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2007.12/02(Sun)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十五話 Bpart 


【More・・・】


 春先ならもう夕日が水平線に沈み始める時間になった。季節が夏に移り変わるに従い、日はどんどん伸びて意識の中から時間の感覚を鈍らせていく。
 遊ぶことに夢中になって気がつけば門限を過ぎてしまうことは実は結構あったりして。夕焼けを目印にするのは秋になるまでお休みだ。

「それにしても台風をじかに見れるなんて貴重な経験よね」

 眼下で渦巻く風の化身を横目に見ながら、アリサちゃんは感慨深げに呟いている。
 テレビの番組で台風を間近で撮影したり目の中に入ってみる企画はあるけど、そんなのとは比べ物にならないスケールの相手を私たちはこれから相手にしようとしているのだ。
 忍び寄る緊張に私はシルフを強く握り締めていたことに気づく。

『No problem.You can do it』(ご心配はいりません。お嬢様なら出来ますから)
「うんありがとシルフ」

 私の不安を察してくれたのか優しく語りかけてくるシルフにゆっくりと息を吐いた。
 気分を紛らわそうと頭の中で作戦の内容をもう一度整理してみることにする。
 
 これから私たちは台風の渦に沿って中心部へ突入し、この台風の核となっているジュエルシードを封印する。
 渦の中は台風の強風に加えて高密度の魔力が充満している可能性があることから私たちは常にバリアを張りながら飛び続ける必要がある。勿論それを担うのは私だ。
 私を含め三人分のプロテクションの常時展開。さらにアタッカーの二人には空力を確実に制御出来るように補助加速も。これで並列制御する魔法は五つだ。
  
(……私の分の飛行魔法もあるんだよね)

 確実に制御するためには私もある程度距離を詰めなくちゃ。その為に自分にも飛行魔法である程度は飛べるようにしなければ話にならない。
 これで六つ、私の同時制御数の限界ギリギリのライン。

「すずか、大丈夫?」
「うん、きっと大丈夫」

 気遣ってくれるユーノ君には笑顔を返事に。
 私の役目は二人を送り届け、尚且つ外にいるなのはちゃんの道を拓くこと。これ以外の魔法を使う必要は今日はない。
 
「ユーノ君も落ちないように気をつけてね」
「うん、定位置だからね。なのはのおかげでもうバランス感覚だけはバッチリだよ」

 右肩のフェレットはおどけて見せる。仕草だけなら全然フェレットがするものじゃないけど、ユーノ君だって知っているせいかすごく可愛いものに見えてしまったり。
 ともあれ今はそんなことに気を取られている時間じゃない。

『みんな準備はいい? くれぐれも無理しないようにね!』

 通信ごしのエイミィさんの覇気に背中を押され、私はシルフを天高く掲げた。

「シルフ! 一番から五番まで補助障壁、飛行魔法展開!!」
『Obey.Mover protection and remote flier open』

 雲よりも高い世界はいつだって太陽が主役を張っている。南中から幾分ずれた今だって見え上げれば眩しさに目を細めてしまいそう。
 この世界から見つめる夕暮れはどんな景色なのだろうか。
 いつかみんなで行ってみたい。けどその前に足元の災いを打ち払うことが私たちの使命だ。

「六番、飛行魔法! エアソーサー!」

 青き風が私たちの周りを守り手となって包み込む。背中に生まれる風切り羽は私たちを誘う風の担い手。
 
「行くわよ! すずか、フェイト!!」

 一番にアリサちゃんが、続けてフェイトちゃんと私が続く。隼のようにぐんと急降下すれば目にはもう雲海しか映らない。
 ゆっくりと回転し続ける不気味な渦の只中へ。弾き出されぬよう全速力で、私たちは臆することなく突っ込んだ。

「きゃっ!?」

 ボフン、と渦の流れに沿うように台風に飛び込めばあっという間に眩い世界はお仕舞い。私たちを歓迎したのは薄暗い灰色の世界一色だ。

(くっ……酷いな)
(台風の中って……ほんと物騒じゃない)

 念話を通して二人の困惑が伝わってくる。常に目視できる距離を保っていても、私たちを追い抜いていく雲たちが何もかもを目隠ししてしまう。
 プロテクション越しにでも風の悲鳴にも似た嘶きが鼓膜を揺さぶり、時々何かがぶつかっては小さな光を発して消えていった。

(これ……雨じゃない?)

