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2007.07/04(Wed)

魔法少女リリカルなのはSTEP 第三話 Cpart 


【More・・・】


 五時間目の授業も終わり、すでに時間は放課後――。

「ごめんねなのは、アタシ達今日ちょっと用事があるから」
「えっ……? あっ、そうなんだ」

 アタシの一言になのはは教科書を仕舞っていた手を止めきょとんとして見せた。今日はお稽古もない日だし意外なのは当たり前か。

「そう、だから先に帰るから」
「うん、わかった。じゃあまた明日」
「ええ、また明日ね」
「じゃあね、なのはちゃん」

 すずかを連れてアタシは教室から出て行く。扉から出て行くとき念のためなのはの様子を窺ってみたけど別にこれといった変化はない。
 とりあえず第一作戦成功。

「いいのかな……こんなことして」
「いいのよ。強情張っぱりさんの口を割るにはこのくらいはしないとね」

 それほど乗り気ではなさそうなすずかを説き伏せ、何食わぬ顔で学校を出ていく。そして校門近くの茂みに二人揃って潜り込んだ。

「ちょっとした探偵ごっこと思えばいいのよ」
「うう、周りから見たら絶対変に思われるよ」
「背に腹は替えられないわ」

 緑の隙間から辺りの様子を窺う。下校中の生徒の中に混じっているはずのなのははまだいない。
 間違ってもここで見逃すわけにはいかない。ここでなのはを見失えば計画は全部パー。

「やっぱり黙ってなのはちゃんの秘密を探るのはいけないよ」
「それでなのはが大変なことになったら遅いのよ。ほらよく言うでしょ? It's no use crying over spilt milkって」
「い……イツノー……? あっ、覆水盆に返らず」
「そう、それよ」

 アタシだって黙ってこんなことする自分を良くは思ってないんだから。
 きょろきょろ目を動かして出てくる生徒を一人残らずチェック。と、制服の群れの中に見慣れたお下げが見えた。

「なのはちゃん……来たね」
「まだ、これからよ」

 息を殺して――そんな漫画に出てくる表現そのままを実践しながらアタシはなのはが校門をくぐる瞬間を待つ。
 一歩一歩、どんどん大きくなる姿。それなりに距離はあるから気づかれることはないと思うけどやっぱり緊張する。

「…………」

 自然と喉が動くの感じる。だけど思ったよりあっけなくその瞬間は過ぎて、

「はぁー……」

 なぜか気づかれなかったという達成感より安堵感が大きくて思わずため息。
 第二関門突破って所ね。

「いくよ、すずか」

 立ち上がって制服にくっついた葉っぱを払い落とす。あんまりのんびりしていてもいけない。
 校門からちょっとだけ顔を出してなのはの出て行った方向を確かめる。ちょうど角を曲がっていくなのはが見えた。いつもの帰り道みたい。
 電柱の影や曲がり角を利用しながらなのはに近づきすぎず遠すぎず。探偵ドラマの入れ知恵そのままでなのはの後をひたすらに追っていく。

「そういえば反対するかと思ったけどよくついてきたわね」
「私だってなのはちゃんのこと気になるし。それに悪いって思ってもアリサちゃん止めるつもりないでしょ」
「あはは、まぁね」

 すずかには全部お見通しってわけか。なんだかんだでこういう所は敵わないわね。
 ちょっと感服しつつ、なのははよくアタシたちが通ってる近道へ進んでいく。夕暮れのオレンジ色に染められた林の小道をなのはは迷うことなく歩く。アタシたちも歩く。
 なんというかここまで気づかれないとほんとに探偵ね。

「アリサちゃん」
「えっ? あっ、なのは……?」

 すずかの指差す先で突然なのはが足を止めた。曲がり角でもなければ家でもない。
 なのはは辺りを気にしているみたいでしきりにきょろきょろしている。だけどすぐにまた歩き出す。

