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2007.09/24(Mon)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第十三話 Bpart 


【More・・・】


 初めて来た時にはどうしていいか戸惑うばかりだったこの小さな部屋でのひとコマも、今では嘘って思えてしまうくらいに私たちの気分は盛り上がっている。
 傍から見れば五月蝿くて、狭くて、チカチカ光るライトに目を細めて、居心地の悪い世界に映るかもしれない。
 でもこの場所ではそれが普通で、私たちも進んで身を置きたがるのだ。

「見つめーてるよー、きっとStand by you~♪」

 心を込めて、聞く人みんなに気持ちを届けるように私は歌を紡ぐ。
 もうすっかり歌詞も暗記しちゃったお気に入りの曲を歌い終えればすぐに歓声が私を包んでくれた。

「相変わらずね、すずかは」
「えへへ……一応十八番だからね」

 次の番はアリサちゃんだ。マイクを手渡しながら顔を見れば既に臨戦態勢、得意満面な笑みを浮かべていた。

「それじゃあ、なのは1836の78でお願いね」
「アリサちゃんも全力全開だね」
「番号でわかるとは流石じゃない」
「もう何度も入力してるから」

 なのはちゃんは苦笑しながらリモコンに曲番号をいれ機械へ転送する。
 すぐにリズムの良い前奏が流れ、アップテンポな曲調でアリサちゃんの大得意な曲が始まる。
 
「そ・う・よ、Precious time! つま先で~♪」

 立ち上がったまま肩を揺らし、空いた手で振付けして。もちろんモニターの歌詞なんて見ていない。言葉通りにノリノリなアリサちゃん。

「一人よりは二人で~♪ 二人よりは三人~♪」

 私たちは歌声に、首を上下に、リズムを刻んで、魅了されちゃったみたいにアリサちゃんを見つめた。

「待ち合わせて、心合わせて♪ い~つだってぇ♪ ――当然よっ!」

 ちゃっかり途中の台詞も入れてウインクしながらアリサちゃんはその場で一回転。下手な歌よりずっとカロリーを消費できそうだ。
 なんだかアリサちゃんがテレビの向こうで歌い踊るアイドルみたいに見えてくる。

「さて、あとはなのはとフェイトね!」
「えっ!? わ、私も歌うの?」
「たっぷり二時間聞いたんだから一曲ぐらいは披露しないと意味ないでしょ」
「で、でも……」
「それならわたしとデュエットする? 」

 なのはちゃんの誘いにもフェイトちゃんは躊躇い気味。助けを請うように私やアリサちゃんに視線で訴えてくる。

「で、でも悪いよ。私足引っ張るかもしれないし……やっぱり最後に歌う」
「フェイトちゃん無理しなくても」
「ううん、みんな頑張ってるんだもん。私だけなんにもしないなんて嫌だ」

 なにか別方向のヤル気な感じだけど、フェイトちゃんは一転、歌う気満々だ。すぐに曲本を手に取りページをめくり始める。
 
「じゃあフェイトちゃんが決まるまでわたしが一曲披露するね」
「あんたもノリノリね」
「みんなには負けられないもん」

 照れ笑いしてマイクを握り締めれば流れ始めるメロディ。アリサちゃんに負けじと立ち上がって、爪先でリズムを取る。
 すっ、と息を吸ってなのはちゃんのお得意な曲が幕を開けた。

「そ~らを駆けていくー♪ 風のように~♪」

 柔らかな歌声が部屋の中を満たして、私たちの心も優しい気持ちで満たされていく。
 早さも音程も、みんな違う曲調。好みはそれぞれ違うけど、でもなんだか、どの歌もしみじみ聴いていると、みんな自分のことを歌っているように感じてくる。
 私だって自分の好きなあの曲は自分の気持ちそのものみたいでずっと好きって思えるんだ。

