04月≪ 2017年05月 ≫06月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031
--.--/--(--)

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【編集】 |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑
2007.07/04(Wed)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第四話 Cpart 


【More・・・】


 ブルル――と、エンジンを響かせスクールバスがやって来る。

「…………」

 目の前でドアが開くまでわたしはずっと俯いていて。

 どんな顔をすればいいんだろう……。

 どんなことを言えばいいんだろう……。

 そんなことばかり考えていて、二人に会うのがすごく怖くて、苦しくて。
 一段一段、階段を登る足。止められなくて、最後を上ったらわたしにはもう考えてる時間はなくて。

「…………」

 バスの一番後ろ、わたしたち仲良し三人組の特等席。

(仲良し……じゃないよね)

 びっくりした、なんて言ってるレベルじゃないんだ。襲われて、痛い思いをして、きっとわたし嫌われてる。
 追ってきた二人が悪いなんて責任転嫁は都合のいい言い訳。守れなかったわたしが全部悪い。魔法さえまともに使えればあんなのすぐ倒せたんだ。

(なんであんなことになっちゃったんだろう……)

 塞ぎこんでるわけにもいかなかった土曜日と日曜日。家族のみんなに悟られたくなかった。
 結局二人にごめんなさいのメールすら送れず、わたしは部屋の中でずっとぼうっとしていただけ。

 顔が上げられない。もしかしたらその場所には二人はいないとか、そんな不安ばかり心に押し寄せて。
 だけど立ち止まれない。バスはもう走り始めるんだから、時間なんてない。

(なんだか今のわたしみたいだね)

 休むことも、悩むことも、全部心に押し込んで、ジュエルシードの封印に追われる毎日。
 わたしにしかできない、わたししかいない――心を縛り付けて頑張ってきたのに。
 でも今更投げ出せない……。投げ出しちゃいけないんだ。

(嫌……じゃない!)

 終わりがやって来た。足はもう動かせない。
 だってもう一番後ろなんだから。

 顔、上げなきゃ――。

「グッモーニン! なのは」
「なのはちゃん、おはよう」

 それはすごく唐突に、だけどふわりと、心を優しく包み込むような響き。

「ぇ……」
「こら! 月曜日だってのに元気ないぞ!」

 いきなり腕を引っ張られて、座らされたのはほんとにいつもの、いつものわたしの特等席。

「今日の体育ドッチボールなんだからぼけっとしてるとすずかにやられるわよ」 

 右にはアリサちゃんが、

「もう、逃げてれば当たらないから大丈夫だよ」

 左にはすずかちゃんが、

「逃げられないから言ってるのよ」

 いつも通り、すごく楽しそうな顔で笑っていた。
 それは夢じゃなくて、幻じゃなくて、今まで通りがわたしの隣にいて、自分でもどうしていいのかわからなくなって。
 そんな時そっとアリサちゃんが囁きかけた。

「……ごめんね、なのは」
「え?」

 ごめんの言葉に振り向くとアリサちゃんは少し悲しそうな顔をしていた。

「なのはがさ、あんなに頑張ってたの知らなくて」
「アリサちゃん……」
「いくら知らないからってあんな勝手なことして……足、引っ張ったちゃったよね」

 寂しそうに微笑んで、そっと眼差しを落とす。
 バスが揺れるたびアリサちゃんのお下げも寂しそうに揺れていた。

「エイミィさんやユーノ君からいろいろ聞いたんだ。なのはちゃんが今までどんなことして、それで今どうしているのか。それでどれだけ大変なのか」
「ほんとにアタシたち、今も昔も見守ることしか出来ないって思い知ったわ。確かに魔法使いなんて話せないものね」

 やり切れない思いを吐き出すようにアリサちゃんはちょっと苦笑いをして見せた。
 きっと初めてわたしが魔法使いになってからの今まであったこと全部知っているんだろう。

「フェイトちゃんのことも……?」
「うん、知ってるよ。フェイトちゃんが魔法使いでそれで……」
「でもアタシたちそんな話聞いたからってフェイトの友達止めるつもりないから」

