06月≪ 2017年03月 ≫07月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031
--.--/--(--)

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【編集】 |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑
2007.09/05(Wed)

守り手 11話 


【More・・・】


 淡緑に光る鎖は臆することなく剛健さを丸出しにする鋼の手足へ戒めを与える。
 もがき苦しむ程に鎖は軋み腕ごと持っていかれそうな力を必死で押さえ込んだ。

「こん……の!」

 まだ抵抗する力が残っているなら更なる戒めを与えるだけ。足元で輝く魔法陣から飛び出す鎖は相手の自由を喰らおうと牙を剥く。
 手、足、胴、あらゆる自由を奪い完全にその動きを拘束する。身を捩ることさえ許さない意思の前に傀儡はついに諦めるように崩れ落ちた。

「警備システムの誤作動かしら……?」
「多分、そうだと思います。魔力が切れたらまた動かなくなりましたし」

 大地に伏した鋼の兵士に魔力は感じられない。完全な沈黙は機能が停止している表れか。
 総じて八体目。どれも長年にわたる放置の結果か劣化が激しい。本来なら鏡のように磨かれていた装甲も錆に覆われ見る影もない。整備をとっくに忘れた体はヒビ割れ、酷いものは腕を一本無くしているものさえいた。
 元々この場所を守護していた警備兵の成れの果て。主の居ない事実を知らない彼らは己に宿った使命を実直に振りかざしただけだろう。

 今まで来た道を振り返る。あれほど不気味に思えた巨大な入り口はもう既に指先ぐらいの大きさだ。この空間の広大さを身を持って教えられる。

「この地下にこんな巨大な空間が作られていたなんて……」
「高さ、広さ、実験場としては十分すぎるほどね。空間を湾曲させているかしら……敬服するしかないわ、プレシア女史には」

 半ば呆れたようにリンディさんはこの空間を見渡した感想を漏らしている。
 本当にここは地下なのだろうか。天井は遠く、踏みしめているこの地面だってどこまで続いているのか見当もつかない。
 大地を紅く照らす光の出所もわからない。まるで空気が血で出来ているようで気分が悪くなってくる。
 何らかの魔力作用が施されているのは間違いなく、もしかしたらさっきからさっきからの傀儡兵もこの瘴気にやられて動いているのかもしれない。
 でもそうしたら誰がそんなことをしているのか。生きているのかもしれない彼女の影が脳裏を掠める。

「リンディさん、職員の人たちは後何人残っているんですか?」
「あと二人よ。隊長とその補佐……」

 早く見つけないといけない。下手すれば最悪のこともあり得るのだ。
 もちろん僕たちだって早くここから出なければいけない。そんな風に本能が警告してる気がしてならないからだ。

「あっ、リンディさん! あれっ!」

 視線の先、赤茶けた大地の上に突っ伏す二人をようやく見つけた。
 すぐに駆け寄り容態を確認する。虫の息で魔力は欠片も感じられなかった。体温も幾分か低くなり既に命の危機に晒されていることが嫌でもわかってしまった。
 リンディさんの方は、と顔を上げると丁度目が合った。頷くリンディさん。どうやら最悪の事態には陥っていないようだ。けど沈痛な表情が容態が芳しくないことを物語っていた。
 すぐに転移法陣を張り二人を転送する。

「じゃあ急ぎましょ。もうここにいる理由はないわ」

 踵を返しリンディさんが飛び立つ。
 後は僕たちもアースラに転移すればこっちの方はとり合えず解決する。僕は再び転移法陣を展開しようと両手を掲げた。
 
 だけどそれ見計らったように重い足音が僕の耳に飛び込んできた。
 はっ、となり音の方へ視線を向ければさっき倒したはずの傀儡兵が僕ら目指して近づいてくる。さらにその後ろからも新たに三体が迫ってくるのが見えた。
 ガシャリ、と金属がぶつかり合う音。後ろを見ればそこにもいた。

「っ! 囲まれた!?」

 遥か遠くまで見渡せていた風景が金属の塊で覆い隠される。
 まったく気配が読めなかった。ここまで囲まれるならその前に相手の魔力で察知できるはずなのに。
 確かに魔力は感じられる。だけどその巨体には不釣合いなほど弱々しい。

 思えば今まで出くわした兵が全てそうだった。
 正面の傀儡兵が僕らとの距離を詰める。頭に相当する部分、その中央、格子の隙間から赤い光が明滅した。
 ここから逃がすわけにはいかない――彼の言葉をそう代弁しているようだ。

「まずい……」

 思わず本音が漏れた。
 少ない数なら強行突破も可能だったかもしれない。時の庭園で戦った相手に比べればずっと弱い。四、五体以上、今の僕の魔力で完全に拘束できる。
 だけど相手は正面に四、後ろに三。後ろからは続々と他の傀儡兵が加わり刻々とその数を増している。
 最初こそ警備システムが暴走しているのかと思えたけどもうシステムが僕たちを完全に外敵と認識しているのだろう。システムは死んでいない、今も生きている。

