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2008.03/28(Fri)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十八話 Cpart 


【More・・・】


「何やら……二人で勝手に解決してしまいましたね」
「いいんじゃないかい。終わりよければ全てよしって」
「終わりよければ、ですか」

 楽天家の言うことにはいまいち賛同しかねる。どんな物事でも最終的に結果を重視するのは当然の理だが、過程を無視していいということではない。
 むしろ過程こそ次なる高みへ望むための鍵が隠されているものだ――と考えるのが持論の一つである。

「一応は覚悟決めてたのに結局は戦わずじまいだったね、あたしたち」
「色々とありましたからね」

 私たちが主と袂を分つのがもう少し遅ければ戦っていた可能性も否定できないが、格好つけたところでどの道アルフたちと拳を交えることはそう多くは無かっただろう。

「それであの女は何してるんだい? 裏切ったならもう教えてくれてもいいだろ?」
「完全には裏切ってませんよ。アリシアはこの世界にまいた種を全て回収した上で、プレシアと話し合うつもりですから」
「あの女の邪魔してる時点で裏切ったも同じじゃないかい」

 それは言わないで欲しい。

「私だって、この方法でプレシアの成そうとしていることの邪魔が出来ているのか疑問なんです」
「なんだいそりゃ」
「言葉通りですよ」

 アリシアがフェイトや、その友人たちとの楽しそうなやり取りを遠めに見つめながら、私は朱に染められた門だか飾りだか奇妙なオブジェに寄りかかる。
 横目に眼下の町を眺めながら、自分を取り巻く環境の変化に頭を垂れた。

「まいた種がどんなものかも私もアリシアも詳細は知らないんです。知っているのは、以前のジュエルシードに改造を施したという事実ぐらいですね」
「あたしたちはあれをL・ジュエルって呼んでるけどね。とんでもない奴だよ」
「L……差し詰めロスト……失われし器ですね」
「察しがいいじゃないか。流石だね」

 お世辞は結構――そんなニュアンスをこめて片手を軽くあげてみせた。
 大体、プレシアはどうやって世界を望んだ形に復元するのかすら私たちは知らない。思えばあまりにも無知すぎるのだ。

「アルフ、そういえばあの生物に取り付いていた種……L・ジュエルはどうでしたか?」
「L・ジュエル? 何言ってんだい、あれはただのジュエルシードだよ。L・ジュエルが増やした奴の一つだと思う」
「何ですって!? あれはL・ジュエルだったはずです!」

 そんなはずがない。私たちの探査ではあの動物の体内にあったものは、確かにあの種だったはずだ。
 おまけに発動しかかっていたのものを一時的に麻痺させ停止させたのだ。曰くつきの種がそんな簡単に封印できるのか。
 豆鉄砲でも食らったみたいにきょとんとしているアルフの様子で彼女が嘘をついていないことがわかる。

「だってフェイトたちの話じゃ簡単に封印できたって――」

 ドオオオオオオオオオオン!!

「っ!?」
「な、なんだい!?」

 ――爆音、暴風。
 大地を駆け抜ける無法者に私の体は意識が反応するより早く後ろへと吹き飛ばされる。
 瞬間的に重力から開放されれば後は落ちるのみ。下は階段、落ちればただでは済まない。

(って、飛べるでしょう!)

 なにもこの世界の流儀にあわせる必要は無い。術式を展開し、浮遊感が身を包むと同時に体勢を立て直す。

「何が……アリシア!!」

 立ち込める砂煙の奥に向かって主の名前を力の限り叫ぶ。
 平穏を粉砕した轟音に、小鳥たちは悲鳴と共に一斉に空へと散っていく。何かが燻るような臭いが鼻を突き、私は顔をしかめた。
 
「リニス! 無事かい!?」
「ええ、取りあえずは」
「まったく……何が起きたっていうんだい!」
「おそらく、L・ジュエルが願いを芽吹かせたのでしょう」
「芽吹かせたって……あの狐の中にまだあったのかい!?」

 うろたえるアルフを落ち着かせるように私は無言で首を振った。 

「答えは……目の前の光景を見てからですね」
「見てからって……」

 徐々に晴れていく煙幕の奥に光が一つ。青白い輝きはジュエルシードのそれだ。
 目を凝らせばそれが人の形を取っているように見える。発動者は間違いなく久遠と呼ばれる生物だろう。
 
「初の共同作業に随分と厄介なものを宛がってくれましたね……まったく」

 発動した種を封印した経験なんてあるはずもないのに、よくもまぁこの口は減らないものだ。

「ようはやるしかないってことかい……昔話をする暇も無いってのはちょっと寂しいね」
「この戦いが終わったら好きなだけ出来ますよ」
「そうだね」

 くっ、と笑うアルフはすでに四肢へと魔力外殻を装着させている。かくいう私もソニックセイルを展開済みだ。
 
「フェイトは無事みたいだね」
「私の教育は完璧ですから」
「よく言うよ。昔と違ってずいぶんとはっちゃけてるじゃないか」
「昔は昔、今は今ですよ。無駄話は後にしてください。行きますよ!」
「あいよ!」