 ぱぁ、と笑顔を咲かせて二人がわたしの手を握る。すごく温かくて、その温かさは多分二人の気持ちの温度で。

「フェイトちゃんもなのはちゃんも大事な友達だもん。こんなことで嫌いになんてならない」
「そゆこと! だからそんな顔しないで笑うの。なのはが笑ってないと……アタシまで調子でないんだからね」

 拗ねたような、怒ったようにアリサちゃんはそっぽを向いてしまった。ほっぺが少し桜色で、照れているのがわたしでもわかった。
 なんだかそれが妙に可笑しくてわたしは口元が徐々に上がっていくのが堪えられない。

 思わず、

「ふふっ……」
「あーっ! 笑ったでしょ! なのは~!」
「でも笑った方がいいって言ったのはアリサちゃんだよ」
「そ、それはそうだけど……」
「あは、あはは……」

 なんだろう……すごく心があったかい。
 パンパンだった風船から空気が抜けていくように体が軽くなっていく。またこの町のために頑張ろうって決めた時から忘れていた気持ちが戻ってくるような感じ。
 暗闇に差し込む一筋の光に照らされた小さくて、だけどとても大切な気持ち。

 ――優しい気持ち。

「もう笑うなー!」
「だってだってぇ」
「ふふ、ほんとにアリサちゃんったら」
「すずかまで笑わないでよ、もう!」

 心の底からこみ上げる可笑しさに自分が悩んでいたのが馬鹿みたいに思えた。
 だってわたしにはこんなに大切な友達がそばにいるんだから。大好きな友達がそばにいるんだから。
 そうしてひとしきり笑った後、わたしも気持ちを返す。

「……アリサちゃん、すずかちゃん。今まで何も話さなくてごめんね」
「なのは……」
「なのはちゃん……」
「わたし二人のこと心配させたくなくて黙って、隠して……けど本当はそうする方が二人心配かけさせてて」

 そうなんだ。わたし自分のことだからって自分の中に押し込めてた。でもそうやって一人で悩んで、不安になるのはダメなんだ。
 わたしのそばにいる人たちはそんなわたしを見て心配してくれる。気持ちを分け合えないから余計に。
 みんなに迷惑かけていたのはわたし。アリサちゃんやすずかちゃん、お母さんにお父さん、お兄ちゃんにお姉ちゃん、それにユーノくんにも。
 自分勝手で目の前のことに一生懸命になりすぎて見守ってくれる眼差しを忘れてた。だからアリサちゃんを怒らせたんだ。
 本当こと話せばよかったのかもしれない。

 でも話せなかったのはきっと、

「怖かったのかな……。魔法使いなんて話してもみんなわかってくれない、もしかしたら離れていくかもしれない」

 心の中から飛び出してきた素直な気持ち。不思議すぎて、わかってくれないって決め付けて、わたし一人で走って。

「そりゃ最初は信じないと思うわ。でもあの時だってアタシ信じる。……オカルト好きってわけじゃないけど親友の言うことだもん」
「私もだよ」
「それにね、今となっては信じないほうが馬鹿げてるわよ。なんてたって魔法で空飛んだんだしね」
「あれは飛んだというより吹き飛んだんじゃないかな」
「そうとも言うわ」

 わたしが気にしていたことさえ二人は笑い飛ばしてしまう。

「だから今度は遠慮なく弱音吐いて、甘えて、アタシたちのこと少しは頼りなさい。わかった?」
「……うん」 

 目頭が熱い。溢れ出てきそうな気持ちを笑って誤魔化して。だけどやっぱり抑えられなくて。
 泣き笑いで二人の気持ちにわたしは心の中で静かに囁く。
 
 受け止めてくれる友達へ。

 いつもそばにいてくれた大切な友達へ。

「あははっ」
「……ふふ」
「もーうっ! 笑いすぎよあんたたち! こうなったらアタシも笑ってやるんだから!」
 
 一緒に笑ってくれる友達へ。

 ――ありがとう。

* * *

 今日はすごく楽しい一日だった。
 別に何か特別なことは起きたわけじゃなく、しいて言うなら普通の一日。
 だけどその普通が今の私たちには楽しい出来事で。やっぱり仲良し三人組じゃないといけないなって思えたかけがえのない時間。

