05月≪ 2017年06月 ≫07月

123456789101112131415161718192021222324252627282930
--.--/--(--)

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【編集】 |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑
2007.10/14(Sun)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十三話 Cpart 


【More・・・】


 今日の高町家は朝から喧騒に包まれ、慌しさに飲み込まれている。
 原因――いや諸悪の根源である人間の隣に佇みながら、荷物を抱え玄関へと突入する引越し屋の様子をただ眺める。
 新しい住人を迎え入れる準備というものはどこの世界だって多忙を極めるのが共通なのだろう。
 兎にも角にも、門出というものはどんな形であれこう賑やかなものが一番だ。
 
 だからといって、ここにいる全員がそんなおめでたい感情で満たされているというとそうでもなく、
 
「ワザと……か?」

 このフェレットは自分の生活環境を改善するためにあえてこのような真似をしたのではないかと疑うのは執務官として当然の義務に違いない。

「お生憎様、僕はそこまで計算高い人間じゃないよ。むしろクロノの方がするんじゃないか?」
「僕は真面目だ。法に触れるような行為は決してしないと全てのものに誓っているんだ」

 吐くため息すら僕にはもう欠片もない。
 あれから落ち着いて、現在の状況を確認して、散々たる今の現状に頭を抱えて――。
 最悪に最悪をかけるとどんな言葉が生まれるのか。管理局に知れればおそらく僕も母さんも次の朝日が昇るころには無職の身になること請け合いだ。
 しかし現在においても本局の安否は定かではなく、彼らと連絡を取る術も、彼らから連絡をする術も抹消されている。
 悪運だけには恵まれた僕らの今は総合的な見解からすればおそらくプラスの方向にはなるだろう。

「フェレットはフェレットらしく、かごの中に入っていれば問題ないだろう。フェレットからすれば快適なんだろう?」
「ならクロノが入ってみればいいじゃないか。快適なんじゃないかな? 僕は入った事ないけどね」

 変身魔法なら教えるよ、と得意げに付け加えた。
 言うようになったものだ……こいつも。

「まったく口の減らない奴だな……一年前より相当悪化してるぞ」
「それはお互い様だよ」
「……かもな」

 軽口叩いてお互いを貶しあうというのはやはりもう子供じみた意地の応酬なのか。
 一年という時間は人をそれなりに成長させる。いろいろと環境も変われば物事の捉え方だって当然変わるのしょうがないこと。
 いつもならすぐにムキになってかかってくる相手が僕の言葉に眉一つ動かさず受け流し、あまつさえ反撃してくることもその証なのだろう。

「最近はいろいろあったからね。僕も肝が据わったっていうか……」

 疲れたような声で諦念しているのはそれだけこいつにもこいつなりの苦労を背負ってきたからこそ。
 L・ジュエルの封印を筆頭に、輸送中だった試作デバイスの無断使用――それもあろうことか現地民間人による起動だった。
 彼女たちは現在進行形で、開花させた膨大な魔力を引っさげデバイスと共に協力者であるなのはと共に日々この町に散らばったジュエルシードを封印している。
 さらには民間人へのL・ジュエルの寄生と発動、最終的には管理局の存在を知られるという大失態に繋がった。
 直接、間接にしろユーノ・スクライアに降り注いだ災難の数々には僕も流石に同情してしまう。

(寛大に受け止めることもまた成長した証かもな……)

 と言うよりは、あまりに問題の数が多すぎていちいち眉をつり上げるのが面倒臭くなったというのもあるのだが。
 ここ数日はジュエルシード絡みの事件も無いしアリシアが姿を見せることもない。ミッドの存在が消えた今なら彼女たちは必ずこの世界に姿を現すと思っていたのだが、あの日以来僕らの前に彼女が訪れたことは一度としてなかった。
 逆に、すでにこの世界は虚数空間に飲み込まれており手を出す必要がないなんてことも考えられる。邪推ではあるもののやはりプレシアが存在している以上何らかの行動は起こされる。まだこの事件は終わっていないのだ。
 言うなれば一つの世界に、僕らとなのはたちが揃った今が本当の始まりなのかもしれない。

「一応君もPT事件を解決した功労者だからな。こちらから謝礼代わりにそれなりの準備はさせてもらうよ」

 運びこまれる家具はどれも一級品に次ぐものばかりだ。一つ一つ、職人が手塩を欠けて作り上げた珠玉の一品までとはいかないが、大量生産されるものとは明らかに作りが違う。
 しっかりと組み合わされた木材はちょっとやそっとの衝撃で決して揺るがない意志を見せ、表面は自ら輝きを放つほどに磨き上げられ、光沢に包まれている。引越し屋が足腰に力を込める様からは頼もしい重量感を感じさせるだろう。
 
「いいのか? こっちは最高級品を用意してやるっていうのに」
「リンディさんに悪いだろ。それに僕にそんな大層なの似合わないよ」
「確かにおまえが贅沢する姿が思い浮かばないな」

 それでもこの品質なのだ。傍から見ればまだ贅沢なレベルではないかと問いたくもなるが、それは母さんに言うべき言葉になる。
 
(……偽造通貨なんていつの間に犯罪者に成り下がったんだろうな)

 とは言っても極限まで高められた贋作を偽者だと見抜ける人間はこの地上には存在しないだろう。
 ようするに僕らの使っている貨幣はこの地球で使われるものと全く同じ。そうでも前向きに考えないとまた頭痛薬のお世話になることになる。
 