 まずは主の安全確認、次いで民間人の保護だ。
 意外な形で舞い込んできたこの共同戦線は果たして神の気まぐれか。私としてはそれが偶然だろうと必然だろうと関係はない。

「種の刈り取りは根までしっかりやらないといけないようです」
「だったらあたしの拳で地面ごと吹っ飛ばしてやるさ!」
「ええ、頼みますよ!」

 全ては主の命のままに目の前の障害を排除するのみだ。自分たちのまいた種を始末できるのはやはり自分たちの手で。

 それが何よりの社交儀礼と考えるのも、また私の持論の一つ。

* * *

 始まりは久遠が急に苦しみだした所に遡る。
 和気あいあいとした雰囲気がそいつは随分と気に入らなかったらしく、久遠を通してとんでもない量の魔力を周囲に放出したのだ。
 幸いここにいたのはみんな魔導師だったから良かったけど、もしも普通の人ばかりだったらケガ人が出るのは絶対だと思う。

「くっ……プロト無事?」
『Yes,sir.Please next order』

 距離を取る暇もなく魔力の渦に飲み込まれるもディフェンサーの発動が早かったおかげで難を逃れた。
 殺しきれなかった魔力の負担はそれなりだけど戦えないわけではない。即座にバリアジャケットを纏い久遠の安否を確かめる。

「久遠!! 大丈夫!?」

 砂煙が晴れ、戻っていく視界の中に久遠を探す。

「久遠……そんな……」

 震えた声にそちらを見ると、那美がぺたりと座り込んでいた。その前にはフェイトの友達――なのはがシールドを張って那美を守るように立ち塞がっている。
 そういえば那美だけは魔法が使えなかった。ついさっき知り合ったばかりで頭数に入れるのすっかり忘れていた。

「なんで……あれは伝承じゃ」

 那美の顔は引きつり、体はガクガクと震えている。恐怖以外にその様子を表す言葉を私は知らない。可哀想になるくらい那美は目の前の現実に怯えていた。
 それほどに那美の心を蝕む相手は誰なのか。私は那美が見ている方向に視線を向けた。

「……久遠?」
 
 爆心地には久遠がいたはずだ。けどそこには久遠の代わりに見知らぬ誰かが佇んでいた。
 姿こそ久遠をそのまま成長させたみたい感じだけど、まとっている雰囲気は刃物みたいに鋭く冷たい。
 体からは時折稲妻が散り、空気を焦がす。その手の爪は魔力の残滓を纏って鈍く光っている。狼みたいな荒々しい眼光をぎらつかせ周囲の様子を探る姿は肉食獣そのもの。
 チャームポイントだった尻尾は今や五つに分かれ不気味さを漂わせている。

「くーちゃん……?」

 なのはも変わり果てた久遠に動揺している。他のみんなだって気持ちは一緒なはずだ。

「アリシア!」
「リニス! 大丈夫!?」
「はい、ですが少々厄介な事になりましたね」

 唇を噛みながらリニスは久遠を睨みつける。

「おそらく種は自らの器を捨てたのでしょう。変わりにあの子自身を器にすることによって」
「どういうこと?」
「手っ取り早く言うならあの子自身がジュエルシードと化している……といったところでしょう」
「そんなのって……」

 種の中身だけが移動するなんて有り得るんだろうか。魔力の流動現象とかはリニスから習ったけど、ジュエルシードの魔力なんて規模が大きすぎて中身を移し変えるなんてこと絶対無理だ。移した器はその重みに耐え切れずにすぐ壊れてしまうはず。

「フェイト! あなたが封印したジュエルシードに魔力は残ってましたか?」

 リニスの問いかけに少し離れた所にいたフェイトは首を横に振って答える。きっと封印したジュエルシードは抜け殻だったんだろう。

「じゃあどうすれば久遠を元に戻せるの?」
「現状では……ほうっておくことが最善だと思われます」
「放っておくってなんで……?」
「いずれあの子は魔力に耐え切れず自滅するでしょう。そうすれば器を失った力は消え行くだけです」
「それじゃあ……」

 久遠が苦しむのを黙って見てろってことじゃない!
 本来口から出るはずの言葉が虚しく心の中を通り過ぎていった。

「ジュエルシードは願望を取り込み適した形に変換する装置を閉じ込めたものに過ぎません。器に何かしらエラーが発生すれば他の器を探すのは当然のことでしょう」
「じゃあ、あの時の……?」
「わかりません。応急処置がそうさせたのか……もしかしたらあの子の体内がそうさせたのか」

 久遠からは絶えず高濃度の魔力が放出され続けている。水飴みたいにドロドロした魔力は浴びているだけで気持ちが悪くなってくる。

「じゃあ久遠は何を願ったの?」

 本当に久遠の中にL・ジュエルの中身があるなら、芽吹かせた久遠の願いは何なのか。
 強くなること? みんな壊すこと?
 優しい久遠がそんなことを願うなんてあってたまるもんか。

「むしろ願っていないのかもしれません。ただの暴走と考えたほうが納得がいきます」
「そんな……。久遠! お願い返事して!」

 勝手な都合で久遠はあんな姿に変えられてしまったのか。
 必死の呼びかけも久遠には聞こえてないのか、ただ真っ直ぐ前を、那美を見つめている。
 放出された魔力が電撃に変換され、足元の小石を跳ね飛ばした。それに那美は「ひっ」と引きつった悲鳴を上げ顔を背けた。
 あんなに仲が良かった二人の間に決して埋まること無い亀裂が生まれていた。

「やっぱり……間違ってる」

 これが願いを叶えてくれる魔法の種なんて――

「……間違ってるよ!」

 みんなに楽しい夢を見せてくれる種なんて――

「悲しいことは……もう沢山だ!!」

 絆を断つだけの種なんて――

「プロト!!」
『Lance form standby』
「でぇやああああああああ!!」

 あってたまるもんか!!