「手を繋いでー♪ 行こういつでも~♪ そばにいる♪ いつだってね~~♪」

 ステップを踏むような伴奏に包まれながらなのはちゃんが歌い終える。最後にぺこっとお辞儀をして再びフェイトちゃんの隣に腰を下ろした。 

「じゃあフェイトちゃん、はい!」
「う、うん……じゃ、じゃあ」

 マイクを受け取ると同時にフェイトちゃんの顔が強張っていく。
 最初こそ物静かで、あんまり感情を表に出さない子だと思ってたけど、実は自分の状況がすぐ顔に出てしまうタイプなんだというのが私の最近の見解。
 あんまりな様子になのはちゃんとアリサちゃんも苦笑いしている。

「あ~、無理しなくてもいいわよ……」
「だ、だだ、大丈夫……」
「フェイトちゃん言ってることと顔が全然あってないよぉ」

 出来の悪いロボットみたいな手つきで曲本をめくっていくフェイトちゃんの手にはマイクが握り締められたままだ。
 曲が始まってもいないのに、口元で臨戦態勢にされたマイクのおかげで歌よりインタビューでもしてしまいそうに思えてくる。
 
「気取らなくて歌いやすい曲にしちゃいなさいよ。ほら、フィアッセ・クリステラとかなら前に贈ったのがあったでしょ? あれとか――」
「なのは! 2587の92お願い!」
「ふぇ!? は、はい!!」

 いきなり力の篭った声がなのはちゃんへ向けられた。ガチガチに固まった声だけど迫力だけは満天で。
 おまけにマイクのおかげで部屋中に素っ頓狂な声が響いていった。
 ほとんど耳元で声を受け止めたなのはちゃんは飛び退きながら慌ててリモコンを操作する。一気に転送される曲番号。予約はないからすぐに前奏が流れ始める。
 音に包まれながらすっと立ち上がるフェイトちゃんの顔はやっぱりまだ固くて、緊張というより覚悟を決めたみたいに映る。

「リラックスだよ、フェイトちゃん!」
「取り合えず深呼吸よ!」

 言われた通りに息を吸って、吐いて――。
 いよいよの歌い出しにフェイトちゃんは目を閉じて、もう一度だけ静かに息を吸って、そよ風のようにそっと歌い始めた。

「孤独な夜が終わって~♪ 眩しい朝が始まるー♪」

 一瞬誰が歌っているのかわからなくなった。

 ソプラノに彩られた柔らかな声は晴天のように澄み渡り、しっかりと伸びて決して揺らぐことはない。
 力強さを思わせながら伴奏を掻き消すわけでもなく、むしろ一緒に活かし、活かされている。

「Ahー♪ 瞳開けたら広い空がある~♪ ねぇ、離れていても心は君と~♪」

 端々のビブラート、歌と一体となったブレス。初めてなんて思えない。プロでも通用しそうな歌声が目の前にある。
 私も、もちろん二人もフェイトちゃんの歌声に聞き惚れていた。フェイトちゃんの歌が作り出す世界に私たちは完全に誘われてしまっていた。

 魔法を使うために私たちは変身するけど、フェイトちゃんも歌のために何か別の人へと変身してしまった――そんな風に感じる。
 アリサちゃんのように軽いステップはないけれど、両手でマイクを握り締めながら歌う姿はそれだけで歌に込められた想いを届けていく。
 紡ぎだす調べはあっという間に部屋の雰囲気を一変させてしまった。
 
「……えと……どうかな?」

 気がつけばフェイトちゃんがはにかみながらこちらを見つめていた。
 もじもじしながらマイクをテーブルに置いて、代わりにオレンジジュースを手に取り口をつける。
 
「…………」

 話を振られてもまともに返事のできる相手はいなかったり……。
 アリサちゃんは口をあんぐり開けて呆然自失。なのはちゃんは目をパチクリさせながら放心状態。
 私は私で……今のことを反芻しながら自分の耳を疑っていた。いろんな意味で今のは夢ではないかと思わずにはいられなくて。

