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2008.02/11(Mon)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十八話 Apart 


【More・・・】


 ピーッ! と笛の音が当たりに響き渡る。みんなが一斉に先生に注目してお約束的な言葉を待った。

「はい皆さん今日も自分の目標は達成出来ましたか? ここからはいつものように自由時間ですがあまりはしゃいで羽目を外さないようにね!」

 「はーい!」とみんなが一斉に声を上げ水飛沫が宙を舞う。たった今からこの場所は授業から開放されわたしたちだけの時間を過ごせる特別な場所になる。
 自由の楽園なんて言葉に負けないくらいの楽しい時間の始まりだ。

「ふにゃあ……」
 
 とは言うものの、わたしに至ってはあちらこちらで聞こえてくる楽しそうな声と水の音に耳を傾けつつ、こうやって冷たくも温くもない水の感触に全身を漂わせてほーっと一息なのです。
 
「――うにゃ!? ゴボゴボゴボ!」

 いきなり足先からを真っ逆さまに引きずり込まれる。今まで見上げていた空は水に遮られてゆらゆらしてる。
 どうやらほっと一息つけてたのは十秒もなかったわけで……。

「ぷはぁ!! も、もう何するのアリサちゃん!!」

 もがいて、慌てて、急浮上。
 脱出の寸前に見えた犯人が上がってくるのを待たず思いっきり怒鳴りつけた。

「おーほっほっ、残念ねなのは。ここはそんなノンビリさんが生き残れる場所じゃないのよ。隙を見せればどうなるかわかってるでしょ?」
「だからって……いきなりは酷いよぉ!」

 にんまりしながら浮き上がってきたアリサちゃんに何を訴えても無駄なのはこれまでの経験から知っているつもり。
 確かに今この場所でノンビリしてること自体かなり危ないことは良く分かっているんだけど……。

「うわ、みんなちょっと! いくらなんでもそれは――ってわぁぁ!!」

 誰かの慌てた声と、間髪入れずに「ドッボーン!!」と音と一緒に物凄い量の水がぶつかってくる。突然の爆撃に避けることも叶わずにずぶ濡れになるわたし。顔を拭って水を散らし、その勢いのまま喜んでいる犯人たちに声を荒げる。

「もーう! こういうことはもっとあっちでやってよー!」
「くぉらー! 男子ー! 自由時間でも女子に迷惑かけるなーっ! なにより飛び込みは禁止って言ってるでしょー!!」

 剣幕にも動じず走って逃げて行く調子のいい男子にため息をつきつつ、一体何が飛び込んできたのかとばっちりの爆心地に視線を移す。

「やぁなのは、こっちの水泳の授業って結構凄いんだね……」
「もう授業終わってるしこれは違うと思うんだけど」 
「はぁ、いっそフェレットになって泳いでいればいいじゃない、前みたいに」
「さ、流石にそれは……」

 前髪から水を滴らせながらユーノくんが苦笑い。どうやら男子に放り投げられたみたい。
 
「ほんとにみんなはしゃぎ過ぎだよぉ」
「いいんじゃない? 夏限定の授業なんだからもっと開放的にならなきゃ――ってそこ!! プールサイドは走らないーー!!」

 我らがアリサ委員長はこんな時でも抜け目なく、それこそプールの監視員さんも真っ青なくらいの勢いで注意を飛ばして大忙しだ。もっぱらその相手は男子ばかりだけどね。
 ギラギラなお日様に、光を反射してキラキラ揺れる水面。見渡せば真っ青な空を背景にどっしり構える校舎と入道雲。ちょっと塩素臭い水もここじゃ夏を引き立てるのに一役買っている。
 毎年恒例のプール授業は今日も恙無くいつも通りの流れといった感じみたい。

「それにしてもわたしたちのクラスもついにみんな中級と上級だけかぁ」

 今このプールに張られているコースロープは一本だけ。真ん中から綺麗に半分に分けられている。去年の授業じゃロープ二本で三つに分けられてたから広さ的にはかなり違う。
 ちなみにその分けられているプールはそれぞれ25メートル泳げない人、25メートル泳げる人、50メートルくらい余裕で泳げる人の、つまりは初級、中級、上級コースといった感じわなけで。

「ふっ、去年の訓練の賜物ね」
「アリサちゃんすごい頑張ったもんね」

 まだわたしが魔法少女になり立てだった頃にみんなで行った温水プールじゃ浮き輪と一緒だったアリサちゃんも、その後に渡る猛特訓のおかげで今では25メートルくらい普通に泳げるようになるくらいまで上達している。

「さっきの潜水から奇襲戦法も中々のものでしょ! まさかあそこまで気づかれないなんて我ながら恐ろしいものを感じるわ!」
「にゃはは……そういうのとは違うと思うんだけど」 

