚かで無様で惨めで――……。

「頭に……来ますね……ほんとにっ!!」

 壁を支えに這いずるようにして立ち上がる。
 負荷を超えた負荷に手足がガクガクと悲鳴を上げ呼吸もままならない。魔力を通電させて筋肉を無理矢理に動かすことさえ満足に出来ないのはそれだけ重傷だということ。
 歯を磨り減るほどに噛み締め、視界を遮らんとする血潮を拭い落とし、激痛に壁に爪を立て、それでもなお二本の足で私は立ち上がる。

「…………」

 感情の無い顔が私を冷やかに見つめている。その顔も、体も、何一つ私が爪を振るった時と変わりが無い。
 戦いは刹那の内に終わったのだ。
 我ながらもう少し勝算があると思っていた戦いだったのだが……。

(嘘仰い……勝ち目なんてあるわけないじゃないですか)
 
 一矢報いることすら不可能の極みにあるのだ。賢明な判断など魔女の目を盗んで逃げ出すことしかないのは馬鹿でもわかる。 

「この程度で私を倒そうなど……見くびられたものですね」
「道化にしか見えないわね。生き恥を晒してあなたは何がしたいのかしら?」
「当然、アリシアと世界を救うことです」
「どちらも不可能よ」 
「方法なんて無いなら作ればいい! ただ今はアリシアを傷つける存在を消し去りたいだけですっ!!」
「……どうやら頭の隅々まであの人形に毒されているのね。私が主ならこんな無茶無謀に手を染めないと思うけど」

 この女にとってはもうアリシアも人形なのだ。むしろ最初からアリシアもフェイトも人形でしかなかった。
 娘扱いして、飽きたら捨てる。一回限りの贅沢なおままごと。

「私を相手にすることは、アルハザードそのものを相手にすることと同義だということすら忘れているようね?」

 彼女の背後に無数の光が煌き、すぐさまそれは形を与えられ槍という名前でこの世界に顕現する。
 青く透き通った水晶の槍だ。そのどれもが大人一人程の直径であり、輝きに魅せられれば体中に風穴が開く甘美な罠。
 魔法という範疇を超えた異形の奇跡だ。

(実体弾の多重射撃……私では防ぐことがやっとなのに)

 まさしく歯噛みしたい思いだ。魔法弾ならシールドで威力散らすことは出来る。が、弾体が大質量で物理的にシールドへ攻撃を加えるなら話は別だ。衝撃が増大すれば万能と言われる魔法障壁だって持って数秒でしかない。
 
「あなたは記憶と戦っているのよ。無尽蔵の奇跡を前に抗う術など存在しない」

 ああ、あってたまるかこんなもの。
 避けるか砕くかの二択に絞っても結末のビジョンは私の凄惨な敗北だけだ。

「それでも私は諦めません。ここであなたを止めなければアリシアも、世界も終わりされてしまうのだから!!」
「どこまでも愚かね。いっそあなたも昔のような従順な下僕として作り直してあげましょうか?」
「結構です」
「なら消えてしまうことね。リニスという構成要素を欠片残さず消滅させてあげるわ」

 見開かれる狂気に、本能が痛いほど殺気を感じ取る。
 プレシアの背後を埋め尽くしていた槍がさらに数を増し、ついには景色を塗りつぶすほどに創造されていく。もはや彼女が背にしていたのは水晶の城壁だったかと思えるほどに際限無くだ。
 絶望的な力の差だった。

(さて、口は元気でも体は相当まいってますね……こんなの認めたくないですけど)

 ここまで私が彼女にぶつけた射撃は述べ923発。それが大したことの無い数字なのか、途方も無い数字なのかは自分でもわからない。
 威嚇のフォトンスピアーにフォトンランサーを織り交ぜ、大出力のフォトンジャベリンの連続攻撃。これに加えてスマッシャーを至近距離から浴びせかけ、さらにサンダーレイジで追撃を仕掛けた。
 私の知りうる魔法を総動員させた雷神の円舞は五分以上に渡る大作だった。後先考えず撃ち続けても、耐え切る相手は存在しないと言い切れる出来栄えだ。
 
(いけませんね……少し意識が……)

 足元は真紅に染まっていた。ズタズタに引き裂かれた体では命の源を留めておく余裕は端から無いということだろう。
 私の渾身をプレシアは一分にも満たない時間で踏みにじった。攻撃を終えた私へ一瞬で間合いを詰め、私が反応するより早く全方位からの射撃。気がつけば右手が私の首を締め上げ、左手がゼロ距離で魔力を爆裂させた。
 そうやって満身創痍で立ち上がった私への手向けがこれというわけだ。

(せめて魔力と時間があれば――)

 何が出来るというのだ。
 あの魔女を亡き者にする術を私は持っていないし知りもしない。

「それじゃあ……さようならリニス」

 皮肉を込めた挨拶に静止していた槍が加速する。

「くっ! ソニックセイル――っ!?」

 無慈悲にも私の言葉は顕現してくれなかった。とうとう世界にも悪あがきを見放されたらしい。
 
 ――終わりたくない。

 ただそれだけの願いさえ叶えてくれないのがこの世界の理なのだろうか。
 なぜ記憶ばかり、過去ばかり欲する? 前に進む意志をなぜこの世界だけ持とうとしない?

