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2007.12/31(Mon)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十七話 Bpart 


【More・・・】


 誰もいない夜の町は寂しさを越えてもっと暗くて怖い感情を心に植えつけていく。
 絶望って名前を持って心を包み込んでくるそれはどんなことをしても出てってくれない。

「でも……大丈夫だよ」

 みんなが笑顔をくれれば絶望だって尻尾を巻いて逃げ出していくんだ。だからそれまでの辛抱。
 なのははそれまで笑顔でみんなを待ち続けるんだ。心配かけさせないようになのはが頑張ればみんな自分のことだけを頑張れる。そうして最後になのはの所へ来ればいいんだ。
 それまで待ち続けることはへっちゃらなんだから。

「うっ……ひく……」
 
 こみ上げてくるものを必死になって拭い取る。
 一人の時くらいほんとの気持ちを吐き出してもいいかなって思うけどもしも誰かに見られてたらきっとその人はなのはのことを気にしてしまう。
 なら我慢しなきゃならない。この気持ちだってみんなの笑顔で消し去れるんだから。

「ほんとに君はそう思ってるの?」
「えっ?」

 後ろから誰かの声が聞こえた気がした。
 そんなわけない。誰かが来るなんてことは絶対無いんだ。みんなはなのはのことなんて気にしてないはずなんだから。

「そうやっていい子になることがほんとに正しいって思えてるのかな?」

 振り向く、けれどそこには誰もいない。

「ここだよ、君の足元」

 声に従うように自分の足元へ視線を落とす。

「あっ……」
「やあ、こんにちわ……こんばんわかな?」

 小さな手を上げて挨拶するのは一匹のイタチさん……?

「一応言っておくけど僕はフェレット。イタチの仲間だよ」

 少し怒ったような顔でイタチもといフェレットさんが腰に両手を当てた。

「……ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。同じようなものだからね」
「でも――」
「ストップ! 動物にまで気を使わなくていいよ」
「えっ……あっそっか。フェレットだもんね」

 小さな頭が上下に揺れる。人間みたいに喋るからいつもと同じように返事をしてしまっていた。

 ……あれ?

「でもなんでフェレットさんが喋ってるの?」
「うん、僕はある人に頼まれて君を迎えに来たんだ。手間取らないようにその人が喋れる魔法をかけてくれたんだよ」
「そうなんだ……でも」

 こんなフェレットさんを使ってまで迎えにくるなんてそこまで心配させるようなことをなのははしてしまったんだろうか。
 その人に申し訳ない気持ちが湧いてくる。

「なのはは平気だから大丈夫。まず自分のお仕事頑張ってって伝えてくれないかな?」

 笑顔を浮かべながら覗き込むようにフェレットさんを見つめ伝える。
 
「そっか……でもそれを伝えたらその人きっとこんな顔すると思うよ」

 フェレットさんが急にしゅんとして口をへの字に曲げる。眼差しは悲しそうで、なのはを見上げてため息をついた。
 それはどう見ても納得してくれた顔ではない。なんだかフェレットさんを通してその人の悲しそうな顔が想像できてしまった。
 思わず「あっ」と声を漏らしてしまう。フェレットさんはそんな反応がわかっていたようにやれやれと両手を挙げてみせた。

「そう言われると思ってた……でもねその人にはそれはすっごい困ることなんだよ」
「でもなのは悲しい顔をなんてしてないよ……寂しくないんだよ」
「そんなこと知らないよ。その人には関係ないんだ」

 言われた意味がよくわからない。なのはのことなんてどうでもいいのになのはが必要なんて矛盾した答えだ。どうでもいいなら放っておいて欲しい。それで自分の仕事を頑張って欲しいのに……。
 
「その人の仕事はね……君の背中を守ることだから」
「守ること……?」
「そう、ただずっと側で君の事を影ながら守り続けていたい。そんなお仕事」

 それはつまりなのはがいないと始まらないお仕事だ。けどなのはなんか気にするくらいなら自分のことを頑張って――

 頑張って? なのはがいないのにお仕事頑張れるの?
 
「君はそういう時どうするの?」
「あぅ……」
  
 返す言葉がなかった。
 そうなんだ。こんな時どうすればいいのか分からない。なのはが必要なお仕事になのはがいなかったらその人に悲しい思いをさせてしまう。

「みんなほんとはそうなんだよ。君の事を大事に思ってるから君に笑顔になって欲しい」
「そうだよ……だから」
「無理して笑ってる君なんて誰も見たくないんだ。確かに君の笑顔はみんなの元気の源だと思う。だけどね、いつも笑ってばかりいられると逆に不安になってくるんだ」
「不安に……? なんで……?」

 そんなわけがない。なのはの笑顔でみんなが悲しい顔したり怒った顔したことなんて一度もない。あるはずがないんだ。
 一瞬、沢山の人たちの顔が頭の中を通り過ぎていった。そこに笑顔はない。