* * *

 ねっとりとした魔力が渦巻く世界はじっとしているだけで眩暈を起こしそう。夜ではない闇に蝕まれた世界は轟々と音が聞こえてきそうな気さえしてくる。
 プロテクションの出力は最大にしっ放しで、わたしは後ろにいる那美さんが無事かどうか声をかけた。

「那美さん、怪我は無いですか?」
「久遠……嘘……? なんで……あれは伝承じゃ」

 返事は無くて、うわ言みたいな弱々しい声だけが耳に聞こえた。 
 振り返りたくなるけどこの状況じゃ隙は見せられない。不安になる心を抑えながら、わたしは前を向くことだけに集中する。

「くーちゃん……」

 名前を呼んだってくーちゃんは何の反応もしない。わたしたちを見つめる瞳に光は無く、最初から誰も見ていないような顔だ。
 大きくなった体はアルフさんほどがっちりしてないけど、すらりと伸びてるおかげで機敏な印象を持つ。
 一体何が起きたのかさっぱりで、下手をすれば大変なことになるとこだった。

(違うよね……くーちゃん)

 あのくーちゃんが自分の意志で変身したものじゃないことは、あの場に居合わせていた全員が知ってる。
 急に苦しんで、わたしたちに「逃げて」って残してそれきり。
 だからあれがくーちゃんの望んだことだなんて絶対ない。くーちゃんを悪者にするような考えは、くーちゃん自身が伝えた想いが追い払ってくれる。

(ユーノくん! 何が起きたかわかる?)
(おそらく魔力の暴走だと思うけど……少し不味いな)
(どういうこと?)
(暴走してる魔力が大きすぎる。放っておいたらあの子が危ない)
(じゃあ早く助けなきゃ!)
 
 焦りのせいか早口なユーノくんに危機感が募っていく。
 けどジュエルシードが無い状態でどうやってくーちゃんを止められるのか。

「でえええええい!!」

 何かいい作戦が無いかみんなと念話を交わそうとする。
 その矢先、くーちゃん目掛け金色の光が一直線に飛び込んでいった。

「久遠を返せえっ!!」 

 絶叫と共に黒い槍を突き入れたのは紛れも無いアリシアちゃんだった。
 大地を穿つような渾身の一撃。なのに穂先はくーちゃんの直前で、何かに遮られるように止められていた。
 それでも槍を押し込もうとするアリシアちゃんにくーちゃんの目が見開かれる。

「があああああ!!」

 吼えたのはくーちゃんだった。野良犬でも狼でもない、ただ声を吐き出すだけの轟きが空気を歪ませる。
 くーちゃんがアリシアちゃんに手をかざせば、一瞬で蓄えられた光が轟音と共に打ち上げられる。
 アリシアちゃんはそれを高速移動で避けるも砲撃の衝撃波に耐え切れず弾き飛ばされてしまった。すかさずリニスさんが受け止めた。

「アリシア! 無理です! あの子はもう助けられません!」
「嫌だ!! 久遠は苦しんでるんだよ!! みんなを傷つけないように一人で苦しんでるんだよ!!」
「ですが向かっていったところであの子は救えません!!」
「だったらリニスいい方法考えてよ!! 私は……これしかできない!!」

 リニスさんに羽交い絞めされながら激しく暴れるアリシアちゃんの目から涙が溢れる。
 あの二人はくーちゃんがおかしくなってしまった原因を知っているんだろうか。もしそうなら、わたしたちみんなで力を合わせてくーちゃんを元に戻せるかもしれない。

「ぐるぅ……がああああ!!」
「えっ!?」

 耳に飛び込むくーちゃんの声。
 アリシアちゃんたちに気を取られていたのが仇になった。くーちゃんの動きに気づいたのはすでに飛び掛ってくるその瞬間。

「なのはっ!!」

 翠の煌きが目の前を覆う。
 横から割って入ったユーノくんがシールドでくーちゃんの突撃を押さえつける。
 
「こんのっ!!」 

 続けてアルフさんがタックルしてくーちゃんを弾き飛ばした。

「あのちびっ子狐が嘘みたいだね。で、どうすんだい? このまま一方的にやられるわけにはいかないだろ」

 腰を落とし構えを取る姿に、アルフさんが戦う覚悟を決めたことを思わせる。

「で、でもどうやってくーちゃんを止めれば!?」
「魔力ダメージで昏倒させても駄目だろうな……自分の魔力に自滅を待つしか」
「そんなのって!」
「あれだけの魔力なんだ。体には入りきらないし、放出させたって体が持たない」

 ユーノくんも悔しいんだ。考えても行き止まりしかない答えに荒々しく息を吐く。
 堪えるように握った手は小刻みに震えていた。
 
「リニスが言ってた。あの子の中にあったのはL・ジュエルだって。だからリニスなら」

 アルフさんと見上げる先にはアリシアちゃんを抱えたリニスさんがいる。こっちに気づいて、そしてわたしたちの意図に気づいたのかリニスさんは首を横に振った。

(私の推測が正しければ、今あの子はL・ジュエルそのものになっていると思われます)
(L・ジュエルそのもの……?)