(願いは未来への意志……アルハザードはそれを否定するなら)

 降り注ぐ死はもう一秒も無いうちに私を抹消するだろう。走馬灯さえ浮かべる猶予も与えてくれないらしい。
 だというのにその瞬間までの時間がやけに長く感じる。コマ送りのように映像がブツ切れにされ、ただ思考だけが暴走している。
 これが生存への時間稼ぎというなら、考えるより天佑を待った方が遥かにマシだ。恐怖を味わう時間などとっとと過ぎた方が体のためだ。
 
(……私はっ!)

 そこまでしてまで諦めることを放棄させたいならば、

「アリシア……私に力を貸してください!」

 まだ整備を終えたこの子だってあの子に渡していない。勉強だっていくら教えたって足りない。もっとあの子に自由に歌を歌わせてやりたい。

「プロト起動!」

 あの子の笑顔をもう一度、いやずっと見ていたい。
 だから――!

「サンダースマッシャーーーーッ!!」

 足掻いてやる。みっともないくらいに足掻き続けてやる。

* * *

 あたしが突っ込むのがもう少し遅かったらリニスは生きていなかった。「もし」なんて仮定を考えるのは嫌いだけど、これだけは誰が見たって同じ考えに行き着くはずだ。
 
「なにやってんだい……見てらんないよ」

 亀裂の入ったラダーを解除して、背後にいるリニスに声をかける。

「牙を突き立てるときはあたしも呼べって言わなかったっけ?」
「……そうでしたね。ですが急なことだったので連絡することを失念していましたよ」

 肩で息をするリニスはすでに戦闘不能もいいところだ。
 膝をついているのもやっとといった具合で、放っておけばそのまま地面に突っ伏すのは目に見えている。

「あたしが駆けつけなかったら今頃串刺しになってたくせに」
「流石に私だけの力で乗り切れるようなご都合主義にはなりませんね」
「当たり前だろ」

 足元に転がっていた魔法の残骸を思い切り踏み潰す。見渡せばあたしたちの周りは宝石の草か木でも生えてきたようなぞっとする風景が広がっていた。
 針山にピクニックと言えば少しはマシな気持ちにもなれると思ったけど……やっぱ洒落にならない。

「しのげたのが奇跡みたいだねこりゃ」

 手近な一本を引き抜いてみる。
 ここにやってくるために床板を一枚ぶち抜かせてもらったけど拳が痺れるくらい硬かった。それを貫いて先端が少しも欠けていないの何かの冗談だろうか?
 見かけは水晶の塊だ。表面は水のように透き通り向こう側だって透かせてしまう。映りこむ自分の顔は少し強張っていた。

「さてと……直接会うのは久しぶりだね」

 気持ちで負けたら駄目だ。
 目の前にいる人間――もう人間じゃない何かを前にあたしは次に何を喋るのか。飲み込んだ感情が何度も喉元にせり上がるような感覚に襲われる。

「出来損ないがまた来たの?」
「アリシアを迎えに来たんだ。あんたみたいな人間に用は無いよ」

 正直に言うとあたしの虚勢だ。それさえ覆い隠すように口を動かしながら手足へ魔力外殻を再展開させていく。

(リニス……あんたまだ動けるかい?)
(ええ、この子のおかげでなんとか。また整備しなきゃ行けなくなりそうですが)
(アリシアのデバイスかい……)
(格好つければアリシアの想いです)

 けどリニスとの念話が臆病風に吹かれたあたしを繋ぎ止めてくれる。やっぱり昔も今もリニスはリニスだから。怖気づく姿なんて見せられないし。
 
「あんただって出来損ないの母親の癖に口が減らないね」
「勝手に人を人形の親にしないでくれるかしら。反吐が出るわ」
「だったら血反吐でも吐かせてやるよ」

 自分でも驚くくらい口が回ってくれる。これであいつが逆上でもしてくれれば少しは面白くなると思うんだけど。

「言いたいことはそれだけかしら」

 やはり顔は石像で出来ているらしい。むしろあたしに関心すら抱いていないのかもしれない。

「ああ、それだけだ、ねっ!!」

 開口一番、あたしは大地を踏み抜き一直線に飛んだ。
 狙いは一つ。あの女の、プレシア・テスタロッサの首それだけ。

「ハアアアアアアア!!」

 外殻に魔力を凝集させ硬度を最大限にまで引き上げる。魔力は結晶と化し、みなぎる光沢は降り注ぐあらゆる光を弾き返した。

(形振り構っていられない!)

 相手の力量的にも、自分の感情的にも力を抜くなんて出来るわけがない。
 あいつの顔面目掛け、まずは右腕を叩き込む。が、拳と顔面の間に光が割り込み火花を散らした。

「そんな小細工でーーーっ!!」

 続けて左をお見舞いしてもやはり壁は破れない。さらに右、左と交互に打ち込んでも空しい手応えだけが刻まれていく。
 立ちはだかる魔力の渦の向こうでプレシアはまったく表情を変えない。それがまた憎らしくてあたしはさらに攻撃のペースを速めていく。

(リニス! あいつにもう一発いけるかい!?)
(聞く必要がありますか? プロトと共に私の全てを叩き込みます!)