「なんだか最近平和すぎて困るな」
「嵐の前の静けさかもしれないよ」
「そう……だな」

 一つの世界が消滅してこの世界も最悪同じ末路になるかもしれない。 
 そう考えてしまうことが杞憂にならないのが常識となりつつあるのだ。プレシア・テスタロッサが振りまく恐怖はこんなものではないはずだ。

「そういえば試作デバイスのマスター……アリサとすずかだったか? あの二人の調子ははどうだ」
「すごぶる良好だよ。飲み込みはなのは以上に早いし、資質も一つの方向に秀でてるから教えるのも楽だしね」
「なら当分は任せるよユーノ先生」
「おまえには先生呼ばわりされたくないよ」

 この世界の人間にはいろいろと面食らわされる節が多々ある。
 資質がまったく無いと思わせて、一度覚醒すれば有能な資質とそれを支える膨大な魔力が台頭する。尋常ならざるとも思える変異は誰もが眼を丸くするばかり。
 僕の勝手な推論だがこの次元に住む人間には誰しもミッドチルダを凌駕する資質を内包しているのかもしれない。ただきっかけが無ければ誰しもその内に眠りし大いなる存在に気づくことなく一生を終えるのだろう。
 以前はなのはの伸びに舌を巻き、今はアリサやすずかがなのは以上の成長速度を見せることに舌を巻いている僕である。
 バカ規格かと思っていたなのはの才能も、実の所この世界の魔力水準から見れば平平凡凡であるのかもしれない。

「けどおまえのおかげで、なのはも他の二人も魔導師として実力をつけているんだぞ」
「それ褒めてるの? ……らしくないよ」
「ああ、分かってる。僕だったらもっと彼女たちの実力を引き出せるからな」
「おま……」

 絶句し、次には僕の横顔を睨む眼二つ。
 
「おまえだってそれでようやくらしくなってきたぞ」
「はぁ?」

 きょとんと表情を変えて、気の抜けた声が耳へと届いた。
 自分に余裕がない時というものは周りの世界も、自分自身の世界も、全く目に入らないということを最近知った。俗に言うなら自分を失うということであり、またそこから己を取り戻すというのは自分だけの力では到底無理な難題だということも。
 
「達観してるおまえなんて僕は見たくもない」
「急に何言い出すんだよ……別に僕は」

 僕の場合はなのはたちの言葉や誰かさんの泣き声のおかげでどうにか再起することは出来た。
 それからはいつもの僕に戻れたとは思っている。冷静さを友とし常に余裕を持って物事を見通し最善を下す。

「ユーノ……僕からの忠告は一つだけだ」

 あらかた荷物を運び終えたのか、人の出入りが疎らになった玄関を見つめながら噛み締めるように僕は口を開いた。
 
「無理は……するなよ」

 言って、言われてきた言葉だ。
 それだけこの言葉には思い入れがある。

「別に……無理なんてしてないよ」
「ああ、自分でそう言うなら別に構わないさ。けど息抜きだけはやっておけよ」
「……わかってるよ」

 低く抑えられた声はどこか陰りを含んでいた。痛いところを指摘されたのが手に取るように分かった。
 こいつもこいつで日々の雑務に追われて休息を忘れてしまった人種らしい。僕も当然ながらその仲間だ。
 認めたくないけどフェイトやエイミィに散々言われているので甘受するしかない。

「一時とは言えど……お前にないものがある生活を送れるんだ。もう少し楽しくしたらどうだ?」
「僕が手放しで喜ぶ人間に見えるのか?」
「見てみたいな」
「ぐっ……」

 顔をしかめるユーノを見ていると、やはりこいつはこうじゃないと、と思う。
 なのはと同い年のくせに年上と肩を並べようなんて度胸は十年早い。若造の僕が言える立場でもないが、少なくとも僕とこいつの間にはそんな年功序列の条約を存在しているはずだ。
 決して意地を張っているわけじゃないと断言しておく。

「あっ! 二人とも何やってんだい!!」

 威勢のいい声が玄関から飛んで来たと思えばアルフが僕らに向かって駆け寄ってきた。

「こっちは猫の手も借りたいってくらい忙しいのに男二人で何サボってるんだい!」
「荷物は運び終えたんだろ? あまり人手が多くても動きづらいだけさ」
「屁理屈は無用だよ。引越しってのはこれからが本番なんだからさ!」

 口をへの字に曲げながら、アルフは半ば呆れた眼差しを僕らにぶつけてくる。
 タンクトップにショートパンツと軽快な身なりのアルフの二の腕には汗の粒が光っていた。そういえばさっきから引越し屋の男衆に混じって次々に家具を家に運び込んでいたのを思い出す。
 
「フェイトの時だって一日二日で終わらなかったんだよ。それにここはなのはの家だからすぐに引越し終わらせなきゃ。迷惑かけちゃいけないだろ」
「ごもっとも」

 PT事件の時もこの世界に身を寄せていた先駆者の意見は身に染みる。僕なんかよりアルフの方がよっぽどこの世界のことを知り尽くしているのだろう。

「そうだねアルフ。当事者の僕が手伝わなきゃ終わらせられるのも終わらないし。今すぐ行くよ」
「うんうん、わかればいいのさ。さっ、クロノも行くよ」
「ぼ、僕もか!?」
「クロノ……いくら執務官だからってサボろうなんて世の中甘くないよ」
「い、いやそういうこと――って!?」