 悲しそうな表情のまま念話が飛んでくる。
 けどリニスさんの言ってることはなにか変だ。くーちゃんの体の中から出てきたのはただのジュエルシードだったはず。L・ジュエルならアースラで分析すればすぐに分かるくらいなんだから。
 
(封印したジュエルシードは魔力が枯渇していたんでしょう?)
(は、はい。そうですけど、それがなんで?)
(中身はまだあの子の体の中にあるままということです。ジュエルシードとしての中枢そのものが)

 つまりくーちゃんは自分のせいじゃなくてL・ジュエルのせいで暴走してることになる。
 それならまだくーちゃんは助けられるはずだ!

(残念ながら中枢のみの封印は不可能です。封印を行うことは器にされたあの子ごと停止させることですから)

 僅かに見えた希望が呆気なく崩れて消えていった。

「なんとかできないの……?」

 目の前が暗くなる錯覚に足がよろめいて、構えていたレイジングハートがだらんと下がる。
 力なく呟いた声は再び飛び掛ってくるくーちゃんの声にかき消された。

「ならやるしかないよ! 悔しいけどあたしたちにゃ何にも出来ない!!」

 アルフさんの右腕がくーちゃんへと吸い込まれていく。くーちゃんはそれを物ともせず受け止め、今度は逆にアルフさんを蹴り飛ばした。

「……そんなの嫌だ」

 何にも出来ないから戦うなんて、そんなの理由になってたまるもんか。
 
「絶対ある……助ける方法は必ずあるよ!」
「なのは……でも」
「ある!! 無いなんて絶対無い! 諦めちゃ絶対駄目なの!」

 問題が解決できないからって力で押し通すのは絶対駄目! そんなのただの八つ当たりだ!
 誰かの想いを犠牲にしてまでジュエルシードを封印したって、きっと後には悲しみしか残らない。笑顔が咲くことは絶対無い。
 ジュエルシードを封印しないと誰かが悲しむ。だけど封印してもっと誰かが悲しむなら……わたしは魔法なんて力は使いたくない!

「くーちゃんからL・ジュエルは切り離せないの? 入れ物が変わったならもう一度変えることはできないの?」
「無理だよ。あれだけの魔力を持ったものを入れる器なんてあるはずがない」
「じゃあ器があれば」
「仮にあったとしてもL・ジュエルを制御できるわけが……」
「そんなのって――」
 
 どんなに足掻いても駄目ってことなの? 本当にわたしたちに出来ることはないの?

「この大人しくしなさい!!」
『Hammer squash』

 吹き飛んだアルフさんに代わってアリサちゃんがバーサーカーを振り上げ突撃する。
 くーちゃんはそれを目に見えない速さでかわし、ほとんどゼロ距離から電撃を浴びせかける。悲鳴は轟音に消し去られ、アリサちゃんは石畳に激しく叩きつけられ転がった。

「あ、アリサちゃん!!」
「アタシは大丈夫! 今のうちにやるのよなのは!!」

 必死の叫びが何を意味するかなんて嫌でもわかる。
 アリサちゃんに気を取られ、わたしに背中を向けているくーちゃん。隙を突く絶好のチャンス。

「――出来ないよ! くーちゃんを倒すなんて出来ないよっ!!」

 撃てない。
 撃つことがL・ジュエルを封印して、それでくーちゃんまで封印してしまうことに繋がるから。
 
「このまま久遠を放っておくよりはマシよ! 解決方法が見つからないなら見つかるまで時間を稼ぐしかないでしょ!」

 命を封印するってことがどういうことなのかわたしは想像できないし、絶対したくない。
 アリサちゃんの選択は正しいのかもしれない。だからってわたしの心が躊躇い無く引き金を引く理由にはならない。

「お願いくーちゃん! 元に戻って! 優しいくーちゃんに戻って!!」

 目が熱くなる。何も出来ない自分が悔しい。
 
「ぐぅううう……があああ!!」 

 くーちゃんの中のL・ジュエルは――L・ジュエルとなったくーちゃんは、一体どんな願いを叶えようとしてこんな姿になってしまったのだろう。
 なにもかも壊して、根絶やしにして、悲しみだけを残していく願い。

(そっか……それって)

 お稲荷さんの噂の中で息づいていた崇りの噂。

 そうだよ。くーちゃんが苦しみだした時に話していたのだって祟りのことだった。
 誰が言い出したわけでもなく、いつの間にか話題になっていたから気にしてなかった。でも思い当たることなんてそれ以外考えられない。
 ううん、絶対それなんだ。それがくーちゃんを変えてしまった。

(わたしたちのせいなんだ)

 少しでも運が悪いって思うと、みんな崇りのせいにして、崇りだけが悪いって思い込んでしまう。
 わたしだって今日のことは崇りのせいだって思ってた。自分じゃどうしようも出来ない、しょうがないことなんだって思ってた。
 崇りのせいだから自分は悪くないって、自分のせいじゃないって願ってた。

(わたしたちが祟りを作ったんだ)

 クラスのみんなもきっとそうだから。そんな本当に小さな、でもたくさんの願いがくーちゃんの小さな体に集まってL・ジュエルを目覚めさせてしまった。
 軽々しく悪いこと全部、なんでもかんでも崇りのせいにしていたわたしたちへの罰がこれ。

 本当の――「崇り」だ。

「那美さん……ごめんなさい」

 わたしは今まで軽い気持ちで「崇り」という言葉を使っていたことが許せなかった。
 運の悪いことなんて自分の気持ち次第でどうにでもなる。そんなことぐらいで崇りなんて言っていたら、目の前にいるあの子に降りかかっているものはなんなんだろうか。
 