 今の目標はわたしと一緒で上級コース目指して毎日特訓中ってところ。元から泳ぐのだけは好きなわたしから見ればアリサちゃんはまだ勢いだけの感じで色々と改善すべき箇所が沢山あるのは内緒である。

「そういうわけで今日の成果を試すため勝負よなのは!」
「ふぇ!? なんでそうなるの!」
「あったり前でしょう。水泳も魔法も勉強したことを生かす集大成は模擬戦が一番!」
「模擬戦とは違う気がぁ……」

 うーん……別に嫌というわけではないんだけど泳ぎの速さならわたしの方が断トツだと思うよ。
 実際、同じ中級でもわたしは中の上でアリサちゃんは中の下、それも下から数えた方がいい新入りさんなんだよね……。

「アタシね最近閃いたのよ。何もひたすら泳ぐだけが水泳じゃない。それをなのは相手に思い知らせてあげるの!」 

 意気込むアリサちゃんはすでにスタート位置で25メートル先のゴールを見据えていたり。
 
「じゃあ……全力全開で行くからね!」

 親友だからこそここで手なんて抜くつもりは無い。ここまで言われて大人しく引き下がるわたしじゃないのはアリサちゃんだってわかってるから。
 スタートの合図をユーノくんに任せわたしもスタート位置に。

「……力の差、見せて上げるから」
「いいわよ、来なさい……返り討ちにしてあげる」

 どこかで言ったような台詞と共に体を構える。いつでも飛び出せるように全身を緊張させてその時を待つ。

「よーい……ドン!!」

 水の中へ――!
 バネになったみたいに体を縮ませ両足を壁へ押し付ける。同時に両手は真っ直ぐ前に頭の上で手のひらを重ね合わせる。
 出来る限り水の抵抗を少なくするように体は細くミサイルみたいに。後は勢いをつけて壁を蹴り上げるだけ。
 水が体中を通り過ぎる。心地よい感触に身を任せ、浮力に抗い進めるだけ進んでいく。

「ぷぁ!」

 指先が空気が触れるのがスイッチとなって両足が交互に水を蹴り上げていく。後はこの推進力を頼りにゴールを目指すだけ。
 右手、左手も負けずに水をかき上げ息継ぎもスムーズに。自分でも文句無しの泳ぎはお姉ちゃんからもお墨付きをもらった自慢のクロール。

(アリサちゃんは――)

 息継ぎの瞬間に隣の様子を垣間見る。
 並んでる? そうじゃきゃわたしの後ろ? 隣のコースに今のところアリサちゃんはいない。つまりわたしがリードしてるってこと。
 このまま一気に! 再び顔を水の中に沈め手足に意識を集中させた。
 
「――ゴール!」

 指先の固い感触に足も地面へ降り立つ。
 水を拭いながら振り返る。いくらわたしが速くてもアリサちゃんだってもうゴールしてるかな?

「はい、なのはお疲れ様~」
「……え?」

 隣にいた。
 
「ギャラリー的には最後のなのはの追い込みが凄かったみたいだけどアタシの先行逃げ切りには勝てなかったみたいね」

 肩で息をしてるのはそれだけアリサちゃんが頑張った証拠だ。得意気なのも頷けるんだけどわたしの中にはそれ以上に不思議なことが……。

「アリサちゃんそんなに速かった……の?」

 それなりに自信があった水泳で負けたのは割りとショックです。

「時代はスタートダッシュなのよ。蹴伸びを制するものは水泳を制するの!」
「え、えとつまり……」

 最初からわたしはリードなんてしてなくてアリサちゃんがずっと先にいたってことだよね?
 それも最初の蹴伸びだけでリードしたってこと……?
 確かにアリサちゃんキックとか得意そうなのかなぁって思ったりもするけどそこまで鍛えてないよね。

「なのはの二倍くらいは潜ってたんじゃないかしら? ただ真面目に泳いでいるだけじゃアタシには勝てないってことよ!」
「うぅ、そんな特訓してたなんて聞いてないよぉ」
「自信が無かったらなのはになんて挑まないわよ。それと特訓ならなのはだっていつも見てるじゃない」 
「ふぇ? 見てた?」

 言われてパッと思い浮かぶものが無い。だってお稽古と塾とかそんな水泳に関係するものなんてアリサちゃんがしてた記憶が……。

「ブーストジャンプって魔法にしなくても役に立つのよねぇ」

 誇らしげな声にわたしの中でも謎が解けた。
 そういえばアリサちゃんの飛行魔法って両足で魔力を蹴り上げて進むんだったよね……。ぐっと体を縮めて一気に押し出す動きなんて考えてみれば水泳のスタートと同じ感じだった。