「みんな待ってるんだよ。なのはの我侭を」
「わがまま……?」
「ちょっとは我侭なほうが心配しない。なのはがそういう顔ばっかりしてるとほんとになのはは笑顔なのかって疑っちゃうんだ」

 諭すように優しく語りかけてくるフェレットさんに自分が今までしてきた顔を思い出していた。
 どれも笑顔だと思う。友達が出来て嬉しくて泣いたことはあるけど悲しくて泣いたことなんて一度もない。
 記憶の中に自分が泣いている姿を見つけられない。

「……駄目だよ……なのはのためだけに迷惑かけられないよ。もしそれで手を差し伸べてくれた人たちが悲しい顔になったら」
「それで寂しい気持ちも悲しい気持ちも、なんでもかんでも独り占めにして……誤魔化して」
「だってなのはが笑っていればみんな笑ってくれるよ?」
「君は気にしすぎなんだ。なんで迷惑かけて悲しい顔しかしないってわかるんだい? もしかしたら君の我侭に付き合ってもっと笑顔になれるかもしれないよ」

 そんなわけない。我侭は人を傷つけるしかないんだ。

「傷つけられて笑顔になれる人だっているさ」
「そんな人いないよ」
「じゃあ自分が悪いのに誰も責めなかったら君はどう思う?」

 考えてみる。
 なんだかそれって逆に責められているように思えて怖くなる。
 誰も悪いって言わないなんてなんか変だ。誰か一人くらい悪いことを叱ってくれる人がいたって……。

「なんだかもっと悪いことしたみたいに思えてくる」
「だから叱ってあげることも時には笑顔を呼ぶ魔法なんだ。そして君はその魔法をかけている人がいる」

 フェレットさんの言葉になのはが始めて悲しい顔をさせてしまった人の顔が浮かんだ。

「君だけがその人を叱ってあげた……違う?」
「でもあれはなのはの我侭で……」
「そうだよ。でもはっきり言えたのは君だけだろ」
「だから傷つけたんだよ」
「あの時はそうかもしれない。でも、そうやって責めてくれる人がいたからその人の罪はその大きさで済んだ。余計に悩んで悲しい顔をすることはなかった」
「……でも変だよそれ」

 じゃあその人はどんなことをしても悲しい顔になるのが避けられなかったの? 
 最初からなのはの気持ちがどうであれ行き着く先は同じだったってことなの?

「笑顔だけの人なんていないよ……みんな泣いて笑って、時に怒ってまた笑顔になる」
「じゃあなのはは間違ってたの?」

 もう全然分からない。
 なのははほんとはその人のために正しいことをしてたのかもしれない。けど悲しい顔をさせたから悪いことをしたはずなんだ。
 正しくて悪いこと……そんな都合のいい答えなんて世界中どこ探したってない。
 答えが欲しかった。何が正しいのか知りたかった。

「フェレットさんは……どう思うの?」

 助けを請うようにフェレットさんに聞き返していた。

「どうなんだろ? それは誰もわからない。きっとこれから自分が決めることだから」

 急にフェレットさんが走り出した。と、思えば後ろに回りこむ。

「その手伝いが出来たらいいと思ってる人呼んであげるよ」

 後ろから淡い光が漏れ出してくる。
 風が吹いて温もり。誰かがなのはとぴったり背中合わせになっていた。
 顔は見えなくてもなのははその人を知っていた。

 その人こそ今のフェレットさんのご主人様……ううん、違う。
 
「僕のフェレット……何か言ってた?」

 とぼけた振りで話しかけたってなのはは――わたしはあなたがそのフェレットだって知っている。

 わたしの背中を守ってくれることを知っている。

「すごい酷いこと言ってた」
「あはは……そっか」

 ほんとに酷いことを言われた。言われたというよりわたしの心の中を覗きこまれた。
 現実なら覗きはすっごい犯罪だ。

「けどさ……そのフェレットの言う通り少しは泣いてくれたほうが僕は安心するかな。やっぱり子供だなって」
「……同い年のくせに」
 
 わたしと同じ十歳のはずだ。もしかしたら何ヶ月かわたしのほうが年上かもしれないのに子ども扱いするなんて失礼だ。

「うん、僕だって子供だよ。だから迎えに来たんだ、戻ってきて欲しいから」
「…………嫌って言ったら」
「嫌でも連れてく。君のことなんて関係ない」
「だってここからわたし帰る方法知らないもん。だからやっぱり巻き込めない」

 なんとなくこの世界にい続けること自体危ないことだとなんとなくだけどわたしは感じていた。
 それは背中合わせの人も同じだ。流石に命に関わるようなことまで巻き込めない。

「じゃあ僕はずっとこうしてるよ。仕事だから」
「駄目だよ……またぶつよ」

 嫌って言っても帰らせなきゃいけない。ちょっと痛い目にあわせてもこの人だけは助けてあげなきゃいけない気がしたから。

「僕が帰る方法を知っていても?」
「……えっ?」
「僕を追い返したら君はまた一人だよ。しかも一人じゃ帰れない。それでもいい?」

 からかうような軽い声が飛んでくる。

「ずるい……よ」
「じゃあどうする? 少なくとも僕がいれば君も一緒に帰れるんだけど」
「うぅ……」

 それって脅迫だ。何が何でもわたしを迎えに来たい王子様の強引過ぎる我侭だ。どっちに転んでもわたしの行き着く先は同じで――

(……これって)

