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2007.10/01(Mon)

守り手 20話 


【More・・・】


「……なのはの方は怪我とかない?」
「…………少し疲れてるけど、大丈夫」
「……そっか、よかった」

 それだけなら安心だ。なのはも相当な魔力を使ったから何か悪影響が出ているかもしれないと思ったのは杞憂だったみたいだ。

「家の方とか大丈夫? 先に戻っててもいいよ」
「…………え? ご、ごめん聞いてなかった」
「……なのは、やっぱり疲れてるんじゃ」
「そんなこと……ないよ」

 それきり途絶える。残されたのは静寂と、空調の僅かな駆動音。
 ……なんだろうか、この微妙な間は。

「なの――」
「ユーノく――」

 綺麗に出だしが重なった。

「……先いいよ」
「いいよ、なのはこそ……」

 また沈黙。
 いつもと明らかに違う空気。部屋中に伝播して輪をかけて僕らの間を重くさせる。
 何かいけないことを言ってしまった? まだなのはは来たばかり。
 それとも寝てる間になにか無意識でしてしまった? 寝相はいいほうだ。
 自問自答してみても答えなんて出て来ない。なのはは相変わらず冴えない顔で座っている。

「えっとさ、怪我のことは気にしなくていいよ。リンディさんのおかげでだいぶ具合もいいし」

 右手を何度か開いて大丈夫なことを見せる。

「……わたしが回復できればよかったのに」
「魔法の資質は人それぞれだからそういうのはしょうがないよ」
「しょうがなくない……ユーノくんの足引っ張ってばかりで」

 陰りのある声。どこか自分に苛立ちを見せるようになのはは俯いたままになってしまった。

「なのは……?」

 そうして僕はなのはの肩が小刻みに震えていることに気づいた。

「わたし結局撃ってばかりで他に何もしてない……これじゃ足引っ張ってるのと同じだよ」
「足引っ張ってるなんて。僕はサポートだからそんなことは別に」
「……なのはのせいでユーノくんがいっぱい怪我したんだよ。なんでそんなこと言えるの?」

 上げた顔には赤い瞳とそこから流れた涙が頬を伝った軌跡。涙を拭うこともしないでなのははただその場でひたすらに泣き続けていた。

「守ってもらって、してもらってばかりでわたし何もして上げられてない!」
「そんなことないよ。なのはだって僕に夕食をご馳走してくれたじゃないか」
「だけどそれぐらいじゃ全然足りてないよ。……足りないよ」

 すでに目の前の女の子に強くて凛々しい魔導士の面影はなかった。ただ高町なのはという女の子がいるだけだった。
 しゃくりあげる度に涙が膝の上に染みを作る。自分の中から溢れる感情を抑え切れない姿は見ていてとても切なく、悲しくなる。 
 足りないなんて、そんなわけない。むしろ全くの逆だ。僕はいつだってなのはから貰ってる。だからなのはを守ろうと、支えてあげたいと心から思えるんだ。

「なのは……」

 伝えなきゃいけない。伝えて、涙を払って上げなきゃいけない。
 気持ちを伝える術。考えるまでもない。僕はなのはを抱きしめた。優しく、そっと包み込むように。
 ――しばらくそうした。やがてなのはが泣き止んだことを見計らってゆっくりと僕は伝え始めた。

「……僕はなのはが頑張っている姿を見れるのが嬉しいんだ」
「ゆーの……くん?」
「そんななのはをもっと見たい。だから僕は守って、支えて、手伝って、少しでもなのはの助けになれるように頑張れるんだ。……ちょっと無茶しすぎるときもあるけどね」

 囁く声には僕の気持ちを全て込めて。腕に込める力は少しだけ強くした。

「本当に貰ってるのは僕の方だよ」
「……でも」
「じゃあおあいこ。僕となのはは同じだけ気持ちをあげて、貰ってる。それなら、いいよね?」

 今だって僕はなのはから優しさを貰った。
 僕のために誰かがこんなに泣いてくれたりしてくれたことなんて今までなかったから。それだけ僕のことを思ってくれるなんてこんなにも嬉しいことはない。
 自惚れならそれでもいい。一人だった僕にも強い絆があることをなのはが教えてくれたことが何よりも嬉しいから、そんなこと構わない。

