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2007.10/01(Mon)

守り手 19話 


【More・・・】



 一人目 クロノ・ハラオウンの場合


 ――どこか見覚えのある天井。

 気がついて最初に思ったことだ。

「…………っ!」

 刺すような痛みが右手を襲う。見れば包帯でぐるぐる巻きにされて所々に赤が滲んでいた。

(そっか……あの後僕は――)

 おぼろげながら思い出した。
 確かアースラに転送されてからみんなの顔を見た瞬間、糸が切れたように僕は昏倒したんだっけ……。
 意識してしまえば全身が痛んできた。ヒュードラの砲撃からなのはを庇ったり、限界を遥かに超えた魔力の制御。身体も心もヒビだらけでボロボロ。
 それだけの負荷をかけたんだから当然と言えば当然だけど。

「どのくらい経ったんだろう」

 ただでさえ次元空間を航行しているせいで時間の概念があやふやなのに、この部屋には窓もないのだ。連絡用のモニターはあるもののそれだけでは時間間隔が退化していくを止められない。
 それにしても酷い怪我だ。これならフェレットの姿で治癒させた方が早く治るはず。

「入ってきた人はびっくりするかもしれないけど……」

 精神を集中し、いつもの姿を思い浮かべる。 

 そして変身――

「……あれ?」

 できなかった。

「こんなのも使えないくらい魔力がないのか」

 変身魔法なんて僕ら部族にとって息をするのにも等しい魔法だ。それが使えないなんてどうやら見当外れの魔力を失っているみたいだった。
 落胆する。そんな時唐突にドアが開いた。

「……なんだ、起きていたのか。てっきり後三日は起きないと思っていたんだが」

 憎まれ口と共に姿を現したのはクロノだった。目覚めて一番の人間がこいつなのはなんとも寝覚めが悪い。

「お生憎様。僕だってそんなやわじゃないからね」
「ああ、それだけ減らず口が叩ければな」

 それだけ言うとクロノはベッドの側においてあった椅子にどっかりと座った。

「しかしまぁ……お前には負けたよ」

 呆れ気味にクロノが呟く。よくよく見ればクロノの服装もいつもの正装でなくインナーシャツ一枚着ただけのラフな格好だ。額、腕と包帯が巻かれ、シャツの隙間からも包帯が見え隠れしていた。

「なのはを先行させて、そこまではよかったんだが……」

 言ってため息。

「あんなアホ魔力受け切れなんて酷はないだろう」

 あの時のヒュードラの衝撃波か。そういえばクロノが戦っていたことなんてすっかり忘れていた。

「正直、自分を褒めてやりたいくらいさ」
「苦労話するために来たのかよ。それなら僕は寝るぞ」
「まぁ、待て。話はここからだ」

 突っかかってくることもなく、どこか疲れを含ませながらクロノはごちる。

「前々から結界魔法については認めていたが……おまえの能力はなのはの魔力同様、馬鹿規格だよ」
「リンディさんの助けがあったからできたんだ。僕は出来ることをやっただけだよ」
「だけど見ず知らずの術式をいきなり使いこなせばそう言いたくなる。空間を湾曲させる魔法なんてSランク級だぞ」

 褒められているのだろうか。相手が相手だけになんだか複雑だ。
 それを一区切りにしてクロノは席を立つ。話はもうおしまいなのだろうか。
 別に構わないけど。

「結局なにを言いに来たんだよ」

 ただ一方的に話を聞かされた身としてはクロノの意図だけでも知らないとどうにも釈然としない。
 クロノはつかつかとドアまで行くとまたため息をついてしょうがないと言わんばかりに口を開いた。

「つまり砲撃魔導士には君しかお似合いな奴がいないと言うことだ」

 それだけ言うとクロノは部屋から出て行った。
 一人残された僕はただぽかーんとしてクロノの言葉を反芻していた。

(砲撃魔導士……? ……なのはのことかな?)