「くーちゃんをこんな姿にしちゃって……」

 目の前ではみんながくーちゃんの攻撃に簡単に吹き飛ばされていく。
 桁違いの魔法の力はわたしたちの魔法じゃ絶対無理だって言っているように思えた。わたしの心の中に諦めが少しずつ滲んでくる。

「悪いことみんな崇りのせいにして……お稲荷さんの……くーちゃんのせいにして」

 ちゃんと謝りたいのに那美さんの顔が見れなかった。

「だから……くーちゃんを嫌いにならないでください」

 どうしようもなく怖くて、わたしはその場に立ち尽くすだけしかできない。

「ともだちで……いてあげてください!」

 ぎゅっと目を瞑ると溜まった涙が勢いよく溢れ出す。
 何も出来ない自分が嫌いになりそうだ。
 抑えきれない力に暴れ続ける友達を救う方法をわたしはもう知らない。言葉でも、魔法でも想いが伝わらない時にどうすればいいのかわからない。
 誰か教えて欲しかった。
 出来るならわたしの代わりにくーちゃんを助けて欲しかった。

「わたしに出来ることは――」
『Protection powered』

 両手を大きく広げてくーちゃんと向き合う。
 くーちゃんが那美さんを傷つけないように、今までよりもずっと強力なプロテクションを張り巡らす。すずかちゃんのを参考にしてるから強度はシールドぐらい強いはず。

 わたしだって、何も出来なくたって、まだ諦めたくないから――!

「がああああああああああ!!」

 みんなを蹴散らし、くーちゃんがこっちに向かって地面を蹴った。
 石畳が砂でも舞い上がるように欠片となって宙を舞う。腕を振り下ろすくーちゃんに身構え、わたしはよりいっそうプロテクションに魔力をこめた。
 衝突する暴風に壁にはひびが入り、砕けていく。舞い踊るキラキラの中でくーちゃんが後ろへ飛びずさる。
 助走をつけてもう一度、もっと大きな一撃を加えるつもりみたいだ。

「わたし……信じてる。優しいくーちゃんに戻ってくれるって! だから――」

 わたしはくーちゃんを傷つけない。
 友達を信じて、くーちゃんに想いを伝える。例え駄目でもわたしが出来るたった一つの方法で。

「くーちゃん!!」 
「うぐるぁああああああああ!!」

 ドン! と、くーちゃんが飛んだ。足元から砂煙を巻き上げながら、わたしをその瞳に捕えてくーちゃんが腕に電撃を纏わせた。

「――っ!!」
 
 今度は防げない。それ以上にシールドでくーちゃんを阻んでしまうのが、なんだか拒絶するように思えて何も魔法は使わないって決めた。
 だから両手を広げるだけ。

(大丈夫だよ。怖くなんて思ってないよ)

 心の中で囁いた。

「がああああああ――っ!?」

 光が弾けた。

「……え?」

 だけど待っていた結末はわたしの想像とは違って……。何が起きたのか戸惑った。
 無意識に閉じていた目を開ける。わたしに向けられた光は空の彼方へ向かって消えていく瞬間だった。

「那美さん……?」

 誰かが、わたしとくーちゃんの間で手を広げていた。真っ白な背中と、わたしよりも少し大きな体が誰だかなんてすぐ教えてくれた。
 恐る恐る呼ぶ名前に那美さんは僅かに首を向けて頷いた。

「なのはちゃんは大丈夫だよ。自分のしたことが悪いことってわかって、それでごめんなさいが言えるんだから」

 そう言った那美さんの顔はもう虚ろなものじゃなくて、今まで見ていた柔らかな顔だった。

「私は言えなかった。でもね、今度はちゃんと謝ることが出来る」
「ぐるぅぅうううう……」

 くーちゃんは那美さんの目の前で足を止めていた。
 何かに怯えるように少しずつ後ずさって、唸り声を上げている。

「崇りなら私だって信じてたから。久遠を傷つけたなら、それは同じだよ」
「ぐぅ……ぁぁあああ!」
「久遠……大丈夫。あなたが怖いなんて思ってない。大切な友達だからそんなの当たり前でしょ?」
「がっ……あぐ」
「あの時も、今も崇りのせいにして、あなたたちのせいにしてごめんなさい。でももうあなたを信じ続けられるから……だから大丈夫よ、久遠」

 那美さんの温かな言葉にくーちゃんが胸を掴み、頭を掻き毟る。
 
「ぁあ……ぐぅぅうう!?」

 何かに耐えるように、そして自分の中の何かと戦うように、歯を食いしばり低い声で唸り始める。
 荒々しく吐き出された息に口が何度もパクパクと動く。

「な……みぃ……なみぃ……那美っ! ああああああああああああ!!」

 紡いだ名前にくーちゃんが吼えた。
 そうしてわたしの目はくーちゃんの頭上に高められていく雷の塊に目を細めた。凄まじい魔力の波動に体が押される感じがする。

「ごめ……ん、那美。久遠……悪い子で……だから――」
 
 力なく呟かれた声に、これからくーちゃんが何をしようとしているのかわかった気がした。

(なの……は! あの子を早く止めるんだ!!)
(ユーノくん! くーちゃんはまさか……)
(自分の魔力でL・ジュエルを破壊するつもりだ。あれだけの魔力なら体内のL・ジュエルとのリンクも断ちきれる。……だけど!)
(くーちゃんだって無事じゃすまない!)
 
