06月≪ 2017年03月 ≫07月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031
--.--/--(--)

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【編集】 |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑
2008.08/15(Fri)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第二十話 Apart 


【More・・・】


 見慣れた天井が目に映った。
 温かなクリーム色の下で目覚めた私の第一声は、

「あさ……?」

 なんとも気の抜けた自分らしくない声から。

「…………」

 落ちてきそうな瞼を持ち上げて辺りを見渡してみる。部屋の住人はなんら変わりない姿のままで私を見つめていた。
 机の上に寝そべっているのは私のカバンだ。開いた口からはみ出ているのは教科書よりもプリントの方が多い。

「あれ……? がっこう……?」

 なんであんなものばかりカバンに詰め込んでいたんだろうか? 男子みたいに机の中に押し込まない私には考えられない光景だ。

「今……何時だろう」

 カーテンから差し込む光の具合から、もうそろそろ家を出ないと危ない時間なはず。本来なら慌てるべき状況なんだけど、どうにも私の体は寝ぼけているみたいで言うことを聞いてくれない。
 時計を見れば十時――それはもうとっくに授業の始まっている時間だ。
 そうやって頭の中でいくつかの事実が合致した瞬間、私はこれまた素っ頓狂な声で自分へ遅めの朝を告げていた。

「え? わっ!? ど、どどどうしよう!! ち、遅刻っ!!」

 毛布を跳ね飛ばしながら壁にかけられているはずの制服を手に、

「な、ない!?」

 取れない!! あるはずのものがそこに無い!?

「こ、これじゃ学校行けないよ!!」

 なんで目覚ましも、そして誰も起こしてくれなかった!?
 泣きたくなるのをこらえながらカバンを抱えて、私は部屋を飛び出し、階段を猛スピードで駆け下りる。

「お、おはようございます!! 私の制服は!? それよりなんで起こしてくれなかったの!!」

 リビングの扉を開け放つなり一気にまくし立てた。

「あっ、おはようフェイトちゃん」

 そんな私を出迎えたのは他でもないなのはと、

「グッモーニン! お寝坊さん」
「よく眠れた? ちょっと寝ぼけてるみたいだけど」

 アリサとすずか、そして――

「おっはよ! フェイト!!」

 ――私……?

「あれ……? なんでみんな……」

 なぜか揃いも揃って私服姿でくつろいでいた。

「みんな学校……は……?」
「あんたね、起きてくるなり何かと思えば……」
 
 なんだかすごく呆れた顔をしながらアリサが私の胸元を指差す。
 そこには私が抱えていたカバンがあった。後先考えずに飛び出してきたから中身は昨日のままのはず。

「あっ、教科書……」
「フェイトちゃん……中に何が入ってるかちゃんと見ようよ」
「なか……?」
 
 なのはに言われるままカバンの中を漁ってみる。
 出てくるのは当然プリントばかり。わら半紙のナヨナヨした感触ばかりの中で、その一枚に書かれた太字の文字に目が留まる。

『夏休みの過ごし方』

 ……。

「えとフェイトちゃん、改めておはよう……かな?」

 そういえば今日からしばらくは学校に行かなくて良かったのだ。
 苦笑いしているなのはに段々と頭も冷静になって、私にとっての今日は二度目になることを思い出す。

「……うん、みんなおはよう」

 アリシアと本気の勝負をして、全ての力を出し切って、そのまま気を失って――。
 なんてのが顛末で決して夢の出来事だったわけではない。

「フェイトって朝弱い? 私なんて七時くらいには起きてたよ!」

 なんだか得意げに語る彼女は最初からこの家の住人であるかのように馴染んでいた。

「というよりアリシアの方が早すぎるんじゃない? あんな朝早く集まってるんだから少しくらい寝坊しても不思議じゃないわよ」
「元気ならすぐ起きれるよぉ。アリサだってそうでしょ? すずかだって」
「アタシたちは戦ってないしね」
「少し寝れば大丈夫だよね」
「なんだか私が元気すぎるって言われてる感じがする~」

