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2008.08/31(Sun)

魔法少女リリカルなのはSTEP 二十話 Bpart 


【More・・・】


 歯車はとっくに狂っていたのかもしれない。

「アリシア……」

 名前を呼べば彼女はいつものように私へ無邪気な笑顔を向けてくれる気がしてしまう。
 けれどそれはありえないこと。この冷たいガラスに隔てられた向こうで漂う彼女は、もしかしたら二度と目覚めないかもしれないのだから。
 少しでも近づきたい。そう思って冷たい感触を額に感じる。

「裏切るつもりがとんだ茶番劇になったわね」
「ええ、まったくもって滑稽でなりません」

 後ろの気配に見てもいないのに気圧される。久方ぶりの再会は敵として牙を向けるのではなく、無様な道化として助けを請うことだった。

「あなたの仕業ですか……?」
「そんなこと、言った自分が一番わかっていることでしょ」
「ええ……当然。だからこそアリシアの身に何が起こったのかわかりますね」

 新たな拠点を作り上げ、小休止している所へアリシアは帰ってきた。小さな魔導師たちとの触れ合いは彼女にいい影響を与えたと表情で確認し安堵した。
 アリシアは微笑んでいた。私と目が合うと照れくさそうに頬をかき良い笑顔を咲かせた。

 そうして倒れた、唐突に――。

「こんなこと……普通の人間ならありえません」

 言いたくはないがアリシアは狭義で言えば普通ではない。体こそ正真正銘アリシア・テスタロッサのものだが、その精神はアルハザードの摂理によってプレシアから生み出された記憶の模造品。

(偽者だなんて認めたくありませんが)

 そんな私情はこの場には無意味だ。
 必要なのは何故アリシアがこのような状態に陥ったのかを知ることだけ。それ以外に私が欲するものは一つも無い。
 プレシアもその程度は見透かしているだろう。感情の無い眼で私を捉えたまま微動だにしないのは私を嘲笑っているつもりか。そんなものに今更屈しはしないが。

「ああ、可愛そうなアリシア。あんなお人形と戯れたばかりに心を壊されてしまって」

 わざとらしく振舞いながらアリシアが眠るポッドへ近づいてくる。そして傍らの私などには一瞥もせずにただアリシアを見上げ笑みを浮かべた。

「でも大丈夫。すぐに元気にしてあげるから」
 
 ――皮肉じみた笑みだった。

「私の記憶がある限りあなたの存在は約束される。それがアルハザードの約束」

 ポッドを愛おしそうに撫でる手つきだけなら、プレシアは本当に彼女の母親なのだろうと思えるかもしれない。
 私にはなぜだかそうは思えなかった。それはただの直感であっても私にはプレシアの思惑が母親のそれとは違うベクトルに向いている気がしたのだ。

「アリシアを……どうするつもりなのですか?」

 故に問う――。

「壊れた心を入れ替える、それだけよ。随分と鈍くなったわね……主の影響かしら?」
「今のアリシアは……どうなるんですか」

 主への侮辱に怒りを覚えるも……心の奥へ無理に沈めた。
 
「壊れたのなら新しくするだけのことよ」
「――あなたは!!」
「どの道、今のアリシアを直したところですぐに心は壊れ始めるわ。リニス、あなたはそれでもいいのかしら?」
「それは……」

 静かで、それでいて重い声が空間を震わせていく。

「私も驚いたわ。まさかあの人形がこの期に及んでアリシアを求めていたなんて」

 それは無い。
 フェイトはフェイトとして、アリシアはアリシアとしてそれぞれ違う道を歩んでいるのだ。そこに過去のアリシアはいないのだ。
 そんな願望あるわけが無い。

「多少は予想の範疇にあったけど……そうね、私が作ったせいもあるのだろうけど」
「……あなたは何を言ってるのですか」

 疑問の裏で柄にも無く私は怯えていた。顎に手を添え、思慮深げに考える彼女からは何も感じられなかった。
 彼女は何も考えてないのだ。ただ私の反応を面白がるために演じているだけ。

「ああ、これなら人形にアリシアの記憶を残すべきじゃなかったのかしら? 自己認識だけを取り除いたのは我ながら失敗ね」

 最初からこうなることを知っていた者にしかこの役は演じきれない。

「だからあなたは……なにを――」
 
 口の中が砂漠だ。
 眩暈がする。頭痛がする。吐き気すら催しそうだ。
 
「一体なにを……知っているのですか?」

 真実を知るな――真実を知れ。
 相反する思考が私の中を暴れまわる。

「ふふ……どうしたのかしらリニス? 声が震えているわよ」

 鼻で笑うな。虫唾が走る。
 加虐趣味なら他でやれ!