「まったくすずかったら容赦しなさすぎ」
「わたし一番最初に外野だよ」
「だから避ければ大丈夫なのに」

 ちゃんと見れば避けられるボールだと思うけど、二人にとっては相当堪えてるみたい。
 そんなに強く投げようと意識はしてないんだけど。

「あんたのボールはいつも変な所ばっかり狙ってくるんだから」
「男子の方が速くて真っ直ぐだからわかりやすいしね」
「そうなんだ」

 相手の投げたボールをすぐに投げ返すとか、足とか取りにくい場所に投げたりするのは自分的にはごく普通のことなんだけどな。
 運動は得意だけど男子の力には敵わないから、私はそれ以外で頑張ろうって考えてたどり着いた場所がそこなわけで。

「いざとなったら最初から外野とか」
「それは遠慮しておくわ」
「わたしも……」

 疲れた顔で一緒に頷きあう二人に私は少し微妙な気持ち。

「でもなのはもボールみたいな魔法使ってたわよね」
「ディバインシューターのこと?」
「ほんとゲームの技みたいな名前ね」

 アリサちゃんの言う通り、魔法って言えば炎とか水とかを出して攻撃するみたいな感じ。

「あとレーザーみたいな光線も」
「わたしどちらかというと砲撃が得意だから」
「もはや魔法というよりシューティングゲームじゃない」

 少しがっかりしたようにアリサちゃんは肩を竦めお手上げのポーズ。やっぱり魔法といえばそんな感じなのだ。

「でもフェイトちゃんは雷とか出すんだよ。ユーノくんは結界と補助が得意で」
「つまり人それぞれってこと?」
「そうだね」

 人それぞれに得意、不得意。使う魔法様々でなんだかRPGみたいでおもしろい。

「そういえばさ、ユーノってフェレットのほうにも同じ名前で紛らわしくない?」
「えっ? 同じ名前……?」
「一瞬あのフェレットがユーノなんじゃないかって思ってたけど、違うってユーノは言ってるし」
「ふぇ……? ユーノくんが二人?」

 なんだかなのはちゃんの様子が変だ。首をかしげて眉を寄せて、まるでアリサちゃんの言うことが違うみたいな顔してる。

「まぁ、フェレットだったら人の着替え覗いてたのよ。人畜無害に見せかけて最低じゃない」
「そ、そうだね……」
「もし自分はフェレットになれますなんて言ったら去勢してるわね、絶対」
「…………」

 気のせいか一瞬なのはちゃんがすごい遠くを見るような目をしていた。気まずそうにきょろきょろしてアリサちゃんと目を合わせないようにしている。

 もしかして……。

「ねぇ、なのはちゃん。やっぱりユーノ君って」
「ちちち、違うよ。あのフェレットはねユーノくんの使い魔なの。なんていうか通信機みたいなものなの!」
「……なんか隠してない?」
「ぜ、ぜぜん!」

 なのはちゃん舌噛んでる。
 そうなんだね、ユーノ君ってあのユーノ君なんだ。

「怪しい……」
「怪しくないよ」

 なのはちゃんに迫るアリサちゃん。訝しげな目つきになのはちゃんもたじたじだ。
 ……ユーノ君去勢されちゃうのかな。
 なんて思って二人のやり取りを見つめている矢先、何か得体の知れない寒気が私の背中を走り抜けた。

「ぁう……」
「どうしたのすずか?」
「なんでもないよ。急に寒気が――」

『なのはちゃん! たった今強力な魔力反応が確認されたよ! 多分この大きさL・ジュエル!!』

 緊迫した声と共に、空中に半透明のモニターみたいなものが現れる。中にいるのはエイミィさんで、焦燥に駆られた顔が緊急事態であることを教えてくれた。

「エイミィさん! 場所は!?」
『ここから一キロ、裏山のほう。ユーノくんは先に行ってる!』
「すぐに行きます!」

 凛とした声を響かせてなのはちゃんの顔つきが変わった。まるで演劇をするように、魔法使いのなのはちゃんが舞台に上がった。

「なのは!」
「大丈夫! すぐに帰ってくるから!」 
「頑張ってね、なのはちゃん」
「うん!」

 弾ける桜色から純白の服を纏った魔法使いが生まれる。左手には紅玉が光る杖を持ち、足からは羽を広げた。
 膝を曲げ、なのはちゃんが空へと舞い上がる。すぐにその姿は小さく、夕焼けの空へと消えた。

