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2008.01/14(Mon)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十七話 Cpart 


【More・・・】


 ――光の中にいる。

 その中を僕は微かな浮遊感と共に沈み続けていた。
 ぼーっとした頭の中は刻々とこの光のような白さで塗りつぶされている。

(限界……かな)

 あそこまで大規模な魔法を使ったんだ。それに関わった僕にとっては計り知れない負担を精神に刻み付けただろう。
 入ってくるだけでも危険なのにこんなことまでするなんて。

(……無鉄砲だったんだな僕って)

 なんだか今更ながらに思い知るわけで。
 思えばジュエルシード追って一人で碌な準備もなしにやってきたり、管理局相手に勝手な判断でフェイトの所へなのはを行かせたり――。
 いつもいつも、僕は肝心な所でいろいろ考えてないらしい。

(今もだよなぁ……)

 上下逆さまで落ち続けながらため息をつく。
 なのはは助けられたけど予想通りというかなんというか……僕は戻れそうも無い。一応は戻る気持ちもあったんだけど、

(というよりは)

 なのはと一緒にいてその気持ちが大きくなったと言うべきだろう。
 自己犠牲なんてなのはは喜ばないだろうし……というか絶対泣くんだろうなぁ。笑顔を守りたいなんて大見得切ってそんな有様だなんてクロノの白い目が永久に突き刺さり続けそうだ。
 後悔はない――なんて格好良く舞台を去れたら気持ちいいんだろうな……。

(きっと誰もが望んで舞台を去るものはいないんだ)

 悟ってみても結果は変わらないだろう。このまま僕の精神はなのはの心の中で融けることなくボロボロ砂の塊みたいに砕けて消滅するんだから。

「ユーノくんもたもたしちゃ駄目だよ! 一緒に帰るんでしょ!」

 幻聴かな……きっと幻聴だ。

「もうわたしだって疲れてるんだからぁ」

 幻聴が口を尖がらせている。最後が不満に塗れて終わるのはなんだか情けない。

「……ほんとしょうがないんだから」

 右手に何かが触れた。
 温かい何かは僕の手を掴みそのまま上へと引っ張りあげていく。逆さま感覚が元へと戻り右手以外はだらしなく放り出されている。
 
「でも……ありがと」

 柔らかな声に僕はようやく自分が上に向かって昇っていることをおぼろげながら感じていた。

(サルベージ船にでも見つけられたのかな……?) 

 まるで海の底から引き揚げられる財宝のように引っ張られていく。
 段々と意識が薄くなってきた。完全に意識を無くす前に一体誰が僕を助けてくれたのか好奇心が湧いてきた。
 少しだけ頭を上げてみる。降り注ぐ光の中で誰かが桜色の羽をはためかしながら僕の腕を引っ張っていた。 
 僕に気づいたのかその子はにこっと笑ってみせた。栗色のお下げが元気よく揺れる。

(天使……?)
 
 どうやらこれはお迎えらしい。
 妙に僕の良く知る人間に似ているのはきっと天使の気まぐれなサービスなのだろう。
 これでこの世界で何度目だろうか。確かなのは意識を落とすのもこれが最後になるだろうということぐらい。 
 
(次に目覚めとる天国にいるのかなぁ)

 重くなる瞼には逆らえず僕はついに眠りつく。
 次に目覚める時もきっと楽しい世界でありますように。どうか地獄じゃありませんように。

 なんてこの世界で最後に願ったのはそんな他愛の無い願いだった。

* * *

 長い夢を見ていた気がする。
 なんだか悲しかったり楽しかったり全力全開だったり。夢だからなんだろうけどずいぶんとめちゃくちゃな内容だった……と思う。
 
「でも……わたし覚えてるからね」
 
 わたしを迎えに来てくれた王子様を見つめながら胸に手を当てる。温かな思いはまだここにちゃんと残っている。

 本当は一人ぼっちで寂しい時や悲しい時、わたしのして欲しかった願いはみんなと変わらない。
 誰かと気持ちを分け合うなんて、それって気持ちを無理やり押し付けて自分だけじゃないって思いたかっただけなんだよね?