 ピリピリと肌に伝わってくる感覚はそれが雨じゃなく魔力の塊だってことを知らせてきた。
 壁に衝突するたび蒸発するように光の粒は弾け、破裂したような音を残していく。数は多くないし威力だって大したことない。
 灰色の回廊は果てがないようにどこまでも続き方向感覚を失わせてしまう。飛んでも飛んでも、視界には物凄い勢いで流れる雲ばかりしか映らない。
 今私が感じ取っているジュエルシードの魔力だけが唯一の目印なんてこの圧倒的な存在の前にはすごく心もとない気がした。

「ユーノ君、なのはちゃんの砲撃は上手くいける?」
「多分いける。僕の想像より安定してるから……なのはなら出来る」
「信じてるんだ、なのはちゃんのこと」
「そりゃ一年以上の付き合いだからね。なのはのことはよく知ってるから」
「ふふ、私たちよりも?」
「魔法以外は流石に敵わないよ」
 
 不安を紛らわせるように私はユーノ君とお喋りに興じる。こんな時でもユーノ君の声を聞いていると不思議と心が落ち着くのだ。まるで怖さだけを掬い取ってくれるような優しさがユーノ君に宿っているように。
 今まで一緒に戦ってきたなのはちゃんはいつもこの優しい声に背中を守ってもらっていたなんてって思うと羨ましいな。

「それにさ、信じることが魔法を一番強くさせる力になると僕は思うんだ。お互いを信じてあげることがなによりも大事なんだって」
「そっか……そうだね」

 私たちリリカル・ストライカーズだってみんなそれぞれを信じて、気持ちを分け合えているからいつも息を合わせることができる。今だってこの雲に阻まれたってそこにいることを感じあえる。
 信じるって……いいな。 

「そろそろ中心だよ!」

 心がざわめく。ジュエルシードの魔力がすぐ近くに来ていることを悟る。
 相手はこの雲の壁の向こうだ。台風の中心、台風の目の中にいる災いの核。

(みんな行くよ!!)

 シルフに魔力を注ぎ、プロテクションの強度を限界まで引き上げていく。
 ぐんとスピードを上げて軌道を鋭角に、右に流れる灰色の壁目掛け私たちはバリアごと体を叩きつけるように食い込ませた。

「くっ……!?」

 最初に衝撃、続けて浮遊感が体に襲い掛かる。
 踏ん張る間もなく、直後にそれが落下していく前触れだと気づいたときには、私の体は上下逆になって加速を始める瞬間だった。
 風の流れが違う!? 渦の中でまるでジュエルシードを守護するように風が壁になって私たちを阻んでいる。
 
「シルフッ!! リソースをフライヤーに! 魔力反応の方向へ強制加速!!」
『Obey,mistress.Please endure it though it shakes a little』(仰せのままに。少々の揺れ、お許しください)

 このままじゃ下へ叩き落される。最悪の結果を危惧する前に私が導き出す方法は一つ。

(お願い! 誘って!!)

 無理矢理そのまま強行突破!!

「行って!!」

 錐揉みにされながら、加速の反動が体に襲い掛かると同時に真横へ跳ね飛ばされる。縦から横へ雲が流れを変えれば後はもう私たちの目に映るのは――

「エイミィさん! 中心部に到達しました!!」

 全ての音が消え去った凪の聖域だった。
 緩やかな風に見守られながら天地に突き抜けた平穏に満ちた世界。見上げれば夕焼け色にうっすら染まり始めた大空が。下には風に弄ばれる灰色の海原が見えた。

『オッケー! ジュエルシードも確認したよ! ……と言うよりジュエルシードじゃないかもね、これ』

 言葉を濁しながらエイミィさんは最後に小さく息を吐く。私もすぐ相手が只者じゃないことを身を持って体感している最中だ。

「L・ジュエル……」

 全ての中心にそれは浮かんでいた。
 蒼く染め上げられた巨大な正八面体のオブジェ。張り巡らされた辺の部分には常に赤い光が駆け抜け、薄く透けた面の奥に見慣れた宝石が鈍く輝きながら浮かんでいる。
 この台風を操る端末なのか、不気味な檻に守られたL・ジュエルは二度、明滅した。
 まるで私たちを待ち侘びていたかの様な振る舞いに無意識のうちに息を呑んでいた。

「すずか! プロテクション解除して! もう必要ないわ!」
「私もお願い!」
「……っ! う、うん!」
『Release protection from one to three』