「なのはの言う事もわかる気がするわ。泳ぐの好き好きって」

 油断したな。アリサちゃんがまさかこんな切り札を持ってなんて。
 
「う~、じゃあもう一回勝負しよ! 今度は負けないから!」
「乗ってきたわね。いいわよ、何度だって返り討ちにしてあげる」
「わたしだって今度は全力全開の全力全開なんだから!」

 このまま引き下がるのも嫌なので再戦宣言だ。今度はアリサちゃんに絶対負けない。
 いつもいつも運動神経切れてるって言われてるわたしでも、水の中でならそこそこの運動神経になれるんだから余計に負けたことが悔しいから。
 それにこうやって一緒に競争出来る相手ができたのはわたしにとって凄く嬉しいこと。
 なぜって言われるとそれは――。

「ゴール! やったぁ一位!」
「くっ、最後の最後で抜かれるなんて……」

 ロープを隔てた向こうの世界で繰り広げられている風景にはとてもじゃないけど今のわたしが加わるのは無理な話だから。

「フェイトちゃんやっぱり速いよね。運動神経も凄いし」
「でもすずかみたいなスタミナ無いよ~。ペース配分間違えたかなぁ」
「150メートルだからね。流石に50メートルとかじゃフェイトちゃんの圧倒だったしいいんじゃないかな?」
「それでも悔しいよ。今度は絶対勝つんだ!」
「ふふ、いつでも挑戦待ってるよ」

 …………。
 なんというかとても同い年の子からとは思えない距離が聞こえたような気が。

「中級のアタシたち……上級を知らずってとこかしら、ね」 

 少しでも向こう側を覗いてしまうとわたしたちのやってることはなんだか凄くちっぽけなものに思えてきてしまいなんというか微妙な気分だったり。

「でもまっ、フェイトが楽しんでるんだからいいんじゃない」
「……そうだね、フェイトちゃん本当に楽しそう」
 
 最初こそ水泳の授業に戸惑いがちだったフェイトちゃんだったけど、今やクラスの中でも指折りのスイマーとしてみんなの人気者だ。
 水を得た魚みたいにプールの前のフェイトちゃんの顔がいうも生き生きしているのをわたしは知っている。

「夏休みの予定にプールも組み込まないとね。まったくスケジュール管理が大変じゃない」
「嬉しそうだねアリサちゃん」
「そりゃ泳げないでウジウジするより泳げてワイワイする方が楽しいでしょ? なんでたってアタシがそうなんだから!」
「もうアリサちゃんったら」
「ほ、ほら! 再戦するんでしょ!? リベンジ成功なんて絶対させないんだから覚悟しなさい!」
「にゃはは! 絶対勝っちゃうんだから覚悟してね!」

 フェイトちゃんとすずかちゃんがまた競走を始めるころわたしたちもまたスタートにつく。
 プールから楽しげな声は聞こえなくなるのはそれからちょっと時間が経ってから。授業の終わりを知らせるチャイムが鳴っても騒いでいたわたしたちに先生が雷を落とすまで。
 だけどわたしたちの時間はずっと続いていく。七月の空の下でこれからも、その先も。
 
学校も魔法も、毎日一分一分、一秒一秒がキラキラな思い出に変わっていく。

* * *

 二時間目が終わってここからしばらくは行間休み。
 外へ遊びにいく男子たちとお喋りに興じる女子で教室の色は一気に変わる。みんなそれぞれ仲の良い友達同士といろんな話に夢中になり始める。
 もちろん私もその一人であるわけで。

「さぁて……三人ともこの前のテストの出来はどうだったかしら?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべながらアリサちゃんが私たちの顔を順番に見渡していく。

「アタシは言うまでもなく満点だからいいんだけど、あんたたちもリリカル・ストライカーズとして恥じない点数取ってあるわよね~?」

 みんなの手にはこの前の時間に返された算数の小テストが握られている。授業の簡単なおさらいとして先生が時々抜き打ちで出してくるテストはクラスの中では割と不評な様子。
 ちゃんと授業を着ていれば出来そうなものだけどやっぱり心の準備とかは欲しいからなのか教室を満たす話題はほとんどがこれに関してだ。

「まずは言い出しっぺのアタシね。先にも言ったけど正真正銘の満点よ!」

 机に広げられた答案の右上には赤い文字で大きく「50点」と書かれていた。小テストは五十点満点なので紛れもない完全解答。
 アリサちゃんに続けて私たちも一斉に机の上に答案を広げる。真ん中のアリサちゃんを囲むように私、なのはちゃん、フェイトちゃんと合わせて四枚の長方形が陣形を組んだ。

