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2007.12/06(Thu)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十五話 Cpart 


【More・・・】


 今日の総括。最悪の一日。

「フェイト! 聞いてるの!?」

 前言撤回、最低最悪の一日。
 これで指で数えられる限界を超えてしまった。アタシの剣幕にフェイトは驚く素振りさえ見せずワンテンポ遅れるほどに――わざとそうしてる――反応が鈍い。

「あんたねぇ……朝からずっとそうだったけどもう我慢の限界! いい加減にしなさいよ!」
「アリサちゃん落ち着いて」
「なのはは黙ってなさい! これはアタシとフェイトの問題なんだから!」

 なのはには悪いけどこれ以上余計な茶々で話を拗れさせたくない。

「…………うん」
「うんじゃない!! 人の質問にはちゃんと答えなさいよ!」

 まるで会話そのものを拒否するように必要最低減の言葉しか交わしてこないフェイトの態度にイライラだけが募っていく。
 ここ二日、アタシが聞いたフェイトの返事は「うん」か「そうだね」の二つだけ。

「朝もお昼も放課後も! ふざけてるなら大概にしなさいよ!!」

 バン、と力任せに机を叩きつけて行き場のない怒りを八つ当たり。あまりの音に当然ながら教室にいたみんながアタシのほうを見る。
 奇異の視線を全身に浴びながらアタシはまだまだ収まりきらない怒りを静めることもせずフェイトに背を向けた。
 もうこれ以上、テコでも押したってフェイトは動かない! 認めたくないけどわかってるから!

「じゃあ、さよならフェイト! また明日!!」

 教室を出るなり逃げるように床を蹴った。廊下を走るのはいけないけど今だけは大目に見て。

「まっ、待ってアリサちゃん!」

 後ろからなのはが追いかけてくる。どうせ運動神経切れてるんだからかけっこじゃ負けない。
 だから走る! 走って走って、とにかく走る!

(わかってるわよ……アタシが悪いって! だから仲直りしようと思ってるのに……それなのに!)

 悔しかった。

 叩いた手はまだ痛かった。

* * *

 下駄箱で追いついて。
 アリサちゃんの目がすこしだけ潤んでいたことに気づいて。
 慰める言葉も見つからないわたしは、こうして二人だけで夕日に彩られた町を歩いていた。

「…………」

 どうやって切り出せばいいのか。少し気まずい雰囲気を引きずってわたしたちはただ歩く。
 今頃二人はどうしてるのかな……? アリサちゃんお稽古はいいのかな? 晩御飯は何かな?
 なんて取り留めのないことを頭の中に浮かべれば、わたしたちはいつの間にか町を抜け海沿いの道路に出ていた。
 キラキラ輝くオレンジ色の海に目を細め、わたしはこんな時どんな言葉をかければいいのかずっと探していた。

「……ずっと考えてた」
「……え?」

 先に口を開いたのはアリサちゃんだった。ちょっとだけ怒ったような口調で、躊躇っていたわたしに代わって。

「あの時フェイトがあの稲妻弾いてなかったら……すずかやられてたかもしれないって」

 あの時――……。
 アースラであの後見せてもらった映像の一場面のことだ。
 六つも魔法を制御していたすずかちゃんの隙を狙ってL・ジュエルが放った魔法をフェイトちゃんが咄嗟に魔法で庇ったあの瞬間。
 本来ならL・ジュエルを直接狙っていたそれを無理に使ったせいで結果的にわたしたちの作戦は大失敗。手痛い反撃をもらって逃げ帰ってきた。 

「ユーノもいるしいざって時は大丈夫だって思ってたけど……相手見くびってた」

 急に立ち止まりアリサちゃんは俯く。唇を噛んで自分の軽率さを嘆いているみたいだ。

「アタシはすずかが確実に防ぐだろうって思って突っ込んでたの。ユーノもいるしリスクなんてないって」

 言って、また歩き出す。
 地面に視線を落としたままアリサちゃんは続ける。

「でもいくら大丈夫だからって……高くくってた。もしあれ以上の攻撃が来てたらどうなってたか」
「アリサちゃん……」

 一見向こう見ずなやり方でもアリサちゃんはいつでもみんなのことを気にかけていてくれる。
 誰も欠けないように、アリサちゃんなりに考えた方法でみんなを引っ張っていく。学級委員長でわたしたちのリーダー。
 名前負けしない立派な姿をいつも見せていてくれたのだ。 

「フェイトは凄いわよ、あんな機転が利くんだから。アタシの魔法って不器用だから……何にも出来ない」
『Sorry buddy』
「気にしない! アタシはアタッカーなんだからそれで十分なのよ!」

 知らなかったアリサちゃんの心の中。自分にしか出来ないことを全力でぶつけて、出来ないことを気持ちで補ってる。
 夢中で魔法を使ってるわたしなんかよりずっと凄い……。

「それならわたしだっていつも撃ってるだけだよ。アリサちゃんと同じ……ううん、それ以上に不器用だよ」

 苦い経験は今に思えばわたしの大切な思い出であり教訓。
 責任感に周りが見えなくなって一人で頑張りすぎてしまったわたしを叱ってくれたのだってやっぱりアリサちゃんだった。

「自覚してるんなら大丈夫よ。それにこれからだってあんたが突っ走りそうになったら首に縄つけてでも止めてあげる」
「さ、流石にそれは……」
「冗談よ。アタシは一緒になって突っ走ってあげるから安心なさい」

 それはそれでいろいろ問題はありそうな気がするけど、アリサちゃんらしい答えに思わず笑みを浮かべてしまうわたしです。

「アリサちゃんならきっと伝えられるよ。あんなフェイトちゃん始めてだけどフェイトちゃんだって仲直りしたいはずだし」
「なんだかなのはの言葉って妙に説得力あるわね。ちょっと弱気になってたけど元気出てきたわ」