 僕の言葉を待たずして、アルフが僕の襟元をつかみそのまま引っ張り上げた。

「ほらほら、とっとと行くよ! エイミィもフェイトも中で頑張ってんだからあんたも働くんだよ!」

 足元が希薄になり浮遊感に包まれる。宙ぶらりんにされたまま、僕はそれこそ荷物のようにアルフに家の中へと運び込まれていった。
 体格の差というか……背丈の致命的な差というのか。こうなってしまっては僕に出来ることは一つだけ。
 先行くユーノの背中を見つめることだけである。

「わかった! だからアルフ離してくれ!」
「面倒だからこのまま運んでく。クロノ家具より軽いしさ」
「お、おい!」

 だからってそんな豪快な考えだけは止めてくれ。
 こんな姿……みんなに見せられない。

 特にエイミィとフェイトにだけは……。
  
* * *

 本日の翠屋は定時より一時間早めに店じまい。
 だけど店内は後片付けをすることはなく、むしろある目的のための準備に奔走している真っ最中だ。

「じゃあそれはカウンターでお願いね。恭也、オードブルはその中央のテーブルにね」
「ああ、わかった母さん」
「かーさん、大皿の方はどこに置けばいい?」
「じゃあそれはそっちのテーブルにお願い。もう少しでケーキも焼けるから」
「はいはーい了解」

 今宵ここに集いし人たちのために腕を振るいながら、思えばこんなことするのも久しぶりだなと今までの自分を顧みる。
 ほんとインスタントばかりで済ましてた最近の自分の体には流石にそろそろ労いも必要だと思ってたところ。

「でも助かったわぁ。エイミィちゃんが料理出来て」
「料理の出来ない女なんて今日日流行りませんからね。やっぱり手料理振舞えてこそなんぼですよ」
「ふふ、きっと良いお嫁さんになるわね」

 包丁に軽快なタップを刻ませながら桃子さんは目を細めている。
 その横ではコンロにかけられた深鍋から香りと共に蒸気が噴出し、さらに隣のフライパンに乗せられた一口大のハンバーグが肉汁を滴らせながら心地いい音色を奏でている。

「さてと! 次は子供たちも多いからエビフライとスパゲッティ!」 
「手伝いましょうか桃子さん」
「大丈夫よ、このくらい朝飯前」

 既に下ごしらえを終えていたエビを冷蔵庫から取り出し、目上の棚からフライ用の鍋をコンロに下ろして――。
 ただでさえ複数の作業を手元に残しているのにさらに仕事を追加している。それでも桃子さんは余裕綽々といった具合にコンロに新たな火を灯した。けどそれで手は止まらない。
 そのまま今度はハンバーグを大皿へと次々に移し分けすぐにフライパンは流しへと一直線に放り込んでいる。
 目が回る――文字通りの光景に横目に眺めていた私は思わず目を丸くしてしまう。
 恐るべき作業の並行化と効率化。とんでもないマルチタスクの前には管制官の私だって敗北を認めざるを得ない。

「あ、あはは……す、すごいですね」
「お店やってるとこのくらい平気でこなせちゃうのよ。お昼なんてもっと慌しいのよ」

 嵐のような手つきだというのに顔は穏やか台風の目。この人に限界がないのかと疑ってしまう。
 でもこれが専業主婦、しかも翠屋の厨房を仕切っている人の実力なのかもと思うと妙に納得してしまう。たとえ片鱗だけでもこの説得力なんだから。

「あなたー! ちょっと厨房に入ってくれるー?」
「おうよ! どうした桃子」

 士郎さんが厨房に入ってくるなり指示を飛ばす。すかさず士郎さんは流しへと直行し、溜まりに溜まった洗物の片づけを始めた。

「でもなんでもかんでも自分の力ってわけにはいかないのよ。やっぱり困ったときは誰かに助けてもらわなくちゃ」

 煮込んでいたポトフの味見をしながら桃子さんが私に微笑んだ。

「なのはもやっぱり無理してた時期あったでしょ?」
「あ……そうですね。けっこう無茶してましたね」

 一瞬、刻んでいた手が止まりあの日のなのはちゃんを思い出す。
 無理に無理を重ねた結果が、危うく命の危機に晒すまでなのはちゃんを追い詰めたのだ。それだけに桃子さんの問いかけもなんだか重い感じがした。

「昔からあの子って人に迷惑かけないようにしてるの。どんなことも一人で抱え込んで終わらせようとしてね」
「そうだったんですか」
「うん、でもそうさせちゃったのは私たちのせいなの……。背伸びするのが悪いってわけじゃないけど、やっぱりなのはにはのびのび育って欲しいって所もあって」

 やっぱりなのはちゃんのお母さんだ。いくら娘の意志を尊重させたって心配は心配なんだ。
 どんなことが過去にあったのか詮索するのは失礼だから私は口を開かない。けど憂いを見せる桃子さんの顔がなのはちゃんへの想いを物語っていた。
 背伸びをすることは確かに時には必要なのかもしれない。クロノ君なんて常時背伸び状態なんだから。
 そういうのを見ていると、やっぱり息抜きはさせたいって思ってしまうのは、桃子さんの気持ちと度合いは違えど同じものだ。