 直接言葉を交わしたやり取りならユーノくんは頷いてくれるんだろう。
 遥か向こうの林から這い出したユーノくんはボロボロで立ち上がるのもままならなさそうな感じ。
 
(封印するだけが魔法じゃない。ジュエルシードを破壊することだって不可能じゃないんだ。ただ僕らに力が無いだけで)
(でもくーちゃんの力なら)
(ジュエルシードによって高められた破壊の力にあの子の魔力を全部乗せればおそらく)

 その先にある答えは言われなくてもわかる。
 魔力ダメージだけだとしてもくーちゃんには負担なんてレベルじゃないはず。ううん、こんな桁外れの魔力が魔力ダメージだけですむなんて思えない。

「久遠!?」
「ありがとう……那美……だい……すき……」

 これがこの事件の結末なの?
 結局こうなることでしか終わらせられないの!?

「そんなのって……駄目だよくーちゃんっ!!」

 止められない――わたし一人じゃ絶対に。

「お願い! 誰かくーちゃんを助けてぇ!!」

 だから願った。

 叶わぬ願いを叶わせるために。

* * *

 どうにもならないことに立ち向かうこと。
 例え行く先に幸せな結末が待っていなくても「もしも」の中に隠れてる光を信じて進み続ける。
 光が見えなくて泣いている友達がいるならそれは絶対。

「まだ……やれるよねバルディッシュ」

 諦めて、足を止めたって何も始まらない。
 投げ出しちゃ、捨てちゃ駄目だから。 

『Yes,sir』

 もしも光が見えないなら、本当にどこにも無いなら、

「いい子だ」

 私が作る――!!

「それじゃ、行くよ!」

 破損の程度はフレームが僅かに損壊しただけの軽いものだ。これぐらいでまいるようなら私とこの子はここまでやってこなかっただろう。
 小さな想いのすれ違いで大切な絆がほどけようとしている瞬間を前に、私は巻き起こる魔力の嵐に負けないように声を張り上げた。

「アリシア! 私に力を貸して!!」

 そこに敵とか味方とかは関係ない。
 歩み寄ってくる悲劇を跳ね除けるためには小さないがみ合いなんて捨てて手を取り合うことが一番大事なんだから。

「フェイト……でも」

 アリシアは無言で首を振った。

「助けられるよ。助けてみせる!」
「フェイト……あなたは何を根拠にそんなことを」
「最後まで諦めるなって教えてくれたのはリニスだよ!」

 戸惑うリニスを遮って、私は頭の中に浮かぶそれに手をかける。

「久遠の中のL・ジュエルは器があれば取り出せるんだよね?」
「理論で、ならです。結局は机上の空論に過ぎません。現実にあんな魔力を無尽蔵に生み出すような装置を押し込める器はどこにも――」
「あるよっ!! アリシアが持ってるそれなら絶対にやれる!!」
「私が……?」
 
 声がかけられることを予想もしていなかったのだろう。驚きアリシアは目を見開いてみせた。
 でもそんな顔も大きな頷きと共にすぐに変わった。

「……そっか! そうだよフェイト!! 私たちにもまだあるんだよ!!」
「二人とも一体何を……そんなものがどこにあると――!?」
 
 息を呑むリニスに私たちはなんだか悪戯が成功したみたいに笑みを浮かべた。
 決して満面じゃないけど、口元を緩ませる私と思いっきりえくぼを浮かべてニヤッとするアリシア。
 そう、全てはとっくに終わったわけじゃない。これからが始まりだ。

「まさかL・ジュエルを使う気ですか!?」
「これならいけるでしょ? 久遠の中のがL・ジュエルなら」
『Put out』

 アリシアのバルディッシュから青い宝石が飛び出す。

「この子だって同じ種だよ!」

 同じ力を持つL・ジュエルならきっと久遠を助けられる。私とアリシアが考えた一番冴えた方法がそれだ。

「ほ、本気で言ってるのですか!? 確かに合理的ですが無事でいられる保障なんて!」
「理にはかなってるなら」
「いけるよね?」

 私とアリシアの掛け合いにリニスも押し黙る。リニスだってこの方法が不可能じゃないってことぐらい知ってるから。

「急ごう! アリシア!」
「うん! フェイト!」

 今まで色んな願い叶えてきたジュエルシード。今度が私たちが願いをこめる番だ。

(でもL・ジュエルを止めてもあの魔力の塊はどうしよう?)

 不安げに問いかけてくるアリシアに私も答えに迷っていた。
 久遠が高めている魔力はL・ジュエルで引き出された久遠自身のもの。久遠の中のL・ジュエルを封印してもおそらく魔力自体は留まり続ける。下手をすれば制御を失って爆発する可能性だって。
 半ば勢いで飛び出したこともあってそれをどうするかまでは実のところ全然考えていなかったり。

(えと……どうしよっか……)

 まるでアリシアみたいな短絡的思考に少し反省。ここにいるのは私たちだけじゃないんだから熱くなる前に少し冷静にならなきゃ。

(考えてないの!? 嘘だ~信じられないよ!)
(ご、ごめん)
(もうしょうがないんだから。いい? こういう時は久遠のL・ジュエルを私のたちの方へ移して、それからそれを封印する魔力としてあれは有効利用! 見た目は雷の塊だしいけるはず!)
(そっか、それなら大丈夫だ)