 そう思ってはっと気づく。この背中を守ってくれる人はわたしに何を言わせたいのか。
 
「こういう人もいるんだよ。頼ってくれるほど笑顔になれるってね」

 なんだかわたしの思い描いていた彼の姿がボロボロ音を立てて崩れ落ちていく。
 
「……バカ」

 口を尖らせそっぽを向いた。
 なんだか完膚無きに負けた気がして無性に悔しくなった。
 そんなことお構い無しなのが今の彼。

「そろそろ答えいいかな? あんまり長居も出来ないからね」
「ほんと意地悪だよ」

 拗ねたままわたしは大きくため息をついた。
 そのまま息を吸い込んでとっくに出来上がっていた答えを紡ぐ。自分でも想像できないくらい震えた消え入りそうな声で。

「お願いユーノくん……助けて」

 背中だけではなく今度はなのはの心を守ってくれるように、

「うん、任せてなのは」

 わたしは初めてユーノくんに弱音を吐いていた。
 嬉しそうな声が返ってくるとやっぱり微妙に負けた気がするのは、

「……うん」

 しょうがないことなのかな……。

* * *

「――それでね、お父さんとお母さんいつも仲がいいんだよ。もう結婚して何年も経つのに」
「へぇ、でもいつまでも仲がいいってのはいいことだと思うよ」
「ユーノくんはまだちょっとしか見てないからだよ。ほんとに呆れちゃうくらいなんだから」

 言葉通りに呆れている様子の声を背中合わせに感じる。
 
「はは、けど僕には呆れるくらい仲の良い両親もいないしね……新鮮に映ってるのかな」
「あっ……そうだよね。なんだかわたしだけ喋りすぎたみたい」
「いいって。僕なんて話すことなんかほとんどないし」

 一年も時間があればなのはと話すような話題は正直品切れと言ったほうがいい。自分のこととか故郷のことなんてもう飽きるくらいに話しただろう。

「ううん、何度だって聞きたいの。わたしの我侭だもん」
「……そうだね。なのはの我侭なんて滅多にないもんね」
 
 きっと僕の言葉になのははまた頬を膨らませていると思う。でもそれはなのはが新しい始まりを手に入れた証だ。
 PT事件の折に僕らがアースラへ駐留した時なのはが僕と交わした小さな約束。
 この事件が終わったらゆっくり話をしよう――約束というほど立派なものじゃないかもしれないけどあのときのなのはが言っていたことが今ようやく実現されているのだ。
 
「僕もいろいろ忙しく飛び回ってたからね。確かにこうやって二人でゆっくり話をすることなんてなかったかもしれない」

 これはなのはの我侭だった。この世界から脱出する前に僕が我侭を押し通したお返しになのはが言い出した僕への我侭だ。

「でしょ? じゃあもう少しわたしに付き合ってくれていいよね」
「なのはには敵わないからね」

 今に至るまでを懐かしみながら今度は笑っているだろうなのはの顔を想像して苦笑する。
 背中になのはの温もりを感じながら道路の上に座り込む僕らは今この世界の唯一の住人だ。誰も何も邪魔することのない時間が穏やかに流れていく。
 あれほど冷たい雰囲気を纏っていたこの夜の闇も、今では二人を優しく包む安らぎの象徴のようにさえ思えてくる。

「ふふ、それじゃよろしくお願いしますユーノ先生」
「じゃあまずは――」

 それは本当に他愛のない話だった。
 僕となのはの間で交わされる話は毎日のことや学校のこと。友達のこともあれば魔法のことまで話し始めてしまえば飽きなんて言葉を忘れてしまうほどに僕らは喋り続けた。

「ユーノくんって実はかなり凄かったんだね……」
「そうでもないよ。初めて現場任されてこの有様になってるくらいなんだし」
「でもその年で発掘のお仕事なんてわたしの世界じゃ考えられないよ」
「世界が違うんだしギャップを感じるもしょうがないと言えばしょうがないけどね」
「にゃはは……」

 二人が過ごしてきた今から、お互いが知らないそれぞれの過去。それと少しだけ未来の話まで。一つの言葉がいくつもの枝葉を広げたくさんの始まりを形作っていく。

「将来の夢? ……まぁ、僕の場合はやっぱり遺跡発掘かな。今でもそうなんだけど」
「わたしは翠屋の二代目なんだろうな……」
「お互い妙に現実的だよね」
「そうかも。ほんとに自分のやりたいこと、自分にしか出来ないことを見つけるのって大変だね」 