 夕日に向かってアリサちゃんが背伸びする。心のモヤモヤはふっ切れたみたいでもう顔はいつもの自信満々なアリサちゃんだ。
 こんなわたしでも力になれたみたい。なんだか嬉しい。

「あっ、でもケンカは駄目だよ。みんなに迷惑だけはかけないようにね」
「わかってるわよ。子供じゃないんだし」
「まだ十歳だけどね」
「うるさいうるさい」

 明日はきっとみんな笑顔になれるはず。この晴れ渡った空みたいに一足先に台風一過間違いなしだ。
 遠く空に灯った一番星を見つめながらわたしもアリサちゃんも笑顔に家路についたのでした。

 寄り道しすぎて門限を大幅に過ぎちゃったことはこの際気にしない方向で……。

* * *

「それでエイミィ、L・ジュエルはどうなってる?」 
「そだね、ここ二日間動きを止めていたのは初戦の反動と見て間違いないね」

 敗走から三日。ついにL・ジュエルが再進攻を開始した。 
 相変わらず速度は遅いけど規模は前より遥かに大きくなっていた。渦は巨大に、目はまるで意志を持つかのようにくっきりとモニターに映し出されている。

「この前の戦闘で得られたデータからこの台風はますます普通じゃないってことはわかったんだよね。今度こそ決着つけないとかなりまずい事態になると思うよ」

 エイミィの分析じゃあの台風が降らしているのは雨じゃなく純粋な魔力の塊らしい。そんなものがもし海鳴に降り注げば眠っていたジュエルシードがみんな目覚めてしまうかもしれない。
 以前に儀式魔法で無理矢理ジュエルシードを探した経験が予感を確信に変えていく。

「エイミィ、作戦プランの変更は?」
「突入に関しては変更なし。問題は核の封印かな」

 切り替わった映像にはあのL・ジュエルを防衛していた青い檻が簡単な図になって映される。二次元的に表されたそれにすぐに二つの矢印が巻きつく。

「あのケージはね、下手な魔力攻撃をみんな雷撃エネルギーに変換して放出する厄介な性質を持ってるの」

 サンダースマッシャーを吸収したのはその為か。

「けどあくまでそれはケージの面に限った話。頂点か、それらを結ぶ辺の部分ならこのルールは適用されないの」

 アリサやなのはの攻撃が吸収されなかったのは偶然にもそこを狙っていたから。
 ちゃんと死角は用意されているみたいだ。

「そこでこんな風に左右から渦の勢いを借りてケージに接近。急旋回しながら上と下、それぞれの頂点へ攻撃を叩き込んで破壊! 剥き出しになったL・ジュエルを――」 
「なのはが砲撃で封印する手はずか」
「ご名答! さすがクロノ君だね! でもやっぱり封印に関してはアタッカー二人の力も必要だけどね」

 作戦としては完璧だと思えた。後はそれを確実に遂行できる人間が必要となるだけだ。
 
「二人とも、前回みたいな醜態は晒すなよ」
「わかってるよクロノ」

 半ば呆れ気味な視線を送ってくるクロノに私は力強く頷いて見せた。
 失敗した原因は私にある。私の判断が甘かったことが何よりいけなかったんだ。
 悪いのはすずかでもなのはでも、アリサでもない。

「よし、ならみんな頼むぞ。あいつを絶対に上陸させるな!」

 クロノの号令にブリッジの空気がピンと張り詰めていく。
 負けられない戦い。したくなくて体が緊張してしまう。

「フェイトちゃん……あの」
「なに?」

 慌しく動き始めるブリッジを横目に持ち場に着こうとした私を呼び止める声。
 何かと思って振り向けばすずかが憂い顔でそこに立っていた。
 私の顔を見るや少し目を伏せ、胸の前で両手を組み合わせる。どんな言葉をかければいいか思案しているみたいだ。

「えっと……頑張ろうね」

 まるで考えが固まらないうちに声をかけたみたいなすずかの様子に少し訝しげな顔になる。
 どちらかといえばそれは私なりのすずかのイメージとずれた所があったからなのだけど。

「きっと今度は上手く良くと思うから……だからアリサちゃんのお話聞いて欲しいんだ。このままはやっぱりいけないと思うから」
「あっ……」
「アリサちゃん自分が悪いって思ってるんだよ。フェイトちゃんのこと責めようなんて思ってない」

 すずかをそうさせてしまった原因が自分にあるとすぐに分かった。ここ数日アリサを無視するみたいに話を聞かなかった私の姿が頭の中に蘇る。
 
「違う……違うよすずか」
「えっ?」
「悪いのは本当は私なんだ。アリサもそうだけどすずかやユーノにだって私謝らなきゃいけない」
「……だってフェイトちゃん別に」

 首を横に振ってそれ以上を遮った。
 そんなに意外だったのかな……。でもあの時の判断は明らかに私のほうが間違っていたんだ。
 L・ジュエルへ真っ直ぐぶつかっていったアリサのほうがずっと正解で、私なんて大間違いもいい所なのに。
 
「私みんなのこと信じてなかった……。なんでもかんでも自分がやっちゃいけないんだって」

 無防備なすずかを狙ったL・ジュエルの砲撃は、直撃すれば大事になるのはあの場にいる誰もが考えた結果だったと思う。
 それでもすずかの側にはユーノがいた。ユーノの防御にしてみればあの程度の魔法を防ぐなんて造作もないことだったはずだ。