「…………すずか」
「なに? アリサちゃん」
「このままなのはのこと見送る?」

 茜色に染まるアリサちゃん。私に向けられた言葉はどこか誘いかけるように、決意を確かめるように。
 私は当たり前のように首を振る。

「応援くらいは……出来る!」
「行くわよすずか!」
「うん!」

 私たちにだって出来ることはある。今なら作ることが出来る。
 なのはちゃんを見守るくらいなら力のない私たちにだって出来る。

 決意を胸に、私たちは風の中を駆け抜けた。

* * *

「発動体の魔力量なおも上昇中! ……こんなのって!?」

 スクリーンに映し出された銀色の獣が雄たけびを上げる。たったそれだけでも暴走する魔力流は暴風と化し、砂塵を舞い上げ、木々を薙ぎ倒していく。
 これででまだ上昇するなどありえない。

「ただでさえ攻撃を受け付けないのに……これ以上硬くしてしてどうするつもりよ」

 映像が別角度に切り替わり獣の頭を映し出す。
 装甲に包まれた顔に目と呼べるものは見当たらない。変わりにL・ジュエルが一つ目のごとく不気味な輝きを見せているだけ。

「ジュエルシードを単純な増幅回路にしてる……反則じゃない、こんなの!」

 納得いかない、そう言いたげにエイミィはコンソールに拳を叩きつけた。
 頭から背中までを覆いつくす白銀。浅黒い体毛に覆われていた面影など払拭するようにそれは張り付き、さながら甲冑のごとく。
 元の名残を残す外へと向けられた前足それぞれに明滅する光。L・ジュエルが産み落とした新たなジュエルシード。

「確かに土の竜と言われるだけの由縁はあるのかもね」

 大地を割るために形作られた爪は見るからに頑強さを醸し、やはりジュエルシードのせいか銀に染まっていた。
 ただでさえ規格外の存在だというのに複製したジュエルシードを強化に扱うなど過剰防衛にもほどがある。L・ジュエルは何を考えているのか。

「依り代の意思なら厄介なものね」

 向こうは純粋に防衛本能を出しているに過ぎないのかもしれない。誰しも生命の危機に触れればそうもなろう。

『ディバインバスターーー!!』

 煌く激流に飲み込まれても、その身から発せられる輝きは曇ることはない。まさに城塞、鉄壁だ。
 病み上がりでも彼女の魔力は衰えてはいない。むしろいつも以上と言っても差し支えないはず。
 何かが彼女を変えていた。つかえが取れたように今の彼女は強い。

(この子達のおかげ……なのね)

 ちらと見た傍らに二人の少女。スクリーンを凝視し、彼女の戦いを固唾を呑んで見守っている。
 私の目にはまるで自分たちも一緒になって戦っているようにその姿は映った。

『ユーノくん! バインド……お願い!』
『ああ、まかせて!』

 地面スレスレを疾駆しながら円を描くようにユーノ君がバインドを撃つ。相手はその急襲に反応しきれない。
 放たれ、四肢を縛り、鎖が軋み自由を奪い取る。だが相手もさることながら腕の一振りで容易く絡みつく鎖を寸断していく。
 その一瞬の隙をなのはさんは見逃さない。すかさず懐へ、すでに砲撃の準備は完成していた。