「ってなんで森の中に入るのよ」

 そこは近道じゃない。むしろ道にもなってない森の中へ続く道だ。

「追うわよすずか!」
「うん」

 流石に急ぐといっても木々のこすれる音でなのはに感づかれてはおしまいだ。
 出来るだけゆっくり、でも素早く。
 やがて少しだけ開けた場所にたどり着いた。どうやらなのはにとってのゴールみたい。

「……あれ? ここって」

 唐突になにか思い出したみたいな声をすずかが上げた。辺りを見回して、何か確信したみたいに小さく頷く。

「知ってるの?」
「ほら、なのはちゃんがユーノを見つけた」
「言われてみれば……」

 そういえば一年前ぐらいになのはがユーノを拾ったのがここだった気がする。
 なのはが隠していることとなにか関係があるのか。

 それとも運命の悪戯とかそういう偶然?

「あっ、誰か出てきた」
「…………男の子?」

 不意に木の陰からなのはと同じくらいの背丈の子が出てくる。切り揃えられた亜麻色の髪の毛に端整な顔立ち。
 女の子かと見間違えそうになったけど、服装でかろうじて男の子だとわかる。

「誰だろう……あの子。なのはちゃんの知り合いかな?」
「知り合いって……学校にいた? 少なくとも同じ学年でアタシ見てないわよ」
「私も……でもなのはちゃんと同い年くらいだと思う」

 男の子は薄緑色の服に半ズボンというラフな出で立ち。とすると別の学校の子かもしれない。
 でも海鳴に学校といったら聖祥の他に数えるほどもない。私服通学で家よりも早く終わってここでなのはを待てる。

「隣町の子かな……」

 首を捻るすずかの隣でアタシも唸る。考えたって条件を満たせる学校なんてないじゃない。 
 アタシたちが解けないパズルと悪戦苦闘してる間にもなのはは男の子と何かを話し合っている。

「もしかしてなのはちゃんのボーイフレンドかな?」
「そ、そんなわけないでしょ! なのはに男なんて……」

 絶対ない。……多分だけど。
 大体そう仮定しても出会いからして想像がつかない。隣町と仮定すれば尚更、と思ったけど喫茶店経営ならば自然と出会いも多いのかも。
 問題はそこじゃない。これがなのはをおかしくしている原因なら今すぐにも飛び出してってあの男の子をぶん殴ってやらないと気が済まないわ。

「たぶらかされてるのよなのは。今すぐ助けてあげるから!」
「ちょ、ちょっとアリサちゃん! まだそう決まったわけじゃ!」

 すずかに思いっきり肩を押さえつけられて出るに出れない。
 ああもう、そうに決まってるのに!

「いいから待ってよアリサちゃん。なにかなのはちゃんが」

 視線の先で今まで立ったままだったなのはが動いた。
 何かもぞもぞしていて、どうやら胸元に手を入れ何かを取り出そうとしている。
 左手に何かが握られた。それをなのはは空へとかざす。

「あれって……なのはちゃんがいつもしてる宝石?」

 そうだ。夕日の輝きに一瞬照り返されて光ったのはなのはがいつも身に着けている赤い宝石。
 なのはが何かを叫んだ。ここじゃ良く聞こえないけど、そんなことどうでも良くする光景が次の瞬間桜色の光とともにアタシたちの目の前に現れた。

 花火でも弾けたように森の中が照らされる。あまりの眩しさにアタシもすずかも小さく悲鳴を上げた。
 何が起こったのか分けもわからず、ぎゅっとしていた瞼を上げるころには光は収まってて森の中はまた静かになってたけど、

「へっ……?」

 アタシの頭も、

「なのは……ちゃん?」

 すずかの頭も、

 静かになるどころか目の前の現実に騒がしくなるばかりで……。

「……なのは……?」

 どちら様ですか?

