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2007.07/04(Wed)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第四話 Apart 


【More・・・】


 頭を抱えたくなる厄介ごとの山が目の前にそびていた。
 あれほど軽快に捌けていたキーボードも今は鈍い音を立て、放っておけば止まるのも時間の問題だ。

(管理局としては一番恐れていた事態到来! ……って所なのよね)

 報告書にはなんて書けばいいのか。お得意の改竄処理で持って適当に誤魔化しちゃう?

(まぁ、後者のほうが楽なんだけどね……)

 最悪の事態、それだけは避けられた。そのことだけに関しては気まぐれな神様に感謝って所。
 でもそんな気まぐれが色々な厄介の原因でもあるわけだ。
 山積する問題は目の前から消えてくれない。イライラ募って頭を掻き毟る。

「あの……」
「ん? 今忙しいから用事があるなら後にしてくれない」
「そ、そうですか……ごめんなさい」

 こんな時にお呼びの声がかかる。どうっせロクなことじゃない。それなら今の問題解決を先決にしてこれは後回し。
 一応、これでも執務官補佐ですが。
 クロノ君がいたら大目玉だね、こりゃ。

「で、でもその……リンディ艦長から言われて来たんですけど……」
「艦長が?」

 そういえば随分と聞きなれない声だ。女性職員にこんなにオドオドした感じの子っていたっけ?
 でも艦長からなら何かあるのだろう。幸い期限というものは今の所は無いのだから。
 キリのいい所でキーボードを叩くのを止め、椅子ごと体を向けて私は正体不明のその子に応じる。

「あれ……?」

 聞きなれないかと思えば見慣れてもいない女の子だった。

 なのはちゃんの学校の制服に綺麗な紫色の髪を伸ばし白いヘアバンドが良く映えている。どうやら私の返事にどうすればいいのかわからないみたいで立ち尽くしている様子だ。
 そういえば小さなお客様が二人ほど今日は来ていること思い出した。

「あ、ごめんごめん! まさかあなただとは思わなくって……えと……」
「あっ、月村すずかです。初めまして」
「こちらこそ。私はエイミィ、エイミィ・リミエッタ」

 唐突な自己紹介にもう少しどうにかならなかったのかと反省。しょぼくれても何にもならないので切り替え話を続ける。

「それですずかちゃん、なんでここに来たの? 艦長に言われたって言ってたけど」
「はいリンディ艦長が話し相手になって欲しいって」

 なるほど、艦長なりに気遣いというわけか。
 そりゃこんなに雑務整理に追われてばかりではおかしくなってしまうこと請け合いなのだ。ほんとに体壊したら治療費の全額負担を考えていたところだったんだから。
 気分転換にはちょうどいい。それになのはちゃんの友達ならいろいろ話してみたいこともある。

「ほうほう……」
「あの、ご迷惑ならいいんです。艦長もそう言っていましたから」
「いいわよ、付き合ったげる。ちょうど肩もいい具合に凝ってきたとこだしね」

 パッ、とすずかちゃんの顔が明るくなる。どうやら彼女も彼女でいろいろと興味がある様子。

「大変なんですね」
「そうよ! もう何でもかんでも全部私がまとめて報告して……管理職も楽じゃないのよ~!」
「ふふ、ご苦労様です」

 なのはちゃんとは違って結構物腰が丁寧だ。ひょっとしなくてもいい所のお嬢様なんだろう。
 実際あの学校ってそういう比率が多いらしいし。

「まっ、愚痴ってる暇が合ったら仕事なんだよね。……ごめんね、ほんとこんなことに巻き込んじゃって」

 なのはちゃんたちが連絡もせずにジュエルシードの封印をやっていたせいでこっちが通信を繋げるころにはすべては終わっていた。
 無論、手遅れで。

「その言葉はアリサちゃんに言ってあげてください。私より怖い思いしたと思いますから……」
「……うん、そうだね」

 まだ眠っているだろう彼女の友人――アリサちゃんのことに関して全ての落ち度はこちらにある。
 ユーノ君の話では発動体の魔力攻撃をモロに受けたらしい。幸い命に関わるまでの怪我は負わなかったし、奇跡的に無傷といってもいいくらいだ。