 お似合いと言えばお似合いだろう。大砲に盾が揃えば死角はほぼないだろうし。 
 今思うとなんでそんな真面目に考えていたのか。

 まさかこれが僕へのクロノなりの敗北宣言でだったなんてこの時の僕は微塵も考えていなかったりする。

* * *


 二人目 リンディ・ハラオウンの場合


 それからしばらく時間が経った。

 今目の前にいるのはこのアースラで最も権威ある人物。

「それでね、ぜひぜひうちの結界魔導士になって欲しいのよ~」
「いや、でも僕は……」

 そうはあんまり見えないリンディさん。

「お給料は弾むし、発掘の仕事にも専念できるようにスケジュールは余裕持たせるし」
「そ、そんな一応そういうことは部族の人に聞いてみないと」

 あの時のなのはの気持ちが分かる。なのはは自分の世界の決まりでなんとかリンディさんをかわせたけど、流石に同郷の僕はこの状況をどうやって乗り切ればいいのかあたふたするばかりだった。

「そうね……これだけ食い下がっても駄目なら仕方ないか」
「すいません」
「いいのよ、私が誘っているんだし。じゃあ無駄話は置いておいて本題に移りましょう」

 リンディさんが手を差し伸べ僕の腕を取る。摩るようにして腕の具合を確かめているみたいだ。

「応急処置だけじゃこれくらいが限界か……」

 開いていた手が手の甲へ掲げられた。柔らかな輝きがたちまち包む。

「久しぶりね、治癒魔法使うのも」

 僕の魔法とは比べ物にならないくらいの魔力。今まで痛みで曖昧だった神経が修復されていくのがはっきりとわかった。

(これが提督を任せられるほどの実力を持つ魔導師の力なんだ)

 僕が感服している間にもリンディさんは甲に当てていた手を今度は腕の方へずらしていく。

「一体どれくらいの無茶をすればこうなるのかしらね」
「け、結構無茶しましたから」

 やれやれといった具合にリンディさんは表情を崩し僕を見つめる。少し気恥ずかしくなって僕は取り合えず笑って誤魔化した。

「裂傷、出血多量、骨にはヒビだらけ。おまけに魔力の枯渇…………頑張ったのね、なのはさんのために」
「やれるべきことしただけです。それになのはには傷ついてもらいたくないし」
「……いいわね、好きな人がいることは」
「え、えっ!? ぼ、僕はなのはのことをそ、そんな風にはっ!」

 さらりとこの人はとんでもないことを言う。
 突然の不意打ちに僕は図星だといわんばかりに取り乱してしまった。これじゃはい、そうですって頷いてるようなものだ。

「ふふ、隠さなくてもいいわよ。もう、ほんと微笑ましいわ」
「それに仮にそうでも……あくまで仮にですよ。僕となのはは違う世界の人間であって……」
「それが何か問題でも? 今はそんなことに拘る時代じゃないわよ。むしろいいじゃない国際結婚なんて」
「け、けけ結婚!?」

 からかわれている。絶対にからかわれている。そういえばこの人クロノの母親だったんだ。
 クロノの口の悪さはある意味この人からの遺伝ではないのだろうか。失礼だけど思わずにはいられない。

「大体、僕はあの世界の魔力とそんなに相性良くないから生活するなんて」
「そういうのは気持ちの持ちようよ。自然体でいればいつの間にか馴染んでるものよ。そういえばなのはさんの世界にちょうどいい言葉があったわね。確か……」

 顎に指を添えしばし思考。そうして思い出したのか二、三度軽く頷いた。

「郷に入りては郷に従え、でしたっけ?」
「僕に言われても……」
「つまりはそういうことよ。私も以前はそういう感じだったからわかるのよ」
「リンディさんですか?」

 頷きつつリンディさんが光に包まれた。光はすぐに散り、再び現れたその姿は元の大きさよりずっと小さい。
 あの時の妖精姿でリンディさんが目の前で飛んでいた。

「私もね、若いころは潜在的な魔力が大きすぎて他世界との調律に苦労したの。大抵現場のときはこの姿だったわ」
「そうだったんですか」
「でね、ある日ある人に言われたの。恐れないで、勇気を持って飛び込んでみろ、ってね」
「……どうなったんですか?」
「ん? もちろんへっちゃらに決まってたじゃない」

 部屋の中をくるくると飛びながら嬉しそうに語る。その声はとても無邪気できっといい思い出だったことを思わせる。

「それからね。異世界の人と出会うときはまずその世界の文化を知る。知って、心を開いて、気持ちを合わせて」

 だからなのはと最初に会ったときもあんな部屋にしておいたのか。今更ながら、あの部屋に込められたリンディさんの思いが改めてわかった気がする。
 いい人に出会えたんだな、リンディさん。

「さてと、そろそろ戻らないとエイミィに怒られそうね」

 また変身。見慣れたリンディさんになる。

「じゃあ私はお暇させてもらうわね」
「はい」

 席を立ってドアへ。ドアが開いてリンディさんが出て行こうとする。

「あ、あのリンディさん!」

 反射的に僕は呼び止めていた。とても気になったことがあったから。
 リンディさんにそこまで影響を与えた人がどんな人なのか知りたかった。

「その人は今、どうしてるんですか?」
「あの人のこと?」
「はい、嫌ならいいんですけど」
「別に構わないわよ、とてもいい人だから。でも真面目すぎるのよ、出張で家空けっぱなしだし」