「……つまらないわね」

 面白くなさそうな顔でアリサちゃんが呟いた。

「まぁ……小テストだし、ね」 

 苦笑いをするなのはちゃんに私とフェイトちゃんが頷きあう。
 机の上の四つの「50点」はどれも誇らしげな字体で紙の上にどっかりと腰を落ち着けている。比べる余地がまったくないのはアリサちゃんとしては残念な結果なんだろう。

「隙が無いのはチームとしてはいいんじゃないかな」
「みんな満点なのは喜んでいいと思うけど」
「そうなんだけどね……特に算数じゃしょうがないか」

 はぁ、とため息をつく。
 多分この算数だけはクラスで私たち四人に敵う子はいないと思う。
 別に塾で一生懸命勉強しているからというわけではない。これは私たちの秘密に大いに関わることであり、その点では他の子たちとはちょっとだけ違う勉強法になるとは思うんだけど。

「魔法の勉強がまさか算数に応用できるとは思ってなかったもん」
「魔法って言っても結局プログラムを組んで発動させなきゃいけないからね。術式の構築でどうしてもある程度の知識は必要になるんだ」

 フェイトちゃんにみんながうんうんと同意する。
 
「でもアリサは感覚で組んでるんじゃなかったっけ?」
「アタシは元々やらなくても出来る子だから。天才ってやつよ」
『I think that it is an exaggeration,buddy』(そりゃ言い過ぎだと思うがな)
「アンタは黙ってなさい」

 髪留めの宝石がピカピカ光る。
 
『Aren't you good at preparation and the review of the class?』(授業の予習と復習はお手の物だろ?)
「よ、余計なことは言わないの!」

 顔を真っ赤にしてバーサーカーに面白いようにからかわれてしまうのは相変わらずなアリサちゃんだ。
 気を取り直すように咳払いをしてアリサちゃんは再び私たちと向き直る。

「感覚って言う意味じゃなのはだって算数は危ないんじゃない? 油断してると足元すくわれるわよ」 
「その点ではアリサちゃんと同じなので問題無しって感じかな」
「うぅ……なんだかムカツク」

 ガックリ肩を落として子犬が駄々をこねるみたいにアリサちゃんが唸っている。
 
「まあいいわ。この調子で夏休み前のテストも全教科満点でいくわよ!」
「もちろんだよアリサちゃん!」
「そうだね、流石に全部満点は難しいかもしれないけど」
「わ、私……国語が」

 そう、待ちに待った夏休みまでもう二週間もない。燦々と降り注いでいた太陽も今や窓の外でギラギラになってグラウンドを焦がしている。
 その上で男子たちが暑さに負けず駆け回っているのはきっともうすぐやって来る楽しい時間が待ちきれないから。
 男の子たちの熱気が冷房で快適な温度になっている教室にも伝わってくるみたい。

「けどあんたたちも分かってるわね? 夏休みの予定はまず事件を終わらせてから」

 アリサちゃんの言葉にみんなが同時に頷きを返す。
 うん、私たちがはしゃぐのはまだまだ先のこと。この町にあるジュエルシード全部封印して、事件を解決するまで私たちに夏休みはきっと訪れないから。

「夏休みになるまえに終わらせたいのが本音だけどね」

 それはこの場にいる全員の気持ちだ。流石に夏休み返上で……っていうのは簡便して欲しい。

「L・ジュエルは後四つだよね?」
『Yes,my master』
「じゃあ半分は封印できたんだ」

 レイジングハートの答えに私は胸を撫で下ろした。
 これでまだ半分以上残ってたら流石に面食らってしまうところだった。けど私たちから仕掛けることが出来ない以上、残りが半分を切っていても油断は出来ない。

「アリシアちゃんたちのこともあるしね」 
「やっぱりあの子も昔のフェイトみたいに嫌々働かされてるんじゃない?」
「嫌々ってわけじゃなかったけど……周りは見えてなかったな」
「もしそうなら助けてあげたいよ」
「……うん」

 頭を悩ませるもう一つの問題にフェイトちゃんが静かに頷いた。 
 フェイトちゃんと瓜二つな女の子のことを少しだけ考えてみる。事件の始まりであるL・ジュエルをまいたあの子は今どこで何を思っているのだろうか。

「友達に……なれないかな」
「すずか?」
「あの子はきっと昔のフェイトちゃんだと思う。だからね、なのはちゃんがフェイトちゃんと友達になったみたいに今度は私たちでアリシアちゃんと友達になれないかなって」

 自分でも都合のいい話だと思う。でも私はアリシアちゃんが自分から望んで事件を起こしているようには思えなかった。
 記憶の中で出会ったアリシアちゃんはいつだって悲しそうな顔で、いつも心の奥にほんとの気持ちを隠しているように私は感じていたから。

