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2008.03/13(Thu)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十八話 Bpart 


【More・・・】


「さて……と」

 この世界に降り立つのも何度目だろうか。土の感触を確かめながら、私は今日も念のため辺りの様子を探る。
 一応、ジュエルシードの力を使って私がこの世界に転移した証拠は一つ残らず消しているはず。誰かさんはツメが甘いと言うかもしれないけど、辺りに聞こえるのは静かな風の音と、小うるさいセミの音色だけ。

「あの子の様子は大丈夫かな」
 
 木陰から太陽の下に飛び出せば、すぐにむあっとした熱気が私を包んだ。 
 バリアジャケットをつければへっちゃらになれるけどお忍びのおかげで禁止である。
 だけど不満や愚痴はぐっと堪えて、私は歩き出す。
 歩くというより上っていく、だけど。

(ほんとに……あの子が助かってよかった)

 長い石段を上りながら、少しだけあれからのことを振り返る。
 夢の内容を信じるなんて普通なら馬鹿げたことだと言われるんだろう。
 私がそれを夢じゃないって知っていても。流れ込んでくる想いがあの子のものだとしても。

 自分がしてしまったことは上手くいっても、いかなくても取り返しのつかないこと。
 ヤケになって考えた作戦はフタを空けなくたって大失敗とわかるもの。笑顔を届けるなんて大層なこと出来るわけもなくて。
 そんなこと気づかずに調子に乗った結果がフェイトの大事な友達を傷つけること。
 届けたものは涙だけで、笑顔なんてこれっぽちもない。
 
 今になってみれば最初から上手くいくわけなかったんだ。

「私はアリシア……フェイトはフェイト」

 二人はもう全然違う。仮に一つになったところでそこにいるのはアリシアでもフェイトでもない子。

(なんだか最近……いろいろわかってきたんだよね)

 もう母さんの望むアリシアはどこにもいないんだ。悲しいことだけど、どんなに足掻いても変えられない事実が在り続ける。
 私もフェイトも、本当のアリシアから生まれた欠片なんだ。
 フェイトはフェイトとして、私は私として。自分で選んだ道を、自分の意志で、自分の力で歩いている。
 二人に積み重なった記憶はもう本来の「アリシア」のものじゃない。自分で手に入れた掛け替えのない記憶なんだ。

「だから私は選んだんだ……」

 ――止めるって。

 もうみんなの悲しみを増やさないように。
 誰かの涙を見るなんて沢山だ。涙の上で私は笑いたくない。笑うなら、みんな一緒に笑いたい。
 
「間違って……いないよね」

 汗が一筋、流れ落ちた。腕で額をぬぐえば汗の粒が陽光に光る。

 リニスを連れ帰ったあの日から、母さんは変わった。優しさが壊れて無くなってしまったみたいに母さんは冷たくなった。
 何故って考えなかったのは私が母さんを信じようとしていたから。あの時の私にはそれが唯一つの自分を信じられる方法だったんだと思う。
 今まで二人で幸せに暮らしていたことが夢と思えるくらい私の世界も変わった。リニスが魔法を教え、私は母さんの期待に応え続けた。

(昔のフェイトもこうやって頑張ってたのかな)

 がむしゃらにジュエルシードをまいて、危ない目にも沢山あった。時には自分を失いかけたりしたけど、リニスのおかげで立ち上がることが出来て――。
 そうやってたどり着いた果てには、沢山の悲しみだけが彷徨う場所だった。
 この先を歩いたって景色は同じだと思った。間違った場所から歩き続けても、私の大好きな世界へは永遠にたどり着けない気がした。
 母さんがやろうとしている本当のことを私は未だ知らない。もしも知ってしまったら、私はきっと母さんに背を向けてしまう気がして、聞けない。

「女の勘なんて言ったら、リニスにお灸据えられちゃうよね」

 ただ、母さんの描く物語のおしまいには、この世界も、ミッドチルダも、どこにもない予感がしたんだ。
 悲しみは人だけじゃない。世界にも悲しみを背負わせるなんて酷すぎる。
 予感は外れて欲しいけど、絶対じゃない。なら誰かが今ここで食い止めようと考えるのは自然なことだと思う。
 滅茶苦茶な理屈だったとしても私はもう決めたんだ。