 甘えてくるように背中を預けてくるなのはに応えながらお互いの知らなかった一面を知っていく。

「そろそろ帰ろっか」
「もう満足した?」
「うん、ユーノくんのおかげ」
 
 やがて終わりが訪れる。夢のようなこの時間に別れを告げて元の世界へ戻る準備を始めるのだ。

「わたしだけが見つけられるんだよね?」
「うん、なのはだけがL・ジュエルを見つけられるんだ」

 この世界を終わらせるための最初の一歩はここから始められる。
 自分を取り戻したなのはには心に混じりこんだL・ジュエルを異物として捕らえることができるはず。そしてそれは何らかの形でなのは自身へと伝えられる。
 あくまでなのはにだけ分かる形でだから僕にはこれ以上どうすることもできないのがなんとも歯がゆいけど。

「ここはなのはの心そのものでもあるからね。後はなのは次第だよ」 

 決して急かさないように僕はなのはを促す。
 
「うん……わたし頑張ってみるね」

 それきりなのはは無言になる。世界からの声がどんな形でも受け取れるようになのはなりの身構えになったのだろう。
 ただでさえ静寂だった世界がさらに無音の中へ誘われる。聞こえるのは僕となのはの微かな息遣いだけで、もしかしたら心臓の鼓動だって聞こえてしまいそうだ。
 なのはにとっては自分との対話だ。心の中を舞台にした宝探しはそう易々とはいかないはず。たった一人でなのはは困難に立ち向かわなければならない。

(絶対大丈夫さ。なのはになら出来る)
 
 気休めかもしれないけどそんななのはに僕は心の中でエールを送る。
 こればかりは流石の僕も力になれない。こういう形でしか手伝えないのはちょっと悔しい。

「――……そっか、見つけた」

 なのはが声を上げるまではそれほど時間は必要なかった。
 沈黙を破るなのはの声は小さいながらもはっきりと僕の耳に伝わりそれが確信であることを知らせてくれた。

「ユーノくん空を見て」
「空?」

 言われたとおり首を上に向け僕らを見下ろす空と向き合う。

「ここに……L・ジュエルが?」

 一見すれば星のない暗黒の空間が広がるばかりでそこに何があるのか僕には察することが出来ない。

「ううん、この世界にはないの。わたしの心を包んでいるのがL・ジュエルなんだよ」

 言葉をそのまま受け取るならL・ジュエルは最初からなのはの心に融けこめていなかったことになる。
 いや、もしかしたらなのはの心の変化にL・ジュエルが乖離された結果がこんな形で現れたのかもしれない。
 込められた願いが違ってもL・ジュエルであることに変わりはない。課せられた使命を全うするために乖離されてもなおL・ジュエルは心を捕えるために姿を変えたのだろう。

「……つまり結界に閉じ込められてるみたいな感じ?」
「うん! さっすがユーノくん! きっとそんな感じだと思うの!」

 なのはの声が弾む。僕なりに簡潔にまとめたのが的を射るものだったのはなんだか嬉しい。

「じゃあ後は」 
「L・ジュエルを封印してみんなの所に帰る!」

 背中から温もりが消えた。耳にはアスファルトにステップを踏む足音が響く。
 
「こっち向いてユーノくん」

 囁くような声に踵を返せば、

「えへへ……やっぱりユーノくんだ」

 照れ臭そうにはにかむなのはが僕を見つめていた。
 そこにいるのはいつものなのはだ。天真爛漫でみんなを笑顔にしてくれる真っ直ぐな女の子。

「別の人だと思った?」
「ううん、フェレットになってまで助けに来てくれるのはユーノくんだけだもん」
「あはは……」

 まるで幾年の時を経た再開のようになのはを懐かしく思ってしまうのはさっきのなのはがそれだけいつものなのはとかけ離れていたからなのかもしれない。
 でもそれだってなのはであることに変わりはない。どのなのはも高町なのはだ。ただ僕が知っているか知らないかがあるだけで。
 そう思うとなのはが心に秘めてきた想いの重さにやるせなくなる。

「それにね……なのはの背中を温かくしてくれるのはユーノくんだけだよ」

 俯きがちに呟くなのはの頬は薄っすら桜色だった。

「守ってくれてありがとう……ユーノくん」
「うん、どういたしまして……かな」
 
 なのはは変わったのだろうか?

 ふと、そんな疑問が浮かんで消えた。そんなの考えても無駄なことだ。

「じゃあ帰ろう! みんなのところへ!」

 なのははもう一歩踏み出している。
 自分の本当の気持ちを閉じ込めず、みんなと分かち合うことをなのははもう出来るのだ。
 心配なんて一つもない。

「レイジングハート、行くよ!」
『All,right』
「ごめんね、あなたの声聞くことが出来なくて」
『Don't worry.I can meet you again』(気にしないでください。再び巡り会えたのですから)
「……うん」

 首から外した宝石を胸に抱きしめ小さく頷けば桜色の光がなのはを包み込んでいく。
 光はすぐさま彼女の魔導師としての姿を作り上げた。左手には相棒が久方ぶりの砲杖となって収まり呼応するように大きく翼を広げている。

