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2007.09/09(Sun)

守り手 16話 


【More・・・】


 もしも自分の手の届かない場所で彼女が傷ついてしまったら――考えると怖くなる。
 彼女の翼が折れてしまうことは彼女が見る夢の続きを失うことだ。
 一度折れた翼でも傷を癒せば大空を舞う日がやって来るかもしれない。けどその空を飛ぶ彼女はきっと以前と同じ夢を見ることはない。そこにいるのは高町なのはであって高町なのはじゃないなのはなんだ。

 翼が折れるということはそういうこと。
 僕の知ってるなのはのままでいて欲しいって想いは自分勝手なエゴでしかない。でも何にも縛られることなく自由に空へ羽ばたける今のなのはが、きっと一番輝いていると思えたのは本当。
 だから翼はやらせない。どんな災いが降りかかっても僕が彼女を、翼を守りぬく。
 どんな凶刃も凶弾も、彼女に触れることすら叶わせない。
 降り積もった深雪を赤く染めることを許されるのはいつだって彼女じゃなく僕だけなのだから。

 この盾砕けても――

 この腕砕けても――

 この体砕けても――

 この命砕けても――


 僕は君を守る。 


「――ノくん!! ――ぇ! ねぇって――!」

 五月蝿い……。
 耳元で怒鳴らないでくれ。

 ぽつんと暗闇に灯火が点る。宙に投げ出されたような感覚が徐々に地へと足をつけていくのがわかる。
 一度手放した世界にゆっくりと人としての感覚が戻り始める。 
 
「ユーノくん! しっかりして! ねぇ、ユーノくんってばぁ!!」

 頭の中に直接響いてくるような掠れた声。最初に取り戻したものは音か、声か……ぼうっと呆けた頭では区別が付かない。
 次に世界へ舞い戻ったのは触覚だ。気が付けば世界がさっきから揺らされていることに気づく。誰かが僕の肩を揺さぶっているらしい。
 
 そして熱い……とにかく体中が熱い……。
 体中から何か温かいものが流れ出るような感覚が僕を包み込んでいる。これは怪我でもしたのだろう。
 なのに右腕だけはそんな煩わしい感覚が一切なかった。幸運にも右腕だけは無傷で済んだらしい。利き腕が生きていればまだ何とかなりそうだ。

「よかった……大丈夫みたいだね、なのは」

 世界に色が塗りたくられると同時に僕の意識も覚醒した。

「で、でも……ユーノくん……ユーノくんがぁ……」
 
 嗚咽から絞り出された声は僕の状態が相当危険だと言っているのだろう。
 未だ耳がつーんとしてよくは聞こえないけどそのくらいの推測は容易い。

「僕は……大丈夫。結構無茶したみたいだけど右腕は無事だったみたいだから」
「そんなわけないよ!! こんなに血が出てるんだよ! おかしいよユーノくん!!」
「何言ってるんだよなのは……だって僕の腕は」

 ――なるほど、そういうことらしい。

「はは……まぁ、このくらいなら大丈夫。治癒魔法でどうにでもなるよ」

 右手は無傷じゃなくて感覚が無くなっていただけだった。
 赤い地面に赤い腕。無意識で押さえていたのか左手にはぬるりとしたものが纏わりつき気持ち悪い。
 不快感から逃れるために左腕に魔力送り込み治癒魔法を発動させる。淡い光が腕を包み込み姑息な応急処置を施していった。
 鈍間な意識がようやく僕の時間に追いついてくれば傷の度合いがよく分かる。肘から下は血で濡れ鼠だ。壊れたポンプのように血を噴出す様はズタボロといって差し支えないくらいで、ある意味滑稽だ。
 無理やり止血させながら指先へ神経を研ぎ澄ませてみた。僕の意思を一応は汲み取ってくれるようだった。

「ヒュードラは……やられていないよな」

 眼前のヒュードラは今の攻撃の反動か動こうとはしていない。ただ緋色の瞳が僕達を捉えている以外は。
 意識が飛んでいたのは幸いにも僅かな時間だったらしい。じゃなければ敵の追撃で僕の意識は戻れないところまで飛んでいただろう。
 空間を湾曲させ魔法を引き剥がし、魔力を凝集させ攻撃に転化。一連の空間湾曲がヒュードラの仕業なら自分の周りだけ空間を捻じ曲げることは容易いだろうし、魔力を吸収する特性を応用すれば攻撃に転用することだって可能なはずだ。
 要は僕らがやったことをそのままそっくり返されただけだった。