「ダメダメ! これからあの子に会うんだから笑顔笑顔!」

 いけない。感傷に浸っていたらお日様隠れちゃう。
 こんなこと今考えることじゃない。考えるのはあのL・ジュエルを封印してからだ。

「全部封印して……それから母さんと話すんだ」

 悪い子になったな……って思う。
 母さんの言いつけを全部破って、やるべきことの反対を私は始めている。もちろん後戻りが出来ないことを知った上で。
 ジュエルシードをまくのではなく、集める。当面の目標としては母体である残りのL・ジュエルを見つけ、封印すること。
 そうすれば母さんの計画を少しの間は止められるはず。
 
(L・ジュエルかぁ……)

 元々はっきりとした名前なんてなかったから、フェイトが呼ぶように私もまいた種をL・ジュエルと呼ぶようになった。
 フェイトたちが今まで封印したのは五つのはずだ。今私が封印しようとしているのを合わせてもまだ三つがこの町のどこかで眠っている。

(自分勝手の我侭でごめんね。君たちみんな摘み取らなきゃいけないなんて)

 そして三つの内一つはプロトの中で眠ってる。最初の一個は発動していないこともあってあっさり封印できたのだ。だから私がL・ジュエルを見つけたのはここは二箇所目。
 
「よし、到着~!」

 最後の石段を跳び越せば目の前には朱色に飾られた立派な建物が私を出迎えてくれる。神社というミッドチルダでも見かけない建物だ。
 どうやら神様を祭る祭壇みたいなものらしいけど、調べるのはまた次の機会だ。私がここに来たのはあくまでL・ジュエルの封印なんだから。

「私だよ! 出ておいでー!」

 繁みに向かって呼びかけてちょっと待つ。

「――くぅん!」

 すぐに茂みがカサカサ揺れてあの子が飛び出してきた。
 きょろきょろと辺りを見回して、誰もいないことを確認すると私の元へ一目散によってくる。

「おいで! 久遠!」
「くぅん♪」

 腕を開いて待ち受ければ、迷わず飛び込んでくる小さな体。ぎゅっと抱きしめ、頭をくしゃくしゃと撫でてあげる。

「元気にしてた? 一日ぶりだけどね」
「くぅん!!」

 頭をもたげて、私の手にじゃれ付いてくるこの子は久遠っていう子狐だ。この神社の周りに棲んでいた平凡な狐だったんだけど、今はちょっと事情が複雑。
  
「体のほうは大丈夫?」

 私が問いかけると、久遠は私の腕から抜け出て光に包まれる。
 獣のシルエットは一息で別のものへと変わり、一瞬の閃光の後そこには全く違う姿の久遠が現れた。
 
「うん……だいじょうぶ……ありしあのおかげ」
「そっか! よかったよかった」

 今度は変身した久遠の頭を優しく撫でる。久遠は目を細めて私の手のひらの感触に少しの間だけ甘えていた。
 赤と白の不思議な形の服に身を包んだ小さな女の子。それが今の久遠の姿。普通の女の子に見えるけど、頭から飛び出した狐の耳のおかげで誰もこの子が人間じゃないって知るだろう。

「じゃあ、久遠の中の悪いもの取っちゃおうか」

 彼女の中にはL・ジュエルが眠っている。人の姿に変身できるのもそのおかげだ。
 初めて来た時、久遠の中のL・ジュエルはすでに発動しかかっていた。
 あまりに不安定な状態だったせいで応急処置しか出来ず、封印は後日ということになった。私が今日ここに来た理由はそういうこと。

「きょうは……ねこ……いない?」
「うん、リニスはお留守番」
「そっか……ねこきらい」
「あはは……」
 
 ちなみにその時の応急処置が荒っぽかったせいでリニスは久遠に嫌われている。元々、神社で暮らしてる野良猫にいじめられたこともあって久遠の猫嫌いは結構重症なのだ。
 そりゃいきなりフォトンランサー撃ち込むんだから嫌われるのも無理はないけどね。

「私は痛くしないから、大丈夫だよ」

 プロトを起動させて早速封印魔法を発動させる。人に見られたら色々と面倒臭いので手早くね。

「……あれ?」
 
 すると異変にもすぐに気づいた。
 
 ――ない。

 久遠の中にあるはずの肝心なものが影も形も見当たらない。
 おかしいと思いつつもう一度調べてみるけど、やっぱりない。

「どうしたの……ありしあ」
「え? あ、えっとぉ……悪いものが見つからなくて」
「わるいもの……きのう……ありしあ……とったよ?」
「昨日……? 昨日は来てないよ」
「うそ……きてた……」

 首を振って私をじっと見つめてくる。

(……まさか)

 私は昨日ここには来ていない。それは厳然たる事実。まさか寝ぼけてやって来たなんて事は、お日様が西から昇ってくるくらいありえない。自慢じゃないけど寝相はいいんだから私。
 深まる謎、真実は闇の彼方――なんて格好つけようと思ったけど私の中には最初から答えがあったので止めにした。