「それと……なのはちゃんは?」
「彼女も今は眠ってる……今までの疲れがどっと出たみたいだね」

 本当の所は感情のまま魔力を暴走させた反動による一時的な魔力枯渇、それに伴う昏倒だ。
 正直に話してもすずかちゃんにとってはちんぷんかんぷんだし、返って不安を煽ってしまうだろうからそういうことにしておく。

「あの、すぐに良くなりますよね二人とも」
「うん、その点に関しては大丈夫。晩御飯の時間までには帰れると思う。ほんと、若いってのはいいことだね!」

 これもまた幸い。これで日付が変わるまで寝っぱなしだったら家族の人になんて言えばいいのか。

「エイミィさんも十分若いじゃないですか」
「若いって言っても十七よ。すずかちゃんの世界でならあと三年で成人。もう若いっていうより大人なんだから」
「大丈夫ですよ、まだエイミィさんも三年あるじゃないですか」
「三年か……そうだね」

 ジェネレーションギャップ……というか年を重ねる度に加速していく時間間隔の差って奴か。
 本当に年々、時間はペースを上げたがる。私のせいなのか誰かのせいなのか。
 こういうのを生き急ぎ過ぎというのかな。

「でもさ、もう少し取り乱してもいいのに随分と落ち着いてるよね、すずかちゃん」

 これはやっぱりお嬢様ゆえの品格なんだろうか。

「そうですか? その、なんというかあまりに現実離れしすぎていてどうすればいいのかわからないだけだと思います」
「まぁ、それはしょうがないよね。いきなり私たちが時空管理局です……なんて言われたりしてもねぇ」
「それもあるんですけど……どちらかというとファンタジー小説を読んでいたらいきなり内容がSF小説になってびっくりしたって感じなんですけど」
「というと?」
「魔法使いって魔法の国みたいな所からやって来てるってイメージだったのが管理局なんて妙に現実的なものが出てきちゃったりして」

 あ~、なるほど……確かにそれは言える。
 ミッドじゃ魔導師なんて日常の完全な一部で差し詰めこっちの世界でいう公務員みたいなものだしね。
 あっちの世界から見れば魔導師なんてまったく認知されてない未知の存在なんだし、それぐらい突飛な想像になってしまうのだろう。

「これだって今は沈んでるけどいつもなら次元の狭間を飛ぶ艦だしね」
「あっ、やっぱりこれ戦艦なんですか?」
「もちろんよ。これぞ時空管理局が誇る巡航L級8番艦、次元空間航行艦船アースラなのよ!」

 張り切って言ってみるが如何せん艦がこの状態では言葉負けである。
 でも、そんな言葉を伴えない翼でも目を輝かせている子が目の前にいたわけで。

「次元空間航行……艦船アースラ……」
「ひょっとしてすずかちゃんってこういうの……好き?」
「えっと、そう言われると好きです。両親が機器製造会社の社長なんです。きっとその影響を受けたせいなんですけど」

 こちらとしてもそれはびっくり。まさかいい所のお嬢様っていうか社長令嬢とは……。

「変ですよね……こういうのって普通男の子の趣味ですし」
「そっかな? 気にする必要ないと思うよ。好きなものは人それぞれ、私だって管制官半分趣味みたいにしちゃってるし」

 艦長やクロノ君には面と向かっては言えないな、今の。

「良いですね、好きなことが仕事って」
「あはは、でもここまで来るのは結構苦労したよ」
「そう思います。会社でいうと専務さん……かな?」
「う~ん、専務って言うとクロノ君かな。私はどっちかというと秘書って感じが良いかな。なんかこう、秘密持ってます! みたいな感じして」