 一見、制服に似てるけど肩のところとか、腰のところとか、スカートとか。いろんな所がぜんぜん違う。
 たった今そこにいたのはなのはのはずで。でもぜんぜん違う服を着た誰かがいて。でもやっぱりそれはなのはで。 
 まったくもってわけがわかんない……。

「あれなんだろう……杖?」

 すずかはすずかで、なのはが左手に突然握られた変な棒に目を丸くしていた。

「な、なな……なんなのよあれ」

 あまりのうろたえっぷりに指差す手が小刻みに震えている。腰は抜かしてはいないけど、突如として日常を押しつぶした光景に肝を潰されたというかなんというか……。
 これはどう見てもアニメの中でヒロインが魔法のアイテムで魔法使いに変身というそれと同じだ。

「あ、あはは……」

 思いっきりほっぺたを抓った。

「……痛い」

 夢じゃなかった。現実だった。

「あ、アリサちゃん大丈夫?」
「多分……だいじょぶ」

 そ、そうよ。驚いてる場合じゃないのよ!

(今は! とにかく! 状況の! 整理よ!!)

 アタシたちはなのはを追って森に来た。そこでなのはが男の子と待ち合わせしていたことがわかって。
 次の瞬間にはなのはが変身して――。

「あ、アリサちゃん!」

 頭の中で滅茶苦茶に絡まった糸を解きだした矢先、すずかがいきなり声を上げた。

「な、なによ今度は。空でも飛んだとかそんなとこ?」
「そうじゃなくて……消えちゃった」

 もう顔を上げてなにが見えたって驚かないわ。
 ある意味で意気込んで見ればすずかの言うとおり二人はそこにいなかった。

「なのは……マジシャンにでもなったの?」
「えっと、なんだか男の子の足元が光ったと思ったらなのはちゃんと一緒に消えちゃったんだけど」
「そう、コンビのマジシャンなのね……」

 狐か狸にでも化かされたんじゃないかって――実際そっちのほうがまだ良かったかもしれないけど――思った。
 数秒前までそこにいた二人は最初からいなかったみたいにいなくて、辺りを見回した所でそれはまったく変わらなかった。

「大体光って消えたなんて……魔法じゃあるまいし……」
「でも私見たんだよアリサちゃん」

 私だって信じられないって言わんばかりに震えるすずかの声。

「今は科学の世界なのよ。魔法なんてそんな非科学的なものがあるわけ」
「でも……」

 食い下がる。アタシだって認めたくない。
 なのはが魔法使いだったなんて、そんな現実あるもんか。

「すずか! 二人がどこに消えたかわからない?」

 言って、なんて八つ当たりな問いだと思った。相手が魔法使いならそんなのわかるわけないのに。
 消えた――テレポーテーションとかワープとかを相手にアタシたちが出来ることなんて、

「…………すぐ、近くにいる」
「えっ……?」

 ――あった。

「ほんとなの? 山勘とかじゃ……」
「私、この感じ知ってる……確かあの時……」

 空を仰いで、視線を落として、ゆっくりと胸に手を置いてすずかが目を閉じる。
 大事なこと思い出すように、次に瞼を上げれば少しだけ険しい顔になって。

「アリサちゃんがなのはちゃんと喧嘩した日……その日のお稽古の後……車に乗る前に……」

 アタシも思い出す。それほど鮮明じゃないけどあの時アタシは声をかけた。何かをするでもなく明後日の方向を見てボーっとしていたすずかに。 

 少し冷たい風が吹いてウェーブのかかった鮮やかな紫が柔らかに舞う。
 夕焼けに包まれたすずかは幻想的で、アタシには不意にそれが魔法使いのように見えた。

「あの時みたいなザワザワした感じじゃなくて……この風みたいに柔らかい感じだけど……多分、そうだから」
「どこにいるの?」
「ついて来て!」

 今までの雰囲気を吹き飛ばしてすずかが走った。
 迷いなく真っ直ぐ、茂みの中へ飛び込む。

「ま、待ちなさいって!」

 こうなったらもうすずかを信じるしかない。すずかの後に続きながらアタシも必死に走る。
 茂みを掻き分け、通せんぼするように立っている木々をかわし、がむしゃらにすずかの背中を追った。

