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2007.10/28(Sun)

守り手 25話 


【More・・・】


 初めにエイミィさんには感謝しないといけない。
 この場所を見つけるために無断でアースラのネットワークを使用したのだ。もしも誰かに知られればいい顔はされないだろう。
 けどこの世界のことを知らない僕の力だけで今夜という限られた時間の中で準備を整えることは出来なかった。 

「滑稽かな……やっぱり」

 静寂と闇に支配された空間は言い表せない寂しさと虚しさを感じさせる。
 祝福すべきものがいないからこの場所も役目を今は放棄しているからか……。

「でも今夜だけは頼む……僕となのはのために」

 月明かりにぼうっと透けているステンドグラスに深く頭を下げた。
 ただのごっこ遊びかもしれない。下手すればおままごとみたいなものだ。忍び込んで、悪戯半分にその儀式の意味もよく知らないでするような――そんな感じ。
 でも僕らは本気だ。例え形だけの、ごっこ遊びの延長でも僕はなのはと成し遂げなきゃいけない使命がある。

(なのは……いいよ)

 念話で外にいるであろうなのはに呼びかける。これが僕らにとっての始まりの合図だ。

 僕は祭壇に続く道の中程で佇んでいる。
 最初に与えられた務めは彼女を待ち続けることそれだけ。背筋を伸ばし笑われないように、少しだけ格好良く気取って僕はなのはを待つ。

 扉の軋む音が講堂に響く。静寂を破り、扉の隙間から新たな月光が差し込んでくる。
 振り向けばなのはがいる。厳かにその場に立ちその視線は僕だけに注がれている。新婦の入場に僕もいよいよを感じさらに背筋を真っ直ぐにした。

『Let's go.He has been waiting』(行きましょう、新郎がお待ちかねです)
「うん……」
『And this is a small present from me.』(それとこれは私からのささやかな贈り物です)

 月光とは違う、柔らかな魔法の光がなのはを頭の上から優しく包み込んでいく。
 光の粒は一つに集まり形を成す。

「これ……」

 ぼうっとした桜色を残しながらいつの間にかなのはの頭には光のヴェールがかぶせられていた。風もないのにヴェールはふわふわと揺らめいて、まるで喜んでいるかのように僕の目には映った。
 ウェディングドレスなんて用意できなかった僕だけどレイジングハートの粋な計らいが今夜という日を最高の思い出をくれることを予感させた。
 一歩、踏み出すなのは。左足を踏み出せば右足がそれを追い寄り添う。僅かな歩みだけど確実に僕との距離は縮まっていく。

 本来ならなのはの隣には父親である士郎さんが寄り添っているのだろうけど今日ここにいるのは僕となのはとレイジングハートだけ。
 もしも士郎さんがいたら僕はここでなのはの全てを託されるのだ。あの士郎さんから――ということを考えるとなんだか微妙な気分だ。

「ユーノくん……わたし嬉しい……ユーノくんと一番の思い出が出来るよ」
「僕もだよ。形だけかもしれないけど……さっ、始めよう」

 そっとなのはに寄り添う僕に自然と腕を絡めるなのは。僕も決して離さぬようにちょっとだけ力を込めてなのはと腕を組んだ。
 今度は一緒に、同じテンポで足を前に――。


 ――さぁ、結婚式の始まりだ。


 僕らは踏み出し続ける。
 右足、続けて左足。揃えて、また右足を前へとその一歩一歩を僕はなのはとの思い出と共に歩んでいく。
 ジュエルシードのこと、フェイトのこと、ヒュードラのこと。全ては僕となのはが出会えたから始まった物語だ。
 助け助けられ、守り守られて。いろんなことがあったけど一緒にいられる時間はもう僅か。

「ねぇ、ユーノくんはわたしがお嫁さんでいいの?」
「お嫁さんにしたいからこうやって歩いているんだ。あまり豪華な結婚式じゃないけどね」
「ううん、十分」

 他愛ない会話をしながらやがて僕らはバージンロードを歩き終える。
 目の前の祭壇にも本当は神父様がいるはずだけど今はその後ろにある十字架のレリーフだけが鈍く光っていた。