 久遠の魔法はそのどれもが電撃に変換されて振るわれている。私やアリシアと同じ変換資質を持っていると見て間違いは無いはずだ。
 そして私たちは電撃そのものを魔法の媒体として使うことも出来る。久遠が集めた魔力が電撃に変換されているなら封印魔法にだって利用は容易い。

(あれ? そしたら久遠のL・ジュエルを引き剥がしてる時に爆発したりしたらどうするの?)
(わっ!?)
(どうしたの!?)
(忘れてた……)
(……駄目だよ。ちゃんと最後の最後まで考えなきゃ)
 
 やっぱり肝心なところはアリシアだなって思ってしまったり。

(フェイトがリニスになったみたいだよ……)
(今はそんなことより)

 久遠を挟んでいつでも詠唱を始められるよう構えを取る私とアリシア。アリシアはL・ジュエルをいつでも発動できるようしっかり握り締めている。

「だ……め……にげて……」

 掠れた声が雷鳴に混じって耳に届く。

「大丈夫。君を必ず助ける」

 涙を流しながら頭上に魔力を集束させていく久遠は見ているだけで切なくなる。得体の知れない力に翻弄され、追い詰めていった責任は私たちにもある。
 自分を犠牲にしてみんなを助けるなんてそんなこと私は認めない。だって助けられた人たちにとっては、それは犠牲になった人を助けてあげられなかったことなんだから。 

「でも……どうすれば」

 なのはがL・ジュエルから私を助けて、覚めない眠りについて、自分の無力さを呪ったあの日。助けられても後悔ばかりで嬉しくなんて全然無かった。

(格好つけられたって迷惑なんだ!)
 
 笑いあうならみんなと、友達と、家族と、大切な人たちみんなとだ!!

「お願い……L・ジュエルを封印するまで持って――!」

 僅かな時間でいい。久遠を助けるまでの時間をください。
 願い、体を落とし私は久遠目掛け走り出す。ここまで来て一か八かの勝負。だけどやるしかない。選択肢はこれだけなんだ。

『Aerial prisoner』

 澄んだ声に蒼い光が瞬いた。
 何事かと足を止め、視線を上げれば金色の光が蒼い風にすっぽり包まれている光景が映された。

「フェイトちゃんもアリシアちゃんも一人じゃないよ! 困ったときは私たちがいるから!」
「すずか!」

 そこには空中から障壁で久遠の魔力を封じこめるすずかの姿。

「やはり二人とも詰めが甘いですよ。作戦は常に全体を見据え、なおかつ不測の事態に対応できるよう予備策をいくつも巡らせておく。これが鉄則です」
「相変わらずリニスは頭が固いねぇ。そんなのみんなぶっ飛ばせば関係ないだろ?」

 風の牢獄をさらに押さえつけるように緋色と山吹色のバインドがぐるりと取り囲んでいく。
 アルフとリニス。私たちの頼れるパートナーも全力で私たちを支えてくれていた。

「フェイトちゃん……わたしもまだ頑張れる!」
「僕だって!」
「アタシだって応援くらいは出来るわ! しっかりやんなさいフェイト!!」
「みんな……」

 桜と翠のバインドも加わり、夕日色の応援が私の背中を押してくれる。

(いいな……フェイトは。こんなに優しい子に囲まれていて)
(アリシアだってもう同じ仲間だよ。きっとみんなアリシアを受け入れてくれる)
(……ありがとうフェイト。私、嬉しい)

 それ以上の言葉はいらない。アリシアの温かな想いは私の心の中に。アリシアになったみたいに嬉しさが体中を駆け巡っていく。

「じゃあいくよ……プロト!」
『Yes,sir.We will――』(我々が――)
「私たちも」
『――end it.Let's go sir』(――決着を)

 駆け出し、久遠の元へ。
 一気に距離をつめて、アリシアが久遠目掛け自分のL・ジュエルを放り投げる。

「フェイト! ジュエルシードの使い方わかるよね!」

 言われ、当然のように頭の中に転がっていたそれがそうなのだと確信した。

「うん!」

 だけど今度の使い方は違う。

 願い持たず意識を閉じて――失敗なんて考えない。余計なことを考えるなら一度みんな忘れろ!

 唱えるは想いの込めない――込めるなんて力む必要は無い。優しく静かに、ただ一つを願え!

 機械のように心を縛って、自分を無くしそうな暗闇の中で、遥か先に立ち塞がる闇を払うような光を私は心に灯す!

 この先もずっとずっとみんな仲良く、みんな一緒にいられるための灯火を!!

(それが私たちのただ一つの想い!)

 心に描いて私は呪文を唱える。
 それがジュエルシードを正しく使うための理であり資格だ。

「アルカス! クルタス! レイギアス!」
「バルギル! ザルギル! プラウゼル!」

 願いも想いもみんな重ねて――。

「「幻想秘めし悠久の欠片よ!! 我が声! 我が望み! 我が全てを汝に注がん!! 今こそ此処に、その煌き結実させよ!!」」

 私たちの声にL・ジュエルが光を持って呼応する。
 溢れ出す青は今まで見たどのジュエルシードよりも柔らかなで透き通っている気がした。
 輝きを増していくL・ジュエルに久遠の中から黒を帯びた光が溢れ、すぐにL・ジュエルへと吸い込まれていく。
 久遠の中の歪んだL・ジュエルが私たちの願いに成す術なく剥がされているんだ。

「後は!」
「みんな離れて!!」

 全てを終えたL・ジュエルが久遠の頭上へと上っていく。発動した時は透明になったように澄んでいたその表面は、今や濁って不気味な輝きを激しくぶれながら振りまいている。
 移し変えたL・ジュエルの最後の抵抗なんだろう。

 ならば最後の最後まで迎え撃つのが私たちだ!
 