「フェイト……アタシたちを驚かせたかったの?」
「えっ? やっぱり下手だった?」
「あのねぇ……それ嫌味?」

 始めに自分を取り戻したアリサちゃんは呆れていた。
 
「フェイトちゃん……わたしたちの中で一番上手だよ」
「こっそり練習してたの?」
「そ、そんなことないけど……だってほんとに今日がカラオケって初めてだし……」

 なのはちゃんと私の言葉に戸惑い俯く。きっとフェイトちゃんも、ようやく自分がとんでもないことをした事に気づいたみたい。

「ミッドの人って遺伝子レベルで歌がうまいってわけじゃないわよねぇ……」

 アリサちゃんは頭を抱える。井の中の蛙は大海を知らないように、アリサちゃんも自分の遥か上を行く人が目の前にいることがわかって相当ショックなご様子だ。
 
「多分……私もそんな話聞いたことないし」
「フェイトちゃんって運動神経いいから覚えるのが早いんじゃないかな?」

 軽くフォローを入れながら私は雰囲気を変えようと話題を変える。

「カラオケって結構カロリー使うし、運動みたいなものだと思う」
「そう言われると、なんとなく体が歌い方を覚えてるみたいな感じかな……私」
「やっぱりフェイトちゃんすごいな……わたし一杯練習してやっとうまくなったもん」
「なのはって運動神経鈍いもんね。ということはやっぱりすずかの言うとおりになるわけか」

 みんな頭の中の疑問が無事溶けたみたいで、うんうんと頷きながら納得している。
 よかった……やっぱり難しい顔はみんな似合わないもん。

「なんだか体が覚えてくれるって便利だね。知らないうちに身に付くって」
「でも心当たりくらいあるんじゃない? アタシは結構お風呂とかで口ずさんだりしてるど」
「うまく聞こえるもんね。わたしも時々歌っちゃうなぁ」
「私の場合は……夢かな」

 宙に視線を泳がしながらフェイトちゃんも心当たりを見つけたみたい。
 確かに夢の中っていろんなことが出来るからそんな夢を見ても不思議じゃない。私の場合は、庭で猫たちを観客に歌うのが練習代わりなんだけど。

「夜の花畑で歌ったんだ。風に白い花びらが舞ってすごく綺麗だった」
「幻想的なステージだね。その花ってどんな花だったの?」
「夢だから曖昧だけど……鈴蘭みたいな花、かな」

 フェイトちゃんのステージが頭の中でイメージから形へ結ばれていく。
 夜の静寂の中、不意に吹いたそよ風に舞い散る白い精たち。穏やかな月明かりの下で、幻想を彩るもの達に包まれながら一人の少女が歌を紡いでいく。
 風に遊ばれる金色の髪はまるで天の川みたいにキラキラ煌いて、闇を溶けることもなく歌い手と共に在り続ける。

「なんだかまた歌いたいな。気持ちを素直に言葉に出来るってすごく気持ちがいい」
「フェイトもやる気になったわね……ライバルが一人増えたわ」
「ますます負けられないね。わたしもフェイトちゃんに抜かれないように頑張らなきゃ」
「だったら一時間延長よ! 今日はフェイトの記念すべきカラオケデビューなんだからバンバン歌うわよ!」
 
 俄然やる気のアリサちゃんに、私たちは互いに顔を見合わせちょっとだけ苦笑い。
 こうなっちゃうと、とことん止まらないのはもうみんな知ってるだけにこの後やるべきことは唯一つ。
 
「もうアリサちゃんったら」

 口では呆れて、顔には笑顔。
 いつか自分が言ったことを思い出した。
 三人いれば悲しいことは三人分こ、だけど楽しいことは三倍。四人なら四人分この四倍。
 私と、なのはちゃんと、アリサちゃんと、そしてフェイトちゃん。私たちは今確かにここにいる。
 日常と非日常、二つの世界を共に歩く掛け替えのない友達が。

「どんどん行くわよ! まずはアタシ!」

 私とアリサちゃんが魔法少女になったのはきっと神様がくれた気まぐれなプレゼント。
 だからこの偶然をずっと大切にしていきたい。もしかしたら知らないまま終わってた不思議な世界と巡り合えた奇跡と、ずっと寄り添って歩いていきたい。
 