(そうだよね) 
 
 わたしだって本当は辛い時に手を差し伸べて欲しかった。
 「大丈夫?」って声をかけて欲しかった。でも心配させたくないから、悲しい顔にさせたくないから誤魔化してた。

「……いいんだよね」

 時には我侭押し付けたってみんな笑ってくれるんだ。顔色ばかり気遣ってたって喜んでくれる人はいないから。
 だから甘えちゃおう。心が苦しい時に差し伸べてくれた手に思う存分、気が済むまでぎゅっと握って。

「……ありがとうユーノくん」

 今はまだ夢の中のその人を見つめながらわたしも目を閉じる。夢の中でも全力全開はやっぱり疲れるみたい。

「レイジングハート……今何時?」

『No problem.Today is Sunday』(ご心配なく、今日は日曜日です)

「そっか……土曜日だったもんね」

 ならお寝坊さんになっても怒られないよね。

「じゃあおやすみなさい」

『Good night master』

 枕元のレイジングハートに挨拶してわたしも本格的に眠る準備。もう意識もふわふわしていつでも眠れそうだ。

(その前に……)

右手の温もりを強く握り返す。ユーノくんの差し伸べてくれた想いを夢の中でも感じていられるようにわたしは固く強く、汗ばむくらいにその手を握った。
 ユーノくんが起きたらきっとびっくりして困るかもしれないけど気にしない。思いっきり甘えるんだから。

「おやすみなさい……ユーノ……くん」

 すぐに溶けていく意識の中でわたしは確かなことを感じてる。
 今度見る夢は絶対楽しい夢になるって。

 楽しいこと独り占めのとびっきりの夢になるって。

* * *
 
「アリサキーーーーーーーック!!!」

 何かがもの凄いスピードでわたしの目の前を通り過ぎていった。

「んげぇ!?」

 続いて素っ頓狂な声がブリッジに響く。
 直後、ドサッと重い音がしてみんなが揃ってそっちの方向を見る。

「この馬鹿! 大馬鹿!! The most馬鹿!!!」
「い、痛いって! 痛い! アリサぁ!!」
 
 倒れているのはユーノくんでそれを何度も蹴っているのはアリサちゃん。顔を真っ赤にしながら怒鳴っているのは紛れもなくアリサちゃんが猛烈に怒っていることを意味している。

「何一人でカッコつけてんのよ! あんたねぇ、人の事なんだと思ってんのよ!!」

 手加減なしの右足がユーノくんの体に突き刺さる。
 慌てて止めようと思ったけどなんとなく事情を察したわたしはアリサちゃんの怒りが収まるの取りあえず待つことにした。
 
「……クロノから全部聞いたわ。それ以上言わなくたってわかるわよね?」
「……うん」
「あんたがいなくなってなんとも思わない人間なんて言っておくけど誰もいないんだからね」

 顔を背けながらアリサちゃんは呟く。少し悲しそうな表情を覗かせながらアリサちゃんは踵を返して今度はわたしの方へ歩いてくる。
 もしかしたら蹴られるかと思って身構えるわたしの予想とは裏腹にアリサちゃんは近づくなり、

「あ、アリサちゃん……」
「安心しなさい。アリサキックはユーノ専用だから。あんたには」

 両手が伸びてくる。というよりはもの凄い速さでわたしのほっぺたを摘む。
 何が来るかはもちろんお約束で。

「これで十分!!」
「っ!? いひゃい! いひゃいよありひゃひゃーーーん!!」
「あんたも反省しなさい! なんであんたたちは二人揃って無茶が好きなのよ!! もーーーっう!!」
 
 これは伸びちゃう。絶対何ミリかほっぺた伸びちゃう!
 なんて危機感に襲われながらわたしはただなすがまま。開放されたのはそれから十秒くらい後のことでした。

「すずかは? 別に結界で押しつぶしてもユーノは大丈夫だから」 
「だ……大丈夫じゃないよ」
「Be quiet!!」
「私はもうアリサちゃんがやってくれたからいいよ。今は無事を喜びたいしね。アリサちゃんもそうでしょ? 二人が戻ってきて」
「べ、別に……なのはは親友だから当たり前だけどユーノは戦力的な意味でよ! 勘違いしないこと」

