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2007.07/04(Wed)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第四話 Bpart 


【More・・・】


「なのはさんは無事に家へ帰れたかしら?」
「ユーノ君が付きっ切りですから。それに魔力以外に深刻なダメージも無いですし」
「そうね……」

 先に帰った客人たちには今日一日本当に迷惑をかけてしまった。
 アースラがこんな状態だから――などと言えば子供じみた言い訳そのもので。謝ってもやり切れない思いが残るばかりだ。

「一体いつまでこんないたちごっこを続けるのかしらね」

 すでに収集されたジュエルシードは二十三個に上っていた。
 そのうち一つは元凶であるL・ジュエル。すでにクロノたちが本局へ輸送しているためここには無い。保管してから新たなジュエルシードを生み出すことがなかったのは幸いであった。

「発動前に封印できれば言うことないのにね」

 すでに本来在るべきジュエルシードの数を超えているのは皮肉でしかない。
 たった二週間――それだけでここまでジュエルシードが確認された。母体の複製時間は思いのほか短い。
 ただ生み出されたジュエルシードはどれも魔力量がてんでバラバラの不揃いばかり。納期ばかり優先して品質を揃える気が無いのは私たちへの吉報にするには余りに頼りない。ジュエルシードである以上小さいものほど安全なんて理屈は通用するわけないのだ。

「ほんの微量な魔力を感じ取れなんて無茶もいいところですよ」
「なのよね」

 発動前の、いわば待機状態であるジュエルシードは多少なりとも魔力を帯びている。ただその度合いは例えるなら霞そのもの。無いようなものだ。
 アースラの機器で探知などもってのほか。なのはさん、ユーノ君でも無理。

「何もかも後手に回って……まったく」

 毒づきたくなるのを堪えながらやり場のない気持ちを拳を握ってどうにか発散させる。
 提督になってここまでストレスが溜まることなど未だかつてあっただろうか。次々と降りかかる負の報告。煮え湯を飲まされ続けられいい加減胃にだって穴が開いていい頃合だ。

「ですが艦長……なんであの二人は封時結界の中に侵入できたんでしょうか……?」
「わからないわね……魔導師ならともかく魔力資質もない一般人が入れるなんて」

 術者が許した者のみが入ることの出来るズレた世界。それが結界の一般定義。
 偶発的にその場に居合わせた相手は一瞬でこの世界から拒絶され現実に留まる。並みの魔導師なら世界が変質する瞬間は分かるはずだ。
 だがその世界に飛び込むのはこれがなかなか難しい。

「ユーノ君が言うには誰かが侵入してきた様子は一切無かったそうですが……」

 それが頭を悩ます種だ。
 飛び込む方法は教本に習うとして次の二つがある。
 一つは転送魔法で結界内へ移動すること。もう一つは弾き出される前に結界に穴を開け強引に自身を押し込むこと。
 前者は後手に回る場合、後者は先手に回る場合の方法である。

「魔力的な反応は無し。第三者の介入ではない」

 ジュエルシードが何か影響を、と思ったがそれはない。あの場にあったのは一つだけで発動済み。指向性を持ったジュエルシードはもう他に影響を及ぼせない。

「おそらく結界発動の瞬間に侵入したものだと思いますが……でもそしたら」

 言葉を濁すエイミィの気持ちは分からなくもない。

 そう、結論はそこへ帰結する。

「あの二人のどちらかが結界に穴を開けた」

 そうしてまんまと異世界へ忍び込んだ。

「ユーノ君は結界魔導師としてはとても優秀よ。結界の僅かな歪みだってわかるはず」
「ですがそれすら無かったとなると……」
「一瞬で結界の性質を見抜き、自然と塞がれる穴も先に塞いだ」

 結界が自ら安定しようと歪みの修正をかける前に後始末をちゃんとした。なんて利口で礼儀正しいか。

「アリサちゃんもすずかちゃんも魔導師じゃ……それにそんな高等な技術を使えるなんてますます有り得ないですよ」
「でも他に良い反論……あるかしら?」
「…………いえ」