「もしも防御が抜かれたら……そんなこと絶対あるわけないのに」

 私が下した答えはL・ジュエルより二人を守ること。
 魔法の出力頼みなんて馬鹿げた方法で攻撃を防いで、今度はそれが仇になって狙いが外れて――。

「私……自分のやることわかってないんだ」
「フェイトちゃん……」

 攻撃なのか援護なのか、はたまた防御なのか。みんなみたいに一つのことに伸びていない私はあっちこっちにどんどん余計な手を出して……。
 「出来る」じゃなくて、「出来そう」なことばかり私は首を突っ込んで戦いを引っ掻き回してる。
 近距離にアリサが、遠距離にはなのはが攻撃の要として。防御や補助はすずかが一手に引き受けて。
 私のポジションってどこにでもありそうで実はどこにもないんだ。

「これじゃストライカーズ失格だよね」

 中途半端な自分自身に腹が立って、悔やむことしか出来ない自分が虚しくなってくる。

「……もう、フェイトちゃん考えすぎだよ」

 拗ねてるような怒ってるような声がして、ふわっとそよ風みたいな温もりが私を包み込んだ。
 
「すず……か?」
「そういうことなのはちゃんやアリサちゃんに言ったら贅沢だってもっと怒られるよ」

 背中に回された手にちょっとだけ力が篭る。ウェーブのかかった紫色の流れから微かにシャンプーの匂いがして鼻をくすぐる。

「何でも出来るって凄いよ。それって多分いつでも、どこにいてもみんなの力になれるってことなんだよ。そんなの私真似できないよ」
「そんなの買い被りすぎだよ」
「どうかな? きっとフェイトちゃんがいれば届かなかったあとちょっとに届くんだと思う」
「あとちょっと……?」
「うん! 確かにいつもみんなの力にはなれないよ。でもその人が本当に必要だって思った時にフェイトちゃんが隣にいてくれればすごく心強くなる」

 囁かれたいくつもの言の葉は私の心へじんわり染み渡っていく。
 まるで私の不安を一つ一つ運び出してくれるようなすずかの想いに胸の奥が温かくなってくる。 
 
「みんなのことを支えられるのってフェイトちゃんにしか出来ないことだよ」

 すずかの言う通りなのかもしれない。
 私はいつでもみんなを見守りながら、沢山の「出来そう」の中で今一番必要なそれを「出来る」に変えていく。
 それこそが私にか出来ない役割だって。

「……怖かったんだ私。だからアリサの話し聞いて上げられなかった」

 何にも出来ない半端な私だからきっとアリサに嫌われるって思って。
 だから誤魔化して、話し聞かないようにして。塞き止めてしまえばそれ以上先へは進まないはずだって思い込んで。
 こういう時にどんな言葉を言えばいいのか、どうすれば気持ちを伝えられるか。そんな簡単な術を私は知らなかったから。

「でも全然違うんだよね……」

 分からないから勝手に思い込んで。それがみんなと私の距離をどんどん離してしまうことに気づかないで。
 
「……ありがと、すずか。もう私大丈夫」 
「見つかった?」
「もちろん」

 そっと腕を解いて離れて私はすずかに力強く頷いて見せた。
 もうウジウジなんてするもんか。胸を張って私はこの道を歩いていける。道しるべはずっと先を指しているんだから。 

「よかった……フェイトちゃん元気になって」

 私の覇気に感化されるみたいにすずかの顔もいつもの落ち着いた優しげな表情を取り戻していた。
 迷惑かけちゃったな――なんて今更ながらに痛感してしまうのは情けないかな。

「ほんと心配する身にもなって欲しいよ」
「ふふ、ごめんすずか」
「でも心配した見返りはあったかな?」
「それはこれから……見せてあげる」

 向こうではアリサやなのはがユーノやクロノと作戦の確認をしている。そろそろ私たちも行かないとまたクロノに小言を言われそうだ。

「行こう! すずか!」
「うん!」

 さぁ、これからが正念場。泣いても笑ってもこれで終わらせないといけない。
 大事なのは唯一つ、それは即ち、
 
 自分のベストを尽くすこと!!
 
* * *

『Master,are you okay?』
「うん、わたしは大丈夫だよレイジングハート」

 足場の魔法陣越しに見える海は白波を立て吹き荒れる暴風にうねり狂っている。波の出るプールだってここまで大掛かりな波は作らないだろう。
 大体作ってもみんな寄り付かない。溺れるのを覚悟で泳ぐ人なんていないと思うし。

(ユーノくん……今度もよろしくね)
(うん、じゃあとびっきりの一発……お願いするよ!)
(わかった、まかせて!)

 肌にぶつかってくる潮風をプロテクションで遮って遥か遠方の台風を睨みつける。
 台風の通信妨害を避けるため今度は前よりもかなり距離が開いている。それだけで誤差だってどんどん大きくなるから修正するのも一苦労だ。
 もちろん勢力がさらに増している今の台風じゃ中心に行くまで渦の中をもっと長い時間飛んで行くはず。そのせいで砲撃の魔力が削り取られてしまえば封印も難しい。

「もっと収束させて……もっと魔力を込めて……正確無比な長距離射撃……」

 レイジングハートへユーノくんが教えてくれた道が転送されていく。頭の中に描かれていく道を心で見据えて目を閉じる。

(みんな気持ちは同じだよね。ただ今回はみんな頑張りすぎちゃっただけで)

 四人一緒の初めての作戦。不安な気持ちはどこにも無くて、心の中はウキウキとワクワク、そしてメラメラ燃えていた。
 学校でもアースラでもいつも大好きな友達と一緒に頑張れるなんて簡単には実現できないことだもんね。
 もしかしたら学校で一緒でもこ魔法少女として空にいる間は誰かが仲間外れになっているかもしれないし。

「不思議だね。前は学校だけでいいと思ってたのに」

 わたしって意外と我侭な子供なのかも。あんまり我侭なのも嫌われちゃうかな?

「それだけわたし……守りたいんだよね」

 こうやって巡り合うことが出来た沢山の偶然を必然にしたいから。大好きな友達と一緒にいられる瞬間を大切にしたいから。
 みんなも絶対同じ気持ち。みんな同じように悩んで、それで答えを見つけたんだ。

「だからわたし頑張るんだ! 不器用なわたしなりの一番で!!」

 一途な想いを届けてみせる。
 今度も全力全開で自分の出来ることを貫き通すんだ!