 他愛ないやり取りも当たり前のように思えてくるのはやっぱりアリシアの性格が成せる業なのだろうか。拗ねていても顔には満面の笑みを浮かべて、アリシアはソファーに倒れるようにもたれる。
 ボフッと音を立てればアリシアは両腕を放り出して気持ちよさそうに背伸び。

「あはは、アリシアちゃんも実は眠いとか?」
「残念! わ、私全然眠くないよ!」

 そんな仕草じゃ眠気を誤魔化してるのバレバレなのにね。口に出すまでも無いよ。

「く、ふふ……」

 子供っぽいアリシアに自然と私も笑顔になる。

「あーーっ!! フェイトまでぇ!!」
「だ、だってそれじゃ丸わかりだってアリシア」
「ぶ~っ」

 普通の生まれ方をしていれば私たちは双子だ。だからこそここまで簡単に通じ合える。
 きっとお互いの心が覗けなくてもそれだけは変わらない。

「あっ、やっと起きたかフェイトちゃん」
「エイミィ! あっ、おはようございます!」
「うんうん、おはよう」

 タイミング良くリビングに入ってきたエイミィに少し遅めの挨拶をすれば、エイミィもそれに応じてくれる。

「あれ? リンディさんやクロノは?」
「艦長とクロノ君なら今アースラで作戦会議中。そういえば今日は面白いゲストが来てるんだよね」
「ゲスト?」

 言われてしばし考えてみた。
 アースラなんかに入れるなら私たち側の人間なのだろうけど、どうにも見当がつかない。一番有力なのはリニスだと思うけど、こればかりは確かめないとわかるはずもない。

「多分そろそろ終わる頃だし、みんなも行ってみたら?」
「でもお邪魔なんじゃ」
「大丈夫! みんなも良く知ってる人だから!」

 言い終えるより早くエイミィがアースラへの転送ゲートを起動させた。リビングの入り口が光に包まれ即席の転送ポートとなる。

「それにこっちにだってお客様がいるんだし、おもてなしぐらいはしてあげないとね!」

 エイミィの視線の先にはもちろんアリシアがいた。思いもよらない言葉だったのか、一瞬アリシアの顔に戸惑いの色が浮かぶのを私は見逃さなかった。

「大丈夫だよアリシア。もう私たち友達だもん。だからみんなで一緒に、今日を楽しもうよ」

 そう、もう私たちは敵じゃない。友達で仲間で、そして掛け替えの無い姉妹。
 
「今日は一日中みんなで遊ぶって二人で決めたことでしょ」

 勝負の行方はどちらが勝っても同じものだった。
 みんなで仲良く、何もかも忘れて一日中遊ぶ。はたから見れば呆れられるような願いだけど、私もアリシアも考えていたことは同じだったのだ。
 だからどっちが勝っても同じ。結局は二人揃って魔力切れという相打ちみたいな形で幕を閉じたけどこの願いだけは叶えられた。

(とは言ってもこれから叶えるんだよね)

 次々となのはたちが立ち上がり、遅れてアリシアも腰を上げる。相変わらず不安そうな顔でみんなの様子をうかがっていた。
 私はそんなアリシアに近づくと、

「――あっ!」
「ほら、行こうよアリシア!」

 その手を握りゲートへ向けて走り出した。

「フェイト……」
「もうそんな顔しないで。アリシアは笑ってたほうが可愛いんだから」

 素直な気持ちを伝えながら私はゲートへ飛び込んでいく。
 今日の始まりはまずアースラから。一体向こうに何が待ち受けているのか期待になんだか心が弾んだ。

「……ありがと」
「うん!」

 届いた声は囁かれるように小さかったけど、アリシアの気持ちが目一杯こめられた素敵な言葉。
 心にアリシアの喜びを感じ、私もアリシアに伝わるように嬉しさを心へ紡いでいった。