「でもアタシたちの気持ちばっかり押し付けたって……あの子がそれを望んでいた場合に限るわよ」
「うん……」
「これは保留ね……その時になるまでわからないことだから」

 アリサちゃんの意見に私は釈然としないまま首を縦に振った。隣のなのはちゃんもフェイトちゃんもきっと気持ちは同じ。
 もちろんアリサちゃんだって同じだ。
 
「あっ! フェイトフェイト~! テストどうだった!?」

 重苦しくなってきた雰囲気を吹き飛ばすようにいきなり私たちの間から顔を出してきたのはクラスメイトの中島さんだった。
 フェイトちゃんの席の前で何かと世話を焼いてくれる子だ。いつも元気一杯でよく男子に混じって遊んでいたり。
 ちなみに運動神経はかなり良く、ドッチボールじゃ私と互角以上の動きをしてくる油断できない相手でもある私の密かなライバル。

「……うう、みんな酷い」
「何言ってんの、今回はあんたの努力が足りなかっただけよ」

 私たちの満点の前にガクッと落ち込む中島さんの頭を丸めた答案でポンポン叩きながらやって来たのはそんな中島さんの親友のランスターさんだ。
 
「違うよぉ……絶対崇りのせいだもん! だから調子出なかったんだよー!」
「崇り?」
「そうなの。こいつね、最近噂になってる神社に行ってきたのよ」
「きつねさんが出てくるっていう?」

 そう言えばそんな噂がこの数日クラスの中を飛び回ってることを思い出した。
 何でも西町の神社にお稲荷様が出没していてそれに出会って油揚げを上げるとなんでも願い事を叶えてくれるという。

「せっかく買ったアイスも落としたんだよ……これ崇り以外に何があるっていうの~」
「あんたのドジ」
「ティアの意地悪……」
「なぁに? 馬鹿に続けてドジ昴って呼んで欲しいの?」

 でもこの話には続きがあって、もしもお稲荷様を怒らせてしまったらそれはそれは恐ろしい崇りに見舞われてしまうとか……。

「だって厚揚げしかなかったんだもん」
「きつねさんって食べるのかなぁ?」
「一応雑食性じゃなかったかしら? ていうより油揚げが好きってまんまおとぎ話じゃない」

 呆れるようにアリサちゃんが右手をヒラヒラさせている。

(……どうする? 一応はクラスの一大事として神社の調査……行ってみる?)

 でも心の中じゃ念話がすぐに駆け巡っている。
 火の無いところに煙は立たない。何か不思議な出来事があったからこの噂が生まれたこと可能性だって否定できない。

(呪いみたいな魔法は確かにあるからね……もしかしたら原生生物にジュエルシードが取り付いたのかもしれない)
(ストライカーズ出動ね!)
(油揚げも忘れないようにしなきゃ)

 もしかしたら――の先にある答えが不思議の詰まった非日常ならそれを解決できるのは私たちだけだから。
 
(それじゃ帰宅後、準備が整い次第アースラハウスに集合ね)
(うん!)
(あ、えと……その前に)
(どうしたのフェイト。何か質問?)
(私としては五時間目の問題を先に解決したいなぁ……って)

 念話の中を深いため息が通りすぎっていった。

(こっちを解決するのが先だね)

 魔法よりもやっぱり大事なのは私たちの日常。羽ばたく前にやれることはちゃんとやっておかないとね。

 魔法少女だっていつもは小学四年生なんだから。

* * *

 上る――! 上る――!! 駆け上る――!!

「はぁ……はぁ!」

 長い長い石段を一歩ずつ、時には一段抜かしにしながら、わたしは神社目指して階段を蹴っていく。
 心臓はドクンドクンと高鳴っているのは階段を上っているせいだけじゃない。これから始まるかもしれない事件と、出会いに心がワクワクしているから。
 汗ばむ体もなんのその。セミの声に歓迎されながらドンドン上を目指していく。

「はぁーーっ……到着!」

 深呼吸しながら振り返れば涼しげな夏風と共に海鳴の町が一望できる。山の中腹にあるだけあって眺めは最高だ。
 前にもここで子犬に取り付いたジュエルシードと戦ったんだよね。あの時はまだ魔法だって全然使いこなせなくて大変だったなぁ。

「わたしも成長してるんだね」

 まだ太陽が天高くある時間帯の町を見下ろすのはこれが初めてだ。夕日の町並みも綺麗だったけど、こうやって太陽の光に照らされて輝く町並みだって負けず劣らず。
 こう暑くなければピクニックには最高かも。