 意気込んだ二人の声に現実に引き戻される。

「洗濯物みたいにもみくちゃにされた分、きっちり返してあげるから!」
『Yeah! Hammer squah』

 慌ててプロテクションを解除すれば、二人はたちまち先手となる魔法をその手に発動させていた。

「バルディッシュ……いいね」
『Yes,sir.Photon lancer get set』

 ここからは二人のために用意された舞台だ。
 私たちの中で最大の攻撃力を持つアリサちゃんと抜群の速度と豊富な魔法を持つフェイトちゃん。二人にかかればどんな敵だって大丈夫。

「まずは外側を吹き飛ばしてあげる!!」

 鉄槌を引っさげアリサちゃんは種を守る檻へ迷うことなく飛翔し、

「一転集中……狙って! バルディッシュ!!」

 フェイトちゃんは得意の高速射撃で持って檻に狙いを定めるつもりだ。
 迸るスフィアから生み出される光の矢は弧を描き囲むようにL・ジュエルを包囲し、間髪入れず一斉に飛び掛っていく。

「でぇえええい!!」

 檻の前ではアリサちゃんが必殺の一撃をお見舞いしている真っ最中。体重を乗せ振りぬかれる鉄槌は檻にたやすく亀裂を入れている。 
 二人とも戦い方は違うけど攻めるって思いは一緒みたい。近距離と遠距離からの完全同時攻撃なら流石のジュエルシードだって――

「あ、アリサちゃん!!」

 その前にアリサちゃんが巻き込まれる!?

「くっ!? バルディッシュ!」

 異変に気づいたのはフェイトちゃんも同じだ。今まさに降り注がんとしている矢の軌道を無理矢理捻じ曲げる。
 檻を前にして明後日の方向へ飛んでいく矢の群れ。だけど初速が仇になっていくつかの矢は軌道変更が間に合わずそのまま檻へと降り注いでしまった。

「さぁ、次行くわ――きゃああ!!」

 当然、檻の前には白兵戦を仕掛けるアリサちゃんがいた。光の矢に味方をすり抜けるなんて都合のいい機能はない。
 結局はアリサちゃんの背中に矢が炸裂する結果を運んでしまう。音と光が静寂を引き裂き、悲鳴が木霊となって耳に届く。
 手加減なしの攻撃に仰け反り、痛みか体を丸めるアリサちゃん。白煙を上げる背中が皮肉にも魔法の威力を物語っている。

「ふ、フェイトぉ!! いきなり何やってんのよ!」
「ご、ごめんアリサ! でもいきなり接近戦なんて無茶だよ!」
「先手必勝よ! 一気に飛び込んだ方がいいに決まってるでしょ?」
「あ、アリサちゃん!!」
「えっ? ――なっ!?」

 檻に守られたL・ジュエルに魔力が集中している。
 それが攻撃の前兆だと私の直感が訴えれば、同時にアリサちゃんが後ろへ一気に距離を取る。

「アリサっ!!」

 フォローにフェイトちゃんが風を切り裂く。あっという間にアリサちゃんの側へ駆けつければ、

「こんのっ! バーサーカー!!」
『Splash burst』

 あろうことかアリサちゃんが魔力弾を爆裂させるとピッタリ同時で。

「うわあっ!?」

 ボン! とアリサちゃんからすれば多少の痛手覚悟の目くらましだったと思う。
 でもそんなの知らないし、したこともないフェイトちゃんには対応しきれるわけもなく、あっさり爆風に飲み込まれてしまった。

「ちょ、ちょっとフェイト!!」

 多分アリサちゃんだって全く予想していなかった展開だ。
 煙の雲から飛び出してくるなり、アリサちゃんは反撃するためか手のひらに次弾の魔力を圧縮していた。
 本来なら追い討ちをかけるべき状況だったはず。私だって有無を言わさず攻撃して時間を稼ぐことを考えるはずだ。

「くっ、これじゃ――!!」
『Buddy! This distance is involved in a friend!』(相棒! この距離だと巻き込むぞ!)
「わかってるわよ!!」

 フォローに回ったはずが逆に攻撃の足を引っ張っているフェイトちゃんにアリサちゃんは攻撃を続けられるわけがない。友達を巻き添えにまでして攻撃するほどアリサちゃんは非情じゃない。