「ディバインバスター! 行くよ!!」

 今度も絶対命中させる! わたしの一番を絶対届けるんだ!! 
 
 心に願うは、

『Buster mode set up』

 その想い一つだけ!!

「えっ? レイジングハート?」 

 それはわたしの心に応えるようにいきなりその手に舞い降りた。
 桜色を散らしながらレイジングハートがシューティングモードから初めて見る姿へと変形していた。

『I want to realize your desire. My feelings are the same as you.』(あなたの願いを叶えてみせます。想いはあなたと共に)
「レイジングハート……」

 宝玉を覆っていたフレームは真っ直ぐ前へ突き出しシューティングよりも長く鋭くなっている。
 わたしから見て上のフレームの根元からは垂直に取っ手みたいな角が飛び出して、下のフレームは上よりも若干長めで後ろの方へも長々と金色を伸ばしていた。
 
『To refine stability, the grip was equipped.Please use it』(安定性を高めるためにグリップを取り付けました。お使いください)

 豪華というか立派な姿になったレイジングハート。わたしの願いに応えた姿はなんだか見ているだけで心の底からやる気が湧き出してくる。
 
「うん! やろうレイジングハート!!」

 そうだよね。わたしたちだけじゃないんだ。レイジングハートだって頑張ってくれる。そんな二人の想いの形がこれなんだ。
 角だと思っていたグリップに右手をかけ強く握り締める。左手はいつもより下の方を握ってわたしはレイジングハートを台風向けて高く掲げた。

「待っててねみんな!!」

 あの渦の中で頑張ってくれているみんなの元へ届けるために。

 足を踏ん張り、息を吸い……静かに吐く。
 魔力は弾丸、撃鉄は心の中に。集中力を高めて、生まれるは桜色の光。

「リリカルマジカル!」

 夜空の星を一つ持ってきたみたいな光を先端に浮かべれば、その周りを三つの小さな光が取り囲む。
 光達は踊るように回りやがて円となる。その只中でわたしの星は芽吹く時を今や遅しと待ち侘びていた。

「全力全開っ!!」

 不気味に動き続ける災いの渦を、

『Divine buster extension』
 
 撃ち貫け!!

「バスター…………シューーーーートっ!!」

 わたしたちの想い!!

* * *

 もしも今目の前で繰り広げられている二人の軌道を再現するなら一体何十時間シミュレーションを行えばいいのだろうか。
 考えてみて――すぐに止めた。そもそも考える必要がないからだ。

「隙だらけなのよ!!」
『Yeah! It's slow!』

 四方八方から放たれる雷撃の嵐を茜色がハチャメチャな機動ですり抜けていく。
 急旋回に急降下、急角度の急上昇。急場凌ぎのオンパレードは曲芸飛行も裸足で逃げ出すくらい。見てて危なっかしい、じゃなくて危ないそのもの。
 けどこれがアリサのいつものスタイル。無謀に見えて全ては計算という演出のステージの上。
  
「あんたのへなちょこ攻撃なんて跳ね返してあげるわ!」
『Counter Pressure』

 紫電は火花となって無様に舞い散る。鉄槌に固着した紅蓮の輪が唸りを上げれば雷鳴は彼女の従者となり放った自身を襲う牙となる。
 
「――っ!?」

 白煙を噴き上げながらも種を守る檻は攻撃の手を休めはしない。一つの狙いが駄目ならば他を狙うだけ。
 すぐにすずかに牙を剥く閃光。無防備な相手を狙うのは正しい選択だけど今は僕がそれを容易く阻む。
 だけど相手も馬鹿じゃない。周りの雲壁が弾ければ、降り注がれるは新たな雷と魔力の塊だ。檻だけではなく全方位から攻め立てれば陥落出来ると踏んだのか。

「防ぐだけってのも……中々厳しいかもね」

 流石にこれだけの量は辛いかもしれない。一度目を防いでも続けてこられれば直に消耗してしまう。
 嘲笑うかのように真っ直ぐ突っ込んでくる弾丸は心に僅かな焦燥感を生んだ。

『Photon Lancer Barrage Shift』
「飛べ! 雷光!!」
 
 そんな僕の感情を汲み取ったのか天から雨のように降り注ぐ金色の矢。
 僕らの周りを囲み、立ち塞がるように浮かぶそれは切っ先をそれぞれの眼前から訪れる脅威へ向けている。 

「そして舞い踊れ!」
『Photon Blast』

 凛とした声に撃鉄が引かれた。
 僕らの周りを浮かんでいた矢が残らず爆裂し金色の雲となる。魔力の濃縮された弾幕を前に魔力の豪雨は破壊の二文字を簡単に奪われていく。
 雲を破ったのは雷撃だけ。それすら本来の威力から悲しいくらいに減退させられている。
 それだけなら僕にとって防ぐことは朝飯前。これならいくらでも受けきれる。

「フェイト! ありがとう!」
「うん、このくらいの援護は私にも出来るからね」

 微かに笑みを浮かべ、また勇ましい顔つきになればその手の斧で襲いかかる雷撃を弾き飛ばす。
 絶妙のタイミングでの完璧なフォロー。フェイトが今まで培った抜群の経験が相手の厄介な手札だけを確実に葬っていく。
 
