08月≪ 2017年09月 ≫10月

123456789101112131415161718192021222324252627282930
--.--/--(--)

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【編集】 |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑
2008.10/09(Thu)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十話 Cpart  


【More・・・】


 当たり前な作戦会議の風景に、当たり前にいるはずの子は今日はどこにもいなかった。
 誰もが何も言えなくて、言おうとしても言葉が見つからなくて。沈んだ表情だけがこの場所に嫌なくらいに溢れかえっていた。
 顔は上げられない。冷たそうな床だけを見つめながらわたしはただその子の無事を祈っていた。

「フェイトは……フェイトは無事なんですか?」

 勇気を振り絞るようにアリサちゃんの震える声が耳に届いた。
 聞きたくて、でも怖くて聞けなかった答えを求める問い。

「今は……ね」

 覇気の無い声は紛れも無くリンディさんのものだ。
 いつもみたいなおおらかさは欠片も無い。ただ出しているだけって感じの声だった。

「いつ元気になるんですか?」
「わからないわ」
「じゃあアタシたちとまた一緒に学校行ったり、魔法使ったり出来なくなるんですか!?」
「医者じゃないのにそんなことわかるわけないでしょ!!」
「――あっ……」

 自分が怒られたわけでもないのに体が竦んだ。ブリッジの中が嫌な空気に包まれていく。

「……すいません。アタシ勝手なことを」
「そ、そんな私の方こそ! 自分を抑えられなくて……」

 言葉はそれっきり。もうここにいる人たちだけじゃどうすることも出来ない世界が出来上がってしまっている。
 わたしは二人を見て、それからみんなの様子を見て、心の中でため息をついた。

(みんな辛いんだよね。わたしだけが辛いわけじゃないんだ)

 最初にリンディさんはフェイトちゃんが風邪を引いたと言った。熱が出て、それで今日は寝込んで作戦会議には出てこれないと。
 わたしたちは本当ならそれで納得していたんだと思う。
 でもアリシアちゃんとリニスさんがいつまで経ってもここに来なかったことが、わたしたちの中に言い知れぬ不安を呼び起こしたのだ。
 そこまで回想してわたしは我に帰る。入り口のドアが開いてすずかちゃんと忍さんが入ってきたからだ。

「すずかちゃん……フェイトちゃんは」
「それは……」

 口ごもって視線を逸らす。それでフェイトちゃんが元気じゃないって嫌なくらいに思い知った。

「それについては私が説明する」

 すずかちゃんを庇うように忍さんが前に出た。その顔は険しくて、わたしはそれ以上忍さんから今起きていることを聞きたくない気持ちにさせる。
 
「単刀直入に言う。フェイトちゃんが回復する見込みは無いわ」

 あっさりとそれだけ。
 たったそれだけなのに、わたしは目の前が真っ暗になっていくような錯覚を覚えた。 

「お姉ちゃん! そんないきなり……」
「すずかだったわかってるでしょ! あの子の体に起きてること」
「だけど……だけどそんなのって!」
 
 わたしたちよりも先にフェイトちゃんの異変に気づけたのはすずかちゃんだった。誰もが納得する理由の中でたった一人リンディさんに食い下がったから今の状況になっている。
 すずかちゃん自身も忍さんからあることを予め聞いていたおかげらしいけど。 

「昨日のあの時からおかしいと思ってたのよ。双子みたいなものだからそんなこともあるのかと思ってたけど……」

 みんなで忍さんお手製の変身魔法を試した昨日の一コマ。わたしたちは楽しかっただけだったけど、忍さんはその中でフェイトちゃんとアリシアちゃんの間で起こっていた異変に気づいていたみたい。
 
「気になって調べてみたらそんなこと有り得ないことがわかって……それで今日のこれなんだから」
「フェイトに何が起きてるんですか!? アタシたちにも教えてください!」
「わかってる。簡単に言えばフェイトちゃんの体から魔力が流れ出てるのよ。それもすごい量の」
「それってどういうことなんですか忍さん」