 それで艦長は社長に決まりで。これで次元を股にかける大会社アースラの誕生だね。

「あっ、ちなみにクロノ君っていうのは私の上司でアースラで二番目に偉い人。……ちょっと小生意気なとこが目立つのが玉に瑕なんだけどね」
 
 片手を上げて、大体の背丈をすずかちゃんに見せてあげる。
 
「もしかして結構若いんですか?」
「うん、私より二歳年下」
「じゃあ十五歳で……すごいんですね執務官って」
「仕事が無ければふんぞり返ってるだけの置物だよ。私のほうがよっぽど仕事してるもん」

 偉い偉いと言われても、有事が無ければただの人。下っ端ばかりがいつも忙しいのはどこの組織でも常なんだろうけど。

「なんだかエイミィさんの秘書姿がイメージできます」
「でしょ? やっぱりこういうのには拘らないと」
「ですね」

 なんだかすごく気持ちが安らぐ。
 今の今まで、仕事に追われていてすっかり息抜きをなくしてしまっていたせいなのかもしれない。弄くれるクロノ君もいないし本当に私肩が凝ってたみたいだ。

「へぇ、お姉さんいるんだ」
「はい、すごく美人で自慢の姉なんです。……ちょっと機械いじりが過ぎているんですけど」
「ひょっとしてお姉さんのおかげじゃない? 機械好きになったのって」
「ほんとのところは……そう思ってます」

 苦笑いのすずかちゃんに私も顔が綻んでいく。
 こうやって一時的とはいえ仕事とまったく関係のない四方山話を出来るというのは、実際すごく貴重で大切なものだと身に沁みる。
 命の洗濯とはよく言ったものだ。

「あのもし機密じゃなければいろいろ教えてもらえますか?」
「ん、具体的には?」
「時空管理局になのはちゃんのこと……あとアースラのこととか」

 そうやって最後には予想していた話題へと会話は収束する。
 アースラのことも知りたいのはたぶん純粋な興味だろうけど。

「私、今までなのはちゃんがやっていたこと知りたいんです。少しでもこっちの世界のこと知ることができれば悩みぐらいは聞いてあげられる。力になれると思うんです」
「そう……なのはちゃんの力に、か」
「私今日あったことは絶対誰にも話しませんから、だからお願いします!」

 険しい顔のまま頭を下げる。お願いというよりは懇願に近いそれは彼女が今までなのはちゃんのことをどれほど大切に思っていたかを痛感させられた。
 なんだかんだでいい友達をなのはちゃんは持っているじゃない。きっと今眠ってるアリサちゃんもそうなんだろう。でなければここまで足を突っ込めないだろうし。

「それなら一つ条件……あるんだけど」
「なんですか……」

 上げた顔にはまだ険しさがある。さっきまで笑顔だったのが嘘のように思えて、そこまで自分を追い詰めさせてしまった私たちの勝手に罪悪を感じ。

「今後、現地民間人月村すずかには特別任務を与えます」
「はい……」

 これはきっとすずかちゃんたちの思いを少しでも手助けしてあげたいという私の勝手なおせっかい。

「今日より定期的にアースラ執務官補佐、エイミィ・リミエッタの相談役として着任を要請します」
「相談役……?」

 なのはちゃんを大切に思うのはみんな気持ちは一緒。なのはちゃんがあんなになってしまったのは全部、何も出来なかった、しようとしなかった大人の都合だ。
 艦長には何言われるかわからないけど減給でもなんでも受けるつもり。覚悟は出来た。
 相変わらず緊張した面持ちなすずかちゃんに私はいきなり表情崩して笑ってみせた。

「ようするに、私の話し相手になってってこと! 私はすずかちゃんの聞きたいことに可能な限り答える。私はリフレッシュを兼ねた暇つぶしをする。どう、悪い話じゃないと思うけど?」

 ええ、ヤケクソ入ってるのは認めますとも。
 こちとら四六時中この指定席で日がな一日同じ作業を馬車馬のように繰り返しているのだ。
 何度も言うが、ここ最近は余計にそれが顕著になりもはや人間としては限界スレスレ。それで意識しないように仕事に没頭してさらに悪循環。