 二人それぞれに、最大の得意で、自分を貫く。絶大な信頼の元に確立される最高の戦法だ。
 
「……ユーノ君!」
「よし! 二人とも封印準備だ!!」

 耳に入るはすずかの声。なのはの砲撃が到達するまであと僅か。

「バーサーカー! 言われなくてもわかってるわね!」
『Yeah! Let's go buddy!!』

 ここからが本番だ。

「ここは近距離に合わせて……あれを使うよバルディッシュ!」
『Yes,sir』

 一度、檻から距離を取る。檻を挟んで二人、視線は交わらなくてもやることは同じ。
 合図は要らない。
 静から動へ、二人は同時に飛翔した。

「ブーストジャンプ!」
「ブリッツアクション!」

 背後を流れる雲に沿って茜と金の光が軌跡を刻み込んでいく。その速さにはもはやどんなものも追随を許さない。撃ち込まれる閃光は全てが彼女達の足元へ着弾するだけ。
 彼女達からみればこの渦の流れさえ止まっているのだろう。極限目指して加速し続ける二人はもう終わりになるまで止まらない。

 渦の中に生まれたもう一つの渦。息する間もなく半周すれば今度は中心の檻へと飛翔する。
 僕にはもう光が飛んでいるようにしか見えなかった。目にも留まらぬ速さとはまさにこのことだ。

「決めてあげるわ!」
「これで仕留める!」

 ついに二人は檻と肉薄する。
 あわや衝突――そう思った時には二人は既に檻の上と下へ。鋭敏すぎる機動転換は芸術の領域だ。

「バーストプライマー!」

 灼熱を纏った槌を振り下ろし天から襲い掛かるアリサと、

「サンダークリーヴァー!」

 雷光を纏った斧を振り上げて地から襲い掛かるフェイトに、

「3……2……1――来た!」

 雲を蹴散らし迷うことなくなのはの砲撃が突貫する。
 もはや檻は一瞬と持たず粉砕され、後に残ったL・ジュエルは封印を待つ以外に逃げ場はない。

 まさしく三位一体となった極大魔法の前に敵は――無い!

* * *

「で……一応封印は済んだけど」
 
 蒸気を吹き上げ魔力の残滓を吐き出すバーサーカーをくるりと回し、アタシはちょっと意地悪そうに目の前の子に向かって言った。

「まだ私は余裕だよ。アリサはもう限界?」
「ぜ~んぜん」

 控えめに、けれど明確に挑発する意思を見せるのがどうやらアタシに対する返事らしい。

「やればできるじゃない。アタシのほうが正しかったこと分かったでしょ?」
「そうだね、部分的に。でも後はやっぱり間違いだと思うけど」
「そっ、あっちこっち気にしすぎるよりかはよっぽどマシだと思うけど」

 同じように言い返してやれば可笑しそうに口元を緩めている。アタシもアタシで笑ってる。
 なんだかんだでアタシはこの子を認めているのだ。そりゃこの前は蛇足としか思えないことして、作戦を台無しにされて頭に来たのはホント。
 
「でも私はそれが一番だと思ってる」
「アタシなんてこれ以外にベストな方法知らないわ」

 うらやみとやっかみは丁度フィフティーフィフティー。アタシに出来ないことを平気でやってのける余裕には最大の敬意を払うけど、なんでそんな簡単に出来るのかムカついたり。
 まぁ、この場合は必死に足掻いても追いつけない自分の不甲斐なさへの怒りだけど。

「アタシにとっては懐に飛び込んで一発お見舞いする。先手必勝って言葉は知ってるでしょ?」
「だからって無理は禁物だと思う。危なっかしくて見てられないよ」
「その八割は計算づくよ。なのはもすずかもみんなそんなもんなんだから」

 だから余計な茶々は必要ない。自分の最大限の「出来る」範囲は心得てるつもりなんだから。 
 
「じゃあ後の二割は私が手伝ってもいいんだよね?」
「それわかったら超能力者みたいなものよ」

 どうしても力が足りない時には手を差し伸べて欲しい。届かない距離に届かせる力を貸してくれるならアタシとしては言うことない。

「うん、今はわかるよ」

 もうお互いわかってるんだと思う。
 きっとさっきの戦いが「ごめんなさい」の代わり。自分の間違いを見直して、そして認め合う。

「そうかしら? アタシまだあんたに手の内全部見せてないわよ」
「なのはやすずかより意地っ張りだもんね。だったら教えてくれる?」
「さぁ……どうかしら」

 だからこれからアタシたちがやることは仲直りの儀式。 

「話すよりも一度全力でぶつかった方が手っ取り早いんじゃない?」
「私もそう思ってた。でもだからって――」
「手加減はしない」
「負けるつもりも無いよ」

 思わず噴出しそうになった。なんだかんだでアタシたちは似ている。
 ケンカしたのも一種の同属嫌悪があったからかしら? 

「どちらかがギブアップするまで」
『Here we go』

 まったくバーサーカーも熱くなっちゃって。

「持てる力をぶつけよう」
『Come on』

 あっちもあっちだけどね。
 だからやりがいがある。プライドが燃え上がる。

「行くわよフェイト!!」
「負けないよアリサ!!」

 さぁ、始めるわよ! 正真正銘一対一の決闘!

 もっと親友になるための恨みっこなしの大一番!

* * *

「でぇぇぇい!!」

 爆音轟き、予想通りにアリサは距離を詰めてきた。
 直線での瞬発力は私よりも遥かに上。一瞬の躊躇は回避という選択肢を私から奪い取る。
 
(受けるしかない!)

 バルディッシュを構え直し、来るべき最初の一撃を私は受け止めることに覚悟を決めた。

「せぇい!!」

 振るわれる一撃を柄でもって受ける――!

「くっ!?」

 ゴキン! なんてバルディッシュにヒビが入った様な不吉な音が耳に飛び込んだ。
 押されるというより殴られるなんて表現がぴったりな手応えに弾き飛ばされるの必死に堪える。

(魔力を乗せた一撃……想像以上に重い!)