 口ぶりから、多分その人はリンディさんの夫でありクロノの父親なんだろう。クロノの性格からするとよっぽどの真面目な、立派な人だったことが想像できる。

「これ以上はなすと惚気になりそうだからちょっと別の話しましょうか。本当は後にしておくつもりだったんだけど」
「はい?」
「実はね――」

* * *


 三人目 フェイト・テスタロッサとアルフの場合


 三人目の来訪者はちょっとまどろんだ後にやってきた。

「こりゃ酷い怪我だね、ほんと」
「いてっ! ちょ、痛いアルフ」

 お見舞いの挨拶は随分と痛いもので始まった。
 包帯に興味を持ったのか、それとも純粋に怪我の心配してかアルフが僕の腕を掴む。当然傷は癒えてないのでとても痛い。

「アルフ、ユーノが痛がってるから」
「あっ、ごめん。あんまりに痛々しかったからさ」
「いいよ」

 しゅんとして縮こまるアルフに苦笑しながら僕はちらっとフェイトの様子を見た。
 別段、変わりはない。もしかしたら落ち込んでいるかもしれないと思ったけど取越し苦労だったのか。

「どうしたの? ユーノ」
「ん? フェイト大丈夫かなって」

 隠してもしょうがないから正直に答える。
 フェイトは少しだけ表情を曇らせ俯いた。

「そうだね……元気って言えば嘘になる」
「フェイト……」
「でもね、あの子は会いたかっただけだから。アリシアと母さんに」

 顔を上げる彼女の顔には不安はない。その顔はとても穏やかで優しさに溢れていた。

「ヒュードラに呼ばれたとき小さいころの記憶、アリシアの記憶が私に教えてくれたんだ」
「記憶が……?」
「うん。だからあの子の事もわかったから。優しかったことが」

 見上げるように視線を移しながらフェイトは語る。僕にはどこかその『優しかった』は別の人物にも向けられてるように感じた。

「元々あの子は時渡りの竜っていう竜だったんだ」
「それって伝説の類じゃ……」

 自らの意思で自由自在に様々な次元へ旅をすることが出来る幻獣の竜。その竜が扱う転移魔法は今現存するどの空間移動系の術式より優れているとされ当時の研究者はこぞってこの竜を捕獲しその生態を解き明かそうとした。
 けどそれを嘲笑うのかのように竜たちは次元を越えその姿を人に晒すことはなかった。故に伝説の中に彼らは葬り去られ今では彼らを研究しようとする人間は誰一人としていないはずだ。

「母さんが昔いた研究所じゃその子の力を組み込んだ戦艦を作ろうとしていたんだ」

 脳裏にあの哀れな機械仕掛けの竜が蘇る。それが何を意味していたのか今では手に取るように理解できた。
 何らかの手段で捕獲した時渡りの竜の転移能力を機械的に解明することはやはり出来なかった。ならば竜自体を動力炉のシステムとして埋め込み外部から自在に操作しようとした――大体こんな所だろう。

「でもあの子はすごく意志が強くて機械の体に取り込まれても自分を失わなかったんだ」
「だから制御するためのマスターとして……」
 
 どこか悲しげにフェイトは頷いた。

「あの子は私だけに心を開いてくれたんだ。あの子の言いたいこと私にだけ分かったんだ」

 研究者というものは非情だ。特に企業体に属し常に結果を求められるものは保身のためにどんな罪でも平気で犯す。小さな子供でも目的の達成に利用できると知れば躊躇なんてないのだろう。 
 PT事件の後にプレシアが主任を務めていた研究所の記録を読んだけど、あれもずさんな管理の下で利潤を第一に追求しすぎた結果に起きた悲劇だった。

「母さんは最初こそ反対してたけどプロジェクトが早く終わらせれるならって納得して……」

 目を伏せフェイトは項垂れた。膝の上に置かれた手をアルフがそっと握る。

「でもある日ヒュードラが自分の力を制御できなくなって……私はそのまま――」

 フェイトの言う「私」はアリシアの他にはいない。
 事件の詳細には動力炉が周囲の空気を一瞬で消滅させたとか記されていたはずだ。その只中に彼女が放り込まれ、あまつさえ命を落としたなんて想像はしたくなかった。
 