「はい! ビリっけつご到着ね」
「うにゃ!?」

 後頭部にゴツンと軽い衝撃。揺れる景色に何事かと思って振り向けば、

「まったく、子供じゃないんだから景色見てはしゃがないの」

 チョップにしていた右手を崩しつつ、アリサちゃんが悪戯っぽい笑みで浮かべていた。

「は、はしゃいでないよぉ!」
「はいはい、まっ取りあえず全員揃ったんだから、早速作戦開始ね。いくわよ、なのは」
「ふぇ!? あ、待ってよアリサちゃん!」

 パッとその場を切り上げ、回れ右のアリサちゃんの後にわたしも続く。
 既に神社の境内にはアリサちゃんの言う通り、他のみんなが集合していた。

「なのは……やっと来たぁ」
「ご、ごめんねフェイトちゃん」
「どうしたの? なにか用事があったとか」
「そ、そうじゃないんだけどね、すずかちゃん」

 みんなにペコペコ頭を下げながら、準備に時間がかかってしまった自分にちょっと反省。
 きつねさん用の秘密兵器を探すのがまさかあんなに時間がかかるとは思わなかったから。

(なんて言い訳しても……だよね)

 くよくよしても仕方がないし、ここはご愛嬌。

「それできつねさんは?」
「今はまだってとこ。取りあえず、すずかに周りを魔力探知させてみてるんだけど」

 アリサちゃんが話を振ると、さっそくすずかちゃんが右手の指輪に話しかける。
 淡く輝いていた待機状態のシルフから光が消え、何度か点滅した。

『I'm sorry.I can't finish detecting the signal yet.』(申し訳ございません。まだ反応を絞りきれなせん)
「そっか……やっぱり」
「やっぱりって?」
「ジュエルシードの魔力は感じられるんだけど……ハッキリした形になってないの。神社の周り全体から感じられるみたいで」

 何度か神社を見渡して、すずかちゃんは首を傾げる。

「私でもこれくらいだし、ここにジュエルシードはないんじゃないかな?」
「でも気配はあるんでしょ? 忍さんの時みたいにステルス加工してるだけじゃないかしら?」

 そういえば……忍さんに取り付いたジュエルシードは結界で魔力をある程度遮断していた。
 まだまだ事件には程遠いかもしれないけど、もしかしたら崇ってくるきつねさんも同じことをしているのかも。
 やっぱり肝心のきつねさんに会わないと始まらない予感だ。

「どうすれば出てくるのかなぁ……」
「罠でも仕掛けてみる?」
「だ、駄目だよアリサちゃん! まだきつねさんが犯人って決まったわけじゃないし!」
「けど白黒はっきりつけるならこれしかないでしょ」
「バインドとかなら傷つける心配もないしね」

 割と危ない考えを勧めてくるアリサちゃんに、すずかちゃんまで味方をしている。

「で、でも二人とも、きつねさんに崇られたら大変だよ!」
「なぁに、なのは。もしかして怖いのかしら?」

 わたしの反論もアリサちゃんの意地悪そうな顔の前に成す術なし。相手はジュエルシードなんだし、もしも本当に崇りがあったらたまったもんじゃない。
 クラスですでに崇り――かもしれない――にあった被害者がいるんだし。

「噂もあるんだよ! きつねさんの崇りは絶対あるの!」
「ならどうやってその犯人を突き止めるのよ? アタシとしては肉を切らせて骨を絶つ方が手っ取り早いと思うんだけど」
「え、ええと……」

 ずいっと圧し掛かってくるアリサちゃんの圧力に、段々と目を合わせられなくなってくるわたしです。
 口ごもって、タジタジで……。強く言えないのは、わたし自身もいい方法が閃かないから。
 こういう場合は一番頼れそうな人に相談するのがもっともなので、

「えと、フェイトちゃんは」

 眼差しに「助けて」をいっぱい押し込んでフェイトちゃんへ送る。
 で、そのフェイトちゃんはというと――……、

「うん、よしよし……いい子いい子」

 わたしたちに背を向けながら屈んで、何かを撫でていた。

「フェイト……あんた何撫でてるの?」
「ノラ猫かな……?」

 口々にしながら、フェイトちゃんが撫でている生き物を覗き込む。
 焼き加減の目安にも言われるように綺麗な茶色の毛並みに、ぴょこぴょこ動く大きくてフサフサの尻尾。
 犬みたいだけど、少しばかり細い顔立ち。フェイトちゃんの手の感触に目を細めて、どうやらご機嫌みたい。

「くぅん!」

 甘えるような鳴き声は子犬に間違えそうだけどその姿を見れば一目で違うとわかる。
 
「ね、ねぇ……フェイトちゃん」
 
 どうりでさっきからフェイトちゃんが喋らなかったわけだ――なんて納得してる場合じゃない!
 