「その私ってフェイトって呼ばれてなかった?」
「……そういえば……ふぇいとって……いってた。ほかにも……なのはとか……いっぱいいた……」

 あちゃ……先越されちゃったみたい。
 
「そっか……じゃあ久遠の悪いものはもうないんだね」

 競い合ってるわけじゃないからフェイトたちが封印しても問題はないんだけど、なんだか出鼻をくじかれたみたいで不完全燃焼。
 なんというか……ちょっぴり残念。 

「安心した。もう久遠は大丈夫だよ」

 もう一度、久遠の頭を撫でてあげる。久遠はくすぐったそうに目を細め体を震わせる。首に下げられた鈴がちりんと音を立てた。
 
「ありしあ……またあえる……?」
「そう……だね。きっと会えるよ」

 ほんとのところはL・ジュエルもないしここにくる理由はないんだけど、久遠を悲しませたくないからちょっと嘘をついた。
 L・ジュエルを一刻も早く封印しなきゃいけない私には少しの時間でも惜しいんだから。
 私の返事に久遠は嬉しそうに微笑む。
 少し心がチクッとした。

「ありしあ……やさしい……くおんの……ともだち」
「ともだちか……」

 私に抱きつき顔を埋めて、それから上目遣いに見上げる。無垢な瞳に映る私の顔は少し悲しげだった。

「……うん! また来るよ! だって久遠は私にとってもともだちだもん!」

 止めだ。久遠は裏切れない。
 黙ってお別れは久遠には可哀想だもん。それなら明日か、明後日か、その時にちゃんとさよなら言わないと。

(リニスだってそう言うはずだよね)
 
 少し悲しい思いはするかもしれない。だけど待ち続けて裏切られたって知ってしまうよりも、悲しいの大きさは小さいはずだから。

「やくそく……」
「うん! 約束!」
 
 小指と小指を結んで指きりげんまん。久遠から教えてもらったこの世界のおまじないだ。
 
「じゃあ私行くね」 

 そっと離れて、来た道を引き返す。石段を降りる前に振り返れば久遠はまだそこにいて。
 久遠は笑っていた。さっきと同じ静かな微笑みだけど、でも私はそれは久遠のとびきりの笑顔だって感じられた。
 心が温かくなっていく。すっかり忘れていた安らぎに体と心が包まれるのを感じた。
 私は手を振る。大きく、何度も何度も。一杯の「ありがとう」をこめて。
 
 それと約束――

 「また明日」をこめて。

* * *

 ついてない――なんて言葉で笑い飛ばせるぐらい前向きなら、わたしはこの石段だってステップを踏むようにお気楽能天気で駆け上っていたと思う。
 四時間目の恥は相変わらずおでこに居座ってヒリヒリと痛むし、もう最悪。

「ご、ごめんね、なのはちゃん」

 その最悪に、少なからず関わっているすずかちゃんはさっきからずっとこんな感じ。
 文句の一つも言いたいけど、すずかちゃんだって今日はなんだか絶不調みたいでお互い様だから何も言えずじまい。
 すずかちゃんの避けたボールが顔面に直撃したドッチボールの一コマ。わたしの運動神経は相変わらずからっきしで、気がつけば地面に大の字状態で。
 
「……Unlucky。うぐ、自分で言うとほんとムカムカする言葉よね!」
『Hey,unlucky girl』
「ムキーーーーーッ!!」

 今日一日クラスの笑いものになったアリサちゃんは、顔を真っ赤にしながら石段を何度も蹴っている。
 一時間目はノートを忘れ、二時間目は教科書を忘れ――。
 なんて授業のたびに赤っ恥をかいていれば怒りたくなるのも当たり前だ。

「ほんとに今日はどうしちゃったんだろう」

 走れば転び、跳び箱は飛ばずに腰掛け、最後にやったドッチボールはボールを一度もキャッチできずに即退場。
 まさしく絶不調なすずかちゃんも流石に気落ちしていた。
 
「三人ともたまたまそういう日だっただけだよ、きっと」 
「フェイトちゃんが羨ましいよ」
「一人だけ蚊帳の外なんだから」
「悪いことも四人ぶんこにしちゃ駄目?」

 ただ一人、今日一日を無事に過ごせたフェイトちゃんにわたしたちは揃って恨み言を呟いていた。
 
「やっぱり崇りなんだよ……」
「そんなのあるわけ……ないでしょ」
「ジュエルシードは封印したんだしね」

 きつねさんの体から出てきたジュエルシードには大した魔力もなく、最初から注意するようなものじゃなかったことがアースラの分析でわかった。ほんと、それなのにあんなに身構えていた自分が馬鹿みたいだ。
 原因を封印したんだからもしも崇りがあっても無くなってるはずなのに、まるでわたしたちには狙い済ましたように悪いことばかり起こっている。