 だって、きっと今日が私たち四人の新しい始まりの日なのだから。
 
* * *

 楽しい時間が過ぎるのあっという間。
 最初は軽く歌うつもりだったのに結局みんなの門限ギリギリまで計一時間半の延長でした。

「じゃあ明日学校でね」
「うん、ばいばーい」

 家の近くでアリサちゃんの車から降りる。車中の三人に手を振って遠ざかる車を見送って、

「さてと! 帰ろっか」

 すっかり日も暮れて時間は一杯だ。アリサちゃんが車で送ってくれなかったらギリギリセーフにもならなかっただろう。
 胸を撫で下ろしながらわたしはドアを開ける。
 もう夕食も近い時間帯だからみんな帰っているかもしれない。靴を脱ぎながら確認すれば、みんなの靴が綺麗に並んでいた。

「あはは、これだとすぐご飯かな?」

 空気を吸い込めばリビングから漂ってくる匂いに鼻がくすぐられる。香ばしい匂いは今晩のメニューがハンバーグであることをわたしに予感させる。
 思わず鳴ってしまったお腹の虫に一人照れ笑い。期待に心を弾ませてわたしは廊下を小走りに駆けた。

「たっだいまー! 高町なのは、ただいま帰りましたー!」

 元気に飛び込むリビング。すぐにみんながお帰りを言ってくれて飛びっきりの笑顔になれる。
 温もりに包まれたわたしの大好きな場所、

「……あ、お帰りなさいなのは」

 ――のはずなんだけど……。

「あ……れ……?」

 リビングを包んでいたものは温もりなんて優しい響きを持つものとは明らかに違うもので満たされていた。
 曇り空を見上げたみたいにどんよりとした雰囲気が、特にみんなが座るソファーから溢れ出している。
 丁度、お兄ちゃんと目が合う。わたしの顔を見るなりとても気まずそうな顔をした。

「み、みんなどうしたの……?」
「取り合えず……座りなさい」 

 搾り出すような低い声でお父さんが口を開いた。わたしに背中を向けている格好だけど、声でどんな顔してるぐらいは察する。
 有無を言わさないのは当然のことで、わたしは何だかわからないまま取り合えず腰を下ろそうとソファーに近づいた。

「あっ!」

 出してしまった声に慌てて口を塞いだ。
 何か悪いことをしてしまったのかと勘ぐっていたけど、なんでこんなことになっているのか原因はすぐに分かった。
 みんなに囲まれて床にちょこんと正座している子はわたしにとってものすごく馴染みのある子であって……。
 
「やっぱり知り合いか……」
「え、あ……その」
 
 憮然としながらため息を吐いてお父さんがわたしを横目に見つめる。怒っているというより呆れてる感じだった。

「お母さん怒らないから……正直に話してくれないかな?」 

 お父さんの態度とは違って、あくまで優しく諭すようにお母さんが続けた。
 身近な知り合いであるわたしが帰ってきたことで、その子もうなだれていた首を上げて、わたしに向かって覚悟を決めろと言わんばかりに小さく頷いた。
 唇を真一文字にしたぎこちない顔つきはもうどうしていいかわからなくて助けを待っている証拠。いつもの冷静さもどうやらみんなに包囲されちゃ発揮できないみたいで。

(……バカ) 

 助けより先にわたしは念話で一言、今の率直な気持ちをぶつけた。

(……ごめん)

 そんな言葉待たないでわたしはお姉ちゃんの隣に腰を下ろした。
 なぜだかお姉ちゃんは魂が抜けたみたいにぼーっと天井を見つめている。その原因もなんとなくだけど予想できた。
 いつかはこんな日が来るんじゃないかと考えたことはあったけど、まさかそんなこと起こるわけないって思ってて。
 でも神様は意地悪で、嘲笑うようにわたしに災難を降り注いだみたい。
 
「俺からも言わせてもらうが……説明するしかないみたいだぞ。俺も少しはフォローしてやるから」
「お兄ちゃん……」
「秘密ってのは必ずいつかばれるんだ。それがちょっと早まっただけさ」