「大きすぎる力は所詮作り物には収まりきらない。無理に収めて保っていても、目の前に相応しい器があるとわかれば当然力はそちらへ流れ込む」

 座学でも始めるつもりか。魔力の流動現象など基礎中の基礎のくせにそれが今この場において何の役に立つ?
 
「わかるかしらリニス? どんな理も、常に最も安定した形をとろうとすることを」

 馬鹿にしてるつもりか。今度は科学の勉強会か?
 
「そのためには偽りを壊すことも必要」

 つまりそれは至極簡単な答え。 

「だからアリシアの心が壊れたと言いたいのですか? フェイトと、フェイトの心と出会ったから!」

 本当の心と偽りの体――フェイト。

 偽りの心と本当の体――アリシア。

「理解してくれたかしら?」

 出会うはずの無い矛盾が出会って欠けたものを知ってしまった。だから取り戻すために自らの偽りを壊す。
 たったそれだけのことなのだ。  
 そう、兆候なんていくらでもあったではないか。フェイトとの決戦前夜にアリシアが何気なく言っていた言葉や、フェイトとの戦闘で見せた教えたはずのない魔法。
 もしもフェイトの心がアリシアの中へ流れこんでいれば説明は出来る。

 知識や感覚、ましてや記憶の共有だって!
 
「もしもそうなら……アリシアはあなたが求めたアリシアに近づいているのではないですか? それを白紙にするなんて」
「別にどうも思わないわ。余興なんてそんなものでしょ?」

 その手がゆっくりとポッドから離れ、彼女が背を向ける。

「どれもこれも私にとっては必要の無いものだった」

 感情の無い声が木霊し消えていった。

「なのになぜ私の後をついてくるのかしら? あなたたちに希望なんて行く末はありえないのに」

 今度は忌々しく吐き捨てるように彼女は僅かに口調を早める。
 もしも面と向かっていたなら氷よりも冷たく、刃物よりも鋭い視線が突き刺さっていたことだろう。人を軽蔑するだけの最低の眼差しである。 

「もう私たちはあなたにはついていきません。希望は自分で掴みます」
「口先だけならいくらでも出来るわ。そうやって足掻いた結果がこれでしょうに」
「っ……それでも! それでもまだ全て終わったわけじゃない!」
「なら終わらせてあげるわ……今の世界を跡形も無く忘却の彼方へ!」

 冷徹の元に下されるは果たして神の審判か。
 一歩、また一歩と私たちから遠ざかっていくプレシアの背中には確固たる意思が感じ取れた。ともすれば邪悪で、ドス黒い感情の渦でしかないというのに。
 彼女はついに引き金を引くつもりなのだ。
 アルハザードに沈めた一つの世界を、己が望む過去へと再構成するという神にも等しい所業を。
 
「哀れな人形遊びはもうたくさん。そろそろ過去へ続く物語の幕を開ける時が訪れたのね」
「それで……それでその果てにアリシアはどうなるのですか!? フェイトは!?」
「そんなの私が知るわけ無いじゃない。捨てたものに執着はしない性分だから。そんなに気になるならあなたが拾えばいいでしょうに」
「そうやってミッドチルダも好き勝手弄って捨てるのですか! 自分の思いのままの世界を作り出すために!」
「問題無いでしょう? どの道、記憶を引き出した世界は――」

 心底つまらなそうに彼女は呟いた。

「消える運命なんだから」

 それが当然であるのかのように。

「そんなわけが……あるわけないでしょう!」

 例え記憶から過去を創造しても母体となった記憶は消えはしない。アルハザードの理は実に都合がいい。
 記憶ある限りの無限の創造が約束される。それこそがアルハザードの真の姿のはずだ。
 例えその規模が世界という存在を創造するにしても単位が違うだけ。創造に値する記憶は十分にあるではないか。
 「現在」のミッドチルダを犠牲にする必要は無い。有り得ない。
 今日に至るまでのミッドチルダの記憶を元に新たに「過去」のミッドチルダを作り出すだけで元となった「現在」はそこに在り続ける。
 もし「現在」のミッドチルダが「過去」の創造の代償にされるのならそれはすでに――

 ――アルハザードの理ではない!