 体から魔力が流れ出る。わたしにはそれがどういう意味を持つのか全然イメージできない。
 ただなんとなく悪いことじゃないかって思える程度だ。

「昨日はそれがアリシアちゃんに流れ込んでた。反対にアリシアちゃんからもね。その時はほんのちょっとの魔力だったんだけど」
「今日は違うんですか?」
「ええ。ただ一方的に外へ流れ出てるって感じね。そしてその魔力の流れがフェイトちゃん自身を壊してる」
「自分を壊す……?」
「元々、フェイトちゃんの魔力量は膨大だからね。それが一気に開放されて神経とか筋肉を少しづつ傷つけてるの」

 段々とわたしにもわかる話になってくる。
 それがわたしの中の不安をどんどん駆り立てていく。苦しくなる気がして無意識に息を呑んだ。

「今はまだ大丈夫だけど……これ以上進行したら体中が麻痺していくかもしれない」
「じゃあ放っておいたら――」

 その先はもうわたしの中からは出てこなかった。
 最悪の結末を口にしたら本当にそうなってしまいそうな気がして、わたしの口は中途半端に開いたまま固まってしまっていた。

「そんな顔しないでなのはちゃん。今は艦内のAMFでフェイトちゃんの魔力を抑えこんでるから。いざとなれば私のAMFだって使うつもりだし」
「でもお姉ちゃんそれって……」
「原因がわからない以上、私には対処療法しかできない。原因さえわかれば何とかできるかもしれないけど」

 悔しそうに目を伏せて忍さんはため息をついた。組んだ腕がわずかに震えていた。

「私としてはアリシアちゃんが何かの引き金になってる気がするんだけど。というよりそれしか考えられない」
「じゃあアリシアちゃんが来れば……」
 
 わたし達に残されている希望はそれしかないことになる。
 いつも元気なアリシアちゃんがここにやってくればフェイトちゃんだってその元気ですぐに元気になれる。そんな願いがわたしの中で揺らめく。

「なのは、あんただってわかってるんでしょ? アリシアが来ない……ううん、来れないこと」
 
 だから例え強がりの嘘だとしてもわたしはアリサちゃんの声に頷くことは出来なかった。

「予定時間なんてとっくに過ぎてるのよ。それなのにアリシアが来てないってそういうことでしょ」
「やめてよアリサちゃん……」
「変に期待はしない方が今はいいと思うけど」
「やめてよ……」
「今は現実を受け止めなさい」
「やめてって言ってるでしょ!!」

 堪えていたものが外へ一気に吐き出された。泣き叫んでるような甲高い声がブリッジを一瞬駆け抜けて、すぐに消えた。

「……あ、わたし――……」
「いいのよなのは。それぐらいキツいこと言ったのは自覚してるし。でもね、今は待つよりも前を見る方がフェイトを助けられる……そう思わない?」

 固かった表情はため息一つで崩れていった。
 わたしの様子を窺うように少しだけ視線を動かせば、今度は励ますような柔らかい口調でアリサちゃんが話を続けていく。

「また一人で抱え込もうとしたでしょ? 塞ぎこんで、自分の中で好き勝手考えるのは別に止めない。けどそれを誰にも話さずに一人で突っ込むのは意地でも止めてあげる」
「私たちなのはちゃんの親友だよ。それに私たちは――」

 ――いけない。
 そうなんだ。もうわたしは昔のままのわたしじゃなかった。なんでもかんでも気持ちを分け合って、ぶつけたっていいんだから。
 だからその先はわたしが、

「リリカル・ストライカーズ――だよね」

 一番先に形にした。

「なによ、わかってるじゃない」
「うん、ちょっとだけ忘れていましたが……にゃはは」
「でも本当に忘れてないなら大丈夫だよね」

 すずかちゃんの言葉にはにかみながら頷く。ちょっとだけ気恥ずかしくて顔が熱かった。

「それじゃどうするの? やっぱりアリシアちゃんを迎えにいくの?」
「アタシたちで出来そうなのっていったらそれだけでしょ」
「でもまだアリシアちゃんが来れないって決まったわけじゃないよ」
「捕まってるとか、可能性はいくらでも考えられるわ。事態が一刻を争うなら動いた方がいいとアタシは思うけど」