 急に早口になったアリサちゃんの顔はなんだかさっきより赤くなっていた。それが照れ隠しであるのは誰の目にも見えて明らかなのはいつものことで。
 微笑ましいやり取りを見ているとようやく戻ってこれたって実感する。
 見渡せばみんながわたしを安堵の表情で見つめていた。

「いいかなのは、あんまりみんなに心配かけさせないでくれ。僕が言いたいのはそれだけだ」
「あっ……ごめんなさい」

 咄嗟の事だったとは言え自分のやってしまったことに申し訳なくなる。

「わかってればいいのよ。なのはさんもユーノ君もこうして元気になったんだから」
「リンディさん……」

 にこやかな顔で頷くリンディさんにわたし小さく頷いた。

「クロノ君はなのはちゃんより心配な人がいるからね」 
「そういうわけじゃない……勘違いするなよエイミィ」

 憮然としたままクロノくんがユーノくんの前に立つ。ユーノくんもクロノくんを前にやや緊張した面持ちだ。
 一体どんなことを言うのかわたしが固唾を飲んだ瞬間――

「ふん!」 
「――がっ!?」

 クロノくんの右手がぶれてユーノくんが床に叩きつけられていた。
 頬を押さえながらクロノくんを睨みつけるユーノくん。負けじと睨み返すクロノくん。

「この大馬鹿野郎……本当ならもっとボコボコにしたい気分だよ」
「ならすればいいさ……自分でもどれだけ無茶をしたかわかってるから」
「生憎アリサのおかげで幾分かは気が済んだからな」

 ゆっくりと立ち上がるユーノくんを相変わらずクロノくんは睨んだままだ。
 喧嘩するほど仲がいいって言葉はあっても今回ばかりはクロノくんも凄く怒っているみたいだ。まだ冷めない怒りをクロノくんは必死に抑えてるように見える。

「だから今度は僕を殴れ」
「……はぁ?」
「目の前のおまえが幽霊だったりしたら即効で成仏させてやらないといけないからな」
「お、おまえなぁ……」
「フェレットに十字架を切るのはいささか勿体無いが――」

 今度はクロノくんが床に転がった。
 鼻息を荒くしながらユーノくんの肩が上下している。

「本物か……化けて出られるよりはましだ、なっ!!」
 
 まただ。
 今度はクロノくんの左腕が風みたいにしなってユーノくんの顔を捉える。けどユーノくんはよろけても床に転びはしない。

「へへ……執務官のくせに腕力は大したことないんだね。これならまだアリサの方が強いよっ!!」
「ぐふっ!」

 お返しと言わんばかりにユーノくんの左手が飛んだ。負けじと踏みとどまるクロノくん。

「今のは手加減だよっ!」 
「ぐっ! ……これで手加減なら君の全力も大したこと無いんじゃないの、かっ!!」
「がはっ!! やったな!!」

 また鈍い音がブリッジに響き渡る。
 青春ドラマみたいな殴り合いを目の前で繰り広げる二人は普段の様子からはまったく想像が出来ない。
 当たり前な表現を浮かべるわたしをよそに二人のケンカはなおも続いていく。

「男の子だねぇ……うんうん」
「まったく我が息子は……エイミィ訓練場は?」
「あっ、はーい。万全に整備してますよ」
「喧嘩ならもっと迷惑のかからない場所でやりなさい!」