「行こう! L・ジュエルが心を閉じ込める壁なら」
『I only shoot and pierce it』(撃ち貫くのみです)

 彼女の答えにもちろんだと言わんばかりになのはが頷いた。

「レイジングハート! 高出力砲撃モードお願い!」
『All right.Buster mode set up』

 なのはの声にレイジングハートがさらに姿を変える。
 生い茂る枝葉のように前へ後ろへ鋭く伸び砲塔と化すフレーム。柄の付け根から立ち上がるグリップに三枚の光の翼がはためき羽を散らす。
 躊躇はない。グリップに手をかけ砲身が遥か彼方へ狙いをつける。暗黒の只中、その向こうの星空を覆い隠した元凶を撃ち抜くために。

「スターライトブレイカーいくよ!!」

 勿論なのはが選んだ魔法は得意中の得意の他に無い。
 周囲の魔力素がレイジングハートに集束されていく。燦々たる桜色は僕らの周りから夜を追い払い星の光が産声を上げた。

「いつもよりチャージが短い……これって?」
「心の中だからだよ。厳密に言うなら今なのはが使っているのは魔法じゃないんだ」

 ここは精神が形を成した世界だ。通常の空間でのルールは何もかも適用外にされてしまう。
 この世界で動くためのルールとして偏に「意志」の力が必要となる。

「なのはが心の中で思い描いたイメージが形になってる。まぁ魔法も根っこは同じなんだけどね」

 ああなりたい、こうなりたい――そんな願望が結実し魔法は生まれる。術式という確立されたものの上で成り立つものでも最後の一押しは心の中から湧き出る意志だ。
 何かをする時、そこに必ず意志がある。この世界はその意志が形となる一歩手前の姿が集う場所。

「なのはが強く願えばきっと出来ないことはないはずだよ」
「スターライトブレイカーをもっと強くすることも?」
「もちろん」
「だったら!」

 なのはの目つきが凛々しいものへと変わる。腰を落とし重心を下へ移す。同時にレイジングハートをさらに高く掲げればフレームに二本の環状魔法陣が巻きついていく。

「こうして!」

 声に今まで杖の先端で浮かんでいたスフィアがゆっくりと回転を始める。すぐに回転は唸りを上げるほどに速いものへと変わり今まで吸い寄せられていた魔力素は今度は巻き込まれるようにものすごい勢いで集束されていく。
 その様子はまるで以前戦ったあの台風のような荒々しい渦を僕に想起させた。
 留まること忘れたように光の球体は成長を続けその大きさはいつものスターライトブレイカーの二倍以上の直径を見せ付けていた。

「アリサちゃんみたいに押し込めないからこうしてとことん集めればもっと強い砲撃になれるよね!」
「あ、うん」

 笑顔を向けるなのはに僕は半ば呆然としながら返事をしていた。心を閉ざしていた時とのギャップに未だ慣れていないのか、なのはの魔法の使い方に舌を巻いていたのか。
 多分見とれていたと言ったほうが正しいと思った。
 いつものなのはではない、いつも以上のなのはの姿に僕は心を奪われていたのだ。

「レイジングハート! 準備はいいね?」
『Starlight breaker blast』
「ブレイクシューーーーーット!!」

 怒涛のごとく閃光が放たれる。
 普通の砲撃では考えられない程の莫大な魔力が注ぎ込まれた光の柱が天を目指し突き進む。通常では集束しきれないレベルに至ってもなおその魔力を安定させているのはこの渦の成せる賜物か。
 光は瞬きする暇さえ与えず天へ激突する。着弾地点から亀裂が縦横へ走り抜け次には甲高い音を残してガラスのように砕け散っていく。
 規格外――もはやその言葉を当てはめることさえし連れに思える規模の砲撃。もはや魔導師一人が出すような代物ではなかった。艦船に設けられている魔導砲台のそれだ。

 世界が揺れる。徐々に細く、終息への道を辿る魔砲に暗黒の空は粉砕され残すものは何もない。
 これだけの魔力を浴びせればL・ジュエルは間違いなく封印される。勝負は互いが込めた意志次第か……。

「……うくっ!」

 先に悲鳴を上げたのはなのはだった。
 今まで踏ん張っていた体が僅かに横に揺れる。すぐに踏み止まり杖を構え直すも勢いが衰えているのは明白だった。

『It is tenacious. Power seems to be insufficient.』(しぶとい……。まだ威力が足りないようです)

 無機質な声もなんだか焦燥に駆られているように感じる。

「これでも駄目……? でもわたしだってまだ――!!」

 前を見据え声を荒げるなのは。だけどその声は途切れ続かない。息切れして続けられないのではなかった。まるで何かを思い出したように口を中途半端に開けながらなのはは沈黙していた。
 そうしてその顔に覇気が戻った時、彼女の眼差しは僕に向けられていた。