 押し黙るようにそれきり口を閉じる。あれば私だってこんな返し方はしない。辻褄合わせの都合のいい答えはどこにも無いのだ。 

 一応、なのはさんの件があったためこの世界の人間の魔力資質について調査した結果がある。
 他にも魔力資質に恵まれた有望株がいると言われれば、答えはノー。元々この世界に魔力資質を生まれながらに持つ人間はまったくもって存在しない。
 例外として突然変異的に資質を獲得する者がいるだけ。
 私の知る限りその人間は二人しか該当しない。なのはさんと今も管理局で提督を勤めるあの人のみだ。

「でもアリサさんに資質があるようなデータはなかった」

 彼女には悪いが精密検査をした時に記録されたデータからそれは把握されている。元々魔導師用に調整されているものだからそれ関係のデータも自然と記録されているのだ。

「そしたら艦長、すずかちゃんだって館内のセンサーに一切……」

 魔力を示す値は両者ともゼロ。だというのに魔法じみた事実だけはある。
 
 ゼロの二人――魔法の事実。
 
 イコールで結ばれない答え。ただ矛盾だけが横たわる。

「……偶然なんでしょうか」
「その言葉で締めくくれれば……ね」

 彼女たちがこの世界に入れた意味。
 答えを求めれば袋小路。

「仮にあの二人のどちらかが魔導師としての資質を持っていたら……私たちは何をさせようとするのかしらね……」

 欲望か希望か、見分けのつかない望みは皮肉な物だ。口を歪める笑みは自嘲の他ない。 
 結界の破壊と修復――即戦力としてはおつりが来るくらいもったいない才能だ。

「そんな言い方しないでください……私たちみんな同罪ですよ」
「いいのよ……泥をかぶるのは私一人で十分」

 自分だって今すぐ出て行きたい。だけど管理局の手が入ってない世界で力を振るうなど厳罰どころでは済まない騒ぎだ。しかも提督という膨大な魔力を秘めた存在が暴れまわってジュエルシードが発動、なんてことにでもなれば本末転倒。
 お偉い方はどんな時にだって役立たず。手を拱いてあたふたするのがお似合いというのは滑稽なものだ。
 せいぜい褒められるのはようやくこの世界での正式な活動が認められたこと。クロノとフェイトの掛け合いのおかげであるが。

「それにね、エイミィ。そんな人間に貸すようなデバイスはこの艦にないわ」

 生憎、経験が物を言うストレージデバイスなんて与えても魔法のイロハすら知らない人間には無用の長物だ。
 なのはさんだって最初に手にしたのがインテリジェントデバイスだったからこそここまでやってこれたというのに。

「だったら艦長! 輸送中のあれなら!」
「ないものねだりよ」

 即答。一息でエイミィの進言を却下。

「確かにあれはPT事件を教訓にこのような事件に対して開発されたもの。だけどそれだけ……動かないなら無いのも同然よ」
「あれもインテリジェントデバイスですよ。レイジングハートと同じく」

 そう確かにあれはインテリジェントデバイス。自ら考え主と共に使命を果たす杖――のはず。

 先のPT事件から汎用型のストレージデバイスではプレシアのような魔導師には到底及ばないことを痛感させられた。完敗、惨敗、情けない。
 あまつさえ事件を解決した功労者も民間協力者という始末。これには管理局の面子も丸つぶれである。

「そう、それでちゃんと持ち主とシンパレート上げてくれれば……ね」

 そういうわけで武装局員にも対高ランク魔導師用の特殊部隊を設けようという話が上層部から挙がった。その第一弾はデバイスの強化。
 持ち主と深く結びつき、自在な連携を行えるインテリジェントタイプの有用性はなのはさんやフェイトさんから大いに証明されている。
 しかもなのはさんに至ってはそのデバイスのおかげで短期間でここまで魔導師として成長できた。これは戦闘経験の少ない局員にはうってつけだ。