「……でも全部おあいこにしたくないよ」
「それなら僕だって同じ。……その、今から僕が言う気持ちはなのはより大きい。でも、もしかしたらなのはにはないのかもしれない」

 今まで胸に顔を埋めていたなのはがゆっくりと顔を上げた。どこか不安の色が混じって眼にはまだ涙の粒が残っていた。
 そっと指で涙を払った。払いながら僕はもう一度強く決めた。

 この胸の中の想いを全て伝えてしまおうと。

「なのは」

 名前を呼ぶ。

 別の世界の人間とかそんなの関係ない。ただ純粋に僕の気持ちを伝えたかった。
 勇気を持って一歩踏み出す。今までなら言えなかった言葉。でもリンディさんやアルフ、そしてフェイトの言葉が今の僕の背中を押してくれた。

 ――想いはきっと、届くよ。

 だから迷わない。届けよう、誰にも負けない心のかたちを。

「好きだよ」

 その瞬間は風よりも早く過ぎ去った。あまりにそっけなく、飾り立てない言葉。それでもその中の気持ちは本物だから。
 なのはは僕を上目に見つめたまま静かに僕の言葉を受け止めていた。

「…………ずるい」

 すねたような声が聞こえた。

「ずるいよ、ユーノくん」
「うん、ずるいよね」
「そうだよ……だって」

 僕の腕からなのはが抜け出る。そうして立ち上がって腰掛けたのはベッドの淵。僕となのはの距離が遠くなって、また近くなった。
 言いかけの続きは背中越しだった。

「その気持ちはわたしの方が大きいに決まってるよ」

 振り向いたなのはの顔にははにかみが広がっていた。そのまま照れ隠しとも戸惑いともとれるような笑みを浮かべながら僕の手に手を重ねる。

「ずっと考えてたの。わたしにとってユーノくんはどんな人なのかって」

 視線を逸らして躊躇うような仕草一つしてなのははゆっくりと語りだした。

「大切な友達だって思ってた。でもユーノくんがいないと心の中がすごく寂しくなって、それからユーノくんと一緒になった時心の中が暖かくなって……」
「…………」
「ユーノくんが怪我したら頭の中真っ白になって……無茶しちゃったりもするけど」

 僕に合わせるようになのはは最後に付け足して照れ笑い。

「ユーノくんと一緒にいたいって初めて強く思った。優しくて、真面目で、しっかりしてて……それとかっこよくて」

 緊張しているのかなのはの手が僕の手を強く握る。もちろん僕だって緊張してるのは同じだ。
 潤んだ瞳に朱に染まる頬。心臓は駆け出し、顔がどんどん熱くなって思わず僕は息を飲んだ。

「だからそんなユーノくんの一番星になりたい。わたし――」

 俯き加減だったなのはが僕をしっかりと見つめ直して、

「ユーノくんが好きです」

 心のかたちを告白した。

 ドクン、と心臓が一際大きく脈打つのを体の奥から感じた。

「ねぇ、ユーノくん……」
「なに?」
「恋人……って言っていいんだよね」

 すごく心地よくて照れくさい響きだった。そう僕らは互いを想いあい、恋焦がれてる。それはつまりそういうことなのだ。

「多分……実感沸かないけどね」
「今なったばかりだもん」
「だね」

 なのはの言う通りだ。別に恋人同士になったからって今の関係が一瞬で変わるわけではない。

「じゃあユーノくん、お願い一つ聞いて」
「お願い?」
「なのはの世界にはね、恋人同士がするおまじないがあるの……それがしたい」

 シーツのこすれる音がした。
 なのはが少しだけ体を僕の方へ寄せていた。

「ユーノくんの世界には、そういうのあるの?」

 きっとそのおまじないは僕の世界でも一緒だと思う。はっきりと言い切れないけど、なのはがしたがってることはなんとなくわかったから。

「あるよ……」

 言うなり僕はなのはの手を強く握り締めた。
 僕たちはまだまだ子供だけど、別にそれをしちゃいけないって決まりはない。むしろしていいはずだ。僕らは恋人同士なんだから。