『I will presumptuously undertake the father.』(僭越ながら私が神父を引き受けましょう)

 実のところこの後は誓いのキスだけしか考えていなかった僕にとってレイジングハートの申し出は天佑にも等しいものだった。
 うん、やっぱり結婚式を挙げるなら承認は必要だし、これがないと始められない。

「じゃあ頼むよ」
「ありがとう、レイジングハート」

『It is a natural obligation to my master』(当然の務めです)

 僕らは神父の代わりに十字架を見上げる。他でもない二人の誓いを立てるために。

『Euno, do you take Nanoha to be your wedded wife, to live together in marriage』(汝ユーノはなのはと結婚し夫婦となろうとしています)

 紡がれる言葉は、

『Do you promise to love her, comfort her, honor and keep her』

 僕となのはの永久の契りの言葉――。

『For better or worse, for richer or poorer, in sickness and health,and forsaking all others, be faithful only to her』

 肩羽同士が寄り添って、大空羽ばたく翼になって、

『So long as you both shall live? 』

 未来永劫、飛び続けられる煌きとなる。

「誓います」

 僕が最初に誓いを立てる。
 続けてなのはの番――。

 汝なのはは、ユーノと結婚し夫婦となろうとしています。
 
 あなたは健やかなる時も病める時も、

 富める時も貧しき時も、

 良き時も悪き時も、
 
 その命続く限り彼を敬い慈しみ堅く節操を守り、


 彼を愛することを誓いますか?


「誓います」

 僕となのはの神様への誓いだ。
 次に必要なのは僕たちからの宣誓。言葉なんて覚えてないけどレイジングハートがこっそり僕らの頭の中にその言葉を置いていってくれる。
 緊張高まる中で唾を飲み込み、軽く息を吸いつつ噛まないように注意を払って――。

「新郎となる僕は新婦となるあなたを妻とし、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓います」

 一息でちょっと早口になって僕はなんとか言い終える。

「新婦となるわたしは、新郎となるあなたを夫とし、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓います」

 僕を追ってなのはがゆっくりと落ち着きながら言い終えた。
 
 その刹那、僕らの周りから光が弾けた――。

「わぁ……!」

 なのはが歓声を上げれば十字架の脇にも桜色の光が蝋燭の炎のように灯って、闇の中から十字架を煌かせる。
 教会の中を星の群れのように飾る小さな煌き。レイジングハートの想いが伝わるような光の温もりに包まれて、

「あっ……」

 見れば僕らの指――左手の薬指に光の輪が嵌められていた。
 
『Please think that it is a ring』(指輪だと思ってください)

 どう見てもそれはバインドなんだけど指輪だってなかった僕らだ。贅沢な望みがどんな形であれ叶えられるなら文句は言わない。
 僕らのために最後まで頑張ってくれるレイジングハートには感謝しか気持ちがない。

「光の指輪なんて素敵だよレイジングハート」
「うん、どんな宝石よりも立派だ」

『Thanks.Well――』

 褒められるのもそこそこに、レイジングハートは最後の仕上げに取り掛かる。
 勿論、式を締めくくる最後の儀式のためだ。

『You may kiss the bride』

 それは誓いのキス。

 待ちわびたわけではないけど、ついに訪れた瞬間に僕の鼓動は少しずつ速くなっていく。
 息を呑んで手の中は汗で湿り気が増す。震えはしないけど緊張でまたどうにかなりそうだった。

「じゃあなのは……」
「うん、ユーノくん」

 寄り添うばかりだった僕らはそっと向き合う。
 壊さぬように魔法のヴェールをそっと上げれば頬を染めたなのはが現れる。切なげに揺れる瞳はこれからのことに緊張しているのか期待しているのか……。
 なのはのことはわかっていても心の中まではよくわからない。キスはこれで二度目で気恥ずかしさの度合いだけなら今のほうが何十倍も強い。

