06月≪ 2017年07月 ≫08月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031
--.--/--(--)

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【編集】 |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑
2007.12/25(Tue)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十六話 Apart 


【More・・・】


 この世界の夜はアルハザードと違って随分蒸し暑い。

 森のように無機質な大地から生え出している銀色の大樹はその体に無数の明かりを浮かべて暗闇を追いやっている。
 落とした視線には家路を急ぐ沢山の人がすれ違い、その横を大小格好てんでバラバラな車が駆け抜けていく。
 ミッドチルダよりずっと文明のレベルは遅れているけど自然だけの世界からやって来た人なら誰だって目を丸くするか輝かせると思う。

「はぁ……」

 この町で一番高い高層ビルの屋上。その縁に腰掛けながら私はただ所在無さげに平穏な夜を過ごす町並みを見下ろしていた。
 ミッドチルダもきっとこんな風に見下ろせば変わらない営みが見られるんだろうか。
 
「母さん……私わからないよ……」

 もっともその町並みはもう見られるかどうか分からない場所へ行ってしまったんだけど……。

「世界を一つ犠牲にして……沢山の人たちの悲しみで……取り戻せるの?」

 私はミッドチルダを消した。
 事実を知らなかったとしても……許してもらえないこと。沢山とか言ってられる大きさじゃない。全ての命を消し去った行為に私は加担している。
 リニスはまだ諦めるなって、世界は消えてないって言ってた。気休めの言葉じゃない本当のことだってことはすぐに分かった。
 精神リンクを通してリニスがどんな痛い思いをしてその言葉を届けてくれたのか知ってしまったから。
 
「……優しい……母さんも」

 あの優しい笑顔で私を抱きしめてくれた母さんはもう思い出の中で色褪せ始めていた。
 ジュエルシード――それをこの世界にまいたあの日から、私は母さんの優しさをもらっていない。どんなことをしても母さんは褒めてはくれても笑顔はくれなくなった。

 母さんは楽しかった時全てを取り戻すって言ってたけど、本当に取り戻した時にあの母さんは帰ってきてくれるのかな……・?
 不安とちょっとの恐怖が私の心に影を落とす。
 人が変わったなんて――母さんには当てはまらない言葉だって信じたい。母さんは本当はすごく優しくて、今は取り戻すことに忙しいからあんな怖いんだって……。

「……やだな私」

 何で怖いって思っちゃうんだろう。
 この前のことが頭から離れないせいなのかな。

「せっかくまいた種を掘り返すなんて可哀想だよ」

 ミッドチルダが消えてすぐに私たちは母さんに呼び出された。いつもなら母さんのお手伝いと聞けば喜び勇んで玉座まで駆けた私。
 流石にミッドが消えちゃったことが分かった私にそんな余裕はなかったんだけど……。

 でも大好きな母さんのために無理して笑った。母さんはそんな私の無理に気づいてくれたのか知らないけど褒めてはくれた。
 そうして母さんのために私は種をまいたあの世界へ舞い降りた。母さんがくれた小さなジュエルシードと共に。

「あの風の渦……あんなのぶつけたらこの町無くなっちゃうよ」

 母さんはそのジュエルシードをまいた種に重ねろって言った。あの時は偶然出くわしたフェイトのせいで出来ず仕舞いだったのは不幸中の幸いって言えるのかな? 
 何とか逃げ延びて、時期を見計らって再挑戦。今度は上手くいった。種の居場所は母さんのジュエルシードが教えてくれたから苦労しなかったからだ。
 
 種はすでに沢山の子供たちを実らせ外の世界へ巣立たせていた。その種にジュエルシードを重ねれば、種に溶け込むように消えて海の上に巨大な雲の渦を作る結果になった。
 あの渦は母さんが自分の願いで作ったってことはすぐにわかった。それがこの町にやって来たらどうなるかぐらい勉強の苦手な私でも分かる。
 魔力の塊が通り過ぎれば生み出されたジュエルシードは大小関係なく芽吹いてしまうだろう。当然そこに願いはない。浴びせられた魔力でただ暴走して発動することは、下手すればこの世界もミッドと同じ末路になるかもしれないことに繋がっていくんだ。

「母さんはそれが望みなの?」
 
 投げかけた言葉は夜風に溶けて消えていった。
 最初から母さんはこの世界も消してしまうつもりだったんじゃないのだろうか。そうじゃなきゃわざわざ種なんてまくわけが無い。

