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2007.10/01(Mon)

守り手 18話 


【More・・・】


 ――全てが終わった。

 目の前にいた機械竜は半身を跡形もなく消滅させ完全に息の根を止めていた。
 傷だらけの腕、空っぽの魔力、ボロボロの体。誰もが満身創痍でもう戦うことも、むしろ動くことさえできそうもない。

「……はぁっ」

 なのはが崩れるように座り込んだ。ぐったりとした体はそれこそゼンマイが切れてしまったように動きを止めている。
 文字通り全力全開で全ての魔力を出し切ったんだ。無理もないことだ。

「ふぅ……」

 僕は僕で座ることも動くこともしないでただ空を見上げていた。魔力は空だけど、腰を下ろしたらもう立てる自信がなかったから無理矢理にでも脚に力を込めていた。
 相変わらず右手からはドクドクと血液が流れ今も地面に赤い水溜りを作っている。無理をしたせいで出血も少し増した感じがした。治癒魔法も使えない今の僕にとってそれを止める術はない。
 その内誰かが助けに来てくれるだろう、なんて気楽に考えることぐらいが僕に出来ることか。

「終わったの……?」
「うん……きっと」

 どこか上の空でなのはがぽつりと漏らした。
 いまいち実感が沸いていないような口ぶりはさっきまでの現実があまりに非常識すぎたからなのだろうか。そう言われれば目の前の屍も本当に生を失っているのかすらなんだかあやふやのような気がする。

「なのはっ!  ユーノ!」

 風と共に懐かしい声と姿が目の前に降り立つ。翻るマントに右手に握られた黒の斧。艶やかな金髪は結ばれたおさげと共にふわりと揺れた。
 画面越しでない彼女、久しぶりの再会。

「……フェイトちゃん!」

 覇気の戻る声。その声にフェイトは頷きで応える。

「二人とも大丈夫……なんて言えないよね」

 僕たちの姿を一通り見てフェイトは俯いた。

「もっと早く来てればこんなことにならなかったかもしれないのに」

 自分を責めているのだろうか。バルディッシュが小刻みに震えていた。

「大丈夫だよ。フェイトちゃんだって大変だったんでしょ? 気にしないでいいよ」
「でも――」
「わたしが言うんだからいいの。それに、久しぶりに会えたんだから悲しい顔しないで」

 少し口調を強くしながらなのははゆっくりと立ち上がる。疲れのせいだろうか、おぼつかない足取りは危なっかしくて見てられない。
 なのははフェイトに近づくとその手を優しく包みこむ。確かめるようにしばらく握り、突然ふっ、と表情を崩した。

「会うときはいつも笑顔の方が絶対いい。だからほら、笑って」
「……なのは」

 言葉は不思議だ。あんなに陰鬱だったフェイトの顔がもう笑っている。なのはに促されるままにフェイトは少しずつ顔に笑みを灯していく。

「うん、なのは」
「そうだよ、笑ってる方がフェイトちゃん可愛いしね」
「えっ!? そ、そうなの?」

 さらりと飛び出した一言に今度はフェイトは慌てふためく。どうしていいのかわからないみたいでおろおろしながら僕の方を見てくる。
 助けを求めるような視線が赤く染まった頬と相まって確かに可愛いく見える。

「そうだね、フェイトには笑顔の方が似合ってるよ」

 訂正、間違いなく可愛い。
 僕にまでそう言われて流石のフェイトも少しの戸惑いを見せた後にはにかみながらも微笑み返す。

「えと二人ともありがとう……嬉しい」

 最後の最後に消え入りそうな声でフェイトは締めくくった。なのははフェイトの言葉に今一度大きく頷き顔を輝かせた。

「そ、それじゃ二人とも今転送するから」
「うん、お願いするよフェイト」
「うん」

 頷き、僕らの足元に魔法陣が広がる。

「座標軸10100、0010、1101、……開け、誘いの扉よ。我が主、ハラオウンの元へ」

 すぐに詠唱が終わる。まだ何か妨害があるかもと緊張していた僕も、ようやく体の力を抜くことが出来た。

「じゃあいくよ、二人とも」
「うん、なのはも――」
「フェイトちゃん、後ろ!」

 遮り飛び出した悲鳴。すぐにフェイトが振り返り、僕もその方向を見る。
 大きな塊が動いている。ゆっくりとだけどそれは確実に生きていた。

「そんな……なんで」

 頭を思い切り金槌か何かで殴られたみたいだった。
 半身を失って、残った体もボロボロなのになんで動けるのか。執念、とでもいうのか。ヒュードラはこちらを見つめて千切れた腕を伸ばそうとしていた。