 頭を抱えながらリンディさんが発動させた魔法は転送魔法。取っ組み合う二人の下に大きな魔法陣が出現して一瞬で二人を転送させてしまった。
 
『母さんも気が利くよ……君には悪いが魔法を使わせてもらう!』
『そんなへなちょこ魔法で僕の防御を崩せるの?』
『後悔するなよぉ!』

 打って変わってモニターに映し出される二人はさっきよりも目をぎらつかせてすでに魔法の準備。

「男って単純ね……馬鹿みたい」 
「不器用なだけだと思うけどね」
「わたしはよくわかんない」

 ドンパチ始めてしまった二人を尻目にわたしたちも半ば呆れ気味です。
 喧嘩はいけないけどまだ疲れてることもあって止めるつもりも無いわたし。
 このまま好き勝手やらせようかと思ったり。

「そういえばフェイトちゃんは?」
「泣きつかれて寝てるみたいよ」
「そうなんだ」

 一番ショックを受けているのは間違いなくフェイトちゃんだ。今度のことはいろいろとわたしが謝らないといけないことが多すぎてどう切り出せばいいのかちょっと迷ってしまう。

「後にしときなさいって。あんただって疲れてるんだから今日は家に帰って休みなさい。家族のみんなにも元気な顔見せてあげないと」
「明日は学校だもんね」

 わたしたちが起きたのはもう夕暮れも近い時間。そういえばご飯なんて全然食べてないんだった。
 そう思った途端、お腹が空いていることを自覚してしまうのはどうにもしょうがない生理現象。
 
「そうだねみんな心配してるだろうし」

 今日は真っ直ぐ家に帰ろう。帰ってみんなと晩御飯だ!

「でもその前に……」
「またやる気?」
「ケンカ両成敗?」
「にゃはは、ユーノくんも連れて帰らなきゃご飯にならないからね」

 とはいうもののはたしてあの二人を止められるほど魔法が使えるというとそうでもないので。

「二人とも手伝ってくれる?」
「もちろん! 五月蝿いし」
「訓練場壊したら私たちの訓練も出来ないもんね」
「じゃあ!」 

 あっという間にバリアジャケットに着替えて、

「リンディさんお願いします!」 
「悪いわね、病み上がりに面倒押し付けちゃって」

 訓練場へ一気に転送!

「えぇ!? なのは!?」
「君たち一体どうした――」

『Splash burst』

 ドゴーーーン!!!

 アリサちゃんの先制攻撃に軽々吹き飛ぶクロノくん。まずは一人。

「ユーノくん! 晩御飯なんだから帰るよ!」
「いやでも、クロノとまだ」

『Divine buster』

 ジュッ!

 聞き分けの無いユーノくんをディバインバスターで一撃必殺。
 
「き、君たちには関係ないことだろぉ!?」

『Whirl bind』

 突風と共にすずかちゃんのバインドが完璧な形で決まる。立ち上がった格好のままクロノくんは固められてしまう。
 
「こてんぱんにしなきゃいけないみたいね」
「はぁ、もうしょうがないか……」
「じゃあ後始末はクロノさんに任せて」

 杖を掲げて魔力を一気に集める。
 桜、茜、蒼――三人それぞれに全力全開の魔法を組めば、

「「「せーーーのっ!!」」」

 後はもう――!

 ドッゴオオオォォォォォォォン!!!

 なんて爆音を残して訓練場は半壊してしまいました。

『…………はぁ、みんな子供すぎるわ』

 なんだかリンディさんの涙声が聞こえた気がしたけど気にしない。

「さっ、帰ろうみんな!」
「そうね、ディナー前のちょうどいい運動になったわ」
「時間もちょうどいいしね」 

 みんなで笑いあい今日の家路に着く。
 一日だけの心の中の旅なのに、まるで何十日にも家に帰っていないような懐かしさを帰り道に覚えさせる。 
 ドアを開けたら大きな声で「ただいま!」って言おう。きっとみんなわたしの笑顔に驚くはずだ。
 みんなに元気にしてるかな。晩御飯はなんだろう。いろんなことを考えていると足もどんどん早足になって、最後は駆け足だ。
 
 街頭の灯った道をわたしは駆け抜ける。家まで後十メートル。あっという間に家の前。
 引き戸に手をかけ勢いよく開ける。玄関にはみんなの靴がきれいに並んでいた。
 もう言いたくてウズウズしてる。喉元までせり上がって来た声を一度押さえて深呼吸。
 
 そうしてお腹の底から声を出せば、

「みんな――!」 

 ――ただいま!!