「そうだよ……母さんは」

 無邪気に母さんの言うこと聞いていた自分が怖くなる。
 何で気づかなかったんだろう。こんなことになるまで気づけなかったんだろう。
 
「ダメだよアリシア……母さん信じてあげなきゃ」

 私が信じなかったら誰が母さんを信じて、笑顔を上げられるの?
 母さんには私とリニスしかいないんだよ。私たちがいなくなったら一人ぼっちになっちゃうんだよ。

「だから罰が当たるんだ」

 両腕で自分を抱きしめる。寒気がして、体が震え出す。
 痛いくらいに力を込めて、腕に食い込む爪の痛みに頭の中でせせら笑う悪夢を振り払おうとする。
 私がこんな嫌なこと考えるから、母さんを疑うから神様は私にこんな仕打ちをしたに決まってるんだ。

「…………くぅ」

 夢のはずなのになんだかすごく生々しすぎて本当に体中が痛くなってくる気がする。自分の呻き声に忘れかけていた夢がゆっくりと復元されていく。
 
 夢の中の私はやっぱり母さんの手伝いをしていた。私なんかよりずっと真面目に、確実に仕事をこなしていて。
 けど母さんは全然褒めてくれない。母さんの望みにちっとも届かないからだ。
 私は腕を縛られ吊るされる。母さんの言いつけをちゃんと守れないから罰を受けるために。
 何度も何度も鞭で体中を叩かれて、罵声を浴びせられて、また叩かれて。それが何度も何度も繰り返されて傷だらけになって私は冷たい床に転がる。
 
「でも……嫌だよ……どっちも」

 罰は怖くはない。怖いのは母さんが母さんで無くなってしまうこと。私がちゃんとしないせいで母さんの優しさが二度と戻ってこなかったら……。
 それだけのためにこの世界を消したくない。フェイトの居場所を無くしたくない。
 あの時の笑顔を無くしてしまっていたフェイトはもう二度と見たくない。憎しみ合うことなんてもうしたくない。
 
「ほんとにダメだね……私。始めはあんなに憎いって心の底から思えたのに」

 記憶がないから――たったそれだけの理由で私はフェイトを憎んで傷つけた。
 それはアリシアという私自身が信じられなかったから。自分が自分って思えなかったからだ。
 今は違う。リニスが教えてくれたから私は私って胸を張って言い切れる。私は母さんの娘のアリシア・テスタロッサだって誇り持って言うことができる。
 
「そうだよ……私は私なんだ。だったら母さんの望みって……」

 母さんの望みは幸せな過去を取り戻すこと。でもそれってどういうことなんだろう?
 私がいて、リニスがいて、母さんがいる。昔と同じ風景がちゃんとあるんじゃないんだろうか。
 
「過去がここにあるなら……世界を消す必要なんてないよ」

 でもミッドチルダは消えてしまった。それは母さんの求めるものはここにはないってこと。
 
「母さん……母さんの欲しいものって」

 やっぱり私は私でも足りないものがあるからなのかな?
 フェイトにあげた私の記憶の欠片。それがないと母さんは満足しないのかな?

「じゃあもしも私が本当に記憶を取り戻せたなら」

 母さんはあの優しい母さんに戻って、ミッドチルダも元に戻してくれるのかもしれない。
 いや、絶対してくれるんだ。

「……やっぱりそれしかないんだ。なら――」

 誰もが悲しむことのない方法があるなら私は迷いなく使う。母さんも、フェイトもみんなが笑顔でいられる私にしかできないやり方があるなら絶対にだ。
 
 一陣の風が私の足元を通り過ぎていく。
 私は腰を上げ、もう一度真下に広がるこの世界の夜を目に刻み付けた。
 時間はない。一刻も早く私はやらなきゃならない。なんだかそんな危機感が私の心を揺らした。

「私はやるよ」

 どんな結果が待っているかなんてこの際関係ない。二つの世界を救う手立てが自分にあるのなら私は諦めない。

「私も掘り返すんだね……母さんのこと言えないや」

 フェイトだって分かってくれるよね? お姉ちゃんの我侭聞いてくれるよね?