「いいんですか? 一般人がここに出入りしたりして」
「もっちろん大歓迎。それにお知り合いになったなら固いこと言いっこなし!」

 我ながらいい暴走具合である。

「じゃあ、私エイミィさんの相談役として頑張ってみます!」
「うむ、よろしい! あとアリサちゃんも連れてきていいわよ。にぎやかに悪いことはないからね」
「はい!」

 元気のいい返事。思わずこっちの背筋も伸びる。小さな民間協力者がまた一人増えた。

 これはきっと職員たちにもいいカンフル剤になるはずだ。閉鎖空間に閉じ込められて心模様が曇りのち曇り。それを救う砂漠のオアシス。
 そういえばなのはちゃんとフェイトちゃんの激励再開パーティーもなんだかんだ出来なかったんだっけ。絶対フェイトちゃんたち帰ってきたらやらないといけないな。
 いろいろ考えながら私は一人自分の中で今を締めくくる。
 
 素晴らしきかな異文化交流……なんちゃって。

* * *

(…………ここ、何処?)

 目が覚めてもう十分は経ったと思う。
 頭の中でふわふわしている疑問はさっきからそれだけ。まだアタシは自分を取り戻せずぼうっと天井を見つめていた。

 首だけ動かして部屋の中を見回す。ベッドを除けば最低限のものしか置いていない部屋。病室なのはおぼろげながら見当はついた。
 壁にはテレビ電話みたいなモニターがついている。小さな窓を見ると青い光が差し込んでいて夜かと思えば突然無数の影が横切ってびっくり。

「……魚?」

 窓からは離れているけど、紛れもなく影の正体は魚の群れだった。
 病院が海に沈んでしまったのだろうか。我ながら、酷くぶっ飛んだ発想だと思ったけど水の中にある病院なんてまずない。
 それともよくできた映像? 患者に対する病院の粋なサービス。そんなのないか。

(もしかして天国……なわけないわよね)

 縁起でもない。あの化け狼の火の玉に吹き飛ばされてから記憶は途切れてるけど体が木っ端微塵になった覚えはない。
 ちゃんと感覚はあるし、足だってついてる。

「一体どこだっていうのよ……」

 意識がハッキリするに連れいろんなことが頭の中に生まれてくる。
 すずかは、なのははどうなったんだろう。あの狼はどうなったんだろう。アタシはどうなったんだろう――。

「取り合えずここがどこだか確かめないといけないわよね」

 ベッドから降りる。幸い足腰になんら悪いところはないみたい。

「って着替えさせられるてる!?」

 自分の格好を見てはたと気づく。本当に入院患者ですって自己主張している何の装飾もない質素な薄着がアタシの体を包んでいた。

(まずいわね……これじゃ逃げられないじゃないの)

 もしかしてアタシは口封じに改造手術でもされてるんじゃ……。
それで二度と家に帰れない体にななってこの部屋から一歩出されず一生を終えて、

「なわけないでしょ!」

 でも考えてみれば魔法なんて現代に存在しえないものをこの目ではっきりと見てしまったのだ。そんな可能性だってあることはあるはず。

「やばいわね……ほんとに」

 無闇に外に出るわけにもいかない。かといってこの部屋でじっとしてても埒が明かない。
 けどすずかもどこかで同じ気持ちになってると思ったら居ても立ってもいられない。

「うう、覚悟決めるしかないわね」

 心に決めて即行動。
 ドアの前に駆けていって手をかけ引く! 開かない!?