 芽吹いた絆をもっともっと大きく育てるために。

* * *

 目の前にいる人物に私は少し眩暈を覚える。
 
「おっ! 来たわねちびっ子ストライカーズ!」

 気さくに声をかけてくるその人がいたことを誰が予想できただろうか。

「お、お姉ちゃん……」

 いや、私はとっくに気づいていた。フェイトちゃん家に漂っていた魔力の残滓は、私たちの前に誰がいたかを教えてくれる証人であるわけで。

「あっ! 忍さんおはようございます!」
「あは、今日も元気ねなのはちゃんは」
「にゃはは! それほどでも」

 それで個人を特定できるのは私だけに許された密かな得意。正直、あんまりわかりすぎちゃうのもどうかと思うんだけど。
 というお話は置いておくとしても、私的にお姉ちゃんがここにいることは嫌な予感しかない。

「それにしても久しぶりかしら? こうやって全員揃ってるのもね」

 私たちの顔を見回しながら、うんうんと頷くお姉ちゃんの顔はやはりというか、当然というかあの子の前で止まる。

「へぇ……ほんとそっくりね」

 隣り合う二人を見比べながら、感心しているのか今度は軽く頷く。

「そ、そうですね……」 
「え、えへへ」

 好奇心一杯な瞳に見つめられている二人はというと、フェイトちゃんはたじたじになりながらも相槌を打ち、これが初対面となるアリシアちゃんはちょっと緊張しながらも愛想笑いでなんとか誤魔化していた。
 
「もうお姉ちゃん! 二人ともびっくりしてるでしょ!」
「え? あっ、ごめんね! ちょっち夢中になっちゃって」
「みんな見てるんだから……」

 抗議の声にお姉ちゃんも仕方なさそうに顔を離す。一体何に夢中になってのかわからないけど、単に双子が珍しかっただけだろう。しかも二人とも魔導師ということはお姉ちゃんにとっては絶好の興味対象だ。
 あの事件からというものお姉ちゃんはことあるごとにアースラへ出向き魔法についての知識をどんどん蓄えている。

「だってフェイトちゃんが双子だったなんて初耳なんだし。気にならない? 双子のテレパシーとかテレビでよくやってるし」
 
 ああ、そうやってなんでも魔法と結び付けようとしている。
 機械好きが高じて魔法のことにも首を突っ込むようになったのが私のお姉ちゃんだ。
 発達した科学は魔法――なんて言葉があっては当然そうなるだろうというのは、妹として薄々わかっていたことであって。

「確かに念話とかはあるけど……じゃなくて!」

 かく言う私もこれなんだけど……ね。
 
「今日はアリシアちゃんと遊ぶ約束してるんだから邪魔しちゃ駄目だからね!」
「わかってるって。ほら、怒らない怒らない」
「……怒ってないよ」

 実の所、よく庭でお姉ちゃんと模擬戦を称した魔法の試し撃ちをしていたりしている私では説得力なんて欠片も無い。
 こんな風に丸め込まれるのは年の功と言うべきなのか、単に私が甘いだけなのかな。

「しょうがないわねぇ。それじゃ最新作のとっておきの魔法、教えてあげるから!」
「また変な魔法作ったの?」
「変とは失礼ね。ちゃんとみんなで楽しめる宴会用よ」
「…………」

 口には出さないけど、もうどうでもいい感じ。お姉ちゃんの組む魔法はどれも滅茶苦茶な術式ばかりで、とてもじゃないけど実用に値する魔法は一つもない。
 お姉ちゃんはどうやらそれを意図してわざと組んでるみたい。未知の術式でどんな現象が起こるかはわからないから試す価値はあると思うけど。

(ごめんね、アリシアちゃん。なんだか騒がしくて)
(え? 大丈夫だよ! 賑やかなのと、面白そうなことは大好きだから!)