「使い魔は主に良く似るわね。短絡的にしか物を見ることができないなんて昔のあなたなら有り得なかったというのに」
「普通に考えればそうでしょう! 代償の無い創造がこの世界の約束のはずです! それが覆されることはあってはならない!」
「それはどうかしら? 過去を作り出した記憶がどんなものなのか今一度考えてみればすぐに分かることよ」

 過去を作った記憶? 記憶は記憶だ。それ以上もそれ以下のものも無いだろう。
 記憶とは過去の姿そのものではないのか? 今まで自分が辿ってきた道の記録に間違いなどあるはずが無い。
 それを脳裏に浮かべ、アルハザードに種としてまけば過去がすぐにでも芽吹き結実する。プレシアはその事とは違うことを言っているのか?
 
「私が求めていたのは完全な過去の創造よ。それを成すためにはどうしてもこの記憶だけじゃ無理だった。リニス、あなたが教えてくれたことなのよ」

 私は残滓とはいえ私自身が在り続けられたから創造された特例だ。
 アリシアが持っていた記憶とも呼べない情報が呼び水となって彷徨っていた私の記憶そのものに形を与えただけなのだ。
 思い出した過去からでは無い。ただ純粋な過去から私はもう一度生まれることが出来た。
 私は決して他人の脚色された過去から生まれてはいない。過去にされ、思い出された末に生れ落ちた存在ではないのだ。

「そういう……ことなのですか?」

 私は気づいてしまった。
 これがもしも本当ならアルハザードの根底を揺るがしかねないほどの事実になることを。

「やっとわかったのかしら? 今更そんなことに気づいでもどうにもならないのにね」

 最高の皮肉を叩きつけられながらも、今一度、この刹那に思考した。
 静かに、それでいて嵐のような演算を繰り返し、端から端にたどり着く。

「記憶とは思い出すこと……そして思い出すということは」

 脚色された過去に過ぎない。半端な種では半端なものしかこの世界の理は与えてくれない。

「だから私の記憶からではアリシアは生みなおせなかった。我が子であろうと年月は眠っていた記憶を風化させていく。過去に縋ろうとも思い出すたびに歪んでしまっては始末に終えないわね」
「思い出さなければよかった……そう言いたげですね」
「ええ、まったく持ってその通り」

 完全な種は記憶そのもの。真の意味で全ての記憶がこの世界には必要だった。

「記憶なんて思い出せるのはほんの一部。忘れたと思っているような記憶だって私たちはどこかで覚えている。むしろ意識しない深淵の領域にこそ不偏の記憶があるということですね」

 思い出すということは記憶の海からほんのコップ一杯の水を汲んでくるだけの行為だ。それ故に本当の姿はおぼろげだ。少しでも本当の形にしようと補うのは過去でもなんでもないイメージの産物だ。
 そもそもコップの中の記憶だけで賄えるだろうなどと考えるほうが浅はかだ。理想で塗り固められた世界は過去ではない紛い物だ。
 決して思い出されることのない記憶を引き出した方が過去へ手が届く。

「そう! 真なる記憶全てをアルハザードに流し込むことが真なる創造となる! 神の所業にこそ代償は必要だったのよ!」

 ああ、滑稽ですよその姿は。そうやって高らかに叫べば叫ぶほどにあなたの哀れさが際立つ。
 アルハザードは記憶を形にしていたのではない。思い出に形を与えていただけで再現など微塵も行っていなかったわけだ。

「そのためのミッドチルダというわけですか。思い出すことのない記憶を使えば確かに過去は取り戻せるかもしれません」

 以前の自分の言葉を思い出す。
 ミッドチルダは補強部品。言い換えてしまえば、最初からこの地にプレシア自身の記憶と共にまくためのよく肥えた種ではなかったのだ。

「あなたの歪んだ過去を正すための肥やしがミッドチルダに眠る記憶全て」
「正解よ。まったくここまで教えないと分からないなんて堕ちたものね」
「今の私にとっては褒め言葉ですよ。過去と違うことを証明できるものなら何でもですが」