「最近はそうでもないと思いますよ。なのはちゃん結構変わった気がします」
「そう……?」 

 「はい」と答えて、止まっていた包丁を動かし始める。
 多分、最近のなのはちゃんにはそんな抱え込むようなもの素振りはないと思う。一人で突っ走ることなくみんなと気持ちを分け合いながら、頼り頼られて事件に立ち向かっている。
 これはあくまで私の主観だから実際はなのはちゃんの中で何かが変わっているのかと言われればそれまでだけど。
 
「私から見れば……ですけどね」
「ううん、エイミィちゃんがそう感じているならなのははきっと変わってると思う」
「わかるんですか……?」
「最近のなのはってなんだかすごく無邪気っていうか、すごく楽しそうなの。子供っぽくなったていうかそんな感じで」

 桃子さんが珍しく手を止めた。そうしてどこか嬉そうに続ける。

「いきなりユーノ君を住まわせてあげてとか、以前のなのはじゃそんな我侭言わないしね」
「やっぱり迷惑でしたか」
「家族が増えるのは大賛成よ。魔法とか、正直まだ飲み込みきれないことばかりだけど、今っていうこの時間は本物だもの」
「本物……」
「そう、こうしてみんなが出会えたことだけは嘘じゃない。人の出会いってきっとそれだけ何か意味があるはずなの」

 再び手が動き出す。狐色になったエビフライがバットへと上げられていく。
 積み重ねた思い出を慈しむように桃子さんは微笑み続け、唐突に私に振り向き悪戯っぽく笑ってみせた。

「だって私は士郎さんが出会えたから今の自分がいる。こんな素敵な時間過ごせることに心から感謝しているから」
「出会えたから自分がいる……」
「そう! だからなのはも魔法っていう出会いがあったから今のなのはの笑顔があるのよ。魔法なんてなかったら、なのははきっと今までのなのはのままだったから」
「そうだな桃子。最近のなのはは前にも増していい顔つきになった。全力で頑張って、けど無茶までしない。自分の出来ること、やるべきことの境を見つけたと思う」

 片づけを終えたのか士郎さんが桃子さんの隣に立つ。
 と、揚げあがったばかりのエビフライを一本手に取りかぶりつく。

「うむ、やっぱり桃子の料理は最高だ!」
「もう士郎さんっ、摘み食いは駄目でしょ!」
「ちょっとの栄養補給ぐらい勘弁してくれよ。もう腹ペコなんだよ」
「我慢! いい?」
「う、うむ」

 漫画にあるみたいな仲睦まじさを見せ付ける二人である。拗ねながら士郎さんを叱る桃子さんに、頭をかきつつ笑って誤魔化そうとする士郎さん。 
 何気ないやり取りだというのに私はそれだけで桃子さんの言葉が嘘じゃないと確信できる。
 やっぱりこの二人にも出会いがあったから今って言う大切な時間が生まれたのだ。なのはちゃんだって魔法が縁で沢山の出会いを経験している。それと同じだけ大切な時間も増えている。

「いいですね……出会いって」
「ええ、そう。そういえばエイミィちゃんは素敵な出会いはまだなのかしら?」
「え、えと……どうなんでしょ?」

 いきなりの変化球にちょっと戸惑っちゃう私だ。
 流石に、まだまだ若い私にはそんな素敵な彼氏も出会いもないのが現実で。いるのはせいぜい弟代わりのクロノ君くらい。
 まぁ、言われてしまえば最近は弟って感じでもないんだけど。

「はは、まだ若いんだ。慌てることはないさ」 
「そうよ、それに今夜は素敵な出会いが集うんだから。さぁ、最後の仕上げよ!」

 そうだ、今夜は沢山の出会いが集う記念すべき日なのだ。私たちはその出会いを飾る、最高のおもてなしを作る重要な役目を背負ってる。
 みんながお腹を空かせて待ってるんだし、私だって桃子さんに負けてられない。 

「はい! エイミィ・リミエッタ全身全霊で頑張りまーす!!」

 アクセル全開! リミッター解除!
 俄然ヤル気な私のスタートを飾るように、背後のオーブンがチンと鳴った。

 さぁ、最後の仕上げ! 今夜を盛り上げるも下げるも全ては私たち次第!!

* * *

「すごいね……これ」

 翠屋のドアをくぐった私の第一声は感嘆の言葉だった。
 色とりどりの装飾品で飾り付けられた窓や壁、いつも整然と並べられていたテーブルも今日だけは隊列を変えて中央で陣を取っている。
 その上には沢山の料理と飲み物が鎮座していて、天井から降り注ぐ照明も手伝ってキラキラ輝いているように見えた。
 周りを見れば窓際のテーブルにも、カウンター席にも、食べ物や飲み物が置かれていて厨房からは今も引っ切り無しに人が出入りしている。

「もうお父さんもお母さんもはりきっちゃって」

 隣でなのはがため息をついている。でも口調はすごく弾んで楽しそう。

「今日って一体何人出席するのよ……この料理の量半端じゃないわよ」
「えと……確か私たちのほかにアースラの人たち全員と」
「私の家はお姉ちゃんとノエルとファリン」
「すずかはともかくアースラから何人来るのかがある意味脅威ね」
「だ、大丈夫だよ。結構大きい船だけど、全部合わせても四十人くらいだと思うし」

 実のところ一年近く乗船してる私でも、アースラの正確な乗組員数は知らない。
 いくらコンピューター制御で人員が最低限に整理されていても、おのおのの部署別にちゃんと職員は割り振られているわけで。
 みんなそれぞれいつも違う場所で働いているから毎日顔を合わすことのほうが少ないくらい。