『もう一度! ディバインバスター!!』

 爆音がまだ鎧に覆われていない腹へ叩きこまれる。
 おそらくは痛覚に、相手は咆哮する。それでも封印するまでは足りないか。

「発動体、腹部に魔力が集中しています!」

 唯一の弱点であろうそこが鎧に覆いつくされる。もう攻撃は通らない。

『くっ! なのは下がって!』

 払いのけようと振り下ろされる巨腕に真っ向から立ち向かう障壁。

『なっ!? がぁ!!』
『ユーノくん!!』

 そんな障害さえ歯が立たない。
 押し切られ、大地へ叩きつけられ砂煙が舞い上がる。

『この! シューーート!!』

 後退しながら誘導弾を立て続けに七発、暴徒目掛け発射。
 全弾頭部へ命中するも、

『うそ……なんで!?』

 無駄か。
 それでも相手の爪は届かない。すでに彼女は安全圏だ。

 ――だというのに、

「艦長! 目標周囲に魔力流発生!」
「なんですって!」

 一瞬、目を放した隙に白光を放つ球体。その数四つ。
 それがスフィアだと気づく前に莫大な魔力がなのはさんへと襲い掛かる。

「なのは!」

 もはや暴力の嵐。激突する破壊者はプロテクションを砕き、守られし彼女を眼下の森へと叩き落した。

「なのはちゃん!!」

 ――あんまりだ。
 
 先発した武装局員は全員退却を余儀なくされ、頼みの綱もこの有様。
 彼女なら、と心のどこかで抱いていた希望がこれほど脆く崩れるなど考えもしなかった。いや今までが幸運に彩られていただけなのかもしれない。
 彼女は職員ではない。あくまで民間居力者なのだ。

(……純粋な戦力ってわけじゃない)

 そうこうしているこの瞬間も彼女は押され、苦境へと追い込まれていく。

「リンディさん! なんで助けないんですか!! このままじゃなのはが!!」

 縋ってくるアリサさんから無言で視線を逸らして、自分の無力さを呪う。

「逃げちゃいけないんですか! このままじゃなのはちゃんもユーノ君も!」

 今にも泣きそうな顔が訴えかけてくる。それでも何も出来ない。
 私が出て行けばいい――結界だけに秀ですぎた魔導師に何ができる? 次元震ではないのだ抑えつけるのにも限界がある。しかもアースラの動力がやられていては魔力の補給も出来ない。
 
 だからといって見逃せば町は無事に済まない。破壊と混乱に包まれるのは目に見えている。
 なによりなのはさんがそれを嫌う。町が壊れるなら自分が傷つくほうを選んでしまうはず。

「こんなことって……ないじゃない。せっかくなのはと分け合えるようになったのに!」
「何かないんですか? 私たち何もできないんですか? なのはちゃんが使えるなら私たちにだって!!」

『きゃあああ!!』

 重なり合う悲鳴がブリッジに木霊する。あまりに非情な事実はこの場にいる人間を絶望へと引きずりこんでいく。

「あなたたちに……魔法の資質がないことは確認済みよ」
「嘘……それじゃ」
「私が出るわ。トランスポート、開いて」
「で、ですが艦長では……それにもしものことがあったら」

 鶴の意外すぎる一声は管制官を驚愕させるには十分らしい。確かにもしものことがあれば大変なことだろう。
 他人事のように考えながら私は歩き出す。結界に閉じ込め封時結界で隠蔽するのは骨が折れそうだ。

「なによ……資質がないからって決め付けるなんてあんまりよ」
「友達が傷つくの見ているだけなんて嫌……」

 背中に突き刺さる砕けた願い。かける言葉一つとして思い浮かばない頭を恨めしく思った。

「ないなら出てきなさいよ……。友達助けられなくて何が……何が親友よ!!」

 何一つ出来ないその姿は最愛の人を失ったあの時の私に似ているのだろう。

「お願い……なのはちゃんを助けさせて」

 成就などしないと彼女たちだって分かるだろう。
 そんな考えを勧める辺り私は随分と冷めた人間になってしまったものだ。

「答えなさいよ……アタシ!!」
「お願い!」
 
 故に、そう考えることにした。

 偶然ではなく必然。闘士と風は彼女たちのためにあったのだろうと。

* * *

 ――Yeah.

 最初は頭がいかれたかと思った。
 やけに調子のいい声が、周りの騒がしさなんてお構いなしに頭の中へクリアに響いたんだから。


 ――Yes.