「だからね、迷わなかった。それにあの子の言うとおりにしなかったら多分私たちここにいない」
「…………」
「あのまま放っておいたら空間が壊れてた。あの子が抑えていられるうちに壊したから私たちは助かった」

 両手を胸に当てフェイトがゆっくりと眼を閉じる。

「みんな優しかったんだ」
「フェイト……」

 溜まらずアルフが小さな体を抱きしめた。使い魔としての精神リンクが彼女の心の動きも教えたのだろう。
 涙を見せるアルフ。腕の中でフェイトの目じりにも涙の粒が光っている。

「大丈夫だよ、アルフ。それに今はユーノには言っておきたいことがあるから」

 腕を解いて僕に向き直る。まだ瞳に涙を浮かべながらも、その顔は凛としていた。

「なのはのこと、守ってくれてありがとう」
「あっ、うん」
「すごいよね、ユーノの魔法。私には真似できない」
「フェイトのほうがずっと魔導師としては上だよ」

 僕には結界以外何のとりえもないんだから。幅広く様々な魔法を扱えるフェイトのほうがずっと優れているはずだ。

「ううん、そこまで自分を削れる人はいないよ。羨ましいな、そこまで大切に思えるなんて」
「そうかな」
「だからなのはもユーノのことを大切に思えるんだと思った。じゃなきゃあんななのはにならないよ」
「あんな……?」

 そこまでなのはが取り乱したということだろうか。思い当たる節あるけどあそこにフェイトはいなかったし。
 疑問符を浮かべる僕に今度はアルフがフォローを入れる。

「そうだよユーノ。あんたがいきなりぶっ倒れるもんだから急いで運ぼうと思ったら、なのはがね」
「突然泣き出して、ユーノにすがり付いて」
「言っても離れなくてさ、仕方ないから二人一緒に運んだんだよ」

 小脇に抱えるような仕草を見せる。アルフらしい豪快なやり方だ。

「でさ、医務室に運んでもなのは、ユーノの手をずっと離さないでいて。なのはにもあんな一面があるんだね。エイミィも驚いてたよ」

 腕を組み一人頷くアルフ。そこまでなのはの変わりようは驚くものだったのか。その間ずっと意識がなかった僕には分かるわけもないけど。

「あんなに心配してくれるなんてユーノが羨ましいな」
「そんなことないよ。きっとフェイトでも同じようになのはなら泣いてくれる」
「そうかな……?」
「そうだよ」

 なのはにとってフェイトは大事な友達だ。フェイトの身にもし何か起こればなのははきっと僕が腕をやられたとき以上に怒るに決まっている。

「それでも多分二人の絆には敵わないよ」
「あたしもそう思うね。だってユーノが無事だって分かったらなのはそのままくっついて寝ちゃったし。ほんと妬けちゃうくらいにね」
「アルフ、それはなのはが言っちゃダメって」
「あはは、そうだったけ?」

 無邪気に笑ってアルフはフェイトの言葉をすらりと交わす。

「思い切って告白してみればいいじゃないさ。きっとお似合いになれると思うよ」

 加えてとんでもないことをさらりと言う。
 アルフの発言は僕はおろかフェイトまで顔を真っ赤にしながらどぎまぎしていた。

「だ、駄目だよアルフ。こういうことは二人の問題だし……」
「だったらフェイトも早くリンディのこと呼んであげればおあいこだよ。自分のことだけ呼び捨てにさせるんじゃフェアじゃないだろ?」
「ゆ、ユーノの前なんだからっ」

 これ以上言われるのがよっぽど恥ずかしいのか両手でもってアルフの口を塞ごうとするフェイト。必死の努力をのらりくらりと避けながらさらに続ける。

「あたしゃね、フェイトが幸せになっていく姿を見るのが嬉しいんだよ。もちろんみんなが幸せになるのもね。だぁから~」
「きゃぅ!?」

 満面の笑みと共にアルフの逞しい腕がフェイトの体を包み込み、そのまま胸倉へと引きよせた。

「二人とも幸せになっちゃいなよ。あたしが保障する!」
「アルフ……」
「ほら、しんみりしない。そろそろなのはが来るころだし、お邪魔虫は退散、退散」

 なんだかすっかり途中から僕もフェイトもアルフのペースに巻き込まれてしまった。

「あっ、じゃあねユーノ、お大事に。あとね――」

促され立ち上がるフェイトはどこかはにかんでいて声も囁く感じだった。そうして付け足した言葉はさらに小声。
 あまりに小さな声で、実の所僕は聞き取れなかった。でも声はなくてもその言葉ははっきり伝わった。

 フェイトの気持ちと共に――。
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