 迷い込んでいく。不思議の国のアリスのように、なのはを追って。
 
 穴の先に待ち受けている世界に向かって――。

* * *

『Right,Master!』
「えっ? きゃぁ!?」

 赤い光がわたしの足のすぐそばをものすごい勢いで飛んでいった。
 足には当たらなかったけどフライヤーフィンが千切れた。右足がガクンと傾き、つられて体も前のめりに傾く。

「ふ、フライヤーフィン!」

 すぐに魔法をかけ直して体勢を立て直す。

「なのは!!」

 途端、目の前が赤くなって耳の奥がキーンとした。
 わかったのはわたしを庇うようにユーノくんがシールドでなにかを受け止めた、それだけ。

「あ、ありがと……ユーノくん」
「お礼はいいから! 早くディバインシューター!!」
「あっ、う、うん!」

 わたしが今の自分の状況を飲み込めてないせいかユーノくんの声は焦っているよりすごく怒っているように聞こえた。
 慌てて射撃の準備に入る。心の中で念じて、桜色のスフィアを五つ呼び起こす。

「いくよ! シューーート!」

 ユーノくんを追い抜いて飛んでいくディバインシューター。地面の敵目掛けて一直線に飛んでいく。
 間違いなく全弾命中。これでうまくいけば封印できる。

 ――だけど。

「っ! う、嘘!?」

 いつもより、わたしの思うよりずっと速くディバインシューターは飛んでいた。わたしが全部を制御する暇なんて全然なくて。
 ドーン! と曲がることも、避ける敵を追うこともなく、光は地面に当たって砂煙を上げた。

「な、なのは! ちゃんと集中して!」
「しゅ、集中してるよ! だけどいつもよりディバインシューターが速くて」
『No Master.This is usual speed』(いいえマスター。速度はいつもと同じです)
「そ、そんな……」

 追いついていないのはわたしのほうなんて……。間違いに決まってる。

 だって今までこんなこと――。

『Following attack! Get ready divin shooter!』(次、来ます! ディバインシューターの準備を!)
「わ、わかってるよ! レイジングハート!!」

 今度は七つ。これだけの数なら敵だって避けられないはず。それに今度は絶対遅れない。
 ちゃんと動かしてみせる!

「ユーノくん、バインドお願い!」
「もうやってる!」

 声とともに光の鎖が地面にいる敵を縛りつける。よかった、これなら絶対当てられる。

「今度こそいくよ! ディバインシューター! シュートッ!!」

 杖を掲げて、振り下ろして。撃鉄代わりに次から次へと光が飛んでいく。
 すぐに集中、弾一つ一つの動きを操作して、繋げて、囲んで――!

「やった!!」

 ユーノくんが攻撃が命中したことを教えてくれた。立て続けに爆発音が下からも聞こえる。

「レイジングハート! 封印いくよ!」

 今しかない絶好のチャンス。すぐにレイジングハートをシーリングモード変形させ、

「っ! 嘘だろ!?」
「えっ……?」

 思わず手が止まる。わたしの時間が一瞬だけ止まった。
 呆然とするユーノくんにならうように地面へ目を凝らす。

「……全部命中したんじゃ……ないの?」

 風に煙が飛ばされて、現れた相手は命中する前と同じ格好でわたしたちを見上げていた。
 まったく通じてない。これでも威力に自信があったのになんで……。

「やっぱり……魔力が溜め切れてないんだ」
「で、でもわたし疲れてなんてない」
「じゃあなんであいつに魔法が効かないんだ!」
「それは……」

 なんでそんなこと言うの。
 そんなこと言われてもわたしわからないよ……。

「――っ!? なのは、下!!」

 また、いきなりユーノくんが大声になる。だけど今度は調子が違う。すごく慌てて、まったく思ってもいなかったことが起きたみたいで。

 いったい何が起きたのか視線を動かした先には、

「嘘……」

 金髪を乱しながら走る友達が、

「なんで……」

 すごく大切で大好きな親友が、

「ここに……?」

 アリサちゃんがいた。

「なのは!! あいつ、あの子を狙ってる!」

 言われなくたって相手の首がアリサちゃんを追っているのが嫌でもわかった。
 
 ――駄目! 今はアリサちゃんがここにいることよりもアリサちゃんを助けなきゃ!!