 話を振られてわたしもすずかちゃんも自分の考えをすぐに口にする。

「わたしも今はアリサちゃんに賛成だよ。もしもフェイトちゃんを助けられる方法がそこにあるならわたしは飛ぶ」
「私は……アリシアちゃんを待つ。それにフェイトちゃんだって一人に出来ないよ」 
「どっちも賢明な判断ね。ならアタシとなのははアリシアを迎えに、すずかはアリシアを待ちながらフェイトの看病ね」
「でもアリシアちゃんを迎えに行くって……」
 
 アリサちゃんの言うことをそのままの意味として受け取ればわたしたちの行き先は一つしかない。
 それがどんなに危険で無謀なことかアリサちゃんだってわかってるはずだ。日帰り旅行みたいに簡単に行って帰ってこれるものじゃないと思う。
 
「幼稚だな。良ければどうやってアリシアを迎えに行くか教えてくれないか?」
「クロノくん……」

 案の定というかこの場合クロノくんが口を挟んでくるのは当然のことなんだろう。

「アルハザードへのコンパスにはジュエルシードを使うわ。戦力はアタシとなのは、それにユーノとアルフで行く」
「渡航手段が博打だな。保障も無いくせによく使う気になれるな」
「あら、ジュエルシードがアルハザードに導いてくれるって行ったのはリニスじゃなかったかしら?」
「……エイミィ」
「ご、ごめん。一応アリサちゃんたちにも伝えておかないと思ってさ」

 いつの間に聞いたのかアリサちゃんはクロノくんへ得意げに言い返した。

「情報はあるというわけか。なら、アルハザードへたどり着いた時点で不測の事態に襲われたらどうする? あの世界は元は虚数空間だ」  
「不測なんて無いって言ってあげる。残念だけどアリシアから大体のことは聞いてるの。いずれこっちから乗り込んでやるんだから情報収集に抜かりは無いわ」
「じゃあアリシアを見つけたらどうする? 彼女がどういう状態なのかは行ってみるまでわからないぞ」
「元気ならフェイトのこと知らせて一緒に来てもらう。もしも寝込んでるんならベッドごと運ぶ、それだけだけど?」

 アリサちゃんは一歩も引かなかった。クロノくんの質問を最初から知っていたように答えをぶつけていく。
 段々と目つきを鋭くさせていくクロノくんを挑発するようにアリサちゃんは余裕綽々といった感じで口元を吊り上げた。

「無茶苦茶だな。敵に襲われたならどうする? ましてプレシアが直接出向いてきたら?」
「弱い奴ならぶっ飛ばす。後は戦略的撤退よ」
「子供騙しだ。そんな簡単に物事は進まない」
「だったらアタシよりよっぽどいい作戦を思いついてるのね。教えてくれないかしら執務官さん?」

 これは説得ではなく交渉だ。一方的なお話で相手に納得してもらうんじゃない。相手のお話もちゃんと聞いて、しかも自分の望むとおりの方向へ話の舵を取っていく。
 わたしからしたってアリサちゃんの話は穴だらけにしか聞こえない。でもその自信に溢れた顔と声がグラグラしていた言葉を揺るぎないものへ変えていく。

「…………君って奴は」

 先に顔を歪めたのはクロノくんだ。多分クロノくんだってアリサちゃんと同じようなことを考えてたと思う。最初からフェイトちゃんを助ける方法なんてこれぐらいしかないんだから。

「伊達に大会社の令嬢じゃないのよ。ビジネスにおいて交渉ってのは命にも等しいんだから」
「止めても行くということでいいんだな」
「ええ、アタシはね」
「わ、わたしだって!」