「まずい! すずかっ!!」
「わかってる!」
『Mover protection reopen』

 躊躇いは一瞬隙を生んでしまう。煙球を突き破って躍り出た雷が今度はアリサちゃんに逆襲する。
  
「きゃ!?」

 ユーノ君の指示がなければ間に合っていたかどうか。
 咄嗟に張り巡らしたプロテクションが紫苑に染まった雷を跳ね飛ばすの確認しながら安堵の息をつく。

「ああもーう!! なに突っ込んでくるのよ! 攻撃できないでしょうが!!」
「で、でもアリサ! あのままじゃ敵の反撃で――」
「やられてないでしょーが!! あんたが邪魔しなきゃ追い討ちだって出来たのにーーっ!!」

 ヒステリックな叫び声に当人でもないのに思わず肩を竦めてしまった。

「け、けどいきなり敵に飛び込むなんて無謀もいい所だよ!!」
「なっ!?」
  
 地団駄を踏むアリサちゃんに負けじと声を張り上げたのは他でもないフェイトちゃん。空気越しに孕んだ怒気が伝わってくる。

「あんたねぇ! 様子ばっかり見て相手に時間与えたらそれこそ無駄じゃないのよ!」
「まずは相手を見極めなきゃ!! アリサは戦い方分かってないよ!」
「なんですってぇ!!」
「ふ、二人とも落ちついて――」

 いきなりの展開に慌てて仲裁しようと声をかけても、

「「すずかは黙ってて!!」」

 鬼のような剣幕に体が勝手に萎縮してしまった。

「ひっ!?」

 いつかこれと似たようなことがあった気がするのは多分気のせいじゃない。
 目の前で繰り広げられるデジャヴじみた光景に肩のユーノ君が首を横に振っている。まるで「またかよ……」なんて言いたいのを必死に堪えているようだ。

(すずかちゃん! そっちはどう? 封印いける?)
(えっ、なのはちゃん!? でも今は……)
(じゃあ援護砲撃行くね!!)
(あっ、なのは、そのいきなりは心の準備が!)
(大丈夫! ユーノくんのガイドバッチリだから!!)

 目の前のことで精一杯な私の頭に今度はなのはちゃんの声が響き渡る。

「え、エイミィさん! なのはちゃんに今の状況って」
『なんだかこの渦に通信を妨害されてるみたいなのよ! 丁度なのはちゃんのいる所が穴になってて……』

 ――最悪だ。

 あろうことか考えてることがみんなチグハグに食い違っている。ジュエルシードを封印するっていうヤル気だけは一緒でも肝心なところが滅茶苦茶だった。

『How will I do? Mistress?』(いかが致しましょう? お嬢様?)
「ど、どうしよう……。ねぇ、ユーノ君――」

 完全に判断を見失って、ユーノ君に判断を仰ごうと思って声をかけようとした矢先、

 ドーーーーーーンッ!!

 なんて轟音と共に私たちの後ろから桜色の光が通り過ぎていった。

「ディバインバスターっ!?」
「なのは? まったくこんな時に!!」

 ユーノ君のガイドどおりになのはちゃんの主砲が雲の壁を蹴散らしながらL・ジュエルの檻に直撃する。派手に光を散らしながら、桜色が檻を飲み込む勢いで膨大な魔力を浴びせかけた。

「封印するなら一声かけなさいよっ! バーサーカー!!」
『Okay,I show a trump card!』(了解、取って置き見せてやる!)

 さらに空回りするやる気と魔法。

「話は後だ! バルディッシュ!」
『There is no help for it.Get set,thunder smasher』(仕方ない。サンダースマッシャー装填)

 それが盛大な勘違いであることに二人は全く気づかない。

「ふ、二人とも!! それ封印じゃあ――」 

 あくまでなのはちゃんからすれば援護射撃のつもり。それを二人は封印の合図だと勘違いしている。
 アリサちゃんはともかくいつも冷静なフェイトちゃんまで……。  

「周りが嵐なら魔力を変換する必要ない! 大出力……これで一気に!!」
「魔力を極限まで圧縮して……バーサーカーにくくりつけて!!」

 フェイトちゃんを中心に導かれるように、嵐の中から雷光がその手に収束されていく。
 アリサちゃんは巨大な魔力球を鉄槌の先端に纏わせ天高く舞い上がる。

「三人分! これなら……」

 崩れかけたコンビネーションでもこれだけの魔力を一緒にぶつけるなら力押しで行けるはずだ。
 なんとかなっていく状況に私はやれやれと胸を撫で下ろした。

「っ!? すずか前!!」
「えっ? あっ――!?」

 油断していた。
 まるで私の心を見透かしていたような一撃が檻の中、L・ジュエルから放たれたことに私は全く気づいていなかったのだ。
 本体からの魔力攻撃。極太の雷が紫苑に身を輝かせながら私に迫る――。