 向かいの席でお兄ちゃんが苦笑いを浮かべた。 
 
「……みんな怒らないで聞いてくれる?」
「お母さんは大丈夫。美由希もちゃんと聞いてくれるし」

 言って隣のお父さんに目配せして、

「ああ、隠し事はいけないことだが……なにやらいろいろ事情が深そうだからな。多少は目を瞑るよ」

 お父さんが渋々頷いた。

「じゃあ……」

 もう意を決する意外に進む道は無いし、後戻りなんて出来っこない。
 みんなに迷惑はかけたくないけど心配はもっとかけさせたくない。だからわたしは今できる全力全開の説明をするために、みんなの顔を見回して目を閉じた。
 わたしが魔法少女になって今までのこと、全部まとめて分かりやすく。これからのこととかいろいろ長くなりそうだけど――。

(リンディさん、ごめんなさーい)

 高町なのは、素直に大人へ助けを求めました。

* * *

 兄弟の次は……両親か。
 最近こんな役回りばかりなのは喜んで良いのか悪いのか。
 とは言うものの、最前線で頑張っている者たちへ私たちが出来ることと言えば、このようなケアに尽きるわけでもあり。

「なのはさんにはほんっとうにお世話になりっ放しで感謝しても仕切れないわけで――」
「ああ、リンディさんそんな頭上げてください!」
「いえ、もう嘘をついてまで私たちはなのはさんたちに頼っていたんです! 大切なお子さんをこんな危ない目に合わせてたんです! これぐらいさせてください!」

 不可抗力というものは私にとって最強の魔法であるが、それに肩を並べる魔法がこの平謝りだ。
 まさか提督にもなろう人間がこんな真似をしているなんてクロノが見たら泣いてでも止めるかもしれない。アースラに留守番させておいたのは正解であろう。

「いや家の娘がお世話になっていたんです。こちらこそお礼を言わなきゃならない」

 この士郎さん、実の娘がこんな奇想天外な事件に巻き込まれていることを知っても平然としている。おまけに一方的に巻き込んでいる身だというのにそれを責めることすらない。
 肝が据わっているのか……それともあまりの驚愕に既に現実を見ていない可能性もある。
 どちらにせよこうやって落ち着いて対応してくれるのは有難い。
 
「俺も昔は相当無茶やってましたし」
「こう見えても士郎さん、スゴ腕のボディーガードをしていたんですよ。私たちが知り合ったのもそれがきっかけで」
「母さん、今は惚気話してる場合じゃないだろ」
「だってぇ~、こうやってリンディさんが包み隠さずお話してくれたんだから私たちも包み隠さずお話しなきゃならないのは礼儀ってもんでしょ?」

 そうして桃子さんもマイペースで大して驚いているわけではない様子。
 なのはさんはよく出来た子だと思ったがなるほど、こんな両親に囲まれて育ったなら頷けるかもしれない。

「今まで隠しててごめんなさい……」
「いや、なのはがやりたいって思ったことだろ。違うのか?」
「ううん、わたしが決めたことだよ。この町の人たちみんなに悲しい思いはさせたくないから」

 真っ直ぐ士郎さんを見つめて、なのはさんはこれが自分の意思でやっていたことを必死に訴える。
 なのはさんにとっては投げ出すことの出来ない大事なことかもしれないが、やはり親としてはこんな危険なこと止めさせるのが普通だろうけど。

「そうか……」
「父さん、出来ればなのはやってること続けさせて欲しい。馬鹿げてるかもしれないけどなのはのおかげで助けられた人だっているんだ」

 事情を知っている恭也さんもなのはさんの肩を持った。
 だからといってそう簡単に親の心は動かせない。ミッドと地球の文化は違うのだ。クロノのように出来すぎる息子でも、こっちの世界に当てはめればまだまだ子供。
 可愛いからこそ子供には危ないことをさせたくないのは親心として当然だ。