「ユーノくん! なのはのお願い聞いてくれる?」
「えっ、あっ――うん!」
「じゃあ一緒にレイジングハートを握って!!」
「もちろんだよ! ――って、えぇ!?」

 とんでもない提案に思わず体を震わせてしまった。
 
「言ったよね! この世界はわたしの願いでどんなことでも出来るって!」
「けどそれはなのはの願いだけだよ。僕がどんなに強く願っても」

 僕だって本来はなのはの心にとって異物でしかない。なのはの心が許してくれてるからここに居続けられる僕になんの手伝いが出来る。

「二人ならもっとなんでも出来る気がするから! ユーノくんにしか出来ないことだから!!」

 レイジングハートから伝わる反動を必死に押さえ込みながらなのはは叫んだ。

「もっと守って欲しいの! 背中だけじゃなくてなのはの心も!」
「なのは……」
「ユーノくんが来てくれたからわたし自分を始められたんだよ! ユーノくんはなのはに勇気をくれたんだよ!!」

 心からの叫び――ありのままの願い。
 偽り無いなのはの想いに僕の心の中からいろんなものが崩れ落ちていく。

「なのは……行くよ!!」

 そうしてその中に残っているたった一つの答え。それこそが僕の使命だ。
 もうすでに僕の手はレイジングハートに握り締めていた。

「うん! うんうん!!」

 グリップを握るなのはの左手は反動に激しくぶれている。それを包み込むように僕は右手を重ね合わせる。
 それでも収まらない振動はなのはがこれまで抱えていた想いの大きさを思い知るには十分だった。

「僕だってレイジングハートの元マスターだ。それになのはのサポートをするのは僕の役目だ!」

 この大きな想いをいろんな人たちといろんな形で分け合っていけるようになのはは新しい一歩を踏み出した。
 言葉だけじゃなく、時に我侭になって一方的に押し付けたり。心がパンクしないようにみんなといろんな想いを分かち合って。
 
 一人で何でも抱えて、分け合える人を探して、それ以外の人には決して心からの想いを晒さなかったなのははもう――

「これで終わりにしよう!」
「うん! ユーノくん!」

『Then,please lend the volition power of two master』(では二人の力を貸して頂きます)

 甲高い音と共に手を通してレイジングハートに力を流れていくのを感じる。
 桜色の翼に寄り添うように翠に輝く翼が新たに二枚飛び出し、全部で五枚の翼が僕らの周りではためいた。
 足元には僕となのはそれぞれの魔法陣が回り続けている。それも寄り添うようにゆっくりと重なり一つの輝きへと移り変わっていた。

『Let's give saluting fireworks of the outsize』(さあ、特大の祝砲を上げましょう)

 交じり合う光に包まれながら僕はレイジングハートから流れ込んでくる術式を迷うことなく発動させた。
 宝玉から鎖が放たれ渦に巻きつきその動きを封じ込める。

「あの時みたいな……ううん、もっと大きな花火だね!」

 レイジングハートの声はなのはにも伝えられている。一端、砲撃を止め先ほどと同じようにスフィアを渦にして魔力を集束させていく。 
 それを押さえ込むように僕の鎖はスフィアの外側に巻きつくとその形を徐々に崩し無数の光の粒となって包み込む。

 そこにあるのは星になれなかった欠片たちだ。満天の輝きをその身に湛えること無く暗き宇宙を漂ってばかりの、さながら中途半端な出来損ない。
 生まれゆく星の周りで欠片も回る。成長を続ける星を中心に、翠の光は渦巻きまるで星を見守るようにその周囲を回り続ける。

「わたしは星に魔力をあげる!」

 星の渦に吸い寄せられるようになのはの集束させた魔力が流れ込んでいく。光は渦に乗って残らず星の中へ落ちその輝きをより眩いものとする糧となる。
 
「僕は星を受け止める!」 

 僕の光はまだこの星の一部にはなれない。星の重力に負けて引きずり込まれるのはまだまだ先だ。
 翡翠の瞬きは膨らむ星を押さえ込む結界のゆりかご。なのは一人では集積できない魔力を僕がこの力で押し込み、より純度の高い魔力へと昇華させる。

『I help two master』(私はマスター達を支えます)

 細かな魔法の制御はすべてレイジングハートが引き受けてくれる。
 誰一人欠けることが許されないのはそれだけ僕らが成そうとしていることが大きいということだ。
 僕らは星の光を集めているんじゃない。

 僕らは星を育てている。

* * *

 心に満ちる輝きは目の前の星よりもずっと眩しい輝きだ。わたしの想いに育つ星に目を細め、さらに魔力を込めるため強くレイジングハートを握り締めた。

「……うん!」

 無言でその手を握ってくれるユーノくんの手。温かさが手の甲を通してじんわり広がってくる。
 想いは手を通じて心に流れてくる。わたしの心を守ってくれるように温かさが包み込んでくれる。
 
 わたしはずっと誤魔化してきたんだ。
 自分の素直な想いが人を傷つけてしまったあの日からわたしは自分の笑顔を誰かのためのものとした。
 悲しんでたり、寂しがってたりする人たちの顔を笑顔にする道具としてわたしは今日まで笑っていた。
 誰にも迷惑をかけないようにしてみんなのことを一番にして。