 決意は変わらない。慌てて答えながらわたしは自分が選んだ選択肢を信じることにした。

「艦長!」
「……ええ、あなたの決定を尊重するわ」
「そういうことだ!」

 クロノくんが突然右手をわたしたちへ向ける。

「悪いな二人とも!」 

 背筋を通り抜ける感覚にクロノくんがやろうとしていることにすぐに気づくも時既に遅し。
 
「きゃあ!?」
「な、嘘っ!?」

 ぐいと締め付けられる感覚に声が漏れる。体に貼り付けられた腕は思い通りに動かせるわけなくて。
 自由を奪う水色の輝きから逃れる術なんて一瞬じゃ考えられるわけ無かった。

「君達に勝手に動かれても迷惑だからな。仲間の無茶無謀を止めるのも執務官の仕事だ」
「実力行使ってわけ! こんなのっ!!」

 アリサちゃんがバインドを一気に破壊する。こんなの無意味なことくらいクロノくんだってわかってるはずだ。絶対クロノくんは何か次の手を用意してるはずだ。
 すぐにわたしもバインドの解析に入る。アリサちゃんには負けるけどレイジングハートが一緒にいるからこんなのあっという間だ。

「い、いたぁ!!」

 わたしがアリサちゃんやクロノくんから注意をそらした矢先にまた悲鳴が届く。
 すぐに顔を上げれば、クロノくんがアリサちゃんを後ろ手にしながら押さえ込んでいる光景が飛び込んできた。
 思い切り捻っているのかアリサちゃんはもがくたび小さく悲鳴を上げた。

「バインド破壊に慣れていてもこうゆうことは慣れてないだろ?」
「レディに向かってこんなこと……」
「これぐらいしなきゃ君は思い直さないだろう? いや、こんなことしたって思い直さないからだ」
「あんたって……最低ね!! ――くぅ!!」
「お喋りが過ぎるな。何をしても君にはもう勝ち目はないんだ」

 いつもの声からは想像できない冷たさを含ませながら、空いている手でアリサちゃんの髪留めを抜き取るクロノくん。
 ゴムバンドにオレンジ色の球がくっついたそれは紛れも無くアリサちゃんのデバイスだ。

「なのは……君もレイジングハートを渡してもらう」
「レイジングハートをどうするつもりなの!」
「君達が考えを改めるまで封印させてもらう」

 アリサちゃんを突き飛ばしながらわたしの方へ手を向ける。
 胸の中で何かが浮き上がるような感じがすればレイジングハートが目の前に放り出された。

『Master!』
「レイジングハート!!」

 手を伸ばそうとしても伸ばせない。悲痛な叫びを残してレイジングハートはクロノくんの手に収まった。
 
「返してっ! クロノくん!」
「ならアルハザードへ行くのを止めてくれるか」
「止めたらフェイトちゃんが!!」
「フェイトを助ける手立てがそれしかないと決まったわけじゃないだろう」
「それはそうだけど!」
「それを自覚してるなら感情的に考えないで欲しいな。フェイトを助けたいのは僕だって一緒だ」

 クロノくんの声が震えている。わたしたちの勝手にすごく怒っていることを隠しているみたいだ。
 そう考えるとすごく申し訳なってそれ以上言い返せない。

「今日はもう解散だ。各自休息を取って頭を冷やせ。それとすずかもデバイスを渡してくれ」
「……わかりました」

 クロノくんの氷のような雰囲気にすずかちゃんも仕方なさそうに右手の指輪を外した。これでわたしたち全員のデバイスが使えないことになる。
 同時にそれはわたしたちがほとんど魔法を使えないことに繋がってしまうのだ。

「デバイスが無ければまともに魔法は使えない。君達に共通する弱点だ」
「こんなことでアタシたちを止めたって思わないことね!」
「いくらでも吠えていてくれ」

 アリサちゃんを軽く流しながらクロノくんはブリッジを出て行く。止める人は誰もいない。

 ――足音が止まる。ドアが開く音。

 それきり音は消えた。

「……なんで君が」
 
 戸惑いの声にみんながドアを見た。
 
 そしてわたしたちの時間は少しだけ止まった。

* * *

 体中から血液が噴き出してる感じだ。熱くて、熱くてたまらない。
 手足はあの日からずっと痺れて感覚が無い。動かすという簡単な命令さえ私の足は受け取ってくれない。

(大丈夫かい? フェイト)
(うん、意識ははっきりしてるから) 