「フェイトちゃん! その子! その子がきつねさん!!」
「あ、そうなんだ。この子がきつねなんだ…………えっ?」

 フェイトちゃんは気づいていなかった。
 今まさに撫でている動物が、もしかしたらこの事件の最重要人物――じゃなくて動物かもしれないことを。
 硬直するフェイトちゃんに、わたしたちもつられるようにピタリと動きを止めて。心の準備なんて出来ていないのは当たり前だ。

「す、すずか……ジュエルシードは」
「……当たりみたい。反応は小さいけど、この子の中にあるよ」
「ど、どうしよう……」

 覗きこんだ姿勢のままどうすることもできないわたしたち。いきなり表れた事件の主役に話し合った計画は台無しだった。

(お、おびき寄せてからどうするんだっけアリサちゃん……)
(あ、アタシに聞かないでよ。まずは崇りがジュエルシードのせいなのか調べるまでが作戦なんだから)
(それからのこと少しは考えてなかったの!?)
(……ケースバイケース)
(ふぇぇ……)

 そもそも計画なんて入り口どまり。わたしの中でも今日はまず様子見のつもりだったからアリサちゃんを責めることもできない。
 でもこの場で一番困っている子は多分……、

「みんな……ど、どうすればいいの?」
 
 ぎこちない動きなのは緊張のせいだって嫌でもわかる。さっきは助けてもらおうとしたのに、逆にわたしたちへの「助けて」サインが背中から溢れていた。

「もしかしてフェイトちゃん、狐がどんな動物か知らなかったの?」
「ミッドチルダのとは大分違ってたから……こんな小さいなんて知らなかった」
「多分まだ子供だと思うんだけど……あっ、ちなみにこっちの世界の狐は、哺乳綱ネコ目イヌ科キツネ亜科キツネ属 に属する――」
「すずか……戻ってきなさい」
「……うん」

 図鑑を調べたのか流石はすずかちゃんだ。
 こんな場面で解説されてもほとんど意味ないのは触れないでおくけど……。

(問題は発動しているか、でしょ? もしかしたらエサと間違えて飲み込んだだけなのかもしれないし)
(そうだよねアリサちゃん。発動してなければまだ安心だよ)
(すずか……どう?)

 きつねさんを刺激しないように会話を念話に切り替えて水面下で状況を前へ進めていく。

(発動してる……のかな? すごく反応が小さいけど動いてる感じがする)
(な、なのはぁ……どうしよう)
(フェイトはもう少し引き付けてて! せっかく懐いてるんだから!)

 うまくすればバインドで一気に捕まえられるかもしれない。きつねさんがフェイトちゃんに気を取られている今ならこれが一番の方法になるはず。
 覚悟を決めるなら今だ。

(よし! わたしやってみるね!)
(お願い……なのはぁ!)

 割と深刻な状況になっているフェイトちゃんのためにも、きつねさんに気づかれないよう静かにレイジングハートを取り出し、後ろに隠しながらデバイスモードへ――。
 睨めっこするみたいにきつねさんを見つめて、さっそくバインドの詠唱を開始する。

「くぅん……?」
(お願い! 気づかないで!)

 なんだか目が合った気もするけど構わず発動!
 
「キャウン!?」

 キンッ! と、きつねさんの周りに光の輪が表れ一気に拘束する。
 悲鳴を上げて、きつねさんはそのまま石畳の上に転がった。手足をじたばたさせながら突然の事に何事かと辺りを見回し目を白黒させている。

「ナイス! なのは!」
「ふぅ……ありがと」

 やっぱり魔法は凄かった。反射神経が良さそうな相手でも見たこともない力の前では手も足も出ないみたい。
 上手い具合にバインドが決まってくれたことに、心の中に張り詰めたものが抜け出ていった。
 ちょっと可哀想だけどこれもきつねさんのため。ジュエルシードが悪さをしたら、きっともっと痛い目をみることになるんだから。

「くぅん!? きゅう! キャン!?」
「ごめんね、すぐに助けてあげるから」

 フェイトちゃんがすぐに変身して杖を構え、封印魔法を発動させる。
 きつねさんはバインドから逃れようと身をよじるけど、わたしのバインドはそう簡単には壊せない。まして魔導師でもない普通の動物なら壊すことなんて絶対無理だ。
 でも油断は禁物。これまで色んなタイプのジュエルシードと戦ってきた経験がまだ全部終わりじゃないって叫んでる。痛い目にはわたしだって遭いたくないし。

「アルカス、クルタス、レイギアス! 忌まわしき器よ、その力ここに封印せん!!」

 掲げた杖から放たれる無数の光の矢。
 天高く上ったそれはすぐにきつねさん目掛け降り注ぎジュエルシードから魔力を奪い取っていく。
 
「ジュエルシード!!」

 煌く金色の光にきつねさんの体から青い宝石がゆっくり飛び出してきた。
 勝負はここから? 簡単に封印はさせてくれないよね……。バインドの他にいつでも変身出来るようにレイジングハートに声をかける。 

(あとプロテクションも準備したほうがいいかな……?)