 ミッドチルダが消え去るのも頷ける話だ。
 覚えることで人は成長する。沢山の過去の積み重ねが今の自分を形作るなら、すべての記憶を引き抜くことは自我そのものを抜き出すことに等しい。

「それで記憶を失った世界はどうなるのですか?」
 
 記憶喪失の世界。
 果たして世界にもその定義が当てはまるかまでは分からないが、結末を迎えた世界は世界と呼べるのか?
 悔しいが想像すら許されない未知を前にしては私は余りに無力だった。 

「自己の同一性を失えば生命など脆いものよ。まして世界だってそれは同じ」
「……消滅するとでも」
「それは実際にやってみないとわからないわ。何しろ全てが前例の無いものばかり。仮に分かっていたところで私には関係ないことだけど」
「どの道消滅することに変わりはないんですね」
「消滅ではないわ! これは創世よ! 全ての記憶から私の過去を取り戻すのだから!」

 それはあまりに人知を超えた世界のお話だった。
 故に私は、いやプレシア・テスタロッサの野望を知ろうとした者たちは一人としてその全てを自らのものに出来なかったであろう。
 考えたくなかった――そういう言い訳もある。ただでさえ一つの世界がアルハザードという未知の世界の胃袋に飲み込まれている現状なのだ。理解の歯車は唐突に動きを止めてしまうだろう。

 だが全ての辻褄は合わさった。
 全てが一本の線で結ばれ真実が姿を現す――にはまだ足りないか。

「ならば何故あの世界にL・ジュエルをまいた意図は! もうすでに全てあなたの手の中では!?」

 フェイトたちが住まうあの世界がこの奇跡にどういう役割を担っているのかわからない。
 まさか以前の事件での報復のつもりか。そんなことをするほど目の前の人間の性格は捻くれてないだろうに。
 なによりL・ジュエルなどという代物をまいたことが無意味を否定する。

「繋がりなんてなくていいのよ。あの世界は生贄に一番最適だった」

 言葉の意味を理解するより早く彼女は続けていく。

「世界全ての記憶を抜き取りアルハザードへ注ぎ込む。これだけはアルハザードの理には存在しない。幸い私は記憶の扱いに関しては心得ている。人形作りがこんなところで役に立つなんて皮肉なものね」
「つまり後はそれだけの儀式を行う魔力があればいい、と。それこそ不可能です」

 あまりに規模が違いすぎる。もはや魔力の量なんて概念が通じる世界の話ではない。
 無限大の魔力を作り出す術も無ければ止める器も無い。アルハザードの理だって魔力なんて目に見えない不定形なものを作り出すほど都合がいいわけあるものか。
 しかしプレシアの言い分にするならあの世界こそが動力になるという。彼女が向こう見ずな行動をするはずが無いのだ。ならばその裏には必ず完璧な解法が隠されているの違いない。
 
 考えろ! 彼女の執念の果てに辿り着いた答えを! 

「――L・ジュエルはそのためにですか」
  
 自己複製が可能なL・ジュエルならあの世界に夥しい数のジュエルシードを産み落とすことが出来る。
 無数のジュエルシードを魔力媒体にして世界そのものへ魔力を充填すれば、それは超弩級の魔力タンクの完成に繋がる。

「あの世界ほど膨大な魔力を入れる器に相応しいものはないわ」
「そんな勝手な事情で! 器にされた世界はどうなるんですか!」

 激昂する自分をもう抑えることは出来なかった。

「むしろ光栄に思って欲しいわ。あれだけ因縁に満ちた世界を使ってあげてるのだから」
「その程度の理由で!? どこまで堕ちれば気が済むのですか! あなたという人は!!」
「これは私からの感謝のつもりよ。あの世界にいた魔導師が人形と戯れてくれたおかげで結果的には私はアルハザードへ行けた。それは厳然たる事実だから」