「でも現実はうまくはいかない……当然の報いよ」

 管理局はどちらかといえば質より量で勝負する。よって、デバイスもそれぞれ役割を決めて各個連携をとるというスタイルを取らせるべき、となった。
 これはすぐに開発プランとして組み込まれ、程なくして初の試作機であるあの二機が生まれた。
 でも起動実験の初日すぐに問題は顔を出すわけで。

「あのじゃじゃ馬を乗りこなせる人間はいない。だからこそ本局での再調整なんだから」

 インテリジェントデバイスは持ち主とのシンパレートが重要だ。その針は居合わせた人間誰一人として動かせはしなかった。
 従来とは違うプランで調整を行ったせいなのか、造られた辺境の空気のせいなのか、はたまた人格プログラムに問題があったのか。
 うんともすんとも、あの二機は本来の杖になることすらせずこうしてアースラで調製し直される時を黙したまま待ち続けている。

「しかも輸送中のそんなものを勝手に使ったなんて……ばれたらいい顔されるわけないわ」
「まぁ、そうなんですけどね」

 事の顛末を聞いて私は心底呆れたものだ。
 偏った調整なら偏った人間にしか扱えないのが分からなかったのだろうか。魔力資質は人それぞれ、それに基づいてデバイスは主と共に歩みその姿を最適なものへ移り変わらせていく。
 スイッチ一つでポン! なんて便利なものではないのだ。だから管理局の主力はストレージデバイスでありそれ以上も以下もない。

「あの子達も……被害者みたいなものなんですよね。可哀相なデバイスで」

 実の所これは一部の筋にしか知られていない話なのだが、このプランだって本当はストレージタイプにおいての特化デバイスの製作が主眼に置かれていたのだ。
 量産化を視点に入れるのなら結果的にはインテリジェントタイプでは分が悪い。特化させることで使用する術式を減らし、負担を軽減すると同時に即戦力とする。
 日和見な夢物語もいいところだろう。魔法の特化詠唱なんてさらに高度なマルチタスクを要求することに気づいていなかったのか。
 そうして問題点を解決した先にあったのが戻り戻ってインテリジェントデバイス。

「デバイスの気持ちも考えてあげないとね。あの子達だって、あの子達なりにご主人様を選ぶ権利はあるわ」

 闘士と風――。

 そんな愛称と呼ぶのにもあまりに簡素で、まともな名前さえあの子たちには無い。
 管理局の思惑から外れた試作機で、失敗作。本当に虚しい名前しか与えられていないではないか。

「なんだか……熱入ってますね」
「一日中ここに座ってればストレスも溜まるわよ」

 肩は凝るし、座りすぎでお尻は痛いし、翠屋のコーヒーはとっくに切れてインスタントだし。

「ええと……では艦長、私から一つ提案があるのですが」
「なぁに?」
「え~、ごほん! 艦内の職員たちも流石に海に缶詰で参っています。ストレスを溜めたままでは体にも悪いですし、仕事もはかどりません!」

 一理というか、見事なまでに的を射た意見。

「そこでエイミィ・リミエッタは以下のプランを提案します。これは必ずしやアースラ全体にいい空気を流し込んでくれるだろうと信じております」

 立ち上がり、ガラにもなくエイミィはその場で敬礼をした。自信に溢れた声は疲れた私の耳にはひどくミスマッチに聞こえるわけで。

「そういうわけで艦長――」

 そうしてエイミィのとんでもない提案が発表されて一秒後、私は特に気にすることもなく首を縦に振っていた。
 
* * *

「…………ねぇ、すずか」
「なに? アリサちゃん」
「ほんとにここでいいわけ?」

 見上げた表札には『ハラオウン』と書かれている。さらに見上げると赤い屋根が目に映った。
 白い壁は照り返しで一層色を増し、窓は青空を映し、門から覗けばそれなりに広い庭が見えた。
 
 これはどうみてもごくふつ~~の二階建てである。

「うん、そうだと思うけど……」
「管理局っていうより町内会の間違いじゃないの?」

 秘密組織といえば人里離れた山の中で誰にも気づかれないように姿を隠していたりするものじゃないのかしら……。
 アタシ的には拍子抜けというか、期待を見事に裏切られたようで微妙な気持ちだ。