「じゃあなんとか大丈夫そうだね」

 頭の中で計算したのかなのはが頷く。
 それに安心したのかアリサの表情も柔らかいものになっていった。

「あら、随分といい感じじゃないの」
「やっぱり喫茶店だからかな。普通のホームパーティなんかと比べ物にならないねぇ」

 続けてやって来たのはリンディさんとアルフ。二人ともやっぱり翠屋の様子に驚いている。

「いいわねぇ、こう開けっ広げに交流会を開けるなんて」 
「毎度のことだけど艦長の言うことじゃないだろう母さん」
「あらクロノ」
「まったく母さんは……一体何人現地協力者を増やせば気が済むんだ」
「いくらでも……かしら」
 
 後に続いてきたクロノがリンディさんの言葉に頭を抱えていた。
 もうどうしようもない、そう言いたげに首を横に振っている。
 
「いいじゃない、こうやって二つの世界が手を取り合うんだから親睦は深めないとクロノさん」
「うん、私もアリサちゃんも魔導師になったばかりだから、ミッドチルダの人たちとも話してみたいし」
「それにフェイトちゃんとの再開パーティも結局やってないしね」
「賑やかなのは一番だよクロノ」
「ん、んぅ……まぁ今日の主賓たちにそう言われるとこっちも返す言葉がないというか……」

 私たちの慰めというかフォローというか、そんな言葉が駄目押しになってクロノも降参みたい。
 でもクロノもクロノでいつもより力の抜けた顔を見せているあたり、もうこのパーティを楽しむ気が満々みたいだ。

「長いものに巻かれろって諺があるしね」
「ああ、それならフェレットに変身してくれ。首に巻いておく」
「……」

 今度はユーノが入ってきた。そしていきなりの歓迎の言葉に笑顔が引きつっている。
 もう相変わらずなんだから二人は……。

「あら、魔法少女ご一行様到着ね」
「あっ、お姉ちゃん!」
「忍さんもお手伝いですか?」
「ええ、ウェイトレス見習いって感じでね。で、そっちの子がフェイトちゃんね」
「あ、えと、こんばんわ」
 
 目の前に現れた女性に慌ててお辞儀。 
 確かこの人は忍さんだ。すずかのお姉ちゃんで、以前L・ジュエルに取り付かれた人だ。
 アースラの記録じゃものすごい抗魔法能力があったけどもうなのはたちがL・ジュエルを封印して助けたから事なきを得たはず。
 
「忍さん、身体の方は大丈夫かしら?」
「はい、大分力の制御も出来るようになりました。もう大丈夫ですよ」

 静かに上げた手を、見せるようにヒラヒラさせる。人に直接ジュエルシードが取り付くなんて始めて聞くケースだったけど、どうやら後遺症はないみたい。

「よっ!」

 ――と思うのは気が早かった。
 その手から光の爪が飛び出して辺りを赤く照らしているのを見ればやっぱり何かあったらしいのは丸分かりで……。 

「なんだかすずかたちみたいにステッキ振り回しながら魔法を使うのもいいと思うけど、これはこれでいい感じだし。後は――」
「お姉ちゃん、シルフ分解しちゃ駄目だからね!」
「ええ~、未知のテクノロジーなんだから少しだけ弄らせてくれてもいいじゃないのよー」
「元に戻らなくなったらどうするの?」
『Misteress sister,there is a limit also in an automatic restoration』(お姉さま、自動修復にも限界があります)
「程度は弁えるわよ……。じゃあアリサちゃん」
「お断りします」
『Sorry,I want always to maintain the state of thorough.』(悪いな、常に万全の状態を保ちたいんだ)
「なのはちゃ――」
『I will refuse courteously』(丁重にお断りさせていただきます)
「だそうです」
「ちぇー」

 頬を膨らませて、思いっきり拗ねてみせる忍さんだった。
 でもそんなくらいでこの人は引き下がる人じゃないみたいで。

「……ねぇ、フェイトちゃん」
 
 標的が変わっていた。
 偶然なのか故意なのか、忍さんと私の目がぴったり合ってしまう。

「え、えと……」
『No,sir』
「……ごめんなさい!」
 
 バルディッシュが使い物にならなくなっちゃう!?
 背筋に悪寒が走り、これが危機へ足を踏み入れることだと本能が教えくれた。同時に脳裏に映るバラバラの閃光の戦斧。再起不能を物語っていた。
 もう私は大慌てで、さっきの挨拶以上に、頭を勢いよく下げてお断りをした。

「あ~あ、やっぱり駄目かぁ」
「お嬢様、すずかお嬢様たちを悪戯に困らせないでください」
「の、ノエル……!」
「申し訳ございません、すずかお嬢様。初対面の人に対しても失礼を」
「そうだぞ忍。まだ準備は終わっていないんだ。おまえも翠屋のウェイトレスならこんな所で油を売るな」
「あ、ちょ! も、もう~~――……」

 長身のメイドさんと恭也さんが出てきて忍さんを厨房へと連れて行ってしまった。私としては……というか、バルディッシュとしては九死に一生って感じだったのかな?