「もしも……もしもよ! 崇りならあのキツネ……ただじゃおかないわ!」
「だ、駄目だよアリサ! もし違ってたら大変だよ!」

 これが崇りじゃなかったら一体何なのか。わたしたちにはわかるはずも無く、こうして心当たりに会いに行くのが今出来そうな抵抗というわけで。

「そうだよ。きっと謝れば大丈夫だよ」
「私もなのはちゃんに賛成。ジュエルシードを封印するためだからって酷いことしたのは変わりないし……」
「悪いのは私たちなんだし」
「そんなのわかってるわよ……うぅ、惨め」

 トボトボとした足取りでも、もう足は境内の石畳を踏みしめている。あの時は待つだけだったけど今度はみんなで呼んでみる。
 ただきつねさんに会いに行くなら楽しい気持ちで一杯の心も崇りのせいで微妙に曇り空だ。
 油揚げ一枚だけじゃ駄目だったのかと、今日はお小遣いもはたいて沢山の油揚げを持ってきている。お供え物で許してくれるなら安いお買い物のはずだから。

「きつねさーーん! 出てきてーー!」

 わたしたちの呼びかけにきつねさんはすぐに出てきてくれない。
 諦めず、何度も何度も呼んでみてもきつねさんが出てきてくれなかった。
 
「嫌われちゃったのかなぁ……」

 荒っぽくしなくても大丈夫な方法があったんじゃないかって、昨日きつねさんにしてしまったことを後悔してしまう。
 このまま崇りが続くのも嫌だけど、きつねさんに嫌われたままなのはもっと嫌だ。
 謝りたいのに謝れないもどかしさがわたしの心に圧し掛かっていく。見ればみんな悲しそうな顔で俯いていた。

「あ、どうしたのあなたたち?」
 
 しょげた背中に声がかけられた。
 聞きなれない人の声に誰だろうと振り返れば、やっぱり知らない人がこっちに向かって歩いてきていた。

「誰か呼んでたみたいだけど……」
「あのっ、わたしたちきつねさんを探してるんです。でも呼んでも出てこなくて」

 割と小柄な女の人はわたしの返事に、少しだけ眉をひそめ首を傾げてみせた。
 少し濃い栗色をしたセミロングが微かに揺れる。年上なんだろうけどちょっと幼さの残る顔がそれを感じさせない。

「きつねさん……? あっ、久遠のことね!」 

 女の人はしばらく考えるような仕草をした後、ぱっ、と笑顔になって一人頷いた。
 どうやらお参りに来た人ではないみたい。なんだかきつねさんの名前も知ってるみたいだし、もしかしたら飼い主さん――みたいな人かも……。

「久遠に何か御用?」
「えと、その、ここに来ればきつねさんに会えると聞いたもので」

 本当は正直に話すべきなんだろうけど、話がこじれちゃ大変そうなので咄嗟に隠してしまった。
 大人の人は崇りとか言っても信じてくれないはずだし。

「あ、そうなんだ……。でも今はちょっと会うのは駄目……かな」
「どうしてですか? まさか崇りとか!」
「あ、アリサちゃん!」

 思ってる側から台無しだった。
 直球勝負はアリサちゃんらしいけど、質問の内容としてはストライクどころかミットにも入らない。
 女の人は呆気に取られたように顔をポカーンとさせ気まずそうに視線をそらした。

「た、崇りってわけじゃないんだけど……でも久遠はちょっと今……」
「病気ですか? なら良いお医者さん知ってます!」
「びょ、病気ってわけでもないんだけど……あの、ちょっと人前に出れなくて……」
「人前って?」
「ちょ、ちょっとしたことなんだけど……その」

 なんだか様子がおかしい。崇りなんて信じてないなら普通は笑って流せるはずだと思う。
 なのに女の人はアリサちゃんが質問を投げかけるほど、どんどん返事がしどろもどろになっていく。まるでアリサちゃんが図星を突いてしまった感じ。
 これはもしかしなくても、そうなのかもしれない。きつねさんを人目に晒せないほどのことなら間違いなく大変なことなはず。
 
(多分、お姉ちゃんみたいになったんじゃないのかな?)