「ぶっつけだけどお前も出来るよね。アリシアのプロトみたいに!」
『Otherwise I am not possible to become your patrner』(でなければあなたのパートナーにはなれない)

 バルディッシュを持ち替え振りかぶる。
 ありったけの魔力をこめて、狙いはL・ジュエルただ一つ。

「私たちも負けられないよ!」
『Of course,I am not defeated at the brother.』(無論、兄弟に後れは取らない)

 一息で構築されていく術式にバルディッシュが金色に包み込まれていく。
 初めて使う魔法なのに、腕から伝わる手応えがずっと昔から慣れ親しんでいたように思えて自然と心が高ぶるのを感じる。
 手首を返してバルディッシュを逆手に持ち替える。同時に繭を破って生まれるは一対の翼。はためき、光の羽を周りへ散らしていく。

「駆けろ!! 疾風を超え――」

 腰を捻り、左手をかざし、右腕を振りかぶり――

「――閃光となれ!! 今こそ羽ばたけ!!」

 想いを乗せた翼をここに――

「「いっけーーーーーっ!!」」

 解き放つ!!

 幻想から現実へと顕現する二羽の翼。躍り出る光は留まる事無く風に乗り、そしてすぐに風を追い越していく。
 翼は胎動を続けるL・ジュエルの脇をすり抜け、そして宙に渦巻く雷球へ迷うことなく飛び込んだ。

「喰らえ! プロト!!」
「自らの輝きにして! バルディッシュ!!」

 一瞬の閃光に雷鳴が天に轟いた。
 膨大な魔力を我が物として鳥は不死なる翼へ生まれ変わる。歪んだ世界を照らす輝きと共に不死鳥はその身を翻す。

(これで……決める――!!)

 眼下には全ての元凶が蠢いている。歪んだ願いを断ち切るために、私たちは最後の引き金を引き絞った。

「「ボルテックランサーーーーーーーーッ!!!」」

 遥か眼下の災いへ。
 真っさかさまに急降下する光の軌跡は絡み合い、不死鳥たちは螺旋を描きながら災いを飲み込んだ。
 
「うっ、くーーーーーーっ!」

 巻き起こる突風に吹き飛ばされないよう踏ん張り、激しく明滅する閃光に目を細めて。鏡写しのように魔法を振るうアリシアを見つめながらすべてが終わったのだと感じる。
 なんだか気が遠くなる気がして、でも言わなきゃいけないことがあるからもう少し頑張ろうと思って。

 静寂が訪れれば、そこにはL・ジュエルと、地に突き刺さる愛杖、そして――。

「良かった……良かったぁ……久遠!」

 元に戻った久遠を抱きしめる那美さんの姿がそこにはあった。
 なのはたちもそこへ駆け寄り久遠の様子に安堵しているみたいだ。なのはなんて涙を浮かべた笑顔で久遠の無事を心から喜んでいる。

「ありがとう、バルディッシュ」

 フレーム、コアの隅々まで亀裂が入り、触れるだけでも砕けてしまいそうな相棒に心からの感謝を捧げる。

「……あはは、これじゃあリニスに怒られちゃうな」
「プロトは直せそう?」 
「リニスもいるし……大丈夫かな?」 

 同じように相棒をその手に収めアリシアがばつが悪そうに笑った。

「私たち守れたんだよね」
「当たり前でしょ? 私とフェイトでみんなを守ったんだよ!」
「うん、力を合わせて」
「そうそう……力を合わせてね」

 なんだかいろんなことが急に起きすぎたせいか言葉が見つからない。
 本当は分かり合いたくてたくさんの言葉を考えていたつもりだった。そのどれもが今はなぜだか口から出ていかない。

(アリシアもそうなのかな……?)

 自分の心に問いかけて、アリシアも同じ気持ちだと知る。むしろ私よりも言葉に迷って、考えもしなかった事態に戸惑っているみたいだ。
 この温かいものが何なのかようやくわかった気がする。そんなことってほんとにあるのかなって思わなくもないけど、少なくとも今はお互いの気持ちが知りえる幸運に感謝したい。 

「ねぇ、アリシア」
「なぁに、フェイト?」

 手を胸に、そっと瞳を閉じる。
 
「私ね」

 二人の願いは同じ。だから私は踏み出す。

「アリシアと」

 あの子のように、今度は私が優しさを上げられるように。


「ともだちになりたいんだ」


 あなたの踏み出した一歩を、新しい始まりへ導けるように。

 その手を差し出した。

「…………うん」

 そしてその手に重ねられる温もり。

「私もフェイトと……優しい子達と……ともだちになりたい」

 照れくさそうにアリシアが微笑んだ。

 そうしてそれは最後の始まりを告げる言葉となる。
 失われし世界から再び舞い降りた青き宝石と、二つの世界をめぐるこの事件の最終章の幕開け。
 私が、アリシアが、みんなと共に羽ばたいていくための小さくて、大きな一歩――。 

 全ては、出会いと別れ、始まりと終わりが集う場所へ。

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