「ディバイン!!」

 狙い定めて、魔力を集めて、

「バスターーーーッ!!」

 なのに光は溢れなくて、わたしの声だけが空しく空回りして、
 代わりに――。

 炎がアリサちゃんを木の葉のように吹き飛ばしていた。

「あ…………」

 それからのことは覚えていない。

* * *

 不思議の世界はきっとアタシたちを快く招き入れてはくれなかったと思う。

「いた! なのはと馬の骨!」

 多分走って一分位、森の中でさっきと同じ格好したなのはを見つけた。なぜか隣の男もヘンテコな服に着替えてて、ご丁寧にマントまでつけているけど……。
 そっちはどうでもいいわ。

「さぁ、次は何する気よ……もうなにが槍が降ろうが天地がひっくり返ろうが驚かないわよ」
「もう、何でも信じられる感じだもんね」

 手ごろな茂みに身を隠して後姿の二人を穴でも開くくらいに見つめてやる。

「アタシたちを出しぬこうったってそうはいかないんだから」

 口では何とでも言えるけど実際アタシの心は不思議と非常識の洪水ですっかり沈没していたんだと思う。

「でもちょっと……木が邪魔で見えないよ」
「見えない? ちょっと待って……」

 言いながら体を少しだけずらして、すずかにも見えるように何とか位置取りを変える。アタシの顔が少し茂みから出ちゃうけど離れてるし大丈夫か。こっちも良く見えるようになったし。
 相変わらず何かを話し合っている二人。ここからじゃはっきりわからないけど、二人は何か別の方向を見ながら話をしている。
 と、男の足元が淡い緑色に包まれた。

「あ、あれだよアリサちゃん! さっき二人が消えたの!」
「ま、また消えるの!?」

 それはまずい。やっぱりここで話をつけるべきか。
 考えてみればここまで証拠を握っているのだ。流石になのはだって話してくれるはず。深追いは厳禁。そう決めてアタシは茂みから飛び出そうとする。
 
 その矢先、何か得体の知れない感覚が体を包み込んだ。

(えっ? な、なに……?)

 まるで水の中に入っているように体中に何かが纏わりついていく。なんだか自分の中の時間がすごく遅くなって、止まっていくような変な感覚。

 同時に、重くなった空気なのか油なのか。何かが体を押しだすような感覚がアタシを襲った。
 なんだかそいつはアタシをこの場所から弾き出そうとする意志のように思えた。
 これ以上なのはを見せないようにする秘密のカーテン。例えるならそんな感じ。

(今更……何様のつもりよ)

 ここまで来てアタシたちを仲間はずれにするなんて随分と虫が良すぎる話じゃない。
 無性に腹が立ってアタシは心の中で強く、強く強く念じた。

 ――破れろ! アタシたちを中に入れなさい!

 瞬間、ガラスの割れるような甲高い音が耳に響いたような気がして、気がついたら今までの感触は嘘のように消え去っていた。

「っはぁ! …………何だったの今の。すずか無事?」
「え、うん。どうしたのアリサちゃん?」
「あんた何も感じなかったの? 今すごく体が重くなったというか」
「私はなんて言ったらいいのかわからないけど、空気が変わるのは感じたかな?」

 人それぞれなのかしら……。どの道、今は関係ないか。

「それよりなのはは」

 慎重に様子を窺いつつ顔を出す。最初に目が捉えたのはなのはがふわり宙を舞う姿だった。

「…………はぁ」

 今度は空を飛ぶのね……ほんとうに魔法使いじゃない。

「すごい……なのはちゃん」
「関心してる場合……? 結局なのはが何やってるのかまったく見当つかないじゃな、いっ!?」

 ズドーン!! と地震でも起きたようなすごい地響きが足元を揺さぶって転びそうになる。
 つんのめりそうになってなんとか踏ん張って、すずかの小さな悲鳴で顔を上げる。 

「……はい?」

 口があんぐりと無様に開いた。我ながらものすごく間抜けな顔だと思う。

「な、なによあれ……か、かか、かかかか怪獣!?」

 なのはがいた場所に家ぐらいありそうな黒い塊が蠢いている。よくよく見れば塊は黒い毛で、足が四本と赤い目に白く輝く牙。
 仕留めそこなった悔しさからだろうか不気味な唸り声をそいつは上げた。あまりの重低音に思わず背筋がゾーッとする。