 支えてくれている相手に声はいらない。今の私としては声に出すよりも心の声で会話する方が楽なんだ。

「フェイト……」

 唖然としている目の前の人間の脇を通り抜けながら引きずるようにしていた足に力をこめる。
 ここからはみんなが私を見ているのだ。あまり酷い姿は見せられない。

「ア……ルフ、ありがとう」
「無理はするんじゃないよフェイト。辛くなったら支えるから」

 他人が見れば弱々しくなってるだろう微笑でアルフに感謝して私は自分の足で踏み出す。
 目に入る人たち全員の表情を焼き付けながら、私は今この場所に一番ふさわしい笑顔を浮かべた。

「えと……遅れました」

 果たしてそれが笑顔なのかはわからないけど。

「フェイトちゃん! 駄目よ寝てなきゃ!!」
「そ、そうだよ! 今フェイトちゃんの体は!」

 忍さんとすずかがなんだか慌てている。その理由を熟知している私にとっては二人の様子に後ろめたい気持ちになる。
 周りのみんなにもきっと心配をかけているのだ。本当なら大人しく寝ているべきなんだけど私にはここに来なきゃいけない理由があった。

「すいません忍さん。少しの間だけAMFお願いします」
「そんなの決まってるでしょ!」

 明るい紫が辺りを満たし、その中で忍さんの瞳が青から赤へと変わる。発動される結界は彼女が知りうる魔法の術式を分解してしまう恐るべき世界だ。
 今はそれを魔力の結合を阻害する形で展開している特殊仕様になっている。私のために用意されたゆりかごだ。
 抱かれ、体中の熱が引いていく。神経が繋がって、体が蘇っていくみたいに自分の周りがはっきりと認識されていく。

「フェイトちゃん……大丈夫なの?」
「ちょっと辛いけど大丈夫」

 駆け寄ってくるなのはに微笑みで応えて、私はそのまままっすぐ前を見つめる。そこにあるのはアースラの大型メインモニターだ。作戦会議の途中だったのかいろいろな映像や情報が所狭しと並べられている。

「見ているんですよね母さん」

 囁きにモニターから光が消える。

「えっ? これって……。艦長! アースラの回線に何者かが介入しています!」
「なんですって!? 一体誰が!」
「発信源は――……えっ!? 発信源には何も存在してない!?」

 エイミィがコンソールを忙しく叩きながら叫ぶ。次元航行艦でもどこか遠くの次元世界からでもないのだから当たり前だ。
 これは呼び声。記憶で作られた世界からの、

 その主からの――

『久しいわね、時空管理局の皆さん』

 私の母さんからの呼び声なのだから。

「プレシア・テスタロッサ!?」

 モニターに映し出された人物に驚かない人はここには存在しない。誰もが視線を上げ、彼女の姿をその目に映す。

『それと邪魔ばかりしてきた小さな勇者さん』

 陰湿な笑みを浮かべながら注がれる視線は相変わらず刃物みたいに鋭利で、人を見下すような冷酷な眼差しだ。
 彼女がどんな人間か知らない者ならたちまち圧倒されたじろいでしまうだろう。少なくともこの場にいる人たちは彼女を知っているからそんなことはないだろうけど。

「生きていた……なんてことは言うつもり無いけど、あの時からまったく変わってないようでなによりね」
『ええ、当然でしょ? 私が望むものは未来ではないのだから』

 リンディさんは普段見せることのない苛立った表情で彼女を睨み付けていた。全ての現況が目の前にいるのだ。誰だって我慢できるわけ無い。

『それにしてもお取り込み中のようだったかしら?』
「いいえ、ちょうど終わったところよ。それにあなたが直接出向いてくれるなら無理矢理にでも予定を空けるわ」
『これは恐縮ね』
「ええ、私からも一度は話がしたかったところだし。次元世界一の極悪犯罪者と」