「でもエイミィさんから住所も聞いてるしここで間違いないと思う」

 それだけ言ってすずかはインターホンを押した。でも聞こえる音はやっぱり普通のチャイム音で、突然異世界に飛ばされるとか突飛な展開もない。

『……はいは~い、残念ですけど新聞の勧誘は間に合ってま~す』
「…………」

 なんというかリアクションも至って普通じゃない……。

「あの……こちらはハラオウンさんのお宅でよろしいでしょうか?」
『あっ、すずかちゃん? ちょっと待ってて』

 プツッ、と切れてしばし沈黙。
 そうしてドアが開くと見知った人が顔を出した。

「やぁやぁ、お二人さんいらっしゃ~い!」
「こんにちわエイミィさん」

 笑顔でお辞儀をするすずかにアタシも一緒になってお辞儀。帰り際に見たエイミィさんは青い制服姿だったけど、今日はこれもまた普通な私服姿。

 やっぱり町内会の集まり?

「うん、二人とも元気そうで良かったわ。まぁ立ち話もなんだし、ささっ! 入った入った!」
「おじゃまします」
「……おじゃまします」

 なんだか近所に住む気さくなお姉さんって感じだ。それ以外に時空管理局とか、魔法使いとか、SFじみた空気は全く漂っていなくて。

「休日なのにお邪魔しちゃってご迷惑でしたか?」
「全然! だって私たちにとっちゃこの世界の休日は当てはまらないしね。むしろ年中無休だし」
「いつもご苦労様です」
「仕事だもんね~、あっははは!」

 玄関を上がって、リビングに通されて、ソファーに腰を落ち着ける。それまでエイミィさんは始終柔和な顔で面白おかしく話をしてくれた。
 やっぱり普通のお姉さん、って感じばかりがアタシの中で増えていく。

「二人は何が好き? 一応紅茶、コーヒー、緑茶に抹茶、ジュース各種取り揃えておりますが」
「じゃあ紅茶で」
「アタシも同じので」
「インスタントだけど……オーケー?」
「気にしませんよ、エイミィさん」

 二人の会話を聞いていてちょっと思う。
 失礼な例えだと思うけど、これはどう見ても庶民の家にお招きただいたとしか思えないような会話じゃない。

「いや~お嬢様だから高級ブレンドの紅茶しか口にしません、なんて言うと思ったから」
「でもインスタントなんて口にしたことはないんですけどね」

 残念ながら鮫島に入れてくれる紅茶はいつだって高級茶葉100パーセント使用である。なのはの家に行った時だって喫茶店の家柄からインスタントなんてものはないわけで。

「……ジュースのほうがいいかな?」
「いえ、お構いなく」

 お相伴に預かる身としてわがままは言っていられない。立派なレディは小さなことに目くじらを立ててはいけないのよ。
 それにインスタントな紅茶も、本音を言えば結構どんなのか興味があったり。

「じゃあすぐに入れるね」
「はい、すいませんお手数かけて」
「いいのいいの」

 台所へと向かうエイミィさんの後ろ姿を見つめながらアタシは隣のすずかに声をかけた。

「ねぇ、ここって本当に管理局?」
「た、多分……かな?」
「あの戦艦って実は壮大なドッキリなんじゃないの?」

 ちょっと見回しても、ますます普通の家って事実だけが濃くなっていくばかりだった。
 疑問符が頭の中でぴょこぴょこ動き回っている。
 もしかしてアタシたち遊ばれてる?