 念話ごしに弾む声が聞こえれば、私のほうを向いてアリシアちゃんがウインクした。

(だってなんでもかんでも教科書通りじゃつまらないでしょ?)
(そう言われればそうだけど)
(たまには大胆にならなきゃ人生損だよ!)
(そうなのかな……)
(私の知り合いに真面目すぎて困る人がいるからね)

 いつの間にか胸を張っているアリシアちゃんだった。
 もっともな言い分だけど、その知り合いが今の話を聞いたらいい顔はしないだろうな。いつも大胆すぎてちゃ身が持たないよ。

「というわけで術式のデータはデバイスに転送しておいたから」

 いつの間に、なんて感想は持たないことにする。

「じゃあさっそく発動してみてくれる?」
「い、いきなりですか!?」
「もちのろんよ」
「流石、忍さんですね」

 あまりの手際の良さに普通は驚くよね、なのはちゃん。
 褒めてるのか皮肉ってるのか、簡単に受け入れてくれるアリサちゃんにはこの場合感謝すべきかな?
 
「じゃあシルフ……申し訳ないけどお願いね」
『……Yes,mistress』

 きっとシルフも自分の中に送られてきた術式がどんなものかわかったのだろう。
 気のせいか、その声が重い。

『Zoo metaphor』

 滞りなく詠唱――。

「ん? ……あれ? 何にも無いよ」
「何にもって……えっ!? なのは、その頭……」
「わ、わっ!! えっ!? こ、これなになに!?」
「アリシアそれ尻尾……? まさか私も――」

 そしてお姉ちゃんの馬鹿。

「ウサギさん!? ふぇぇぇ!! なんでこんなのが生えてるのぉ!?」

 なのはちゃんの頭にはピンと真っ直ぐ伸びた真っ白な耳が、

「あはは、はは……はは」

 引きつった笑いに釣られるようにちょっとたれ気味な黒耳がぴょこぴょこ動いているのはアリサちゃんで、

「ふさふさだね……なんていうか」
「久遠みたいだね」

 お互いの耳や尻尾を触りあいっこしているフェイトちゃんとアリシアちゃんにはお揃いの耳と尻尾が生え出していた。

「なるほどね……個々の魔法資質や環境で変わるわけか」
 
 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、清々しいほどのしたり顔でお姉ちゃんが魔法の成果を確認していた。

「どう? 気に入ってもらえたかしら」
「気に入るもなにも……人のことを実験台にしないでよお姉ちゃん」
「はいはい、拗ねない拗ねない。家のネコたちとお揃いになれてちょうどいいじゃない」

 神経が通っているかのように自在に動かせる辺り、まるで本物かと自分を疑ってしまう出来栄えなのはちょっと悔しい。
 長くしなやかな真っ白な尻尾をくねらせながらみんなの様子を見れば、不思議と嫌がってないのが目に映る。
 
「うわぁ、フェイトちゃんもアリシアちゃんもきつねさんだぁ」
「へっ!? ひゃうん!! だ、駄目だよなのはぁ! 触っちゃ駄目だってぇ!!」
「ふさふさぁ……うにゃあ」
「同じイヌ科なのにアタシは見向きもしないのね」
「じゃあ私が触ろっか? それ!!」
「アリシア!? はひぃ!! ちょ、くすぐったいって、やめなさいってぇ!!」

 なんだか遠めに見ている方が損してるように思えるくらい賑やかさが伝わってくる。

「もう……今日だけだよ」

 敗北だ。楽しい一日の始まりにはこんなハチャメチャなことが起こったほうがいいに決まってるから。
 ちょっとしたお姉ちゃんの悪戯に少しだけ、ほんの少しだけ感謝しつつ私もみんなの輪へと加わろうと駆け出した。

「う~ん、やっぱり魔法少女にはこれくらい可愛いオプションつけなくちゃね!」

 耳とに届く不純な動機は聞かないフリで、私はみんなに向かって飛び込んでいった。
 
「ほんとだ! アリサちゃんもフェイトちゃんも、アリシアちゃんもみんなフサフサだね!」
「す、すずか!? あんたまで何やってんのよぉ!!」

 猫にでもなったみたいにじゃれ合いながら、私たちは飽きが来るまでこの不思議な魔法に浸った。
 笑顔しかない、笑顔だけが許される一日の始まり。
 敵も味方も関係ない。ここにあるのはただ一つ。
 