 念話で話しかけてくるすずかちゃんにどうなんだろうと手振りをしてみせる。
 忍さんの場合はL・ジュエルを封印しても魔法の資質は残ってしまって、今でも戦ったときと同じ魔法を使える。
 きつねさんもジュエルシードのせいで何か魔法が使えるようになって、例えばそれが「崇り」みたいな魔法なら頷ける話なんだろうけど。

(でもきつねさんは動物だよ)
(そしたらアルフは元は狼だし、おかしいことはないかも)

 女の人を質問攻めにするアリサちゃんを横目にわたしたちは探偵みたいにあれやこれや、少ない手がかりからきつねさんの正体を探っていた。

「じゃあ狐火出したり、木の葉乗せて変身したりとか!」
「あ、火は出してないけど雷なら……じゃなくて何も出してないから大丈夫!」 

 女の人はさっきから目が泳ぎっぱなしだ。おろおろして、ついにはアリサちゃんの猛攻にボロが出始めていたり。

(これはわたしたちの方から説明したほうが良いのでは……?)
(でもいいのかな? 勝手に魔法のこと話しちゃ駄目なんじゃ)
(提督やクロノならきっと許してくれるよ)
(それなら……大丈夫だね!)

 ジュエルシードが無くったって安全な保障はどこにも無い。きつねさんに会って、芽生えたのかもしれない魔法の力が、どんなものか調べるのは町の治安のためにも大事なこと。
 リリカル・ストライカーズはジュエルシードのためだけにあるわけじゃない。この町の不思議なことを解決するのがお仕事なんだから。

「大丈夫です! わたしたちも人前で見せられないペットがいるんです!」

 一歩前に出て、思い切って言ってみた。
 急がば回れとは言うけれど、きっとこのままじゃ前には中々進めない。地道に責めるよりも、ここは一気に押し通したほうが道は開ける。物事は時と場合で考えようなんだ。
 
 ということで、援軍要請を大至急。

* * *

「そうですか……種はフェイトたちがすでに回収を」
「ごめんねリニス。ほんとなら急いで残りも封印しなきゃいけないのに」
「いえ、気にする必要はありません。私としても事後経過だけは確認しておきたいですし」

 やんわり微笑みながらリニスは汗を拭った。
 まだまだ休まない太陽の灼熱を背中に浴びながら、私たちはただ黙々と石段を上っている。
 時折聞こえる息遣いは熱を帯びていて、リニスが夏の暑さに慣れてないことが黙っていてもわかる。
 
「リニスももっと薄着になればいいのに」

 私の今日のおしゃれは水色のノースリーブに真っ白なハーフパンツだ。リニスはというと、いつもの法衣をピシッと着こなしている。この気候じゃ見ているこっちが暑苦しくなるような格好だ。

「麦藁帽子とか似合うと思うんだけどなぁ~」
「耳がこすれるので遠慮させていただきます。いざとなれば耐熱用の障壁を張りますから問題ありません」

 それは自分の姿を鏡に映してから考えて欲しいと思う。
 暑さ、寒さの以前に自分の格好が激しく浮いていることをリニスはわかってるのかな? 生真面目なくせにこういう所には気が回らないのも考え物。

「また何か企みましたか?」
「ぜ~んぜん!」
「まったく……あなたの思いつきはいつも突拍子もないんですから。気が気でないですよ」

 口では呆れていたって、リニスはいつでも私のそばにいてくれる。流石に今度ばかりは止められるかもって思ったけど、それでもリニスは私の後をついてきてくれた。
 
「たくさん迷惑かけちゃってごめんね」
「自由奔放が何を言いますか。主と共にあるのは至極当然でしょう?」
「だって母さんの言いつけ破ってるんだよ」
「私が爪を立てるのは、主の行いが間違っていたときだけです」

 セミの大合唱に混じってリニスの声が聞こえた。少しだけ低くなった声は私を叱る時に似てる。
 足取りがちょっと重くなった。

「あなたは自分がやっていることが間違いだと思いますか?」
「私は……間違いじゃないと思ってる」

 けど、リニスは決して本心で怒っているわけではなかった。
 まるで魔法の問題を出すような口調で話しかけてくるリニスに私は迷うことなく頷く。信じてないなら私はいい子のままなんだから。