「はぁい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「それじゃいただきます」

 真っ白でまっさらなティーカップはこれまた新鮮な印象。いつも通りの色で、底に沈んでいるピラミッドみたいなものを除けば普通に紅茶している。
 きっとこの物体がコマーシャルに出てきたりするピラミッド型ティーパックなるものに違いないのだろう。
 実際に見るとなんていうか……すごくシュール。

「……味はどう? やっぱり全然違うとか」
「う~ん、あんまり変わらない気がするけど……」
「なんていうか……紅茶よね」

 顔を見合わせてう頷きあって。すずかも感想は同じらしい。
 確かに香りが心なしか弱かったり、何か味気ない気もしなくはないけど……出来合いならこれはこれで及第点なんだと納得することにする。
 こういうことを言うのは場違いな気もするけど贅沢は敵ってやつね。

「お嬢様方のお口に合いまして光栄でございます」
「そんな別にそんな気をまわさなくても良いですよ」
「そうですよ、なんだか逆にこっちが肩が凝る感じだし」

 なんというかこれも新鮮な感じ。
 学校でも元々良い所の子ばっかりだからそういう態度を取られることなんて全然ないし、大体アタシはそんな特別扱いはあまり好きじゃないし。

「そう? じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな……っていっても急にテンション高くなったりするわけじゃないんだけどね」

 一緒に持ってきたクッキーをかじりながら苦笑い。そのままアタシたちにウィンクしておどける。
 アタシたちもそんなエイミィさんに思わず笑みをこぼした。

「さてと、じゃあ何から話そっか」
「アタシはそれなりにユーノから教えてもらってるし……すずかは?」
「私は……うん、エイミィさんに結構話してもらったけどやっぱり、かな」

 すずかも肝心な所は知らないんだろう。一昨日は時間が無かったせいでユーノから教えてもらったことも輪郭程度のこと。
 一年前に魔法使いになって、悪の魔導師が計画した野望を叩き潰した――なんてくらいじゃ満足できないでしょ普通は。
 今日は日曜日なんだしそこのところハッキリさせたい。

「じゃあ確認も含めてもう一度、といっても私たちが首を突っ込んできたところから説明したほうが良いかな?」
「そうですね、お願いできますか」
「もちろんよっ、と!」

 半分だったクッキーを口に押し込んでエイミィさんは立ち上がるなり、いきなりリビングから出て行こうとする。

「え、エイミィさん?」
「どうせ話すなら映像交えたほうが分かりやすいでしょ?」

 それに、と付け加えて振り向くエイミィさん。何を思いついたのかなんだか怪しい笑み一つ。

「魔法のことならアースラへ、レストハウスなんかじゃ雰囲気合わないでしょ。顔に書いてあるぞアリサちゃん!」
「ふへ!?」

 エイミィさんの一言に一気に顔が熱くなる。顔に出さないようにしていたのにあっさり見抜かれてたなんて。
 おまけにこんな素っ頓狂な声出しちゃうし……。
 隣ではくすくすとすずかが笑っている。我ながらなんて失態、情けないわ。

「んじゃ、お二人様ご案内って事で」

 悪戯がうまくいった子供みたいにノリノリなエイミィさん。上機嫌なままリビングの出入り口で立ち止まって近くの壁を何やら指で叩いてなぞる。
 なに? って思うより早く今度はドアがキラキラ輝いた。開ければそこに見えるはずの廊下や玄関は全然見えなくなっていて。ドアが嵌っていた空間には、光の膜が貼り付いたみたいに真っ白に光り輝いていた。

「うん、トランスポーターの調子はよし。それじゃ!」

 普通にエイミィさんは光の中へ入っていく。あっという間に全身が目の前から消えると、すぐに腕だけが飛び出してきて手招きをした。

「すごいわね魔法って……」
「そうだよね、なんだかすごくわくわくする。私たちも行こっ!」

 ちょっと呆気に取られてるアタシの手をすずかは有無を言わさず引っ張った。すずかの弾む声を聞きながらアタシたちもエイミィさんの後を追う。
 ドアに飛び込む時ちょっと足が竦んだけど、すずかのおかげでそれ以上躊躇も出来ず連れ込まれるわけで。
 物怖じしていないのは肝が太いのか。それともこれはすずかにとってはまだ序の口のなんだろうか。

 そうして気がつけば、そこはもうあの海に沈んだ不思議世界だった。

* * *
 
 巨大なモニターを前にしてエイミィさんがキーボードを叩くたびいろんな映像が映し出されていく。
 目を回しそうな勢いでキーボードを操作するエイミィさん。華麗な指捌きは彼女がどのくらいこの職と共に歩んできたかを語っていた。