「し、シルフ!!」

 慌ててシールドを展開させようとしてはたと気づく。私の手元はすでに六つの魔法で塞がっていた。
 念のために待機状態で走らせていた遠隔プロテクション三つ。今も起動しているままの補助飛行。私自身の飛行魔法。

「くそっ、だったら!」

 肩を蹴ってユーノ君が私の前へ。即座に元の姿に戻ってシールドを展開しようとする。
 なんとか窮地に陥らない。ユーノ君なら防ぎきれる。

「すずか!! この!!」 
『Fire』

 着弾寸前――衝撃に身を硬くしようとした私たちの前に金色がいきなり現れる。
 真っ直ぐ降り注ぐ雷光はその身を挺して紫の雷光を散らした。
 
「ふ、フェイトぉ!?」

 爆音と振動が空気を揺さぶる中、私たちを庇う雷光越しにアリサちゃんが檻へ必殺を叩き込む姿が見えた。
 だけど決して望んだ結果になっていないことが顔に書いてあった。

「このっ! 薙ぎ払えーーっ!!」

 私たちの安全を確認すると同時に、光を放つ手を檻へ向けるフェイトちゃん。
 言葉通りに、手の動きに沿って金色の光線が雲の壁を削り取りながら檻へと牙を向ける。
 いつも以上の出力が成せる技なのか、減退も気にせず砲撃を無理矢理曲げるフェイトちゃんはアリサちゃんが゙乗り移ったみたいに荒々しい。

 三人分合わせないと封印できない相手だからこそフェイトちゃんは焦っているのか。
 段々と勢いが衰えていくなのはちゃんの砲撃に、同じくピークを過ぎようとしているアリサちゃんの打撃。必死に加わろうと辺り構わず駆け込んでいくフェイトちゃんの雷。

「いっけぇーーーーっ!!」

 遠目の私からでもフェイトちゃんの腕は激しくぶれている。放射中の砲撃の軌道を曲げるなんて最初から出来るわけがないのだ。
 案の定、奔流は檻の中心ではなく少し下を掠めてしまった。
 それだけならよかったのかもしれない。軸からずれた一撃に膨大な魔力の渦は突如としてその表面を走り抜ける。まるで光の鎧を纏うように檻が金色に染まった。

「まずい! 離れろアリサーー!!」

 ユーノ君が叫ぶ。
 いきなり顔を出した危機に私も全員にプロテクションを再発動させた。特にアリサちゃんだけは最も強固になるように私の分を削って。

 L・ジュエルが唸る。檻に帯電させた雷光が魔力に変換され蓄積されていく。
 光は紫に染まりL・ジュエルを包み込めば莫大な光の洪水が噴出した。

「――きゃあああ!!」

 私たちは乱暴に塗り潰されていった。
 台風の目から立ち上る光の渦。唯一の逃げ場は上と下だけで、中心にいる私たちは暴れまわる魔力嵐にただ翻弄されるしかなかった。

 魔力の放出は十秒も経たずして終わる。それが私たちにとって幸か不幸かなんて判断できる余裕はなかった。
 あまりの光に眩んでしまった目ではよく周りを見渡せない。なんとか状況の確認に勤めようと私は目を細めてみた。

「みん……な……」

 フェイトちゃんは少し離れた場所に浮いている。大丈夫そうなことに安心しながらアリサちゃんの行方を捜した。

「あり……さちゃん」

 L・ジュエルから弾き飛ばされたのか雲の壁ギリギリの所にアリサちゃんはいた。
 ユーノ君に抱え上げられてぐったりしている。首も腕も力なく垂れて宙へ放り出されていた。
 
「みんな早く逃げろ! 今なら上から行ける!!」

 遠く聞こえた声に首を上げればクロノさんが杖を振り下ろしながら私たちを呼んでいた。
 空色の光は真下のL・ジュエルへ降り注がれていて脱出する時間を稼いでいてくれた。

「逃げなきゃ……今は……」

 弱々しい軌跡で私はみんなと共に天を目指した。
 もう力なんて欠片も残っていない。ボロボロの満身創痍で、災いに満ちた目から大空へとなんとか飛び出せば眩暈に頭が揺らされる。

 ユーノ君が即座に転送魔法を発動させて淡い光が私たちを包んでいく。眼下に広がる風の渦は相変わらずの大きさのまま、消えることなくそこにあって……。
 余裕とは思っていなかったけど、まさかこんな事態になるなんて思わなかった。私たちの手元に残ったのは封印できたL・ジュエルじゃなくて現実に打ちのめされた敗北感だけ。
 アースラへの帰路は惨めな思いをお共にするという初めての経験だった。