「強行突破しか……ないのか?」
「……いいえ、封時結界を張って」
「えっ?」

 覚悟を決めようとした矢先、リンディさんが思いもかけないことを言った。
 こんな状況でそれが冗談とは思えなのは当然だけど、なんで結界なのか。僕には真意が汲み取れない。

「私の考えが正しければそれでこの子達は止まるはずよ。危険な賭けだけどね……」
「でもなんで……」
「いいから急いで! 来るわよ」

 一体が大きく動いた。片手を振り上げこちら目掛け大地を蹴る。
 これじゃ選択肢は一つしかないのも同然だ。あくまで冷静な態度のリンディさんを尻目に、僕は急かされるまま結界を張った。

 僕を中心に広がる封時結界。それは瞬時に空間を覆い周囲から空間と時間の両方を遮断する。
 刹那、結界に包まれた傀儡兵は唐突に、それこそネジが切れたようにその動きを止めた。
 傀儡兵はゆっくりと傾き、今度は前のめりに巨体を大地へ叩きつけた。振り上がったまま硬直した腕が哀れだ。
 そしてその傀儡だけでなく、結界内にいる傀儡兵は例外なく動きを止めていた。

「……リンディさん、これって?」
「やはりね、妙だと思ったのよ。こんな大型の魔導兵がこんな僅かな魔力で活動できるなんて」

 そう言うとリンディさんは倒れた一体へ近づきその体を丹念に調べ始めた。
 小さな体が忙しなく飛び回り、止まって、また飛び回る。その動きは臆することなく、傀儡兵の体を嘗め回すように細部まで探っている。
 幾度かそんなことを繰り返した後でリンディさんはようやく僕の方へ戻ってきた。何かを確信したのか表情が少し険しく見える。

「この子達は最初から自分の力で動いていないわ。誰か、大元にあるなにかがこの子達に動くだけ魔力を送っている、今言えるのはそれだけ」
「じゃあ……」
「そう考えるのは早計よ。虚数空間に飲み込まれて生きているなんて常識ではありえないし、それにそれよりももっと説得力のある存在がここにはあるじゃない」

 振り返るリンディさんの視線の先。ずっと遠くにあるだろうそれを見ることはここからじゃ叶わない。霞がかった景色の向こう、ヒュードラが僕たちを見つめているのだと思うことはとてもじゃないがいい気分ではなかった。
 確かにただの動力炉が意思を持つことなんて常識ではあり得ない。AIでも搭載していれば話は別かもしれないがここまで複雑な思考を持つことはないはずだ。
 導かれる推測と目の前の結果。けど二つを結ぶのはそれにしか行き着かないのも事実であって。

「魔力を奪われた職員達もヒュードラの仕業なのかもしれないわね」
「そんなことって……あるんですか」
「魔力の流動技術はポピュラーなものでしょ? ある意味いいエサなのかもね、私たちは」

 さらりと出た言葉は僕の背筋に寒いものを走らせた。

「すごい推測ですね、僕にはとても……」
「艦長として常に考えられる状況を把握はしなきゃならないでしょ。まぁ、私の場合は女の勘というものかもしれないけどね」
「あはは……」

 リンディさんにつられて僕も笑みを浮かべる。
 艦長としての冷静さだけではない、言葉の端々の場を和まそうとする気遣い。僕にはとてもじゃないけど敵わない。本当に大人の女性なんだなと敬服してしまう。

「じゃあ早いところここから脱出しましょう」
「ええ」

 結界内なら邪魔者は入らない。ヒュードラのことは気にかかるけど何もしてこない所を見ると結界をはられては手が出せないのだろう。
 重ね重ね、それがヒュードラの仕業かなのかはわからないけど。

「転送座標1001010、0110……固定」

 ともかく今は脱出することだけを考えよう。
 雑念を頭から追い出し転移魔法を発動させる。足元に光が満ち、アースラの座標をセットし転送を始める。

『艦長! 今どこですかっ!!』

 ――矢先の出来事だった。

「エイミィ!? いきなりどうしたの」
『早くその場所から離れてください。次元震の起こる可能性があるんです!』
「なんですって!?」

 洒落にならない一言だった。ただでさえ危険な状況だというのにそれに輪をかける様に次元震だなんて。
 胸騒ぎ、嫌な予感がした。

 これは本当の本当に――ヤバイ。
スポンサーサイト
【編集】 |  23:41 |  守り手  | TB(0)  | CM(0) | Top↑

コメントを投稿する

URL
コメント
パスワード  編集・削除するのに必要
非公開  管理者だけにコメントを表示
 

この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック


 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。