「それでいいんです。あなたが信じているなら」

 柔らかな響きに耳を傾けながら私の足はまた軽やかさを取り戻していく。
 
「うん、ありがと……リニス!」
「さぁ、もうすぐ神社です。浮かない顔はおしまいです」
「うん!」

 友達に会いに行くのに俯いてちゃいけないもんね。
 ぐっと口の両端を持ち上げて、えくぼを浮かべて、私は最後の石段を蹴った。

 きっとこの一歩は自分の信じた道を進む記念すべき一歩だから。

* * *

「じゃあ恭也さんの妹さんなんだ」
「はい。そういえばお兄ちゃんも言ってました。いつも鍛錬しに行く神社で巫女さんに会ったって」
「うん、私も可愛い妹さんがいるって聞いてたよ」
「うにゃ……そんな可愛いだなんて」

 会話に花を咲かせる二人の横で、私はこっそりと念話で提督と連絡を取っている。もちろん自己判断で魔法のことを第三者に話してしまったことについて。

(すいませんリンディ提督……勝手なことをしてしまって)
(そんな謝らなくていいわ。神咲さんがあの動物の関係者である時点で説明責任が出てくるのは当然のことなんだし)
(でも……)
(フェイトさんは少し難しく考えすぎよ。もっと気楽に、前向きに、ねっ?)

 そうなのかな……。
 なんだかクロノだったら怒りそうな気もするけど。

(クロノだったら大目玉だから言わないでね。これはあくまで私の持論だから)
(あっ、やっぱり)
(そうよ、あなたは一人じゃないんだから。楽しくやりなさい。何かあっても大丈夫よ)
(……はい!)

 やっぱり提督ってすごいな。言葉の一つに一つにすごい説得力がある気がする。
 不意に湧いた不安がいつの間にか無くなって、心が軽くなる感じだ。
 確かに私一人じゃない。ここにはみんながいる。

「あるふ……いぬ……?」
「あはは……がぶりってしていいかい」
「……流石にそれは駄目だって」
「ゆーのは……いたち……」
「僕は元々人間だよ……」

 私たちの考えの通り、ジュエルシードに取り付かれていた狐は魔法の力を覚醒させていた。今のところ変身能力だけみたいだけど力の制御が不安定みたいでまだ自由に変身できないみたいだ。

「あの、那美さんは久遠の飼い主なんですか?」

 率直な疑問をぶつけてみる。
 目の前の女性――神咲那美さんは少し困ったような顔つきで首を横に振る。
 着替え、赤と白の不思議な衣服――なのはが言うには巫女服――に身を包んだ那美さんはほうきで境内を掃きながら久遠の方に視線を向けて口を開く。

「飼い主……というよりは友達かな」
「友達……」
「私にとっては久遠はね、大切な友達なんだ」
 
 那美さんから狐のことを聞き出すために私が考えた作戦は簡単なものだ。
 動物が持つよう魔法は変身だったり、簡単な攻撃魔法だったりするから思い切ってアルフやユーノを呼んで那美さんの目の前で魔法を使わせてみたのだ。
 驚いて腰を抜かす危険もあったけど、那美さんは意外とあっさりこれを受け入れてくれて今に至る。

「あの、どんなことがあったんですか?」
「話すと少し長くなるけど……聞きたい?」
「ご迷惑でないなら、聞きたいです」 

 みんなはどうかと窺えば、三人も大きく頷いてくれる。

「じゃあ話そうかな。まず私の事から――」

 それからしばらく、那美さんの昔話が続いた。
 
 那美さんは幼いときに両親を事故で失っていた。その時の那美さんはそれが崇りのせいだと信じていたそうだ。
 なぜそんなことを信じていたのかというと、那美さんの家には「妖狐」と呼ばれる崇り狐の伝承があったせいらしい。
 それから海鳴に引っ越しこの神社にやってきた。元々この辺りに住んでいたのか、そんな時に彼女の目の前へ現れた狐に那美さんはどうしようもない怒りや寂しさをぶつけたというのだ。八つ当たりといえばそれまでだけど、那美さんの気持ちもわからなくはない。
 いじめられた狐はいつの間にか姿を消し、自分の過ちに気づいても結局謝ることも出来ないまま那美さんは今日まで過ごしてきたそうだ。

「それからね……子狐を見つけたの」

 ある日、境内にうずくまっていた傷だらけの子狐。野良猫か野良犬に襲われたのか、それは酷い怪我を負っていたらしい。
 もちろん那美さんはその狐を助けた。傷ついた狐が、昔いじめた狐の面影が重なって放っておけなかったらしい。
 傷が癒えた子狐に那美さんは名前を授けた。「久遠」という素敵な響きを持つ名前を。
 いじめて、「ごめんなさい」を言えなかった狐の分も今度は仲良く出来るように那美さんは子狐と友達になったのだ。

