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2008.06/08(Sun)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十九話 Bpart 


【More・・・】


みんなとカラオケに行って、いつも以上に思いっきり歌って――。

「……ふぅ」

 一人海沿いの道を歩きながら私は明日へ思いを巡らせる。

「昔の私たちを終わらせる戦い」
 
 それが私とアリシアが交わした約束だ。
 夕焼け空に水平線へ沈みゆく太陽と、隣の道路を行きかう車に視線を移し変えながら、ちょっと遠回りな家路を私はゆっくり進んでいく。

「今までの自分……昔の自分……」

 逃げることも、捨てることもしないで、立ち向かって終わらせること。

「終わらせて始める」

 一度目は今の自分と向き合い、そして自分の新しい道を選んだ。あの子が差し伸べてくれた手を私は選んだんだ。
 そして二度目は昔の自分と向き合うこと。アリシアという本当にあるべきだった自分と向き合うことだ。
 
「私だって同じ……だよね」

 きっとそれは過去の幻影だと思う。だってアリシアも本当のアリシアじゃないから。
 私たちは「アリシア」から生まれた別の存在なんだ。
 決して「過去」ではなく「今」を歩く二人であって、そこには「アリシア」の姿は面影だけが残る。
 
「だから始めなきゃいけないんだ」

 その面影を振り払って、そして新しい道へ一歩踏み出す。
 本気の勝負で何もかも吐き出して、終わらせる。その先にある始まりを信じて私たちは互いの力をぶつけ合う。

「……ちょっと硬いかな」

 なんて格好つけてみても、傍から見ればつまらない意地のぶつけ合いのだけかもしれない。もちろん見方を変えればケンカにも見えるのかも。
 そうするとまた最後はなのはに二人揃ってアレでお仕置きされるのかもしれないと思うと……ちょっと尻込み。
 もちろんそれで引き下がるような私じゃないけど。

「時間ないからそんなに対策は無いけど大丈夫だよね」

 負けない。
 気持ちだけなら絶対負けない自信がある。

(気持ちだけなら……)
 
 それならアリシアだって同じ気持ちだ。

「心……なんだよね」

 両手を静かに胸に重ねる。
 とくん、とくん、と鼓動を感じて、静かに息を吐いた。
 染み渡るようにじんわりと流れこんでくるこの温かな気持ちは今のアリシアの気持ちだ。アリシアも明日の勝負に備えてリニスと作戦会議みたい。
 でも難しい話は放っておいて、もうリニスとお茶を飲んで笑ってる。

(念話……とは違うな)

 そのイメージだって断片的に頭の中に刻まれていく。まるで私とアリシアが何かで繋がれてるみたいに。
 強い感情になるほど私とアリシアの繋がりは深くなる。強くなれば強くなるほど、より鮮明に想いが伝わってくる。きっと私も同じだから。

「不思議だな、精神リンクとも違うし」

 アルフとだってこんな強い結びつきは無い。まるで違う場所に私がそれぞれいるみたいだ。
 思い返せばアリシアの心が分かるようになってきたのは最近というわけではない。
 以前、アリシアとリニスを協装結界で閉じ込めた時だって、私はアリシアの苦しさを自然とわかっていた。気には留めていなかったけどそれも今の前兆だったのかもしれない。

「はぁ、駄目だよフェイト。今は明日のことに集中しな――あっ!?」

 難しく考えるのは悪い癖だ。大事なことを先ずは見つめることが肝心。
 なんて思ってた矢先に景色が上下にぶれた。幸い両手で地面を捉えて衝撃は殺せたけど。

「いっ……たぁ」

 鈍痛が手のひらから伝わって熱を帯びていく。
 こんな道の真ん中で転ぶなんて恥ずかしい。あれこれ考えていたせいで足元を全然気にしてなかった。

「制服が汚れちゃった……」

 自分の体よりも先に制服の心配。みんなから貰ったプレゼントを粗末にしちゃいけないんだから。
 砂を手で落として用心深く見つめれば、やっぱり所々が黄土色で薄く染まっていた。自分の不注意の賜物を見せ付けられるのは最悪だ。
 明日から夏休みだったことが救いなのかもしれないけど、私はそこまで楽観的に考えられないわけで。

(うぅ……もう駄目駄目だよぉ)