 転ばぬ先の杖は何本あっても足りないくらいだ。

「封印!!」

 フェイトちゃんが手際よくジュエルシードを回収するのを眺めながらそんなことを考える。
 
(あれ?)

 変身を解いてフェイトちゃんがきつねさんを抱き上げる。ちょっとだけぐったりしてるけど見たところ大丈夫そうだ。
 それにしても、随分あっさりしているのはなんでだろう。

「なのは……あんたいつまでレイジングハート杖にしてるの?」
「封印終わったしもう大丈夫だと思うけど……」
「だって二人とも油断はでき――」

 言いかけて、気づいて、段々恥ずかしくなってきたのは言うまでもないわけで。
 
「あ、あはは……そうだよね」

 照れ笑いで誤魔化しつつ、そっとレイジングハートを元に戻す。

「ごめんね、怪我はない?」
「くぅん……」
 
 か細い鳴き声で返事をするきつねさん。目立った傷もないし、弱ってる以外で悪いところは見当たらなさそうだ。
 フェイトちゃんの腕にすっぽり収まりながらわたしたちを見上げるきつねさんの瞳は不思議なものでも見るようにきょろきょろ動いている。
 もしかしたら何が起こったのかきつねさん自身もわかってないのかも。

「怯えてはいないみたいね。怪獣相手はいいけど、か弱い小動物相手だといい気分はしないわね」

 アリサちゃんがやれやれと苦笑いして肩を竦めた。
 でも結果としてはジュエルシードも安全に封印できだし万事オッケーって所なんだし、こういうのはしょうがないんだろう。

「おまえ、一人で歩ける?」
「くぅん!」

 フェイトちゃんが問いかけに元気な返事をすると、きつねさんは身をくねらせフェイトちゃんの腕から地面へ軽やかに飛び降りた。
 
「わたしからもごめんね。これきつねさんのために持ってきたんだけど」

 お詫びのしるしとしてわたしはカバンを開く。教科書やノートがひしめき合う中から押し込んでいたビニール袋を取り出して、

「探すの苦労したんだよ……はい!」

 きつねさんの目の前にそっとわたしの取って置きを置いた。

「ほんとに油揚げ持ってきたのね」
「だってきつねさんだもん!」

 なんてたって家の冷蔵庫になかったから翠屋まで探しに行ったくらいなんだ。
 遅刻の理由はそういうことで。

 わたしの差し出した油揚げをきつねさんは鼻先を近づけ匂いを嗅いでいる。でもすぐに悪いものじゃないと分かったみたいで、パクッと油揚げをくわえて見せた。
  
「わああ!」
 
 みんな一緒に歓声を上げた。
 さっきまではジュエルシードのことばかり頭にあったこともあって、もう湧き上がるワクワクを止められないって感じ。
 小さな口から油揚げをこぼれんばかりにはみ出させて、きつねさんはわたしたちの反応に首を傾げる。

「わぁぁ……!」

 その仕草がまた愛らしくて、黄色い声が境内を飛び交っていく。
 いつもテレビの向こう側にいたきつねさんはこうやって間近に見るとぬいぐるみみたいで可愛い以外の言葉が見つからない。もう眺めているだけで心の中がふわふわーって気持ちで一杯にされちゃいそう。

「ほらぁ、やっぱりきつねさんには油揚げだよ~」

 顔を綻んでしまうのを抑えられない。なんだかニヤニヤしっ放しで力が抜けていく。
 
「あっ、行っちゃう!」

 わたしたちを見飽きてしまったのかきつねさんがこっちに尻尾を向けた。
 油揚げをくわえたままきつねさんは飛び跳ねるように駆け出していく。そして境内を突っ切り、神社の脇の茂みの前で止まる。

「くぅん♪」

 振り返って、可愛く一声。
 その仕草にまたため息をつくわたしでした。

「なんだったのかしらね……崇りとか」
「たまたまなんだろうね。そういう日もあるってことで」
「でも大事にならなくて良かったね」

 茂みに飛び込むきつねさんを見送りながら、みんなが今日一日の感想を呟く。
 そんな中でわたしはというと、

「また会いたいなぁ……」

 すっかりきつねさんの可愛さにやられていました。

 でも、これで事件が終わるなんてのは甘い考えだったということをわたしは後で思い知ることになるわけで、

 狐の崇りなんか可愛く思えるくらい、びっくりする大事件の始まりなのでした。

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