「じゃあなのはに……ちょうだい」

 なのはの双眸がゆっくりと下りていく。

「うん……」

 僕は軽く息を吐いてなのはのそこへ顔を近づけていく。
 鼻先になのはの吐息がかかりなんともこそばゆい。でもなのはだって同じようにそう感じてるんだろう。二人の距離はもう十センチもないのだから。
 相変わらず動悸は収まらない。むしろ強くなる一方。もしかしたらなのはに聞こえているくらいに大きく感じているのは気のせいだろうか。

 五センチ、三センチ、一センチ――……。

 触れ合う瞬間。僕は心の中でもう一度素直な想いをなのはへ告げた。

(……大好きだよ、なのは)

 ――ファーストキス。

 唇に温もり。眼は閉じているからなのはの表情は分からないけど、きっとすごく赤くなってるのは間違いないだろう。
 僕もきっと赤い。リンゴよりも赤い。
 初めて重ねた唇は柔らかくて温かくてなんだかお菓子のようで、不思議な感じがした。
 時間は意味を失くし、瞬間なのにすごく長くて、それこそ永遠のように思えて。それでもいいと思って。

 気がつくとどちらからでもなく唇を離してて、相変わらずのなのはが目の前にいた。

「あはは、ユーノくん真っ赤だよ」
「なのはだって赤いくせに……」

 今更になって心のそこから恥ずかしさが溢れ出てきて、僕は堪らず眼を逸らしてしまった。

「あー、ずるいよユーノくん。わたしだって恥ずかしいの我慢してるんだよ」
「ごめんなのは……なんだか可愛すぎて見れない」
「ふぇ!? そ、そんなこと言うなんてもっとずるい!」
「本当にごめん、許して」

 なんでこうなんだろうか、僕は。やることやって後は投げてしまうなんて。
 でも本当に恥ずかしいのは事実で。さっきしたことを思い出してもっと恥ずかしくなって。
 恥ずかしさを抑える魔法とかなんでないのかな……。

「わたしを見たら許してあげる。だからほら、ユーノくん!」

 ぐいっ、と腕が引っ張られてバランスを崩す。いつの間にかなのはは僕の目の前に回りこんでいてそのせいで僕はなのはの胸に飛び込む形で倒れこんでしまった。

「むぐっ!」
「きゃぁ!?」

 鼻の中いっぱいに満たされるなのはの匂い。服越しになのはの体温が伝わってきてある意味これはこれでいいかもしれない。

 ……すぐ離れよう。

 そう思うつかの間にお約束というものは必ずあるわけで。

「やっほー! ユーノ君起きてる? このエイミィが腕によりをかけておかゆをつくってきたんだけど……」

 空気がいろんな意味で凍りついた。
 なのはのせいで見えないけどエイミィさんの語尾が思い切り引きつっていくので状況は大体わかってもらえたのだろう。

「……えっとねぇ、あは、あっはははははははは」

 エイミィさんなりの気の利かせ方なのだろうか。場を和ませようとする笑いは、正直余計に気まずさが増すだけのものだったのは皮肉としか言いようがないけど。

「おかゆはおいておくからしっかり食べてね……」

 泥棒ですか? とでも言いたくなるようにそろりとドアへと後退っていくエイミィさん。巻き戻しでもしているかのように動きはなめらかだった。   

「お邪魔虫は退散するから、まぁごゆっくり」

 さっき誰かさんが言っていた言葉を最後にとてもすがすがしい笑顔でエイミィさんは去っていった。
 後には僕ら二人と新しく来た住人のおかゆの入った土鍋だけが残された。

「…………えっと、これは非常になんというか、不可抗力で……」
「なのは、もうエイミィさん出て行ったから」
「うん」

 多分今の言い訳したところで解決にはならないだろう。
 さっきの雰囲気は夢だった。そうとしか思えないほどあっけなくガラガラと崩壊した。

「……その、ユーノくん」
「うん、なに?」
「おかゆ、冷めちゃうと悪いし。食べよっか」
「そう……だね」

 ちなみにエイミィさんのおかゆは塩加減からして絶妙でなのは共々おいしくいただきました。ごちそうさまですエイミィさん。

 そんなこんなで二日が経って、傷が完治した僕はいつもがある元の場所、高町家へ帰ることになりました。
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