* * *

 静寂に満たされた部屋に遠慮がちなノックの音が顔を出した。
 まどろみの中に逃げ込んでいた私はその音に返事をするでもなく、むしろ拒絶する意思を見せるように枕へ顔を埋める。
 ノックの音は止まない。寝たり起きたりを繰り返していたせいで今が何時か分からないけど部屋の暗さと窓の星空でもう相当な夜中だということは察することが出来た。

(……カーテン閉めてなかったな)

 まぁ……いいか。星空は綺麗だから見てて飽きないし。
 そういえば今日は晩御飯食べてないな。お腹は空いてるけどやっぱり食べたい気分じゃない。それに今出ていったってエイミィに迷惑かけちゃうし我慢しなきゃ。
 
「……フェイト、寝ているのか……いや起きてるだろ?」
 
 さっきからしつこくドアを叩き続けているクロノの言葉を無視しながら私は毛布を頭か被った。
 エアコンすらつけてない部屋でこんなことをすればそれこそ即席の温室が完成だ。すっぽり体を包んだ熱気に余計に寝苦しくなることに気づくけど半ば意固地になって毛布を被り続けた。

(今は構わないで……)

 ぎゅっと目を瞑って身を丸めた。 

「君に電話だ。早く出てやらないと相手に失礼だぞ」

 ドア越しにぶっきらぼうな声が聞こえる。
 こんな時間に誰だろうか? 何か事件があったなら緊急通信が入るだろうしどうせ大した用事ではないのだろう。

「電話はここにおいて置く。僕も忙しいからな」

 今度は足音。踵を返しただろうクロノを浮かべながら私はドアに背中を向けた。
 電話に出ないのは確かに失礼だけど悪いけどほんとにそんな気分じゃないんだ。例えアリサやすずかが相手でも放っておいて欲しい。

「……ああ、それと相手はなのはからだ」

 私は毛布を蹴り上げていた。

「んきゅ!」

 ずっと横になっていたせいか転がるようにベッドから落ちて体をしたたかに打ってしまった。
 でもそんなことお構いなしに立ち上がると私はすぐにドアを開け、足元に置かれていた子機を手に取った。
 
(なのは……?)

 本当にそうなのだろうか……。
 だってなのは私を庇って――。

「ん……」

 緊張に喉が動く。
 多分相手がなのはなのは間違いないと思う。こんな時に嘘をつく理由なんてない。きっと私が泣いていた間になのはは助けられたんだ。
 すぐにでも私はなのはと言葉を交わさなきゃいけない。私のせいでこうなったんだから謝らなきゃいけないのは当たり前のことだし。
 頭はそう考えても親指は動かなかった。点滅する保留ボタンの上で微動だにしない。反射的に取って、それからやるべきことを忘れてしまったように私はその場に佇んでいた。

(駄目だよ……始めなきゃ)

 包むように子機を握り締めていた手が微かに震えている。不安がそうさせてるって痛いくらいに分かる。
 なのはの声が怖い? 何を言われるか分からないから? なにより私のせいだから合わせる顔が無い。 

「……なのは」

 声に出して名前を呼んだ。当然電話は繋がってない。

(嫌だな……これじゃ逃げてるだけ)

 始めなきゃいけない。なのはにどんなことを言われたって私は受け止めなきゃいけないんだ。
 そう、これは罰だから。私は覚悟を決めて親指に力を込めた。

 ピッ――……。

「…………もしもし」

 恐る恐る受話器を押し当て私は口を開いた。消え入りそうな声が伝わっていく。

『こんばんわフェイトちゃん。……もしかして起こしちゃったかな?』

 耳に届いた声はすごく明るく弾んでいた。

「え……あ、大丈夫。起きてたよ」
『そっか……えへへ。よかった、寝る前にフェイトちゃんとお話したかったんだ』
「お話……」
『うん!』
 
 無意識に体が強張っていく。
 電話越しに聞こえる声はまるで暇つぶしの他愛ない話をするためだけに電話をかけてきたみたいな口調だ。でもそれが心の中のほんとの声なのかまではわからない。
 戸惑う私のをよそになのはは続けていく。