 問いかけたって答えは誰もくれない。背中を押してくれる人も言葉も今の私にはないのは結構寂しいな。
 リニスが聞けばこんなの絶対反対するんだろう。でも私馬鹿だからこんな方法しか知らない。
 この世界に根付いた九個の種のいくつがフェイトたちに摘み取られたのかは見当つかないけど、私の望みを叶えてくれる種は一個あれば十分だ。
 探すのは骨が折れそうだけど見つけてみせる。

「ごめんね……駄目なお姉ちゃんで」

 フェイトやこの世界の人たちが絶対悲しい思いはさせないように私が出来る精一杯は褒められたものじゃないけど。

「……リニス、ごめんね」

 もしかしたら私だってフェイトと同じ人形なのかもしれない。母さんの言うことを素直に聞くだけの都合のいい人間――それさえほんとか不安になる。 
 失ったものを取り戻すために私はもう一度昔のアリシアに戻る。フェイトを憎しみだけでしか見ることの出来なかったあの頃へ。
 自分をもっと自分にするために。そんな身勝手でまた誰かを傷つけてしまう心の痛みを感じないように。

 私にとっての笑顔を届ける術はもうこれしかないんだから。

* * *

「それでこれがこういう書き順で――」
「なるほど……うんうん」
 
 真っ白な紙の上に真っ黒な線が次から次へと並べられていく。緩やかな曲線を描けば、唐突に速度を速め、鋭い軌跡を残して離陸する。
 様々な古代言語に負けず劣らず複雑難解な文字は見ているだけでも頭を悩ますのに、書くともなると考えることを放棄したくなる。

「あっ! ユーノ君そこはねないよぉ」
「えっ!? これ駄目?」
「うん」

 はぁ……まだ全然覚え切れてない。やってる側からこんな調子が続いている。

「なのはの世界の文字ってほんと難しいね……」
「そうかな? 覚えれば簡単だと思うけど」
 
 きょとんと首を傾げるなのはだけど僕から見ればここまで複雑に入り組んだ言語も初めてだ。
 ひらがな、カタカナ、漢字、英語――。よく破綻しないでここまで綺麗に混ざり合えるのか不思議に思う。一応はフェレットで一年間なのはの家にお世話になっていて多少理解をしていても、読むと書くとでは大違いだということを思い知らされる。
 でもここでくじけたら最後この世界とは一生馴染めない気がして投げ出すことも出来ない。
 なのはが教えてくれる手前そんな邪な考えは浮かばないけど。

「フェイトも苦労してるみたいだよ」
「念話でフォローしてばっかりだもんね……ユーノくんも」
「あはは、いつも助かるよ」

 そのおかげでクラスのみんなからは日本語に相当慣れてるみたいに思われてるみたいだけど。

「でもいつも教えてもらっていいの? なのはだって宿題とかやらなきゃいけないだろ」

 寝る前の僅かな時間が僕となのはの国語の時間だ。
 ともすれば睡眠時間を削りかねないことと、同じクラスであるが故に課題の状況も把握しているからこそ僕はなのはに無理をさせているのかもと不安に駆られる時がある。
 どうもこれまでの苦い経験がなのはに無茶をさせないようにって心の中でブレーキをかけているみたいだ。

「わたしは大丈夫。ユーノくんが魔法の先生だったらわたしはユーノくんの国語の先生だから!」
「先生か……」
「それに」

 机に向かう僕の後ろで指差し教えてくれていたなのはが横から顔を出す。
 横目に僕の顔を見つめながら悪戯っぽく笑って少し顔を寄せ囁いた。

「いざとなったらユーノくんのを写させてもらえばいいかなって」

 舌を出して照れ笑い。つられて僕まで笑みをこぼす。

「なのはぁ、ずるはいけないよ」
「だってアリサちゃんもお稽古忙しいときとかは写させてって言ってくるんだよ」
「それはそれでしょうがないんじゃ」
「先生してるわたしのほうがずっと大変だと思うんだけど」

 拗ねた顔で僕を見てくるなのはを苦笑いで誤魔化した。可愛らしい非難の視線には敵わない。

「ご、ごめん確かになのはの方が大変だもんね」
「でもアリサちゃんに言ったらきっと怒られるよね」 
「えぇ!? それはちょっと勘弁してほしいよ……」
「あはは、もうユーノくんそんな顔しなくても大丈夫だよぉ」

 無邪気に笑いながらなのははくるりと踵を返して部屋の中を歩く。あちこちに視線を巡らし本棚に詰め込まれた本を見たりしながら、最後はベッドの上に腰を落ち着けた。
 
「でももう一年以上経つんだよね」
「何が?」
「わたしとユーノくんが出会ってから」

 宙を仰ぎながらゆっくりとなのはがベッドに寝転がる。大の字になってなのはは続けた。

「そうだね、もうそんなに経つんだった」

 これまでのことを思い返しながら僕も過ぎ去っていった時間をしみじみ感じる。
 
「わたしがユーノくんと出会って魔法使いになって……それからフェイトちゃんと友達になって」
「裁判が終わってフェイトが嘱託魔導師の試験を受けて」
「春になってまた新しい事件が起きて、今はアリサちゃんやすずかちゃんもみんな仲間になってる」