「鍵かかってる!?」

 片手を添えて、今度は両手で力任せに引っ張ってみる。それでもドアはうんともすんともしない。反対側に引いても同じこと。
 これは本格的にまずいんじゃ……。

「ちょ、開きなさいよ! このポンコツ!!」

 引いてもだめなら押してみろ。手がだめなら足でどう!?
 部屋に響く鈍い音。これでもかとドアを蹴って蹴って蹴って!! 
 だというのに、このドアにとってはどこ吹く風らしくへこみ一つつかなかった。
 悔しいが完全に敗北だった。

「嘘でしょ……」

 全部がダメってわかった時アタシは床にへたり込んでいた。
 タイルのひんやりとした感触がじわじわとお尻や足を冷やしていく。

「もうどうしろっていうのよぉ……」

 頭を抱えて嘆いても、誰もアタシを慰めてくれる人はいなくて。
 漫画ならきっとヒーローがドアをふっ飛ばしてすぐに助けに来てくれるんだけど、アタシにヒーローなんて大それた人はいなくて。

(大体ねぇ……誰が来るって言うのよ)

 なのはがさっきみたいな魔法で助けに来てくれるなら大歓迎。だけどなのはがこの得体の知れない建物を建てた連中の仲間だったら――そんなわけあるもんか。
 きっとなのははここの連中と戦っている正義の味方に決まってる。あの狼だってここの奴らが作った、よく言う生体兵器とかいうのに決まってる。

「すずかはないわよね……」

 アタシに出来ることといえば改造されてないことをここで祈るだけぐらい。

「恭也さんは……大体こんなこと知らないでしょ」

 彼が来てくれればそれこそ漫画の王道。白馬の王子様。この際なのはのお父さんでもいいわ。
 後助けに来てくれる人なんて……。

「なのはと一緒にいた男とか? なわけないか」

 そんなのまで引き合いに出すなんてまだまだこの雰囲気に飲まれてしまっている。
 結局、くよくよしても始まらないか。

「とにかくドアを開ける! これが先決!」

 勇んで立ち上がれば目の前に沈黙のドア。

(今度は負けない、絶対倒すわ!! ぶっ飛ばす!!)

 サッカーのPKみたいにちょっと後ろに下がって左足を引いて、相手を睨みつけて――。

「でぇぇい!!」

 一歩、助走をつけて振り上げる右足。格闘ゲームみたいにはいかないけど当たればそれなり!!
 
 ――プシュー……。

「へっ!?」

 突然の空気が抜けるような音。いきなりドアがスライドしてアタシが打ち倒そうとした隔たりがいきなり姿を消した。

「えっ?」

 代わりにドアの盾にされるようにちょっとだけ見慣れた男の子がそこにいて。

 ――グキッ!!

 顔は呆気に取られたまま、全く無防備な足の脛目掛けてアタシのつま先が、

「いぃぃぃぃっっ!!?!」

 気持ちいいくらいに突き刺さった……。

* * *

 ヒリヒリズキズキと脛から脳へと伝達される痛覚。あれからしばらく経っているのに治まる気配がないのは新手の拷問だろうか。

(骨まではいってないと思うけど青あざは避けられないんだろうな……)

 治癒魔法で一気に直すことも出来るけど彼女の手前、そうも出来ないから耐えるしかない現状。

「まったく、レディの部屋に入るときはノックするのは当然でしょ!」

 口を尖らせてさっきから拗ねっ放しななのはの友達。確か名前はアリサ。

「ごめん、まさかもう起きているなんて思わなかったから」

 本当にタフだと思う。ここに運んでリンディさんが治癒魔法をかけたのだってそんな長かったわけでもない。でもリンディさんくらいの魔導師ならあれくらいでも大丈夫なのかもしれないけど。
 僕は僕で気を失ったなのはの治療に手一杯だったから。

「まっ、アタシもいきなり蹴り上げたりしたことは謝るわ」
「いいよ、こんなところに運ばれたら混乱するのもしょうがないし」

 なのはの時は僕が念話するなりしてたから心の準備はある程度できたと思うけど、アリサにとってはいきなり魔法で吹き飛ばされるという体験をしたわけだ。
 もしこれでびっくりしないなら僕はこの世界の人たちの肝の太さに感心するしかない。

 アリサはベッドに腰掛けながら足をぶらぶらさせ相変わらず不機嫌そうな顔。時折ため息をついたりして明らかに暇を持て余していた。

「ねぇ、あんたここにいるってことはアタシやすずかの身の安全は保障されてるってこと?」
「え? 身の安全?」
「だから魔法使いなんか見たから口封じに消されるとか」
「いやそんなことしないって」