『まず最初に……高町なのは、いろいろありましたが無事帰ってきました! ただいま、フェイトちゃん!』

 ハキハキしたいつものなのはらしい声。電話の向こうの相手が本当になのはだって安心させてくれる。
 もちろん返す言葉はたった一つ。

「うん……おかえりなのは……よかった」
『にゃはは、一時はどうなるかと思ったけど学校お休みしなくて良かったよ』
「あっ……」

 一時はどうなるかと――やっぱり危険な目にあってたんだ。
 不安の雲がまた心に立ち込める。L・ジュエルがなのはにどんなことをしていたのか分からないけどなのはが自分から口にするくらいなんだからきっとすごく辛かったはず。
 やっぱり私があの時アリシア願い通り犠牲になっていればよかったんだ……。もう何度したか分からない後悔を私は心の中に刻んでいく。

「ごめん……私のせいだよね」
『うん、そうだよ……フェイトちゃんのせいだよ』

 そこに慰めの言葉は無かった。
 温度の下がったなのはの声が受話器越しに私の心を射抜く。
 なのはは怒っているのだろうか。確かに人のせいで命に関わるような羽目に合ったんだから無理も無いと思う。優しいなのはだって我慢の限界が来るんだ。

『――ってフェイトちゃんはなのはに言って欲しいの?』
「……えっ?」

 どうすれば許してもらえるのか償いを考え始めていた私に今度は少しだけ怒ったようなトーンでなのはが続けた。

『確かにその気持ちもあるよ。もし誰も助けに来てくれなかったら今頃わたし眠ったままだもん』

 しゅんと声に覇気がなくなっていく。

『だ・か・ら! 今度から一人で頑張っちゃ駄目だからね。ピンチの時はわたしたちも呼んで一緒に頑張ろう!!』

 と、思えばまた声に力が入ったり、弾んだり――。
 なんだか電話の向こうにいるなのはの姿が容易に想像できてしまう。そこには本当に怒ってる顔はどこにもなくていつものなのはの笑顔が咲いているはずだ。

「そうだね……なのはの言う通りだ。一人で先走るなんて駄目だよね」

 今は「ともだち」がいる。昔みたいに一人で戦ってきたわけじゃないんだ。
 なんだかさっきまでの暗い感情はどこかへ行ってしまっていた。

「でもね、それならなのはだって一人で頑張りすぎだよ。ほんとはなのはだって人のこと言えない」

 居直るつもりは無いけど私よりも無茶してるなのはにそう言われてしまうとなんだか素直に認めたくなくなってくる。
 ちょっと調子いい気もするけど私は忠告の意味も込めて少しだけ言葉を尖らした。

『……そうなんだよね。ほんとわたしみんなに心配かけちゃってて』
「なのは……どうしたの?」
『ほんとはね……今日はフェイトちゃんに謝りたかったの』
「そんな、なのはが謝ることなんて」

 私がそれ以上言おうとする前になのはの声に制される。
 一瞬の間、先に口を開いたのはなのは。

『わたしね……今までずっとフェイトちゃんに頼ってたんだ。フェイトちゃんに頼って自分のほんとの気持ち誤魔化してた』 

 一言一言、噛み締めるようにゆっくりなのはは語る。

『酷い友達だよね……わたし自分勝手で。だから……ごめんなさいフェイトちゃん』

 きっとなのはには懺悔なんだと思った。もしかしたら泣いているのか声はか細く、最後は震えていた。
 なのはに利用されていた――酷い言い方にすればそういうことになるんだろう。なのはが自分を誤魔化す道具として私は選ばれた。