「……なのははまだ……いけるよね?」
「ユーノくんが守ってくれたから……守って……くれたから」
 
 目尻に涙の玉を浮かべてなのはが頷いた。
 俯き引っ切り無しに肩を震わして、しゃくりあげる度に新たな雫が産み落とされ大地を丸く濡らしていった。

「泣かないで……僕だってまだ大丈夫」

 本当なら涙を払ってあげたい。頭を撫でて安心させてあげたい。でも血濡れの手では無垢な色を汚してしまうから出来ない。
 
「待って……ユーノくんは休んでて」
「――なのは?」

 突然なのはの手が立ち上がろうとした僕を制す。
 いつの間にかなのはの息遣いは落ち着いていた。投げ出していたレイジングハートを拾い上げて僕を守るようにヒュードラに向かい合った。
 すぐに直感が僕に異変を覚えさせる。なのはの背中から滲んでいる雰囲気は悲しみのそれではなかったから。
 
「よくも……よくもユーノくんを…………許さないから……絶対に!! 許さないからっ!!!」
「なの……は?」
「レイジングハートっ!!」

『Divine shooter――over drive』

 光がなのはを取り囲んだ。夜天を顕現させたかのごとく大小無数の輝きをなのは従えていた。
 数え切れない星の弾丸。目を細めることを強制させる眩さ。どれも魔力が十分に凝集できていないからだ。
 不安定極まりない塊を浮かべたままなのはは左腕を振り上げた。

「だめだ、なのは……そんなことしちゃ……」

 明らかになのはは魔法の制御が出来ていない。怒りのままに磨耗した魔力を無理矢理に引き出して戦おうとしている。
 僕の声になのは応えない。一目見てなのはが我を失っていることはわかった。
 
 これじゃ敵の思う壺だ。ディバインシューターなんかじゃヒュードラに傷を与えるはおろかさっき攻撃を誘うようなものだ。しかもまともな魔法の形にすらなっていない。魔力そのものをぶつけるなんてエサを与えることに等しい行為だ。

「手加減なんてしないっ!! ディバインッ――!!」

 なのはがここまで感情をあらわにしているなんて信じられなかった。どんな状況でもなのはは自分を失うなんてなかったのに。
 ここまで来たらもうなのはを止めることは出来ない。でも止めなければなのはがやられる。

 だったら――!

「シューーーートッ!!」
「なのはっ!」

 両腕に包まれる小さな体。ほとんど体当たりで僕はなのはを抱きしめた。

「は、離して! これじゃ撃てない!」
「落ち着いてなのは。僕は大丈夫だから、それにそんなことしたって倒せない」
「そんなのやってみなきゃわからない!」
「見ればわかる! こんな魔法でできっこない」
「やれるよ! わたしもレイジングハートもまだ大丈夫だもん!」

 腕の中で暴れだすなのはに僕はさらに力をこめて押さえつける。身をよじるなのはに腕の傷から血が溢れ出した。さっきはそうでもなかったのに激痛が腕に走る。
 いつも聞き分けのいい子だと思ってけど、なんて頑固な。本当になのはなのか。

「しっかり状況を把握してなのは」
「してる! 怪我してるんだからユーノくんこそじっとしててよ!」
「なっ……?」

 どこの状況を把握してるんだ。僕一人でなく周りを、大体自分のことすら省みてないくせに。
 自分のバリアジャケットが血で染まっていくことすら気づいていないなのは。もう我を失っているより錯乱しているといった方が正しかった。
 なおも抵抗するなのは全くもってこんな時に。痛みと苛立ちを押し殺すのも限界だった。

 なにかが、結界が破れたみたいに弾けた。手加減なしになのはの体へ力を込めた。

「ああ、もう!! いい加減にしろよっ! なのはっ!!」

 痙攣でも起こしたようになのはの体が震えた。ゆっくりと体から力が抜けていく。回りに漂っていた光もそれと呼応するように霧散していった。
 信じられない。そう言わんばかりの表情を浮かべてなのはが恐る恐る顔を向けた。