 確かにこんなものをまともに食らえばどんな結界も障壁も破壊されてしまう。まさに接近戦だけのための特化能力だ。

「でも――!」
『Scythe Slash』

 威力をとことんまで高めた代償は多大な隙を生むことへ繋がる。
 大降りの一撃は耐え切れればそれ以上の追撃は出来ない。元より鉄槌なんて質量を武器にするようなものなら尚更一撃に全てをかけるしかない。

「せえっ!!」

 鍔迫り合う柄を力任せに突き飛ばし、即座に起動させたサイズが風を引き裂いていく。
 躊躇いはいらない。アリサが体勢を整える前に一気に振り下ろす。

「そんなのお見通しよ!」

 以前の模擬戦じゃこのままアリサを撃墜できていた。それが二度も通じる相手ではないことぐらいは私だって分かっている。

「なっ!?」

 だけど魔力の塊であるサイズを鷲摑みにするなんて常識外れの行動は予想できるわけがない。

『Break Charge』
 
 おまけにサイズをそのものを一瞬で根元から粉砕するなんてもう非常識すら超越してる。

「お返しよ!」

 その場で回転しながら腰を捻り振り抜かれた横薙ぎ。遠心力を味方につけ暴風と化した一撃が呆気に取られた私の隙を食らおうと口を開けた。
 慌ててブリッツアクションを詠唱し寸でのところでかわす。鉄槌が駆け抜けた後に残った風に滲んだ汗が冷やされていく。

(魔力で出来てるものなんでもいいの!?)

 今のはアリサの握力にサイズが握り潰されたわけではない。サイズを構成する根幹の術式そのものを破壊したのだ。
 術式へ直接魔力を撃ち込む力任せの破壊なんて魔導師にしてみればどうしようもない最後の手段だ。普通なら魔力の消耗が激しすぎて使い物にすらならない。

(圧縮するから? それでも無茶もいいところだよ)

 資質頼みの下手すれば玉砕戦法そのもの。でもアリサにとっては相手を玉砕させる最大の武器。

「だったら――」
『Ax Bite』
「はあぁ!!」

 ヘッドをニュートラルに戻し鎌から斧へ。
 魔力攻撃が駄目なら私にだって考えはある――!

「えっ!? ――くっ!!」

 両腕を振りかぶって脳天から真っ直ぐ下へと振り下ろす。
 すぐに反応したって反撃の隙は与えない。今度はアリサが受ける番だ。
 魔力そのものではなく魔力乗せた直接攻撃。デバイス相手なら破壊はされない。
 
「せいやぁ!!」

 さらに追い討ち。間髪入れず得意の速さで真っ向から立ち向かう。
 横から一閃。次いで下から、さらに上から連撃させていく。流れるように次々へと斧を振り回し、時には片手で弾いたり、両手で一気に押し込んだり。
 ギリギリのタイミングで受け止め続けるアリサの表情は焦り一色だ。私の武器が鎌だけじゃないことに驚きを露にするのはなんだか誇らしい。
 
「どうしたのアリサ! もしかして降参?」
「ふふ……誰が!」

 口では虚勢を張ってもこれ以上凌ぎ続けられはしないだろう。視線を巡らし、歯を食いしばって攻撃に合わせるだけでは長くは持たない。
 ほんとに見てて飽きないくらい表情豊かだ。けど戦いの場において不用意な感情は目を曇らせてしまうことだってあるのだ。
 そのせいで向こう見ずな行動に出てしまえば窮地へ自ら飛び込むようなもの。熱くなりやすいのは時に考え物だ。

「バーサーカー!!」
『Splash Burst』

 響く電子音に私とアリサの間に生まれたのは小さな魔力球だった。それは大きさは違うけどアリサ唯一の射撃魔法の弾頭だ。
 近距離での射撃。その意図を私が読み取る前に、

「弾けろっ!!」

 ――ボン!!

「きゃっ!?」 

 私が斧を振り上げた所で赤い光が瞬き、煙の波が視界一面を覆いつくした。

「しまっ――!?」

 奪われた視界。立ち込める煙幕に溜まらず上空へ脱出する。
 目くらましなんて一時凌ぎでしかない。自分ごと視界を奪うような真似じゃ反撃の余地もないだろう。
 ここはそれに乗じて砲撃魔法で遠距離から、

「えっ!?」

 背筋に走る只ならぬ気配に展開させていた魔法陣をすぐに停止させる。
 振り返る。L・ジュエルが封印され動きを止めた雲を背景に場違いな夕日色が一直線に突っ込んでくる。

(上、右、左……後ろに真下!!)

 気配は一つだけじゃない。
 まるでこの場を夕焼けにしてしまおうかと画策するように光が旋回していた。

 まさかアリサはこれを――!?

* * *

 ――かかった!!

 今の気持ちを表すならまさしくそれだけ。本当ならガッツポーズの一つでもしてあげたいけど戦いはまだ始まったばかり。
 油断大敵。注意一秒の怪我一生。勝利の余韻に浸るのはお茶でも飲みながら後日ゆっくりと。

「ゲホッ! けど目の前で爆破させるなんてアタシも無茶が好きよね」

 フェイトのことだ。自分の得意になれば絶対押してくると思った。
 アタシが作った隙に誘い込まれたのは自分だなんてきっと今気がついてるはず。さっきの言葉をそのままお返ししてあげたいほどだ。

『Yeah! Only you will like』(ああ、君だけだ)
「好き好んでやってるわけじゃないわよ!」

 実は追い込まれて閃いた起死回生の一手だってことには気がついて欲しくないんだけど……。
 煙越しに見えるシルエットにアタシお得意の圧縮弾が一切の迷いなく飛び込んでいく。元から魔力誘導式の自動追尾弾。
 なのはのより使い勝手は悪いけど打てば勝手に飛んでいくってのは視界がゼロでも問題ないのが最大の強み。

「さぁ、どうでるフェイト!」

 バーサーカーを振り回して邪魔な目隠しを一思いに消し飛ばす。
 悔しいけど瞬間的な速度で勝っても、機動力でなら圧倒的に負けているアタシには近距離でフェイトと打ち合うには今はちょっと力不足。 
 ならばこの中距離で立体攻撃を織り交ぜればフェイトはどんな答えを出すか。

「First! Second! Ready!!」

 どの道その答えもアタシは、

『Slug Shower』
 
 塗りつぶすんだけどね!!