(それが無理してることなんだよね)

 でもそれって正しいように思えてすごく間違ってた。どんな時だって自分の気持ちを押し込むことはいつか必ずわたし自身に返ってくる。
 アリサちゃんに怒られて、家族のみんなに心配かけちゃって。わたしが一番嫌う形でしっぺ返しが来たんだ。
 
「謝らなきゃ……いけないよね」 
「……誰に?」
「……フェイトちゃん」

 わたしは酷い友達だったかもしれない。
 自分の気持ちを閉じ込めて、でもほんとは誰かと分け合いたくて――

(違う! ……わたしほんとは)
 
 わたしと同じ目をしていた、寂しさを心の中に閉じ込めていたあの子と出会ってわたしは友達になろうとした。
 放っておけなかったから。悲しい顔は嫌だから。涙は大嫌いだから。わたしはあの子の心に隠れている本当の笑顔を見てみたかった。
 
「ほんとはわたし寂しいを誤魔化したかったんだと思う」
 
 必死になってフェイトちゃんとぶつかって、いろんなことを越えて最後は友達になれた。魔法の世界でたった一人だったわたしに友達が出来たんだ。

 気持ちを分け合うってのはわたしの建前なんだと思う。

 ほんとは誰かに手を差し伸べて欲しかった。「大丈夫?」って言って欲しかった。
 けど誰にも迷惑はかけられない。わたしは手を差し伸べてこないように先にみんなへ「大丈夫」って言い続けていた。

 何も話せなくて、苦しくて、寂しくて――。
 だからわたしはフェイトちゃんに縋っていたんだと思う。同じ想いを抱えた、同じ魔法の世界にいる、同じわたし。
 フェイトちゃんと気持ちを分け合おうって、友達になろうっていう想いはそのままわたしに差し伸べられた手なんだ。
 ユーノくんも管理局の人たちも結局は他人。弱い気持ちなんて出せるわけなかった。
 でもフェイトちゃんにはそれが出来る。わたし自身だから。

「さっき話したよね……わたし家族の中から浮いてるのかな? って」

 わたしは気づかぬ内にみんなの顔色ばかり伺ってご機嫌を取ってたんだ。自分の気持ちをひた隠しにして「いい子」のわたしを演じて……。
 そんなんだから浮いちゃうのも当たり前だって今は思える。だからほんとのわたしになれるのはフェイトちゃんの前だけで。

 わたしは……フェイトちゃんにはずっと助けられてたんだ。

「もしアリサちゃんやすずかちゃんがいなかったらわたしどうなってたんだろう」

 今の事件も、これから起こるかもしれない事件も全部わたしとフェイトちゃんの二人で立ち向かっていったらわたしはどんな子になっていたのかな……?
 想像しようとしても出てこない。なんだか想像しちゃいけないって気持ちが湧き出してくる。 

「大丈夫だよ。きっとそれでもなのはは変わっていける」
「そうかな……?」
「今出会える人だけがなのはの世界じゃないんだ。これから出会える人たちになのはが変わるきっかけをくれる人がいるはずだよ」

 それでも不安になる。本当にそんな人が現れてくれることが決まっているならどれだけ気が楽になるだろう。

「今は違うよね……? 新しいわたし始められたよね」
「うん、みんながいてくれたからね」
「ユーノくんも?」
「……もちろん」

 微笑むユーノくんの横顔にもう考えるのは止めにした。
 だってわたしはほんとのわたしにになれているんだから。
 
「ありがとう……なのはにまた始まりをくれて」 
「お礼を言うのは僕の方だよ」
「ユーノくんがくれたのはそれよりずっと大きいよ」
 
 魔法の世界の始まりと、わたしの世界の始まり。
 わたしがあげた始まりなんてそれに比べればずっと小さい。

「違う、なのはは自分でも気づかないくらいみんなに始まりをあげてるんだ。これは絶対。だからなのはは胸を張っていい」
「でもなんだか悪い気がする……」

 実感が湧かないからしょうがない。絶対ユーノくんがくれた始まりのほうが大きいに決まってると思うのに。

「じゃあ……二人の始まりにしようか?」
「二人の?」
「なのはと僕、二人の始まりが今なんだ。……どうかな?」
「うん!! やっぱりユーノくん凄い!」

 ユーノくんの名案にわたしは笑顔を浮かべ大きく頷いた。照れ笑いをするユーノくんを横目に見つめながらわたしは改めてユーノくんの存在を頼もしく思う。
 
『Master.Is the preparation already good ?』(マスター、準備はもうよろしいですか?)