 いきなり身の安全なんて言ってきたもんだから、何かと思った。
 幸い時空管理局はそこまで非情でないし、あったとしても軽いお咎め程度だと思うけど。

「ほんとに?」
「うん、ほんと。それにもしそうだとしたら気絶してる間にアリサはどうにかされてると思うよ」
「確かにね。それにここまで世話焼いてもらってるんだし……本当みたいね、って」

 急にアリサが難しい顔をした。そうして僕の顔をいきなりじっと見つめる。

「なんであんたアタシの名前知ってるのよ? 自己紹介した覚えないけど」
「えっ? あっ、そうなのはから聞いたんだ」
「それでいきなり呼び捨てとはね……」
「あっ、ごめんつい癖で」

 相手はミッドじゃない世界の住人。いきなりの呼び捨ては失礼だったみたいだ。

「えっとそれじゃアリサさん」

 目上でもないのにそれはないだろ、と思った。
 案の定アリサは僕の呼び方に眉を顰めている。

「変だよね……それじゃアリサちゃん?」

 思いっきりに眉間にしわが寄っていくのは気のせいじゃないんだろうな。

「えぇ、じゃあアリサ……」
「はぁ……もういいわよアリサで」

 どぎまぎする僕についにはアリサが折れた。折れたというか呆れられただけなんだけど。
 その証拠にアリサはため息ついて、ちょっと斜に視線を向けてくる。

「なんだか逆に気味悪くなったわ。普通に呼び捨てで良いわよ」
「それなら最初に言ってくれれば」
「なぁに? 口答えするつもりなの」
「いやその……ごめんなさい」

 なぜか非などないのに僕が謝る羽目に。
 この子はやけに気が強いな……なのはとは大違いだ。

「それであんたの名前は?」
「ユーノ、ユーノ・スクライア」
「ユーノ? ……ほんとに?」
「うん、ユーノだけど」

 聞き逃したのかと思ってもう一度名前を言う。けれどアリサの表情は釈然としないまま。どちらかといえば疑念が増して、いてもたってもいられない感じになってきていたり。
 視線を外して天井を見上げているアリサ。腕を組んで何かを推理しているみたいだ。

「一つ聞いていい?」
「うん」
「…………フェレット?」

 やっぱりそこなんですね……。

 まぁ、隠していてもしょうがないんだし正直に白状しよう。嘘は良くないしね。

「実は」
「て、そんなわけないわよね。フェレットが実は人間だったりなんて、流石にそこまで非常識じゃないわよね」
「あ、アリサ……その」
「それにもしそうだったとしたら温泉の時なんて堂々のぞきしてたわけなんだし。そんな根性ひん曲がった子にはあんた見えないしね」
「いやぁ……それは」
「実際そうだったら鉄拳制裁は当然。……でも去勢のほうがいいのかしらフェレットだし」
「…………」

 ――言えるか。

 言ったらきっと無事じゃすまない。命にかかわるような予感がした。
 それに去勢って……こんなところでも僕はフェレット扱いなんだ……。

「どうしたの? なんだか顔色悪いけど」
「えっ、あ、あはは大丈夫。少しめまいがしただけだから」
「……あんたも、なのはと一緒に無理してるんじゃないの?」

 ふっ、とアリサの顔から笑顔が消えた。眼差しは真剣に僕を捕えて心なしか顔には憂いが見て取れた。

「ねぇ、なのはって一年前から魔法使いだったの?」

 一年前――いつからではなく明確な時期が質問の中に織り込まれていた。
 きっとそれは思い当たることがあるからこそ言うことできる言葉だ。

「あのさ、アタシもここまで首突っ込んでるんだし話してくれない? 興味とかそういうのじゃなくて、なのはの親友として知りたいの」
「知って……どうするの?」
「……わからない。でも知りたいのよ。アタシの知らない所でなのはが何をしてたのか、落ち込んだり悩んだりしてたんじゃないかって」
「…………」
「自己満足なのはわかってるつもり。待つことしか出来なかったから、少しでもなのはのこと知って分かち合いたいだけってのは」