 なんだか大事なものに傷をつけてしまったみたいな気持ち。自分のドジに泣きたくなってくる。

「なんだかアリシアみたいだな」

 あっちこっち考えて大事な所を見忘れてるなんてまさにアリシアの性格そのものだ。本人が聞いたら怒るだろうけど、普段の私はこんな失敗はしないから。

「もう、今度は人のせいだ」
 
 自分を棚に上げちゃいけない。今のはアリシアのせいじゃなくて私のせいだ。
 
「そうだよ私は私なんだ。だから終わらせるんだから!」

 大きく頷けば、私は沈む夕日に向かって宣誓する。大事なことは自分の気持ちを信じることなんだ。
 弱気な気持ちじゃ全部終わらせられない。

「全力全開だよね」

 なのはの言葉を胸に借りて、私はもう一度夕日に向かって声を上げる。

「頑張れフェイト! 負けるなフェイト!」

 自分から自分へ叱咤激励して、なんだか急に気恥ずかしくなって顔が熱くなった。

「えへへ……ちょっと力入れすぎかな」
 
 照れ笑いをしながら再び歩き出す。今度はしっかり前を見て一歩を一歩を大きく踏み出していく。
 
 前へ前へ、今日から明日へ――。

* * *

「しかし……何と言いましょうか」
「どうしたのリニス?」

 ティーカップをコースターにゆっくり置きながらリニスが言いにくそうに口を開く。

「あなたには緊張感というものはないんですか?」
「ないよ!」
 
 ――即答。

「……はぁああ」

 あっ、失望された。

「肝が据わってると前向きに考えておきます」
「ちょ! 自己完結しないでよぉ!」
「じゃあなんと言ってもらいたいのですか? アリシアは」

 視線を鋭くしながら口を思いっきり尖らせる。
 これはネチネチと悪戯を追求するような、私の大嫌いベスト3に入ってる小言フォームだ。

「えっとぉ……ほらポジティヴシンキング、えへへ」

 ちょっとふざけ過ぎたのかなぁ、と思いつつ苦笑い。
 私の答えにリニスは片手を額にため息だった。うん、やっぱり駄目だった。

「結局はどちらも楽観視……ですね」
「人生は前向きじゃなきゃ駄目なんだよ! 今日は駄目でも明日はきっといいことあるんだよ!」
「確かにあなたが言えば不思議と言い得て妙なものになりますが」
「でも後ろ向きな人より百万倍マシでしょ?」

 身を乗り出してリニスと睨めっこだ。悪戯っぽく笑ってしまえば大抵リニスは根負けしてくれる。

「……今日は負けません!」
「ふぇ!? いたぁ!」

 目の前に現れる右手から繰り出される一撃。弾かれた指が小気味よく音を立てて私のおでこへ直撃した。
 指一本のクセにまるで石でもぶつけられたような衝撃に思わずのけぞる。
 ゴツン! ってどう見ても指先だけの力じゃないって突っ込みたくなるのは、私の大嫌いベスト2のデコピンである。

「実力行使は反則だよぉ」
「雌雄を決する戦いを前に弛みきってるからです!」
 
 それは言い得て妙である――なんてリニスの真似をしてうんうんと心の中で頷くのが私。

「わかってるけどさぁ……でも今から準備しても付け焼刃でしょ? 一夜漬けは駄目って言ったのリニスだよ」
「当たり前でしょう。戦いは知識と技術、そして経験を一つに集約する場所です。そんなものを一晩でやるなど愚の骨頂です!」
「だからこうしてお茶でリラックス!」
「リラックスしすぎの間違いでは?」

 うっ、なんだか嫌な予感……。
 これは私の大嫌いベスト1のリニスお説教フォームの入り口だ。何か話題を摩り替えないと寝る前まで延々とお説教を貰う羽目になる。
 それだけは絶対イヤ!!

「まったくフェイトならこんな時は言われなくても戦術の勉強をしますよ」
「フェイトだってあれこれ考えて転んでるよ」

 そうだよ。私のこと考えたり、明日やそれからずっと先のこと考えて、頭ゴチャゴチャになって転んでた。
 
「そこまでフェイトは抜けてません。私が教育したんですから」 
「でもでも! 今は違うでしょ!」
「確かにそれはそうですが……」
 
 環境だって全然違う。学校に通って、友達とお喋りしたりお弁当食べたり……勉強したり。
 だからフェイトはあの頃から変わってる。母さんの言いつけを大切に守ってジュエルシードを集めてたあの頃とはもう違うんだ。
 どんどん明るくなって、笑顔をたくさん見せるようになって、どんどん前へ進んでる。