 最初はそばにいた誰かの声かと思った。
 すごく澄んで凛とした声が、囁くように、テレパシーみたいに心の中に響き渡った。


(誰よ……こんな時に)
(Don't call?)(お呼びでないと?)

 人の気持ちを逆なでするようなおちゃらけた返事。デリカシーのない男だ。


(誰? ……すごく綺麗な声)
(Too good words for me.Thank you)(勿体無いお言葉です。ありがとうございます)

 すごく丁寧な物腰。鈴のような声で彼女はそう答えたくれた。


「なんなのよあんた……」
(Sorry,because I wanted to cheer you up)(失礼した、君に昂ぶって欲しかったから)
「えっ……?」
(Then,shall I go?)(それじゃあ、行くか)


「そんな本当のことだよ。でもなんで」
(There is no time)(時間がありません)
「時間……?」
(Please come to me place)(恐れ入ります、私の元へ来ていただけますか)


 その言葉の後、通路へ続くドアがひとりでに開いた。
 リンディさんが、エイミィさんが、突然の異変に驚きの声を漏らす。

(Opend lock)

(Please go through)

 その声に、自然と足が動いた。
 一歩、また一歩。
 そして走り出す。

 向かうべきところはたった一つ。

 ――そこにあるのは勇気だと知ったから。
 
 ――そこににあるのは希望だと知ったから。

 だから駆けた。答えてくれたあの子達の元へ、傷つこうとしている友達のために。

* * *

 あの艦橋の騒がしさを忘れるようなとても静かな部屋。
 誰かに言われたわけでもなく、アタシは部屋の真ん中から立ち上る光の柱へと歩いていった。


 淡い光の中、漂うように細い楕円の宝石が浮いている。
 私を呼んでくれたのはこの子だ。その青い輝きを見つめながら沸きあがる確信に胸が高鳴るのを感じる。


「あんたでいいのね。アタシを呼んだのは」
『Yeah』

 問いかけに、二度光りながら緋色の珠が言葉を紡いだ。


「私のお願い……聞いてくれるの?」
『Yes』

 戸惑うことなく、彼女は頷きの変わりに輝いて見せた。


『二人とも! 聞こえる!?』
「リンディさん?」
『それを手にする意味分かるわよね? 決して遊びじゃないのよ!』

 頭上から降り注がれるリンディさんの言葉はまるでアタシたちを試すかのように聞こえた。

 ――知ってる。
 アタシだってこれがどんな意味を持つことなのかくらい、嫌でも。

「わかってます、覚悟は出来てます」


 アリサちゃんに私も続く。

「私に出来るならやります。後悔なんてしたくないです!」

 もっと何かをしてあげたい。
 出来るのにやらないなんて絶対ない。

「お願いします、リンディさん」

 思いのたけ全部ぶつけて私はリンディさんへ頭を下げた。

* * *

 モニターに映る二人の返事は予想していた通り、真っ直で純粋な答えだった。

「…………」

 なのに私の口は言うことを聞かず、唇は固く結ばれたまま。

「艦長……?」

 私にやるべきことは同じく真っ直ぐな答えを返すことだったはずだ。

「……結局、大人って無力なのね」

 まったくいいお笑い種だ。
 今まで電気信号一つすらしなかった杖たちが小さな願いでこうも簡単に目覚めるなんて。
 懇願する二人の姿を見つめながら私は誰にも悟られないくらい小さなため息をこぼす。

「エイミィかしら? デバイスルームまでのロックを空けたのは」
「そ、そんなわけありませんよ! ドアのロックが勝手に解除されたんです! ハッキングされたんです!」 
「ええ、わかってるわ」