「おお……かみ……?」
「そ、そんなわけないでしょ……あんな超大型犬地球上にいるなんて初耳よ」

 家で飼っている大型犬なんか目じゃないくらいに大きな黒犬。むしろ犬じゃなくてほんとに狼みたい。凶悪な面構えが余計にそう思わせる。
 狼はすぐに向き直り空にいるなのはへと首を向ける。飛び掛るのかと思ったけど、流石に空にいては手が出せないのか目で追うだけに留まっている。
 だけど狼は何かを思いついたのかいきなり甲高く遠吠えをして大口をなのはに向けた。

 嫌な予感が走った。きっとあいつは、

「きゃぁ!!」

 アタシの思考を遮るように爆発音。狼の口から赤く輝く火の玉みたいなものが立て続けに三つ空へと撃ち上げられる。
 当然、狙われたのはなのはだ。

「なのはちゃん!」

 すずかが叫ぶと同時に最初の一発がなのはの足を掠めていった。転ぶように前のめりになるなのは。でも足から生えていた羽を作り直してどうにか体勢を立て直す。
 その隙を狙って襲い掛かる残りの二発。一発目は見当違いな方向に飛んだけど、二発目はどう見て直撃コースだった。
 響く爆音と夕焼けよりも赤く輝く光。最悪の事態が起きたと思って一瞬気を失いかけた。

 ――でも杞憂。煙が晴れるとさっきの男が丸い壁みたいなものを張ってなのはを守っていた。

「ば、バリアかな……あれって」
「そうじゃないの……」

 見掛け倒しじゃないみたいだ。あの男もなのはとおなじ魔法使いなのかしら……。
 空ではなのはが光の玉をいくつか作って、お返しとばかりに撃ち返す。流れ星みたいに光は飛んで狼めがけて次々に飛び込んでいく。
 でも全部はずれ。ただまっすぐ飛んで地面に当たって。これじゃ避けてくださいと言っているようなものだ。

「あちゃあ……何やってんのよなのは」

 なのはたちを見上げながら自然とこぼした。なのはたちはなんだか言い争っているように見えて、それでもすぐにまた光の玉を作り出していく。
 そうしてまた発射。今度はさっきと違って男の子が鎖みたいなもので狼を縛り付けている。玉もさっきとは微妙に動きを変えながら狼を囲むようにした後一斉にぶつかった。

「やった!!」

 炸裂していく光の爆発に、巻き上がる煙が狼の姿を覆い隠していく。本当にやっつけたかはわからないけど、これでやられてないなら詐欺も同然だ。
 雲みたいにもくもくと舞い上がる砂埃を前にアタシはなのはの勝利に拳を握り締め自分のことのように喜ぶ。

「後はなのはに洗いざらい白状させるだけね、すずか」
「そうだね。でもなのはちゃんが魔法使いだったなんて流石に驚いたよね」
「まったく……そうよね」

 ちょっと感慨深くなる。でもなんだかほんとにこれがなのはが今まで話せなかった理由だと思うと少し寂しくなった。

 少し強い風が吹いた。

 息が止まった。

「ば、ばけもの……」

 誰が巻き戻しのボタンを押したんだろう。
 なんで傷一つ負っていないんだろう。
 寒気しか感じなかった。

「……すずか、逃げるわよ」
「えっ!?」

 本能が叫んでる。速くここから逃げないと大変なことになるって。
 目の前の獣はまだアタシたちには気づいていない。なのはたちは空にいるから大丈夫だろうけど、地面に足をつけてるアタシたちがあいつの標的にされればそれこそ。