 スライドショーみたいにめまぐるしく変わる映像。なのはちゃんやユーノ君が、そしてもう一人私たちがとても知っている子が魔法を使っている。

「……これで大体、私たち時空管理局が今回の事件でやってきたこと。これ以前はやっぱりユーノ君に聞いたほうがいいと思うかな」
「はい、今度聞いてみます」
「そうよね。アタシも結局全部ユーノに話してもらったわけじゃないし」

 なんだかもう私たちもすっかりこの世界に浸かっているような感じがする。ビームみたいな光線がびゅんびゅん飛び交っても、金色に光る稲妻が大地を割っても、当たり前のように受け入れてる。
 慣れって怖いなと思う反面、私にはまだ受け止めきれない事実があるわけで。

「フェイトちゃんも魔法使いで、それもなのはちゃんと戦ってたなんて……」
「見当はついてたけど……でもフェイトってそんな境遇の子だったなんて信じられない」

 掠れた声が隣からは聞こえてくる。
 私も心が痛くて、フェイトちゃんの気持ちを思うとすごく苦しくなる。
 実の親に拒絶されて、しかも自分が本当は普通とはちょっと違った存在で。私だったら、なんて考えたくはなかった。こんなの誰だって辛いに決まってるんだから。

「でもフェイトさんは大丈夫よ。なのはさんやうちの息子、それにみんながいてくれたから自分のことちゃんと始められてる」
「リンディさん……」
「こんなことあってもフェイトさんのこと……頼めるかしら」

 傍らに立っていたこの艦で一番偉い人――リンディさんが私たちに語りかける。

「……友達に決まってる……決まってます、ひぐ……」
「私もアリサちゃんと同じ気持ちです。どんなことがあってもフェイトちゃんは私たちの友達です!」

 戸惑うことなんてない。躊躇うことなんて絶対ない。こんなことで友達の絆は切れるわけがないんだから。

「ありがとう、きっとフェイトも……じゃなかった、フェイトさんも喜ぶわ」
「はい! 四人で会えたらいっぱい楽しいことしたいと思います!」

 うん、と目を擦りながらアリサちゃんも頷いてくれる。
 ほんとに早く会いたい。きっとすぐに訪れるその時のビジョンが私の中でどんどん形になったいく。

「それにリンディさんみたいな人がお母さんになってくれるなんて、フェイトちゃん幸せ者ですね」
「まだ正式に決まったわけじゃないわよ。私が一人思い上がってるだけで、フェイトさんにもまだ答えを聞いてないし……もう、エイミィ余計なこと喋りすぎよ」
「フェイトちゃんならきっと大丈夫ですよ」
「そ、そうかしら」

 顔を赤くしながらリンディさんが恥ずかしそうに笑った。その笑顔を見るだけでリンディさんがフェイトちゃんのお母さんになれるって私は自信を持って言い切れる。
 理由はうまく言い表せないけど、なんだか心の中に予感めいた感覚があったから。

「それにしても毎度毎度エイミィには参ったわね」
「どの道、駐屯してるんですから海の中より町の中に対策本部置いたほうがいいじゃないですか」
「職員たちのリフレッシュも兼ねてって所があなたらしいわ」
「あはは、私たち魚じゃないんですから」

 ちょっと茶化しながらエイミィさんが頭を掻いている。
 私にとっては潜水艦で潜るみたいに海の中を自由に見渡すことが出来るのは夢みたいですごく楽しい。
 だけどここで一週間暮らせなんて言われて頷けるかと言うと、

「やっぱりお日様浴びないと健康に悪いですよね」

 やっぱり無理。

「夕日が見られないんでアタシもパスです」
「あっ、そうそう。ほんとに綺麗だもんね海鳴の夕日」

 ピッ、と電子音が鳴って今度はモニターがオレンジ色に染まった。
 映し出されたのはジオラマ写真みたいな雄大な夕日の映像。海浜公園からの眺めにちょっと似ているけどなんだか少しだけ違う。