 制御に秀でたものと破壊に秀でたものが揃えば、大してプロテクトの施していないドアの開閉など朝飯前なはずだ。
 それぐらい管理局の技術力には自信を持っている。

「それより始末書の方を押し付けるのが悪いわね」
「はい?」

 目が点になるエイミィにはあえて振れずに私は続ける。あんまり時間も無いことだし。

「今回の件は輸送中のデバイスの誤作動が原因……ということにしておきましょう」
「か、艦長……それって」
「ふふ」

 年甲斐も無く悪戯っぽく微笑んで私はゆっくりと腰を上げた。
 ゆっくりと、真っ直ぐ見つめるのはモニターの向こうで律儀に私を待ってくれている二人の勇者。

「エイミィ……私はなんて答えればいい?」
「聞かないでくださいよ、わかってるくせに」
「ええ」

 そう、簡単なことだ。
 選択肢は最初からたった一つ。正直、これ以外を選択しようとする人間はこの場で私が殴り倒すわ。

「…………本当になのはさん、いい友達を持ったわね」

 小さな勇気に秘められた大きな希望に、私が返す答えは一つしかないでしょ?

* * *

「それじゃ……」
『どうせ止めても行っちゃうくせに……ずるいわよ二人とも』

 姿は見えなくても、その疲れた声ですごく呆れられてるのがよく分かった。
 当然、せっかくのチャンスを拒まれたぐらいで見逃すもんですか。もし断られてもアタシはこいつをぶんどってでもなのはところに行くつもりだったんだから!


「ありがとうございます!」

 こみ上げる嬉しさに思わずまた私は頭を下げてしまった。さっきよりも大きく、大げさなくらいに。

『お礼なんていいわよ、感謝すべきはきっと私の方なんだし』
「いえ、この子達に会えたのはリンディさんのおかげですから」
『そうなのかしら……? ふふ、こういうのを運命って言うのかしらね。ええ、ぼやぼやしている暇はないわ。そのデバイスあなたたちに託します!』

 そっと手を伸ばす。指先に触れる感触はひんやりしてでも温かい。
 じんわりと指から体全体に何かが広がっていく感じ。それが私の中の殻を破る。


「すごい……これが魔法?」

 芽吹いた種が殻を捨て、双葉を開く。湧き上がる柔らかな温もりと熱い気持ちを、アタシは全身で感じる。
 足元からは夕焼けみたいな茜色が輝いて、見ればなのはやユーノが出していた魔法陣がゆっくりと回っていた。

『すごいシンパレート……それに二人の魔力がぐんぐん上がってる』

 夢見るようにエイミィさんが淡々と呟いた。
 

「空みたい……」
 
 両手で包み込んだ宝石は淡く光り輝いて、私と出会えたことを心から喜んでいるみたい。
 私の足元を照らす色はアリサちゃんとは違う色。どこまでも澄んだ蒼はいつも見上げる大気を思わせた。


『問題ないわね。二人とも、これからそのデバイスを起動します!』
「はい!」
『私が唱える呪文を後に続けて、いいわね!』
「わかりました!」
『そして思い浮かべて! あなたたちの魔法の杖を! そして身を守る衣服を!』

 宝石から伝わる熱さに心の鼓動がどんどん高鳴っていく。
 アタシたちは唱える。

 魔法の言葉を。

「我、使命を受けしものなり!」


 芽生えたばかりの魔法を形にするために。


「力よ、契約の元ここに集え!」


 ――力強く!


「勇気は剣に!」


 握った手から伝わる力強さ。思い描いた魔法の杖は――これ!


「希望は翼に!」


 満ちる光に目を閉じる。瞼に浮かぶ衣服の形――決まり!


「そして絶えぬ願いはこの胸に!」


 ――高らかに!


 茜と青。
 二つの輝きが溢れんばかりに部屋を照らして、満たして、包み込んで――。


『System all green.Call my name,buddy!』

 浮かんだ名前は彼の本当の名前。
 

『System drive.Please call my name,mistress』

 彼女を表す最も相応しい名前。


「来たれ魔法よ!!」
 

 今ならなんだって出来る。


 想像みんな創造に変えて。


「バーサーカー!」


「シルフ!」


 ――光、天に掲げて。


「「セーットアーーップ!!」」


 大切な人を守る力を今、


『Stand by ready set up』


 ――この手に!
 

スポンサーサイト
【編集】 |  21:09 |  なのはStep  | TB(0)  | CM(0) | Top↑

コメントを投稿する

URL
コメント
パスワード  編集・削除するのに必要
非公開  管理者だけにコメントを表示
 

この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック


 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。