「――という感じかな。だから私にとって久遠は大切な友達なの」

 空を仰ぎ、懐かしむように那美さんは微笑んだ。
 
「例えこんな姿になってもそれは変わらない。びっくりはしてるけどね」
「でも気絶しないだけでもすごいと思いますよ」
「う~ん……家業でお払いとかの仕事もしてるからね。不思議なことがあってもおかしくないから、って思ってるせいかもしれない」

 確かにそれは一理あるかもしれない。でもそうすると私が思い切って魔法のことを話したのは実は相当危ないことだったのかもしれないとも思えてきた。
 那美さんは不思議なことにある程度免疫があったから良かったけど、まったく免疫の無い人が相手なら――。

(……前向きに考えよう)

 提督もそう言ってたんだし、ここは難しく考えないで終わりよければ全て良しとしよう。

「あの那美さん、わたしたちも久遠ちゃんの友達になってもいいですか?」
「うん、もちろん! 久遠も喜ぶわ」 
「えへへ、じゃあくーちゃん! おいで!」
「なのは、ちょっとそれ安直じゃない?」
「いいの! 可愛い名前でしょ!」

 なのはの呼びかけに久遠が駆け出す。無邪気な笑顔とフサフサの尻尾を揺らす姿を見ていると、なんだかアルフの小さい頃を思い出した。
 
「この前はごめんね。いきなりあんなことしちゃって」
「ううん……だいじょうぶ。……なのはは……やさしい……久遠……わかる」

 たどたどしい言葉遣いで名前を呼んでそっと久遠はなのはに抱きつく。変身できたばかりだから言葉を発音するのも難しいはずなのに、よく頑張っている。

「なのは……久遠の……ともだち」
「うん! わたしもくーちゃんの友達だよ!」
 
 友達になる方法は簡単なこと。名前を呼び合って、手と手を取り合って。そうすれば少しぐらいいざこざがあっても乗り越えられる。
 なんだか那美さんやなのは、そして久遠をを見ているとそんな想いが心の中に生まれてくる。
 
(アリシア……今どうしてるんだろう)

 ちゃんと手を取り合えればあの子とも友達になれるのだろうか。ミッドが消えた日、ジュエルシードを通して感じたあの子の心は無邪気で優しさに溢れていた。
 だから本当のアリシアはきっとすごく優しい子なんだと思う。ただ何も知らないから、目の前のことしか信じることが出来ないから、ぶつかるしか出来なかった。

(けどアリシアは強い子だよね)

 母さんの言いつけに従うことしか出来なかった私と違ってアリシアは自分の意志で歩いている。
 そうじゃなきゃ私はあの日ミッドと一緒に虚数空間に飲み込まれていたし、世界を救うために私と一つになろうなんてことだって考えなかったはずだ。
 
(不思議だな……なんでこんなにアリシアのことを信じてあげられるんだろう)

 こんなのクロノに言わせてしまえば憶測でしかない。私だって都合のいい話だと思ってる。
 ただ心の中にある温かい何かが、アリシアがそういう子だって言ってる気がしてならないのだ。
 一体それがなんなのか今はわからないけど、もしも遠くない未来でその答えを見つけられたならきっと私はアリシアと友達になれる気がする。
 
(今までだって友達になれたかもしれないけどね)

 分かり合えるチャンスはいくらだってあったんだと思う。だけどいつも私とアリシアの心はチグハグにすれ違っていて。
 神様がもう一度チャンスをくれるなら今度は絶対、

(友達になれるよね)

 そして私たちの大切な人と、この町を守り抜くんだ。
 もちろん母さんを止めることだって……二人ならきっと。


「く~おん! 遊びに来たよ!!」


 ――再開っていつも唐突だった。

「えっ……?」
「あっ……」

 願ったばかりのチャンスは、少し意地悪するみたいに、私を試すみたいに目の前に現れた。
 心の準備なんて出来ない鉢合わせ。緊張のせいなのか頭の中が真っ白になった。

「……アリシアちゃん」

 戸惑いがちになのはが名前を呼ぶ。それだけで、それ以上何も出来ない。
 
「あっ……」

 一触即発――というわけではないが、一応は敵である相手が目の前に現れてしまうとどう反応すればいいのか困るわけで。
 
「あっ……ありしあ!」

 声を上げたのは久遠だった。
 甘えていたなのはから離れると、一目散にアリシアの方へ駆け出していく。そして迷わず久遠はアリシアに飛び掛らんばかりに抱きついたのだ。

「ありしあ~……またあえた」
「うん、約束したもんね! よしよし……」

 事態が全く飲み込めないとはまさにこのこと。アリシアに頭を撫でられる久遠の尻尾は、千切れんばかりに左右へ振られている。誰が見てもご機嫌だってことがわかるだろう。

(ど、どうしようフェイトちゃん)
(え、えと……どうしよう)