「アースラの観測機器なら海上からだろうがどこだろうがバッチリ超高画質! ちなみにこれは昨日の夕日ね」

 目に映るのはオレンジに揺らめく海と水平線、それに負けないくらい茜色に燃える空と太陽。
 段々と太陽が顔を隠せば大空は夜を連れて、すぐに輝きだす一番星。月もほんのり色づき始めていてこのままアルバムに飾りたいって心から思う。

「なんだか長い間戦艦での生活が染み付いちゃってるとこういう景色も忘れそうだわ」
「だったら艦長も見に行けばいいじゃないですか。ちょっとぐらいなら席はずしても大丈夫ですよ」
「流石にそうもいかないでしょ」

 やっぱりなんだかんだで忙しいんだな……提督って。
 向こうの世界の組織体制がどうなってるかは分からないけど、どこの世界もやっぱり上の人は大変なんだ。
 私もパパとママがいつも忙しくしているのを見ているからしみじみと感じてしまう。

「この世界の事件が全部終わった時……。そのときまでこの景色を眺めるのは取っておくとするわ」
「じゃあ約束ですよ艦長」
「ええ、頭の片隅で埋もれないように気をつけるわね」
「そういえばそろそろ外もいい時間かな」

 またコンソールを叩く音が響くと、画面に現れたのはさっきのと負けず劣らず赤らんでいる空。
 どうやらそろそろお暇の時間になってきたみたいだ。

「残念……もう帰る時間なのね」
「いつだって千客万来だから、アリサちゃんそんなしょぼくれない」
「そうだよ、私たちいつでも来ていいんだから」
「そうね、流石に遅くなると鮫島に怒られるし」

 私もあんまり遅くなるとノエルに怒られちゃうかも……。
 こんな所にいることがバレたらそれこそ大変なことになりそうだし。

「じゃあ今日は解散と行きましょうか。エイミィ、トランスポーター開くのお願いね」
「アイアイサー!」

 元気な掛け声がブリッジの中を駆け抜ければ、私たちの後ろで生まれる真っ白な光。

「そんじゃお二人さんレストハウスまでごあんなーい!」
「今日はありがとうございます」
「なのはやフェイトのことは任せてください!」

 口々に感謝の言葉を述べて、小さくお辞儀をして。

「ええ、私たちも影ながらサポートできるように頑張らせてもらうわ」

 手を振るリンディさんやエイミィさんに負けずに大きく手を振って私たちは光をくぐる。

 そうすればそこはもう日常の世界だった。

* * *

「いってきます……」

 あの日が終わってもう二日が経った。

 今日は月曜日。もちろん学校に行かなければならない。
 玄関で靴を履いて顔を上げる。なんだかドアがいつもより大きく見えた。すごく重そうで開けられない……そんな気がした。
 でも本当は開けられないっていうより……開けたくないんだと思う。

「なのは」
「どうしたの、お母さん?」

 朝ごはんの片付け終わったのか後ろからお母さんがやって来る。背中で聞く声はいつもみたいな元気はなくて、どこか寂しい。

「あのね、なのは……あまり根つめちゃだめよ」
「わたしは……大丈夫だから」

 嫌だな……わたし、嘘ついてる。
 お父さんに人とお話しするときは目を見てって言われてるのに、わたしは靴紐を結ぶ振りして振り向かないでいる。
 きっと今お母さんの顔を見たら全部バレちゃうから。
 だから嘘ついてる。

「それならいいの。でもね、自分の悩みだからって自分ひとりで抱え込まないで。お母さん、元気じゃないなのは見たくない」

 チクリと胸に針が刺さった。

「お母さん、いつもここにいるから。だからなのは、辛くなったらいつでも……ね」
「……うん」

 顔を見なくてもわたしが辛いのお母さんはお見通しだ。やっぱり敵わないよ……ユーノくんの言ってた通りかな。
 家族って絆に嘘はつけない。うん、ほんと。

「ありがとう、お母さん」

 でもわたしは大丈夫。だって本当なら悩んでる時間だって今はないんだから。
 もう絶対、あんなことは起こさせない。友達を傷つけさせない。
 そうなる前にジュエルシードを封印するって決めたんだ。