「っ! まだ二人を傷つけるというのなら――」

 さっきまでの姿が嘘だったようにフェイトの様子が一変する。僕たちを守るように前に立ちふさがり鋭い声を響かせる。

「――あなたがなんであろうと私が相手をする!」

 黒き戦斧――バルディッシュを突きつけフェイトが高らかに言い放った。
 そしてその声を聞いた途端ヒュードラの動きが止まった。
 威圧されたのか? それとも力尽きてしまったのか。

『…………Arrive,arrive at master's place』

 もう聞かないと思っていた声が全てを物語っていた。

「えっ……?」

 驚きの声を上げたのは僕やなのはでなくフェイト。

『……master…………master Alicia……』

 ヒュードラが再び動き出す。何度も何度も、彼女でない彼女の名前を呼びながら。

(違う……その子は――)

 それ以上の言葉を言うことができない。気がつけば僕らの真上にヒュードラの腕が影を作っていた。
 フェイトは動かなかった。時が止まっているようにじっとその場を動こうとしない。そしてヒュードラの腕がゆっくりとフェイト目掛けて下ろされていく。

「フェイトちゃん! 避けて!!」

 なのはが叫ぶ。その声さえ届かないのか、フェイトは一向に避けるそぶりはおろか動くそぶりも見せない。
 アリシア――その名前が彼女にどれほどの衝撃を与えているのかなんて想像も出来ない。想像しちゃいけないんだ。
 彼女にとっての代わりでしかなかったフェイト。あの日、あの時、母親であるプレシア・テスタロッサ自身から拒絶され一度は心を砕かれて。
 今はなのはやみんなが側にいる。だからフェイトも自分を始めることが出来た。

(だけど……)

 残酷すぎる仕打ち。これがプレシアの意図したことでなくたってあんまりだ。
 きっとヒュードラは何も知らない。ただ自分の記憶の中にあるアリシアを目の前に見ている。

「フェイトちゃんに……触るな!」

 レイジングハートを何とか構えるなのは。だけど全ての魔力を使い果たしたなのはには魔法を使うことは出来ない。立っているだけでもやっとなはずだ。

「結界を――!」

 僕だって気持ちは同じだ。まだ、まだなんとか包囲結界ぐらいなら張れる。

「待って!!」

 だけどフェイトは僕たちを止めた。

「……いいの。この子は私に会いに来てくれようとしてたんだから」

 振り向いたフェイトの顔には笑顔。そこに恐怖なんてものはなくてただ真っ直ぐな笑みがあった。
 穏やかな笑みを浮かべてフェイトは両腕をヒュードラへ差し出す。

「おいで……ヒュードラ」

 そこに立っていたのはフェイトなのか、アリシアなのか。
 もう手とは呼べない、残骸と化した手が彼女を覆った。あまりに弱々しく、そして優しく手が彼女に触れた。

『……I haven't seen you for a long time』(……お久しぶりです)

「うん、そうだね」

『How are you?』(お元気で?)

「元気だよ」

 まるでずっと昔から知っているように、懐かしむように二人が言葉を交わしている。

「何年ぶりだろうね」

『Four years……or five years?』(四年……いえ五年でしょうか?)