「……まるで今のフェイトを覗いたみたいな物言いですね」
「別に……ただそう感じただけ」

 嘘だ。
 ほんとは知ってる。フェイトが何をしていたのかハッキリとわかる時がある。
 
「ねぇ、リニス」
「なんですか?」
「私とリニスは精神リンクで繋がってるんだよね?」
「はい、使い魔とはそういうものです」

 私はフェイトの心を知っている。全然、不思議にも思わないまま受け入れている。フェイトの考えてることや強い想いが時々だけどハッキリと感じられることがあるのだ。
 フェイトとあの約束をしたここ数日はフェイトの歩んでた記憶だっておぼろげだけど流れてくる。

「もしもリンクが強くなりすぎてお互いの心や記憶が常に流れ込んでいたら……二人はどうなるのかなぁ」 
 もしもその心が、記憶が自分の物なのか分からなくなるくらいたくさん流れ込んできたら……。

「確実にアイデンティティが失われますね」
「あいでんてぃてぃ……?」
「つまり自分自身を自分だと信じられなくなる、ということです」
「自分が無くなるの……?」

 全てがぐちゃぐちゃになった先にあるものは自分じゃない自分。
 それはまるで私が自分をアリシアだと信じられなくなったあの時みたいに……?
 
「主と使い魔という関係はありますから……そうですね、そうなると似たような志向を持つ、ということになるのでしょうか」

 それはつまり完全に溶け合うってことは無いってことなのかな。
 でも段々と二人は似てきて……どんどん同じ存在になって行く。

「知らぬ間に考え方がどんどん近づいていって、最後は限りなく同じものへと変わる。……駄目、上手くまとめられません」
「リニスでもわからないの?」
「わからない……というよりはそんなケースに出くわしたことはありませんからね」

 それはそうなんだろう。私は確かに精神リンクをいつもリニスへ全開にしてる。もちろんそれによってリニスのおぼろげな感情を汲み取ることも出来るし、逆もある。
 けどそれで私がリニスみたいに気難しくなることはないし、リニスが私みたいに能天気になることもない。
 やっぱり違うから。私もリニスも全然違うから。

「確かにリンクを通して記憶の伝達は可能です。ですが普通はそこまでリンクを拡大することはありません。主が意図的に……ならばですが」

 視線を逸らしながらリニスが顔を歪めた。
 何か嫌な思い出でもあるのだろうか。

「魔法には幻惑など心へ直接影響を及ぼす物だってありますからね。魔法で集団の意識を統一して扇動することだって可能ですから」
「じゃあ使い魔以外でもそういうことってあるのかなぁ」
「無い、と言っておきます。他人同士では相手の感情は異物ですから。心が自然と防ぐはずです」

 じゃあ例え私とフェイトみたいな、双子みたいな存在でも混じりあうことはないんだ。
 なんだかそれですごく安心した。

「それにしてもなんでこんなもう妙なことを?」
「えっ? あ、あはは、急に不思議に思ったんだ。毎日一緒に暮らしてて、なんでリニスみたいな小難しい顔にならないのかなって」

 慌てて誤魔化していた。大げさなくらいに手と首を振って、どうやっても丸わかりだっていうくらいに私は自分の本当の気持ちを隠した。

「少し問題のある発言ですが見逃しましょう。些細なことにも興味を持つのは学問では大事なことですから」

 一瞬、考えて怖くなったんだ。
 もしもこのまま二人の心が混じり合っていったら私たちはどうなるのか。アリシアでもない、フェイトでもない子がそこにいることになるのではないか。
 私ってどこへ行っちゃうのか。フェイトはどこへ行っちゃうのか。考えても決して出てこない答えに怯えていたんだ。

「ではついでに高速詠唱の術式について学びましょうか」
「えーーっ!? やだよー! だって一夜漬けは」 
「ちょっとした裏技ですから。これくらい本来は勉強に入りません」

 人差し指を立てて悪戯っぽくリニスが笑う。
 
「そ、それってどのくらいで終わるの?」
「そうですね……三十分ぐらいですか」

 なんてしたり顔で言われても信用できないのは私だけじゃない。
 絶対一時間は勉強させるつもりだ……。

「フェイトに勝つにはそれくらいの努力が必要なのです」
「うぅ……いじわるぅ」
「ふふ、意地悪で結構。いずれ私の教えに感謝する日が来るのですから」

 そうやって始まった勉強会は私の予想を遥かに超えて続いていった。
 仕舞いには実技までやらせて本当に明日のことを考えているのか疑いたくなっちゃう。負けたら絶対リニスのせいだ。
 でも私は負けないよ。絶対、アリシアとして、お姉ちゃんのプライドにかけて、フェイトに勝つんだから。
 
 明日へ、踏み出す一歩は負けないよ!! 