 友達っていう素敵な関係だけ。 

* * *

 四人から五人へ――。

「あっ、ごめんなのは。マイク取って」
「うん、はいアリサちゃん」

 テーブルの対角線を結ぶがごとく端から端へとマイクがリレーされる。
 程なくして伴奏が室内を満たし、アタシは軽く息を吸い込む。口元にはすでにマイクがスタンバイしてソロライブの準備は完璧だ。
 画面に現れる歌詞は必要ないのでまったく見ない。十八番にはそれがアタシなりの礼儀だ。

「きっほんてきには一本気じゃない~♪ いつもどこでもうっつりぎなの♪」

 軽く手振りをつけながら茶目っ気たっぷりに。これがこの曲で一番大切なポイントだというのはアタシの持論。
 テーブルの下ではつま先に軽快なリズムを刻ませながら、アタシは駆け抜けるように4分55秒を歌いきる。
 観客はアタシの歌いっぷりに顔を輝かせたり、のぼせたような顔をしたり、いつも通りの風景にアタシも鼻高々だ。

「……ふぅん、でもまだまだだよね~」

 そんな空気をぶち壊すように新参者が鼻で笑う。

「それ、挑戦状かしら?」
「もっちろん!」

 フェイトからもう一本のマイクを受け取ればその子はご機嫌な表情で立ち上がりリズムを取り始めた。
 映し出される歌詞を隠すようにブラウン管から背を向けて、奏でられるピアノに調べを乗せれば、

「よどんだ空気、抜け出せるよにー♪ 教えてくれたよね♪」

 案の定というか、やはり場違いな歌声がアタシの耳へ流れ込んでくるわけだ。

「無数の願いつかみとろぉ~~~♪」 

 ライバルはフェイトだけじゃない、ということらしい……。

「ん~、少し最後伸ばしすぎたかなぁ」
「そうかな? 私はいいと思うけど」
「フェイトがそう言うならまぁいっか。ふふん、どうアリサ? 私だってこれくらい朝飯前だよ!」
「うぐぐ……あんたって可愛くないわね」

 確かに顔はそっくりだけど、やっぱり全然違う目の前の子。
 明るく強気で、子供みたいな無邪気の塊。フェイトの性格がひっくり返ったならこんな風になるのだろうか。 
 短い間ではあるけどアタシから見たアリシアのプロファイリングはこんな感じだ。

「それじゃ今度はデュエットしようよ! いいでしょフェイトぉ!」
「で、でも私うまく歌えるかな。いつも一人で歌ってたから」 
「下手だって大丈夫だよ。それにフェイトならぶっつけ本番へっちゃらだよ! 私の保障つき!!」

 フェイトに寄りかかりながら巧みな言葉でデュエットに誘う。
 なんだか妹が姉に甘えているような感じだけど、生まれた順ならアリシアの方が先であるわけでこれまた不思議な光景だ。

(よく考えたらアリシアが全部の始まりなのよね……)

 なのはがフェイトと出会ったPT事件。ある大魔導師が失った大切な人を取り戻すためにもがき続けた悲しい事件だ。

「力をあわせたら~♪」
「やっと~走れる気がする~♪」

 その顛末を聞いてアタシだって最初は変に思った。だって古代文明の力でアリシアはこの世界に戻ってきているのだ。なら当初の目的は達成されているはず。
 なのに事件は終わらない。それどころか前回よりも大変な事件へ規模が拡大し続けている。
 災難なんてレベルで終わらせられるなら可愛いもの。降り注ぐ事件の一つ一つが、少なからず何かを変えるきっかけになってしまえばそんなこと言えるわけないんだけど。

(一体何を叶えたいのよ……)

 大人の考えは時々わかるようで全然わからなくなる。結局は何も知らないからそこまで考えが及ばないのは言うまでもないけど。
 
「アリサちゃん? どうしたの?」
「ぇ!? あっ、なんでもないわ」

 隣からの不意打ちに現実へ引き戻される。見ればすずかが心配そうに見つめていた。

「アタシたち……止められるのかしらね」
「止めるって?」
「この事件よ。考えたら人間一人二人の力でどうにかできる規模じゃない気がしてね」

 改めて考えてみるとスケールが違いすぎる。
 世界を一人で救えるほど現実は甘くないし、かといって頼れる仲間が数人いたところで焼け石に水だ。
 アタシたちがやろうとしているのはまさにそれ。ゲームみたいな奇跡を成し遂げようとしているのだ。