「もうお姉ちゃんったら。ごめんねフェイトちゃん、びっくりしたでしょ?」
「だ、大丈夫だよすずか。……多分」

 なんだかいきなり、沢山の出会いを前に私の頭もどうしていいか躊躇うばかりだ。でもみんないい人だってことは出会ってすぐにでも感じ取れる。
 段々と雰囲気に飲み込まれている私だけど、やっぱりこの場所が心地いいって思ってることに今更ながらに気づいた。

「フェイト、なんだか楽しそうだね」
「そうだねアルフ……こんなに賑やかなの初めてだから」

 隣に寄り添いながらアルフはそっと私の肩に手を置き微笑みかけた。どうやら精神リンクを通して私の弾んだ気持ちがアルフに伝わったみたい。

「そうかい、なによりだよ。フェイトの居場所があって」
「……うん」

 静かに私は頷いた。
 すでにアースラからの人たちも全員集合したみたいで、何時しか翠屋の中はいろんな声と人たちでごった返し心地よい賑やかさに満たされていた。
 

 いよいよパーティ始まりだ――。


「さぁてみんな揃ってるーーー!?」

 始まりの合図はエイミィから。
 カウンターからマイク片手に飛び出しそうな勢いで声を張り上げれば、店内の人たちが腕を上げたりしてそれに応じる。

「みんな色々思うことはあるけど、今だけみんな忘れちゃえ! 今夜は翠屋アンドアースラ企画の大交流会! みんなが出会えた記念に、地球もミッドも関係なしに盛り上がろうーーっ!!」

 「おーーっ」と一段と大きな声が、あっちやこっちから地鳴りのように鳴り響いた。
 そしてエイミィの号令と共に動き出す沢山の人。誰もが笑顔ばかりで、それぞれに料理を食べたり、ジュースやお酒を飲んだり、他愛のない話に花を咲かせ始める。
 
「よぉし、それじゃこの縁を記念にまずは一杯!」
「もういきなりお酒は駄目でしょ! 料理の補充誰がするのよ」
「いやでもなぁ、一杯ぐらいなら……」
「まったく……すいませんリンディさん。家の旦那の相手お願いしますね」
「ええ、喜んで」

 あっちでは士郎さんや桃子さんがリンディさんと花を咲かせて、

「う~ん! こっちのユーノもいいかも~!」
「わわ! 美由希さんそんな撫で回さないでください!!」

 こっちではユーノがなのはのお姉ちゃんに絡まれていて、

「なんだか壮大すぎる話だな……俺の知らない世界ってのは」
「始めはみんなそうですよ。本来なら僕たちだって出会うことはなかったんです」
「不思議な縁に……この場合は感謝した方がいいのかな」
「そう思ったほうが気は楽ですよ。執務官をしている身だと」
「若いのに大変だな……」

 クロノはなのはのお兄さんと感慨深げに話しに耽っていた。
 
「わたしたちもどこかに混ざろうか?」
「そうだねなのは」

 なのはから取り皿とオレンジジュースを受け取り、私たちも賑やかな喧騒へとそれぞれ飛び込んでいく。
 私が最初に目指したのは真ん中のテーブル。そこには珍しい組み合わせの二人がいた。

「へぇ……じゃあ、あん時助けた犬があんただってわけなんだ」 
「本当にアリサがなのはの友達で助かったよ。ある意味アリサがいなくちゃフェイトも助けられなかったからねぇ」
「命の恩人……って所かしら」
「二人とも何話してるの?」
「あっ、フェイト」

 私の声に、料理を次々に平らげていたアルフが顔を上げる。まだ口に食べ物を含んでいるのか、しきりにもぐもぐ動かしている。
 もう、行儀悪い。

「運命を分けた必然とも呼べる偶然についてよ」
「えと……なんだかよくわからないんだけど」
「つまりアタシがいなければ今のフェイトはなかったってことよ!」

 ビシッと指を突きつけてアリサが得意そうに語る。
 途中から会話に入った身としては正直なんでそういう展開なのか首を捻りたくなるけど、

「そ、そうなんだ。ありがとうアリサ」
 
 取り合えず無理矢理納得しておいた。

「でも使い魔っていいわね。流石元が犬だけあるわ」
「だからあたしゃ狼なんだけど……」
「イヌ科ってとこは同じでしょ? はいお手」
「わふぅ! ――……はっ!?」

 差し出された手にあっさり手を重ねるアルフだった。もう条件反射に近い眼にも留まらぬ速さ。

「ち、違うんだよ! これはお腹が空いてたから判断が鈍っていて……」 

 否定を意思を見せるも、あれだけ食べていてその言い訳は苦しすぎると思うよアルフ。
 そんなあたふたするアルフの横で、アリサは口元をニンマリさせて震えている。

「くっ、ふふ……。もうほんとに犬じゃないのよ」
「もうアリサぁ」
「いいじゃないのよフェイト。こんなにご主人様思い子ってなかなかいないわよ」

 笑いながらそんなこと言われても素直に喜べないのは私だけかな……?
 