 皮肉の応酬に空気がピリピリと張り詰めていく。どちらも譲らず、研ぎ澄ませた眼光を浴びせ続ける。

「今日はどのようなご用件かしら? 今更ながら宣戦布告でもするつもり?」
『そうね……そう受け取って構わないかしら。後はそうね……それまでの暇つぶしに壊れた人形の末路でも見に来たぐらいかしらね』

 一瞬だけ私に向けられた視線はあの時以上に憎悪に塗れ、凍り付いていた。一年前に心を切りつけた言葉の傷が微かに疼いた。
 
「あんたはまだそんなことを!!」
「アルフ!!」

 私の怒りも肩代わりしてくれるように牙を向くアルフを制しながら私も負けじとモニターを見上げた。

「お久しぶりです……母さん」
『あなたにそう呼ばれる筋合いは無いけど……まぁ、いいわ。小細工で誤魔化してるけど随分と体は壊れてるみたいね』
「そうですね。でもあなたには関係ないことだと思います」
『そうね。口が悪くなったのはそこにいる艦長殿の影響かしら?』

 その瞳に屈しはしない。自分の中から出てくる言の葉一つ一つが勇気の源になって何度だって私を奮い立たせてくれる。

「リニスは元気ですか?」

 アリシアのことは聞かなかった。聞かなくたってあの子の心は私と繋がってる。だからアリシアがどんな状態かぐらい手に取るように理解できる。
 あの人がアリシアとリニスに向けた言葉だって共有できる。この人は一年前のあの時から何も変わってないって確信できる。
 
『それなら私に歯向かってきたら処分したわ。呆気無い幕切れだったわね』

 それは私を動揺させる嘘だ。
 アリシアと繋がってることはその使い魔ともある程度リンクが出来ていることでもある。だからリニスがまだこの世界に存在していることは痛いほどにわかる。その息吹が微かなものでもだ。
 私の反応を楽しんでいるのか知らないけど、そんなの心底どうでもいいことだ。

「そうですか。じゃあもう過去は取り戻したんですか?」
『安心なさい、まだ取り戻してないわ。今日はそのための宣戦布告なのだから』
「ミッドを過去にするんですね?」
『ええ。過去にして、新たな今日を、未来を作るの。あなたも今のアリシアもいない、私が望んだ世界をね』

 他人行儀に、冷静でいられる自分が怖い。アリシアも同じように捨てた怒りが私をけしかけているのだろうか。
 それともただ目の前の人間が成し遂げようとしてる勝手な願いに、純粋に怒りを感じているからなのか。

「止めます。絶対に止めてみせます。あなたの好きには絶対にさせない」
『ふっ、随分と大層な口を利けるようになったわね。そこにいる人間たちに毒されたのかしら』
「あなたがそう思いたいならそれで構いません。私にとって掛け替えの無い人たちだという事実は変わりませんから」
『ならそれごと消えてしまうがいいわ。どの道あなた一人が足掻いたところで結末は変えられないのだから』

 もう何を言われても私は傷つきはしない。どんなことを言われても、拒絶され続けても、大好きな今を消そうとされたって。
 
 だって私には――

「一人じゃない! フェイトちゃんにはみんながいるよ!」
「そうよ! アタシたちがいる限りあんたの野望は叶わない!」
「どんな理由があったってそれが世界を、沢山の人を巻き込む理由にはなりません! だから私たちが絶対にあなたを止めてみせます!」

 ――こんなに大切だと思える友達がいるんだから。

『口ばかり達者なのは子供の特権ね。こんなちっぽけな存在に頼るしかない管理局も管理局だけど』

 流石に大魔導師といわれるだけ頭の回転も速い。口も達者でキリが無い。もしも舌戦でこの人がいるなら――いや、どこの世界、次元を探してもいるわけがない。
 この戦いに勝敗なんてないのだ。結局言いたいことを言ったもん勝ち。自分が勝ち逃げすることが勝ちなのだ。