「出来るよ」

 すずかにしては珍しく力のこもった声だった。

「ただ出来るって言うだけなら誰でも出来るわ。問題はそれを現実に出来るかってことよ」

 そう、ちっぽけすぎる力じゃ敵わないことだって世の中にはたくさんある。ご都合主義でみんながみんなハッピーエンドになるなんてあるわけないんだから。

「この町だけじゃ済まない問題なんだからね。もしかしたら世界を二つ救うのよ」
「だったら救えばいい。簡単なことだよ」
「簡単って……」

 決して冗談じゃないことは目を見ればわかる。
 だけどそこまで真っ直ぐアタシを見つめられる自信はどこにあるのだろうか。

「アリサちゃんは出来ないって決めたらあきらめるの?」
「あきらめるわけないでしょ」

 どんな絶望的状況が襲ってきても、最後の最後、本当に終わりが来るまでアタシはあきらめるわけがない。
 あきらめたって終わりに向かう時間が止まるわけがない。だったら惨めなまでに最後まで悪あがきするのがアタシ――アリサ・バニングスだ。

「じゃあ大丈夫」

 少し険しい表情をしていたすずかの顔はいつの間にか綻んでいた。

「一人があきらめなきゃみんなあきらめない。みんなが希望を信じてればどんな奇跡だって起こせるよ」
「すずか……」
「もしも本当に出来ないなら私たちが出来るに変えてみせる。始まりになればいい」

 そうよ、そうなのよね。
 世界は救えないわけじゃない。大体、世界を救うなんて誰もやってないじゃない。出来るか出来ないかなんて最初から決まってたまるか。
 
「そうよ! 簡単じゃない!!」

 ならば前例になる! 答えはそれだけだ!

「サンキュー! すずかのおかげで目が覚めたわ!」

 誰かに励まされるのってこれで何度目だろうと回想しかけて即座にブレーキ。弱気になって、励まされて前よりずっと強くなる。
 それがアタシなら何も気にすることはない。アタシは一人で戦っているわけじゃないんだから。

「ふふ、どういたしまして。リリカル・ストライカーズのリーダーにはしっかりしてもらわなきゃね」

 その笑顔が悪戯っぽくなる。
 そんなすずかを見てしまうとなんだかうまい具合に乗せられた気もするが……。
 やっぱりそれがアタシってこと?

「任せなさい!! もうなにが来たってぶっ飛ばしてやるわ!!」
「えっ、アリサちゃん次わたしの番」

 転がっていたマイクを高く掲げる。なのはの声が聞こえた気もするがきっと空耳だろう。結構この中って五月蝿いし。

「景気づけにどんどん歌うわよーっ!!」
「あはは! アリサもやる気だ~! じゃあ今度はトリオで歌おう!!」
「いいのかな……私たちだけで盛り上がっちゃって」

 ボルテージは一気に頂点へ。
 カラフルな光の乱舞と踊りながら、世界中へ届かんばかりに決意と歌声を張り上げるのだった。

「無理難題!! なんでもかんでもやってやるわよ!!」

 それがアタシたちストライカーズなんだからっ!!