「ま、待ってよアリサちゃん!」

 後ろからすずかもすぐに続く。きっとすずかもこの状況が最悪一歩手前だってことに気づいたんだろう。
 大丈夫、まだ気づかれてないんだから逃げられる。

 ――パキ。

「あっ……」

 すごく不吉な音が耳に聞こえた。踏みつけられた小枝が折れて、乾いた音が辺りに溶けた。

「アリサちゃん……」

 恐る恐る振り向く。すずかは枝を踏んづけたまま石像みたいに硬直している。続けてグルルル、と誰しも一度は聞いたことがあるはずの唸り声。
 ゆっくりと顔を上げた。赤い瞳と目が合った。

「すずか……」

 どうしよう……なんて言ってる場合ではない。もうアタシたちは捕えられている。きっとすぐにあいつは飛び掛ってくるはずだ。

 足が竦んでいる。ガタガタ歯まで鳴ってきた。
 握った手はじっとりしてきて、自分の息遣いが不気味なくらい良く聞こえる。
 なによ……深追い厳禁なんて言っておいて、これじゃ元も子もないじゃないのよ。
 このままじゃアタシたち仲良くあいつの胃袋へ直行だ。
 
 そんな人生の終わり方あってたまるもんか!

「すずか……絶対動くんじゃないわよ」
「え? どうしたのアリサちゃん」

 全部アタシが言い出したのが原因だ。すずかまで巻き込ませる必要なんてあっていいはずがない。
 食べられるのはアタシ一人で十分。……食べられるつもりなんてないんだけど。

「怖い思いさせて……ごめん!!」

 いけっ! 走れっ!!

 命じるままに足は動いてくれた。弾丸みたいに体は跳ねて地面から離れる。

「アリサちゃん!?」

 声をかけるすずかはもう後ろ。駆け出しながら、アタシは手ごろな石を拾い上げ感触を確かめる。
 ほんとはこんなことしたくないんだけど親友のため痛いのは我慢してもらうわ。
 走って飛び出して、一瞬夕日の光に目を細めて右手を振り上げる。

「こんのっ!」

 力任せの放物線は目を瞑ってたって当てられる。目の前を覆いつくすくらい大きいんだからどこに投げたって同じ。
 それでも当たったかなんていちいち確認しているほど余裕もない。

「こっちよ! 捕まえてみなさい!!」

 アタシが出来るのは走って相手の気を引くだけ。
 これでも犬を飼っている身。犬が好きなことはあらかた把握済みだ。
 今のアタシはボール。ボールを追って犬は走る。眠っていた狩猟本能を引き出されて絶対に来る。ましてや犬の原型、狼ならばなおさらだ。

 そうしてアタシは森に突っ込む。木々が盾になってアタシを守ってくれる。図体が仇になってアタシを捕まえることなんて出来はしない。
 それでも後ろを見てしまう。本当に相手はアタシを追っているのか、もしかしたらすずかに飛び掛っているのかもしれない。そんな不安があったから。

「――いない?」

 慌てて足にブレーキ。
 消えてしまったように狼はアタシの視界からいなくなっていた。
 あきらめたのか、なのはが今度こそ倒したのか。 
 
 それは一瞬の油断だった。だからアタシは自分の周りが暗くなったことに気づくのが遅れた。

「上!?」

 その瞬間アタシの世界はスローモーションになる。

 見上げた先に狼がいて、狼は口を空けていて、口には赤い火の玉が咥えられていて。
 放たれる真紅。避けるとか、そんな考え思いつく前に地面とか木とかが爆発して、アタシも一緒に空を舞って。

 なんて初歩的なミス。あいつは犬でも狼でもない。口から火の玉を吐くほどの怪獣だった。木が邪魔なら焼き払えばいい。そうすれば獲物は丸見え。
 景色がくるくる回って、体はフワフワしっ放しで。空飛ぶってこんな感じなんだって思って。
 誰かが叫んでる。桜色した光がビームみたいに風を押し上げて狼を消し飛ばしていく。

 眩しくて目を閉じる。光に包まれるみたいにアタシの意識もすぐに真っ白になっていった。

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