「さぁ、この大雨避けきれる?」

 まずは右と左の二発を爆破、さらに前と後ろも続けて爆散させて退路を根こそぎ立つ。
 フェイトから見れば横の移動を完全に封じられる格好だ。
 残る退路は上と下。もちろん残りの二発も即座に爆発させるのは言うまでもない。

(まさかこれも避けるんじゃないわよね)

 十字砲火どころの騒ぎじゃない。アタシなりの完全な包囲網を作ったのだ。空間を埋め尽くす散弾の雨を避ける手段なんてあるわけない。

「バーサーカー、魔力は切るんじゃないわよ」
『Why?』
「いいから!」

 なんとなくフェイトの機転にそんな予感。アタシとしてはこれを外したら正直後は無い。

「蹴散らせ! サンダースマッシャー!!」

 そしてフェイトの答えは最初からアタシの予想の斜め上だった。
 振り向きざま発射する砲撃が降り注ぐ夕日の雨の真ん中に風穴を開ける。

「いくよバルディッシュ!!」
『Britz Rush!』

 開かれた穴はフェイトにだけ用意された滑走路だった。
 誰よりも、何よりも早く、音速に手をかけるようにフェイトが一条の稲妻と化した。降り注ぐ猛攻の中に生まれた道へ、光が飛び込んでいく。

「嘘っ!?」

 その動きは針に糸を通すように精密だ。いや、少しでも外れれば蜂の巣になるのになんで躊躇いも無くそんな真似が出来るのか。

 そもそもアタシがそんなことを呑気に考える時間があったのかすら怪しい。

「こ、こんのっ!」

 だって気がつけばフェイトがアタシの目の前で腕を振るってるんだから。

「くぅ!!」

 本能に突き動かされるように振りぬいた腕は紙一重でフェイトの斧を弾き飛ばす。
 悔しそうに顔をしかめるフェイトにはまだ余裕があるだろう。
 アタシが乗り移ったように特攻めいた突撃を仕掛けたフェイトにアタシは舌を巻く。本当にこの子は何でも出来るのだ。

(ほんとに凄いじゃない! 見直したわよ!)

 きっとこの短時間でアタシの戦い方を体に刻みこんだのだ。
 これ以上の戦闘はリスクが大きすぎる。先にはもうは負けしか残っていない気がした。

「フォトンランサー!!」

 距離を離す前に波状攻撃。お構いなしか!
 フェイトは誇らしげに口角を吊り上げている。勝ったも同然――自慢げに胸を張って最後の引き金を引こうとしていた。

(まだよ! まだ全部負けたわけじゃない!)

 アタシが勝ってるものはまだ一つだけある。
 最後の一手はアタシも同じ。エースの裏に張り付いてた隠し玉を、ジョーカーを切る。

「ブースト!」

 足元に魔力を流し込み、爆裂。

「えっ!? アリサ!?」

 加速する体はフェイトにぶつけるためだけの弾丸だ。
 
 そして、

「捕まえた!!」

 両腕でフェイトの体を力の限り抱え込む!
 腕ごと一気に、背中に回した腕はがっちり組み合わせ万力のように締め上げる。

「な、なにするつもり? こんなことしたって――」
『Meteoroid』

 フェイトが息を呑むのがはっきりと聞こえた。

「遠慮は要らないわ! アタシの魔力全部持っていきなさい!」
『Meteoroid! Meteoroid! Meteoroid!!』

 脱力感に眩暈を覚えるのと引き換えに、アタシとフェイトを包み込む満点の星空――じゃなくて夕日空ってとこかしら?

「アリサ……まさか!?」
「一つ取って置きのいいこと教えてあげる。アタシはね、バリアもシールドも張れない代わりにバリアジャケットがすごく頑丈なの」

 上目にフェイトの顔を眺め自信満々に笑みを浮かべる。

「エイミィさんの分析だと四人の中じゃ一番らしいわよ」

 もっとも確実な防御手段が無いから実際の防御力は最低レベルなのは変わらないけど。
 
「そして素の防御が一番薄いのはフェイトよね」

 フェイトの喉が動く。忍び寄ってくる結末に顔が硬直していくのが手に取るようにわかった。

「でもこれじゃ……アリサも」
「悔しいけど今のアタシ一人の力じゃフェイトには完敗よ。でもね!」

 乙女のプライドにかけて素直に負けは認めない。
 やるからにはいつだって全力出し切って、勝ち負け関係なしに悔いは絶対残さない。

「あんたに白星つけるくらいなら!」
『Gatling meteor』
「道連れにしてあげるわ!!」

 手近な一つを起爆させれば後は耐えるのみ。小さな夕日が破裂して無数の光を撒き散らした。
 一つの爆発が二つの爆発を生み、その二つは四つと言わず周りの全てを巻き込んでいく。

 連鎖反応は一秒経たず全域へ伝わり、自分でも一体いくつ作ったのか分からない数の圧縮弾が一斉に爆音と衝撃の協奏曲を盛大に奏で始めるのであった。

 ボンボンバンバン――これじゃ不協和音の狂想曲だけど。

* * *

「ほんと……滅茶苦茶だよ。……ゲホッ」
「我ながらそう思ってるわ…………ゴホッ」

 ジャケットのセーフティ機能が辛うじて飛行魔法を維持しながら、立ち込める煙と熱気に思わずむせた。
 幸い黒焦げにはならなかったけど、あの爆撃をバリアも無しに耐え切ることはやっぱり私には無理みたいだ。