* * *

 一瞬緑色に染まった空はすぐに元の藍色へと戻っていく。
 張られた結界はユーノくんが頑張ってくれたもの。時間をずらす封時結界はもうすっかりお馴染みのわたしたちの世界だ。
 これで後はすずかちゃんが防御結界を張ってくれれば、ちょっとやそっとの攻撃じゃ破れない理想の舞台が完成することになる。
 もしもの対策は万全。これなら二人がどんな戦いをしても誰も迷惑はかからない……と思う。

「用心とはいえ少し早すぎたかな」
「ふぁ……えっ!? だ、大丈夫だよ! 全然眠くないから!!」

 ユーノくんの声におっきな口を大慌てで閉じる。目だって勢いよくこすって証拠隠滅を忘れない。
 
「なのはぁ……それじゃ説得力ないって」
「そ、そんなこと……ないもん」 

 そんな甲斐無くユーノくんにはもうバレバレで。
 女の子としては思いっきり恥ずかしい姿を見られてしまった。

「まだ時間はあるし少し寝る? 時間になったら起こしてあげるから」
「だ、駄目だよ! ユーノくん結界の維持で大変でしょ!」

 ほんとはそんな理由じゃないんだけど誤魔化すにはそれしか思い浮かばなくて。
 大あくびだけでも恥ずかしいのに、もし眠って寝言とかユーノくんの前で言ったら恥ずかしいなんてレベルを飛び越えちゃうよ。
 無防備な姿だけはユーノくんには見せたくない。なんだかよくわからないけどそう感じたんだからしょうがない。

「このくらい朝飯前だよ。それに最近は朝早いからね」
「お父さんやお兄ちゃんと朝走ってるんだっけ?」
「うん。やっぱり魔導師としては体も大事だし、いざって時のことも考えると鍛えたほうがいいかなって」
「でも厳しくない?」
 
 なんだか頭の中ではお父さんにヒィヒィ言わされがら走るユーノくんが浮かんでくる。

「大丈夫だよ、自分のペースをちゃんと守ってるからね。無理なことはするなって言われてるから」 

 軽く笑いながらユーノくんは空を見上げた。
 結界の様子を確認しているのかしばらくじっと見つめて、それから唐突に口を開く。

「僕もさ、立ち止まってられないから。少しでも何か積み上げてみんなの力になりたいんだ」

 そう言ったユーノくんの目は真っ直ぐ前を見ていてそれが嘘じゃないことを教えてくれた。

「でも今だって」
「なのはにとってはそうでも僕にとっては違う。もっともっと色んなことを学んでみんなの、なのはの役に立ちたい」
「わたしが大丈夫って言っても?」
「もちろん。なのはには特にお節介にならなきゃね」
「……もう意地張らないよ」

 そこまで気にされてもちょっと困る。

「わたしも何か頑張らなきゃいけないかな……」

 色んなことがこの数ヶ月起きて、わたしはその中を全力で走ってきた。
 今はそれが一段落して立ち止まって息を整えてる。落ち着いて、走ってきた道を振り返りながら少し考える。

「魔法だけじゃやっぱり何も解決しない。大事なのは気持ち……心からの想い」

 わたしの不屈の魂は絶対無敵じゃなかった。あちこち欠けていて、ちょっとしたことでつまずいちゃう。
 自分一人じゃどうにも出来ないことに沢山ぶつかって思い知った。魔法の強さばかり求めたって本当は何も手に入らないんだ。

「魔法以外で頑張れる目標……想いを伝えられるわたしなりのやり方。それを見つけたいんだ」

 みんなそれぞれのやり方を持ってる。ぶつかったり、包み込んだり、人それぞれに想いを通わせる方法を持っている。
 今までのわたしは待つことでそれをしようとしていた。お話聞かせてもらって一緒にその想いを分け合う方法だ。

「でもどうしようもない時は沢山あった」

 お話を聞かせてくれたってわたしなんかが分け合う想いがないことの方がほんとは多い。
 他人の心になんでもかんでも首を突っ込んじゃいけないんだって最近は思い始めてる。

「だからね、見つけたいの! わたしなりにできる方法を!」
「頑張ってるね、なのはは」
「ふぇ? 全然頑張れてないよ! だって見つけてないんだよ!」
「見つけることがゴールじゃないよ」

 諭すような優しい口調でユーノくんが語りかける。
 横目にわたしを見て、また空を仰いで続けていく。 

「見つける道のりだって大事なんだ。同じゴールを目指す必要はない。むしろゴールなんて無くてもいいと思う」
「そうなのかなぁ」
「僕も色々迷ってるからね。ゴールがいつもあるとちょっとプレッシャー」