 ここへ来たアリシアの目的とか、なんで久遠がアリシアに懐いているのか、問題はそこじゃない。

(戦うわけ? 那美さんと久遠を巻き込むわけにはいかないでしょ?)
(相手の事情もわからないし……)

 唾を飲み込めば、自然と体が身構える。
 淀み始めた空気を那美さんも察したらしく、複雑な表情で私たちやアリシアを見つめていた。 
 どういう態度で接すればいいのか言葉が見つからない。本当なら相手は敵で、一刻も早く捕まえなきゃいけないんだから。
 
「……? ありしあとふぇいと……そっくり」

 アリシアと私の顔を見比べながら久遠が不思議そうに首をかしげた。久遠が私とアリシアの関係なんて知ってるわけないから無理も無い。
 
「……あ、あはは、そうだね。そっくりだね。偶然なのかなぁ……」

 はぐらかそうとしているのか、ちょっと引きつった笑顔でアリシアは誤魔化そうとしている。
 
「えと、フェイトちゃんって双子だったのかな……?」

 尋ねるように恐る恐る聞いてくる那美さんの考え方は常識的だ。顔も声も、何から何までそっくりなんだから普通は双子と思うだろう。せいぜい違うのは私が髪を結ってるのに対し、アリシアは長髪のままだということ。
 相変わらず久遠は私たちの顔を見比べている。眉を寄せ首を傾げて、しまいには腕を組んで悩ましげに唸り声を上げた。

「え……は、はい! そうです! 私とアリシアは姉妹なんです!」

 咄嗟についた嘘に、久遠の耳がぴょこりと動くのが見えた。

「しまい……? じゃあみんな久遠の……」
「へ? あ、久遠!?」
 
 どこにそんな力があったのか、いきなり久遠がアリシアの手を引いて嬉しそうに駆け出した。
 ガクリとアリシアの体が揺れる。転びそうな体を必死に踏ん張りながら、あたふたする足で前へと引っ張られていく。
 均衡を保っていた距離が一気に縮まっていく。風のように久遠は境内を駆け抜け、私たちの前にアリシアが連れてこられた。

「ありしあも……ふぇいとも……久遠のともだち……だからけんかしちゃ……だめ」

 上目遣いに訴える久遠の顔は心なしか悲しげだ。
 顔を上げればアリシアと目が合う。間近に見れば見るほど、よく似ている顔だと思った。このまま入れ替わってしまったって誰もわからないかもしれない。
 
(リニスもアルフもわからないよね)

 あっ、でも精神リンクでわかっちゃうか……。切ってると逆に疑われそうだし。
 けど一度ぐらいは……やっぱり駄目かな。ばれたらきっと怒られちゃうし。

「ふふ……」
「あはは……」

 アリシアが笑った理由は私と同じだと思った。
 二人同時に、こみ上げる可笑しさが抑えられなくて思わず噴出して――。

「あ~あ、なんかフェイトと同じこと考えてるって思ったらどうでもよくなっちゃった」
「私も、久遠のおかげかな?」

 周りのみんなは私たちのやり取りにポカンとしてて、これがまたおもしろい。なんだか笑うことを抑えられない。
 
「フェイトも久遠に会いに来たんでしょ?」
「アリシアもね」
「そう! 友達に会いに!」
 
 はつらつと答えながらウィンクするのは私じゃ真似できそうも無い。
 やっぱり私とアリシアは違うのだ。姿形は同じでも存在までは同じじゃない。憎みあう理由なんて本当に最初から無かったんだ。
 
「うん……なかよし……だいすき」

 間にいる久遠は私たちの笑顔にご満悦だ。さっきみたいに尻尾をフリフリして喜びを表している。

「久遠、ありがとね」

 感謝をこめて撫でようとすると、

「「あっ」」

 私の手がアリシアの手にピタリと重なった。

「私が先だよ」
「早い者勝ち。私だもん!」
「しょうがないな……」

 那美さんが言ってたとおり私たちはほんとに双子みたいだ。
 ううん、生まれ方はそれぞれ違ってもきっと私たちは双子の姉妹だ。世界で一番そっくりで、全然違うもう一人の私。
 アリシアに対するみんなのわだかまりは消えたわけじゃない。けど今だけは、この不思議な出会いが結んでくれた縁に私は身を委ねようと思った。

 だって、ケンカするより笑ったほうが素敵だよね。

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