 確かめ合うように、互いにPT事件から今日まで続いてきた僕らの道筋を辿っていく。
 話して、改めて一年という時間が本当に過ぎてしまったんだなと感慨深くなった。

「これも全部ユーノくんがわたしを呼んでくれたからなんだよね」
「違うよ、僕の声をなのはが聞いてくれたからだよ。あの時は声を聞いてくれる人なら誰でも良かったんだし」

 我ながら無責任にも程がある。無差別に念話を飛ばして届いた相手に――つまりは魔導師に協力してもらおうと思ってた僕だ。
 出会った相手は魔導師でもない普通の女の子。けど僕の無理に付き合わせて今はこうして一端の魔導師の一人だ。

「ううん、もしそうだったとしてもきっとその声はわたしを呼んでくれてたんだと思う。だからわたしにとってはユーノくんが始まりなの」
「始まりか……僕だってなのはが始まりをくれたんだよ。あの時も、こうやってる今だって」

 もしも僕らが出会わなかったら――例えば僕を助けた子がなのはではなく別の誰かだったら僕がここにいることもないのだろう。
 フェイトとも友達になってないかもしれないし、ジュエルシードでいくつもの世界が破壊された結末だって存在するはずなんだ。
 バラバラに散らばっていた偶然が僕たちの出会いの下に一つに集まって、必然にも似た今の世界を引き寄せた。

「前にユーノくん言ってくれたよね。始まりをくれてありがとうって」
「うん、言った」
「でもわたしからも言わせて欲しいな。ユーノくんがくれた大切な始まりのお礼……」 

 体を起こし僕と向き直る。
 少しだけ頬を朱に染めたなのはは目を細めその言葉を紡いだ。

「ありがとう、ユーノくん」

 心が温かくなった。たった一言なのに彼女の想いが込められてることが感じられる優しい響きだ。

「うん、どういたしまして」
 
 なのはの想いに応えるのは同じく想いを込めた一言で。
 謙遜するつもりはなかった。なのはに始まりを上げたのは本当で、それに彼女の純粋な気持ちはちゃんと受け取ってあげないと失礼だ。
 でも、面と向かえばなのはの笑顔になんだか気恥ずかしくなって思わず目を逸らしてしまった。
 胸がむず痒くなるというか……なのは相手にやっぱりこれだけは止められないのは男として情けない。

「どうしたのユーノくん?」
「えっ? あっ、なんでもないよ! 少し疲れたかなって」

 早口のままに目頭を揉む仕草で悟られないようにする。ほんとは疲れてないけど、こんな所で僕の気持ちがばれたらそれこそ明日から合わす顔がない。

「じゃあ今夜はこれぐらいにしよっか。もうすぐお風呂も開くと思うし」
「ごめん、なんか催促したみたいで」
「ううん、何事も程々にしないと。わたしの魔法もそうなんだから」

 はにかんで部屋から出て行くなのは。

「あっ、それとね」

 扉を開けたまま立ち止まる。言い残したことがあったみたいでその場で振り向き、僕を見つめ表情を崩した。

「これからもなのはの背中を守ってね!」

 満面の笑みを残してなのはは向かいにある自分の部屋へと戻っていった。
 返事を待たないなのはの行動に一瞬ぽかんとして、今の言葉を反芻してため息一つ。
 どうしようもない気持ちに悶える代わりに僕は頭をかきつつ一人ごちた。

「決まってるだろ……好きなんだから」

 ドア越しでも聞こえないくらい小さく絞って僕は初めて自分の気持ちを声にした。
 口にしたって特に変わることもない。椅子にもたれて手を投げ出して染み一つない天井を見上げた。
 所在無く吐いた息はすぐため息に変わってエアコンの冷気に溶けていく。
 沢山の出会いと始まりがあって、今の僕はなのはの家に居候している。
 「ここまで」は多分うまくいってるんだけど、「ここから」は果たしてどうなっていくのだろうか。 

「ふぅ……」

 きっと大丈夫だって気安く言える性格ならどんなに楽になれるんだろう。
 僕がこれから歩んでいく道に伴っているこの気持ちにも是非とも大丈夫だって言ってやりたい。

 まったく一体いつになったら「好き」に始まりが訪れるのだろう。

スポンサーサイト
【編集】 |  22:59 |  なのはStep  | TB(0)  | CM(0) | Top↑

コメントを投稿する

URL
コメント
パスワード  編集・削除するのに必要
非公開  管理者だけにコメントを表示
 

この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック


 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。