「いってきます」

 いつも以上に左手に力を込め、わたしはドアを開けた。
 
* * *

 なのはを見送る――朝の日課を終えた僕にとって、今やるべき次のことはアースラへ行くことだ。

「座標確認…………転送」

 昨日付けでアースラの職員が正式にこの世界に駐屯することが決まった。
 本局についたクロノやフェイトの訴えもあって、上の人もようやくこの事態に重い腰を上げるようになったようだ。
 だけど実際アースラの修理やジュエルシードに対しての武装局員の派遣はまだまだ先になるそうだ。
 あっちもあっちで大変なことが起きているらしい。それを除いても急いでもらいたいのは僕だけじゃなくて、きっとみんなの本音だ。

「庭に転送ってのもなんだか変な気分だなぁ」

 とはいっても、道端に突然人が現れてもそれはそれで騒ぎになるのは目に見えている。
 駐屯にあたっては仮本部を町の中に置くことになった。
 本部ならアースラだけで他に設置する意味なんてないと思ったけど、エイミィさん曰く「精神衛生上好ましくない!」なんて意見でこうして空き家に機材を運び込んでいるらしい。

「あっ、ユーノ君いらっしゃい! どうぞあがってあがって!」
「あっ、お邪魔します」

 縁側にちょうど出てきたエイミィさんに頭を下げて僕も家の中へ入っていく。縁側からなんて無礼なのでちゃんと玄関からというのは言うまでもない。

「どう! この家借りるのに結構苦労したんだからね」

 えっへん、なんて威張りながらエイミィさんが家の自慢をする。テレビもテーブルも、電化製品や家具は完全に揃えられ傍目では一般的な家庭にしか見えなかった。

「やっぱりお日様はいいわ。海の中なんて二泊三日で十分!」

 背伸びをしながらエイミィさんはため息をついた。本当に心底安心してのびのびしている。
 聞いた話では管理局から許可を貰っていなかった二週間は外で活動するなんて出来るわけもなくみんな鬱積した気持ちばかり溜めていたらしい。
 そりゃ普通いられもしない場所に閉じ込められれば気が変になるのも当たり前だ。遺跡発掘だってそんな閑散とした場所に何日もキャンプはしない。人間の精神というのは思いのほか脆いのだ。

「職員みんなの憩いの場所、海鳴アースラ支部! 魔導師だったらみなおいで……なんてキャッチフレーズもあったりね」
「なんか詰め所みたいですね」
「実際そうだから。みんなのコンディションを最高に保つ意味でもここほど優れた場所はないからね」

 エイミィさんの言葉になるほど、と頷く。

「作戦会議やジュエルシードの探索なんてのもここでやって、有事のときにだけアースラを使う。現地活動を許可されれば町に買い物とか出れて息抜きになるし、中継地点にするなら完璧でしょ」
「そうですね、なんていうか流石ですねエイミィさん」
「褒めるな褒めるな、照れるじゃないか~あっはっはっ!」

 やっぱり執務補佐官だけあってみんなのことを第一に考えている。こんな人がいるからこそアースラの人たちもあんな明るい雰囲気を保てるのだろう。
 少しはっちゃけすぎな気もするけどこれくらいが管理局では丁度いいんだと思う。

「それじゃユーノ君。私達も仕事始めようか」
「そうですね」

 言うなり開かれた転送ポートはドアに。家の一部が有効利用されているのは感心するとこなんだろう。

「そういえばなのはちゃんは?」
「おかげさまで魔力も何とか持ち直しました。戦闘にはまだ少し辛いところもあるけど僕が体を張るつもりです」
「頼もしいわね、流石なのはちゃんの未来の彼氏」
「か、からかうのはやめてください……」
「照れるな照れるな、余計からかっちゃうじゃないか~」

 こんな一面だけは治してもらいたいんだけど……。

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