 じっと士郎さんを見つめたままなのはさんは動かない。士郎さんも負けじと動かない。
 固唾を呑んで事態を見守ることしか出来ない私である。本音にすれば、事件解決の協力者としてなのはさんには抜けてもらいたくないのだけれど。
 かといって、大人の勝手な都合に巻き込むのだっていけないこと。このままなのはさんが身を退いても文句は言わない。言える資格もないのだが。

「……まったく」

 士郎さんが腰を上げなのはさんの前へと行く。そうして右手を大きく振り上げた。
 ああ、やっぱりか……。
 おそらくそれが意味する行為を私は想像し、片方で落胆し片方で安堵した。
 
「今まで良く頑張ったな」

 しかし私の予想した結末は訪れることはなかった。
 なのはさんには乾いた音ではなく穏やかな声がかけられて、大きな手は優しくなのはさんの頭に置かれていた。
 身を硬くしていたなのはさんもこれは以外だったらしく、戸惑いを含ませた目で士郎さんを見上げている。

「俺もかなり非常識な世界で仕事していたからな。他人事とは思えないんだ、これが。やっぱ血は争えないってことになんのかな、なはは」
「お父さん……」
「誰かに迷惑をかけず、誰かを助ける。立派じゃないか」
「続けて……いいの?」
「どうせ俺が断ったってやり続けるんだろ? 娘の考えることは父にはお見通しだ」

 わっ、と声が上がれば士郎さんがこれでもかとなのはさんの頭をくしゃくしゃにしていた。
 豪快で無骨な手つきだけれどなのはさんは嫌がるそぶりを見せない。それが父親の後押しであり、優しさだからこそ彼女は受け入れているのだ。

「こういうとこは桃子にそっくりだしな」
「もうっ、士郎さんったら」
「お母さんのもいいの?」
「うん、いいわよ。ただしこれからは何か悩んだときは隠さないで相談すること! 母さん寂しかったんだからね、約束よ?」
「あ……うん!」

 家族だからこそ分かり合える何かがここにはあるのだと感じる。 
 私はこんな笑い会える温かさを持ち続けられたことなんて、人生のうちで一時しかなかった。多分、私が彼らに向ける眼差しは羨望に溢れているはずだ。

「なんだかトントン拍子だね……」
「どうした美由希? そういえばさっきから何も喋らないな」

 そういえばまだこの家族には事情を飲み込みきれない人間がいたことに今更ながらに気づく。
 恭也さんに促されて眉をひそめていた美由希さんが口を開いた。

「え、いやなんていうか漫画みたいな話が続いてるから……だってユーノが人間だったなんて信じられないし」
「そういえば元々ユーノくんが原因だったんだよね」
「うん、元はといえば僕が油断していたから……」

 恭也さんの隣に座っていたユーノ君が申し訳なさそうに呟いている。

「でもこうして本当のことを知ることが出来たんだ。ユーノには感謝してるぞ。最初は面食らったけどな」
「美由希も気絶しちゃったし」
「か、かーさん余計なこと言わないでよ」
「気にするな、俺に比べればまだマシな方さ」

 苦笑しながら恭也さんは肩を叩いてみせる。そういえばジュエルシードに取り付かれた忍さんの攻撃を受けたのがあそこだったような……。

「そういえばユーノはこれからどうするんだ? まだフェレットのまま家に住むか?」
「そ、そんな! 今まで皆さんのこと騙していたんですから僕はすぐ出て行きます!」
「しかし行くところがないだろう」
「アースラに身を寄せていればいいだけのことですし」

 順当に行けばそうなるか……。
 正体がばれた手前、まさかフェレットのまま高町家に厄介になるわけにも行かないだろう。それにもう姿を隠す必要がないのだから窮屈な思いをする必要もない。
 アースラには腐るほどに遊ばせている空き室があるわけだし、乗員が一名増えたところで問題はない。むしろ彼の場合は情報の分析にアースラを根城にするのはメリットとも言えよう。