 二人の間に言葉は要らない――そんな小説みたいな表現っていざって時は全然当てはまらない気がした。
 でもこの雰囲気はそんなの簡単に覆す魔力を持っていた。
 なのはが瞼をゆっくり落としていけば僕の迷いだって綺麗サッパリどこかへ消えてしまったから。

 肩に手を置き、僕は顔を近づけていく。
 いつか僕らが大人になって本当の意味で恋人か夫婦になれたならこんなキスは自然と出来てしまうのだろうか。
 なんだか自然に出来るってのも変な表現だなって思って、そう思ってる時にはもう僕の瞼もとっく落ちていて――。
 
 ――唇になのはを感じた。
 
 飛びっきりのドキドキと大好きだっていう気持ちを伝え切るまで僕はなのはとキスを続ける。
 なんだかなのはも同じ気持ちだと思えた。きっとキスから気持ちが、想いが通い合っているから。
 全身が熱くなって、心はどうしようもない愛しさに満たされる。

「ん……」

 流石に苦しくなって僕は唇を離した。
 目開ければさっきよりも幾分か赤くなったなのは。初めてよりも二度目のほうが緊張する――そんなことでも言いたげだ。
 
「これで終わりだね……」
「うん、これでなのはは僕のお嫁さん」
「ユーノくんはわたしの旦那様……だね」

 なんだかその響きはむず痒い。自分で言ってなんだけど急に可笑しくなって笑い出す。
 式が終わりを告げれば僕らは強く手を繋いで駆け出した。もう礼儀とか雰囲気なんて関係ない。なんだか込み上げる感情を全身で感じたかった。

 バージンロードを蹴って、ドアをくぐって――

「えっ!?」

 夜に飛び出した僕たちを迎えてくれたのはまた予期しない光の乱舞だった。
 
 雨のように、雪のように金色の星屑が僕らに降り注いでいる。まるで星空から星たちが祝福にやって来てくれたように光の精が全てを金に染め上げていた。
 顕現した幻想に僕もなのはも足を止め見惚れてしまう。するとそれに満足したかのように木陰から誰かがゆっくりと姿を現した。

「おめでとう二人とも」
「フェイトちゃん!!」

 そこにいたのはフェイトだった。
 光の囲まれながら切り出すフェイトはなんだか気恥ずかしそうにバルディッシュを握り締めていた。 
 
「前になのはたちが花火を見せてくれたから私も何か出来ないかなって思って」
「これフェイトちゃんの魔法なの?」
「えっとフォトンランサーファランクスシフト平和的応用編……かな?」
「まるでライスシャワーだね」
「エイミィが結婚式でやるならこれだって言ってくれたんだ」

 なんだかエイミィさんは用意が行き届きすぎてるな……。したたかというかこんなことまでしてくれるなんていくら頭を下げても足りないよ。
 でも、親友からの祝福はなのはにとって嬉しくないはずがない。最高のプレゼントだ。

「それで二人はこれからどうするの?」
「そうだな……もう夜も遅いから帰らなきゃ」
「あっ……じゃあユーノくん最後になのはのお願い聞いてくれる?」
「いいけど……なんだい?」
「二人で……飛びたいの!」

 どんなお願いかと思った。
 でもなのはの願いはすごく簡単なもので、

「ユーノくんから飛ぶこと教えてもらって……それでずっと考えてたの! 二人で一緒に飛んでみたいって! だから――」

 もしかしたらなのはが一番したかった願いだったのかもしれない。

「うん、じゃあ飛ぼうか。今のなのはに追いつけるかわからないけど」
「大丈夫! ちゃんと手を繋ぐから! いつまでもずっと一緒にいられるように!」

 痛いくらいになのはが僕の手を握った。子供みたいにはしゃぎながらなのははソプラノを弾ませる。
 そういえばなのはと一緒に飛んだことなんて……全然なかった。フェレットなんて数に入るわけないんだから。