 完璧だったコンビネーション――全然完璧じゃない。
 
* * *

「テスタロッサさん、一緒にお昼でもどう?」
「うん、そうだね。食べに行こうか」
「あれ? でも今日は委員長来ないんだフェイト」

 今日のフェイトちゃんとお昼権争奪戦の勝者はあの二人に決まったみたい。
 どんどんクラスに馴染んでいくフェイトちゃんを微笑ましく思いながら、わたしもいつものように二人を誘おうとお弁当箱を手に取る。

「……アリサは関係ないよ。早く行こう二人とも」
「まっ……別にいいけどね。てかあんた今度は呼び捨て?」
「いいじゃんいいじゃん! 早く行こうよぉ、あたしもうお腹ペコペコ~」
「はいはい」

 でもフェイトちゃんの言葉に少しだけ胸が苦しくなる。

「なのはのせいじゃないよ。あの時は仕方なかったと思う」
「ユーノくん……でも」
「僕が見ていた限りじゃ最初から雲行きは良くなかったから」

 顔に出ていたのかユーノくんが心配そうに声をかけて来てくれる。
 なんだかそこまで落ち込んでいるのかと思うとなんだか申し訳ない。

「バッチリだと思ったんだけどな……なんでだろ」
「チームワークってのは意外と難しい所があるからね。ポジションだけじゃなくて臨機応変に動かなきゃ行けないこともある。その逆だって」
「そういえばユーノくん昼休みはサッカーしてるんだっけ?」

 屋上からグラウンドを眺めれば大抵はユーノくんが男子に混じってサッカーをしている。走り回るよりもキーパーしている姿の方が実は多いんだけど。

「うん、意外と楽しいんだよね。リンディさんの言う通り魔法と関係ないことも大事だよ、ほんとに」
「じゃあ今日も頑張ってね」
「もちろん。じゃあ、また放課後」
「うん!」

 駆け出すユーノくんの背中を追いながらこれからどうしようかとわたしは空を見上げた。
 快晴の空はまさか誰も台風が近づいているなんて思っていないんだろう。ただでさえL・ジュエルのせいでみんな今が普通だと信じきっている。
 最初の作戦の後、あの台風は突然進行を止め海上に留まっている。台風が寄り道するなんて本当はあるはずないことでもみんな信じているから騒ぎなんて起こらない。

「なのはちゃん……お昼どうしようか?」
「すずかちゃん……どうしようか?」

 ここ二日、天気図を乗っ取っている台風。同じ場所にいつもいつも映っているのを見るたびにわたしの家族も揃ってため息ばかり。
 こっちが体勢を整えるのには好都合かもしれないけど、わたしたちの目の前にはもう一つの台風がぐるぐる渦を巻いているのだ。

「えと、アリサちゃん」 
「今日はアタシ一人で食べるわ」
「あ、うん」

 こっちの台風は目なんて安全地帯がないからすごく始末が悪い。
 ご機嫌斜めの台風アリサちゃんは教室全体を強風圏に、わたしたちの周りは暴風圏に巻き込んでいる。
 どんよりとか、そんなジメジメしたイメージばかりを押し売りしてくれる台風さんには早いところ退散してもらいたいのが本音。
 けど原因の一端を担っているわたしが言っちゃいけないのかな、なんて思ったりもしたり。

「ねぇ、わたしがアリサちゃんと喧嘩したときもこんな感じ?」
「そうだね。これくらい酷くはないと思うけど」
「……あはは」
「みんなほんとにしょうがないんだから」

 珍しく口を尖らせてすずかちゃんにわたしはちょっぴり気まずい気分です。
 わたしの時でもみんなをこんな嫌な気分にさせていた。自分じゃ気づかないことでも他人のおかげで思い知らされるってのはよくある話で。
 
(一体どうすればいいんだろう……?)

 言葉で伝わらない想いはどうすれば相手の心に届くんだろう? やっぱり気持ちぶつかり合って、想いを全部吐き出すのが一番なのかな……?
 急に振り出したにわか雨みたいに、わたしたちに降り始めたこの雨はきっとこれからの嵐の前触れ。雨宿りしながら、さっさと過ぎ去るのを待つしかないのがわたしたちに出来ること。

「屋上……行こうか」
「そうだね、なのはちゃん」

 もう二人とも……ケンカは駄目だよ。

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