「でもよくあんなこと考えたわね。砲撃で穴作って突っ込むなんて。当たった時のこと考えてないの?」
「避ければ当たらない。アリサだったらそうするでしょ?」
「まぁね」
  
 苦笑するアリサのジャケットもあちこち引き裂けてズタボロだ。いくら硬くても流石に限度というのは弁えないといけない。

「でもアリサはすごいね。追い込まれても諦めないんだから」
「往生際が悪いって言えばいいのよ。フェイトみたいに綺麗に戦えないだけなんだから」
 
 でも諦めないってことはどんなに格好悪い形でもすごく大事なことだ。それを平気でやってのけられるアリサの姿勢は見習わないと。

「でもこれでよくわかった。アリサがのことがね」

 危なさそうに見えるのはチャンスを誘い込むための罠。一度はまれば簡単には逃げ出せない。
 
「やっとアリサと一緒に無茶できそうだよ」
「もう、あんたはみんなのこと支えてくれればいいのよ。何もアタシと一緒にやらなくたって」
「アリサのフォローはそれでしか出来ないもん」

 私に一言にきょとんとして顔を赤らめる。恥ずかしそうに視線を逸らせば忽ち拗ねたような顔になった。

「も、もう余計なことは言わないの! ほら、もうL・ジュエルも封印したし帰るわよ。ほらすずかも!」
「えっと……そのことなんだけど」

 私たちを見上げるすずかはなんだかすごく気まずそうな顔をしていた。なんだか見てはいけないものを見てしまったようにさり気なく後ろへ下がっていく。
 まさかまだ封印してなかったなんてことじゃないだろうし。そうじゃければ別の新手が?
 それなら返り討ちにするだけ。

 今の私たちに敵なんて一人もいな――

「――二人ともどうしちゃったのかな?」

『Restrict Rock』

「へっ?」

 ――いた。

 なんだかすごく見慣れた桜色の光が腕と足にぐるぐると巻きついている。
 私としてはそうやって宙に貼り付けにされるのはなんだかいろんな意味で懐かしいものであるわけで……。

「な、なのは……?」
 
 少なくとも感傷に浸っている場合ではないことだけはなぜだか今の私はとてもよく理解していた。
 言うなれば虫の知らせとか野生の勘とか。

「L・ジュエル封印できたんだよね? 二人とも何と戦ってるのかなぁ?」

 遥か天より舞い降りてくる純白の魔導師。振ってくる声はいつもの爛漫さを惜しげもなく振りまいているんだけど。

「やっぱりちゃんとお話しなきゃ駄目だよ……わたしアリサちゃんみたいに強くないから」
「な、なのは!? ちょっとあんた何か勘違いしてるわ!」
「ぶつかったんだよね。言いたいこと全部言ったんだよね。だから何も言えない、そうだよね?」
「そ、そそ、それすずかの受け売りでしょ!!」

 段々据わってくる声。小刻みにレイジングハートが震えている。

「仲直りしたと思ったらいきなりケンカするんだもん……わたし驚いちゃったよ」
「ち、違う! あれは模擬戦みたいなものでお互いの実力を把握するための――」
「そんなボロボロになってまでやる意味あるの?」
「こ、これはちょっと熱くなりすぎたのよ!! フェイトもいつも以上に頑張ってきたから応えてあげただけで」
「模擬戦はケンカじゃないんだよ」

 一刀両断にバッサリ切り捨てられる私とアリサの言い訳。
 なんでこんなに必死なのかと言われればなのはを見ればよく分かる。

「ぶつかるのもいいけど最後はちゃんと平和的に解決。ケンカってね自分がしてるときは分からないけど他の人のを見てると嫌な気持ちになるんだよ」

 悪い子に言い聞かせるように延々と語るなのはの下に一等星。私とアリサが散々振りまいた戦いの名残をどんどん吸い込んで膨れていた。

「……二人とも少し頭冷やそっか」

 顔には満面の笑み。
 目は引きつってピクピク動いて私たちを見下ろしていて。

 声は笑っていなかった。

「あ、アリサ! バ、バババ、バインドブレイク!!」
「ごめん……魔力もうすっからかん」
「…………」

 ――終わった。

「レイジングハート……きっついのお願い!」
『All right』
「ごめんって言ってももう許さないんだから!!」

 来る……特大の、もう二度と受けたくないって心から思えるあの砲撃が。

「……ねぇ、フェイト。経験者として何かアドバイスないかしら?」
「…………あったら私こんなに震えてないよ」

 恐怖に顔が引きつる。なのはの逆鱗に完全に触れてしまった以上もう結末を変える術は存在しない。
 純粋で真っ直ぐすぎるなのはの想いはいつだって、どんな時だって困難を切り開く力に満ちていて。

「二人とも……ケンカはーーーっ!!」

 大きく口を開ければなのはの怒りが木霊する。
 ぶおん! と物凄い勢いで振り下ろされるレイジングハートは引き金なんて生易しいものじゃない。
 まさしく着火の一言に尽きる。
 
「フェイト……一緒に無茶」
「しようね……アリサ」

 ああ、生きて帰れるかな……?

「ダメーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
『Starlight Breaker』

 二度目の――……感想なんて言うもんか。

 意識を真っ白に染めながら海の中へ一直線に叩き落されて、私もアリサも考えるのを止めた。
 事件も無事に解決したし、台風も無くなって海はいつもの優しさを取り戻してる。順風満帆ではないか。
 明日はみんなで久しぶりのお昼にしよう。絶対楽しくなるはずだから。
 なんて現実逃避寸前に明日の予定を立てながら私はバルディッシュを手放すのだった。

 ただ、もしも一言なのはに言っていいのなら、

(少しは手加減して!!)

 ぐらい声を大にして言ったって罰は当たらないよね。
 
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