「あ…………ゆ、ユーノくん?」
「なのは……クロノが言ってたこと覚えてる? 窮地に陥っても諦めないための言葉を」
「……急事にこそ冷静さが最大の友……必ず友は勝機を運ぶ」

 その言葉は魔法の訓練を始めて間もないころクロノがいくつかのアドバイスと共に送りつけてきた格言。正確にはクロノが元の言葉にさらに手を加えた持論らしいけど。

「覚えているなら大丈夫だね」

 言って腕を解いた。本当の所、もう力をこめているだけでも辛かった。

「わたし…………」
「謝るなら悪いけど後にして。今は相手を倒すことだけを考えて」

 今度は僕がなのはを制し前へと向き直る。沈黙に身を包んでヒュードラは僕たちを見下ろしていた。
 荒々しさはそこにはない。何かがおかしいことは人目で見て取れた。
 僕となのはがもめている間に攻撃を仕掛ければよかったものなのになぜそれをしなかった?

(まさか……動かないじゃなくて動けない……?)

 確かに説明はつくかもしれない。さっきの反動か、だけどわざわざそんな隙を作ってまで攻撃をすることはないだろう。明らかに互いの力の差を考えれば急ぎすぎる攻撃だ。
 そこまでして僕たちをここから排除したい理由があるのだろうか。

(聞こえる? ユーノくん、なのはさん)
(リンディさん? 終わったんですかそっちは)
(いえ、残念だけどもうしばらく時間がかかりそうなの。もう少しだけ、もう少しだけ頑張れる?)

 リンディさんからの念話。どうやら向こうもうまくはいっていないらしい。
 それでもヒュードラが飛び込もうとしているゲートの封印は着々と進んでいる。それさえすんでしまえばもう次元震の心配はない。

『Enemy exclusion…….Enemy exclusion……』

 声が頭に木霊する。ただの機械音声、だというのにそれはどこか尚早に駆られているように僕には感じられた。
 もしかしたらヒュードラは……。
 疑問が確信に代わる。だけどヒュードラが新たな魔力球を生成し始めたことでそれは後一歩の所で踏みとどまった。
 今は無駄なことは考えられない。自分の世界となのはの世界、他の世界が懸かっているんだ。

「なのは、スターライトブレイカーもう一度撃てる?」
「後一発ならなんとか大丈夫だと思う。でもさっきのやられたら……」

 不安が顔に浮かぶ。そう、さっきの攻撃をされたらひとたまりもない。
 相手の結界を突き破る。それだけならスターライトブレイカーで十分だ。けど今度は勝手が違う。
 歪みに耐えられるほどの魔力の集中、尚且つ湾曲空間を突破してもヒュードラを仕留められる位の強力なもの。
 それだけの条件を揃えなければヒュードラは絶対に止められない。

「大丈夫、考えはある」

 それはなのはを元気付けるための嘘。
 僕が見る限りなのはの魔法資質は放出と操作。今のなのはの技術じゃ急場で条件を整えるなんて到底無理な要求だ。
 出来ないなら別の方法を探すしかない。

「僕が道を作るから、その隙に撃って」
「どうするつもりなの?」
「相手が空間を歪める前に僕が空間を歪めて魔法の通り道を作る」
「でもそんなことしたらユーノくんに……」
「ギリギリで避けるから」

 勤めて明るく、気丈に振舞った。僕が出来ることはそれだけだから。
 さっき教わったばかりの結界魔法。あれで空間を歪めればまだ勝機はある。
 危険はある。まず魔法を制御できるかわからない。もちろん避けられるかも際どい。早く動けばヒュードラに防御する時間を与えてしまうだろうし、かといって遅ければヒュードラもろともスターライトブレイカーで木っ端微塵だ。

「なのはのこと信じてるから」
「ユーノくん……」
「行くよ、なのは」

 なのはが思いとどまるより早く、半ば急かすように促す。

「うん……わかった」

 少し戸惑いを見せてなのはは頷く。なのはの賛同を得たことを確認すると僕は前へと向き直る。

『No master』

 無機質な声が頭の中へではなく直接耳に飛びこんできた。僕たちに待ったをかけた声の主。それはなのはの握り締めるそれ。

「どうしたの? レイジングハート」

『I can't agree to the strategy.There is still a way』(その作戦には同意し兼ねます。方法はまだあるのですから)