 いくら怒気を孕ませた言葉の刃もプレシアには掠り傷一つつけられない。私を完全に無視して自分のことだけを語り続ける。
 
「なら魔力を吸われた世界はどうなるのです! フェイトのいるあの世界は!?」

 魔力素というものは多かれ少なかれどんな世界にも存在している。世界に満ちた魔力は様々な形で自然を始めとする全てに干渉し、悠久の中で徐々に劣化し歪んでいく世界を正すのだ。
 ミネラルみたいなものだと考えればよいだろう。微々たる量で生命を支える絶対要素が世界にもあるということだ。
 結果論を先行させるなら、魔力の枯渇した世界は崩壊の運命から決して逃れられなくなる。狂いを正せなくなった皺寄せが世界を蝕む病巣と化す。

「聞きたいかしら? ふふ、いいわ教えてあげる」

 より一層口角を吊り上げ、ゆっくりと見開かれる目が妖しく光った。
 
「時が凍てつくわ」

 聞かされた答えは実にシンプルだった。
 
「異常な魔力に浸された世界では全ての事象、生命に魔力が注ぎ込まれる。今まで魔力の影響を受けなかったもの全てが魔力と結びつくことになるわ」

 全てが魔力で駆動する世界に作り変えられるわけか。
 そこから今度は魔力を根こそぎ奪い取ればおのずと結末は見えてくる。

「それで凍てつくと」
「動力がなくなれば止まるしかないでしょ? 世界全体が停止したなら、それは時が凍りついたも同然」
「なら凍てついた世界に雪解けは?」
「無いでしょうね」

 それだけが真実だった。

「まぁ元の形は残ってるのだからいいじゃない。失われたわけではないのだから」

 ――あなたが望むように。

 その先が続かなくても私には彼女の心の囁きが聞こえた気がした。
 
(どこまでも……どこまでも見透かしますか)

 私は縋っていたのだ。
 ミッドチルダが消えても、私たちが求めた新天地がそのままであるならそれでもいいと。見かけだけなら代償が無いアルハザードの理を信じていたのだ。
 例えミッドチルダが過去にされようと私には未練は無い。元々世界から隔絶されていた私たちには対岸の火事なのだから。
 彼女に反発しているのはある意味で偽善そのものなのだから。

「仮にあの世界が残ってもあなたには人形遊びをする人形が無いじゃない」
「人形じゃない!! アリシアも! フェイトも! もう過去じゃないんですっ!!」

 もう悲鳴にも似た激情しか私は吐き出せなかった。

「言ったでしょう? 最初から全ては余興。準備を整えるまでの暇つぶしよ」

 顔色一つ変えず彼女は言ってのける。そこに嘘、偽りは微塵も無い。
 だからここからがあなたの真実。
 

「幸せだった世界をこの手に。そしてその世界でもう一度――」


 希望を求め、世界に裏切られ、それでも些細な幸福を求め壊れてしまった彼女がたどり着いた――


「――アリシアを産みなおすの」


 ――答えなのだ。


「さぁ……行きましょう……アリシア……」

 愛おしそうに自らのゆりかごがある場所を撫でながら彼女は歩き出す。
 そこにはまだ希望は宿っていないから。

(……さぁ、どうしましょうかアリシア)

 その一歩こそ彼女が福音を受胎するための旅の始まりの一歩なのだから。

(私の主はあなたなんです。私はあなたの望むままに)

 遠ざかる過去に背中を向けて、向き合うは今と、これから続いていくであろう未来と。

「…………はい、必ずあなたを救い、フェイトを救い、世界を救います」 

 保存液の中で胎児のように眠るアリシアに私は誓う。

「ふぅ……まったく、あなたには笑顔しか似合わないんですから」

 薄緑がかった液体の中をふわふわと儚げに浮いていく玉は真珠のように輝いて見えた。幾度も、幾度も、それは生まれて仮初のゆりかごの中を浮上していく。
 決して泡なんて脆いものではないそれは唯一つの場所から生まれるアリシアの想い。

「プレシア……あなたに譲れないものがあるように私たちにも譲れないものがあるんです」

 閉じられていても、目尻から枯れることなく生まれるそれが私を突き動かす力の源だ。

 絶対に救ってみせる。

 救って、その溢れ出る悲しみを私が拭ってみせる。


「我……使い魔リニス」


 これが私の踏み出す――


「山猫の血と気高さにかけて、主に降りかかる全ての災厄をこの手で撃ち払わん」


 ――本当の一歩だ。

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