「あなたから見れば私たちは子供です。でもこの世界を、大切な人たちを守る気持ちは誰にも負けない!」
『なら止めてみなさい。ちっぽけな希望などすぐに過去へ消し去ってあげるから。私の元まで辿り着けたらの場合だけど』
「絶対に、絶対に行ってみせます! どんなことがあったって、体が砕けたって私は――!?」

 目線が一気に下がった。意識してもいないのに膝が折れた。

『喩え話が本当になったら元も子も無いわね。どんな理屈を並べても嘘は嘘なのよ。だから壊れてしまう。真実の重みに耐えられないから!』

 アルフが後ろから私を抱えてくれた。だけど体に回された腕の感触が今は分からない。
 私の魔力が暴れてる。小細工を物ともせずに私の体から溢れ出そうとしてる。歪んだ流れが体の中を引き裂いているみたいだ。
 
「それでも……それでも私はゲホッ!? ゴホッ!! ――私はそこへ行きます! 今と未来を過去に変えさせないために!!」

 吐き出すは赤い叫び。そして決意。
 口中に広がる鉄の味は五感が薄れている今でも嫌なくらいに私を刺激する。
 なのはが何かを叫んだみたいだけど聞こえなかった。ツーンと耳鳴りみたいな音だけが頭の中でぐるぐる回って、見ている景色も一緒になって回りだしそうだ。 

「それが……あなたの娘としての……私なりのけじめです……」

 目の前が真っ白になって真っ黒になる。
 海の奥底に放り込まれたみたいに私の心が引きずり込まれていく。

(こんなところで……一歩踏み出すこともできないの?)

 無理が祟ったならそれでいい。けどこの人の前で、みんなの前で弱みを見せてしまう自分が情けなかった。
 まったく……いい笑いものだ。

『なら首を長くして待っていてあげるわ。せいぜい急いでいらっしゃい。世界が過去になる前に』

 耳へ届いたのは嘲笑うあの人の声。最大限の皮肉をこめて私を馬鹿にしていた。
 
(格好悪いな……でも)

 諦めたくない――!

「――絶対に行く!! 私はあなたの過去じゃないから!! 母さんっ!!」

 顔を上げて、真っ直ぐ前を見つめて。沈没しかけた五感を光の射す方向へ引っ張り上げた。
 頭の中の精一杯をちゃんと言葉に出来たかはわからないけど、心が編んだこの思いは目の前の人へ確かに伝えた。
 この体が粉々に砕けても、宿った魂と決意だけは絶えることない不屈だと。
 
 それが私からの宣戦布告なんだ。
 
『――っ! だから大嫌いなのよ、あなたがね!! …………まぁ、いいわ。最後のその時まで惨めにもがくしか出来ないのだから。ここにいる人間共々ね』
「ええ、あなたの望む以上にもがかせてもらうわ。前へ進み続ける人間の底力を見せるためにね!」

 リンディさんが高らかに言い放ち、あの人が眉をひそめるのが見えた。それ最後に通信は途切れ、モニターは黒一色へと戻っていった。

「……はぁっ――」

 ピリピリしていたブリッジの空気も少しはマシになっただろうか。みんなはどうかわからないけど、私だけは安堵感と達成感に心が包まれてなんだかこんな状況なのに心地いい。
 肺の空気が外へと逃げ出し、私の意識も遠くへ飛んでいく。
 限界なんてとっくに過ぎていた。意地を張るんじゃなかったと今更ながらに感じて、首を力なく垂れた。
 ちょっとだけ眠ろう。そうしてすぐに起きてアリシアに、母さんに会いに行くんだ。
 このまま終わるなんて絶対嫌だから。
 
 自分の終わりも始まりも、自分にしか出来ないことだから――。

スポンサーサイト
【編集】 |  01:10 |  なのはStep  | TB(0)  | CM(0) | Top↑

コメントを投稿する

URL
コメント
パスワード  編集・削除するのに必要
非公開  管理者だけにコメントを表示
 

この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック


 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。