 静かに、それでいて闘志が溢れ出る言葉だった。
 それならあたしもこの鉄拳に全てを賭けることが出来る!

「舐めんじゃないよ!!」

 プレシアはあたしが闇雲に障壁を破壊しようと思っていたのなら笑いながら罵ってやりたい。
 あたしの得意は何も力押しだけじゃない。
 振り下ろした左腕を震わす衝撃の中で、あたしはついにその道を繋げた。

「バリア! ブレイクッ!!」

 道を拓く力はいつだってあたしの拳に宿ってるんだ!!

「リニスーーーーっ!!」

 守りが消え去る。霧散していく魔力の向こうにある顔を睨み付けあたしは最後の賭けに出る。

「これで終わりだよ! プレシアーーっ!!」

 体を落とし、腰を捻り、筋肉のバネ全てが躍動する。殻に包まれた拳は注ぎ込まれる魔力に赤熱し炎を纏う。
 
「これがあたしのーーーっ!!」

 初めてプレシアが動いた。
 かざされる右手が剛力の塊を軽々と受け止める。噴出する魔力が衝撃波となって辺りを震わせる。

「鉄拳!!」

 そして初めてプレシアが人間らしい表情を作った。
 見開かれる目は狂気に酔ったものじゃない。明らかに自分の想像を超えた事態へ突き落とされた目だ。
 
「無敵ぃぃぃぃーーーーーっ!!」

 弾き飛ばされた腕はあたしではなくプレシア。

「マキシマムスマッシャーーーッ!!!」

 野生の咆哮が全てを砕いた。
 自分でさえ目で追いきれなかった拳はプレシアが体をくの字にへし曲げた。
 肉を押し上げながら何かを次々に砕いていく感触にも迷わない。さらに深く、さらに強く、あたしは右手に全てをこめた。

「こんなもので私を止める!? 笑わせないで!!」

 けど相手も相手だった。生身の人間なら致命傷になってもおかしくない傷なのにプレシアは全然堪えていない様子だ。
 次の瞬間にはあたしの体が跳ね上げられていた。胸を打つ衝撃に呼吸が出来なくなって気がつけば遥かに遠くにプレシアがいた。

「――わざわざ悪いねプレシア! 逃げる手間が省けたよ!」

 どうせ聞こえるわけ無いけどあたしは思いっきり笑ってやった。
 気分が良い。プレシアに一泡吹かせてやったのだ。あの時みたいに負けて逃げたんじゃない。
 今度はあたしの勝ち逃げだ。

「次は任せたよリニス!」
「ええ! 意地を見せてやりますよ!」

 全身から羽を生やしたリニスがあたしの横をすれ違っていく。その手に握られた戦斧は先端に膨大な雷撃を蓄えていた。

「さようなら……プレシア!!」

 派手に大地を転がる中で、そんな声があたしの耳に届いた気がした。

「サンダーゲイザーーーッ!!」 

 どうにか立ち上がれば、すでに雷光をプレシアの肩口へ叩き落とすリニスが映っていた。
 それでも崩れないのはあの女の恐ろしい所だ。いい加減にしろと怒鳴りたい気分にもなるけど今はそれを代わりに言ってくれる奴がいることをあたしは忘れたわけじゃない。

(あたしたちの役目は終わった。後は任せたよ!) 

 リニスがプレシアから飛びずさると同時に天井が爆散する。
 噴出す煙幕の中から瓦礫が降り注ぎ、何事かとプレシアが見上げる。

『Stinger brade executioner shift』

 降り注ぐのは瓦礫だけじゃない。あたしは一人で突っ込んできてもまだまだ仲間はいる。

(そうさ……あたしはあの時とは違う。もう一人じゃないんだよプレシア)

 空を映した刃がプレシアの姿を覆い隠していく。
 よくもあんな数を準備出来たもんだね、ほんとに。

「ごめんね……フェイト。でもさ――」

 もう過去なんて沢山だ。過去に縛られて、傷ついていくのはもう嫌だ。
 あたしは今とその先が欲しい。欲しいから過去を消し去った。
 そんな身勝手な考えを押し通したことは認める。

「あたしはこれしか思いつけなかったんだ」
 
 話で分かり合う。ぶつかって分かり合う。
 人それぞれのやり方の中で選ぶならあたしのやり方は消し去って分かり合う。邪魔なものをぶっ飛ばしてややこしいこと全部無くして。

「だから……勝ちだよね」

 誰に言うでもなく、一人呟いた。

スポンサーサイト
【編集】 |  00:26 |  なのはStep  | TB(0)  | CM(0) | Top↑

コメントを投稿する

URL
コメント
パスワード  編集・削除するのに必要
非公開  管理者だけにコメントを表示
 

この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック


 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。