* * *

「それじゃ明日どうする?」
「ん~……やっぱりL・ジュエルを探したほうがいいよね」
「え~! もう一日くらい遊んでも大丈夫だよぉ!」
「アリシアちゃん……いくらなんでもそれはちょっと」

 腕を組みつつみんなの意見を取るアリサに当然ながら目的を優先させるすずか。
 今日がそんなに楽しかったのか、遊び足りなさそうなアリシアはやっぱりもう一日の休日を要求。 
 困り顔でそんなアリシアをたしなめるなのは――。

「そうだよアリシア。早く全部のL・ジュエル回収しなきゃ」
「そーだけどさ~……」

 ごねるアリシアにちょっとだけ共感しちゃうのはやっぱり心がわかるから。悲しい色なんてどこにもない心の中は触れ合うだけでとっても嬉しくなる。

「すぐに終わらせればまた一緒に遊べるよ。だから、ねっ?」
「はぁい……」

 もうほんとにこればっかりはおかしくなる光景だろう。
 なのはたちから見ればきっと私がお姉ちゃんでアリシアが妹だ。なんて言うかお姉ちゃんの気分ってこういう感じなのかな?
 やれやれと思う反面、アリシアが可愛くてしょうがないんだから。

「うう、フェイト思いっきり馬鹿にしてるー!!」
「ごめんごめん。でもアリシアだって」

 ――可愛い妹の言うことだから大人しく聞いてあげる。
 なんて心の中で思いっきり譲ってるつもりなんだから。これじゃ逆に馬鹿にされてる気がする。
 
「そういえばアリシア今どこに住んでるの?」
「んとね、遠見市だよ。実はフェイトが暮らしてたマンションなんだ!」
「リニスもそこに?」
「うん! 引越しとか全部押し付けてきちゃった!」

 舌を出し笑うアリシアに私は苦笑い。今頃リニスは引越しのゴタゴタでクタクタになってるんだろうな。

「私の家でもいいと思うけど。きっとリンディさんも許可してくれるよ」
「でもリニスが遠慮すると思う。それに全部終わったわけじゃないし」

 今まで隠していたものが溢れ出すかのように突然しゅんとするアリシア。心の中にも暗い色が差し込んでいた。
 
「早く……全部終わらせようね」
「うん、母さん止めなきゃ」

 私たちに課せられた使命はそれしかないんだ。これ以上悲しみが世界を覆わないようにするためには母さんを止める以外方法はない。
 だから戦う。裏切り者だって罵られても戦う決意をアリシアは秘めている。なのはと一緒に母さんを止めようとしたあの時の私みたいに心に傷をつけて。

「じゃ……お開きにする?」
「うん、待っててくれてありがとアリサ」
「当然よ。体もそうだけど心のコンディションも万全にさせるのがリーダーの務めなんだから」

 自信満々に言ってくれるとなんだか沈んでいた気分も少しは楽になる。
 アリサのこういう気配りのいい所は素直に羨ましい。私ももう少しみんなのことを考えなきゃ。自分ばっかりでもいけないしね。

「さてと。明日はアースラに集合でいいかしら? やっぱりユーノやクロノ、他のみんなも交えて作戦練らないと」
「わたしも賛成。家でも最近ユーノくんと全然魔法のお話してないし」
「私はお姉ちゃんと魔法の……技術のことばっかりかな」

 確かにこれじゃいけない。勝手に動くのもいけないし、やっぱりみんなで作戦会議だな。

「決まりね! そういうわけで今日は解散……と行きましょうか」
「うん! では高町なのは、今日はこれにて帰りま~す!」
「ばいばい! なのはー!」

 最初になのはが家路へ。
 
「それじゃ私も。近くにノエルが迎えに来てくれるみたいだから」
「アタシも鮫島呼ぼうかしら? ちょっとはしゃぎすぎたしね」

 続けてすずかが、携帯で迎えを呼んだアリサもしばらく私たちと話をした後に帰っていく。
 やがて残された私たちも、また正反対の道歩き出していく。

「また明日! フェイト!」
「うん、また明日だねアリシア!」

 ちょっと振り返れば同じタイミングで今日の別れを告げた。

「……帰ろっか」

 後はもう私の家へと帰るだけだ。
 アースラ、カラオケ、その後はアリサの家にすずかの家。最後の仕上げに翠屋でお茶をして――。
 実は一日で相当無茶なスケジュールを消化してきたことを今更ながらに思い知る。途中で認識阻害使ってまで空飛んだりしたし。それぐらい移動時間を省かないと回れなかったのだ。