「そういえばすずかは?」
「すずかならさっきそっちの方に行ったわよ」
「じゃあ行ってみるね」
「あ、あたしも行くよフェイト!」
「アルフはここにいなさい。あんまり余計なことするとますます犬になっちゃうわよ?」
「ううぅ、あんたって意外と意地悪だね……」

 楽しそうな――アルフにとってはいい迷惑なのかもしれないけど――語らいを後ろに、今度は窓際の席を目指して私は人の波をすり抜ける。
 視界が開けると、席に座って誰かと話しているすずかが見えた。

「じゃあやっぱりそういうこともあるんですか」
「へぇ……ただ単に物理法則を捻じ曲げてるわけって分けじゃないのね」
「まね、私たちも魔法については理解しているようでしてないのが本当だし」
「みんな何話してるの?」

 私の声にみんなが一斉に振り向いた。
 すずかと一緒にいたのはエイミィと……忍さんだ。さっきのこともあってかちょっとだけたじろぐ。

「あっ、さっきはごめんフェイトちゃん。ちょっと冗談で言っただけだからね」
「私のときは本気の癖に……」
「まぁまぁ二人とも」

 すずかがジトッとした視線で忍さんを睨みつけた。すずかにしては珍しい表情を覗かせている。
 そんな二人を仲裁するのはエイミィの仕事みたい。
 私はそんなやり取りを見つつエイミィの隣に腰掛けた。丁度すずかと向かい合う格好だ。

「でも流石に魔法の存在がない世界でこの魔法絡みの技術は使えないわよね」
「そんなことすると管理局的にも見逃せない事態だからね」
「個人的に研究するならいい?」
「協力者って立場ならかな」

 なんだか難しそうな話題で盛り上がっているエイミィと忍さん。好奇心が強い人なのか、魔法に関して興味津々みたいだ。

「さっきからずっとこんな調子なの。もう二人とも変なことで盛り上がっちゃって」 
「いいんじゃないかな夢中になれるものがあるって」
「フェイトちゃんはある? 夢中になれるもの」

 振られた話にちょっと考える。
 言われてみると夢中になれるものってありそうでない。最近ずっと事件のことばかりで、すっかり頭の片隅にそういうことは追いやっていた。

「うーん……見つからないかも。すずかはあるの?」 
「あんまり大きい声で言えないけど隣の二人と同じかな」

 すずかは照れ臭そうに笑って隣を指差した。
 なるほど、魔法のことみたいだ。

「私も見つけたいな」
「大丈夫、きっと見つかるよ。あとそれとね、さっきなのはちゃんが探してたよ」
「えっ、そうなの? じゃあ行かなきゃ」

 相変わらず熱そうな談義をしている二人を横目に席を立つ。
 微笑むすずかに手を振って、私はなのはを探し始める。
 とはいってもこう沢山人がいるとすぐに見つかるかどうかちょっと微妙――

「あっ」

 ――でもなかったり。

「やっぱりお母さんの料理はおいしい!」
「ふふ、今日は特に腕によりをかけて作ったからね。もう桃子スペシャル! って感じかしら」
「わたしにも出来るかなぁ……?」
「ちゃんと手伝いも出来るしすぐに出来るわよ。なんてたってお母さんの娘なんだから」
「えへへ……」

 カウンターで桃子さんと楽しげに話しをしているなのはをすぐに見つける。

「なのは!」
「あっフェイトちゃん! みんなとお話してたの?」
「うん、それですずかが呼んでるって」
「そうだよ。リンディさんがフェイトちゃんのこと探してて」
「私を?」

 リンディさんが探してるって……。 何の用だろう?

「あっ、フェイトさん」
「どうしたんですかリンディさん? 何かあったんですか」

 背中へかけられた声に振り向けば、ほんのり頬を赤く染めたリンディさんがユーノと共にこっちへ歩いてくるところだった。

「あらリンディさん、士郎さん迷惑かけませんでした?」
「ええ、大丈夫です。地球のお酒も中々いい味で、ちょっと飲みすぎちゃいましたけど」
「お父さんは?」
「あっちの席で酔い潰れてるよ」
「もうしょうがないんだから」
 
 苦笑するユーノに、なのはは自分の父親の失態にしょうがなさそうに肩を竦めている。桃子さんもため息をついてやれやれとお手上げ状態。
 なんだからそんな家族のひとコマも私にはとても新鮮なものに映る。やっぱり家族って羨ましいかも。

「それで、話って何ですか?」
「ええ、フェイトさんとユーノ君に渡したいプレゼントがあって」

 そう言うとリンディさんが奥のテーブルに向かって一声かける。
 するとそこに座っている二人が立ち上がりそのままこっちへ歩いてきた。

「ようやく出番ですか」
「待ちくたびれましたよ、艦長」

 人混みを縫って姿を現したのはアレックスとランディだった。
 二人ともやけに大きな箱を小脇に抱えている。

「フェイトさんは今まで嘱託魔導師として、ユーノ君は現地駐在員としてお疲れ様。これはその今までに対しての私のお礼。受け取ってくれるかしら?」

 リンディさんの目配せにアレックスが私の前に立つ。ユーノにはランディだ。

「はい、フェイトちゃん。これ一応俺たちからのお礼も兼ねてるんだ」
「あ、ありがとうございます」

 受け取り、リンディさんを見ればにこやかに頷いた。この場で開けて良いということらしい。
 カウンターに箱を置いて早速開けてみる。結構な大きさだけど思ったより厚みはない。一体何が入っているのか内心ちょっとドキドキしながら私は箱を開いた。

「――……え!? これ……って」
「気に入って貰えたかしら? もしかしたら押し付けなのかもしれないけど」
「そ、そんなこと……そんなことないです!!」

 店内中に聞こえてるような声で、私は首を何度も横に振った。押し付けなんてそんな迷惑なものなわけあるわけがない。
 箱の中にあったものは、私の心を嬉しいって気持ちで、本当に嬉しい以外に何も考えられなくなるくらいに一杯にする最高の魔法だった。