 段々と声のトーンが落ち込んでいく。俯いたアリサの言葉はなんだか端々で自分を責めているようで。
 アリサの考えてることは痛いくらいに伝わってくる。僕はきっかけを作ったこともあるしいつもなのはの傍で手助けをしてきた。

 だけどアリサは違う。

 なのはがどんなにこっちのことで悩んでいても手を貸すなんてできない。ただなのはのことを心配するだけ。それ以上はないしそれ以下もない。突き詰めれば何も出来ないに等しい。

 尤もアリサが来たとしてもなのはは本当の事を話すとは思えない。そうじゃなきゃ喧嘩しちゃったってなのはの口から聞くことなんてないんだろうし。

「……一応聞いておくけど、何があっても驚かない?」
「もう慣れっこ……」

 だったらアリサの願いを拒否する理由はない。
 彼女はなのはの力になれる。親友だからこそ僕にはわからないくらい強い絆があると思う。
 手伝えなくったって、ちょっとでも気持ちを分け合えればなのはだってもう思い詰めない。思い詰めようとしてもアリサが叱ってくれる。
 浅はかな考えかもしれない。でも支えてくれる人が近くにいるだけでも気持ちは安らげる。

「わかった。じゃあ話すよ、僕となのはの出会いから今日のことまで」

 一人じゃなかったから。なのはがいてくれたから。だからジュエルシードもPT事件も乗り越えられてきた。
 僕自身そんな自分の体験談を押し付けてるだけなんだけど。

「ありがと…………それじゃあ洗いざらい喋ってもらいましょうか!」
「そうだね、じゃあ」
「その前に!」

 ぴっ、と僕の目の前に人差し指が突き出される。いきなりのことに思わず口をつぐむ。

「もひとつ質問」
「な、なに?」
「あんたってなのはとどういう関係?」
「へっ……?」

 口元を不気味に歪めながらアリサがぐいと顔を近づけてくる。なんだかいけないことを咎められるように感じて自然と体がたじろいだ。

「だ~からなのはとどういう関係なわけ?」

 なのはとの関係と言われても正直返答に困ってしまう。なのはは僕の大事なパートナーで友達で……好きなんだけど。
 この場合多分アリサが知りたがっているのはそこなんだろうけど……。

「な、なのはとは別に大それた関係じゃないと思うよ……うん」
「ほんとに? なんだか怪しいんだけど」
「ほんとにほんと! 僕となのはは魔法じゃパートナーだけど、それ以上は何も……うん、ない」

 詰め寄ってくるアリサに首を振り、手を振りながらそんな関係じゃないことを必死に否定する。
 なんだかある意味、すごく微妙な気分なんだけど事実なんだからしょうがない。

「ふ~ん……まぁなのはが彼氏作るなんてこと早々ないわよね。それにあんたじゃなんかイメージ的には全然なのはの彼氏って感じじゃないし」

 なんだかすごく残念そう、でもどこか誇らしげに言い含めながらアリサは頷いて見せた。

「どちらかといえばペットって感じだものね」

 さりげなく、とても嫌~なことを言われているような。
 そんな気持ち露知らず、アリサは一人目を閉じ勝ち誇ったような笑みさえ浮かべていた。

「そんな顔しない。男なんだからしゃきっとする!」
「……うん」
「じゃ改めて、今の今までのこと全部アタシに教えなさいユーノ」

 仕切るのがうまいというか、マイペースなのか。それでも強引さをあまり感じさせない辺りアリサはいつもなのはたちの中じゃリーダーなんだと思った。

「後……嘘ついたりしたらただじゃおかないからね」

 それとちょっと怖いというか強いというか。

 少なくともこれが僕にとってのアリサの第一印象だったわけだ。

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