「そうだね……酷いよなのは」

 だから私は遠慮なくなのはに気持ちをぶつける。
 居なくなってしまった人の代わりで、気持ちを誤魔化すために作られた人形を私は知っているから。
 もう人形は自分を終わらせて、また始めて人間になった。今更同じ想いをするなんて絶対嫌だ。
 もしもなのはが心の中で少しでそんな風に想っているなら友達だからって許さない。

『ともだち……失格かな……?』
「誰だってそう思うよ」
『あはは……やっぱり……だよね』

 自嘲じみた笑い声が聞こえてくる。

「だからなのははもう一度始めればいいと思う」
『え……?』
「今までの友達は終わらせてもう一度、新しく友達になろう」

 私がなのはならそうしたい。だって今までの自分が間違って、後悔できたならそれはきっと終わりであって同時に始まりの合図。
 なのはの心の中は覗けないけど、なのはの心は感じることが出来ると思うから。

『……すごいやフェイトちゃん。わたし同じこと考えてた』
「似たもの同士……だからね」

 また電話越しに笑い声が聞こえた。今度はちょっとだけ元気になった。

「でも残念だな」
『フェイトちゃん?』
「なのはのいろんな気持ち独り占めできなくなるから」
『……もう』

 拗ねるなのはは可愛いと思う。
 これはお返しだ。前にみんなと自己紹介したあのお茶会の報復攻撃。弄られた分だけ私もなのはをからかいたい。
 意地悪そうに言いながら私は自分の口が笑みを浮かべていることに気づいた。

「ふふ、じゃあもう一度始めよう」
『……うん!』

 ともだちになるのはすごく簡単。
 私はもう一度なのはと始めるんだ。
 
 そのために――

『フェイトちゃん』
「なのは」

 名前を呼んで。

「これでまたともだちだね」
『うん、これからもよろしくねフェイトちゃん!』

 良かったなのはが元気になってくれて。
 そう思っていつの間にか励ましていたのが自分になってたことに私はなのはに気づかれないように苦笑した。
 最初は私が泣いていたのに不思議だ。なんだかなのはにはみんなの悲しみを吸い込んでしまうような魔力がある気がした。
 
『じゃあまた明日、学校で!』
「うん、また明日」

 ピッ、と電子音を最後に私となのはの時間が終わる。後は明日のお楽しみ。学校で、ううんその前のスクールバスでなのはに「おはよう」を言おう。
 吸い込んだ悲しみに負けないように。時には分け合っていけるように私もなのはが誇れるくらいのともだちになるんだから。
 
「あっ……」

 そこまで考えてはたと気づく。
 明日の学校の準備をすっかり忘れていたことを――。

「え、えと明日の時間割って……」

 慌てて電気をつけ壁に貼り付けてある時間割を確認。カバンを開けて教科書を入れ替えて、

「……えぇ!?」

 金曜日に出た国語ドリルの宿題をほったらかしにしていたことを今更になって思い出してしまって……。
 よりにもよって苦手な科目なんて何で神様はこんな時に限って意地悪をしてくるのだろうか。 

(……あ、あのアリサ起きてる?)
(ふぇ!? ……な、何よ! こんな時間にジュエルシード!?)
(じゃなくて……その――)

 困った時の緊急回線でアリサに助けを、

(自業自得! まず自分でやりなさい。Good night!)

 断られた。

(すずか……今時間あるかな……?) 
(…………)

 すでに夢の中だった。

「どうしよう……」

 国語は五時間目だったから昼休みになんとか出来そうな気もするけどやっぱり今少しはやらないと駄目だろうか……。
 なんて思ってドリルを開いて三秒で閉じる。
 私にはこれがまだ言語だとは思えなかった。

「あはは……ほんとにどうしよう」

 がっくりうな垂れ向かうはベッド。
 導き出した答えは至極簡単なものであり今という時間から逃げるための最高の作戦だ。結構寝ていたはずなのに安堵のせいもあるのか眠気が私の瞼に重りをつけていく。

「……おやすみなさい」

 取りあえず、一人は無理だ。
 明日どうにかしよう。

 みんなと力を合わせればどんなことだって乗り越えられるんだから。

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