 ちょっとため息ついて苦笑いのユーノくん。

「ユーノくんは難しく考えすぎなんだよ。もうちょっと簡単に考えていいと思う」
「どんな風に?」
「アリサちゃんみたいに!」
「ははは! それ本人が聞いたら怒るよ」
「にゃはは、アリサちゃんがまだ来てなくて良かったかも」

 バレたらお下げ引っ張られるのは間違いないし、きっとほっぺたも引っ張られちゃう。

「ほ、ほんといないよね……」

 念のため回りを確認して一安心。振り向いたら後ろにいるとか漫画みたいな展開だけはごめんなさいだ。

「うん、ここには僕となのはだけ。やっぱり早すぎたかな」
「そっか、わたしとユーノくんだけなんだ」
  
 夜明けの時間にはまだ少し遠い。きっと結界が無くてもここに二人だけなんだろうな……。
 臨海公園からは海が一望できて朝日だって見ることが出来る。季節も季節だし、それを目当てに来る人はいるのかもしれないけど。

(このままユーノくんとお喋りするのも……いいかな)

 だってすごく安心できるから。
 理由はそれだけで、それ以上も以下も無い。
 
(にゃはは、フェイトちゃんたちには悪いけど)

 目の前の穏やかな海みたいに小波が心の中に寄せては引いてを繰り返す。
 心の中でユーノくんと背中合わせでお話した時みたいな気持ちが心の中に染み渡っていくんだ。
 誰よりも信じることが出来て、安心できる背中。それを感じていた気持ちがわたしの心を満たしていく。

「ほんとに二人きりなんだね」

 結界を張っているんだから小鳥のさえずりだって聞こえない。怖いくらいの静けさにこの世界は支配されている。
 でもユーノくんを強く感じていられるから怖くない。むしろユーノくんしか感じないからちょっと嬉しかったり。

(あれ……?)

 でもなんで嬉しいんだろう?

(ユーノくんを独り占めに出来るから?)

 独り占めに出来るから嬉しいなんてなんだかちょっと変だ。変だけど、心の中が温かい……というよりむず痒い感じ。
 唐突に湧いてきた不思議な気持ちに首を傾げる。

(だってユーノくんを独り占めにしたいって)

 別にユーノくんは誰かのものじゃないよ。みんなのものってわけでもないけど……。
 じゃあなんでわたしはこんなことをいきなり思いついてしまうんだろうか。

「どうしたの? やっぱりまだ眠いんじゃ」
「にゃ、うにゃあ!?」

 わたしの様子が気になったのか顔を近づけるユーノくんにびっくりして跳ね返るみたいに後ろへ下がった。反射的に、なんて表現がぴったりなくらいのスピードで。
 ユーノくんに見つめられて、いきなり心の中が熱くなる。水が沸騰するなんて感じじゃなく、水をいきなりお湯に取り替えられたみたい。

「そ、そそ、そうみたい! やっぱりちょっと寝ようかな……」
「その方がいいよ。二人が戦ってる最中にウトウトしたら大変だからね」
「そうだよね! うん! 絶対そうだよ!」

 わたし、何でこんな気持ちになってるんだろう。
 ドクドクってオーバーヒートでもしそうな勢いで動いてる。深呼吸したって治まりそうにないくらい心臓が慌ててる。

「じゃ、じゃあそこの木陰で休んでるね!!」

 逃げるように少し離れた木陰へ駆けていく。そのまま勢いよく腰を下ろして目をぎゅっと閉じた。

(うぅ……わたしどうしちゃったんだろう)

 熱でも出てるみたいに顔が熱い。変な病気になったわけじゃないと思うけど、あっという間の心と体の変わりようにわたしはついていけなくて。

(ユーノくんのこと考えただけだよ……考えただけなのにぃ……)

 原因はそれぐらいだと思う。というかそれだけだろう。
 でもそれ以上がわからない。なぜって問いかけても誰も答えをくれない。

(わたし変だよぉ!) 

 朝日より早く顔を出した不思議で変な気持ち。それはちょっとウトウトしたら治まったから良かったけど、もしも目が覚めてもそのままだったら……。
 よりにもよってこんな大事な日になんでこんな気持ちが芽を出したのか。せっかく色々考えてたのに全部隅っこに追いやられてしまった。
 自分の目標を見つけること以外に、なんだかすごく厄介そうな答えも見つけなきゃいけないみたい。
 
 だ、大丈夫かなぁ……? 踏み出す方向間違えてないよね?

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