 レイジングハートの言葉。思いもよらない、彼女からの反論だった。

「でも、これしかないよ……」

『No, it is still.Unite power』(いいえ、まだです。力を合わせるのです)

 その言葉の意味すること。

「わたしがユーノくんと……?」

『Yes.Recall it』(思い出して)

 あの日、一つの目標のために力を合わせたこと。
 フェイトのために僕たちが贈ったプレゼント。
 夜空を飾った光の芸術。

「まさかあれを攻撃に応用する気なのか?」

『Yes』

「ユーノくんそれって」

 なのはの魔力を僕の結界で押さえ込み打ち上げ花火のようにしたスターライトブレイカーの応用。壊すことしか出来なかった物に新しい役目を与えた形。

「確かにあれなら相手の結界を突破できるかもしれない、だけど……」

 平和的応用編。なのはそう言っていた。
 この魔法はいわばなのはの想いそのものだ。初めてなのはが人を喜ばせるためことに考えた魔法でもある。
 それを攻撃に応用するなんて……。

(それじゃまるでなのはの想いを壊すことになるじゃないか……)

 レイジングハートはそれを覚悟で言っているのだろうか。主を、自分達を守るために仕方なく選択した結果なのか。

「……わたしそれでも、いいよ」
「なのは……」
「このままやられちゃうの嫌だよ。わたしも、ユーノくんも、レイジングハートもみんな帰らなきゃ駄目だよ」

 俯き加減になのはが呟いた。その手は微かに震えて彼女の決意がどれほどのものか感じさせた。
 守るためになのはも自分を犠牲にしようとしていた。

「出来るんだよね、わたしたちに」

『All right』

「信じて……いいよね、レイジングハート」

『Of course.Because――』(無論です。なぜなら――)

 言葉と共にレイジングハートが翼を広げた。大きく、眩く、はためく羽が僕らの周りで舞い踊る。
 きっとそれは彼女なりの背中の押し方。

『――my master and master's partner』(あなたとあなたのパートナーなのですから)

「……うん……うん!」

 なのはの顔が輝いた。不安を浮かべていた彼女はもういない。
 レイジングハートは信じている。なのはを、そして僕も。ここにいる全員、気持ちは同じなんだ。
 ヒュードラにレイジングハートを掲げるなのは。足元からは魔法陣が輝き始め周囲の魔力がレイジングハートへ流れ始める。

「ユーノくん、お願いがあるの」
「なのは? どうしたの」
「一緒に握って欲しいんだ、レイジングハートを」
「でも……」

 流石にそれは抵抗がある。こんな血まみれの腕じゃレイジングハートを汚してしまう。
さっきだってなのはのバリアジャケットを不可効力とはいえ赤く染めてしまったのだから。
 右胸からわき腹辺りまで赤く染まる様はまるでなのはが大怪我を負ったみたいで見ていてとても痛々しい。

「レイジングハートが言ってたでしょ、二人一緒に力を合わせるんだって」
「そうだけど……」
「わたし一人じゃきっと出来ないと思う。だから手伝って欲しいんだ」

 言いながら両手をずらした。そこに僕が握る場所ということだろう。
 促されるままに僕はなのはの傍らに立ち、それぞれの手でレイジングハートを握り締めた。
髪が触れ合い頬さえ触れ合いそうな距離になのはの顔が映る。

「もう、背中じゃないね。ユーノくんに全部守ってもらってる」
「僕には守ることしか出来ないからね」
「ううん、違うよ。ユーノくんが守ってくれるからどんなことでもぶつかっていけるの」

 不意になのはの右手が僕の左手を握った。血のりで汚れることに構うことなく強く握り締める。
 なのはが振り向き僕を真っ直ぐ見つめた。

「心が……すごく温かいから!」

 輝く魔法陣。輝く笑顔。

 見ているこっちにも元気と勇気が沸いてくる。

「……ほんと、なのはには敵わないよ」

 さっきまでの臆病風に吹かれていた自分はどこへやら。もっとなのはのことを、その笑顔を守りたくなった。
 だけどもう自分を犠牲にはしない。なのはの笑顔を守るのは僕自身なのだから。僕となのは、二人揃って世界は輝ける。
 
 迷いはない。この二人なら何だってできる。
 
 絶対に出来る――!
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