「あはは……なんだか今夜はお邪魔虫かな?」
「う、うん……そうかも」
「気にしないでなのは、今夜の主役は二人なんだから。だから私が出来ることは――」

 天目指して掲げられるはバルディッシュ。すでにその体からは二対の羽がはためき金色を散らしている。

「いくよ……バルディッシュ!」

『I wish two person well』(二人に幸あれ)

 凛とした号令に僕らを包んでいた精たちが舞い上げられるように天を目指す。
 光はフェイトの上に集まり今度は真っ直ぐ天へと伸びていく。
 
「こうやって二人を祝福することだけだよ」

 それは道だった。
 遥か天を目指して伸びたフェイトの想いが形となった天への軌跡だ。

「ありがとフェイト」
「フェイトちゃん……ありがとう!」

 目を輝かしながら夜空を飾る道を見つめているなのははもう飛び立つことしか頭にないみたいだ。体がうずうずして溜まらないのだろう。
 フェイトには悪いけど僕らの出発の時間が来たみたいだ。

「行こうなのは……飛ぼう!」
「うん! ユーノくん!」

 繋いだ手は絶対に離れない。
 同時に蹴った足は風に乗り、僕らはフェイトの光に導かれながら大空へと羽ばたいた。

 言葉なんて要らない。

 手を通して伝わる想いで僕となのはには十分だ。

 星に届かんばかりに僕らは羽ばたき続けた。


 この時間が思い出になっていつまで経っても色あせてしまわないように――。

 
* * *

「ねぇ……起きてる?」
「……うん」

 目を開けるとなのはが僕を見詰めていた。本当にすごく近い距離だ。
 幼い結婚式を終えた僕たちは同じベッドで抱き合って眠っている。正確にはどちらも起きてるから寝てるわけじゃないけど。
 でも、こうやって全身でお互いを感じあうのも悪くない。ただ流れる時に身を委ねながら朝が来るのを待つのはこれはこれで心地いい。

「眠れないの?」
「よく、わからない」

 どこか遠くを見るような視線でなのははそれだけ言った。

「ユーノくんは?」
「僕は……どうしてだろう」

 多分、答えなんてないのだろう。
 ただ眠れないだけ。

「そっか……。ねぇ、ユーノくん、明日からはリンディさんたちと」
「うん、最初の任務はロストロギアの捜索だから早く見つかればすぐに終わるだろうって言ったけど」
 
 もちろんそれで帰ってこれるわけでない。リンディさん下で学ぶことと、それは別なのだから。

「わたしはもう大丈夫だから」

 目を細め、自分を納得させるように頷くなのは。桜色のパジャマに身を包み、髪を下ろした顔は見慣れていないせいかいつもと全然雰囲気が違う。可愛いよりも綺麗でずっと先の成長したなのはを見ているように思えた。
 なのはは腕枕に頭を預けながら腕を切なげに動かしている。応えるように僕はなのはの頭を優しく撫でた。
 と、なのはが上目遣いに僕を見上げた。

「でも約束しようよ」
「約束?」
「わたしの最後のわがまま」

 視線を外し逡巡する。照れ隠しなのか、言いにくいことなのかなのはは少し間そうしていた。

「でもね、それじゃずるいからユーノくんもわたしに約束していいよ」
「そう言われても……」
「なんでもいいの。朝ごはんはちゃんと食べるとか、そんな小さなことでいいの」
「いいの? そんなので」
「うん」

 きっとその約束はなのはなりの決別の仕方。

「辛くなったら……約束を思い出して。そうすればいつでも側にいるような気がするから」

 僕の胸に頭を預けながらなのはは溢した。

「なんでもいいの?」
「無理難題は駄目」
「そう言われると結構限られるな……」

 考え込む振りをするけど、どんな約束にするかはもう僕の中で形になっている。

「……多分決まった。僕の約束して欲しい事はね」
「じゃあまた、いちにのさんで」
「うん」

 呟くように、囁くように、なのはがカウントを始める。

「いち」

 僕はなのはの髪を撫でながら静かに耳を傾ける。

「にの」

 会えない時間を支えるための片羽。

「さん」


 そうして僕らの最後の朝が来る――。



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