「じゃあそれでいいかしら?」
「はい、お願いしますリンディさん」

 ようやく全ての問題が丸く収まった。色々な痞えがが取れて、前よりもずっと動きやすくなったことはお祝いでもしたいくらいに喜ばしい。
 うんうんと何度か頷いて私は終息宣言を口にしようとした――、

「なら決まり――」
「あの、リンディさん待ってください!」

 その矢先に意外な人物が私の言葉を遮った。

「ねぇお父さんお母さん、お願いがあるの!」
「どうした急に?」
「なぁに? なのは」

 驚く私とユーノ君を尻目に、なのはさんは二人の前でいきなり頭を下げる。

「今まで通りユーノくんをこの家にいさせて! お願い!」
 
 さらに、意外に輪をかけるなのはさんの主張に目を丸くしたのはそこにいた全員だ。

「わたしの向かいの部屋空いてるし、部屋は問題ないよね」
「確かにあそこは物置代わりになってるだけだが……ユーノがそう言ってるしな」
「今までずっと一緒にいたんだよ! ここまで来れたのはユーノくんのおかげだから! だからわたしユーノくんに恩返ししたいの!」

 一息に、自分の思いをぶつけていくなのはさん。
 そういえばユーノ君だけは私たち時空管理局と出会う前からずっと共にジュエルシードを封印してきたのだ。なのはさんの言うことは決して嘘ではない。

「ユーノ、君はどうなんだ。なのははこう言っているが……」
「僕はみんなに迷惑をかけたくないですから」
「それだけかしら? 迷惑かけたくないだけで」
「はい」
「なら家に来なさい。家は全然迷惑じゃないわよ」
  
 思わぬ大胆発言だった。
 笑顔を浮かべたままやんわりと答える桃子さんはとても冗談を言っているようには見えない。あくまで本気の提案らしい。

「で、でもそんな……」
「遠慮は要らんぞ、有難く受け取っておけ。俺も家族が増えるのは賛成だ。むしろ、娘の誘いを断るならタダじゃおかん」
「……父さん。そうだな、俺も賛成だな。なによりこいつが喜ぶだろう」
「そ、そうだね……なんていうか弟が出来たみたいな感じで……」
「お姉ちゃん、一日一回はユーノくんに触らないと落ち着かないもんね」

 まさしく鶴の一声か。桃子さんの声に続くのは高町家全員だった。
 普通は見知らぬ人間を家に迎え入れるなんて並大抵のことじゃないのに、この家族はそれを息を吸るかのように受け入れていた。
 交わされる言葉の只中で、ユーノ君は未だ判断に躊躇している。彼としては一体どちらが良いのか図りかねているのだろうか。分かるのはユーノ君自身だけだ。

「まぁ、今の事件が解決するまででもいい。なのはの我侭に付き合ってくれないか? なのはにとっては一番の恩人みたいだからな」

 さらに一押し、大黒柱の一声だ。
 ここで断るには相当勇気が必要だ。まるで家族ぐるみで押し切ろうとしている感じである。

「なのはの言うことだ。きっと考えがあるんだろう?」
「え? あ、うん」
「なら、決まりだ!」

 ユーノ君の肩を叩きながら士郎さんが思いっきり口元をつり上げた。

「じゃ、じゃあ今まで通りお世話になります! よろしくお願いします!」 

 立ち上がるなり、ユーノ君は全員に深々と頭を下げた。
 
「うん、これからもよろしくね! ユーノくん!」

 顔に満面の笑顔を咲かせてなのはさんが頷いた。
 それに合わせるように家族の全員が頷いて、新しい家族を歓迎していた。

「またいろいろ考えないといけないわね」

 これは私にとって嬉しい誤算なのかもしれない。
 やはり彼だってまだ子供だ。せめて事件のないときぐらい心安らげる場所にいさせてあげたいと思うのは私なりのささやかなお礼である。
 今までずっと協力してもらって、送れたものは感謝状一枚だけ。そんなのは誰にだって出来る。

(ほんと……クロノの言うとおり身分査証で逮捕されちゃいそうね)

 いやはや、新しい生活を始めるというのは大変な準備が必要である。

 特に違う世界では尚更……ね。

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