「そうだね、私あの時五歳だったから」

『You have grown』(大きくなりましたね)

「まだまだ子供だけどね」

 目の前の少女がアリシアでないと知ったらヒュードラは何を思うのか。
 怒り狂う? 悲しむ? それとも……。

『Master……I have a favor to ask you』(マスター……一つお願いがあります)

「なに?」

『Please destroy me』(私を破壊してください)

「……でもそんなことしたら君は」

『My body wouldn't live long time anyhow.……Before lose my senses and hurt you』(私の体はもう長くは持ちません。……自らを失い、そしてあなたを傷つける前に)

 そっとその手が離れていく。影は差し込む光に追い払われ再び彼女を照らす。

『I want to sleep at the will of you at the end』(最後はあなたの手で眠りつきたいのです)

 語られる言葉はとても悲しくて、その言葉に今まで見えなかったヒュードラの優しさが表れていた。

「それでも……」

『Please……Please master.I don't want to repeat tragedy』(あのような悲劇はもう繰り返したくないのです……。マスター……どうか……)

 そうしてわかった。ヒュードラは過去だけを見ていないことが。

『Give the end to me as you got start』(あなたが始まりを手にしたように……私に終わりを……)

「ヒュードラ…………」

『Please don't cry Alicia,Fate』(泣かないでください……アリシア、フェイト)

 彼女は泣いていた。ヒュードラはそんな彼女を慰めながら片腕を広げる。きっと彼女から最後を受けるために。

「……バルディッシュ、あれ使うよ」

『Yes.sir』

 飛翔。彼女が遥かな空でゆっくりと愛杖を水平に構える。

「君の想い、ちゃんと果たすから」

 刹那に広がる金色の魔法陣。同時に紡ぎだされる雷光の調。

「アルカス、クルタス、レイギアス――」

 光が生まれる。無数に輝く光球は雷光を秘めた雷の化身そのもの。

「この手に煌く雷神よ――、我が声に応え光となれ――」

 バルディッシュが天高く掲げられる。宝玉が一段と輝きを増し、次には光球がバルディッシュへ次々飛び込んでいく。

「バルギル、ザルギル、プラウゼル――」

 注ぎこまれる金色の魔力。眩い力はその度にバルディッシュを光へ変えていく。
 やがてバルディッシュは光の繭に包まれ唸りを上げた。

「闇を貫く雷鳴――! 夜を切り裂け閃光の槍――!」

 あるべき全ては彼女の右手へ、バルディッシュへ。満ちてもなお輝こうとするそれはフェイトとバルディッシュの想いの結晶。
 繭から金色の羽が産声を上げた。

「いくよバルディッシュ!」

『Yes,Sir』

 右手の中でバルディッシュが踊る。
 逆手に持ち替えたそれはいっそう輝きを増し、膨大な魔力は波動となって溢れ出して行く。
 その中で彼女は体を仰け反らせ、腕を大きく振りかぶる。

「ボルテックランサーーーーッ!!」

 解き放たれた雷光、空を引き裂いていく一条の光。
 二対の羽が揺らめき、まるで羽ばたいてるように錯覚を起こさせる。それは龍のようで鳥のようで、僕には神話やおとぎ話にでてくる幻獣のように映った。
 雷は奔流となって全てを飲み込んでいく。ヒュードラは動こうとはしない。来る運命に身を委ねていた。

 貫く閃光。一瞬、それだけで彼を絶つには十分だった。

 腹に風穴。膨大な魔力は穴を開けるだけでなく彼の肉を引き裂き焼き焦がす。
 獲物を仕留めた雷はそれでもまだ勢いを止めはしない。すぐに弧を描いて反転、とどめの一撃を叩き込んだ。
 胸から光が噴出し巨体は成す術なく消滅させられる。これが彼が望んだ結果。
 彼女の手に舞い戻るバルディッシュ。きっと彼女の眼にも崩れ去らんとする彼が見えるのだろう。

『…………I'm glad to see you and your heart at last』(最後にあなたとあなたの優しさに出会えて良かった……)

 雷光の魔力は残された体を蝕んでいく。徐々に金色に変容していく中、彼が最後の言葉を彼女に送る。

『Thank you』

 ――終結。

 ヒュードラの体はバラバラになりながらある物は大地に、またある物は落ちることなく中途で光へ還っていく。断続的な振動に空へ昇る光の粒。どこか幻想的で、けどやっぱり悲しくて。

「……ひっく。うぅ……ぐす」

 なのはの嗚咽が聞こえる。気がつけば僕の頬にも涙が伝っていた。
 風が吹き最後の光が天へ還る。どこまでも、どんなに高みへ昇ってもそれはずっと輝いていた。

 もう一つの一番星が空を飾った。
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