「あら、聖祥の制服じゃないですか。もしかしてフェイトちゃんを」
「そ、そうなのリンディさん!?」
「なになに? 一体どうしたのよフェイト」
「何かあったの?」

 私の声を聞きつけたみたいでアリサとすずかも顔を出す。二人にも分かるように私は取り出した制服を二人に見せた。
 二人の顔が輝くのに時間は一秒も要らなかった。

「この世界に駐屯するんだからこのくらいはしないといけないでしょ?」
「で、でも……いいんですか? 私……こんな……あの……」
「そ、そうですよリンディさん! 僕は別にこんなことしてもらわなくても」

 正直なところ自分が自分で抑えられなかった。心の奥底からどんどん湧き上がる気持ちが私を揺さぶり、体を、顔を熱くさせる。
 思ってもいなかったこと。まさにそれをリンディさんから渡されて、私はもう右も左も分からないくらいに混乱していた。

「二人にはもっと広い世界を見て欲しいの。魔法だけ知っていたってあまりいい大人にはなれないわ。時には何もかも忘れることだって必要なのよ」

 ――そうだ、そうなんだ。

 私、魔法以外に世界のことを何も知らない。魔法が結んだ絆だけで、他の絆は何にもないんだ。
 リンディさんの言う広い世界を私は何にも知らない。私の全ては始まっていても、道標も星もなかったから。進んだ距離は実際はほんの少しなんだ。

 だからリンディさんはくれたんだ。私に、世界を進むための光を。

「私……私……」
「学校には来週から通うことになるわ。レストハウスからなら通学にも不便はないし、準備は万端よ」
「ありがとう……ございます!」

 心にあったのは、きっと抱えきれないくらいの喜びと感謝って気持ちだけ。
 目頭が熱くなるのを感じながら私は新たな一歩を踏み出すための衣装をぎゅっと胸に抱きしめた。

「フェイトちゃんにユーノくんと学校かぁ」
「これからよろしくね二人とも」
「リリカルストライカーズ記念すべき新たな門出ね!」

 なのはたちそれぞれの言葉に何度も頷き、溢れ続ける気持ちを噛み締めた。

「そうだ! せっかくだから着てみなよフェイトちゃん!」
「そうね、せっかくの制服もサイズとか間違えてたら大変だし」
「私も見てみたい」
「じゃ、じゃあ着替えてみようかな」

 きょろきょろ辺りを見回して着替えそうな場所を探す。とは言ってもこれだけごった返していると流石に隠れられそうな場所がなくて。
 
「ああ、それなら従業員用の更衣室があるから大丈夫よ」 
「いいんですか使って?」
「なのはのクラスメイトだもん、当たり前でしょ?」
「それならユーノ、あんたも着替えてみたら? 一応クラスメイトになるわけだし」
「え? あ、いや……その……」

 どうにも歯切れの悪い口調でユーノは少し後ずさる。
 
「なによぉ、まさか男の癖に恥ずかしいとか?」
「じゃなくて、これで学校に通うのはちょっと……」

 アリサに迫られ、仕方無しにユーノは箱から私と同じ制服をおずおずと広げて見せた。
 別に採寸もほつれも、何の不備もないように思える聖祥の制服だ。なにか気に召さないことがあったのだろうか?

 えっ……同じ制服?

「くっ……あはははは!! それ女子の制服じゃないのよー!」
「あら? 手違いがあったかしら」
「僕に女装して学校に行かせる気なんですか? リンディさん」
「ご、ごめんなさいね。すぐに新しいの手配するから」

 確かにユーノは見る人によっては女の子に見えなくもないけど……。
 ちょっとユーノの制服姿を想像してみる――。

 あまり問題を感じない私は間違っているのだろうか?

「うーん……せっかくだからユーノくん着てみれば?」
「な、なのは!?」
「そうね、せっかくだし返品する前に記念としてきてみたらいいじゃない」
「アリサまでっ!?」
「結構似合ってると思うけど」
「すずかぁ!?」
「私も一緒に着てあげるから」
「い、いや僕男だよ!!」

 トントン拍子とはまさにこのこと。多勢に無勢でユーノに逃げ場は無くなっていた。
 必死に制服を着るのを拒むユーノだけど、こうなってしまえば抗う力なんてどこにあるわけがなくて――。

「ユーノ君こっち見て」
「今度は何、すずか――……あっ」
 
 呼ばれ、すずかの目を見たユーノが突然石像のように硬直した。
 
「お姉ちゃんから教えてもらったんだ、チャーム」
「グッジョブよ、すずか!」

 赤い瞳を輝かせながらすずかが悪戯っぽく笑っていた。
 こんな不意をつくなんて意外とすずかって侮れないな……。

「じゃあ後は私が着替えさせて来るわね」
「よろしくねお姉ちゃん」

 ずるずると引きづられていくユーノ。ぎこちない顔は心なしか泣いているように見えた。
 でも私の本音も見たいから……助けないことにする。

 それから私は着替えて、みんなにお披露目して。
 拍手と歓声と、ちょっとの気恥ずかしさに包まれながらもう一度強く、強く想った。

 これが私の、この世界での本当の始まりだということを――。

スポンサーサイト
【編集】 |  23:40 |  なのはStep  | TB(0)  | CM(0) | Top↑

コメントを投稿する

URL
コメント
パスワード  編集・削除するのに必要
非公開  管理者だけにコメントを表示
 

この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック


 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。