「えっ! あっ、うんもう大丈夫!」

『It is immediately before the accidental discharge.It might be indeed a limit』(もう暴発寸前です。そろそろ限界だと思われます)

「そうだね……流石にこれ以上は」

 上ずった声にわたしは顔を上げる。そうして目の前の光景に思わず「あっ」と声を漏らしていた。

「綺麗……」

 わたしたちの目の前にあったもの。

 ――銀河が生まれていた。
 
 テレビや本で見たそのままに太陽みたいな光を中心にして無数の星々がぐるぐる回っている。
 星空全部を集めたような光の渦は桜色に輝く中心の星へゆっくり吸い込まれていく。
 その星は紛れも無くわたしの作った星だ。いつものスターライトブレイカーなんかと比べ物にならないくらいの大きさは本当に自分が作ったのか思えないくらい。

「まさかここまで魔力を集められるなんてね……」
「わたしだけの力じゃないよ。ユーノくんがいてくれたから」

 五メートル? 十メートル? ……それ以上かも。
 星の周りで小さな煌きがいくつも瞬きバチっと音を残して消えていく。張り詰めた空気はもうこれ以上は無理だということ訴えているみたい。

「なんだか一番星みたいだね」
「一番星?」
「うん、夜空に一番に光る星だよ」

 夕焼けに混じる夜の藍色。訪れる夜を告げるように空の一点に現れる小さな光。

「じゃあ夜に始まりをくれるんだね。なのはみたいに」
「あっ……そうだね」

 夜の始まりをみんなにあげるたった一つの輝き。たった一人だけど寂しくなんて絶対無い。一人ぼっちじゃないんだから。
 いつか聞いたわたしの友達の言葉を思い出す。

「手を差し伸べるだけじゃない。繋いで、嬉しいこと悲しいこと全部分け合おう」

 嬉しいことばかりじゃない。悲しいことだってぶつけてもいい。相手の人が悲しい顔をしたってそれはいつか笑顔になれる始まりだから。
 ぶつけなきゃその人はずっとわたしを心配して悲しい顔のまま。

「見ていることしか出来ない人だってすごく心が痛いから」

 そんな人たちがいなくなるようにわたしはもう迷わない。いつだって素直な気持ちをみんなに届けていこうと心から信じられる。
 夕日に連れられて星が瞬く。移り変わる空は慌しく入れ替わる住人を優しく包んで橋渡しをする。そこは決して星だけの世界じゃない。

(だからわたしは一番星!)

 わたしの世界だってわたしだけじゃない。大好きな人たちに囲まれてわたしは毎日を過ごしている。
 みんなの笑顔を見たいから、みんなに幸せでいて欲しいから、わたしはみんなに始まりをあげる星になる。
 どんな始まりだって構わない。泣いて怒ってそして笑う。どんな始まりにも意味があって、そしてきっとそれはどこまでも続いていく一歩になれる。

「いくよ! ユーノくん!!」
「うん! なのは!!」

 銀河の星がすべてわたしに集まっていく。

「レイジングハート!」

『All right』
 
 桜色の翠色もみんな集って星の一部になっていく。
 二色は混じり純白の光へ。

 この世界に一番星が生まれた――!

「全力――!!」

 わたしが、

「全開――!!」

 ユーノくんが、

『Starlight breaker suprem star』

 レイジングハートが、

「ブレイク――……」

 芽吹く想いありったけ! 全部この一番星に込めて!

「シューーーーーーーーーーーーーーーット!!!」

 天地轟かせてわたしの願いが撃ち放たれる!!
 
 星の光じゃない。ぶつける想いは星そのもの。わたしの世界が本当に始まった証はここに。
 名づけて一番星スターライトブレイカー。
 空気を押し退け、風を追い越し、天上に満ちた闇を吹き飛ばすために星は飛翔する。夜明けになったみたいに全ては照らされ夜から解き放たれた世界は自分の色を形を取り戻していく。

「いっけぇーーーーーーっ!」

 心を閉じ込めていた壁は激突する星を前に一瞬すら与えられず粉砕される。空中に入るヒビはL・ジュエルの力に打ち勝った証だ。
 世界が揺れL・ジュエルの空はバラバラになって落ちていく。その向こうには満天の星空がわたしたちを見守っていてくれた。

 星の勢いは一向に衰えない。なおも体を空にめり込ませながら稲妻を散らした。
 まだやるべきことがあるから――その子はそんなことを言っている気がした。

「――最後の仕上げ!」

 空気一杯吸い込んでお腹に力を入れる。
 真っ直ぐ見つめるその先にきっとある災いの種とわたしはこの手で、

「リリカルマジカル! 封印すべきは忌むべき器! ロスト・ジュエルシード!!」

 決着をつける!!

「――封っ印!!!」

 空が、真っ白になった。
 星が弾けて生まれた閃光が世界を覆いつくしていく。夜明けから一気に世界は昼へと早送りにされて、もっとそれ以上の白の中へ消えていった。

(ユーノくん!!)

 風に激しく揺さぶられながらわたしは心の中で彼の名前を呼んだ。
 前後の区別すら無くなっていく世界でたった一つ信じられるもの。わたしの手を守るように強く握ってくれる温もりだけは決して無くならないものだから。

 いつも隣にいてくれて、これからも隣にいてくれる絶対変わらないものだから。

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