「ただいまー!」

 大変だったけどそれ以上に楽しかった。私もアリシアも心の中を楽しいで一杯に出来た。

「みんなアースラかな?」

 リビングには誰もいなかった。きっとアースラのほうに行ってるんだろう。
 もしかしたら買い物だったりするかもしれないから、晩御飯までは時間がありそう。
 
「ふぁ……でも疲れたな」

 ちょっとご飯まで眠るのも悪くないかもしれない。そう思えばもう足は階段を駆け上がっていた。
 ドアを開ければ窓から一杯のオレンジ色が私を迎えてくれる。ちょっと眩しくて目を細める。 
 少し寝にくいかなって思ってカーテンを閉めれば部屋は闇に満たされる。隙間からわずかな光が漏れているけどこれぐらいなら気にならないだろう。

「この戦いが終わったら……私たちどうなるのかな?」

 母さんはどんなことがあっても管理局に逮捕されるだろう。それでどんな罰を受けるかは大体予想がつく。多分、二度と会えないだろう。
 そしたら私も、アリシアもリンディ提督の養子になるのかもしれない。少し悲しいけど、それはそれで一つの結末だ。
 
「家族か……」

 記憶の中にあるアリシアと母さんの記憶。その中にある母さんの笑顔はもう戻ってこないのかな?

「アリシアは……どう思う?」

 暗闇に問いかけ、心を感じて――。

「そう……だよね」

 アリシアの心は寂しげに揺れるだけ。わかっていても止められないのだ。変えられない運命、変えてはいけない運命が私たちを待ち受けている。

「もう一度、母さんに会わなきゃいけないよね」

 終わりと始まりは常にそこにある。そこにしか私たちと母さんを繋ぐものは無い気がした。
 
「うん、頑張ろうね。アリシア」

 心に決意が芽生え、私もアリシアも覚悟を決めた。
 繋がる想いは一つに。一つの大きな願いになる。

「ん、ふぁ……」

 流石に少し眠くなってきた。暗闇が眠気を加速させたみたいだ。
 ちょっと危なっかしい足取りでベッドへ向かう。

「ひぅっ!? ――ゴホッゴホッ!! ゲホッ!!」

 急に喉からこみ上げるものに激しく咳き込んだ。
 埃でも吸い込んだのかな? まさかこんな季節に風邪でも引くわけが、

「ぐっ! うっ!? ケホッ……ゴホッ!!」

 激しく、内臓がひっくり返るような痛みに目の前の景色が二重にぶれた。
 
「な……に?」

 口を覆っていた手に違和感を覚える。
 何かがベットリと張り付いて気持ち悪い。口元から何かが垂れている。腕にも伝っているのか生暖かい感触が伝わってきた。
 それが何か見極めようと自然と掌へ視線が落とされる。

「えっ……?」

 暗闇の中でも、その「赤」は鮮明に私の網膜に映し出された。

「……なに……これ……?」

 自分から出てきた真実を受け入れられない。口の中が一気に生臭くなる。神経を切断されるように足元か感覚がなくなっていく。
 目の前が白く染まっていく。耳に届く音は一つとしてなく、自分が呼吸しているのかさえわからない。
 膝からカーペットへ。私は崩れるように、前のめりのまま床に叩きつけられていた。

「……あ……うぅ」

 言葉を生み出せない。全身がブリキになったみたいに固く、重い。這うことすら出来ない。
 
「あり……しあぁ……」

 苦しい――頭の中はそれだけだった。
 そして意識が途切れる。

 私が今日見た最後の景色は、闇の中カーテンの隙間から夕日が差し込み、微かに部屋を照らしていた幻想的な光景だった。
 でもそれだけ。それ以上の感情は生まれない。

 何が起きたのか――それを考える暇すら私には無かったから。

スポンサーサイト
【編集】 |  22:54 |  なのはStep  | TB(0)  | CM(1) | Top↑
●管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2008.08.17(日) 23:52 |  | コメント編集

コメントを投稿する

URL
コメント
パスワード  編集・削除するのに必要
非公開  管理者だけにコメントを表示
 

この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック


 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。